(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記気体吸蔵材は、少なくとも1種の金属元素を含む金属クラスターと、前記金属クラスターを架橋し、1つ以上の芳香環を含む1つ以上の多座配位子と、を有する金属有機構造体であることを特徴とする請求項1記載のガス充填タンク。
前記金属有機構造体は、段階状のガス吸着等温線を示し、前記気体吸着による前記細孔構造の膨張が吸熱変化を示す物質であることを特徴とする請求項2記載のガス充填タンク。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー資源の枯渇が世界的問題になっている。この対応策の1つとして、炭化水素系資源の中では比較的利用率の低い、メタンを主成分とする天然ガスを、自動車の燃料に使用することが期待されている。ここで、メタンは常温常圧では気体であり、気体の状態で圧力を単に高くするだけでは、貯蔵タンクの大きさ上の制約から、充填量に限度がある。また、圧力を高くすることは安全面で大きな問題が生じる。一方、メタンはその性質上、常温では液化不可能であり、液化するためには−82.5℃まで冷却する必要があるため、液化することはエネルギー効率上問題がある。
【0003】
このため、メタン吸蔵能力があることが見出されている活性炭等を気体吸蔵材として利用し、活性炭等を装填したタンクにメタンを充填することでタンク容積あたりのメタン充填量を増加させる方式が提案され、天然ガス自動車等の開発に利用されている。
【0004】
また、あらゆる産業分野で利用されている水素も、将来のエネルギーとして注目されてきており、燃料電池を中心に研究が進められている。しかし、水素ガスは熱量あたりの体積が大きく、また液化に必要なエネルギーも大きいため、そのまま貯蔵、輸送することが難しいという問題がある。
【0005】
このため、水素吸蔵材をタンクに充填する方式が提案され、例えば、特許文献1では、金属イオン及び酸素イオンからなるクラスター、又は金属イオンと有機化合物とから構成される多孔質と、当該多孔質の内表面に担持されたLiと、を備える水素吸蔵材が提案されている。
【0006】
ところで、メタン等の炭化水素や水素ガス等の気体を吸着する気体吸蔵材は、気体の吸着と共に、体積が膨張するため、タンク壁面や気体吸蔵材の粒子や結晶同士に応力が掛かり、タンクの変形、気体吸蔵材の微粒子化や結晶破壊等が引き起こされる。
【0007】
例えば、特許文献2には、水素吸蔵材の体積膨張に伴うタンクの変形を抑制するために、水素吸蔵材を充填したカプセル容器を収容したタンクが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本実施形態のガス充填タンクには、気体を吸着するための細孔構造を有し、前記気体の吸着によって前記細孔構造が一方向に膨張する気体吸蔵材が充填されている。そして、ガス充填タンクに充填されている気体吸蔵材は、前記細孔構造の膨張方向の一端がガス充填タンク内の固定部に固定されている。以下に、気体吸蔵材の構造及び固定方法について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態のガス充填タンクに充填される気体吸蔵材の構造の一例を示す図である。気体吸蔵材としては、
図1に示す金属有機構造体1等が用いられる。
図1に示す金属有機構造体1は、少なくとも1種の金属元素を含む金属クラスター10と、金属クラスター10を架橋し、1つ以上の芳香環を含む1つ以上の多座配位子12と、を有する。
【0021】
金属有機構造体1は、金属クラスター10及び金属クラスター10を架橋する多座配位子12により、細孔構造が形成される。そして、
図1に示すように、この細孔構造内に、メタン等の気体が吸着される。
図1に示す金属有機構造体1としては、上記非特許文献1〜5により、金属クラスター中の金属元素が、Sc,Cr,Fe,Al又はGaであり、多座配位子がテレフタル酸であるMIL−53X(Xは金属クラスター中の金属元素)等が知られている。
【0022】
そして、MIL−53Xの細孔構造は、気体の吸着に伴って、小細孔構造から大細孔構造へと構造変化を起こすことが知られている。また、小細孔構造から大細孔構造への構造変化により細孔構造は膨張するが、その膨張方向は一方向となる。以下、小細孔構造及び大細孔構造について説明する。
【0023】
図2(A)は、金属有機構造体の小細孔構造のモデル図であり、(B)は金属有機構造体の大細孔構造のモデル図である。
図3は、金属有機構造体のガス吸着等温線を示す図である。
【0024】
一般に、気体を吸着しても細孔構造の構造変化がほとんど生じない金属有機構造体は、
図3に示す曲線Iのように、気体の圧力上昇と共に、気体吸蔵量が連続的に増加するガス吸着等温線を示す。一方、気体吸蔵量に応じて小細孔構造と大細孔構造との間で構造変化を起こす金属有機構造体は、
図3に示す曲線IIのように、気体の圧力が上昇しても、ある値までは気体吸蔵量はほとんど上昇せず、ある値を超えると急激に気体吸蔵量が上昇するような段階状のガス吸着等温線を示す。そして、気体吸蔵量の急激な上昇を示す圧力の前後で、気体吸蔵材の構造をX線回折等で分析すると、結晶構造が大きく異なっており、構造変化を起こす圧力以下の細孔構造を、
図2(A)に示す小細孔構造14(NP構造)と定義することができ、構造変化を起こす圧力以上における細孔構造を、
図2(B)に示す大細孔構造16(LP構造)と定義することができる。
【0025】
MIL−53X(Xは金属クラスター中の金属であり、Sc,Cr,Fe,Al,Ga)は、いずれも段階状のガス吸着等温線を示し、気体の吸着によって小細孔構造から大細孔構造へと構造変化を起こす物質である。そして、小細孔構造から大細孔構造への構造変化に伴う細孔構造の膨張方向は一方向である(
図2(B)に示す矢印X)。なお、MIL−53(Fe)は多段階状のガス吸着等温線を示すが、その場合は、構造変化を起こす最も低い圧力以下の細孔構造を小細孔構造と定義し、構造変化を起こす最も高い圧力以上の細孔構造を大細孔構造と定義することができる。また、MIL−53(Al)は213K以下の低温で段階状の吸着等温線を示す。
【0026】
段階状のガス吸着等温線を示す金属有機構造体は、気体の吸着量に伴って小細孔構造から大細孔構造へ構造変化を起こして、細孔構造が膨張するため、連続的なガス吸着等温線を示す金属有機構造体と比べて、より多くの気体を吸着することが可能となる。しかし、段階状のガス吸着等温線を示す金属有機構造体をガス充填タンク内に単に充填して、気体を吸着させた場合、金属有機構造体の細孔構造の膨張により、粒子や結晶同士が干渉しあって、微粒子化や結晶破壊が起きるため、本来の気体吸着量を発揮することが困難となっていた。
【0027】
しかし、本発明者らは、気体の吸着量に伴って小細孔構造から大細孔構造への構造変化に伴う細孔構造の膨張方向が一方向であることに着目し、細孔構造の膨張方向の一端を、ガス充填タンク内の固定部に固定することで、細孔構造が膨張しても、気体吸蔵材の粒子や結晶同士の干渉を抑制できることを見出した。以下、具体的に説明する。
【0028】
図4(A)は、気体吸蔵材が気体を吸着する前のガス充填タンクの内部を示す模式図である。
図4(B)は、気体吸蔵材が気体を吸着した状態のガス充填タンクの内部を示す模式図である。
図4(A)に示すように、ガス充填タンク18内には、基板20が設けられており、その基板20に気体吸蔵材22が固定されている。気体吸蔵材22の細孔構造は、前述したように、気体の吸着によって一方向に膨張するものであり、
図4(A)に示す気体吸蔵材22における細孔構造の膨張方向は、矢印Xの方向である。すなわち、
図4(A)に示す気体吸蔵材22は、細孔構造の膨張方向の一端が基板20に固定されている。言い換えれば、
図4(A)に示す気体吸蔵材22は、細孔構造の膨張方向に対して垂直な端面が基板に固定されている。なお、細孔構造の膨張方向の他端は、自由端となっており、自由端から細孔構造の膨張方向には、気体吸蔵材22が膨張するためのスペースとなる空隙Aが設けられている。そして、ガス充填タンク18に設けられた配管24のバルブ26を開放し、配管24からガス充填タンク18内に気体を供給すると、
図4(B)に示すように、気体吸蔵材22は、固定されている基板20から一方向に膨張する。
【0029】
このように、細孔構造が一方向に膨張する気体吸蔵材を用いて、細孔構造の膨張方向の一端を基板に固定することで、気体吸蔵材は、気体の吸着に伴って、固定されている基板から一方向に膨張するため、気体吸蔵材の粒子同士や結晶同士の干渉(応力)を避けることが可能となり、気体吸蔵材の微粒子化又は結晶破壊を抑制することができる。また、気体吸蔵材の微粒子化又は結晶破壊を抑制することにより、基板上に所定の厚みを有する気体吸蔵材層のクラックの発生を抑制することも可能となる。また、通常、気体吸蔵材の微粒子化により、タンクに充填された気体吸蔵材の充填密度が不均一となり、密度が大きくなった箇所でタンク壁面が変形する場合があるが、本実施形態では、気体吸蔵材の微粒子化が抑制されるため、タンク壁面の変形等も抑制される。
【0030】
本実施形態では、気体吸蔵材を固定するための固定部として、ガス充填タンクに設置される基板を用いているが、これに制限されるものではなく、ガス充填タンクの内壁を固定部としてもよい。すなわち、ガス充填タンクの内壁に気体吸蔵材が固定されてもよい。但し、気体吸蔵材の充填量の向上、タンク製造の容易性の観点等から、ガス充填タンクの内壁を固定部とするより、タンク内に設けられる基板を固定部とする方が望ましい。
【0031】
本実施形態では、ガス充填タンクに充填される気体吸着材は、気体の吸着によって一方向に膨張する細孔構造を有するものであれば、上記説明した金属有機構造体に制限されるものではなく、例えば、グラファイト等が挙げられる。しかし、気体の吸着量等の観点から、少なくとも1種の金属元素を含む金属クラスターと、金属クラスターを架橋し、1つ以上の芳香環を含む1つ以上の多座配位子と、を有する金属有機構造体であることが好ましい。
【0032】
金属有機構造体を構成する金属クラスターは、金属イオンの周囲に、例えば、酸素、窒素、硫黄、りん、ハロゲン元素等を含む分子を配位したもの等が挙げられる。また、金属クラスターを構成する金属元素は、一方向に膨張する細孔構造を形成する観点から、例えば、Sc(スカンジウム),Cr(クロム),Fe(鉄),Al(アルミ),Ga(ガリウム),In(インジウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、パラジウム(Pd)等から選択されることが好ましい。さらに、気体吸着により発生する吸着熱を低減させる点等から、細孔構造の膨張(小細孔構造から大細孔構造への構造変化)が吸熱反応を示す金属有機構造体であることが好ましい。細孔構造の膨張が吸熱反応を示す物質としては、金属クラスターを構成する金属元素が、Sc(スカンジウム),Fe(鉄),Al(アルミ),Ga(ガリウム),In(インジウム)のうち少なくとも1つから選択される金属有機構造体等が挙げられる。
【0033】
金属有機構造体を構成する多座配位子は、1つ以上の芳香環を含むものであれば特に制限されるものではなく、例えば、C
6H
4(CO
2−)
2(テレフタレート),C
6H
2N
2(CO
2−)
2(ピラジン−2,5−ジカルボキシラート),C
10H
6(CO
2−)
2(2,6−ナフタレンジカルボキシレート),C
12H
8(CO
2−)
2(4,4’−ビフェニルジカルボキシレート),C
6H
3(CO
2−)
3(ベンゼン−1,2,4−トリカルボキシレート),C
6H
3(CO
2−)
3(ベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレート),C
24H
15(CO
2−)
3(ベンゼン−1,3,5−トリベンゾエート),C
42H
27(CO
2−)
3(1,3,5−トリ[4’カルボキシ(1,1’−ビフェニル−4−イル)]ベンゼン),C
6H
2(CO
2−)
4(ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボキシレート),C
10H
4(CO
2−)
4(ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボキシレート),C
10H
4(CO
2−)
4(ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボキシレート),C
12H
6(CO
2−)
4(ビフェニル−3,5,3’,5’−テトラカルボキシレート)を含む群から選択される配位子及びジ−,トリ−又はテトラカルボキシラート配位子、及び、2−ヒドロキシテレフタレート、2−アミノテレフタレート,2−ニトロテレフタレート,2−メチルテレフタレート,2−クロロテレフタレート,2−ブロモテレフタレート,2,5−ジヒドロキシテレフタレート,テトラフルオロテレフタレート,2,5−ジカルボキシテレフタレート,ジメチルビフェニル−4,4’−ジカルボキシラート,テトラメチルビフェニル−4,4’−ジカルボキレート,ジカルボキシビフェニル−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。
【0034】
金属有機構造体の細孔構造の構造変化においては、小細孔構造と大細孔構造の細孔容積の差が大きいほど、気体の吸着量や放出量が増大するため、大細孔構造は、例えば、小細孔構造の細孔容積の2倍〜10倍であることが好ましい。
【0035】
基板上に形成される気体吸蔵材の厚みは特に制限されるものではないが、例えば、1nm〜2mmの範囲が好ましく、30nm〜2mmの範囲がより好ましい。
【0036】
気体吸蔵材に吸着される気体は、特に制限されるものではないが、メタン等の天然ガス、水素ガス等が挙げられる。
【0037】
以下に、気体吸蔵材の固定方法について説明する。
【0038】
一般的に、気体吸蔵材の粒子をペレット化し、ペレット化した気体吸蔵材を基板に固定すると、気体吸蔵材における細孔構造の膨張方向は、基板に対してランダムに配置されて、細孔構造の膨張方向の一端を基板に固定することは困難となる。
【0039】
そこで、本実施形態の気体吸蔵材を基板に固定する方法としては、上記非特許文献7,8を参考にして、気体吸蔵材が固定される基板表面を改質し、気体吸蔵材の細孔構造の膨張方向の一端を選択的に基板に固定する方法等が挙げられる。例えば、基板として、金薄板を用い、その金薄板を11−メルカプトンデカン酸等のエタノール溶液に浸漬させ、常温で50時間程度放置した後、この薄板をエタノール等の洗浄液で洗浄する。これにより、基板上に11−メルカプトンデカン酸等の自己組織化単分子膜が形成される。次に、テフロン(登録商標)製オートクレーブ内で、上記基板に、例えば、金属有機構造体の原料であるテレフタル酸、硝酸アルミニウム等を添加し、150℃から220℃で12時間加熱する。これにより、金属有機構造体は、細孔構造の膨張方向の一端、すなわち細孔構造の膨張方向に対して垂直な端面が、基板上(実質的には基板上の自己組織化単分子膜上)に選択的に固定され、基板上に気体吸蔵材層が形成される。なお、非特許文献9には、基板に固定した金属有機構造体が段階状のガス吸着等温線を示すことが開示されている。
【0040】
自己組織化単分子膜の形成に使用される溶剤は、使用する気体吸蔵材により適宜選択されればよく、例えば、MIL−53X(X=Sc,Cr,Fe,Al又はGa)は、11−メルカプトンデカン酸の他に、11−メルカプト−1−ウンデカノール、1−メルカプトウンデカン−16−メルカプトヘキサデカン酸等のエタノール溶液、4’,4−ピリジル−ベンゼンメタンチオールの水溶液等が挙げられる。なお、自己組織化単分子膜の形成時の温度や浸漬時間は上記に制限されるものではない。
【0041】
金属有機構造体の原料としては、テレフタル酸等の芳香環を含む多座配位子又はそのアルカリ金属塩水溶液、硝酸アルミニウム等の金属元素を含む無機塩等が挙げられる。なお、基板に金属有機構造体の原料を固定する際の加熱温度及び加熱時間は上記に制限されるものではない。
【0042】
細孔構造の膨張方向の一端を選択的に基板に固定する方法としては、上記に制限されるものではない。例えば、電気化学析出方法、核化剤を用いる方法等は、物質の結晶面を揃えて基板に固定する方法として知られているため、これらの方法を利用してもよい。
【0043】
次に、本実施形態のガス充填タンクの変形例について説明する。
【0044】
図5(A)は、本実施形態のガス充填タンク側面の断面図及び基板の一部を拡大した断面図であり、
図5(B)は、本実施形態のガス充填タンク正面の断面図である。
図5(A)及び(B)に示すように、ガス充填タンク18内には、複数の平板状の基板20が所定の間隔を空けて平行に配置されている。そして、それらの平板状の基板20の両面に、気体吸蔵材22が固定されている。気体吸蔵材22は、前述したように、細孔構造の膨張方向の一端が基板20に固定された状態である。
【0045】
図6(A)〜(C)は、本実施形態のガス充填タンク正面の断面図である。
図6(A)に示すガス充填タンク18内には、複数の円筒状の基板20が所定の間隔を空けて同心円状に配置されている。また、
図6(B)及び(C)に示すガス充填タンク18内には、基板20が正方格子状や六角格子状に配置されている。
【0046】
基板20の配置は、
図5や
図6に示す形態に制限されるものではないが、より多くの気体吸蔵材をガス充填タンク内に充填することができる点で、
図5に示すように、平板状の基板20を所定の間隔を空けて配置した平行板構造としたり、
図6に示すように、円筒状の基板20を所定の間隔を空けて同心円状に配置した構造としたり、基板20を正方格子状に配置した正方格子構造としたり、六角格子状に配置した六角格子構造としたりすることが望ましい。
【0047】
図7は、本実施形態のガス充填タンク側面の断面図である。
図7に示すガス充填タンク18内には、複数の平板状の基板20が、水平方向及び垂直方向に所定の間隔を空けて配置されている。各基板20の両面には気体吸蔵材22が固定されている。
図7に示すガス充填タンク18には、気体吸蔵材が膨張するためのスペースとなる空隙Aが形成されている。空隙Aの形成により、気体吸蔵材が膨張しても、ガス充填タンク18の内壁に必要以上の応力が掛けられたり、気体吸蔵材22の結晶や粒子に過度な応力が掛けられたりすることが抑制されるため、タンクの変形や気体吸蔵材の微粒子化や結晶破壊等をより抑制することが可能となる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
分子動力学計算を用いて、基板に、MIL−53(Fe)の細孔構造の膨張方向の一端を固定した状態から、吸着気体の圧力を上げた時の細孔構造の構造変化を確認した。
【0050】
分子動力学計算の条件を表1に示す。
【表1】
【0051】
分子動力学計算を行うには、表1の計算条件以外に、計算セル内に存在するMIL−53(Fe)とメタンの全エネルギーを計算する必要がある。そして、全エネルギーを下式(1)の計算式から求めた。
【0052】
【数1】
【0053】
式(1)の第1項は結合した原子同士の伸縮振動に関するポテンシャル関数(E
bond)であり、第2項は結合した3原子の変革振動に関するポテンシャル関数(E
angle)であり、第3項は結合した4原子のねじれ運動に関するポテンシャル関数(E
tortion)であり、第4項は、ファンデルワールス相互作用(E
vdw)であり、第5項は静電相互作用(E
el)である。また、K
IJ、K
IJK、R
0、θ
0、B
IJKL、D
IJ、R
IJ、nはパラメータである。R、θ、φ、qはそれぞれ原子間距離、結合角、二面角、電荷を表し、C、εは定数(C=332.0647(kcal/mol)Å/e
2、ε=1)である。また、I、J、K、Lは原子に割り当てたラベル(
図8(A)及び(B))を表している。
図8(A)は、非静電相互作用以外の状態のMIL−53(Fe)モデルの各原子にラベルを割り当てた図であり、
図8(B)は、静電相互作用の状態のMIL−53(Fe)モデルの各原子にラベルを割り当てた図である。例えばK
IJは原子ラベルIとJの間に適用するパラメータのことを指している。ファンデルワールス相互作用のパラメータは、同じラベルの原子同士の値DII及びRIIのみ設定し、ラベルの異なる原子間のファンデルワールス相互作用のパラメータDIJ及びRIJはLorentz−Berthelot側に従って、以下の式(2)及び(3)から求めた。また、式(1)の第1項及び第2項の中にファンデルワールス相互作用と静電相互作用が考慮されているため、MIL−53(Fe)骨格内の結合している原子同士(1−2ペア)及び1原子を介して結合している原子同士(1−3ペア)については、非結合相互作用の項(式(1)の第4項、第5項)を無視した。式(1)〜(3)の計算で使用したパラメータを表2〜4に示す。
【0054】
【数2】
【0055】
【数3】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
図9は、MIL−53(Fe)の細孔構造の膨張方向の一端を固定した状態から、吸着気体の圧力を上げた時の分子動力学計算の計算結果を示す図である。一辺が120Åの計算セルの中に、MIL−53(Fe)の細孔構造の膨張方向の一端を固定した状態(吸着気体を計算セル中に導入する前)の分子動力学計算を実施したところ、
図9(A)に示すように、MIL−53(Fe)の細孔構造は、小細孔構造を示した。そして、
図9(A)に示す状態から、温度298Kにおいて、計算セル中に約100atmのガス圧に相当するメタンを導入した分子動力学計算を実施したところ、MIL−53(Fe)の細孔構造は、
図9(A)の小細孔構造から
図9(B)の大細孔構造へと構造変化し、さらに固定面に垂直な方向に膨張することが確認された。すなわち、気体の吸着によって細孔構造が一方向に膨張する気体吸蔵材を用い、前記細孔構造の膨張方向の一端をガス充填タンク内の固定部に固定することで、気体吸蔵材が膨張しても粒子同士や結晶同士の干渉が緩和され、微粒子化又は結晶破壊が抑制されると言える。