(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記指向性情報は、前記第1無線機と前記第2無線機のうち受信機側となる無線機における受信信号強度が前記変化パターンで変化する場合に、前記第1無線機の指向性アンテナに適用することで、前記受信機側となる無線機の受信信号強度が最大となるか、又は、所定の受信信号強度範囲に収まるように設定された情報である、
請求項1に記載の無線通信制御システム。
前記第2無線機は、予め定まった複数の駆動パターンに従って駆動制御される駆動機器上に配置され、前記駆動パターンに従って該駆動機器が移動されることで、該第2無線機の前記第1無線機に対する相対位置が変化し、
前記指向性情報は、前記第2無線機と前記第1無線機との相対位置が変化する状況において生成される、
請求項1又は請求項2に記載の無線通信制御システム。
前記実行部は、前記選択した指向性情報に基づく指向性で前記第1無線機における前記第2無線機との無線通信を所定期間実行する毎に、前記所定指向性で前記変化パターンを確認するための無線通信を実行する、
請求項1から請求項8の何れか1項に記載の無線通信制御システム。
予め定まった複数の駆動パターンに従って一又は複数の駆動機器が駆動制御される所定環境下で、指向性アンテナを介して第2無線機との無線通信が可能となるように構成された第1無線機による該無線通信を制御する無線通信制御装置であって、
前記第1無線機と前記第2無線機との間の無線通信に関し、受信機側における受信信号強度の時間的変化を示す複数の変化パターンのそれぞれに応じて前記第1無線機の指向性アンテナに適用される、指向性に関する複数の指向性情報と、所定指向性で無線通信を行った場合の前記受信機側における受信信号強度の時間的変化を示す変化パターンと、を格納する指向性情報格納部と、
前記所定指向性が適用された前記指向性アンテナを介して前記第1無線機と前記第2無線機との間で無線通信を行った時に受信信号強度の時間的変化を取得する取得部と、
前記指向性情報格納部に格納されている前記指向性情報の中から、前記取得部によって取得された前記受信信号強度の時間的変化に基づいて確認された前記変化パターンに応じた指向性情報を選択し、該選択した指向性情報を適用して前記第1無線機における前記第2無線機との無線通信を実行する実行部と、備える、
無線通信制御装置。
予め定まった複数の駆動パターンに従って一又は複数の駆動機器が駆動制御される所定環境下で、指向性アンテナを介して第2無線機との無線通信が可能となるように構成された第1無線機による該無線通信を制御する無線通信制御方法であって、
所定指向性が適用された前記指向性アンテナを介して前記第1無線機と前記第2無線機との間で無線通信を行った時に受信信号強度の時間的変化を取得する取得ステップと、
前記第1無線機と前記第2無線機との間の無線通信に関し、受信機側における受信信号強度の時間的変化を示す複数の変化パターンのそれぞれに応じて前記第1無線機の指向性アンテナに適用される、指向性に関する複数の指向性情報と、前記所定指向性で無線通信を行った場合の前記受信機側における受信信号強度の時間的変化を示す変化パターンと、を格納する指向性情報格納部から、前記取得ステップによって取得された前記受信信号強度の時間的変化に基づいて確認された前記変化パターンに応じた指向性情報を選択する選択ステップと、
前記選択ステップで選択された指向性情報を適用して前記第1無線機における前記第2無線機との無線通信を実行する実行ステップと、
を含む無線通信制御方法。
予め定まった複数の駆動パターンに従って一又は複数の駆動機器が駆動制御される所定環境下で、指向性アンテナを介して第2無線機との無線通信が可能となるように構成された第1無線機による該無線通信で、該指向性アンテナに適用される指向性情報を生成する指向性情報生成方法であって、
前記複数の駆動パターンのそれぞれに従って前記一又は複数の駆動機器が駆動制御されている状態において、前記第1無線機と前記第2無線機のうち送信機側となる無線機から受信機側となる無線機に対して試験電波を送信する第一試験電波送信ステップと、
前記第一試験電波送信ステップで前記送信側となる無線機から送信される前記試験電波を、前記受信機側となる無線機で受信した際の該試験電波の受信信号強度の変化を計測して、前記駆動パターンに応じた受信信号強度の変化パターンを取得する変化パターン取得
ステップと、
前記複数の駆動パターンのそれぞれに従って前記一又は複数の駆動機器が駆動制御されている状態において、前記第1無線機と前記第2無線機のうち送信機側となる無線機から受信機側となる無線機に対して、該駆動パターンが実行されている実行期間に設定されている複数の制御タイミングで試験電波を送信する第二試験電波送信ステップと、
前記第二試験電波送信ステップで前記送信側となる無線機から送信される前記試験電波を、前記受信機側となる無線機で受信した際の該試験電波の受信信号強度を計測し、受信信号強度が最大となるか、又は、所定の受信信号強度範囲に収まるように、前記複数の駆動パターンに従って前記一又は複数の駆動機器が駆動制御されている状態において、前記第1無線機と前記第2無線機との間の無線通信に関し該第1無線機の指向性アンテナに適用される、指向性に関する駆動時指向性情報を、該複数の駆動パターンのそれぞれに応じた前記変化パターン毎に生成する生成ステップと、
を含む指向性情報生成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、FA(ファクトリオートメーション)の分野でも、制御装置による駆動機器への制御信号の伝送や、各種センサで計測された計測データの制御装置への収集のための伝送等に無線通信を活用しようとする流れが高まっている。従来では、これらの信号やデータは、通信の安定性等を考慮して有線通信が広く活用されてきたが、有線通信の場合、通信機の位置が固定されるため、製造ラインの設計が大幅に制限されてしまう。そこで、無線通信を活用することで、製造ラインの設計の自由度が高まるだけではなく、伝送ケーブルが不要となることで製造ラインや製造装置の保守性も高まるものと考えられる。
【0005】
一方で、制御信号や計測データ等の伝送を行うための無線通信は、外乱、特に無線機間に存在する稼働物体の影響によりフェージングの影響を受けやすい。FA分野は、無線通信が行われる無線機間の空間で製造ロボットのアーム等の駆動機器が駆動されたり、無線機自体が移動物体上に配置されたり、作業者が移動することで無線機間の空間における電波の状態が変動することになり、フェージングが生じやすい環境が形成されているとも言える。このようなフェージングが生じやすい環境下においては、無線通信の安定性のためにフェーズドアレイアンテナ等のように指向性を有する通信アンテナの利用が好ましいが、それであっても無線機間の空間における物体の動作に起因するフェージングの影響により好適な無線通信を維持することが困難とされる。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、FA分野等での無線通信制御システムにおいて、指向性アンテナを利用するとともに、無線機間でのフェージングの影響を可及的に抑制し、無線機間の無線通信を好適に行う技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、上記課題を解決するために、FA分野等の特定の空間におけるフェージングは、当該空間内の物体の動作に伴い、規則性を有する傾向があることに着目した。すなわち、本願発明者は、フェージングの原因ともなる物体の動作に何らかの規則性が
あれば、そのフェージングの状況もある程度は事前に把握可能と考えられ、それに応じて指向性アンテナの指向性を制御することで、無線機間の無線通信を好適な状態に維持することが可能になるものと考えた。
【0008】
詳細には、本発明に係る無線通信制御システムは、指向性アンテナを有する第1無線機と、前記第1無線機と無線通信が可能となるように形成された第2無線機と、前記第1無線機と前記第2無線機との間の無線通信に関し、受信機側における受信信号強度の時間的変化を示す複数の変化パターンのそれぞれに応じて前記第1無線機の指向性アンテナに適用される、指向性に関する複数の指向性情報と、所定指向性で無線通信を行った場合の前記受信機側における受信信号強度の時間的変化を示す変化パターンと、を格納する指向性情報格納部と、前記所定指向性が適用された前記指向性アンテナを介して、前記第1無線機と前記第2無線機との間の無線通信時に受信信号強度の時間的変化を取得する取得部と、前記指向性情報格納部に格納されている前記指向性情報の中から、前記取得部によって取得された前記受信信号強度の時間的変化に基づいて確認された前記変化パターンに応じた指向性情報を選択し、該選択した指向性情報を適用して前記第1無線機における前記第2無線機との無線通信を実行する実行部と、を備える。
【0009】
本発明に係る無線通信制御システムは、指向性アンテナを有する第1無線機と、それと無線通信可能に形成された第2無線機との間の無線通信に関する制御を行うシステムである。指向性アンテナとしては、従来技術に係る様々な指向性を制御可能なアンテナを採用でき、例えば、アレイアンテナ、特にフェーズドアレイアンテナを例示できる。このような指向性アンテナにおいては、特定の方向において電波の放射強度や受信感度が高くなるが、一方で、その特定方向に障害が発生してしまうと、当該障害の影響を受ける割合が全方位アンテナよりも高く、好適な無線通信が困難となりやすい。そこで、第1無線機と第2無線機の間の好適な無線通信を実現するために、第1無線機の指向性アンテナの指向性が制御される。
【0010】
本発明に係る無線通信制御システムが設置される工場等の空間では、ロボット等の機器や作業者が所定のプロセスに従って製品の製造等の作業を行う。したがって、第1無線機と第2無線機は、当該機器や作業者が動作する環境下において無線通信を行うことになる。その結果、当該機器や作業者の動作に起因して生じるフェージングが、第1無線機と第2無線機との間の無線通信に作用することになる。
【0011】
ここで、製品の製造等を行う当該機器や作業者の動作は予め定められたプロセスに従うものであるから、ロボット等の機器や作業者の動作に起因して生じるフェージングにはある程度の再現性が認められると考えられる。そのため、第1無線機と第2無線機との間の無線通信に対するフェージングの作用についても、当該機器や作業者の動作に大きく依存するものと考えられる。そこで、所定の製造プロセスに従って当該機器や作業者が動作している状態においてその動作に起因して生じるフェージングを考慮して設定された、指向性アンテナに適用される指向性情報であって、第1無線機と第2無線機間の好適な無線通信を可能とする指向性情報を、指向性情報格納部は当該機器や作業者の動作を特定する受信信号強度の変化パターン(以下単に変化パターンとも称す)に応じて格納する。
【0012】
すなわち、ロボット等の機器や作業者の動作に起因して生じるフェージングの影響は、受信信号強度の変化パターンによって特定できることに着目し、指向性情報格納部は、その変化パターンに応じた指向性アンテナに適用される指向性情報を格納する。このことは、換言すれば、指向性情報格納部は、第1無線機と第2無線機との間の無線通信を好適に行うための指向性に関する情報である指向性情報を、変化パターンごとに格納していることになる。この指向性情報は、予め実験的にロボット等の機器や作業者の動作を行い、各変化パターンにおいて指向性を変化させて受信信号強度計測して、受信信号強度の高い指
向性を選択することで得ることができる。
【0013】
更に、指向性情報格納部は、指向性アンテナに所定指向性を適用した状態で、第1無線機と第2無線機との間で無線通信を行った場合の、受信機側における受信信号強度の時間的変化を示す変化パターンも格納している。当該変化パターンは、後述する実行部により指向性情報の選択が行われる変化パターンを確認するために用いられるものである。なお、所定指向性は、当該確認が可能である限りにおいて、任意の指向性を利用できる。
【0014】
そして、取得部は、指向性アンテナに所定指向性を適用した状態での、第1無線機と第2無線機との間の無線通信時に受信信号強度の時間的変化を取得する。更に、実行部は、前記取得部によって取得された前記受信信号強度の時間的変化に基づいて、指向性情報格納部に格納された変化パターンとの参照の上で対象となる変化パターンを特定する。その上で、指向性情報格納部に格納されている前記指向性情報の中から、当該変化パターンに応じた指向性情報を選択し、該選択した指向性情報を第1無線機と第2無線機との間の無線通信に適用する。この結果、ロボット等の機器や作業者の動作生じるフェージングの、無線機間の無線通信への影響を変化パターンに応じて可及的に抑制することが可能となり、以て好適な無線通信が実現し得る。
【0015】
なお、指向性情報格納部に格納される指向性情報は、第1無線機を送信側とし第2無線機を受信側とする無線通信方向に対応した指向性情報と、逆に第2無線機を送信側とし第1無線機を受信側とする無線通信方向に対応した指向性情報のうち少なくとも何れかを含む。また、実行部により選択される指向性情報に関する無線通信方向と、当該情報が適用される際の無線機間の無線通信方向は一致するのが好ましい。ただし、第1無線機を送信側とし第2無線機を受信側とする無線通信方向と、第2無線機を送信側とし第1無線機を受信側とする無線通信方向とにおいて、無線機間の無線通信に作用するフェージングが同一視できる場合には、どちらの無線通信方向に対しても共通の指向性情報を適用してもよい。
【0016】
ここで、上記の無線通信制御システムにおいて、前記指向性情報は、前記第1無線機と前記第2無線機のうち受信機側となる無線機における受信信号強度が前記変化パターンで変化する場合に、前記第1無線機の指向性アンテナに適用することで、前記受信機側となる無線機の受信信号強度が最大となるか、又は、所定の受信信号強度範囲に収まるように設定された情報であってもよい。なお、当該所定の受信信号強度範囲とは、第1無線機と第2無線機との間で好適な無線通信を実現するために必要とされる受信信号強度の範囲である。したがって、このように指向性情報が設定されることで、実行部により当該指向性情報が適用された指向性アンテナを用いた第1無線機と第2無線機との間の無線通信においては、好適な無線通信に必要な受信信号強度が担保されることになる。
【0017】
また、上述までの無線通信制御システムにおいて、前記第2無線機は、制御装置によって駆動制御される駆動機器上に配置され、該駆動機器が移動されることで、該第2無線機の前記第1無線機に対する相対位置が変化してもよい。この場合、指向性情報は、前記第2無線機と前記第1無線機との相対位置が変化する状況において生成される。このように第2無線機自体が、制御装置によって駆動制御される駆動機器上に配置される形態では、第1無線機と第2無線機との間の空間は、第2無線機の第1無線機に対する相対位置に依存する形で変動し、両無線機間の無線通信はフェージングの影響を受けやすい。一方で、このように駆動制御される駆動機器上には、有線通信ではなく無線通信を行う第2無線機が配置されることで、好適な情報伝送が実現可能となる。したがって、当該形態においては、本願発明を好適に適用でき、以て、無線通信を介した好適な情報伝送を実現することが可能となる。
【0018】
一方で、本願発明は、上述までの無線制御システムにおいて、前記第1無線機と前記第2無線機との間の位置は不変である形態を排除するものではない。このように無線機同士が動かない形態であっても、その周囲でロボット等の機器や作業者が動作することで、フェージングが無線機間の無線通信に作用する場合があるため、本願発明が適用されることで、上記の通り、好適な無線通信の実現が可能となる。
【0019】
また、上述までの無線通信制御システムにおいて、複数の前記第2無線機が備えられてもよい。このように複数の第2無線機が備えられる場合、本発明に係る無線通信制御システムとして、以下に示す2つの形態を例示できる。第1の形態としては、前記複数の第2無線機のそれぞれは、前記第1無線機に対して択一的に通信可能となるよう構成される。そして、前記指向性情報格納部は、予め定まった複数の駆動パターンのそれぞれに従って前記一又は複数の駆動機器が駆動制御されている状態において、該複数の駆動パターンのそれぞれに応じて前記第1無線機と前記複数の第2無線機のそれぞれとの間の無線通信に関し該第1無線機の指向性アンテナに適用される、該複数の第2無線機のそれぞれに対応する、前記駆動時指向性情報を格納する。その上で、前記実行部は、前記指向性情報格納部に格納されている前記指向性情報の中から、前記取得部によって取得された前記対象駆動パターンに応じた、前記複数の第2無線機のそれぞれに対応する駆動時指向性情報を選択し、該選択した対象駆動時指向性情報に従って前記第1無線機における前記複数の第2無線機それぞれとの無線通信を実行する。すなわち、この第1の形態では、第1無線機が複数の第2無線機のそれぞれと無線通信をする際に、無線機間の無線通信のそれぞれに応じた、指向性アンテナへの対象駆動時指向性情報の適用が行われることになる。これにより、無線機間の各無線通信を好適なものとすることができる。
【0020】
次に、第2の形態としては、前記複数の第2無線機を含む第2無線機群は、前記第1無線機に対して通信可能となるように構成される。そして、前記指向性情報格納部は、予め定まった複数の駆動パターンのそれぞれに従って前記一又は複数の駆動機器が駆動制御されている状態において、該複数の駆動パターンのそれぞれに応じて前記第1無線機と前記第2無線機群との間の無線通信に関し該第1無線機の指向性アンテナに適用される、該第2無線機群に対応する前記駆動時指向性情報を格納する。その上で、前記実行部は、前記指向性情報格納部に格納されている前記駆動時指向性情報の中から、前記取得部によって取得された前記対象駆動パターンに応じた、前記第2無線機群に対応する対象駆動時指向性情報を選択し、該選択した対象駆動時指向性情報に従って前記第1無線機における前記第2無線機群との無線通信を実行する。なお、第2無線機群との無線通信において、第1無線機は第2無線機のそれぞれと択一的に無線通信を行ってもよく、又は、複数の第2無線機と同時に無線通信を行ってもよい。この第2の形態では、第1無線機が複数の第2無線機で形成される第2無線機群と無線通信をする際に、該第2無線機群との無線通信に応じた、指向性アンテナへの対象駆動時指向性情報の適用が行われることになる。すなわち、第2無線機群との無線通信においては、指向性アンテナに適用される対象駆動時指向性情報は、共通の指向性情報となる。したがって、第1無線機が、複数の第2無線機と無線通信する際に、各第2無線機との無線通信に応じて適用される指向性情報を変更する必要がなくなり、制御を簡便にした上で無線機間の各無線通信を好適なものとすることができる。
【0021】
また、上述までの無線通信制御システムにおいて、前記実行部は、前記選択した指向性情報に基づく指向性で前記第1無線機における前記第2無線機との無線通信を所定期間実行する毎に、前記所定指向性で前記変化パターンを確認するための無線通信を実行してもよい。このように所定間隔で変化パターンを随時確認することで、無線通信の現在状況に応じた適切な指向性を選択でき、好適な無線通信の実現が可能となる。
【0022】
ここで、上述までの無線通信制御システムにおいて、前記第2無線機は、所定の環境パ
ラメータを計測するセンサを備えたセンサ付無線機であってもよい。この場合、本願発明により、第2無線機側でのセンサによる計測データを第1無線機側に伝送するための無線通信が好適なものとなる。
【0023】
また、本発明を、無線通信制御装置の側面から捉えることもできる。すなわち、本発明は、予め定まった複数の駆動パターンに従って一又は複数の駆動機器が駆動制御される所定環境下で、指向性アンテナを介して第2無線機との無線通信が可能となるように構成された第1無線機による該無線通信を制御する無線通信制御装置であって、前記第1無線機と前記第2無線機との間の無線通信に関し、受信機側における受信信号強度の時間的変化を示す複数の変化パターンのそれぞれに応じて前記第1無線機の指向性アンテナに適用される、指向性に関する複数の指向性情報と、所定指向性で無線通信を行った場合の前記受信機側における受信信号強度の時間的変化を示す変化パターンと、を格納する指向性情報格納部と、前記所定指向性が適用された前記指向性アンテナを介して、前記第1無線機と前記第2無線機との間の無線通信時に受信信号強度の時間的変化を取得する取得部と、前記指向性情報格納部に格納されている前記指向性情報の中から、前記取得部によって取得された前記受信信号強度の時間的変化に基づいて確認された前記変化パターンに応じた指向性情報を選択し、該選択した指向性情報を適用して前記第1無線機における前記第2無線機との無線通信を実行する実行部と、備える。これにより、無線機間でのフェージングの影響を可及的に抑制し、無線機間の無線通信を好適に行うことが可能である。なお、上述の無線通信制御システムに関し開示された本願発明の技術思想は、技術的な齟齬が生じない限りにおいて、当該無線通信制御装置にも適用できる。また、上記無線通信制御装置は、前記第1無線機内に含まれて構成されてもよい。
【0024】
ここで、本発明を、無線通信制御方法の側面から捉えることもできる。すなわち、本発明は、予め定まった複数の駆動パターンに従って一又は複数の駆動機器が駆動制御される所定環境下で、指向性アンテナを介して第2無線機との無線通信が可能となるように構成された第1無線機による該無線通信を制御する無線通信制御方法であって、所定指向性が適用された前記指向性アンテナを介して、前記第1無線機と前記第2無線機との間の無線通信時に受信信号強度の時間的変化を取得する取得ステップと、前記第1無線機と前記第2無線機との間の無線通信に関し、受信機側における受信信号強度の時間的変化を示す複数の変化パターンのそれぞれに応じて前記第1無線機の指向性アンテナに適用される、指向性に関する複数の指向性情報と、前記所定指向性で無線通信を行った場合の前記受信機側における受信信号強度の時間的変化を示す変化パターンと、を格納する指向性情報格納部から、前記取得ステップによって取得された前記受信信号強度の時間的変化に基づいて確認された前記変化パターンに応じた指向性情報を選択する選択ステップと、前記選択ステップで選択された指向性情報を適用して前記第1無線機における前記第2無線機との無線通信を実行する実行ステップと、を含む。これにより、無線機間でのフェージングの影響を可及的に抑制し、無線機間の無線通信を好適に行うことが可能である。なお、上述の無線通信制御システムに関し開示された本願発明の技術思想は、技術的な齟齬が生じない限りにおいて、当該無線通信制御方法にも適用できる。
【0025】
更に、本願発明を、指向性情報の生成方法の側面から捉えることもできる。すなわち、本発明は、予め定まった複数の駆動パターンに従って一又は複数の駆動機器が駆動制御される所定環境下で、指向性アンテナを介して第2無線機との無線通信が可能となるように構成された第1無線機による該無線通信制御で、該指向性アンテナに適用される指向性情報を生成する指向性情報生成方法であって、前記複数の駆動パターンのそれぞれに従って前記一又は複数の駆動機器が駆動制御されている状態において、前記第1無線機と前記第2無線機のうち送信機側となる無線機から受信機側となる無線機に対して試験電波を送信する第一試験電波送信ステップと、前記第一試験電波送信ステップで前記送信側となる無線機から送信される前記試験電波を、前記受信機側となる無線機で受信した際の該試験電
波の受信信号強度の変化を計測して、前記駆動パターンに応じた受信信号強度の変化パターンを取得する変化パターン取得ステップと、前記複数の駆動パターンのそれぞれに従って前記一又は複数の駆動機器が駆動制御されている状態において、前記第1無線機と前記第2無線機のうち送信機側となる無線機から受信機側となる無線機に対して、該駆動パターンが実行されている実行期間に設定されている複数の制御タイミングで試験電波を送信する第二試験電波送信ステップと、前記第二試験電波送信ステップで前記送信側となる無線機から送信される前記試験電波を、前記受信機側となる無線機で受信した際の該試験電波の受信信号強度を計測し、受信信号強度が最大となるか、又は、所定の受信信号強度範囲に収まるように、前記複数の駆動パターンに従って前記一又は複数の駆動機器が駆動制御されている状態において、前記第1無線機と前記第2無線機との間の無線通信に関し該第1無線機の指向性アンテナに適用される、指向性に関する駆動時指向性情報を、該複数の駆動パターンのそれぞれに応じた前記変化パターン毎に生成する生成ステップと、を含む。これにより、無線機間でのフェージングの影響を可及的に抑制し、無線機間の無線通信を好適なものとする指向性情報を生成することができる。
【発明の効果】
【0026】
無線通信制御システムにおいて、指向性アンテナを利用するとともに、無線機間でのフェージングの影響を可及的に抑制し、無線機間の無線通信を好適に行う技術を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図面を参照して本発明に係る無線通信制御システム(以下、単に「システム」と称する場合もある)10、および当該システムに含まれる無線機(第1無線機)1、無線機(第2無線機又は相手側通信機)2a、2bについて説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0029】
図1は、工場等のFA(ファクトリーオートメーション)分野で使用されるシステム10の概略構成、およびそこに含まれる制御装置5の駆動制御対象であるロボット3a、3b、モータ4の配置を示す図である。詳細には、システム10には、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)等の制御装置5が含まれており、当該制御装置5によって、ロボット3a、3b及びモータ4が、所定の駆動パターンに従って駆動制御される。なお
、制御装置5によるロボット3a等の駆動制御そのものについては、従来技術であり、また本願発明の中核をなすものではないため、その詳細な説明は省略する。
【0030】
ここで、制御装置5は、無線機1と電気的に接続されていないが、制御装置5は無線機1との間を有線又は無線によって接続されてもよい。無線機1は、指向性アンテナであるフェーズドアレイアンテナを有している。フェーズドアレイアンテナは、従来技術によるアンテナであるが、簡潔に言えば、アンテナアレーのそれぞれのアンテナ素子に加える信号の位相を少しずつ変えることで電波を送る方向を任意に変え、逆に、特定の方向からの電波に対する受信感度を高くすることを可能とする指向性の制御機能を有する。したがって、無線機1のフェーズドアレイアンテナは、特定の方向への電波の送出、及び特定の方向からの電波の受信を、他方向と比べて感度良く実行できるアンテナであり、この特定の方向を任意に制御することが可能である。本願発明では、フェーズドアレイアンテナにおける当該特定の方向の制御を、フェーズドアレイアンテナにおける指向性の制御と称する。
【0031】
このようにフェーズドアレイアンテナの指向性が制御されることで、フェーズドアレイアンテナを有する無線機1は、そのシステム10が配置される工場内において無線通信を行う相手方の無線機(相手側通信機)に対して効率的に電波を届け、また、相手方の無線機から効率的に電波を受け取ることが可能となる。そして、本実施例では、無線機1の相手方となる無線機として、無線機2a及び無線機2bがシステム10内に配置されている。無線機2a及び無線機2bのそれぞれは、異なる位置に配置されており、全方位型のアンテナを有している。そのため無線機2a及び無線機2bが、上記の無線機1に対して無線通信を行う場合、無線機1のフェーズドアレイアンテナにおける指向性は、無線機2aとの無線通信と無線機2bとの無線通信とでそれぞれ独立して制御されることで、それぞれの無線通信の状態が好適な状態、例えば、受信側のアンテナでの受信信号強度が所定の閾値より高くなる。なお、
図1においては、無線機1が無線機2aと無線通信を行う場合のフェーズドアレイアンテナの指向性はDaで示され、無線機1が無線機2bと無線通信を行う場合のフェーズドアレイアンテナの指向性はDbで示されている。
【0032】
また、無線機2a、2bには、その外部環境パラメータ(温度、湿度、加速度等)を計測するためのセンサが搭載されている。そして、その搭載されたセンサによって計測された情報(計測情報)は、無線機2から無線機1へ送信され、無線機1側で集約され、制御装置5における所定の処理に供されることになる。ここで、無線機2a、2bに搭載されるセンサとしては、例えば、温度センサ、湿度センサ、照度センサ、フローセンサ、圧力センサ、地温センサ、パーティクルセンサ等の物理系センサや、CO
2センサ、pHセンサ、ECセンサ、土壌水分センサ等の化学系センサがある。本実施の形態では、説明を簡便にするために、無線機2a、2bには、それぞれが配置された位置における外部温度を計測するための温度センサのみが搭載されているものとする。
【0033】
このように構成されるシステム10においては、制御装置5により工場での製品製造のためにロボット3a、3b、モータ4が所定の駆動パターンで駆動制御されている状態及び作業者が製品製造のための作業を行っている状態において、無線機2a、2bがそれぞれ設置されている場所で温度センサによって計測された温度情報が無線通信によって無線機1へと伝送されてくる。また、無線機2a、2bの状態に応じて、無線機1から必要な情報が無線機2a、2bへと伝送される。本実施形態では、制御装置5と無線機1とが電気的に接続されていないが、無線機2a、2bから受信した温度情報を制御装置5へ送る、或は無線機2a、2bへ送信する制御情報を制御装置5から受ける等のために制御装置5と無線機1とが接続されていても良い。
【0034】
ここで、無線機1、無線機2a、2bとの間の無線通信は、特に無線機1が有するフェ
ーズドアレイアンテナの指向性により、比較的安定に行うことができる。そのため、無線機2a、2b側で計測された温度情報の無線機1側への効率的な伝送が期待できる。一方で、FA環境に置かれたシステム10では、制御装置5からの制御指示に従い、ロボット3a、3bがそのアーム等を動かし、また、モータ4の駆動によりその駆動対象(例えば、工作機械のテーブル等)が移動されたりする。ここで、ロボット3a等やモータ4の駆動対象等のボディは金属で形成されている場合が多い。そして、そのような金属ボディを有する物体が、システム10が配置されている空間を動くと、無線機1、無線機2a、2bとの間の無線通信に対してフェージングが作用することになる。また、システム10が配置されている空間では、制御装置5によって制御される機器だけではなく、作業者が移動して通信路を遮ることや、作業者が機器等を移動させることでフェージングが生じることがある。このようにシステム10が配置されている空間内で、機器や人が動くことによってフェージングが作用することになり、安定的な無線通信が阻害される恐れがある。無線機1がフェーズドアレイアンテナを利用して無線通信を行っている場合であっても、ロボット3a等の駆動や人の移動に起因して生じるフェージングが作用する恐れはあり、逆にフェーズドアレイアンテナの場合、高い指向性故に、その設定された方向でフェージングが作用してしまうと、指向性の効果を十分に享受できず無線通信の安定性が大きく低下する可能性がある。また、FA環境においては、これらの機器や人の動きが、製造プロセスに従って規則的に繰り返されることになるため、繰り返しフェージングが作用する恐れがある。
【0035】
そこで、本願発明に係るシステム10では、このようなフェージングによる無線機間の無線通信の安定性低下を可及的に抑制するために、FA環境におけるフェージングの規則性に着目し、受信信号強度の変化パターンに応じて、無線機1のフェーズドアレイアンテナの指向性を制御する構成を採用した。具体的には、無線機1及び無線機2a、2bを、それぞれ
図2、
図3に示すように構成した。無線機1及び無線機2a、2bは、内部に演算装置、メモリ等を有し、無線通信機能だけではなく、当該演算装置により所定の制御プログラムが実行されることで様々な機能が発揮される。そして、
図2、
図3は、無線機1、無線機2a、2bの有する機能をイメージ化した機能ブロック図である。なお、無線機2aと無線機2bは、基本的には同様の機能を有しているため、本実施例では、
図3には代表的に無線機2aの機能ブロック図を示している。
【0036】
先ず、無線機1は、機能部として、制御部100、通信部11、指向性情報格納部12、計測情報格納部13を有している。以下に、無線機1が有する各機能部について説明する。制御部100は、無線機1における様々な制御を司る機能部であるが、特に、取得部101、実行部102、指向性情報生成部103を有している。即ち、制御部100は、指向性制御部の一形態である。FA環境においては、制御装置5によってロボット3a等が、所定の駆動パターンに従って規則的に繰り返し駆動制御されると共に、作業者が所定の製造プロセスに従って作業を繰り返すことで、規則的にフェージングが作用することが多い。このため、無線機1は、予めロボット3a等の機器や作業者の動作に起因する受信信号強度の変化を変化パターンとして指向性情報格納部12に格納しておき、無線通信時に、受信信号強度の時間的変化を取得して、対応する変化パターンを指向性情報格納部12から特定する。即ち、無線機1は、受信信号強度の変化パターンに応じてロボット3a等の機器や作業者の動作を特定する。
【0037】
取得部101は、無線機1と無線機2a、2bとの間の無線通信時に受信信号強度の時間的変化を取得する機能部である。
【0038】
また、実行部102は、後述の指向性情報格納部12に格納されている指向性情報の中から、取得部101によって取得された受信信号強度の時間的変化に相当すると判断される変化パターンに応じた指向性情報を選択し、該選択した指向性情報に基づいてフェーズ
ドアレイアンテナの指向性を制御した上で、無線機1と無線機2a等との無線通信を実行する機能部である。指向性情報は、ロボット3a等の機器や作業者の動作に起因する受信信号強度の時間的変化に応じて無線機1のフェーズドアレイアンテナに設定される指向性に関する情報であり、当該機器や作業者の動作時においても無線機1と無線機2a等との無線通信が好適に実現できるようにフェーズドアレイアンテナの指向性を決定するものである。したがって、実行部102は、取得された受信信号強度の時間的変化が異なると、原則としてフェーズドアレイアンテナに適用する指向性情報は異なることになる。更に、指向性情報生成部103は、指向性情報格納部12に格納され、実行部102によって利用される指向性情報を、無線通信の相手方となる無線機2a等とともに生成する機能部である。当該指向性情報の具体的な生成態様については、後述する。
【0039】
また、通信部11は、無線機1の外部との通信、すなわち情報の送受信を行う機能部である。具体的には、通信部11は、制御部100と相互作用するように形成される。その結果、通信部11は、変化パターンに関する情報の受信や、実行部102で選択された指向性情報を適用した無線機間の無線通信や、指向性情報生成部103による情報生成時の外部の無線機との無線通信等を司る。指向性情報格納部12は、無線機1と無線機2a、2bとの間の無線通信に関し、受信信号強度の時間的変化を示す複数の変化パターンのそれぞれに応じて前記第1無線機の指向性アンテナに適用される指向性に関する指向性情報をメモリに格納する機能部であり、計測情報格納部13は、通信相手の無線機2a等で計測され伝送されてきた温度情報を通信部11で受信した後に、メモリに格納する機能部である。この温度情報(外部環境パラメータ)の伝送時において、フェーズドアレイアンテナに対して指向性情報格納部12によって格納されていた指向性情報が適用されることになる。
【0040】
次に、無線機2aの機能部について
図3に基づいて説明する。無線機2aは、機能部として制御部20、通信部21、計測部23、計測情報記録部24を有するとともに、本実施例の場合は、外部環境パラメータを計測するためのセンサ(本例では温度センサ)22が搭載されている。以下に、無線機2aが有する各機能部について説明する。制御部20は、無線機2aにおける様々な制御を司る機能部であるが、特に、送信情報生成部201、指向性情報生成部202を有している。この送信情報生成部201は、センサ22によって計測された温度情報を含む送信情報を生成する機能部である。また、指向性情報生成部202は、無線機1において実行部102によって利用される指向性情報を、無線通信の相手方となる無線機1とともに生成する機能部である。
【0041】
通信部21は、無線機1との無線通信を行う機能部である。具体的には、通信部21は、制御部20と相互作用するように形成される。その結果、通信部21は、送信情報生成部201が生成した送信情報の伝送や、指向性情報生成部202による指向性情報生成時の無線機1との無線通信等を司る。計測部23は、温度センサ22を介して無線機2aが配置されている環境での温度を計測する機能部である。そして、この計測部23による温度計測は、制御部20の指示の下、実行されるとともに、計測された温度情報は、計測情報記録部24によって随時メモリ内に格納されていく。この計測情報記録部24は制御部20と相互作用するように形成され、制御部20からの指示に従い、記録された計測情報が制御部20に引き渡されて、送信情報生成部201による送信情報の生成が行われることになる。
【0042】
<指向性情報生成処理>
このように構成される無線機1と無線機2aとの間で行われる無線通信、特に、無線機2a側で計測された温度情報を無線機1側に伝送するための無線通信に関する処理について説明する。無線機1と無線機2aとの間で無線通信が行われる場合、上記の通り、制御装置5によってロボット3a等が所定の駆動パターンに従って駆動されることや作業者の
動作に起因するフェージングの影響を受け、その無線通信の安定性が低下する可能性がある。ここで、本願発明に係るシステム10では、FA分野におけるロボット3a等や作業者の動作に起因するフェージングは規則性を有することに着目した。また、このフェージング、即ち受信信号強度の時間的変化は、原因となっているロボット3a等や作業者の動作によって異なると考えることができる。そこで、工場で製品の製造を行う前に、試験的に、制御装置5によってロボット3a等の機器や作業者を動作させ、その際の無線機1と無線機2aとの無線通信における受信信号強度の時間的変化(変化パターン)を計測する。そして、その影響を考慮して、好適に安定した無線通信状態が得られるように、変化パターンに応じたフェーズドアレイアンテナに適用される指向性を示す指向性情報を生成することとした。
【0043】
当該指向性情報を生成するための処理の流れを
図4,
図5のフローチャートに示している。この指向性情報生成処理は、無線機1の指向性情報生成部103と無線機2aの指向性情報生成部202とが協働して実行される。以下に、当該指向性情報生成処理について説明する。
図4は、指向性情報生成処理のうち、ロボット3a等の機器や作業者の動作に応じた変化パターンを取得する処理を示す。先ず測定者の指示により無線機2aに
図4の処理を開始させ、S101では、無線機2aが試験電波を送信する(第一試験電波送信ステップ)。このとき、制御装置5によるロボット3a等の駆動や作業者による作業も行い、このロボット3a等や作業者が動作している環境下で、無線機2aの送信と並行して無線機1が、S102にて試験用に定めた指向性(以下、標準指向性とも称す)で、τ
0,τ
1,τ
2,・・・τ
mのように、一定の間隔(サンプリング間隔)iで試験電波を受信する。この受信をS103にてτ
0からτ
mまで繰り返して、τ
0からτ
mで受信した試験電波の強度の集合、即ち、受信信号強度Y={y
τ0,y
τ1,y
τ2,・・・y
τm}を求める。なお、τ
i〜τ
i+1の夫々の間隔i(0≦i≦1)は、指向性の変化に対して十分に短い値、即ち駆動パターンに従った駆動制御や作業者の動作に起因するフェージングの、指向性への作用を十分に把握できる程度に短い間隔とする。例えば、このτ
iの間隔iは、0.1ms〜100msであり、本実施例では、1msである。
【0044】
S104にて無線機1は、この受信信号強度y
τ0〜y
τmの変化のパターン(以下、強度パターンとも称す)毎に受信信号強度Y={y
τ0,y
τ1,y
τ2,・・・y
τm}を(Y
1,Y
2,Y
3,・・・Y
n)のように分類してメモリに記憶する。例えば、所定期間や所定時刻毎に取得した受信信号強度y
τ0〜y
τmの集合を一つの変化パターン(Y
1,Y
2,Y
3,・・・Y
n)としても良い。また、制御装置5が、ロボット3a、3b、モータ4を所定の駆動パターンで動作させる場合に、無線機1が、この駆動パターンで動作が行われている時の受信信号強度y
τ0〜y
τmを取得し、駆動パターン毎或は駆動パターンを細分化したサブパターン毎に一つの変化パターンとしても良い。制御装置5は、例えば、駆動パターン1として、モータ4を停止した状態で、ロボット3aに動作A1を実行させ、ロボット3bには動作B1を実行させる。更に、駆動パターン2として、ロボット3aに動作A2を実行させ、ロボット3bには動作B2を実行させ、モータ4に動作C2を実行させる。ここで、動作A1としてロボット3aのアームを左右に旋回させる場合に、右へ旋回させる動作A11、左へ旋回させる動作A12のように駆動パターンを細分化したものをサブパターンとする。この場合、
図4、
図5の指向性情報生成処理を行っているときだけ無線機1と制御装置5とを接続し、機器等を動作させる駆動パターンやサブパターンを制御装置5から無線機1へ通知することで、無線機1が駆動パターンやサブパターンを認識し、駆動パターンやサブパターン毎に変化パターンを作成しても良い。
【0045】
S105にて無線機1は、試験が終了したか否か、例えば製品を製造する一連のプロセスが終了したか否かを判定し、試験が終了するまでS101〜S104の処理を繰り返す。
【0046】
図5は、指向性情報生成処理のうち、
図4で取得した変化パターン毎に高い受信信号強度が得られる指向性の情報を取得して指向性情報を生成する処理を示す。
【0047】
そして、無線機2aに
図5の処理を開始させ、S201では、無線機2aが試験電波を送信する(第二試験電波送信ステップ)。このとき、制御装置5によるロボット3a等の駆動や作業者による作業も行い、無線機1が、S202にてロボット3a等や作業者が動作する環境下において現時点の変化パターンを特定する。この変化パターンの特定は、
図4と同じ製造プロセスのための所定の駆動パターンを実行し、同じタイミングで同じ変化パターン(Y
1,Y
2,Y
3,・・・Y
n)が得られるものとする。また、変化パターンの特定は、標準指向性で試験電波を受信して受信信号強度の変化を計測して、この受信信号強度の変化に相当する、例えば合致すると判断される変化パターンをメモリから特定しても良い。なお、この受信信号強度の変化に相当すると判断される変化パターンを特定する手法は、後述する
図8のS302にて受信信号強度の変化に相当すると判断される変化
パターンを選択する手法と同様である。
【0048】
S202で変化パターンを特定した後、無線機1は、S203へ移行し、指向性を順次変化させて受信信号強度を計測する。例えば、フェーズドアレイアンテナにおいて設定し得る指向性ごとに、無線機2aから送信された試験電波の受信信号強度を計測していく。したがって、フェーズドアレイアンテナにおいて指向性がpq通り設定可能とすれば、無線機1側では、S202で特定された変化パターン(Y
1,Y
2,Y
3,・・・Y
n)ごとに、無線機2aから送信される試験電波に対してpq通りの指向性に応じた受信信号強度が計測される。
【0049】
S204にて無線機1は、S203で計測した受信信号強度のうち、最も高い受信信号強度となった指向性を示す情報(指向性情報)と、S202で特定された変化パターン(Y
1,Y
2,Y
3,・・・Y
n)とを対応付けてメモリに記憶する。
【0050】
そして、S205にて無線機1は、試験が終了したか否か、即ち、
図4の処理で取得した全ての変化パターンについての処理が終了したか否かを判定し、試験が終了するまでS201〜S204の処理を繰り返すことで変化パターン毎の指向性情報を生成する。
【0051】
この指向性情報の生成について、
図6に基づいて説明する。
図6(a)は、縦軸に受信信号強度をとり、横軸に時間をとり、無線機1が、ある特定の指向性(例えば、標準指向性)で無線通信を行った場合の受信信号強度の時間的変化を線L1で示した図である。
図6(a)において、Paが好適に無線通信を行うことのできる閾値である。
図6(a)の例では、特定の指向性で無線通信を行った場合、ロボット3a等や作業者の動作に起因したフェージングの影響を受けて、受信信号強度が閾値Paを下回ることがあり、常に好適な無線通信の状態が担保できるものではないことを表している。
【0052】
図6(b)は、
図6(a)の一部の期間(タイミングt1〜t3)を拡大して示している。
図6(b)において、タイミングt1、t2、t3のそれぞれの間隔Tsが、
図4の処理で各変化パターンを取得した期間、即ちτ
0からτ
mまでの期間に相当する。
図6(b)の例では、タイミングt1からt2までの受信信号強度が変化パターンY
1、タイミングt2からt3までの受信信号強度が変化パターンY
2の場合を示している。
【0053】
図6(c)は、例えば
図5の処理のタイミングt1からt2までの期間、及びタイミングt2からt3までの期間において、フェーズドアレイアンテナに設定し得る指向性ごとに、上記無線機2aから送信された試験電波の受信信号強度を計測した結果を示している。なお、
図6(c)の例では、簡単のため、pq通りの指向性のうち、指向性d
ab,d
cd,d
efのみを示している。このように
図6(c)の例では、タイミングt1からt2までの期間において指向性をd
abとした場合の受信信号強度が最も高く、タイミングt2からt3までの期間において指向性をd
cdとした場合の受信信号強度が最も高くなった。この結果、変化パターンY
1と指向性d
abとを対応付け、変化パターンY
2と指向性d
cdとを対応付け、指向性情報として
図7に示すようにメモリへ記憶させる。この指向性情報の生成は、他の変化パターン(Y
3・・・Y
n)についても実施され、本システムが設けられた工場において製品を製造する一連のプロセスで生じ得る全ての変化パターン(Y
1,Y
2,Y
3,・・・Y
n)について受信信号強度が最大となる指向性を順次選択して指向性情報として記録する。即ち、ロボット3a等や作業者の動作に起因するフェージングの影響によって、標準指向性では受信信号強度が低下する状況であっても、フェーズドアレイアンテナを指向性情報に示される指向性に設定すれば最も高い受信信号強度が得られる。
【0054】
図6(d)はこの指向性情報に従ってフェーズドアレイアンテナの指向性を適切に制御した場合の受信信号強度の時間推移を示す。例えば標準指向性で無線通信を行った場合に受信信号強度が
図6(a)の線L1のように推移する状況において、この指向性情報に基づき各変化パターンに応じてフェーズドアレイアンテナの指向性を設定した場合の受信信号強度の時間推移が、
図6(d)において線L0で示される。このように線L0に従う指向性情報は、各変化パターンに応じてフェーズドアレイアンテナの指向性を適切に制御させることにより、常に閾値Paよりも高い受信信号強度が得られ、ロボット3a等や作業者の動作に起因したフェージングの影響を抑制した無線通信を可能とするものである。
【0055】
なお、上記のS204での指向性情報の生成では、各制御タイミングにおいて受信信号強度が最大となる指向性が選択された。この態様に代えて、一連の製造プロセスにおいて受信信号強度が所定の範囲に収まるように、各変化パターンに対する指向性を選択してもよい。このように指向性情報を生成することでも、受信信号強度の変動の少ない安定した無線通信を無線機1と無線機2aとの間で実現することができる。
【0056】
また、上記の指向性情報は、無線機2aから無線機1へ送信された試験電波に基づいて生成されたものであるから、厳密には、無線機1において無線機2aからの情報を受信する際に好適に利用され得るものである。しかし、多くの場合において、無線機2aから無線機1への情報伝送時のフェーズドアレイアンテナの指向性と、無線機1から無線機2aへの情報伝送時のフェーズドアレイアンテナの指向性は同一視できる。そこで、その点を踏まえ上記の指向性情報生成処理によって得られた各変化パターンに対応した指向性情報は、無線機1から無線機2aへの情報伝送時にもフェーズドアレイアンテナに適用してもよい。
【0057】
別法として、無線機1から無線機2aへの情報伝送時にフェーズドアレイアンテナに適用する指向性情報を別途生成してもよい。この場合においては、ロボット3a等や作業者の動作が行われている状態下で、変化パターンを特定し、変化パターンごとにフェーズドアレイアンテナの指向性を設定し得るpq通りに変化させて無線機1から無線機2aに対して試験電波を送信し、その際の受信信号強度を無線機2a側で計測する。そして、その計測された受信信号強度に関する情報を無線機1へ伝送し、
図5のS204で示したように無線機1側で指向性情報を生成し、格納すればよい。
【0058】
また、無線機2bについては、無線機1に対する相対位置が無線機2aと異なるため、無線機2bと無線機1との間の無線通信のための指向性情報を、別途生成する必要がある。なお、この生成においては、実質的に無線機2aの場合と同じように生成すればよい。
【0059】
<計測情報伝送処理>
無線機1が、
図4,
図5に示す指向性情報生成処理によって生成された変化パターンの情報と指向性情報を有することで、ロボット3a等や作業者の動作に起因したフェージングの作用を抑制した状態で無線機1と無線機2aとが無線通信を介して、様々な情報伝送を実現することが可能となる。そこで、その情報伝送の一態様である計測情報伝送処理について、
図8,
図9に基づいて説明する。当該計測情報伝送処理は、無線機2a側で計測された温度情報を無線通信を介して無線機1側に伝送するために、無線機1側で実行される処理である。
【0060】
本実施例の無線機1は、無線通信を行う際、定期的に変化パターンを確認し、変化パターンに応じて随時指向性を制御する。このため温度情報を伝送する期間(後述のタイムスロット52)を所定回数繰り返すごとに、変化パターンを確認する期間(後述のタイムスロット51)をとるようにしている。先ずS301では、取得部101によって、変化パターンを確認するため標準指向性で無線機2aからの電波を受信し、前記サンプリング間隔iで受信信号強度の変化を測定し、得られた受信信号強度をν
j=(ν
1,ν
2,ν
3,・・・ν
n)
τとする。次に、S302では、指向性情報格納部12によってメモリに格納された変化パターン(Y
1,Y
2,Y
3,・・・Y
n)がS301で取得した受信信号強度ν
jに相当すると判断される尤度L
jを次式によって求める。
【0061】
L
j=αp(ν
j│Y
j) 但し、αは、任意の正の比例定数
そして、取得部101は、メモリに格納されている指向性情報の中から尤度L
jが最も高い変化パターンと対応する指向性情報を選択する。
【0062】
その後、S303では、実行部102により、選択された指向性情報をフェーズドアレイアンテナに適用し、S304では、その指向性を設定した状態で、無線機2aとの無線通信により温度情報(環境パラメータ)を無線機1が無線機2aから受信する。
【0063】
実行部102は、S305にて、通信が完了したか否かを判定し、通信が完了した場合には(S305,Yes)
図8の処理を終了し、通信が完了していない場合には(S305,No)、S306で温度情報を伝送した期間(後述のタイムスロット52)の実施回数(通信回数)NをインクリメントしてS307へ移行する。
【0064】
S307にて実行部102は、通信回数Nが所定値Hnに達したか否かを判定し、通信回数Nが所定値Hnに達していない場合には(S307,No)、S304の無線通信を繰り返し、通信回数Nが所定値Hnに達した場合には(S307,Yes)、通信回数NをクリアしてS301以降の処理を繰り返す。即ち、温度情報の伝送をHn回繰り返すごとに変化パターンを確認する。
図9は、S301において変化パターンを確認する期間であるタイムスロット51と、S304において温度情報の通信を行う期間であるタイムスロット52とを示す。これにより所定の通信回数Nごとに変化パターンを確認し、この変化パターンに応じてフェーズドアレイアンテナの指向性を適切に制御して無線通信を行う。
図9に示すように、Hn回に1度のタイムスロット51では、無線機1が標準指向性で無線機2aからの電波を受信して変化パターンを確認し、その他のタイムスロット52では、無線機1が指向性情報に基づいて設定した指向性で無線機2aからの温度情報を受信する。なお、
図8、
図9の例では、タイムスロット51,52の数を通信回数としてカウントして定期的にS301の変化パターンを確認するステップを行ったが、これに限らず、パケット数やデータ量をカウントして所定値に達した時に変化パターンを確認するステップを行うようにしても良い。また、S307において通信回数に限らず、S304で温度情報を受信した際の受信信号強度が所定値Paを下回ったか否かを判定し、受信信号強度が所定値Paを超えた場合には(S307,No)、S304の無線通信を繰り返し、受信信号強度が所定値Paを下回った場合には(S307,Yes)、通信回数NをクリアしてS301以降の処理を繰り返しても良い。
【0065】
このような指向性制御を伴う無線通信を無線機2aと行うことで、無線機1は、ロボット3a等の機器や作業者の動作に起因したフェージングの影響を受けにくい状態で、無線機2aから温度情報を受信でき、安定した情報収集が可能となる。なお、
図8に示す計測情報伝送処理においては、無線機2aからの温度情報の伝送のみが言及されているが、無線機1から無線機2aに制御情報等の情報伝送する場合にも、同様にフェーズドアレイアンテナの指向性が変化パターンに応じて制御されていることで、無線機2a側に好適に伝送されることになる。
【0066】
また、無線機1と無線機2bとの間の無線通信にも、
図7に示す計測情報伝送処理は適用される。また、無線機2aと無線機2bが比較的近接して配置されている場合等には、無線機1と無線機2a、無線機2bのそれぞれとの無線通信において適用される駆動時指向性情報を共通の指向性情報としてもよい。すなわち、無線機2aと無線機2bとからなる無線機群において、両無線機が近接していると無線機1に対する相対位置に大きな差が生じない場合があり、無線機間でのフェージングの影響も同一視し得る。そのような場合には、無線機1のフェーズドアレイアンテナに適用される指向性情報を、無線機群に属する各無線機と無線機1との間の無線通信において共通のものとすることで、計測情報の伝送処理の負担を軽減することができる。なお、共通の駆動時指向性情報が適用される場合において、無線機1と無線機2aとの無線通信と、無線機1と無線機2bとの無線通信とは、択一的に行われてもよく、又は同時に行われてもよい。
【0067】
<変形例>
上記の実施例では、無線機2aの位置は不変とされているが、それに代えて、制御装置5によって駆動制御されるモータ等により、無線機2aが移動するように構成されてもよい。このような形態で、無線機1に対する無線機2aの相対位置が変化した場合でも、この相対位置が変化した状態の変化パターンと高い受信信号強度が得られる指向性を示す情報とを対応付けて指向性情報として記憶しておく。これにより、無線機1に対する無線機2aの相対位置が変化した場合でも、前述の実施形態と同様に、変化パターンに応じて指向性情報を選択して、当該指向性情報をフェーズドアレイアンテナに適用することで、無線機1と無線機2aとの間の無線通信を、フェージングの影響から保護することができ、好適な無線通信を実現することができる。
【0068】
これに限らず、無線機1に対する無線機2aの相対位置が変化する場合には、無線機1に対する無線機2aの相対位置に応じて指向性情報を生成しても良い。そして制御装置5はモータ等の駆動制御により、無線機2aを移動させた場合、無線機1に対する無線機2aの相対位置を有線又は無線で無線機1へ通知し、無線機1が、この相対位置に基づく指向性情報の中から変化パターンと対応する指向性情報をフェーズドアレイアンテナに適用して、無線機1と無線機2aとの間の無線通信を行うようにしても良い。これにより、無線機1に対する無線機2aの相対位置によって、指向性情報が大きく異なる場合であっても、フェージングの影響から保護することができ、好適な無線通信を実現することができる。