特許第6376004号(P6376004)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376004
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】無線機
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/06 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
   H04B7/06 954
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-45193(P2015-45193)
(22)【出願日】2015年3月6日
(65)【公開番号】特開2016-165082(P2016-165082A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2017年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100138357
【弁理士】
【氏名又は名称】矢澤 広伸
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 啓介
(72)【発明者】
【氏名】吉川 泰司
【審査官】 野元 久道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−156296(JP,A)
【文献】 特開昭54−127616(JP,A)
【文献】 特開2003−036729(JP,A)
【文献】 特開2008−289192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の加工装置によるワークの加工が行われ該加工中に構造物が移動する所定の閉空間内において、所定の環境パラメータを計測するセンサと無線通信が可能となるように形成された無線機であって、
前記所定の閉空間内に配置され、前記センサと無線通信を行うためのアンテナ部と、
前記所定の加工装置による前記ワークの加工が開始されてから終了するまで、前記センサから前記アンテナ部への送信電波に基づいて前記所定の閉空間内に想定される定在波、又は該アンテナ部から該センサへの送信電波に基づいて該所定の閉空間内に想定される定在波が、前記無線通信での時間経過とともに変動するように、該アンテナ部による無線電波の送受信形態を制御する制御部と、
を備える、無線機。
【請求項2】
前記アンテナ部は、ダイバシティ通信に対応する複数のアンテナを含み、
前記制御部は、前記定在波が前記無線通信での時間経過とともに変動するように、無線電波の送受信を行うアンテナを該時間経過に応じて切り替える、
請求項1に記載の無線機。
【請求項3】
前記アンテナ部は、指向性アンテナを含み、
前記制御部は、前記定在波が前記無線通信での時間経過とともに変動するように、該時間経過に応じて前記指向性アンテナに適用する指向性条件を変動させる、
請求項1に記載の無線機。
【請求項4】
前記制御部は、前記センサからの送信電波が前記アンテナ部によって受信されたときの受信信号強度に基づいて、前記指向性アンテナに適用する指向性条件を制御する、
請求項3に記載の無線機。
【請求項5】
前記所定の閉空間には、その内部を外部から可視化できるように透明な窓部が設けられ、
前記窓部は、透明な金属膜によって覆われている、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の無線機。
【請求項6】
前記所定の閉空間の内壁面には、前記センサとの無線通信に使用される所定周波数の無線電波に対して電波吸収性を示す電波吸収部材が配置される、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の無線機。
【請求項7】
前記所定の閉空間内には加工対象物を機械加工するための所定の加工装置が配置されるとともに、該所定の加工装置による機械加工時には機械加工のための潤滑油が使用される、
請求項1から請求項6の何れか1項に記載の無線機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線機に関する。
【背景技術】
【0002】
加工対象物の切削加工等を行う工作機械では、加工精度を管理するために、その切削工具等の状態を正確に把握することが求められる。そこで、特許文献1では、工作機械毎に切削工具の診断装置を設け、主軸モータの電流データを収集して主軸モータに装着される切削工具の状態を診断する技術が開示されている。各工作機械に設けられた主軸モータの電流センサに計測された電流データが、所定時間ごとに無線LANで診断装置に無線送信される。そして、電流データが集約される診断装置側で、その電流データを利用して、切削工具の状態がほぼ同時にリアルタイムで診断される。
【0003】
また、加工中の切削工具の状態に関する情報を収集する際に、無線通信を利用した情報収集の手法も広く利用されている。例えば、特許文献2では、切削工具に関する物理情報を取得するためのセンサのケーブル部材に対して、無線通信を行う通信部を着脱可能に配置する構成が採用されている。このような配置によれば、ケーブル部材をセンサの本体側に取り付けた状態で通信部を分離することができるため、切削工具を交換する際には通信部と分離して、切削工具とともにセンサの本体部を交換すればよく、交換作業の作業効率の向上が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−86196号公報
【特許文献2】特開2012−20359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
切削等を行う工作機械等では、その切削工具の状態は加工精度に大きく影響を及ぼすため、加工精度の管理等の観点から切削工具の状態を監視することは極めて重要である。この切削工具の状態を表す環境パラメータとしては、例えば、切削工具の温度や振動等、様々な物理パラメータが挙げられる。そして、これらの環境パラメータを計測するためには、切削工具の近傍に計測のためのセンサを配置する必要がある。一方で、このような切削加工が行われる環境では切削油が利用されるため、センサへの給電ケーブルや計測データの伝送ケーブルが切削油の影響を受けて劣化しやすい。そのため、これらのケーブルは、適時交換を行う必要があり、工作機械の加工効率を低下させる要因ともなる。
【0006】
そこで、センサからの計測データの伝送を無線通信を介して行うワイヤレスセンサシステムを採用することで、センサに関するケーブルの利用を回避することが可能となる。しかしながら、切削加工が行われる環境では上記の通り切削油等が使用され、また、切削工具が高速で回転等するため、安全衛生の観点等から、加工中に切削が行われる空間へのアクセスを禁止すべく当該切削加工は所定の閉空間内で行われる。このような所定の閉空間での加工は、切削加工だけではなくプレス加工やレーザ加工等、様々な加工についても同様である。そして、閉空間で無線通信を介して計測データの収集を行おうとすると、その閉空間内に無線電波による定在波が発生し、閉空間内で良好な無線通信を行うことが困難となる領域(すなわち、定在波の節)がスポット的に発生する場合があり、場合によっては計測データの収集が阻害される恐れがある。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、所定の閉空間内で無線通信を介して、センサによる計測データを好適に収集し得る無線機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、上記課題を解決するために、無線機のアンテナ部による無線電波の送受信形態に着目した。詳細には、本発明は、所定の閉空間内において、所定の環境パラメータを計測するセンサと無線通信が可能となるように形成された無線機であって、前記所定の閉空間内に配置され、前記センサと無線通信を行うためのアンテナ部と、前記センサから前記アンテナ部への送信電波に基づいて前記所定の閉空間内に想定される定在波、又は該アンテナ部から該センサへの送信電波に基づいて該所定の閉空間内に想定される定在波が、前記無線通信での時間経過とともに変動するように、該アンテナ部による無線電波の送受信形態を制御する制御部と、を備える。
【0009】
本発明に係る無線機は、アンテナ部を介してセンサと無線通信可能に形成されている。したがって、このセンサも、当該無線機と無線通信が可能となるように、その内部に所定のアンテナ部を有しているが、上記制御部は無線機自身が有するアンテナ部による無線電波の送受信形態を制御するように構成されている。ここで、センサが配置される所定の閉空間は、センサの計測対象となる所定の環境パラメータがセンサにより検出可能な程度に顕在している空間であり、当該所定の環境パラメータとしては、温度、湿度、振動(加速度)等の物理的なパラメータや、所定の物質の濃度等の化学的パラメータ等が挙げられる。また、所定の閉空間は、様々な目的のためにある程度、外部から物理的に閉じられた空間であればよく、例えば、工作機械等において安全衛生の観点から形成される程度の閉空間であってもよく、または必要に応じて外部との換気が規制される程度の閉空間であってもよい。いずれにせよ、所定の閉空間は、外部とある程度区切られるための物理的な壁等によって形成される。
【0010】
このような所定の閉空間の一例としては、その内部に加工対象物を機械加工するための所定の加工装置が配置されるとともに、該所定の加工装置による機械加工時には機械加工のための潤滑油が使用されるような閉空間が挙げられる。このような所定の閉空間では、機械加工によって発生する加工屑や騒音、切削油等の潤滑油が外部に漏れ出さないことを目的として、閉空間が形成されることになる。
【0011】
そして、このような所定の閉空間において、センサによって計測された環境パラメータに関するデータは、センサから無線機のアンテナ部に送信されそれをアンテナ部が受信し、又は、無線機からセンサに対する制御データがアンテナ部からセンサに送信されそれをセンサが受信する、データの送受信が行われる。一方で、所定の閉空間では、その閉じられた空間を形成するための壁等が存在するため、データ送受信のための無線電波が壁等で反射され、無線電波同士が重なり合うことで、所定の閉空間内に無線電波の強度が弱まる節を含む定在波が発生し得る。このような定在波の節がセンサや無線機のアンテナ部の近くに発生すると、特に両者間のデータの送受信に影響が及ぶことになり、計測された環境パラメータの収集が困難となり得る。
【0012】
そこで、本発明に係る無線機では、所定の閉空間内に想定される定在波が、無線通信での時間経過とともに変動するように、換言すれば、所定の閉空間内での定在波が固定化されないように、アンテナ部による無線電波の送受信形態を制御する。一般には、所定の閉空間内で形成される定在波がどのように形成されるかを検出することは容易ではなく、仮に検出しようとするとその検出のためには多くの測定器等が必要となる。そこで、本発明では、所定の閉空間内に実際に形成されている定在波の状態に基づくのではなく、あくまでも想定される定在波が固定化されないよう、変動するように、アンテナ部での無線電波
の送受信形態が経時的に変動される。これにより、所定の閉空間内において、無線電波が弱まる定在波の節が固定化されず、センサと無線機との間のデータの送受信を比較的安定化させることができる。
【0013】
ここで、制御部によるアンテナ部での無線電波の送受信形態の制御としては、センサに対するアンテナ部の相対位置を経時的に変化させる手法や、センサに対するアンテナ部の無線電波送受信の指向性を経時的に変化させる手法が採用できる。先ず、前者の場合、前記アンテナ部は、ダイバシティ通信に対応する複数のアンテナを含み、そして、前記制御部は、前記定在波が前記無線通信での時間経過とともに変動するように、無線電波の送受信を行うアンテナを該時間経過に応じて切り替えてもよい。複数のアンテナを時間経過に応じて切り替えることで、センサとアンテナ部との距離を変化させることになる。その結果、所定の閉空間内において、定在波の節が固定化されないようになり、センサと無線機との間のデータの送受信を比較的安定化させることができる。
【0014】
また、後者の場合、前記アンテナ部は、指向性アンテナを含み、そして、前記制御部は、前記定在波が前記無線通信での時間経過とともに変動するように、該時間経過に応じて前記指向性アンテナに適用する指向性条件を変動させてもよい。このように指向性を変化させることで所定の閉空間内での無線電波の進行方向が変化するため、所定の閉空間内に形成される定在波の節の位置を時間経過とともに変動させることができる。これにより、所定の閉空間内で定在波の節の位置が固定化されないようになり、センサと無線機との間のデータの送受信を比較的安定化させることができる。
【0015】
そして、上記指向性条件の制御の一例として、前記制御部は、前記センサからの送信電波が前記アンテナ部によって受信されたときの受信信号強度に基づいて、前記指向性アンテナに適用する指向性条件を制御してもよい。仮に所定の閉空間内に定在波が発生し、その定在波の節の影響をアンテナ部が受けている場合には、その影響がアンテナ部での受信信号強度に反映されることになる。そこで、当該受信信号強度に基づいて指向性条件を制御することで、無線通信の安定化が期待される。なお、指向性条件の制御の一例としては、例えば、アンテナ部による受信信号強度が、安定な無線通信のために必要な閾値となる強度よりも低くなった場合等に指向性条件を変動するようにしてもよい。
【0016】
ここで、上述までの無線機において、前記所定の閉空間には、その内部を外部から可視化できるように透明な窓部が設けられ、そして、前記窓部は、透明な金属膜によって覆われていてもよい。すなわち、窓部を通して所定の閉空間内の様子を確認することが可能となる。このような窓部により、例えば、所定の閉空間が工作機械内での加工空間であれば、ユーザがその加工の様子を確認することができる。一方で、内部で無線電波を使用する場合、その無線電波が所定の閉空間の外部に漏れ出すことは、必ずしも好ましいことではない。例えば、無線電波による他の機械への影響や、漏出により無線電波の消費電力が無駄に上昇する等の理由による。そこで、窓部が透明な金属膜で覆われることで、空間内部の可視性を確保しながら、無線電波の漏出を抑制することができる。透明な金属膜としては、ITO膜(酸化インジウムスズ)等が例示できる。
【0017】
なお、透明な金属膜で窓部を覆うことで、無線電波が外部に漏出しにくくなる一方で、所定の閉空間内に定在波が生じた場合、その無線通信に対する影響が大きくなる可能性がある。しかし、上記の通り、本発明に係る無線機では、制御部により、アンテナ部での無線電波の送受信形態が制御されるため、定在波による影響を可及的に抑制することが可能となる。
【0018】
また、上述までの無線機において、前記所定の閉空間の内壁面には、前記センサとの無線通信に使用される所定周波数の無線電波に対して電波吸収性を示す電波吸収部材が配置
されてもよい。これにより、所定の閉空間内での定在波による影響を抑制し、センサと無線機との間のデータの送受信を比較的安定化させることができる。
【発明の効果】
【0019】
所定の閉空間内で無線通信を介して、センサによる計測データを好適に収集し得る無線機を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る無線機を備える工作機械の概略構成を示す図である。
図2図1に示す工作機械での無線電波による定在波の節の位置を説明するための図である。
図3図1に示す工作機械の無線機において実行される伝送処理のフローチャートである。
図4図1に示す工作機械での無線電波による定在波の節の位置を説明するための別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照して本発明に係る無線機1を搭載する工作機械10、および当該無線機1について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
図1は、工場等で使用される切削機等の工作機械10の概略構成、およびそこに含まれる無線機1等の配置を示す図である。詳細には、工作機械10には、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)等の制御装置3が搭載されており、当該制御装置3によって、ワークを切削加工するための切削工具5を回転駆動するモータ4、及びワークが搭載されるテーブル8のXY平面上の位置を制御するモータ6、7が制御される。なお、図1には示されていないが、切削工具のZ方向の位置を制御するためのモータも工作機械10には搭載されている。なお、制御装置3によるモータ4等の駆動制御そのものについては、従来技術であり、また本願発明の中核をなすものではないため、その詳細な説明は省略する。
【0023】
ここで、モータ4によって回転駆動される切削工具5の状態を確認するためにセンサ2が、モータ4の近傍に配置されている。センサ2は、切削工具5の温度を計測するための温度センサである。そして、センサ2によって計測された温度情報は、センサ2に搭載されているアンテナによって無線機1へと送信される。ここで、本実施例では、センサ2は、切削工具5の状態を把握するための温度情報を計測する温度センサとしたが、制御装置3での処理の目的により、温度情報以外の環境パラメータを計測するためのセンサであってもよい。例えば、センサ2としては、加速度センサ、磁気センサ、光電センサ、温度センサ、湿度センサ、照度センサ、フローセンサ、圧力センサ等の物理系センサや、COセンサ、pHセンサ等の化学系センサがある。
【0024】
このように工作機械10においては、制御装置3には、無線機1が電気的に有線で接続されている。そして、センサ2で計測された温度情報は、センサ2側から無線通信を介して無線機1へと伝送され、それが制御装置3に渡されることで、切削工具5の温度が異常に上昇していないか等、切削工具5の状態、特に切削工具5が使用されている際の状態が監視される。なお、このような切削工具5の状態監視に関する処理そのものは、従来技術であり、また本願発明の中核をなすものではないため、その詳細な説明は省略する。
【0025】
ここで、無線機1は、指向性アンテナであるフェーズドアレイアンテナ1aを有してい
る。フェーズドアレイアンテナ1aは、従来技術によるアンテナであるが、簡潔に言えば、アンテナアレイのそれぞれのアンテナ素子に加える信号の位相を少しずつ変えることで電波を送る方向を任意に変え、逆に、特定の方向からの電波に対する受信感度を高くすることを可能とする指向性の制御機能を有する。したがって、無線機1のフェーズドアレイアンテナ1aは、特定の方向への電波の送出、及び特定の方向からの電波の受信を、他方向と比べて感度良く実行できるアンテナであり、この特定の方向を任意に制御することが可能である。本願発明では、フェーズドアレイアンテナ1aにおける当該特定の方向の制御を、フェーズドアンテナにおける指向性条件の制御と称する。
【0026】
このようにフェーズドアレイアンテナ1aの指向性条件が制御されることで、フェーズドアレイアンテナ1aを有する無線機1は、その工作機械10においてセンサ2に対して効率的に制御用の無線電波を届け、また、センサ2から効率的に計測された温度情報を含む無線電波を受け取ることが可能となる。なお、センサ2は、全方位型のアンテナを有している。そのため、無線機1においては、センサ2から届けられる無線電波を効率的に受信できるように、例えば、無線機1側での受信電波の受信信号強度が所定の閾値より高くなるように、フェーズドアレイアンテナ1の指向性条件が設定される。なお、図1において、無線機1がセンサ2と無線通信を行う場合のフェーズドアレイアンテナの指向性はDで示されている。
【0027】
ここで、工作機械10は、金属のボディ11で形成される閉空間内に、上述したモータ4、6、7、切削工具5、センサ2、無線機1及びそのフェーズドアレイアンテナ1aが配置されている。これは、切削工具5によってワークを切削加工する際に発生する切削屑や、切削加工に使用する切削油等の飛散を防止するためである。また、切削加工が行われる加工領域13に対して加工中に外部からアクセスが可能な状態となるのは、安全上好ましくない。そこで、加工領域13へのワークの出し入れを行うための扉部12以外のボディ11には、工作機械10の内部と外部とを繋ぐ部位は、原則的に存在せず、また、扉部12が開いた状態では制御装置によるモータ4等の駆動制御は実行されないように構成されている。
【0028】
また、扉部12には、工作機械10の外部から内部の加工領域13の様子が可視化されるように、透明な部材で形成された窓部が設けられている。これにより、工作機械10のユーザは、ワークの切削加工の様子を直に確認しながら、工作機械10を制御することができる。なお、上記の通り、工作機械10の閉空間内では、センサ2による温度情報が無線機1に無線伝送される。そこで、この無線伝送のための電波が、工作機械10の外部に漏出して来ないように、扉部12に設けられた窓部は、透明な金属膜であるITO膜(酸化インジウムスズ膜)によって覆われている。ITO膜は、金属膜であるため、無線通信のための無線電波を好適に反射し、外部に無線電波が漏出するのを抑制できるとともに、その透明性により、窓部本来の可視性を低下させることなく、ユーザによる内部確認を担保することができる。
【0029】
このように構成される工作機械10では、ワークの切削加工中における切削工具5の状態を、センサ2によって計測される温度情報を介して把握できるようになり、その状態把握のための温度情報は、無線機1とセンサ2との間の無線通信を介して収集される。そして、無線機1とセンサ2との間の無線通信は、ボディ11で囲まれた閉空間(より詳細には、ボディ11と、扉部12に配置された窓部のITO膜とで囲まれた閉空間)内で行われることになる。無線機1は、上記のフェーズドアレイアンテナ1aを有していることから、基本的には、センサ2から送信される無線電波を効率的に受信することが可能とされるが、ボディ11内の閉空間では、センサ2からの無線電波は、当該閉空間を形成するボディ11の内壁面や、当該閉空間に配置される構造物(各モータやテーブル8、ワーク等)によって反射され、フェーズドアレイアンテナ1aによって必ずしも効率的に受信され
るとは限らない。
【0030】
特に、工作機械10のように閉空間内での無線通信においては、センサ2から送信される無線電波が、フェーズドアレイアンテナ1aに到達するまでの経路によって重なり合って定在波が形成され、そのとき、フェーズドアレイアンテナ1aの近傍でその定在波の電波強度が弱くなる節が生じると、センサ2から無線機1への温度情報の伝送が効率的に行われなくなる。ここで、図2に、工作機械10内の閉空間において無線機1とセンサ2との間で無線通信を行った場合の、当該閉空間における定在波の節の形成について異なる2つの状況を、上段の(a)と下段の(b)に示す。上段(a)で示す状況では、フェーズドアレイアンテナ1aに設定されている指向性条件はD1であり、それは、このときセンサ2から無線機1向かう矢印Ar1の方向に対応するものである。したがって、指向性条件D1がフェーズドアレイアンテナ1aに設定されると、本来であれば、矢印Ar1に沿ったセンサ2からの無線電波をフェーズドアレイアンテナ1aで効率的に受信できる。
【0031】
しかし、図2(a)に示すケースでは、矢印Ar1に沿った無線電波が、フェーズドアレイアンテナ1aの奥にあるボディ11の内壁面で反射され、再びフェーズドアレイアンテナ1aの近傍領域R1に戻ったときに、センサ2からの無線電波と重なり合って生じた定在波の節が、当該領域R1に発生している。このように無線電波の定在波の節がフェーズドアレイアンテナ1aの近傍に発生してしまうと、フェーズドアレイアンテナ1aによる無線電波の受信信号強度が大きく低下してしまうため、センサ2による温度情報の伝送が効率的に行われにくくなる。
【0032】
一方で、図2(b)に示すケースでは、フェーズドアレイアンテナ1aに設定される指向性条件は、図2(a)のケースと異なりD2とされる。指向性条件D2は、図2(b)に示すように矢印Ar2で示される指向性を有する無線電波がボディ11の内壁面で反射した場合の、その反射電波を効率的に受信できるように設定される指向性条件である。この指向性条件D2が設定される場合も、同じように工作機械10の閉空間内でセンサ2からの無線電波が重なり合うことで定在波が発生するが、その節となるのは、フェーズドアレイアンテナ1aから離れた領域R2である。したがって、指向性条件D2の場合には、無線機1とセンサ2との間の無線通信は、定在波の節の影響は受けにくい。また、無線機1からセンサ2に対して何らかの制御信号等を送信する場合も、同じように閉空間内の定在波の影響を受ける可能性がある。
【0033】
なお、図2に示す定在波の状況は例示であり、これらの状況以外の定在波も当然に存在する。特に、工作機械10の閉空間内では、各モータによりテーブル8やワークが移動するため、無線機1とセンサ2との間で送受信される無線電波は、閉空間内で様々な構造物によって反射される。そのため、その反射の状況によって閉空間内で形成される定在波の状況は、規則的に、又は不規則的に変化し得る。
【0034】
このように、工作機械10では、センサ2による温度情報を無線機1に伝送する場合、無線機1やセンサ2等が配置される閉空間内での無線電波の定在波の発生を踏まえたうえで、無線機1とセンサ2との間の無線伝送を行うのが好ましい。そこで、センサ2で計測された温度情報を無線機1へ無線伝送するための処理について、その処理の流れを図3のフローチャートに示している。この伝送処理は、主に無線機1が有する制御部において、所定の制御プログラムが実行されることで行われる。この無線機1の制御部は、演算装置や所定の制御プログラムを格納するためのメモリ等を有している。
【0035】
先ず、S101では、工作機械10において切削加工が開始されているか否かが判定される。具体的には、図1等に示すように、無線機1は制御装置3と電気的に接続されていることから、制御装置3によるモータ4等の制御状況を把握可能に構成されている。そこ
で、制御装置3からの情報に基づいて、切削加工の開始の有無を判断することが可能である。S101で肯定判定されるとS102へ進み、否定判定されると、センサ2による温度情報の計測の必要性は無いため、本伝送処理は終了される。
【0036】
次に、S102では、無線機1とセンサ2との間の無線通信のために、本伝送処理が開始されてからn番目の指向性条件が、フェーズドアレイアンテナ1aに設定される。ここで、フェーズドアレイアンテナ1aに設定される指向性条件は、無線機1の制御部が有するメモリ内に複数格納されている。そして、その複数の指向性条件のそれぞれは、事前の実験等を通して、フェーズドアレイアンテナ1aに適用することで、ある程度の効率の無線通信を可能とすることが知られている条件であるが、閉空間内で生じる定在波の状況によっては、その効率的な無線通信が阻害される可能性を内包するものである。なお、本伝送処理が初めて実行された場合には、n=1であり、以て、S102では1番目の指向性条件がフェーズドアレイアンテナ1aに設定されることになる。S102の処理が終了すると、S103へ進む。
【0037】
S103では、無線機1からセンサ2に対して、温度計測およびその計測された温度情報の無線機1への送信を行うための制御信号が送信される。この制御信号を受けたセンサ2は、切削工具5の状態を把握するための温度情報を把握し、それを無線機1へと送信する。S103の処理が終了するとS104へ進む。S104では、S102でn番目の指向性条件が設定されてから所定時間Δtが経過したか否かが判定される。この所定時間Δtは、後述のように指向性条件を切り替えるための時間間隔であり、閉空間内に形成される定在波の、無線機1とセンサ2との間の無線通信への影響を考慮して適宜設定されればよい。S104で肯定判定されればS105へ進み、否定判定されればS103以降の処理が繰り返される。
【0038】
S105では、制御装置3からの情報に基づいて、工作機械10において切削加工が終了されているか否かが判定される。S105で肯定判定されるとS107へ進み、否定判定されるとS106へ進む。そして、S106では、上記n(すなわち、フェーズドアレイアンテナに設定される指向性条件を区別するための「n」)がインクリメントされる。その結果、S106の処理が終了し、再びS102に戻ると、フェーズドアレイアンテナ1aに設定される指向性条件が、以前のものと異なる条件に切り替えられることになる。この結果、工作機械10の閉空間内の定在波状況は、例えば、図2(a)に示す状況から図2(b)に示す状況に強制的に切り替えられる。
【0039】
そして、S105で肯定判定されると工作機械10では切削加工が終了したことになるため、フェーズドアレイアンテナ1aに設定される指向性条件がリセットされ、次に本伝送処理が開始されたときに、再び1番目の指向性条件が設定されるための準備が行われる。
【0040】
このような伝送処理が無線機1で行われると、工作機械10で切削加工が行われている期間において、センサ2による温度情報の計測と無線機1への送信が繰り返し行われるが、その無線送信において所定時間Δtごとに、フェーズドアレイアンテナ1aに設定される指向性条件が切り替えられる。工作機械10の閉空間内では、ワークが様々に位置決めされ、または必要な切削加工が施されていくため、そこで生じる無線電波の定在波の状況は、不規則的に変化し得る。一方で、一般にはその定在波の状況、すなわち定在波の節が閉空間内のどこに形成されるかを正確に検出、把握することは困難である。このような実情を考慮して、上記伝送処理は、所定時間Δtごとにフェーズドアレイアンテナ1aに設定される指向性条件を切り替えることで、発生が想定される定在波の節によりフェーズドアレイアンテナ1aを介した無線電波の送受信が困難となることを回避でき、以て、閉空間内で無線通信を介してセンサ2による温度情報を好適に収集することが可能となる。ま
た、当該想定される定在波の節による影響を効率的に回避するためには、例えば、所定時間Δtを比較的短く設定するのが好ましいが、一方で、比較的高頻度で指向性条件を切り替えてしまうと、切り替える必要が無い状況でもフェーズドアレイアンテナ1aの指向性が変化することになるため、必ずしも効率的な無線伝送に資するとは限らないことに留意する。
【0041】
<変形例1>
上記の実施例では、所定時間Δtごとにフェーズドアレイアンテナ1aに設定される指向性条件が切り替えられたが、その態様に代えて、フェーズドアレイアンテナ1aによる無線電波の受信信号強度が所定の閾値より低くなった場合に、その信号強度低下は、上述した閉空間内での定在波の節に起因するものであると考えて、フェーズドアレイアンテナ1aに設定される指向性条件を切り替えてもよい。なお、切替後の指向性条件については、図3に示す伝送処理のように、無線機1の制御部内に格納されている指向性条件を順次切り替えていってもよい。
【0042】
<変形例2>
また、工作機械10の閉空間内で生じる定在波は、上記の通り不規則的なものであるが、例えば、工作機械10で連続して複数個のワークに対して同じ内容の切削加工を施す場合には、閉空間内で生じる定在波も概ね繰り返し発生することになり、定在波の節による影響もある程度は周期的なものとなり得る。そこで、上記のように無線電波の受信信号強度の時間推移と、制御装置3から得られる切削加工のための制御内容(各モータの駆動状況やテーブル8の位置等)とを関連付けて、受信信号強度が所定の閾値より低くなる傾向がある切削加工の一部の制御内容、すなわち定在波の影響が生じやすい制御内容を学習してもよい。そして、実際に工作機械10で切削加工が行われている際に、当該制御内容の切削加工が行われるときには、フェーズドアレイアンテナ1aに設定される指向性条件を切り替えてもよい。このようにすることで、より早期に定在波の節による影響を回避することができ、閉空間内で無線通信を介してセンサ2による温度情報を好適に収集することが可能となる。
【0043】
なお、切替後の指向性条件についても、学習により定在波の影響が生じにくい指向性条件を得ておくことで、指向性条件の切り替え後においても、安定した温度情報の収集を継続することができる。
【0044】
<変形例3>
無線機1とセンサ2との間の無線通信に影響を与える定在波は、無線電波が工作機械10のボディ11の内壁面で反射されて、別の無線電波と重なり合うことで生じる。そこで、この定在波の節による影響を軽減するために、ボディ11の内壁面に無線電波を吸収する電波吸収部材を配置するのが好ましい。電波吸収部材としては、無線機1とセンサ2との間の無線通信に使用される無線電波の周波数に対応した、電波吸収性を示す部材を適宜選択すればよい。一例としては、合成ゴムにフェライト粉末を混合して形成される複合フェライト電波吸収部材や、合成ゴムにカーボニル鉄粉を混合して形成される複合磁性電波吸収部材等が利用できる。これらの電波吸収部材は、混合されるフェライト粉末やカーボニル鉄粉の添加量を調整することで、好適な吸収性を示す無線電波の周波数を調整することが可能である。その他、合成ゴムに六方晶フェライト粉末を混合して形成される複合フェライト電波吸収部材や、発砲ポリエチレンを基材としてカーボンのオーム損失を利用して形成される平板状電波吸収部材等も採用することができる。
【実施例2】
【0045】
本実施例では、無線機1が、ダイバシティ通信に対応する2つのアンテナを有するように構成されている。具体的には、図4に示すように、第1のアンテナ1aと第2のアンテ
ナ1bを有している。本実施例における第1のアンテナ1a及び第2のアンテナ1bは、指向性アンテナではなく全方位型のアンテナである。なお、図4は、本実施例において、工作機械10内の閉空間で無線機1とセンサ2との間で無線通信を行った場合の、当該閉空間における定在波の節の形成について異なる2つの状況を、上段の(a)と下段の(b)に示す。上段(a)で示す状況では、各モータの駆動状況やテーブル8の位置等により、第1のアンテナ1aの近傍の領域R3に定在波の節が形成されている。また、下段(b)に示す状況では、各モータの駆動状況やテーブル8の位置等により、第2のアンテナ1bの近傍の領域R4に定在波の節が形成されている。
【0046】
そこで、図4(a)に示すケースでは、2つあるアンテナの内、第2のアンテナ1bを用いて無線機1とセンサ2との間の無線通信が行われるのが好ましい。また、図4(b)に示すケースでは、2つあるアンテナの内、第1のアンテナ1aを用いて無線機1とセンサ2との間の無線通信が行われるのが好ましい。なお、図4に示す定在波の状況は例示であり、これらの状況以外の定在波も当然に存在する。工作機械10の閉空間内における各テーブル8やワークの移動に応じて、閉空間内で形成される定在波の状況は、規則的に、又は非規則的に変化し得る。
【0047】
そこで、本実施例では、図3に示す伝送処理において、所定時間Δtごとに、無線機1とセンサ2との無線通信のために使用するアンテナを、第1のアンテナ1aと第2のアンテナ1bとの間で交互に切り替えてもよい。または、別法として、一方のアンテナを利用して無線通信を行っている際にその受信信号強度が所定の閾値より低くなった場合には、他方のアンテナを利用して無線通信を行うように、使用アンテナを切り替えてもよい。このような使用アンテナの切り替え制御を行うことで、発生が想定される定在波の節による影響を軽減し、以て、閉空間内で無線通信を介してセンサ2による温度情報を好適に収集することが可能となる。
【符号の説明】
【0048】
1・・・・無線機
1a・・・・フェーズドアレイアンテナ、第1のアンテナ
1b・・・・第2のアンテナ
2・・・・センサ
3・・・・制御装置
4、6、7・・・・モータ
5・・・・切削工具
8・・・・テーブル
10・・・・工作機械
11・・・・ボディ
12・・・・扉部
図1
図2
図3
図4