(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一対の前記ヘッド部の間隔は、前記締結部材により前記一対のヘッド部の間を接触させるまでのたわみが生じた場合に、前記対象物に発生する応力が許容値に収まるように定められる、請求項1または2に記載の固定具。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0017】
本実施の形態においては、筒状の対象物の一例として、光電センサなどに用いられる円筒状のファイバヘッドを取り上げて説明するが、ファイバヘッドに限定されることなく、各種の対象物に適用可能である。
【0018】
<A.関連技術>
本実施の形態に係る固定具について説明する前に、本発明の関連技術について説明する。
図1は、本発明の関連技術に係る固定具の例を示す模式図である。
【0019】
図1(A)には、一点止め固定具の一例である固定具200を示す。固定具200には、固定されるべき対象物2を貫通させるための孔部202が設けられている。対象物2は、その中心軸210に沿って孔部202に挿入される。孔部202によって形成される円周の一部は、切り欠かれてスリット204が形成されている。スリット204を介して互いに対向する面の略中心には、スリット204の間の間隔を狭めるための締結部材であるボルトを貫通させるための貫通孔206が設けられている。ボルトはその貫通方向208に沿って挿入され、そのボルトをナットとの間で締め付けることで、固定具200全体に応力が発生する。この応力によって、孔部202の内径が小さくなることで、対象物2との接触力が増大し、対象物2が固定具200に固定される。スリット204を挟んだ位置にある貫通孔206の両側からボルトとナットで締め付ける構成を採用してもよいし、一方の貫通孔206の内径にネジ溝を形成しておき、ボルトと嵌合するナットになっている構成を採用してもよい。
【0020】
図1(B)は、複数点止め固定具の一例である固定具300を示す。固定具300は、上側部材302と下側部材304とからなり、2またはそれ以上のネジなどの締結部材を用いて締め付けることで、これらの部材間を接合する。上側部材302および下側部材304は、固定されるべき対象物2を貫通させるための孔部306が両者を接合した状態で形成されるように構成されている。対象物2は、その中心軸316に沿って孔部306に挿入される。
【0021】
上側部材302および下側部材304を貫通する貫通孔312および314が形成されている。貫通孔312および314の内面には、ネジ溝が形成されている。貫通孔312および314の延伸方向である貫通方向308および310に沿って、それぞれネジが挿入されることで、上側部材302と下側部材304との間の間隔が狭められ、これによって対象物2との接触力が増大し、対象物2が固定具300に固定される。
【0022】
図1(A)に示される一点止めの固定具200、および
図1(B)に示される複数点止めの固定具300のいずれにおいても、締め付けトルクの管理が重要になってくる。すなわち、いずれの固定具においても、固定される対象物2に対して、締結部材による締め付けトルクに相当する応力がそのまま作用することになる。つまり、締結部材に与えられた締め付けトルクがそのまま対象物2に対する荷重となる。したがって、対象物2には、締結部材に対する締め付けトルク以上の剛性が要求される。対象物2に対に対して、その剛性を超える応力(締め付けトルク)を与えてしまうと、対象物2が破損するため、トルクレンチなどを用いた、締め付けトルクの管理が必要である。
【0023】
一方で、対象物2の外径などには、製造バラツキによるある程度の誤差(公差)が存在する。仮に、締め付けトルクを管理したとしても、公差が大きければ、対象物2に対して課題な応力が生じることになる。また、
図1(A)に示される一点止めの固定具200では、孔部202の内径は、スリット204の幅に応じた量しか変位できず、その変位量は相対的に小さいので、公差の小さな対象物2だけを固定することしかできない。また、複数点止めの固定具300では、貫通孔312および314のそれぞれを貫通する締結部材に与える締め付けトルクを略同じにしておかなければ、対象物2に対する荷重がアンバランスになる。
【0024】
以上のように、関連技術に係る固定具には、対象物2に対する過大な応力が生じる可能性、および、許容される公差の大きさについての制限といった課題が存在する。
【0025】
例えば、ファイバヘッドは、その被覆を樹脂加工(典型的には、テフロン(登録商標)加工)されている場合があり、このような樹脂加工されたファイバヘッドの外径は、バラツキが大きい。例えば、
図1(B)に示すような複数点止めの固定具300を用いた場合には、外径が公差内の最大値となっている対象物2については、締め付け過ぎる(過大な応力が与えられる)という課題が生じ得、一方、外径が公差内の最小値となっている対象物2については、十分に締め付けることができない(固定できない)という課題が生じ得る。
【0026】
本実施の形態に係る固定具は、上述のような関連技術における課題を克服し、ある程度の公差を有する筒状の対象物2であっても、対象物2を損傷させることなく、かつ、適切に固定することを目的とする。
【0027】
<B.基礎検討>
図2は、本実施の形態に係る固定具の各部の大きさを検討するための構造モデルを示す模式図である。
図2(A)には、一点止め固定具(典型的には、
図1(A)に示す固定具200)の構造を単純化した構造モデルを示す。
図1(A)に示す固定具200に示すように、孔部202によって形成される円周の一部にスリット204(切り欠き部)が形成されており、貫通孔206にボルト(締結部材)を貫通させて締め付けることで、対象物2を固定する構成は、
図2(A)に示すような、単純な片持ち梁としてモデル化することができる。すなわち、対象物2に生じる応力は、片持ち梁のモデルにおける応力計算に従って算出できる。
【0028】
まず、固定具に生じる全荷重Wは、規定の締め付けトルクでボルト(締結部材)を締結したときの力Pと一致する。すなわち、以下の(1)式が成立する。
【0029】
W=P …(1)
B面に沿った反力Rbは、B面に沿ったせん断力Qbと同じ大きさで、かつその作用方向が反対になる。また、B面に沿った反力Rbは、規定の締め付けトルクでボルト(締結部材)を締結したときの力Pとも一致する。すなわち、以下の(2)式が成立する。
【0030】
Rb=−Qb=P …(2)
図2(A)に示される構造モデルでは、B面から距離xの位置に対象物2が配置されるとする。すると、対象物2が配置される位置(B面から距離xの位置)における曲げモーメントMxは、規定の締め付けトルクでボルト(締結部材)を締結したときの力PとB面からの距離xとの積に比例する。同様に、A点における曲げモーメントMaは、規定の締め付けトルクでボルト(締結部材)を締結したときの力Pと、B面とA点との間の距離bとの積に比例する。すなわち、以下の(3)式および(4)式が成立する。
【0031】
Mx=−P×x …(3)
Ma=−P×l …(4)
そして、B面から距離xの位置に生じる回転角θxおよびたわみδx、ならびに、A点に生じる回転角θAおよびたわみδAは、A点における曲げモーメントMa(=−P×l)、ヤング率E、断面二次モーメントIを用いて、梁のたわみ計算式に従って、以下の(5)式〜(8)式のように算出できる。
【0032】
θA=−(P×l
2)/(2×E×I) …(5)
θx=−(P×(l
2−x
2))/(2E×I) …(6)
δx=((P×l
3)/(3×E×I))×(1−(3×x/2×l)+(x
3/2×l
3) …(7)
δA=(Pl
3)/(3×E×I) …(8)
B面から距離xの位置で対象物2が固定されるとすると、対象物2の公差とたわみδxとの関係は、以下の2つの場合が存在する。
【0033】
対象物2の公差≦2δx …(9)
対象物2の公差>2δx …(10)
(9)式が成立する場合には、たわみδxは、対象物2の公差の全範囲を含むことになるので、対象物2は固定されることになる。これに対して、(10)式が成立する場合には、対象物2の公差外にたわみδxがあるため、対象物2が固定されないことになる。つまり、対象物2を固定するためには、(9)式が成立するように各部の大きさなどを設計する必要がある。
【0034】
一方で、力Pにより点Aがたわみ、点A同士が接触すると、対象物2にはそれ以上の応力が生じない。すなわち、点A間の間隔aは、対象物2に生じる応力の最大値を規定する。より具体的には、以下の(11)式に示す条件が必要になる。
【0035】
2δA=a …(11)
上述の(9)式および(11)式の両方を満足する長さlおよび間隔aを決定することで、対象物2に公差が存在する場合であっても、対象物2を十分に固定できるとともに、対象物2に対する固定トルクが必要以上に生じないような位置関係を決定できる。
【0036】
但し、
図2(A)に示す構造モデルは、
図1(A)に示す固定具200に対応するものであり、固定可能な対象物2に許容される公差を大きくできないという課題がある。すなわち、対象物2の公差を小さくすると、公差のバラツキが大きな対象物2を固定できなくなる。
【0037】
そこで、本実施の形態に係る固定具では、対象物2と接触する部分が、よりたわみやすいように設計することで、許容される公差の範囲を拡大する。より具体的には、対象物2を固定する部分の断面二次モーメントを小さくすることにより、より多くのたわみを発生させ、それによって、変形し易くなるようにする。
【0038】
例えば、
図2(B)に示されるような構造モデルを採用することで、対象物2と接触する部分をよりたわませやすくできる。
図2(B)に示されるように、梁の部分の肉厚を1/2にすることで、
図2(A)の構造モデルに比較して、B面から距離xの位置に生じるたわみδxは、8倍になるので、許容可能な対象物2の公差の範囲は8倍に拡大できる。
【0039】
一方で、梁の全体を均一に薄くすること最良の解決手法ではなく、対象物2を固定する部分のみを柔軟な状態にしつつ、それ以外の部分はあまり変形しないような形状が好ましい。そのため、後述の
図3および
図5に例示されるように、本実施の形態に係る固定具では、対象物2を固定する部分をたわみ易くするようにその肉厚を薄くするとともに、それ以外の部分については、変形し難いように肉厚を大きくしている。
【0040】
すなわち、本実施の形態に係る固定具は、その表面が樹脂加工された円筒状のファイバヘッドといった、外径に生じるバラツキが相対的に大きな対象物2を適切に固定することを目的としており、対象物2を挟み込む部分に生じるたわみ量を増大させるとともに、対象物2に与えられる応力が集中しないような構成を採用する。このようなたわみやすい構成として、(1)一対の梁の部分が規定されるスリットの長さを対象物2に生じ得る公差に応じて設定するとともに、(2)梁の部分の肉厚を他の部分より小さくするという手法を採用する。
【0041】
以下、本実施の形態に係る固定具の具体的な構造例について説明する。
<C.本実施の形態に係る固定具の構造例>
本実施の形態に係る固定具は、筒状の対象物を固定するために用いられる。対象物の断面形状は、円筒に限定されることなく、多角形(例えば、四角形、六角形、八角形など)であってもよいし、直線と曲線とを組み合わせた形状であってもよい。
【0042】
また、本実施の形態に係る固定具は、典型的には、同一の金属で構成されている。耐腐食性や熱安定性などを考慮して、ステンレスや各種合金などで構成される。但し、使用環境、コスト、上述した条件の充足性などを考慮して、適切な材料を選択すればよい。非金属材料を採用してもよいし、複数の材質を組み合わせて構成してもよい。
【0043】
(c1:第1の構造例)
図3は、本実施の形態に係る固定具の第1の構造例を示す模式図である。
図3(A)は、固定具100の右側斜視図を示し、
図3(B)は、固定具100の左側斜視図を示し、
図3(C)は、固定具100の平面断面図を示す。
図4は、
図3に示す固定具の一使用形態を示す模式図である。
【0044】
図3(A)〜
図3(C)を参照して、固定具100は、基部102と、基部102上に設けられた一対の保持部110,120とからなる。保持部110,120は、対象物2(不図示:
図4参照)と接触して対象物2を挟持するための挟持部112,122と、挟持部112,122に対して基部102が存在する側とは反対側に設けられたヘッド部114,124とを含む。ヘッド部114,124には、一対の保持部110,120の間隔を調整するための締結部材(典型的には、ボルト・ナットやネジ)が貫通するための貫通孔118,128が設けられている。但し、貫通孔118,128の一方の内径にネジ溝を形成しておき、その一方をボルトと嵌合するナットとして構成してもよい。
【0045】
一対の保持部110,120が対向することで、対象物2と接触する接合孔108が形成される。
図3において、対象物2は、Z軸方向に沿って接合孔108に挿入されることになる。また、締結部材は、Y軸方向に沿って貫通孔118,128を貫通することになる。
【0046】
ここで、
図4を参照して、固定具100は、装置や土台などに位置決めされており、さらに対象物2(この例では、ファイバヘッド)が固定具100によって固定される。固定具100による対象物2の固定は、締結部材400(この例では、ネジ)によってヘッド部間を締め付けることで、対象物2に対する応力を発生させる。なお、
図4に示される使用形態において、固定具100は、ファイバヘッド固定具あるいはシャフトホルダと称さされる。
【0047】
固定具100が固定する対象物2としては、ファイバヘッドなどの円筒状の物体が想定されているので、接合孔108は、その円筒状の物体の外形に適合するように形成されている。すなわち、固定具100の挟持部112,122は、対象物2の外周面の形状に適合するように構成されることが好ましい。なお、対象物の断面形状が円筒ではなく、多角形や直線と曲線とを組み合わせた形状である場合には、挟持部112,122は、その対象物2の形状に応じて形成される。
図3および
図4を参照して、固定具100においては、締結部材400により与えられる変形に対する挟持部112,122の剛性が当該変形に対するヘッド部114,124の剛性より小さくなるように、挟持部112,122およびヘッド部114,124は構成される。すなわち、締結部材400による締め付けによって生じる応力が対象物2に集中しないように、ヘッド部114,124自体の変形は相対的に少なくなるように、かつ、挟持部112,122自体の変形は相対的に大きくなるように、設計される。
【0048】
より具体的には、固定具100では、対象物2の軸方向(Z軸方向)に直交する面(XY平面)において、挟持部112,122の肉厚D1は、挟持部112,122からそれぞれ延びるヘッド部114,124の肉厚D2に比較して小さくなるように構成されている。この肉厚の違いによって、挟持部112,122の方が、ヘッド部114,124に比較してよりたわみやすい構造となっている。すなわち、挟持部112の肉厚を対応するヘッド部114の肉厚に比較して小さくし、かつ、挟持部122の肉厚を対応するヘッド部124の肉厚に比較して小さくすれば、たわみやすい構造を実現できる。但し、挟持部112,122の肉厚を互いに同じにする、すなわち一対の保持部110,120を対称的に配置することが好ましい。
【0049】
一設計例として、接合孔108の内径がφ5.3mmである場合において、挟持部112,122の肉厚D1は1.5mmに設計され、ヘッド部114,124の肉厚D2は4.05mmに設計される。
【0050】
また、固定具100では、対象物2の軸方向(Z軸方向)に直交する面(XY平面)における、基部102から保持部110,120の端部までの長さlは、対象物2に規定されている公差に応じて定められる。
図2を参照して説明したように、本実施の形態に係る固定具100は、締結部材400による外力によってたわみを生じることになるが、このたわみの量は、一対の梁、すなわち保持部110,120の長さに依存する。すなわち、基部102から保持部110,120の端部までの長さlが長いほど、より多くのたわみが発生することになる。たわみ量は、固定可能な対象物2の断面径に影響を与えるので、対象物2に規定されている公差(設計公差や製造公差)を考慮して、長さlを決定しておく必要がある。
【0051】
より具体的には、上述した(9)式、すなわち「対象物2の公差≦2δx」(δx:基部102から距離xの位置に生じるたわみ)の関係が成立するように、設計する必要がある。言い換えれば、(9)式は「(1/2×対象物2の公差)≦δx」と等価であるので、基部102から保持部110,120の端部までの距離は、対象物2が配置された位置に生じるたわみ量が対象物2の公差の1/2以上になるように定められる。
【0052】
また、固定具100では、対象物2の軸方向(Z軸方向)に直交する面(XY平面)における、締結部材400による外力が与えられていないときの一対のヘッド部114,124の間隔aは、対象物2に許容される応力に応じて定められている。すなわち、一対のヘッド部114,124の間隔aは、締結部材400により一対のヘッド部114,124の間を接触させることのできるたわみを生じさせたときに、対象物2に発生する応力が許容値に収まるように設計される。一設計例としては、上述した(11)式、つまり「2δA=ヘッド部114,124の間隔a」(δA:ヘッド部114,124の端部に生じるたわみ)の関係が成立した場合に対象物2に与えられる応力が、対象物2に許容される応力限度を超えないように設計する必要がある。
【0053】
基部102と挟持部112,122の一端とが一体的に構成されていてもよいが、
図3に示す固定具100においては、固定具100のX方向をコンパクト化するために、基部102と挟持部112,122との間に、延伸部116,126が設けられている。すなわち、保持部110,120は、挟持部112,122と基部102との間に設けられた延伸部116,126をさらに含む。延伸部116,126の肉厚は、延伸部116,126にそれぞれつながる挟持部112,122の肉厚と略同一に設計されていることが好ましい。
【0054】
延伸部116,126を設けることで、延伸部116,126の間に空隙106が形成される。空隙106によって、保持部110,120は、よりたわみ易くなる。つまり、保持部110,120がたわむための支点は、保持部110,120と基部102との境界部分であり、基部102から保持部110,120の端部までの長さlを長くするほど、より多くのたわみを発生させることができる。つまり、延伸部116,126を設けることで、挟持部112,122の長さを変化させずとも、より多くのたわみを挟持部112,122に発生させることができる。
【0055】
また、より多くのたわみを挟持部112,122に発生させるために、力点である、ヘッド部114,124に設けられた貫通孔118,128の位置を、基部102から可能な限り離すことが好ましい。すなわち、貫通孔118,128は、ヘッド部114,124において、基部102が存在する側とは反対側の端により近い位置に設けられることが好ましい。つまり、貫通孔118,128を可能な限り上側に形成することで、対象物2の許容される公差を拡大することができる。
【0056】
以上のような構造を有する固定具100によれば、比較的大きな公差を有する対象物2であっても、安定して固定することができるとともに、関連技術に開示される固定具のように、対象物2に対して過大な締め付けトルクを与えて破損させるような可能性を低減できる。
【0057】
(c2:第2の構造例)
上述の第1の構造例においては、対象物2の外周面の形状に適合するように構成されている接合孔108を有する固定具100について例示したが、より簡素化した構成を採用してもよい。
【0058】
図5は、本実施の形態に係る固定具の第2の構造例を示す模式図である。
図5(A)は、固定具150の右側斜視図を示し、
図5(B)は、固定具150の左側斜視図を示し、
図5(C)は、固定具150の平面断面図を示す。
【0059】
図5(A)〜
図5(C)を参照して、固定具150は、基部152と、基部152上に設けられた一対の保持部160,170とからなる。保持部160,170は、対象物2(不図示)と接触して対象物2を挟持するための挟持部162,172と、挟持部162,172に対して基部152が存在する側とは反対側に設けられたヘッド部164,174とを含む。ヘッド部164,174には、一対の保持部160,170の間隔を調整するための締結部材(典型的には、ボルト・ナットやネジ)が貫通するための貫通孔168,178が設けられている。但し、貫通孔168,178の一方の内径にネジ溝を形成しておき、その一方をボルトと嵌合するナットとして構成してもよい。
【0060】
一対の保持部160,170が対向することで、対象物2と接触する接合溝158が形成される。
図5において、対象物2は、Z軸方向に沿って接合溝158に挿入されることになる。また、締結部材は、Y軸方向に沿って貫通孔168,178を貫通することになる。
図5に示す固定具150においては、接合溝158の幅(Y軸方向の空隙長さ)が相対的に小さいので、相対的に外径の小さな対象物2を固定することが想定されている。
【0061】
固定具150においても、締結部材400により与えられる変形に対する挟持部162,172の剛性が当該変形に対するヘッド部164,174の剛性より小さくなるように、挟持部162,172およびヘッド部164,174は構成される。すなわち、締結部材400による締め付けによって生じる応力が対象物2に集中しないように、ヘッド部164,174自体の変形は相対的に少なくなるように、かつ、挟持部162,172自体の変形は相対的に大きくなるように、設計される。
【0062】
より具体的には、固定具150では、対象物2の軸方向(Z軸方向)に直交する面(XY平面)において、挟持部162,172の肉厚D1は、挟持部162,172からそれぞれ延びるヘッド部164,174の肉厚D2に比較して小さくなるように構成されている。この肉厚の違いによって、挟持部162,172の方が、ヘッド部164,174に比較してよりたわみやすい構造となっている。すなわち、挟持部162の肉厚を対応するヘッド部164の肉厚に比較して小さくし、かつ、挟持部172の肉厚を対応するヘッド部174の肉厚に比較して小さくすれば、たわみやすい構造を実現できる。但し、挟持部162,172の肉厚を互いに同じにする、すなわち一対の保持部160,170を対称的に配置することが好ましい。
【0063】
また、固定具150においても、対象物2の軸方向(Z軸方向)に直交する面(XY平面)における、基部152から保持部160,170の端部までの長さlは、対象物2に規定されている公差に応じて定められる。長さlの決定手法については、固定具100に関して説明した内容と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0064】
また、固定具150においても、対象物2の軸方向(Z軸方向)に直交する面(XY平面)における、締結部材400による外力が与えられていないときの一対のヘッド部164,174の間隔aは、対象物2に許容される応力に応じて定められている。すなわち、一対のヘッド部164,174の間隔aは、締結部材400により一対のヘッド部164,174の間を接触させることのできるたわみを生じさせたときに、対象物2に発生する応力が許容値に収まるように設計される。一対のヘッド部164,174の間隔aの決定手法については、固定具100に関して説明した内容と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0065】
また、より多くのたわみを挟持部162,172に発生させるために、力点である、ヘッド部164,174に設けられた貫通孔168,178の位置を、基部152から可能な限り離すことが好ましい。すなわち、貫通孔168,178は、ヘッド部164,174において、基部152が存在する側とは反対側の端により近い位置に設けられることが好ましい。つまり、貫通孔168,178を可能な限り上側に形成することで、対象物2の許容される公差を拡大することができる。
【0066】
以上のような構造を有する固定具150によれば、比較的大きな公差を有する対象物2であっても、安定して固定することができるとともに、関連技術に開示される固定具のように、対象物2に対して過大な締め付けトルクを与えて破損させるような可能性を低減できる。
【0067】
(c3:シミュレーション結果)
上述の
図3および
図5にそれぞれ示す固定具100および固定具150について、それぞれの形状に基づくシミュレーションを行なった。
図6は、
図3に示す本実施の形態に係る固定具100についてのシミュレーション結果の一例を示す図である。
図7は、
図5に示す本実施の形態に係る固定具150についてのシミュレーション結果の一例を示す図である。
図6および
図7に示すシミュレーションにおいては、対象物2が固定される位置を想定し、上部を締め付けたときに各部に生じる、応力および変位を算出した。
図6(A)および
図7(A)は応力分布を示し、
図6(B)および
図7(B)は変位分布を示す。
【0068】
図6(A)に示すシミュレーション結果によれば、
図3に示す固定具100では、対象物2と接触して、対象物2を固定する部分以外の部分により大きな応力が発生していることがわかる。また、
図6(B)に示すシミュレーション結果によれば、対象物2と接触する上側部分に相対的に大きな変位が生じており、これによって、対象物2に生じる応力を緩和できているものと考えられる。
【0069】
図3に示す固定具100では、対象物2と保持部110,120との間は、一種の面接触となる。
図6に示すシミュレーション結果においては、対象物2を固定している部分に生じた応力は、固定具内に生じた応力の最大値の約62%に抑制されており、対象物2に対して過度に応力が与えられるという現象を回避できていることがわかる。
【0070】
図7(A)に示すシミュレーション結果によれば、
図5に示す固定具150では、対象物2と接触して、対象物2を固定する部分以外の部分により大きな応力が発生していることがわかる。但し、
図3に示す固定具100に比較して、
図5に示す固定具150では、対象物2との接触部分の面積が相対的に小さいので、対象物2との接触部分にやや大きな応力が発生している。また、
図7(B)に示すシミュレーション結果によれば、対象物2と接触する上側部分に相対的に大きな変位が生じており、これによって、対象物2に生じる応力を緩和できているものと考えられる。
【0071】
図3に示す固定具150では、対象物2と保持部160,170との間は、一種の線接触となる。
図7に示すシミュレーション結果においては、対象物2を固定している部分に生じた応力は、固定具内に生じた応力の最大値の約75%に抑制されており、対象物2に対して過度に応力が与えられるという現象を回避できていることがわかる。但し、
図6に示すシミュレーション結果に比較して、最大応力を基準とした、対象物2と接触する部分に生じた応力は相対的に大きくなっており、これは、対象物2に接触する部分の面積が減少したことに起因するものと考えられる。すなわち、例えば、円筒状の対象物2については、
図3に示す固定具150を用いるのがより好ましいといえる。
【0072】
以上のシミュレーション結果によれば、いずれの固定具についても、締め付けトルクが与えられる部分、すなわち形状変化させたい部分については十分に変形する一方で、対象物2と接触する部分、つまり形状変化させたくない部分については変形量が相対的に小さいことがわかる。
【0073】
<D.利点>
本実施の形態に係る固定具を用いることで、ある程度の公差を有する筒状の対象物であっても、当該対象物を損傷させることなく、かつ、適切に固定できる。上述のような構造を採用することで、外径のバラツキが相対的に大きな筒状の対象物に対して、一点の締結部材で当該対象物を固定できる。すなわち、締結部材を締め付けることで、対象物の外周を固定する部分が変形することで対象物に接触して固定する一方で、締結部材に対して規定の締め付けトルクが与えられると、ヘッド部同士が接触し、対象物に過大な応力が発生しないようになっている。
【0074】
上述のような構造を採用することで、締結部材に対して基準の締め付けトルク以上の力が加わっても、ヘッド部同士が接触して、対象物に必要以上の応力が与えられることを防止できる。対象物に与えられる応力を制限できるので、柔らかい対象物も適切に固定することができる。また、固定具のヘッド部に生じる変形量は、締結部材に対する締め付けトルクの大きさに比例するので、ヘッド部の間隔(スリット間隔)を適切に設計することで、トルクレンチなどの締め付けトルクの管理をする手間が省ける。
【0075】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。