(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ゴム質重合体(r)の存在下に少なくとも芳香族ビニル系単量体(a1)60〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(a2)20〜40重量%を含有するビニル系単量体混合物(a)をグラフト共重合してなるグラフト共重合体(A)20〜40重量部に、少なくとも芳香族ビニル系単量体(b1)およびシアン化ビニル系単量体(b2)を含有するビニル系単量体混合物(b)を共重合してなるビニル系共重合体(B)60〜80重量部を配合する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
前記ビニル系共重合体(B)として、少なくとも芳香族ビニル系単量体(b1)55〜65重量%およびシアン化ビニル系単量体(b2)35〜45重量%を含有するビニル系単量体混合物(b−1)を共重合してなり、重量平均分子量が100,000〜150,000である高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)と、少なくとも芳香族ビニル系単量体(b1)65重量%を超え75重量%以下およびシアン化ビニル系単量体(b2)25重量%以上35重量%未満含有するビニル系単量体混合物(b−2)を共重合してなり、重量平均分子量が250,000〜350,000である高分子量ビニル系共重合体(B−2)とを組み合わせる熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
前記ビニル系共重合体(B)を構成する、前記高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)と高分子量ビニル系共重合体(B−2)との配合比(重量比)を、(B−1)/(B−2)=33/67〜67/33とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、後述するグラフト共重合体(A)に後述するビニル系共重合体(B)を配合してなる。グラフト共重合体(A)を配合することにより、熱可塑性樹脂組成物の流動性を向上させ、成形品の耐衝撃性を向上させることができる。ビニル系共重合体(B)を配合することにより、熱可塑性樹脂組成物の流動性を向上させ、成形品の耐薬品性を向上させ、薬品接触時の暗所黄変を低減することができる。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成するグラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(r)の存在下に少なくとも芳香族ビニル系単量体(a1)60〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(a2)20〜40重量%を含有するビニル系単量体混合物(a)をグラフト共重合して得られるものである。ビニル系単量体混合物(a)は、前記(a1)、(a2)と共重合可能な他の単量体をさらに含有してもよい。
【0016】
ゴム質重合体(r)としては、例えば、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)(SBR)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)(NBR)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、エチレン−プロピレンラバー、ポリ(エチレン−イソプレン)、ポリ(エチレン−アクリル酸メチル)、天然ゴムなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。なかでも、耐衝撃性をより向上させる観点から、ポリブタジエン、SBR、NBR、エチレン−プロピレンラバー、天然ゴムが好ましい。
【0017】
また、グラフト共重合体(A)を構成するゴム質重合体(r)および後述するビニル系単量体混合物(a)の総量に対して、ゴム質重合体(r)の含有量は、20〜80重量%が好ましい。ゴム質重合体(r)の含有量が20重量%以上であれば、成形品の耐衝撃性をより向上させることができる。ゴム質重合体(r)の含有量は35重量%以上がより好ましい。一方、ゴム質重合体(r)の含有量が80重量%以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の成形性をより向上させることができる。ゴム質重合体(r)の含有量は60重量%以下がより好ましい。
【0018】
ゴム質重合体(r)の重量平均粒子径は、特に制限はないが、成形品の耐衝撃性を向上させる観点から、0.1μm以上が好ましく、0.15μm以上がより好ましい。一方、成形品の耐衝撃性、流動性を向上させる観点から、1.5μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。また、成形品の剛性、耐衝撃性をより向上させる観点から、重量平均粒子径が0.5〜1.2μmである比較的大粒径のSBRと重量平均粒子径が0.1〜0.3μmである比較的小粒径のポリブタジエンを併用することが好ましい。
【0019】
ここで、ゴム質重合体(r)の重量平均粒子径は、ゴム質重合体ラテックスを水媒体で希釈、分散させ、レーザ散乱回折法粒度分布測定装置“LS 13 320”(ベックマン・コールター(株))により測定した粒子径分布から算出することができる。
【0020】
芳香族ビニル系単量体(a1)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレンなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、熱可塑性樹脂組成物の流動性および成形品の剛性をより向上させる観点から、スチレンが好ましい。
【0021】
ビニル系単量体混合物(a)中の芳香族ビニル系単量体(a1)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の流動性および成形品の剛性をより向上させる観点から、ビニル系単量体混合物(a)の合計100重量%中、60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。一方、ビニル系単量体混合物(a)中の芳香族ビニル系単量体(a1)の含有量は、流動性、成形品の耐衝撃性を向上させる観点から、80重量%以下が好ましく、75重量%以下がより好ましい。
【0022】
シアン化ビニル系単量体(a2)としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、成形品の耐薬品性および耐衝撃性をより向上させる観点から、アクリロニトリルが好ましい。
【0023】
ビニル系単量体混合物(a)中のシアン化ビニル系単量体(a2)の含有量は、成形品の耐薬品性および耐衝撃性をより向上させる観点から、ビニル系単量体混合物(a)の合計100重量%中、20重量%以上が好ましく、25重量%以上がより好ましい。一方、ビニル系単量体混合物(a)中のシアン化ビニル系単量体(a2)の含有量は、成形品の色調を向上させる観点から、40重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい。
【0024】
また、これらと共重合可能な他の単量体は、前述の芳香族ビニル系単量体(a1)、シアン化ビニル系単量体(a2)以外のビニル系単量体であって、本発明の効果を損なわないものであれば特に制限はない。具体的には、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、不飽和脂肪酸、アクリルアミド系単量体、マレイミド系単量体などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0025】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては、例えば、炭素数1〜6のアルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステルが好ましい。炭素数1〜6のアルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステルは、さらに水酸基やハロゲン基などの置換基を有してもよい。炭素数1〜6のアルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸またはメタクリル酸を示す。
【0026】
不飽和脂肪酸としては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
【0027】
アクリルアミド系単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0028】
マレイミド系単量体としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ヘキシルマレイミド、N−オクチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられる。
【0029】
本発明において、グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の重量平均分子量は、特に制限はないが、50,000〜300,000が好ましい。グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の重量平均分子量が50,000以上であれば、成形品の耐薬品性をより向上させることができる。一方、グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の重量平均分子量が300,000以下であれば、流動性をより向上させることができる。100,000以下がより好ましい。
【0030】
アセトン可溶分の重量平均分子量が50,000〜300,000の範囲にあるグラフト共重合体(A)は、例えば、後述する開始剤や連鎖移動剤を用いること、重合温度を後述の好ましい範囲にすることなどにより、容易に製造することができる。
【0031】
本発明において、グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の分散度は、特に制限はないが、2.0〜2.5が好ましい。グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の分散度が2.0〜2.5であれば、グラフト共重合体(A)を容易に製造することができ、流動性、成形品の耐薬品性をより向上させることができる。
【0032】
アセトン可溶分の分散度が2.0〜2.5の範囲にあるグラフト共重合体(A)は、例えば、後述する開始剤や連鎖移動剤を用いること、重合温度を後述の好ましい範囲にすることになどにより、容易に製造することができる。
【0033】
ここで、グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の重量平均分子量および分散度は、グラフト共重合体(A)からアセトン不溶分を濾過した濾液をロータリーエバポレーターで濃縮することにより採取したアセトン可溶分約0.03gをテトラヒドロフラン約15gに溶解した約0.2重量%の溶液を用いて測定したGPCクロマトグラムから、ポリスチレンを標準物質として換算することにより求めることができる。なお、GPC測定は、下記条件により測定することができる。
測定装置:Waters2695
カラム温度:40℃
検出器:RI2414(示差屈折率計)
キャリア溶離液流量:0.3ml/分(溶媒:テトラヒドロフラン)
カラム:TSKgel SuperHZM−M(6.0mmI.D.×15cm)、TSKgel SuperHZM−N(6.0mmI.D.×15cm)直列(いずれも東ソー)。
【0034】
グラフト共重合体(A)のグラフト率には特に制限はないが、成形品の耐衝撃性を向上させる観点から、10〜100%が好ましい。
【0035】
ここで、グラフト共重合体(A)のグラフト率は、以下の方法により求めることができる。まず、グラフト共重合体(A)約1g(m:サンプル重量)にアセトン80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8000r.p.m(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、アセトン不溶分を得る。得られたアセトン不溶分を80℃で5時間減圧乾燥させ、その重量(n)を測定し、下記式よりグラフト率を算出する。ここで、Xはグラフト共重合体(A)のゴム質重合体含有率(%)である。
グラフト率(%)={[(n)−((m)×X/100)]/[(m)×X/100]}×100。
【0036】
本発明において、グラフト共重合体(A)の製造方法に特に制限はなく、乳化重合法、懸濁重合法、連続塊状重合法、溶液連続重合法等の任意の方法を用いることができる。乳化重合法または塊状重合法が好ましく、ゴム状重合体(r)の粒子径を所望の範囲に容易に調整することができること、重合時の除熱により重合安定性を容易に調整することができることから、乳化重合法がより好ましい。
【0037】
グラフト共重合体(A)を乳化重合法により製造する場合、ゴム質重合体(r)とビニル系単量体混合物(a)の仕込み方法は、特に限定されない。例えば、これら全てを初期一括仕込みしてもよいし、共重合体組成の分布を調整するために、ビニル系単量体混合物(a)の一部を連続的に仕込んでもよいし、ビニル系単量体混合物(a)の一部または全てを分割して仕込んでもよい。ここで、ビニル系単量体混合物(a)の一部を連続的に仕込むとは、ビニル系単量体混合物(a)の一部を初期に仕込み、残りを経時的に連続して仕込むことを意味する。また、ビニル系単量体混合物(a)の一部または全てを分割して仕込むとは、ビニル系単量体混合物(a)の一部または全てを、初期仕込みより後の時点で仕込むことを意味する。
【0038】
グラフト共重合体(A)を乳化重合法により製造する場合、乳化剤として各種界面活性剤を添加してもよい。各種界面活性剤としては、カルボン酸塩型、硫酸エステル塩型、スルホン酸塩型などのアニオン系界面活性剤が特に好ましく使用される。これらを2種以上組み合わせてもよい。なお、ここで言う塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0039】
カルボン酸塩型の乳化剤としては、例えば、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ラウリル酸塩、ミスチリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、ロジン酸塩、ベヘン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩などが挙げられる。
【0040】
硫酸エステル塩型の乳化剤としては、例えば、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩などが挙げられる。
【0041】
スルホン酸塩型の乳化剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩縮合物などが挙げられる。
【0042】
グラフト共重合体(A)を乳化重合法により製造する場合、必要により開始剤を使用してもよい。開始剤としては、過酸化物、アゾ系化合物、水溶性の過硫酸カリウムなどが挙げられる。これらを2種以上組み合わせてもよい。また、開始剤は、レドックス系でも使用される。
【0043】
過酸化物のとしては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルイソプロピルカルボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオクテート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロへキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロへキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどが挙げられる。なかでも、クメンハイドロパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロへキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロへキサンが特に好ましく用いられる。
【0044】
アゾ系化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、1,1’−アゾビスシクロヘキサン−1−カーボニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、1−t−ブチルアゾ−2−シアノブタン、2−t−ブチルアゾ−2−シアノ−4−メトキシ−4−メチルペンタンなどが挙げられる。なかでも、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビスシクロヘキサン−1−カーボニトリルが特に好ましく用いられる。
【0045】
グラフト共重合体(A)を製造するために用いられる開始剤の添加量は、特に制限はないが、グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の重量平均分子量および分散度を前述の範囲に調整しやすいという観点からゴム質重合体(r)とビニル系単量体混合物(a)の合計100重量部に対して、0.1〜0.5重量部が好ましい。
【0046】
グラフト共重合体(A)を製造する場合、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤を使用することにより、グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の重量平均分子量、分散度、グラフト率を所望の範囲に容易に調整することができる。
【0047】
連鎖移動剤としては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタンなどのメルカプタン、テルピノレンなどのテルペンなどが挙げられる。これらを2種以上組み合わせてもよい。なかでも、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0048】
グラフト共重合体(A)を製造するために用いられる連鎖移動剤の添加量は、特に制限はないが、グラフト共重合体(A)の重量平均分子量および分散度、グラフト率を前述の範囲に調整しやすいという観点から、ゴム質重合体(r)とビニル系単量体混合物(a)の合計100重量部に対して0.05重量部以上が好ましく、0.2重量部以上がより好ましい。一方、0.7重量部以下が好ましく、0.6重量部以下がより好ましい。
【0049】
グラフト共重合体(A)を乳化重合法により製造する場合、重合温度に特に制限はないが、グラフト共重合体(A)の重量平均分子量および分散度、グラフト率を前述の範囲に調整しやすいという観点、乳化安定性の観点から40〜70℃が好ましい。
【0050】
グラフト共重合体(A)を乳化重合法により製造する場合、グラフト共重合体ラテックスに凝固剤を添加して、グラフト共重合体(A)を回収することが一般的である。凝固剤としては、酸または水溶性塩が好ましく用いられる。
【0051】
酸としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸などが挙げられる。水溶性塩としては、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムナトリウムなどが挙げられる。これらを2種以上組み合わせてもよい。成形品の色調を向上させる観点からは、熱可塑性樹脂組成物中に乳化剤を残存させないことが好ましく、乳化剤としてアルカリ脂肪酸塩を用い、酸凝固することが好ましい。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成するビニル系共重合体(B)は、少なくとも芳香族ビニル系単量体(b1)およびシアン化ビニル系単量体(b2)を含有するビニル系単量体混合物(b)を共重合して得られるものである。ビニル系単量体混合物(b)は、前記(b1)、(b2)と共重合可能な他の単量体をさらに含有してもよい。
芳香族ビニル系単量体(b1)としては、芳香族ビニル系単量体(a1)として例示したものが挙げられ、スチレンが好ましい。
【0053】
ビニル系単量体混合物(b)中の芳香族ビニル系単量体(b1)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の流動性および成形品の剛性をより向上させる観点から、ビニル系単量体混合物(b)の合計100重量%中、55重量%以上が好ましく、60重量%以上がより好ましく、62重量%以上がさらに好ましい。一方、ビニル系単量体混合物(b)中の芳香族ビニル系単量体(b1)の含有量は、流動性、成形品の耐衝撃性をより向上させる観点から、75重量%以下が好ましく、72重量%以下がより好ましく、70重量%以下がさらに好ましい。
【0054】
シアン化ビニル系単量体(b2)としては、シアン化ビニル系単量体(a2)として例示したものが挙げられ、アクリロニトリルが好ましい。
【0055】
ビニル系単量体混合物(b)中のシアン化ビニル系単量体(b2)の含有量は、成形品の耐薬品性、耐衝撃性をより向上させ、薬品接触時の暗所黄変をより低減する観点から、ビニル系単量体混合物(b)の合計100重量%中、25重量%以上が好ましく、28重量%以上がより好ましく、30重量%以上がさらに好ましい。一方、ビニル系単量体混合物(b)中のシアン化ビニル系単量体(b2)の含有量は、耐衝撃性をより向上させる観点から、45重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、38重量%以下がさらに好ましい。
【0056】
また、これらと共重合可能な他の単量体は、前述の芳香族ビニル系単量体(b1)、シアン化ビニル系単量体(b2)以外のビニル系単量体であって、本発明の効果を損なわないものであれば特に制限はない。具体的には、ビニル系単量体混合物(a)において他の単量体として例示したものが挙げられる。
【0057】
本発明において、ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量は、特に制限はないが、100,000〜350,000が好ましい。160,000〜250,000がより好ましい。ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量が100,000以上であれば、成形品の耐薬品性をより向上させ、薬品接触時の暗所黄変をより低減することができる。16,000以上がより好ましい。一方、ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量が350,000以下であれば、流動性をより向上させることができる。25,000以下がより好ましい。
【0058】
本発明において、ビニル系共重合体(B)の分散度は、特に制限はないが、2.0〜3.5が好ましい。ビニル系共重合体(B)の分散度が2.0以上であれば、ビニル系共重合体(B)を容易に製造することができる。2.5以上がより好ましい。一方、ビニル系共重合体(B)の分散度が3.5以下であれば、流動性および成形品の耐薬品性をより向上させ、薬品接触時の暗所黄変をより低減することができる。
【0059】
ここで、ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量および分散度は、ビニル系共重合体(B)約0.03gをテトラヒドロフラン約15gに溶解した約0.2重量%の溶液を用いて、グラフト共重合体(A)と同様に測定することができる。
【0060】
本発明において、ビニル系共重合体(B)として、単量体組成や組成比の異なる単量体混合物(b)を共重合して得られる2種以上の共重合体を用いてもよいし、重量平均分子量の異なる2種以上の共重合体を用いてもよい。例えば、ビニル系共重合体(B)として、後述する高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)と、高分子量ビニル系共重合体(B−2)とを組み合わせてもよい。この場合、2種以上の共重合体を含むビニル系共重合体(B)全体として、単量体混合物(b)の組成比や重量平均分子量が前述の好ましい範囲にあることが好ましい。
【0061】
本発明において、ビニル系共重合体(B)の製造方法に特に制限はなく、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法、溶液重合法等の任意の方法を用いることができる。なかでも、重合制御の容易さ、後処理の容易さおよび生産性の観点から、塊状重合、懸濁重合が好ましい。また、得られる熱可塑性樹脂組成物の流動性、成形品の耐薬品性および色調や、ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量および分散度の調整のしやすさの観点から、懸濁重合法が好ましく用いられる。懸濁重合法により、ビニル系共重合体(B)のスラリーが得られ、次いで、脱水、乾燥を経て、ビーズ状のビニル系共重合体(B)が得られる。
【0062】
ビニル系共重合体(B)を懸濁重合法により製造する場合、懸濁安定剤を使用してもよい。懸濁安定剤としては、例えば、粘土、硫酸バリウム、水酸化マグネシウムなどの無機系懸濁安定剤や、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリルアミド、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体などの有機系懸濁安定剤などが挙げられる。これらを2種以上組み合わせてもよい。なかでも、色調の観点から、有機系懸濁安定剤が好ましく使用される。
【0063】
ビニル系共重合体(B)を懸濁重合法により製造する場合、必要に応じて開始剤や連鎖移動剤を使用してもよい。開始剤および連鎖移動剤としては、グラフト共重合体(A)の製造方法において例示した開始剤および連鎖移動剤が挙げられる。
【0064】
ビニル系共重合体(B)を懸濁重合法により製造する場合、単量体の仕込み方法に特に制限はなく、初期に一括して仕込む方法、単量体の一部または全てを連続して仕込む方法、単量体の一部または全てを分割して仕込む方法のいずれを用いてもよい。
【0065】
ビニル系共重合体(B)を懸濁重合法により製造する場合、重合温度に特に制限はないが、ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量および分散度を前述の範囲に調整しやすいという観点、懸濁安定性の観点から、60〜80℃で重合を開始し、重合率が50〜70%となった時点で昇温を開始し、最終的に100〜120℃にすることが好ましい。なお、昇温開始時には、重合槽内を窒素等の不活性ガスで0.3〜0.5MPaに加圧することが好ましい。
【0066】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)およびビニル系共重合体(B)の合計100重量部に対して、グラフト共重合体(A)20〜40重量部およびビニル系共重合体(B)60〜80重量部を配合してなる。グラフト共重合体(A)が40重量部を超え、ビニル系共重合体(B)が60重量部未満の場合、成形品の耐薬品性、剛性が低下し、薬品接触時の暗所黄変が生じやすくなる。一方、グラフト共重合体(A)が20重量部未満であり、ビニル系共重合体(B)が80重量部を超える場合、熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度が上昇し、成形品の耐衝撃性が低下する。
【0067】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂組成物の合計100重量%中、グラフト共重合体(A)中に含まれるゴム質重合体(r)相当分は10〜25重量%が好ましい。ゴム質重合体(r)相当分をかかる範囲とすることにより、成形品の耐薬品性、耐衝撃性をより向上させることができる。
【0068】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、アセトン可溶分(C)の重量平均分子量が150,000〜250,000であり、分散度が2.8以上であり、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が29〜36重量%である。ここで、シアン化ビニル系単量体由来単位とは、アセトン可溶分(C)に含まれる共重合体において、シアン化ビニル系単量体に由来する構造単位を意味する。耐薬品性は、成形品に含まれるグラフト共重合体(A)およびビニル系共重合体(B)のうち、薬品に対する耐性の高いグラフト成分に比べて、ゴム質重合体(r)にグラフトしていない成分(アセトン可溶分(C))による影響が大きい。一方、ゴム質重合体(r)にグラフトしていない成分は、比較的流動性が高い。そこで、本発明においては、熱可塑性樹脂組成物の中でもアセトン可溶分(C)に着目した。さらに、成形品の耐薬品性を向上させるためには、成形品に付着した薬液の浸透を抑制することが有効であり、具体的には、高分子量化により分子鎖の絡まりを強化すること、高ニトリル化により分子間力を向上させて分子鎖間の相互作用を強化することが有効である。また、比較的シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が高く、比較的分子量の低いビニル系共重合体と、比較的高分子量で比較的シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が低いビニル系共重合体を組み合わせて用いることにより、成形性を維持しながら、耐薬品性を向上させることができることから、本発明においては、アセトン可溶分(C)のうち、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が35重量%以上の成分(C−1)と、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が35%重量%未満の成分(C−2)の分子量分布に着目した。さらに、薬品の浸透を抑制する分子間の相互作用を強化する作用は、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が35重量%以上の場合に効果的に奏される。一方、グラフト共重合体(A)との相溶性向上効果は、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が35重量%未満の場合に効果的に奏される。そこで、本発明においては、特に、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が35重量%以上であるか、35重量%未満であるかに着目し、成分(C−1)と成分(C−2)それぞれの分子量分布に着目した。すなわち、アセトン可溶分(C)100重量%中、成分(C−1)を10〜30重量%、成分(C−2)を70〜90重量%含有し、成分(C−1)100重量%中、分子量が30,000〜200,000にある成分の割合が70重量%以上、分子量200,000を超える成分の割合が10〜20重量%、分子量30,000未満の成分の割合が20重量%以下であり、成分(C−2)100重量%中、分子量が30,000〜200,000にある成分の割合が40〜60重量%、分子量200,000を超える成分の割合が20重量%以上、分子量30,000未満の成分の割合が20重量%以下である。
【0069】
アセトン可溶分(C)の重量平均分子量を150,000以上とすることにより、成形品の耐衝撃性、耐薬品性を向上させ、薬品接触時の暗所黄変を低減することができる。一方、アセトン可溶分(C)の重量平均分子量を250,000以下とすることにより、流動性を向上させることができる。230,000以下がより好ましい。
【0070】
アセトン可溶分(C)の分散度を2.8以上とすることにより、流動性を向上させることができる。3.0以上がより好ましい。
【0071】
アセトン可溶分(C)のシアン化ビニル系単量体由来単位の含有量を29重量%以上とすることにより、成形品の耐薬品性、剛性、耐衝撃性を向上させ、薬品接触時の暗所黄変性を低減することができる。一方、アセトン可溶分(C)のシアン化ビニル系単量体由来単位の含有量を36重量%以下とすることにより、流動性、成形品の耐衝撃性、色調を向上させることができる。
【0072】
アセトン可溶分(C)100重量%中、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が35重量%以上の成分(C−1)を10重量%以上含有することにより、成形品の耐薬品性、剛性、耐衝撃性を向上させ、薬品接触時の暗所黄変を低減することができる。一方、成分(C−1)を30重量%以下含有することにより、耐衝撃性、色調を向上させることができる。
【0073】
また、アセトン可溶分(C)100重量%中、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が35重量%未満の成分(C−2)を70重量%以上含有することにより、成形品の耐衝撃性を向上させることができる。一方、成分(C−2)を90重量%以下含有することにより、成形品の剛性、耐衝撃性を向上させることができる。
【0074】
さらに、成分(C−1)100重量%中、分子量が30,000〜200,000にある成分の割合が70重量%以上であれば、流動性、成形品の耐薬品性が向上する。一方、分子量が30,000〜200,000にある成分の割合は80重量%以下がより好ましい。また、成分(C−1)100重量%中、分子量200,000を超える成分の割合が10重量%以上であれば、耐薬品性および耐衝撃性が向上し、薬品接触時の暗所黄変を低減することができる。一方、分子量200,000を超える成分の割合が20重量%以下であれば、流動性が向上する。さらに、成分(C−1)100重量%中、分子量30,000未満の成分の割合が20重量%以下であれば、成形品の耐薬品性が向上し、薬品接触時の暗所黄変を低減することができる。15重量%以下がより好ましい。一方、分子量30,000未満の成分の割合は10重量%以上がより好ましい。
【0075】
成分(C−2)100重量%中、分子量が30,000〜200,000にある成分の割合が40〜60重量%であれば、流動性、成形品の耐薬品性が向上し、薬品接触時の暗所黄変を低減することができる。また、成分(C−2)100重量%中、分子量200,000を超える成分の割合が20重量%以上であれば、成形品の耐薬品性および耐衝撃性が向上し、薬品接触時の暗所黄変を低減することができる。25重量%以上がより好ましい。一方、分子量200,000を超える成分の割合は50重量%以下がより好ましい。さらに、成分(C−2)100重量%中、分子量30,000未満の成分の割合が20重量%以下であれば、成形品の耐薬品性が向上し、薬品接触時の暗所黄変を低減することができる。一方、分子量30,000未満の成分の割合5重量%以上がより好ましい。
【0076】
ここで、分子量30,000未満の成分は、グラフト共重合体(A)のゴム質重合体(r)にグラフトしていない成分の比較的流動性が高い成分であるが、含有量が前記範囲より多くなると、耐薬品性が低下する傾向にある。一方、分子量200,000を超える成分は、耐薬品性の向上に寄与する成分であるが、成分(C−2)中の含有量が前記範囲より多いと、流動性が低下する傾向にある。
【0077】
ここで、熱可塑性樹脂組成物中のアセトン可溶分(C)の重量平均分子量および分散度は、熱可塑性樹脂組成物からアセトン不溶分を濾過した濾液をロータリーエバポレーターで濃縮することにより採取したアセトン可溶分(C)約0.03gをテトラヒドロフラン約15gに溶解した約0.2重量%の溶液を用いて、グラフト共重合体(A)と同様に測定することができる。
【0078】
ここで、熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(C)中のシアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は、以下の組成分布測定により求めることができる。まず、熱可塑性樹脂組成物からアセトン不溶分を濾過した濾液をロータリーエバポレーターで濃縮することにより採取したアセトン可溶分(C)5gをアセトン80mlに溶解する。得られた溶液にシクロヘキサンを徐々に添加し、白濁したところで添加をやめる。この白濁溶液を8000r.p.m(10000G)で40分間遠心分離した後、上澄みを分離し、不溶分を得る。不溶分を80℃で5時間減圧乾燥し、その重量を測定する。その後、230℃に設定した加熱プレスにより作製した厚み30±5μmのフィルムについて、FT−IR分析を行い、FT−IRチャートに現れる下記ピークの強度比からシアン化ビニル系単量体由来単位の含有量とその重量を定量することができる。
芳香族ビニル系単量体由来単位:ベンゼン核の振動に帰属される1605cm
−1のピーク
シアン化ビニル系単量体由来単位:−C≡N伸縮に帰属される2240cm
−1のピーク
分離した上澄み液に、さらに5mlシクロヘキサンを加え、白濁液から同様の方法により不溶分を得る。上記操作を繰り返し、白濁がなくなるまで、5mずつシクロヘキサンを加え、各々のシクロヘキサン添加量における不溶分のシアン化ビニル系単量体由来単位の含有量と重量を、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量ごとに分離して測定することができる。上記方法により、シアン化ビニル系単量体由来単位が35重量%以上の成分(C−1)と35重量%未満の成分(C−2)の重量が求められる。
【0079】
また、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量によって分けられたサンプル各々について、ビニル系共重合体(B)に記載と同一の方法によりGPC測定することにより、分子量30,000未満の成分、分子量30,000〜200,000の成分、分子量200,000を超える成分の重量比を求めることができる。
【0080】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、アセトン可溶分(C)の重量平均分子量および分散度を前記範囲にする方法としては、例えば、前記グラフト共重合体(A)と、後述する高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)および高分子量ビニル系共重合体(B−2)を含むビニル系共重合体(B)を配合する方法が挙げられる。
【0081】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を配合してもよい。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリ乳酸系樹脂等のポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、芳香族または脂肪族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、芳香族または脂肪族ポリケトン樹脂、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ビニルエステル系樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0082】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、さらに必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスビーズ、ガラスフレーク、アルミナ、アルミナ繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、ステンレス繊維、ウィスカ、チタン酸カリ繊維、ワラステナイト、アスベスト、ハードクレー、焼成クレー、タルク、カオリン、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウムおよび鉱物などの無機充填材;ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系または含リン有機化合物系などの酸化防止剤;フェノール系、アクリレート系などの熱安定剤;ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系またはサリシレート系などの紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系光安定剤;高級脂肪酸、酸エステル、酸アミド系または高級アルコールなどの滑剤および可塑剤;モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤;各種難燃剤;難燃助剤;亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤;リン酸、リン酸1ナトリウム、無水マレイン酸、無水コハク酸などの中和剤;核剤;アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤;カーボンブラック、顔料、染料などの着色剤などを配合することができる。
【0083】
次に、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、前述のグラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)および必要に応じてその他成分を溶融混練することにより得ることができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関しては特に制限はなく、熱可塑性樹脂組成物を構成する各成分を、混合機を用いて混合する方法や、これらを均一に溶融混練する方法などが挙げられる。混合機としては、例えば、V型ブレンダー、スーパーミキサー、スーパーフローターおよびヘンシェルミキサーなどが挙げられる。溶融混練機としては、例えば、ニーダー、一軸または二軸押出機などが挙げられる。溶融混練温度は210〜320℃が好ましく、230〜300℃がより好ましい。得られた熱可塑性樹脂組成物は、ペレタイザによりペレット化して用いられることが一般的である。
【0084】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、前記ビニル系共重合体(B)として、少なくとも芳香族ビニル系単量体(b1)55〜65重量%およびシアン化ビニル系単量体(b2)35〜45重量%を含有するビニル系単量体混合物(
b−1)を共重合してなり、重量平均分子量が100,000〜150,000である高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)と、少なくとも芳香族ビニル系単量体(b1)65重量%を超え75重量%以下およびシアン化ビニル系単量体(b2)25重量%以上35重量%未満を含有するビニル系単量体混合物(
b−2)を共重合してなり、重量平均分子量が250,000〜350,000である高分子量ビニル系共重合体(B−2)とを組み合わせることが好ましい。
【0085】
高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)を構成するビニル系単量体混合物(
b−1)中の芳香族ビニル系単量体(b1)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の成形性および成形品の色調を向上させる観点から、ビニル系単量体混合物(
b−1)の合計100重量%中、55重量%以上が好ましく、58重量%以上がより好ましい。一方、ビニル系単量体混合物(
b−1)中の芳香族ビニル系単量体(b1)の含有量は、成形品の耐衝撃性および耐薬品性を向上させ、薬品接触時の暗所黄変を低減する観点から、65重量%以下が好ましく、62重量%以下がより好ましい。
【0086】
一方、高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)を構成するビニル系単量体混合物(
b−1)中のシアン化ビニル系単量体(b2)の含有量は、成形品の耐薬品性および耐衝撃性を向上させ、薬品接触時の暗所黄変を低減する観点から、35重量%以上が好ましく、38重量%以上がより好ましい。一方、ビニル系単量体混合物(
b−1)中のシアン化ビニル系単量体(b2)の含有量は、成形品の流動性および色調を向上させる観点から、45重量%以下が好ましく、42重量%以下がより好ましい。
【0087】
高分子量ビニル系共重合体(B−2)を構成するビニル系単量体混合物(
b−2)中の芳香族ビニル系単量体(b1)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の流動性および成形品の色調を向上させる観点から、ビニル系単量体混合物(
b−2)の合計100重量%中、65重量%以上が好ましく、68重量%以上がより好ましい。一方、ビニル系単量体混合物(
b−2)中の芳香族ビニル系単量体(b1)の含有量は、成形品の耐衝撃性および耐薬品性を向上させ、薬品接触時の暗所黄変を低減する観点から、75重量%以下が好ましく、72重量%以下がより好ましい。
【0088】
一方、高分子量系ビニル系共重合体(B−2)を構成するビニル系単量体混合物(
b−2)中のシアン化ビニル系単量体(b2)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、耐薬品性を向上させ、薬品接触時の暗所黄変を低減する観点から、25重量%以上が好ましく、27重量%以上がより好ましい。一方、ビニル系単量体混合物(
b−2)中のシアン化ビニル系単量体(b2)の含有量は、成形品の耐衝撃性、色調を向上させる観点から34重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい。
【0089】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法において、高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)の重量平均分子量は、100,000〜150,000である。高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)の重量平均分子量が100,000以上であれば、耐薬品性を向上させ、薬品接触時の暗所黄変を低減することができる。一方、高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)の重量平均分子量が150,000以下であれば、流動性が向上する。
【0090】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法において、高分子量ビニル系共重合体(B−2)の重量平均分子量は、250,000〜350,000である。高分子量ビニル系共重合体(B−2)の重量平均分子量が250,000以上であれば、耐薬品性が向上し、薬品接触時の暗所黄変を低減することができる。一方、高分子量ビニル系共重合体(B−2)の重量平均分子量が350,000以下であれば、流動性が向上する。
【0091】
高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)および高分子量ビニル系共重合体(B−2)の重量平均分子量を上記範囲とすることにより、熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(C)の重量平均分子量および分散度を、前述の所望の範囲に容易に調整することができる。
【0092】
高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)および高分子量ビニル系共重合体(B−2)の分散度については、特に制限はないが、2.0〜3.0が好ましい。分散度が前記範囲であれば、流動性、耐薬品性をより向上させ、薬品接触時の暗所黄変をより低減することができる。
【0093】
重量平均分子量が100,000〜150,000である高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)および重量平均分子量が250,000〜350,000である高分子量ビニル系共重合体(B−2)は、例えば、前述の開始剤や連鎖移動剤を用いること、重合温度を前述の好ましい範囲にすることなどにより、容易に製造することができる。
【0094】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、前述の高ニトリル含有ビニル系共重合体(B−1)および高分子量ビニル系共重合体(B−2)を、(B−1)/(B−2)=33/67〜67/33(重量比)で組み合わせることがより好ましい。(B−1)/(B−2)を33/67以上とすることにより、耐薬品性および耐衝撃性をより向上させ、薬品接触時の暗所黄変をより低減することができる。一方、(B−1)/(B−2)を67/33以下とすることにより、耐衝撃性および色調をより向上させることができる。
【0095】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、任意の成形方法により成形することができる。成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形、ガスアシスト成形などが挙げられ、射出成形が好ましく用いられる。射出成形時のシリンダー温度は210〜320℃が好ましく、金型温度は30〜80℃が好ましい。
【0096】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、任意の形状の成形品として広く用いることができる。成形品としては、例えば、フィルム、シート、繊維、布、不織布、射出成形品、押出成形品、真空圧空成形品、ブロー成形品、他の材料との複合体などが挙げられる。本発明の成形品は、家電製品、通信関連機器、一般雑貨および医療関連機器などの用途に有用であり、なかでも、洗剤や溶剤との接触を伴う外装部品に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。まず、実施例における評価方法について説明する。
【0098】
(1)ゴム質重合体の重量平均粒子径
ゴム質重合体ラテックスを水媒体で希釈、分散させ、レーザ散乱回折法粒度分布測定装置“LS 13 320”(ベックマン・コールター株式会社)により粒子径分布を測定した。その粒子径分布より、ゴム質重合体(r)の重量平均粒子径を算出した。
【0099】
(2)グラフト共重合体(A)のグラフト率
グラフト共重合体(A)サンプル約1g(m:サンプル重量)にアセトン80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8000r.p.m(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過した。得られたアセトン不溶分を80℃で5時間減圧乾燥させ、その重量(n)を測定し、下記式よりグラフト率を算出した。ここで、Xはグラフト共重合体(A)のゴム質重合体含有率(%)である。
グラフト率(%)={[(n)−(m)×X]/[(m)×X]}×100。
【0100】
また、アセトン可溶分をロータリーエバポレーターにより濃縮することにより得た。
【0101】
(3)重量平均分子量および分散度
前記(2)の操作によりグラフト共重合体(A)のアセトン可溶分を得た。また、各実施例および比較例により得られた熱可塑性樹脂組成物ペレット約1g(m:サンプル質量)にアセトン80mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8000r.p.m(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過することにより、熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(C)を得た。グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分、ビニル系共重合体(B)、熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(C)各々のサンプル約0.03gをテトラヒドロフラン約15gに溶解し、約0.2重量%の溶液を調製した。下記条件により測定したGPCクロマトグラムより、ポリスチレンを標準物質として換算した重量平均分子量および分散度を算出した。
機器:Waters2695
カラム温度:40℃
検出器:RI2414(示差屈折率計)
キャリア溶離液流量:0.3ml/min(溶媒:テトラヒドロフラン)
カラム:TSKgel SuperHZM−M(6.0mmI.D.×15cm)、TSKgel SuperHZM−N(6.0mmI.D.×15cm)直列(いずれも東ソー)。
【0102】
(4)熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(C)のシアン化ビニル系単量体由来単位の含有量
前記(3)の操作により得られた熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(C)を230℃に設定した加熱プレスにより加熱加圧し、厚み30±5μmのフィルムを作製した。得られたフィルムについて、FT−IR分析を行い、FT−IRチャートに現れた下記ピークの強度比からシアン化ビニル系単量体由来単位(アクリロニトリル単量体由来単位)の含有量を求めた。
芳香族ビニル系単量体由来単位:ベンゼン核の振動に帰属される1605cm
−1のピーク
シアン化ビニル系単量体由来単位:−C≡N伸縮に帰属される2240cm
−1のピーク。
【0103】
(5)熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(C)の組成分布および分子量分布
各実施例および比較例により得られた熱可塑性樹脂組成物ペレットからアセトン不溶分を濾過した濾液をロータリーエバポレーターで濃縮することにより採取したアセトン可溶分(C)5gをアセトン80mlに溶解した溶液に、シクロヘキサンを徐々に添加し、白濁したところで添加をやめる。この白濁溶液を8000r.p.m(10000G)で40分間遠心分離した後、上澄みを分離し、不溶分を得た。不溶分を80℃で5時間減圧乾燥し、その重量を測定した。その後、230℃に設定した加熱プレスにより厚み30±5μmのフィルムを作製し、得られたフィルムについて、FT−IR分析を行い、FT−IRチャートに現れる下記ピークの強度比からシアン化ビニル系単量体由来単位(アクリロニトリル単量体由来単位)の含有量とその重量を定量した。
芳香族ビニル系単量体由来単位:ベンゼン核の振動に帰属される1605cm
−1のピーク
シアン化ビニル系単量体由来単位:−C≡N伸縮に帰属される2240cm
−1のピーク
【0104】
分離した上澄み液に、さらに5mlシクロヘキサンを加え、白濁液から同様の方法により不溶分を得た。上記操作を繰り返し、白濁がなくなるまで、5mずつシクロヘキサンを加え、各々のシクロヘキサン添加量における不溶分のシアン化ビニル系単量体由来単位の含有量と重量を、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量ごとに分離して測定した。上記方法により、アクリロニトリル単量体由来単位の含有量が35重量%以上の成分(C−1)と35重量%未満の成分(C−2)の重量を求めた。
【0105】
また、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量によって分けられたサンプル各々について、前記(3)に記載と同一の方法によりGPC測定し、分子量30,000未満の成分、分子量30,000〜200,000の成分、分子量200,000を超える成分の重量比を求めた。
【0106】
(6)耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)
各実施例および比較例により得られた熱可塑性樹脂組成物ペレットを80℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、シリンダー温度を230℃に設定した住友重機械工業(株)製SE−50DU成形機内に充填し、即時に厚さ4mmのダンベル試験片を成形した。得られたダンベル試験片各5個について、ISO179に準拠した方法でシャルピー衝撃強度を測定し、その数平均値を算出した。
【0107】
(7)剛性(曲げ弾性率)
各実施例および比較例により得られた熱可塑性樹脂組成物ペレットを80℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、シリンダー温度を230℃に設定した住友重機械工業(株)製SE−50DU成形機内に充填し、即時に厚さ4mmのダンベル試験片を成形した。得られたダンベル試験片各3個について、ISO178に準拠した方法で曲げ弾性率を測定し、その数平均値を算出した。
【0108】
(8)流動性(メルトフローレート(MFR))
各実施例および比較例により得られた熱可塑性樹脂組成物ペレットを80℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、測定温度220℃、荷重98Nの条件で、ISO113に準拠した方法によりMFRを測定した。
【0109】
(9)耐薬品性
各実施例および比較例により得られた熱可塑性樹脂組成物ペレットを80℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、シリンダー温度を230℃に設定した住友重機械工業(株)製SE−50DU成形機内に充填し、ウェルド部を有する厚さ4mmのダンベル試験片を成形した。
【0110】
ダンベル試験片2個について、温度23℃、湿度50%の環境下で、
図1に示すように、ウェルド部4を有するダンベル試験片3の片半分を治具にセットした。次に、ウェルド部4を有するダンベル試験片3の端面に重さ1kgの重り5により荷重をかけながら、ウェルド部4にスポイト1を用いてイソプロパノール2を滴下し、24時間静置した。静置後、目視観察によりウェルド部の破断の有無を観察し、下記基準により評価した。
2個ともにウェルド部が破断しない場合:○
1個でもウェルド部が破断した場合:×。
【0111】
(10)薬品接触時の暗所黄変
各実施例および比較例により得られた熱可塑性樹脂組成物ペレットを80℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、シリンダー温度を230℃に設定した住友重機械工業(株)製SE−50DU成形機内に充填し、長さ50mm、幅30mm、厚さ3mmのプレート試験片を成形した。得られたプレート試験片について、住化カラー社製CCM(分光光度計マクベス7000A)を用いて、L*、a*、b*をそれぞれ測定した。
【0112】
また、プレート試験片を50℃に保温した“ナノックス”に浸し、24時間静置した後、オープンフレームカーボンアーク灯式耐光性試験機(ブラックパネル温度63℃)を用いて24時間光照射した。次いで、温度80℃、湿度80%の恒温恒湿槽内で24時間静置した後、住化カラー社製CCM(分光光度計マクベス7000A)を用いて、L*、a*、b*をそれぞれ測定した。試験前後のL*、a*、b*の測定値から、ΔE*を算出した。
【0113】
(参考例1)グラフト共重合体(A−(1))
撹拌翼を備えた内容量5リットルの四つ口フラスコに、ポリブタジエンラテックス(ゴムの重量平均粒子径0.30μm、ゲル含有率85%)31.5重量部(固形分換算)、スチレン−ブタジエンゴムラテックス(ゴムの重量平均粒子径1.0μm、ゲル非含有)13.5重量部(固形分換算)、純水130重量部、ラウリン酸ナトリウム0.4重量部、ブドウ糖0.2重量部、ピロリン酸ナトリウム0.2重量部、硫酸第一鉄0.01重量部を仕込み、窒素置換後、60℃に温調し、撹拌しながら、スチレン5.84重量部、アクリロニトリル2.16重量部およびt−ドデシルメルカプタン0.083重量部の単量体混合物を30分間かけて初期添加した。
【0114】
次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.12重量部、乳化剤であるラウリン酸ナトリウム1.8重量部および純水25重量部の開始剤混合物を4時間かけて連続滴下した。同時に並行して、スチレン34.26重量部、アクリロニトリル12.74重量部およびt−ドデシルメルカプタン0.483重量部の単量体混合物を4時間かけて連続追滴下した。単量体混合物追滴下後、さらに、クメンハイドロパーオキサイド0.08重量部、乳化剤であるラウリン酸ナトリウム0.3重量部および純水25重量部の開始剤混合物を2時間かけて添加し、重合を終了させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを1.5重量%硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、遠心分離、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(A−(1))を得た。得られたグラフト共重合体(A−(1))のグラフト率は24%であった。また、アセトン可溶分の重量平均分子量は80,000であり、アセトン可溶分の分散度は2.2であり、アセトン可溶分のシアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は27重量%であった。
【0115】
(参考例2)グラフト共重合体(A−(2))
撹拌翼を備えた内容量5リットルの四つ口フラスコに、ポリブタジエンラテックス(ゴムの重量平均粒子径0.30μm、ゲル含有率85%)50重量部(固形分換算)、純水130重量部、ラウリン酸ナトリウム0.4重量部、ブドウ糖0.2重量部、ピロリン酸ナトリウム0.2重量部、硫酸第一鉄0.01重量部を仕込み、窒素置換後、60℃に温調し、撹拌しながら、スチレン6.7重量部、アクリロニトリル2.5重量部およびt−ドデシルメルカプタン0.058重量部の単量体混合物を30分間かけて初期添加した。
【0116】
次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.32重量部、乳化剤であるラウリン酸ナトリウム1.5重量部および純水25重量部の開始剤混合物を5時間かけて連続滴下した。同時に並行して、スチレン29.8重量部、アクリロニトリル11.0重量部およびt−ドデシルメルカプタン0.193重量部の単量体混合物を3時間かけて連続追滴下した。単量体混合物滴下後、2時間、開始剤混合物のみを連続滴下し、その後重合を終了させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを1.5重量%硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、遠心分離、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(A−(2))を得た。得られたグラフト共重合体(A−(2))のグラフト率は38%であった。また、アセトン可溶分の重量平均分子量は83,000であり、アセトン可溶分の分散度は2.3であり、アセトン可溶分のシアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は27重量%であった。
【0117】
(参考例3)グラフト共重合体(A−(3))
初期添加する単量体混合物中のt−ドデシルメルカプタンを0.01重量部とし、重合開始後に同時並行して添加した単量体混合物中のt−ドデシルメルカプタンを0.04重量部とした以外は参考例1と同様の方法でグラフト共重合体(A−(3))を得た。得られたグラフト共重合体(A−(3))のグラフト率は50%であった。また、アセトン可溶分の重量平均分子量は300,000であり、アセトン可溶分の分散度は2.4であり、アセトン可溶分のシアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は27重量%であった。
【0118】
(参考例4)グラフト共重合体(A−(4))
初期添加する単量体混合物中のスチレンを3.6重量部、アクリロニトリルを0.6重量部、t−ドデシルメルカプタンを0.15重量部とし、さらにメタクリル酸メチル10.8重量部を加えて、これらの単量体混合物を45分間かけて添加したこと以外は参考例1と同様の方法で初期添加を行った。
【0119】
次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.3重量部、乳化剤であるラウリン酸ナトリウム1.6重量部および純水25重量部の開始剤混合物を5時間かけて連続滴下した。同時に並行して、スチレン8.4重量部、アクリロニトリル1.4重量部、メタクリル酸メチル25.2重量部およびt−ドデシルメルカプタン0.36重量部の単量体混合物を5時間かけて連続追滴下した。単量体混合物追滴下後、1時間保持して重合を終了させた以外は、参考例2と同様の方法でグラフト共重合体(A−(4))を得た。得られたグラフト共重合体(A−(4))のグラフト率は47%であった。また、アセトン可溶分の重量平均分子量は78,000であり、アセトン可溶分の分散度は2.2であった。り、アセトン可溶分のシアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は5重量%であった。
【0120】
参考例1〜4により調製したグラフト共重合体(A)を表1にまとめて示す。
【0121】
【表1】
【0122】
(参考例5)ビニル系共重合体(B−(1))
まず、懸濁重合用の媒体として、メタクリル酸メチル−アクリルアミド共重合体を以下の方法により製造した。
【0123】
アクリルアミド80重量部、メタアクリル酸メチル20重量部、過硫酸カリウム0.3重量部、イオン交換水1800重量部を反応器中に仕込み、反応器中の気相を窒素ガスで置換した。よくかき混ぜながら70℃に保ち重合率が99%に到達した時点で重合を終了し、アクリルアミドとメタアクリル酸メチル二元共重合体の水溶液を得た。得られた水溶液は、やや白濁した粘性を有していた。この水溶液に、水酸化ナトリウム35重量部とイオン交換水15000重量部を加え、0.6重量%のアクリルアミドとメタアクリル酸メチルとの二元共重合体の水溶液を得た。70℃で2時間撹拌してケン化させた後、室温まで冷却し、透明な懸濁重合用の媒体(メタクリル酸メチル−アクリルアミド二元共重合体)の水溶液を得た。
【0124】
20Lのオートクレーブに、前記メタクリル酸メチル−アクリルアミド二元共重合体水溶液6重量部、純水150重量部を入れて400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。70℃まで昇温後、アクリロニトリル41.8重量部、スチレン3.8重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.034重量部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.293重量部およびt−ドデシルメルカプタン0.44重量部の単量体混合物を、撹拌しながら30分間かけて添加し、重合反応を開始した。単量体混合物添加後、15分、40分、65分、85分経過したところで、それぞれスチレンを1回あたり4.0重量部ずつ、供給ポンプを使用して計4回添加した。さらに、単量体混合物添加後95分経過したところで、スチレン38.4重量部を供給ポンプを使用してオートクレーブに添加した。全ての単量体の添加後、60分間かけて100℃に昇温した。80℃に達した時点で、窒素ガスでオートクレーブ内を0.3MPaに加圧した。100℃に到達後、30分間100℃に維持した後、冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行って、ビーズ状のビニル系共重合体(B−(1))を得た。得られたビニル系共重合体(B−(1))の重量平均分子量は110,000、分散度は2.1、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は36重量%であった。
【0125】
(参考例6)ビニル系共重合体(B−(2))
20Lのオートクレーブに、前記参考例5により得られたメタクリル酸メチル−アクリルアミド二元共重合体水溶液6重量部、純水150重量部を仕込み、400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。70℃まで昇温後、アクリロニトリル28.9重量部、スチレン11.1重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.32重量部、t−ドデシルメルカプタン0.063重量部およびn−オクチルメルカプタン0.094重量部の単量体混合物を、撹拌しながら30分間かけて添加し、重合反応を開始した。単量体混合物を添加後、1時間経過したところで、スチレン15重量部を供給ポンプを使用して添加した。その後、30分間隔で、スチレンを1回あたり15重量部ずつ、計3回オートクレーブに添加した。全ての単量体の添加後、60分間かけて100℃に昇温した。80℃に達した時点で、窒素ガスでオートクレーブ内を0.3MPaに加圧した。100℃に到達後、30分間100℃に維持した後、冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行って、ビーズ状のビニル系共重合体(B−(2))を得た。得られたビニル系共重合体(B−(2))の重量平均分子量は320,000、分散度は2.8、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は27重量%であった。
【0126】
(参考例7)ビニル系共重合体(B−(3))
単量体混合物中のt−ドデシルメルカプタンを0.75重量部とした以外は、参考例5と同様の方法でビニル系共重合体(B−(3))を得た。得られたビニル系共重合体(B−(3))の重量平均分子量は54,000、分散度は2.1、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は36重量%であった。
【0127】
(参考例8)ビニル系共重合体(B−(4))
初期に添加する単量体混合物をアクリロニトリル44重量部、スチレン3.8重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.034重量部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.293重量部およびt−ドデシルメルカプタン0.75重量部としたこと、さらに、単量体混合物を添加後95分経過したところで添加するスチレンの量を36.2重量部としたこと以外は参考例5と同様の方法でビニル系共重合体(B−(4))を得た。得られたビニル系共重合体(B−(4))の重量平均分子量は55,000、分散度は2.1、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は40重量%であった。
【0128】
(参考例9)ビニル系共重合体(B−(5))
初期に添加する単量体混合物のt−ドデシルメルカプタンを0.32重量部とし、n−オクチルメルカプタンを添加しないこと以外は参考例6と同様の方法でビニル系共重合体(B−(5))を得た。得られたビニル系共重合体(B−(5))の重量平均分子量は130,000、分散度は2.1、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は27重量%であった。
【0129】
(参考例10)ビニル系共重合体(B−(6))
初期に添加する単量体混合物のt−ドデシルメルカプタンおよびn−オクチルメルカプタンを添加しないこと以外は参考例6と同様の方法でビニル系共重合体(B−(6))を得た。得られたビニル系共重合体(B−(6))の重量平均分子量は320,000、分散度は2.9、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は27重量%であった。
【0130】
(参考例11)ビニル系共重合体(B−(7))
20Lのオートクレーブに、前記参考例5により得られたメタクリル酸メチル−アクリルアミド二元共重合体水溶液6重量部、純水150重量部を仕込み、400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。70℃まで昇温後、アクリロニトリル12重量部、スチレン9重量部、メタクリル酸メチル29重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.3重量部およびt−ドデシルメルカプタン0.4重量部の単量体混合物を、撹拌しながら30分間かけて添加し、重合反応を開始した。単量体混合物添加後60分経過したところで、スチレン2重量部、メタクリル酸メチル13重量部を供給ポンプを使用して添加した。30分後に、スチレン4重量部、メタクリル酸メチル11重量部をオートクレーブに添加した。その30分後にスチレン7重量部、メタクリル酸メチル13重量部をオートクレーブに添加した。全ての単量体混合物を添加後、120分間かけて100℃に昇温した。80℃に達した時点で、窒素ガスでオートクレーブ内を0.3MPaに加圧した。100℃に到達後、30分間100℃に維持した後、冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行って、ビーズ状のビニル系共重合体(B−(7))を得た。得られたビニル系共重合体(B−(7))の重量平均分子量は140,000、分散度は2.4、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は12重量%であった。
【0131】
(参考例12)ビニル系共重合体(B−(8))
20Lのオートクレーブに、前記参考例5により得られたメタクリル酸メチル−アクリルアミド二元共重合体水溶液6重量部、純水150重量部を仕込み、400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。70℃まで昇温後、アクリロニトリル30重量部、スチレン18重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.3重量部およびt−ドデシルメルカプタン0.5重量部の単量体混合物を、撹拌しながら30分間かけて添加し、重合反応を開始した。単量体混合物添加後30分経過したところで、メタクリル酸メチル12重量部を供給ポンプを使用して添加した。その後、30分間隔で、メタクリル酸メチルを1回あたり20重量部ずつ、計2回オートクレーブに添加した。全ての単量体の添加後、60分間かけて100℃に昇温した。80℃に達した時点で、窒素ガスでオートクレーブ内を0.3MPaに加圧した。100℃に到達後、30分間100℃に維持した後、冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行って、ビーズ状のビニル系共重合体(B−(8))を得た。得られたビニル系共重合体(B−(8))の重量平均分子量は115,000、分散度は2.4、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は30重量%であった。
【0132】
(参考例13)ビニル系共重合体(B−(9))
20Lのオートクレーブに、前記参考例5により得られたメタクリル酸メチル−アクリルアミド二元共重合体水溶液6重量部、純水165重量部を仕込み、400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。70℃まで昇温後、アクリロニトリル4重量部、スチレン24重量部、メタクリル酸メチル72重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部およびt−ドデシルメルカプタン0.01重量部の単量体混合物を、撹拌しながら30分間かけて添加し、重合反応を開始した。70℃条件下、常圧で5時間重合を継続した後、冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行って、ビーズ状のビニル系共重合体(B−(9))を得た。得られたビニル系共重合体(B−(9))の重量平均分子量は300,000、分散度は2.7、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量は5重量%であった。
【0133】
【表2】
【0134】
その他、各実施例および比較例に用いた材料は以下のとおりである。
エチレン・一酸化炭素・(メタ)アクリル酸エステル共重合体:三井・デュポンポリケミカル(株)製“エルバロイ”(登録商標)HP−4051
ヒンダードアミン系光安定剤:ビス(2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペジニル)セバケート (株)ADEKA製“アデカスタブ”(登録商標)LA−57
リン系酸化防止剤:ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト (株)ADEKA製“アデカスタブ”PEP−8
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤:2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール 共同薬品(株)製“バイオソーブ”520
(実施例1〜6、比較例1〜10)
参考例1〜4で調製したグラフト共重合体(A)と参考例5〜13で調整したビニル系共重合体(B)とをそれぞれ、表3〜5に示した配合比で配合し、さらに添加剤としてt−ブチルヒドロキシトルエン0.3重量部およびトリ(ノニルフェニル)ホスファイト0.3重量部を加え、ヘンシェルミキサーで23℃で混合した後、得られた混合物を40mmφ押出機により、押出温度230℃でガット状に押出し、ペレット化した。得られたペレットを、成形温度230℃、金型温度40℃で射出成形し、評価用の試験片を作製した。得られた試験片を用いて、前記方法により各物性を測定した。
【0135】
(比較例11)
参考例1で調製したグラフト共重合体(A)と参考例9で調製したビニル系共重合体(B)とをそれぞれ表5に示した配合比で配合し、さらに、“エルバロイ”HP−4051 5重量部、“アデカスタブ”LA−57 0.5重量部、“アデカスタブ”PEP−8 0.45重量部、“バイオソーブ”520 0.6重量部を加え、ヘンシェルミキサーで23℃で混合した後、得られた混合物を40mmφ押出機により、押出温度230℃でガット状に押出し、ペレット化した。得られたペレットを、成形温度230℃、金型温度40℃で射出成形し、評価用の試験片を作製した。得られた試験片を用いて、前記方法により各物性を測定した。
【0136】
各実施例および比較例により得られた実施例および比較例の結果を表3〜5に示す。
【0137】
【表3】
【0138】
【表4】
【0139】
【表5】
【0140】
実施例1〜6の熱可塑性樹脂組成物は、流動性に優れる。また、成形品の耐薬品性、耐衝撃性に優れ、薬品接触時の暗所黄変を低減することができる。