特許第6376035号(P6376035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376035
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】加飾成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20180813BHJP
   B29C 33/18 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   B29C45/14
   B29C33/18
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-92776(P2015-92776)
(22)【出願日】2015年4月30日
(65)【公開番号】特開2016-210012(P2016-210012A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2017年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 達朗
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−198944(JP,A)
【文献】 特開平08−300405(JP,A)
【文献】 特開平10−044185(JP,A)
【文献】 特開2001−277287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C33/00−33/76
B29C45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティ型及びコア型を備える金型を用い、基材フィルム上に加飾模様層が形成されてなるフィルムを、型開き状態の前記金型における前記キャビティ型に対し位置決めして係止し、前記フィルムを真空吸引により前記キャビティ型の成形面に密着させた後、型締め状態の前記金型内において前記フィルムと前記コア型のコア面との間に形成されるキャビティに溶融樹脂を射出して成形品本体を成形するとともに、前記フィルムの加飾模様層を前記成形品本体の意匠面に付着させることにより、前記成形品本体の意匠面が前記加飾模様層により加飾された加飾成形品を製造する方法であって、
前記キャビティ型として、前記成形面に突条部が突設されたものを用い、
少なくとも先端部が前記突条部の先端部の厚みよりも大きな厚みを有するとともに軟質材にて形成された押圧部を用い、
前記真空吸引に先立ち、前記キャビティ型に係止された前記フィルムを前記押圧部の先端部により前記キャビティ型側へ押すことにより、前記押圧部の先端部を前記突条部に押付けて前記突条部を包み込むように前記フィルムを位置決めする加飾成形品の製造方法。
【請求項2】
前記加飾模様層は複数種類の模様部からなり、
前記押圧部の先端部による前記フィルムの押付けを、隣り合う模様部の境界部分において行なう請求項1に記載の加飾成形品の製造方法。
【請求項3】
前記成形品本体の表層部に溝部を有し、かつ隣り合う模様部の境界部分が前記溝部の内壁面に位置する加飾成形品が製造対象であり、
前記キャビティ型として、前記溝部を成形するための前記突条部を前記成形面に有するものを用い、
前記押圧部の先端部により、隣り合う模様部の境界部分において前記フィルムを前記突条部に押付ける請求項2に記載の加飾成形品の製造方法。
【請求項4】
前記キャビティ型及び前記コア型とは別に設けられ、かつ前記押圧部を有する可動部材を用い、
前記金型が型開きされた状態で前記可動部材を移動させることで、前記押圧部の先端部により、前記フィルムを前記キャビティ型側へ押して前記成形面の一部に押付ける請求項1〜3のいずれか1項に記載の加飾成形品の製造方法。
【請求項5】
前記フィルムとして、前記基材フィルム上に前記加飾模様層が剥離可能に形成されたものを用い、
前記成形品本体の成形の過程で、前記基材フィルムから前記加飾模様層を前記成形品本体の前記意匠面に転写させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の加飾成形品の製造方法。
【請求項6】
前記押圧部の先端部により前記フィルムを前記キャビティ型側へ押す前に同フィルムを加熱して軟化させる請求項1〜5のいずれか1項に記載の加飾成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品本体の意匠面が加飾模様層によって加飾された加飾成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形品本体の意匠面が加飾模様層によって加飾された加飾成形品を製造する方法の1つに、インモールド成形と呼ばれるものがある(例えば、特許文献1参照)。この製造方法では、キャビティ型及びコア型を備える金型と、基材フィルム上に加飾模様層が形成されてなるフィルムとが用いられる。このフィルムが、型開き状態の金型におけるキャビティ型に対し位置決めされた状態で係止される。フィルムが真空吸引によりキャビティ型の成形面に密着させられる。その後、型締め状態の金型内において、フィルムとコア型のコア面との間に形成されるキャビティに溶融樹脂が射出されて成形品本体が成形される。この成形の過程で、フィルムの加飾模様層が成形品本体の意匠面に転写(付着)される。その結果、成形品本体の意匠面が加飾模様層によって加飾された加飾成形品が得られる。
【0003】
さらに、上記特許文献1に記載された製造方法では、キャビティ型に係止されたフィルムが、真空吸引に先立ち、キャビティ型側へ押されて成形面に近づけられる。そのため、フィルムと成形面との間隔が狭められずに一気に真空吸引される場合に比べ、真空吸引時におけるフィルムの動き量が少ない。成形面に対する加飾模様層の位置は、フィルムの温度分布のばらつきや、フィルムと成形面との間に形成される密閉空間内での空気の流れのばらつきから影響を受けにくい。その結果、加飾模様層の形成位置精度の高い加飾成形品が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−146956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1に記載された製造方法では、フィルムが成形面に近づけられた状態で真空吸引されることから、成形面に密着するまでにフィルムが動いて、位置がずれるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、加飾模様層の形成位置精度のより高い加飾成形品を製造することのできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する加飾成形品の製造方法は、キャビティ型及びコア型を備える金型を用い、基材フィルム上に加飾模様層が形成されてなるフィルムを、型開き状態の前記金型における前記キャビティ型に対し位置決めして係止し、前記フィルムを真空吸引により前記キャビティ型の成形面に密着させた後、型締め状態の前記金型内において前記フィルムと前記コア型のコア面との間に形成されるキャビティに溶融樹脂を射出して成形品本体を成形するとともに、前記フィルムの加飾模様層を前記成形品本体の意匠面に付着させることにより、前記成形品本体の意匠面が前記加飾模様層により加飾された加飾成形品を製造する方法であって、前記キャビティ型として、前記成形面に突条部が突設されたものを用い、少なくとも先端部が前記突条部の先端部の厚みよりも大きな厚みを有するとともに軟質材にて形成された押圧部を用い、前記真空吸引に先立ち、前記キャビティ型に係止された前記フィルムを前記押圧部の先端部により前記キャビティ型側へ押すことにより、前記押圧部の先端部を前記突条部に押付けて前記突条部を包み込むように前記フィルムを位置決めする
【0008】
上記の製造方法では、加飾成形品の製造に際し、フィルムが、型開き状態の金型におけるキャビティ型に対し位置決めされた状態で係止される。
次に、フィルムが押圧部の先端部によりキャビティ型側へ押される。このときには、基材フィルムは伸びるが、押圧部によって押されていて、同押圧部に対し動きにくい。加飾模様層についても同様であり、押圧部に対し動きにくい。
【0009】
上記のように押圧部によって押されることで、フィルムは同押圧部に対する位置を保持しつつ伸びて成形面に近づく。そして、フィルムの押された部分は、キャビティ型の成形面の一部に押付けられる。このとき、フィルムが押付けられるキャビティ型が金属によって形成されていて硬質であるのに対し、フィルムを押す押圧部の先端部は軟質材によって形成されている。そのため、上記フィルムの成形面に対する押付けは、押圧部の先端部が弾性変形することによって行なわれる。従って、押圧部の先端部が硬質材によって形成された場合とは異なり、フィルム、キャビティ型及び押圧部のいずれにも傷が付きにくい。
【0010】
そして、上記のように成形面の一部に押付けられたフィルムは真空吸引される。この真空吸引により、フィルムは成形面に密着させられて、同成形面に倣った形状に賦形(予備成形)される。このとき、フィルムのうち押圧部によって成形面に押付けられている箇所は、その箇所から動くことを規制される。そのため、フィルムが成形面から離れた状態で真空吸引される場合とは異なり、成形面に密着するまでにフィルムが押圧部に対し動いて、位置がずれることが起こりにくい。
【0011】
続いて、型締め状態の金型内において、フィルムとコア型のコア面との間に形成されるキャビティに溶融樹脂が射出されて成形品本体が成形される。この成形の過程で、溶融樹脂の熱、圧力等により、フィルムの加飾模様層が、成形品本体の意匠面に対し高い形成位置精度で付着する。
【0012】
上記加飾成形品の製造方法において、前記加飾模様層は複数種類の模様部からなり、前記押圧部の先端部による前記フィルムの押付けを、隣り合う模様部の境界部分において行なうことが好ましい。
【0013】
上記の製造方法によれば、キャビティ型に対し位置決めされた状態で係止されたフィルムは、加飾模様層の隣り合う模様部の境界部分において、押圧部の先端部によりキャビティ型側へ押され、成形面の一部に押付けられる。
【0014】
この状態で、フィルムが真空吸引されることで、フィルムのうち押圧部によって成形面に押付けられている箇所、すなわち、隣り合う模様部の境界部分は、その箇所から動くことを規制される。真空吸引により成形面に密着するまでに境界部分が押圧部に対し動いて、位置がずれることが起こりにくい。
【0015】
従って、成形品本体の成形の過程で、加飾模様層は、隣り合う模様部の境界部分が、成形品本体のうち、予め定められた形成予定箇所に位置するように、高い位置精度で付着する。
【0016】
上記加飾成形品の製造方法において、前記成形品本体の表層部に溝部を有し、かつ隣り合う模様部の境界部分が前記溝部の内壁面に位置する加飾成形品が製造対象であり、前記キャビティ型として、前記溝部を成形するための突条部を前記成形面に有するものを用い、前記押圧部の先端部により、隣り合う模様部の境界部分において前記フィルムを前記突条部に押付けることが好ましい。
【0017】
上記の製造方法によれば、位置決めされた状態でキャビティ型に係止されたフィルムは、隣り合う模様部の境界部分において、押圧部の先端部によりキャビティ型側へ押され、突条部に押付けられる。
【0018】
この状態で、フィルムが真空吸引されることで、フィルムのうち押圧部によって突条部に押付けられている箇所、すなわち、隣り合う模様部の境界部分は、その突条部に対し動くことを規制される。
【0019】
続いて、型締め状態の金型内のキャビティに溶融樹脂が射出されて、溝部を有する成形品本体が成形される。この成形の過程で、隣り合う模様部の境界部分が溝部の内壁面に位置するように、加飾模様層が成形品本体に対し高い形成位置精度で付着する。
【0020】
従って、隣り合う模様部の境界部分では、互いに異なる模様が隣接することになるが、同境界部分が溝部の内壁面に位置することで、加飾成形品の他の箇所に位置する場合に比べ境界部分が目立ちにくくなる。
【0021】
上記加飾成形品の製造方法において、前記キャビティ型及び前記コア型とは別に設けられ、かつ前記押圧部を有する可動部材を用い、前記金型が型開きされた状態で前記可動部材を移動させることで、前記押圧部の先端部により、前記フィルムを前記キャビティ型側へ押して前記成形面の一部に押付けることが好ましい。
【0022】
上記の製造方法によれば、真空吸引に先立ち、金型が型開きされた状態で可動部材が移動させられると、その移動に伴い押圧部が移動する。キャビティ型に対し、位置決めされた状態で係止されたフィルムは、押圧部の先端部によりキャビティ型側へ押されて成形面の一部に押付けられる。
【0023】
上記加飾成形品の製造方法において、前記フィルムとして、前記基材フィルム上に前記加飾模様層が剥離可能に形成されたものを用い、前記成形品本体の成形の過程で、前記基材フィルムから前記加飾模様層を前記成形品本体の前記意匠面に転写させることが好ましい。
【0024】
上記の製造方法によれば、成形品本体の成形の過程で、フィルムの基材フィルムから加飾模様層が剥離し、成形品本体の意匠面に転写(付着)される。この転写(付着)により、成形品本体の意匠面に加飾模様層が形成されてなる加飾成形品が得られる。
【0025】
上記加飾成形品の製造方法において、前記押圧部の先端部により前記フィルムを前記キャビティ型側へ押す前に同フィルムを加熱して軟化させることが好ましい。
ここで、キャビティ型に係止されたフィルムは、キャビティ型側へ押されることで伸び、また真空吸引されることで伸びる。
【0026】
この点、上記製造方法では、押圧部の先端部によりフィルムがキャビティ型側へ押される前に同フィルムが加熱される。この加熱により、フィルムは軟化して伸びやすくなる。従って、フィルムは押圧部の先端部による押付け及び真空吸引によりそれぞれ伸びて、成形面に密着させられる。
【0027】
特に、キャビティ型の成形面が深く、フィルムを成形面に密着させるために大きく伸ばす必要がある場合には、上記フィルムの加熱による軟化処理が有効である。
【発明の効果】
【0028】
上記加飾成形品の製造方法によれば、加飾模様層の形成位置精度のより高い加飾成形品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】加飾成形品の製造方法の一実施形態を示す図であり、(a)は同製造方法によって製造される加飾成形品の概略構成を示す断面図、(b)は図1(a)の一部を拡大して示す部分断面図。
図2】(a)は、一実施形態における加飾成形品を製造する工程を説明する部分断面図、(b)は図2(a)の一部を拡大して示す部分断面図。
図3】(a),(b)は、同じく一実施形態における加飾成形品を製造する工程を説明する部分断面図。
図4】同じく一実施形態における加飾成形品を製造する工程を説明する部分断面図。
図5】(a),(b)は、同じく一実施形態における加飾成形品を製造する工程を説明する部分断面図。
図6】(a),(b)は、同じく一実施形態における加飾成形品を製造する工程を説明する部分断面図。
図7】(a),(b)は、互いに硬度の異なる軟質材を用いて形成された押圧部の先端部によってフィルムを突条部に押付けた状態を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、加飾成形品の製造方法を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる。
【0031】
最初に、本実施形態の製造方法によって得られる加飾成形品の概略構成について説明する。図1(a),(b)に示すように、加飾成形品11は、例えば、自動車用の内装品として具体化されるものであり、成形品本体12及び加飾模様層15を備えている。成形品本体12は、樹脂材料を用い射出成形を行なうことによって形成されている。成形品本体12の表層部には溝部13が形成されている。溝部13の少なくとも一部は、図1(a),(b)において紙面に直交する方向へ延びている。成形品本体12の外表面の一部は、意匠面14を構成している。上述した溝部13の内壁面もまた意匠面14の一部を構成している。
【0032】
加飾模様層15は、成形品本体12の意匠面14に形成され、その意匠面14を加飾(装飾)している。加飾模様層15は、互いに接した状態で隣り合う2種類の模様部16,17によって構成されており、両模様部16,17の境界部分18を、上記溝部13の内壁面に位置させた状態で、成形品本体12の意匠面14の略全面にわたって形成されている。
【0033】
上記加飾成形品11の製造には、以下に示すフィルム20及び金型25が用いられる。
<フィルム20>
図2(a)に示すように、フィルム20の主要部は、樹脂材料によって長尺状に形成された基材フィルム21によって構成されている。この基材フィルム21は、透明であってもよいし、不透明であってもよい。基材フィルム21の樹脂材料としては、熱可塑性の樹脂材料であれば任意のものを使用することができる。本実施形態では、こうした樹脂材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)が用いられている。なお、基材フィルム21は、単層からなるものであってもよいし、積層構造を有するものであってもよい。
【0034】
基材フィルム21上には、上記加飾模様層15が、グラビア印刷等の印刷、蒸着等によって、基材フィルム21の長さ方向に一定間隔毎に剥離可能に形成されている。加飾模様層15における模様部16,17は、例えば木目模様、石目模様、砂目模様、金属調模様、幾何学模様、抽象模様等からなる。また、この模様部16,17には、文字、記号等が含まれてもよい。
【0035】
上記基材フィルム21上であって、加飾模様層15とは異なる箇所には、位置決め用のマーク(図示略)が印刷等によって加飾模様層15毎に形成されている。
上記フィルム20は、基材フィルム21が内側となり、かつ加飾模様層15が外側となるように巻回されてロール22にされている。
【0036】
<金型25>
金型25は、コア型26及びキャビティ型31を備えている。本実施形態では、キャビティ型31は固定型によって構成されている。コア型26は水平方向へ移動してキャビティ型31に接近及び離間する可動型によって構成されている。
【0037】
コア型26のキャビティ型31側には、同キャビティ型31側へ突出する成形突部27が設けられている。この成形突部27の表面と、コア型26のキャビティ型31側の端面26aであって、成形突部27の周りの箇所とによって、コア面28が構成されている。コア型26には、一端が成形突部27の先端面に開口するスプルーゲート29が形成されている。
【0038】
これに対し、キャビティ型31のコア型26側には成形凹部32が設けられており、その一部には、上記成形品本体12の溝部13を成形するための突条部33が成形突部27に向けて突設されている。突条部33の少なくとも一部は、図2(a),(b)において、紙面に直交する方向へ延びている。突条部33の先端部は、1mm程度の厚みtを有している。そして、上記突条部33の表面を含め、成形凹部32の内壁面によって成形面34が構成されている。
【0039】
成形面34は、フィルム20を所定の形状に形成するための賦形面としての機能と、溶融樹脂を、所定の形状を有する成形品本体12に成形するための賦形面としての機能とを有している。この成形面34には、キャビティ型31に形成された多数の微細な真空吸引孔(図示略)が開口している。真空吸引孔は真空ポンプ(図示略)に接続されている。
【0040】
キャビティ型31には、環状のクランプ35が設けられている。また、キャビティ型31には、クランプ35を、キャビティ型31のコア型26側の端面31aに接近するクランプ位置(図3(a))と、同端面31aからコア型26側へ離間するクランプ解除位置(図2(a))との間で移動させる駆動機構(図示略)が設けられている。
【0041】
さらに、図3(b)及び図4に示すように、金型25の近傍には、キャビティ型31及びコア型26とは別に設けられた可動部材40が、上下方向及び水平方向へ移動可能に配置されている。可動部材40のキャビティ型31側の面には、通電により発熱するヒータ41が取付けられている。このヒータ41は、フィルム20が、キャビティ型31側へ押されるとき、及び真空吸引されるときに伸びやすくすることを目的とし、それらの直前に同フィルム20を加熱して軟化させるためのものである。
【0042】
また、可動部材40において、ヒータ41とは異なる箇所には、キャビティ型31に向けて突出する押圧部42が設けられている。押圧部42は、フィルム20を突条部33に対し、その突条部33の全長にわたって押付けることができるように、同突条部33に対応する形状に形成されている。表現を変えると、キャビティ型31側から見た場合の押圧部42の形状と、コア型26側から見た場合の突条部33の形状とが対応するように、押圧部42が形成されている。
【0043】
図7(a)に示すように、押圧部42としては、上記キャビティ型31の突条部33の厚みt(図2(b)参照)よりも大きな厚みTを有するもの、本実施形態では、8mm程度の厚みTを有するものが用いられている。押圧部42の大部分は、硬質合成樹脂等の硬質材によって形成されているが、同押圧部42の先端部42aは、ゴム等の軟質材によって形成されている。先端部42aの表面は曲面状をなしている。量産性、及び加飾模様層15の形成位置精度を考慮すると、軟質材の望ましい硬度は、ショアA硬度で10°〜50°である。軟質材のより望ましい硬度は、ショアA硬度で15°〜30°である。
【0044】
図2(a)に示すように、上述したフィルム20のロール22は、キャビティ型31の上方近傍に配置されている。また、キャビティ型31の下方近傍には、加飾模様層15の剥離された基材フィルム21を巻き取るための巻取り装置(図示略)が配置されている。
【0045】
次に、本実施形態の作用として、加飾成形品11を製造する方法について、図2図7に従って説明する。
まず、図2(a)に示すように、コア型26がキャビティ型31から離間する側へ移動させられて、金型25が型開きされる。このときには、クランプ35はクランプ解除位置に保持されている。
【0046】
この状態で、巻取り装置が作動させられることで、キャビティ型31の上方のロール22から、フィルム20がキャビティ型31とクランプ35との間へ送り出される。送り出されたフィルム20では、基材フィルム21がキャビティ型31側に位置し、かつ加飾模様層15がコア型26側に位置する。上記フィルム20の送り出しは、加飾模様層15が予め定められた箇所まで移動したところで停止される。すなわち、加飾模様層15のキャビティ型31に対する位置決めが行なわれる。この位置決めは、例えば、上述した位置決め用のマークがセンサによって検出されることをもって行なわれる。
【0047】
次に、金型25が型開き状態に維持されたうえで、図3(a)に示すように、クランプ35がクランプ位置まで移動させられることで、フィルム20がクランプ35によってキャビティ型31に押え付けられる。フィルム20が、キャビティ型31のコア型26側の端面31aにおいて成形面34の周りで密閉状態(シール状態)に保持(係止)される。キャビティ型31の成形面34とフィルム20との間に密閉空間43が形成される。
【0048】
続いて、金型25が型開き状態に維持されたうえで、図3(b)に示すように、可動部材40が下降させられる。この下降は、ヒータ41が、フィルム20とコア型26の成形突部27との間に位置するまで行なわれる。このヒータ41への通電によって同ヒータ41が発熱させられ、フィルム20が加熱される。この加熱により、フィルム20は軟化して伸びやすくなる。
【0049】
フィルム20の加熱後、同図3(b)において、押圧部42の先端部42aが突条部33に対向する高さまで可動部材40が上昇させられる。次に、可動部材40がキャビティ型31側へ移動させられる。この移動に伴って押圧部42がキャビティ型31側へ移動し、フィルム20が、両模様部16,17の境界部分18において、押圧部42の先端部42aによってキャビティ型31側へ押される。このときには、基材フィルム21は伸びるが、押圧部42によって押されていて、同押圧部42に対し動きにくい。加飾模様層15についても同様であり、加飾模様層15の境界部分18は押圧部42に対し動きにくい。
【0050】
上記のように押圧部42によって押されることで、フィルム20は同押圧部42に対する位置を保持しつつ伸びて成形面34に近づく。そして、図4に示すようにフィルム20は、キャビティ型31の成形面34の一部(突条部33)に押付けられる。
【0051】
このとき、フィルム20が押付けられるキャビティ型31が金属によって形成されていて硬質であるのに対し、フィルム20を押す押圧部42の先端部42aは軟質材によって形成されている。そのため、上記フィルム20の突条部33に対する押付けは、上記先端部42aが弾性変形することによって行なわれる。
【0052】
ここで、押圧部42の先端部42aは、加飾模様層15の形成位置精度を高める観点から、硬度のより低い軟質材によって形成されることが望ましい。これは、以下の理由による。図7(a),(b)は、押圧部42の先端部42aによってフィルム20を突条部33に押付けたときの状態を示している。図7(a)と図7(b)との違いは、前者の方が後者よりも硬度の低い軟質材が使用されて先端部42aが形成されていることである。
【0053】
図7(b)に示すように、硬度の高い軟質材を用いて形成された先端部42aによってフィルム20が突条部33に押付けられた場合には、先端部42aの弾性変形量が少ない。そのため、両模様部16,17の境界部分18が、先端部42aによって突条部33に押付けられない場合には、その後に行なわれる真空吸引により、境界部分18が先端部42aに対し動き、成形面34のうち突条部33からずれた箇所に密着するおそれがある。
【0054】
これに対し、図7(a)に示すように、硬度の低い軟質材を用いて形成された先端部42aによってフィルム20が突条部33に押付けられた場合には、同先端部42aの弾性変形量が多い。そのため、両模様部16,17の境界部分18が、弾性変形した先端部42aによって押付けられる。特に、押圧部42の厚みTが、突条部33の厚みtよりも大きいことから、弾性変形した先端部42aが境界部分18の押付けに関わる箇所の面積が大きい。境界部分18は、弾性変形した先端部42aによって突条部33に押付けられやすい。従って、その後に真空吸引されても境界部分18が先端部42aに対し動きにくく、突条部33に密着する。
【0055】
次に、上記図4の状態で真空ポンプによる真空吸引が開始され、上記密閉空間43が減圧される。この減圧により、フィルム20は、キャビティ型31側へ引き込まれて伸び、図5(a)に示すように、成形面34に密着させられて、同成形面34に倣った形状に賦形(予備成形)される。このとき、図4に示すように、フィルム20のうち押圧部42によって成形面34に押付けられている箇所、すなわち、隣り合う模様部16,17の境界部分18は、その箇所から動くことを規制される。そのため、単にフィルム20が成形面34に近づけられた状態、すなわち、成形面34に押付けられない状態で真空吸引された場合(特許文献1)とは異なり、成形面34に密着するまでに境界部分18が押圧部42に対し動いて、位置がずれることが起こりにくい。また、成形面34に対する加飾模様層15の位置は、フィルム20の温度分布のばらつきや、密閉空間43内での空気の流れのばらつきから影響を受けにくい。
【0056】
可動部材40は、次サイクルでの加熱に備え、金型25の外部の待機位置へ退避させられる。
続いて、フィルム20が上記図5(a)に示すように成形面34に密着されると、図5(b)に示すように、金型25の型締めが行なわれる。この型締めは、コア型26がキャビティ型31側へ移動させられることにより行なわれる。型締めにより、フィルム20のうちキャビティ型31の成形面34に密着した部分と、コア型26のコア面28との間にキャビティ44が形成される。
【0057】
図6(a)に示すように、スプルーゲート29を通じて溶融樹脂45がキャビティ44に射出される。その後、溶融樹脂45が冷却されることで、図6(b)に示すように溝部13を有する成形品本体12が成形される。この成形の過程で、溶融樹脂45の熱、射出の圧力等により、フィルム20の基材フィルム21から加飾模様層15が剥離する。加飾模様層15は、隣り合う模様部16,17の境界部分18が、成形品本体12のうち、予め定められた形成予定箇所である、溝部13の内壁面に位置するように、成形品本体12の意匠面14に対し、高い位置精度で、転写(付着)される。この転写(付着)により、成形品本体12の意匠面14に対し、加飾模様層15が高い形成位置精度で形成された加飾成形品11が得られる。
【0058】
その後、図6(b)に示すように、コア型26がキャビティ型31から離間する側へ移動させられることで金型25の型開きが行なわれる。そして、金型25から上記加飾成形品11が取り出される。また、このときには、次サイクルの加飾成形品11の製造に備えて、クランプ35がクランプ解除位置へ移動させられる。
【0059】
そして、巻取り装置によりフィルム20が所定長さだけ巻き取られる(送り出される)ことにより、加飾成形品製造のための1サイクルが終了する。
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
【0060】
(1)キャビティ型31に位置決めされた状態で係止されたフィルム20を、真空吸引に先立ち、押圧部42の先端部42aによりキャビティ型31側へ押して成形面34の一部(突条部33)に押付けている(図4)。
【0061】
そのため、真空吸引に先立ち、フィルム20をキャビティ44側へ押して成形面34に近づけるもの(特許文献1)に比べ、真空吸引時におけるフィルム20の動き量を少なくすることができる。加飾模様層15のより正確な位置合わせが可能となる。その結果、従来(特許文献1)よりも質感の高い加飾成形品11を得ることができる。
【0062】
(2)押圧部42として、先端部42aが軟質材によって形成されたものを用い、この先端部42aによってフィルム20をキャビティ型31の成形面34の一部(突条部33)に押付けている(図4)。
【0063】
そのため、押圧部42の先端部42aが硬質材によって形成された場合とは異なり、同先端部42aを弾性変形させることで、フィルム20、キャビティ型31及び押圧部42に傷が付くのを抑制することができる。
【0064】
また、キャビティ型31の成形面34と押圧部42との間隙にばらつきがあっても、先端部42aを弾性変形させることで、そのばらつきを吸収することができる。
(3)加飾模様層15を2種類の模様部16,17によって構成する。押圧部42の先端部42aによるフィルム20の押付けを、両模様部16,17の境界部分18において行なうようにしている(図4)。
【0065】
そのため、成形品本体12の成形の過程で、加飾模様層15を、両模様部16,17の境界部分18が、成形品本体12のうち、予め定められた形成予定箇所(溝部13)に位置するように、高い位置精度で転写(付着)させることができる。
【0066】
(4)本実施形態の製造方法は、表層部に溝部13を有し、かつ両模様部16,17の境界部分18が溝部13の内壁面に位置する加飾成形品11を製造対象とする。そして、押圧部42の先端部42aによって、境界部分18においてフィルム20を突条部33に押付けるようにしている(図4)。
【0067】
そのため、境界部分18が溝部13の内壁面に位置するように、加飾模様層15を成形品本体12に対し高い形成位置精度で転写(付着)させることができる。
従って、両模様部16,17の境界部分18では、互いに異なる模様が隣接することになるが、同境界部分18を溝部13の内壁面に位置させることで、同境界部分18を加飾成形品11の他の箇所に位置させる場合よりも目立ちにくくすることができる。
【0068】
(5)キャビティ型31及びコア型26とは別に、押圧部42を有する可動部材40を用いている(図3(b)、図4)。
そのため、金型25が型開きされた状態で可動部材40をキャビティ型31側へ移動させることで、押圧部42の先端部42aにより、フィルム20をキャビティ44側へ押し、成形面34の一部(突条部33)に押付けることができ、上記(1)の効果を得ることができる。
【0069】
(6)フィルム20として、基材フィルム21上に加飾模様層15が剥離可能に形成されたものを用いる(図2(a))。そして、成形品本体12の成形の過程で、基材フィルム21から加飾模様層15を剥離させて成形品本体12の意匠面14に転写(付着)させている(図6(a),(b))。
【0070】
そのため、成形品本体12の意匠面14に加飾模様層15のみを転写(付着)させる加飾成形品11において、上記(1)の効果を得ることができる。
(7)押圧部42の先端部42aによってフィルム20がキャビティ型31側へ押される前に、同フィルム20をヒータ41によって加熱している(図3(b))。
【0071】
そのため、上記加熱により、フィルム20を軟化させて伸びやすくすることができる。従って、キャビティ型31の成形面34が深く、フィルム20を成形面34に密着させるために大きく伸ばす(深絞りする)必要がある場合に有効である。
【0072】
(8)成形品本体12の成形時に加飾模様層15を同成形品本体12に転写(付着)させている(図6(a))。
そのため、成形品本体12が成形された後に、同成形品本体12の意匠面14に塗装等の加飾処理を施す必要がなく、その分、製造コストを低減することができる。
【0073】
(9)フィルム20の成形加工(予備成形加工)を含む加飾成形品11の全ての製造工程を、同一の金型25を用いて行なっている(図2(a)〜図6(b))。
そのため、フィルム20を成形してなる成形体を予め製作しておき、この成形体を金型内に設置するとともに、その成形体の裏面側に溶融樹脂を射出等することによって、加飾成形品を製造する場合に比べ、工程数を減らして効率化を図ることができる。
【0074】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
<押圧部42について>
・押圧部42は、少なくともその先端部42aが軟質材によって形成されたものであればよい。従って、押圧部42のうち先端部42aに加え、それ以外の箇所も軟質材によって形成されてもよい。
【0075】
・可動部材40に代えて、コア型26に押圧部42が設けられてもよい。この場合には、金型25の型締めに際し、コア型26をキャビティ型31側へ移動させることで、そのキャビティ型31に係止されたフィルム20を、押圧部42によってキャビティ型31へ押して成形面34の一部(突条部33)に押付ける。その後に、フィルム20を真空吸引により成形面34に密着させる。型締め状態の金型25のキャビティ44に溶融樹脂45を射出して成形品本体12を成形するとともに、フィルム20の加飾模様層15を成形品本体12の意匠面14に転写(付着)させる。
【0076】
<金型25について>
・上記実施形態とは逆に、コア型26が固定型によって構成され、キャビティ型31が可動型によって構成されてもよい。
【0077】
・キャビティ型31及びコア型26の一方が固定型によって構成され、他方が、上下動することにより上記固定型に対し接近及び離間する可動型によって構成されてもよい。
・キャビティ型31の成形面34において、押圧部42によってフィルム20が押付けられる箇所が、上記突条部33とは異なる箇所に変更されてもよい。該当する箇所には、成形面34において平坦な可箇所が含まれる。要するに、上記箇所は、押圧部42の先端部42aによって押されたフィルム20を受け止めることができる箇所であればよい。
【0078】
<フィルム20について>
・加飾模様層15は、1種類の模様部によって構成されてもよいし、3種類以上の模様部によって構成されてもよい。
【0079】
・フィルム20として、透明な樹脂材料(例えばアクリル樹脂等)によって形成された基材フィルム21と、その基材フィルム21上に接着された加飾模様層15とを備えるものが用いられてもよい。
【0080】
この場合、成形品本体12の成形の過程で、加飾模様層15が成形品本体12の意匠面14上に形成されるとともに、その加飾模様層15上に、上記基材フィルム21からなる透明樹脂層が形成される。
【0081】
この加飾成形品11では、加飾模様層15及び成形品本体12が透明樹脂層によって覆われて保護される。
<その他>
・上記加飾成形品の製造方法は、キャビティ型31の成形面34が深い場合に特に効果が大きいが、成形面34が浅い場合であっても適用可能である。この場合には、ヒータ41によるフィルム20の加熱処理が割愛されてもよい。
【0082】
・上記加飾成形品の製造方法は、自動車用の内装品に限らず自動車における各種樹脂成形品を製造する場合に適用可能である。
また、上記製造方法は、自動車以外の分野、例えば家電部品、雑貨品、日用品等における各種樹脂成形品を製造する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0083】
11…加飾成形品、12…成形品本体、13…溝部、14…意匠面、15…加飾模様層、16,17…模様部、18…境界部分、20…フィルム、21…基材フィルム、25…金型、26…コア型、28…コア面、31…キャビティ型、33…突条部、34…成形面、40…可動部材、42…押圧部、42a…先端部、44…キャビティ、45…溶融樹脂。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7