特許第6376048号(P6376048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376048
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】プレス成形方法及びプレス型
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20180813BHJP
   B21D 22/02 20060101ALI20180813BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20180813BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   B21D22/26 D
   B21D22/02 E
   B21D22/20 E
   B21D24/00 B
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-121386(P2015-121386)
(22)【出願日】2015年6月16日
(65)【公開番号】特開2017-6926(P2017-6926A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2017年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三登 悠司
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩市
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 利和
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−027698(JP,A)
【文献】 特開2014−240078(JP,A)
【文献】 特開2013−035068(JP,A)
【文献】 特開2009−255117(JP,A)
【文献】 特開2014−8508(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0000336(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/02
B21D 22/20 − 22/26
B21D 24/00
B21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下型ポンチと、当該下型ポンチに素材を押圧するパッドと、当該パッドの外側に成形面を有する上型ダイとを備え、長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、そのハット頂上部を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とが形成されたプレス部品を、展開抜きされた素材を冷間で曲げ加工して形成するプレス成形方法であって、
前記伸びフランジ成形部及び前記縮みフランジ成形部から離間する位置で前記ハット頂上部の素材部分を前記パッドが押圧した状態で、前記上型ダイは、前記下型ポンチに近接して前記伸びフランジ成形部及び前記縮みフランジ成形部を形成する素材部分を、前記下型ポンチに対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ回転移動させてから、前記下型ポンチに押圧することを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたプレス成形方法において、
前記上型ダイは、前記伸びフランジ成形部と前記縮みフランジ成形部とその間に挟まれた前記ハット頂上部とを形成する素材部分を、前記パッドを介することなく前記下型ポンチに押圧することを特徴とするプレス成形方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載されたプレス成形方法において、
前記伸びフランジ成形部を形成する素材部分には、その素材外縁から外方へ延びる余肉部を設けることを特徴とするプレス成形方法。
【請求項4】
請求項3に記載されたプレス成形方法において、
前記上型ダイと前記下型ポンチには、前記余肉部を拘束するように形成された上型凸部と下型凹部とを備え、前記上型凸部と前記下型凹部とによって前記余肉部を拘束した後に、前記伸びフランジ成形部及び前記縮みフランジ成形部を形成する素材部分の曲げ加工を完了させることを特徴とするプレス成形方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載されたプレス成形方法において、
前記素材は、引張強度が1〜1.2GPa程度の鋼板からなることを特徴とするプレス成形方法。
【請求項6】
下型ポンチと、当該下型ポンチに当接する素材を押圧するパッドと、当該パッドの外側に成形面を有する上型ダイとを備え、長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、そのハット頂上部を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とが形成されたプレス部品を、展開抜きされた素材を冷間で曲げ加工して形成するプレス型であって、
前記パッドは、前記伸びフランジ成形部及び前記縮みフランジ成形部から離間する位置で前記ハット頂上部を形成する素材部分を前記下型ポンチに押圧可能に形成されたこと、
前記上型ダイは、曲げ加工途中に、前記伸びフランジ成形部及び前記縮みフランジ成形部を形成する素材部分を、前記下型ポンチに対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ回転移動可能に形成されたことを特徴とするプレス型。
【請求項7】
請求項6に記載されたプレス型において、
前記上型ダイは、前記伸びフランジ成形部と前記縮みフランジ成形部とその間に挟まれた前記ハット頂上部とを形成する素材部分を、前記パッドを介することなく前記下型ポンチに押圧可能に形成されたことを特徴とするプレス型。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載されたプレス型において、
前記上型ダイと前記下型ポンチには、前記伸びフランジ成形部を形成する素材部分の素材外縁から外方へ延びる余肉部を、前記伸びフランジ成形部及び前記縮みフランジ成形部を形成する素材部分の曲げ加工開始前に、拘束するように形成された上型凸部と下型凹部とを備えたことを特徴とするプレス型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、その略ハット型断面のハット頂上部を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とが形成されたプレス部品を、曲げ加工によって形成するプレス成形方法及びプレス型に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、図16図17に示すように、長手方向へ連続する略ハット型断面を有するプレス部品100を、曲げ加工によって形成するプレス型200は、略ハット型断面に沿って成形面が形成された下型ポンチ201と、下型ポンチ201における成形面の上端部(ハット頂上部101に対応)に当接する素材SSを上方から押圧するパッド202と、パッド202の輪郭線外側に位置し略ハット型断面の左右側壁部に沿って形成された曲げ刃203Dを有する上型ダイ203とを備えている。上記プレス型200では、下型ポンチ201における成形面の上端部に当接する素材SSをパッド202によって押圧した状態で上型ダイ203が下降し、その曲げ刃203Dが素材SSを下型ポンチ201に押圧して下型ポンチ201の成形面に沿った形状に曲げ加工する。
【0003】
しかし、上記プレス部品100において、略ハット型断面のハット頂上部101を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部102と縮みフランジ成形部103とが形成されているので、曲げ加工後に、伸びフランジ成形部102には引張応力α1が残留し、縮みフランジ成形部103には圧縮応力α2が残留する。そのため、図18に示すように、曲げ加工後のプレス部品100では、伸びフランジ成形部102が残留引張応力によって側壁内方(矢印B1の方向)へ変形しやすく、また、縮みフランジ成形部103が残留圧縮応力によって側壁外方(矢印B2の方向)へ変形しやすくなり、略ハット型断面が断面中心104に対して回転する捻り変形が発生する場合がある。特に、素材SSが、所謂、超高張力鋼板(例えば、引張強度が1〜1.2GPa程度の鋼板)であると、曲げ加工後におけるプレス部品100の捻り量が大きくなり、プレス部品100の寸法精度を所定の公差内に保証することが困難となる問題があった。
【0004】
この問題に対して、上記プレス部品を絞り加工によって形成する方法も考えられるが、絞り加工時に素材が上型ダイの肩R部を通過する時の曲げ、曲げ戻しに伴う左右側壁部の反り癖が残るので、これによる寸法精度不良が発生しやすい問題がある。また、絞り加工による成形方法を選択すると、曲げ加工による成形方法を選択した場合に比較して工程数が増加する問題がある。
【0005】
そこで、素材が上記超高張力鋼板である場合には、工程数を増加させずに、成形時における寸法精度を向上させるべく、加熱された状態のワーク(素材)を曲げ加工すると同時に冷却して焼き入れ処理するホットスタンプ加工やホットプレス加工に関する技術が検討されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/055416号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示されているホットプレス用金型では、ワークを介して付加される加圧力によって伸縮するストローク式の温度測定装置を具備し、温度測定装置は、金型の成形面から外方に向けて突出した状態で設けられ、ワークに接触した状態で当該ワークから加圧力を受けたときに、縮小して型内に没入するように構成されている。そのため、型構造が複雑となり、型費が増加する問題や、温度測定装置が加工中に変形又は破損するおそれがあり、型故障が増加する問題があった。
また、上記ホットプレス用金型では、ワークが所定の加熱温度から焼き入れ温度まで冷却する時間は、型閉じ状態で保持する必要があり、冷間プレス工法に比べて生産性が大幅に低下する問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、そのハット頂上部を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とが形成されたプレス部品を、展開抜きされた素材を冷間で曲げ加工して形成する場合において、簡単な型構造で、生産性を低下させることなく、その寸法精度を向上させることができるプレス成形方法及びプレス型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るプレス成形方法及びプレス型は、次のような構成を有している。
(1)下型ポンチと、当該下型ポンチに素材を押圧するパッドと、当該パッドの外側に成形面を有する上型ダイとを備え、長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、そのハット頂上部を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とが形成されたプレス部品を、展開抜きされた素材を冷間で曲げ加工して形成するプレス成形方法であって、
前記伸びフランジ成形部及び前記縮みフランジ成形部から離間する位置で前記ハット頂上部の素材部分を前記パッドが押圧した状態で、前記上型ダイは、前記下型ポンチに近接して前記伸びフランジ成形部及び前記縮みフランジ成形部を形成する素材部分を、前記下型ポンチに対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ回転移動させてから、前記下型ポンチに押圧することを特徴とする。
【0010】
本発明においては、伸びフランジ成形部及び縮みフランジ成形部から離間する位置でハット頂上部の素材部分をパッドが押圧した状態で、上型ダイは、下型ポンチに近接して伸びフランジ成形部及び縮みフランジ成形部を形成する素材部分を、下型ポンチに対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ回転移動させてから、下型ポンチに押圧するので、素材の曲げ加工途中において、縮みフランジ成形部を形成する素材部分には、素材外縁に沿って延伸させる引張力が作用し、伸びフランジ成形部を形成する素材部分には、材料供給が増加して素材外縁に沿って縮ませる圧縮力が作用する。そのため、曲げ加工が進行するに従って、縮みフランジ成形部を形成する素材部分における曲げ加工に伴う素材外縁の肉余りが減少され、伸びフランジ成形部を形成する素材部分における曲げ加工に伴う素材外縁の肉不足が減少される。したがって、曲げ加工後のプレス部品では、縮みフランジ成形部に残留する圧縮応力が減少し、伸びフランジ成形部に残留する引張応力が減少する。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品において、縮みフランジ成形部の残留圧縮応力及び伸びフランジ成形部の残留引張応力がそれぞれ減少することよって、略ハット型断面が断面中心に対して回転する捻り量を低減させ、その寸法精度を向上させることができる。また、本曲げ加工は、冷間プレス工法で行われ、ホットプレス等のように素材を加熱、冷却する必要がないので、簡単な型構造でよく、生産性の低下を伴うことはない。
【0011】
よって、本発明によれば、長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、その略ハット型断面のハット頂上部を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とが形成されたプレス部品を、展開抜きされた素材を冷間で曲げ加工して形成する場合において、簡単な型構造で、生産性を低下させることなく、その寸法精度を向上させることができるプレス成形方法を提供することができる。
【0012】
(2)(1)に記載されたプレス成形方法において、
前記上型ダイは、前記伸びフランジ成形部と前記縮みフランジ成形部とその間に挟まれた前記ハット頂上部とを形成する素材部分を、前記パッドを介することなく前記下型ポンチに押圧することを特徴とする。
【0013】
本発明においては、上型ダイは、伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とその間に挟まれたハット頂上部とを形成する素材部分を、パッドを介することなく下型ポンチに押圧するので、上型ダイが下型ポンチに近接する途中において、伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とその間に挟まれたハット頂上部とを形成する素材部分は、パッドの拘束を受けず、下型ポンチに対してより容易に回転移動することができる。そのため、縮みフランジ成形部を形成する素材部分における曲げ加工に伴う素材外縁の肉余りがより一層減少され、伸びフランジ成形部を形成する素材部分における曲げ加工に伴う素材外縁の肉不足がより一層減少される。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品において、縮みフランジ成形部の残留圧縮応力及び伸びフランジ成形部の残留引張応力がそれぞれ減少することに基づき、略ハット型断面が断面中心に対して回転する捻り量をより一層低減させることができる。
【0014】
(3)(1)又は(2)に記載されたプレス成形方法において、
前記伸びフランジ成形部を形成する素材部分には、その素材外縁から外方へ延びる余肉部を設けることを特徴とする。
【0015】
本発明においては、伸びフランジ成形部を形成する素材部分には、その素材外縁から外方へ延びる余肉部を設けるので、上型ダイが下型ポンチに近接する途中に余肉部が下方へ引っ張られ、下型ポンチに対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側への素材部分の回転移動をより一層促進させることができる。そのため、縮みフランジ成形部を形成する素材部分における曲げ加工に伴う素材外縁の肉余りがより一層減少され、伸びフランジ成形部を形成する素材部分における曲げ加工に伴う素材外縁の肉不足がより一層減少される。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品において、縮みフランジ成形部の残留圧縮応力及び伸びフランジ成形部の残留引張応力がそれぞれ減少することに基づき、略ハット型断面が断面中心に対して回転する捻り量をより一層低減させることができる。
【0016】
(4)(3)に記載されたプレス成形方法において、
前記上型ダイと前記下型ポンチには、前記余肉部を拘束するように形成された上型凸部と下型凹部とを備え、前記上型凸部と前記下型凹部とによって前記余肉部を拘束した後に、前記伸びフランジ成形部及び前記縮みフランジ成形部を形成する素材部分の曲げ加工を完了させることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、上型ダイと下型ポンチには、余肉部を拘束するように形成された上型凸部と下型凹部とを備え、上型凸部と下型凹部とによって余肉部を拘束した後に、伸びフランジ成形部及び縮みフランジ成形部を形成する素材部分の曲げ加工を完了させるので、上型凸部と下型凹部との間で余肉部を予め拘束(クリンチ)した状態で、伸びフランジ成形部及び縮みフランジ成形部を形成する素材部分の曲げ加工を進行させることができる。そのため、縮みフランジ成形部及び伸びフランジ成形部を形成する素材部分の曲げ加工時における素材の流れを、下型ポンチに対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ向かう略一方通行(矢印Qの方向)とすることができる。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品において、縮みフランジ成形部における肉余り量が減って残留圧縮応力をより一層減少させ、伸びフランジ成形部における材料供給量が増加して残留引張応力をより一層減少させて、略ハット型断面が断面中心に対して回転する捻り量を低減させ、プレス部品全体の寸法精度を更に向上させることができる。
【0018】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載されたプレス成形方法において、
前記素材は、引張強度が1〜1.2GPa程度の鋼板からなることを特徴とする。
【0019】
本発明においては、素材は、引張強度が1〜1.2GPa程度の鋼板からなるので、引張強度が非常に高く通常の冷間プレス工法では形状凍結しにくいプレス部品において、ホットプレス等の生産性の低い工法を用いることなく、プレス部品全体の寸法精度を向上させることができる。また、本プレス成形方法によれば、プレス部品の高強度化と軽量化とを、低コストで実現することができる。
【0020】
(6)下型ポンチと、当該下型ポンチに当接する素材を押圧するパッドと、当該パッドの外側に成形面を有する上型ダイとを備え、長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、そのハット頂上部を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とが形成されたプレス部品を、展開抜きされた素材を冷間で曲げ加工して形成するプレス型であって、
前記パッドは、前記伸びフランジ成形部及び前記縮みフランジ成形部から離間する位置で前記ハット頂上部を形成する素材部分を前記下型ポンチに押圧可能に形成されたこと、
前記上型ダイは、曲げ加工途中に、前記伸びフランジ成形部及び前記縮みフランジ成形部を形成する素材部分を、前記下型ポンチに対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ回転移動可能に形成されたことを特徴とする。
【0021】
本発明においては、パッドは、伸びフランジ成形部及び縮みフランジ成形部から離間する位置でハット頂上部を形成する素材部分を下型ポンチに押圧可能に形成され、上型ダイは、曲げ加工途中に、伸びフランジ成形部及び縮みフランジ成形部を形成する素材部分を、下型ポンチに対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ回転移動可能に形成されたので、素材の曲げ加工途中において、パッドが伸びフランジ成形部及び縮みフランジ成形部から離間する位置でハット頂上部を形成する素材部分を下型ポンチに拘束させ、その拘束させた素材部分を中心にして、伸びフランジ成形部及び縮みフランジ成形部を形成する素材部分を、下型ポンチに対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ回転しつつ移動させることができる。そのため、素材の曲げ加工途中において、縮みフランジ成形部を形成する素材部分には、素材外縁に沿って延伸させる引張力が作用し、伸びフランジ成形部を形成する素材部分には、材料供給が増加して素材外縁に沿って縮ませる圧縮力が作用する。すなわち、曲げ加工が進行するに従って、縮みフランジ成形部を形成する素材部分における曲げ加工に伴う素材外縁の肉余りが減少され、伸びフランジ成形部を形成する素材部分における曲げ加工に伴う素材外縁の肉不足が減少される。したがって、曲げ加工後のプレス部品では、縮みフランジ成形部に残留する圧縮応力が減少し、伸びフランジ成形部に残留する引張応力が減少する。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品において、縮みフランジ成形部の残留圧縮応力及び伸びフランジ成形部の残留引張応力がそれぞれ減少することよって、略ハット型断面が断面中心に対して回転する捻り量を低減させ、その寸法精度を向上させることができる。また、本曲げ加工は、冷間プレス工法で行われ、ホットプレス等のように素材を加熱、冷却する必要がないので、簡単な型構造でよく、生産性の低下を伴うことはない。
【0022】
よって、本発明によれば、長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、そのハット頂上部を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とが形成されたプレス部品を、展開抜きされた素材を冷間で曲げ加工することによって形成する場合において、簡単な型構造で、生産性を低下させることなく、その寸法精度を向上させることができるプレス型を提供することができる。
【0023】
(7)(6)に記載されたプレス型において、
前記上型ダイは、前記伸びフランジ成形部と前記縮みフランジ成形部とその間に挟まれた前記ハット頂上部とを形成する素材部分を、前記パッドを介することなく前記下型ポンチの成形面に押圧可能に形成されたことを特徴とする。
【0024】
本発明においては、上型ダイは、伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とその間に挟まれたハット頂上部とを形成する素材部分を、パッドを介することなく下型ポンチの成形面に押圧可能に形成されたので、上型ダイが下型ポンチに近接する途中において、伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とその間に挟まれたハット頂上部とを形成する素材部分は、下型ポンチの成形面に対してパッドの拘束を受けず、より容易に移動することができる。そのため、縮みフランジ成形部を形成する素材部分における曲げ加工に伴う素材外縁の肉余りがより一層減少され、伸びフランジ成形部を形成する素材部分における曲げ加工に伴う素材外縁の肉不足がより一層減少される。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品において、縮みフランジ成形部の残留圧縮応力及び伸びフランジ成形部の残留引張応力がそれぞれ減少することに基づき、略ハット型断面が断面軸中心に回転する捻り量をより一層低減させることができる。
【0025】
(8)(6)又は(7)に記載されたプレス型において、
前記上型ダイと前記下型ポンチには、前記伸びフランジ成形部を形成する素材部分の素材外縁から外方へ延びる余肉部を、前記伸びフランジ成形部及び前記縮みフランジ成形部を形成する素材部分の曲げ加工開始前に、拘束するように形成された上型凸部と下型凹部とを備えたことを特徴とする。
【0026】
本発明においては、上型ダイと下型ポンチには、伸びフランジ成形部を形成する素材部分の素材外縁から外方へ延びる余肉部を、伸びフランジ成形部及び縮みフランジ成形部を形成する素材部分の曲げ加工開始前に、拘束するように形成された上型凸部と下型凹部とを備えたので、上型凸部と下型凹部との間で余肉部を予め拘束(クリンチ)した状態で、伸びフランジ成形部及び縮みフランジ成形部を形成する素材部分の曲げ加工を進行させることができる。そのため、伸びフランジ成形部及び縮みフランジ成形部を形成する素材部分の曲げ加工時における素材の流れを、下型ポンチに対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ向かう略一方通行(矢印Qの方向)とすることができる。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品において、縮みフランジ成形部における肉余り量が減って残留圧縮応力をより一層減少させ、伸びフランジ成形部における材料供給量が増加して残留引張応力をより一層減少させて、略ハット型断面が断面中心に対して回転する捻り量を低減させ、プレス部品全体の寸法精度を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、そのハット頂上部を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とが形成されたプレス部品を、展開抜きされた素材を冷間で曲げ加工して形成する場合において、簡単な型構造で、生産性を低下させることなく、その寸法精度を向上させることができるプレス成形方法及びプレス型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係るプレス成形方法によって形成するプレス部品を使用する車両の側面図である。
図2図1に示すプレス部品の平面図である。
図3図2に示すプレス部品を、曲げ加工によって形成するための素材の平面図である。
図4図3に示す素材を形成するブランク型(下型)の平面図である。
図5図2に示すプレス部品(A−A断面)を曲げ加工するプレス型の加工開始時における断面図である。
図6図2に示すプレス部品(B−B断面)を曲げ加工するプレス型の加工開始時における断面図である。
図7図2に示すプレス部品(B−B断面)を曲げ加工するプレス型の加工途中時における断面図である。
図8図2に示すプレス部品(B−B断面)を曲げ加工するプレス型の加工途中時における断面図である。
図9図2に示すプレス部品(B−B断面)を曲げ加工するプレス型の加工完了時における断面図である。
図10図2に示すプレス部品(B−B断面)の曲げ加工後の断面図である。
図11図3に示す素材が曲げ加工の進行に伴って移動する状況を説明する説明図である。(A)は曲げ加工初期(80mmUP)を示し、(B)は曲げ加工中期(40mmUP)を示し、(C)は曲げ加工後期(10mmUP)を示し、(D)は曲げ加工完了期(下死点)を示す。
図12図2に示すプレス部品の曲げ加工後における伸びフランジ成形部側の応力分布図(素材の引張強度が980MPaの場合)であって、(A)は従来の曲げ加工方法による応力分布図を示し、(B)は本実施形態による応力分布図を示す。
図13図2に示すプレス部品の曲げ加工後における縮みフランジ成形部側の応力分布図(素材の引張強度が980MPaの場合)であって、(A)は従来の曲げ加工方法による応力分布図を示し、(B)は本実施形態による応力分布図を示す。
図14図2に示すプレス部品の曲げ加工後における伸びフランジ成形部側の応力分布図(素材の引張強度が1180MPaの場合)であって、(A)は従来の曲げ加工方法による応力分布図を示し、(B)は本実施形態による応力分布図を示す。
図15図2に示すプレス部品の曲げ加工後における縮みフランジ成形部側の応力分布図(素材の引張強度が1180MPaの場合)であって、(A)は従来の曲げ加工方法による応力分布図を示し、(B)は本実施形態による応力分布図を示す。
図16】長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、その略ハット型断面のハット頂上部を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とが形成されたプレス部品の斜視図である。
図17図16に示すプレス部品(C−C断面)を、従来の曲げ加工方法によって形成するプレス型の断面図である。
図18図17に示すプレス型によって曲げ加工したプレス部品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の実施形態に係るプレス成形方法及びプレス型について、図面を参照して詳細に説明する。はじめに、本実施形態に係るプレス成形方法によって形成するプレス部品及びその素材の構造を説明し、その後、本プレス型の構造及び本プレス成形方法の曲げ加工による素材流入動作について説明する。次に、曲げ加工後のプレス部品おける応力分布のCAE解析結果を説明する。
【0030】
<プレス部品及び素材の構造>
まず、本実施形態に係るプレス成形方法によって形成するプレス部品及びその素材の構造を、図1図4を用いて説明する。図1に、本発明の実施形態に係るプレス成形方法によって形成するプレス部品を使用する車両の側面図を示す。図2に、図1に示すプレス部品の平面図を示す。図3に、図2に示すプレス部品を、曲げ加工によって形成するための素材の平面図を示す。図4に、図3に示す素材を形成するブランク型(下型)の平面図を示す。
【0031】
図1図2に示すように、本実施形態に係るプレス成形方法によって形成するプレス部品10は、例えば、車両WのサイドパネルSD前部とフロントドアパネルFDの上方に位置するルーフパネルRF前端部とを接続するAピラー部APにおける補強部品である。本プレス部品10は、長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、その略ハット型断面のハット頂上部11(11B)を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部12と縮みフランジ成形部13とが形成されている。
【0032】
伸びフランジ成形部12は、図2に太実線で示す範囲に形成され、フロントドアパネルFDに沿って湾曲状に形成された断面階段状の側壁フランジ部であって、曲げ加工後に引張応力α1が残留しやすい。また、縮みフランジ成形部13は、図2に太破線で示す範囲に形成され、ルーフパネルRFに沿って湾曲状に形成された断面傾斜状の側壁フランジ部であって、曲げ加工後に圧縮応力α2が残留しやすい。伸びフランジ成形部12と縮みフランジ成形部13との間に挟まれたハット頂上部11(11B)は、長手方向に湾曲しながら略一定の幅で平面状に形成されている。伸びフランジ成形部12のフランジ外縁121は、フロントドアパネルFDの開口縁に沿って滑らかに湾曲している。伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13から長手方向で離間した位置のハット頂上部11(11A)は、伸びフランジ成形部12と縮みフランジ成形部13との間で挟まれたハット頂上部11(11B)と連続して形成されている。そのハット頂上部11(11A)は、図2に斜線で示す範囲において略平面状に形成され、車両前端側の幅が拡大されるように形成されている。
【0033】
図3に示すように、本プレス成形方法に用いる素材SSは、素材SSを本プレス成形方法によって曲げ加工すると、素材外縁が本プレス部品10のフランジ外縁と一致するように展開抜きされている。ここで、本プレス成形方法は、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13から長手方向に離間する位置でハット頂上部11Aを形成する素材部分SS1A(ダブル斜線部分)をパッドが下型ポンチに押圧した状態で、上型ダイが下降することによって伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2及び縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3を、下型ポンチの成形面に対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ回転させつつ移動(矢印Rの方向へ移動)させてから、下型ポンチに押圧することによって曲げ加工する。
【0034】
そのため、素材SSの内、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2、縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3、及び両者の間のハット頂上部11(11B)を形成する素材部分SS1Bは、矢印Rの方向へ移動させる以前の状態で、素材外縁が展開抜きされる(仮想線で示す)。なお、素材SSの曲げ加工途中において、縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3には、素材外縁SS31に沿って延伸させる引張力f1が作用し、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2には、材料供給が増加して素材外縁SS21に沿って縮ませる圧縮力f2が作用する。
【0035】
一方、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13から長手方向に離間する位置では、素材部分SS1A(ダブル斜線部分)は下型ポンチの成形面に対して拘束した状態で曲げ加工するので、その周辺(シングル斜線部分)の素材外縁は、拘束した素材部分SS1A(ダブル斜線部分)に対して、長手方向と交差する幅方向から進入するように展開抜きされる。
【0036】
また、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2には、その素材外縁SS21から外方へ延びる余肉部YSが設けられている。余肉部YSは、素材外縁SS21に沿って略一定の幅で形成されている。
【0037】
図4に示すように、素材SSは、コイルから巻き戻した長尺状の鋼板Sを矢印Tの方向からブランク型に供給し、素材外縁を切断刃SSDにて切断して形成する。鋼板Sから素材SSを切断した残りのスクラップ材SCは、鋼板Sの両側端をスクラップ刃SCDによって切り落すことによって分離される。鋼板Sから素材SSを切断する時の鋼板Sの送りピッチPは、素材SSの歩留りに影響するので、送りピッチPを増大させないように余肉部YSの形状を設定することが好ましい。
【0038】
<プレス型の構造及び曲げ加工による素材流入動作>
次に、本プレス型の構造及び本プレス成形方法の曲げ加工による素材流入動作を、図5図11を用いて説明する。図5に、図2に示すプレス部品(A−A断面)を曲げ加工するプレス型の加工開始時における断面図を示す。図6に、図2に示すプレス部品(B−B断面)を曲げ加工するプレス型の加工開始時における断面図を示す。図7に、図2に示すプレス部品(B−B断面)を曲げ加工するプレス型の加工途中時における断面図を示す。図8に、図2に示すプレス部品(B−B断面)を曲げ加工するプレス型の加工途中時における断面図を示す。図9に、図2に示すプレス部品(B−B断面)を曲げ加工するプレス型の加工完了時における断面図を示す。図10に、図2に示すプレス部品(B−B断面)の曲げ加工後の断面図を示す。図11に、図3に示す素材が曲げ加工の進行に伴って移動する状況を説明する説明図を示し、(A)は曲げ加工初期(80mmUP)を示し、(B)は曲げ加工中期(40mmUP)を示し、(C)は曲げ加工後期(10mmUP)を示し、(D)は曲げ加工完了期(下死点)を示す。
【0039】
図5に示すように、本プレス型20は、例えば、引張強度が980MPa以上の高張力鋼板などの素材SSを、冷間プレス工法で曲げ加工する金型であって、成形面が形成された下型ポンチ21と、当該下型ポンチ21の成形面に当接する素材SSを上方から押圧するパッド22と、当該パッド22の輪郭線外側に成形面を有する上型ダイ23とを備えている。パッド22は、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13から長手方向に離間する位置でハット頂上部11Aを形成する素材部分SS1A(図3のダブル斜線部分)を下型ポンチ21の成形面に押圧可能に形成されている。パッド22は、上型ダイ23が素材SSに当接する以前に、素材部分SS1Aを下型ポンチ21に押圧する。そのため、上型ダイ23が素材SSに当接しても、下型ポンチ21に対する素材SSの位置ずれを防止することができる。
【0040】
また、図6に示すように、上型ダイ23は、伸びフランジ成形部12と縮みフランジ成形部13とその間に挟まれたハット頂上部11Bとを形成する素材部分SS2、SS3、SS1Bを、パッド22を介することなく、直接的に下型ポンチ21に押圧するように形成されている。すなわち、本プレス型20では、パッド22によって素材SSを下型ポンチ21に拘束する領域と、パッド22によって素材SSを下型ポンチ21に拘束しない領域とを、素材SSの長手方向で2つに分割している。
【0041】
したがって、本プレス型20では、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13から長手方向に離間する位置でハット頂上部11Aを形成する素材部分SS1A(図3のダブル斜線部分)をパッド22によって下型ポンチ21に拘束して、下型ポンチ21に対する素材SSの位置ずれを防止すると同時に、上型ダイ23が下降する途中において、伸びフランジ成形部12と縮みフランジ成形部13とその間に挟まれたハット頂上部11Bとを形成する素材部分SS2、SS3、SS1Bの下型ポンチ21に対する素材移動の自由度を高めている。
【0042】
また、図6に示すように、上型ダイ23と下型ポンチ21には、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2の素材外縁SS21から外方へ延びる余肉部YSを、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS2、SS3の曲げ加工開始前に、下方へ折り曲げ加工するように形成された上型凸部23Kと下型凹部21Kとを備えている。上型凸部23Kの下端は、縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3を曲げ加工する上型ダイ23の下端より低く形成されている。両者の高さの差Hは、曲げ加工途中に、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS2、SS3を、下型ポンチ21の成形面に対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ移動できるように設定されている。上型凸部23K及び下型凹部21Kにおいて、余肉部YSを下方へ折り曲げ加工する成形面は、プレス方向に対して僅かに傾斜するように形成されている。上型凸部23K及び下型凹部21Kの成形面の水平方向に対する傾斜角θは、75〜85°程度が好ましい。
【0043】
また、図7に示すように、上型ダイ23を素材SSに当接した位置から下降させると、上型凸部23Kが余肉部YSを下方へ折り曲げ加工する。この段階では、上型ダイ23及び下型ポンチ21の成形面同士におけるクリアランスは大きく、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS2、SS3の素材移動の自由度は高い状態にある。そのため、余肉部YSが下方へ折り曲げ加工されることによって、伸びフランジ成形部12と縮みフランジ成形部13とその間に挟まれたハット頂上部11Bとを形成する素材部分SS2、SS3、SS1Bは、下型ポンチ21の成形面213、212に沿うように大きく湾曲しながら、下型ポンチ21の成形面に対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ移動(矢印Rの方向へ移動)する。
【0044】
また、図8に示すように、上型ダイ23が更に下降すると、伸びフランジ成形部12と縮みフランジ成形部13とその間に挟まれたハット頂上部11Bとを形成する素材部分SS2、SS3、SS1Bは、上型ダイ23の肩R部231、232と、下型ポンチ21の肩R部214、215とに押圧されて曲げ加工が進行する。この段階では、余肉部YSが、上型凸部23Kと下型凹部21Kとの間に挟み込まれてクリンチ(拘束)されるので、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2について、素材外縁SS21側からの流入が阻止される。そのため、縮みフランジ成形部13及び伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS3、SS2の曲げ加工時における素材の流れが、下型ポンチ21の成形面に対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ向かう略一方通行(矢印Qの方向)のみとなる。
【0045】
したがって、図9に示すように、上型ダイ23が下死点まで下降したときには、縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3における曲げ加工に伴う素材外縁SS31の肉余りがより一層減少され、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2における曲げ加工に伴う素材外縁SS21の肉不足がより一層減少される。その結果、図10に示す曲げ加工後におけるプレス部品10において、縮みフランジ成形部13の残留圧縮応力α2及び伸びフランジ成形部12の残留引張応力α1がそれぞれ減少する。なお、余肉部YSは、後工程において、伸びフランジ成形部12のフランジ外縁121に沿って切断される。
【0046】
次に、図11を用いて、素材SSが上述した曲げ加工の進行に伴って移動する状況を説明する。図11(A)に示すように、曲げ加工初期(80mmUP)においては、素材SSの移動は殆んど生じていない。パッド22は、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13から長手方向に離間する位置でハット頂上部11Aを形成する素材部分SS1A(図3のダブル斜線部分)を下型ポンチ21の成形面に押圧している。その後、図11(B)に示すように、曲げ加工中期(40mmUP)においては、縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3が矢印Rの方向へ移動して、その素材部分SS3には素材外縁SS31に沿って引張力f1が作用し、縮みフランジ成形に伴う圧縮力F1をキャンセルする。また、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2には素材外縁SS21に沿って圧縮力f2が作用し、伸びフランジ成形に伴う引張力F2をキャンセルする。また、図11(C)に示すように、曲げ加工後期(10mmUP)においても、縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3が矢印Qの方向へ移動して、その素材部分SS3には素材外縁SS31に沿って引張力f1が継続して作用し、縮みフランジ成形に伴う圧縮力F1をキャンセルする。また、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2には素材外縁SS21に沿って圧縮力f2が継続して作用し、伸びフランジ成形に伴う引張力F2をキャンセルする。更に、図11(D)に示すように、曲げ加工完了期(下死点)においては、縮みフランジ成形部13には残留圧縮応力α2が減少した状態で形状凍結される。また、伸びフランジ成形部12には残留引張応力α1が減少した状態で形状凍結される。
【0047】
<プレス部品おける応力分布のCAE解析結果>
次に、本プレス成形方法及び本プレス型による曲げ加工後のプレス部品おける応力分布のCAE解析結果を、図12図15を用いて説明する。ここでは、素材の引張強度が980MPaの場合と、素材の引張強度が1180MPaの場合について、従来の曲げ加工方法と本実施形態の曲げ加工方法とを比較して説明する。なお、従来の曲げ加工方法は、図17に示すように、パッドがハット頂上部を長手方向の全範囲に亘って下型ポンチに押圧した状態で、縮みフランジ成形部及び伸びフランジ成形部を形成する素材部分を曲げ加工する方法である。図12に、図2に示すプレス部品の曲げ加工後における伸びフランジ成形部側の応力分布図(素材の引張強度が980MPaの場合)であって、(A)は従来の曲げ加工方法による応力分布図を示し、(B)は本実施形態による応力分布図を示す。図13に、図2に示すプレス部品の曲げ加工後における縮みフランジ成形部側の応力分布図(素材の引張強度が980MPaの場合)であって、(A)は従来の曲げ加工方法による応力分布図を示し、(B)は本実施形態による応力分布図を示す。図14に、図2に示すプレス部品の曲げ加工後における伸びフランジ成形部側の応力分布図(素材の引張強度が1180MPaの場合)であって、(A)は従来の曲げ加工方法による応力分布図を示し、(B)は本実施形態による応力分布図を示す。図15に、図2に示すプレス部品の曲げ加工後における縮みフランジ成形部側の応力分布図(素材の引張強度が1180MPaの場合)であって、(A)は従来の曲げ加工方法による応力分布図を示し、(B)は本実施形態による応力分布図を示す。なお、各応力分布図は、所定の応力範囲毎に等高線で表し、ドット濃度の濃い方から薄い方まで7段階(a〜g)に分けて表示している。ドット濃度の濃い領域a〜cには、引張応力が生じている。また、ドット濃度の薄い領域e〜gには、圧縮応力が生じている。領域dは、応力が略ゼロの領域である。
【0048】
(素材の引張強度が980MPaの場合)
図12(A)に示すように、従来の曲げ加工方法では、伸びフランジ成形部12の範囲において、引張応力が1番強い領域aが長手方向に連続的に存在する。また、引張応力が1番強い領域aの周囲には、引張応力が2番目に強い領域bが広く存在する。伸びフランジ成形部12の範囲においては、引張応力が1番強い領域aが30%位の面積を占め、引張応力が2番目に強い領域bが残りの70%位の面積を占めている。
【0049】
これに対して、図12(B)に示すように、本実施形態の曲げ加工方法では、伸びフランジ成形部12の範囲において、引張応力が1番強い領域aは存在せず、引張応力が2番目に強い領域bが長手方向に連続的に存在する。また、引張応力が2番強い領域bの周囲には、引張応力が3番目に強い領域cが広く存在する。応力が略ゼロの領域dも、一部存在する。伸びフランジ成形部12の範囲においては、引張応力が2番強い領域bが50%位の面積を占め、引張応力が3番目に強い領域cが40%位の面積を占め、応力が略ゼロの領域dが10%位の面積を占めている。
その結果、本実施形態によれば、伸びフランジ成形部12においては、引張応力のレベルが3段階の内、1段階近く低減できている。
【0050】
また、図13(A)に示すように、従来の曲げ加工方法では、縮みフランジ成形部13の範囲において、圧縮応力が1番強い領域gが長手方向に断続的に3箇所存在する。また、圧縮応力が1番強い領域gの周囲には、圧縮応力が2番目に強い領域fと3番目に強い領域eとが広く存在する。縮みフランジ成形部13の範囲においては、圧縮応力が1番強い領域gが30%位の面積を占め、圧縮応力が2番目に強い領域fが30%位の面積を占め、圧縮応力が3番目に強い領域eが30%位の面積を占め、応力が略ゼロの領域dが10%位の面積を占めている。
【0051】
これに対して、図13(B)に示すように、本実施形態の曲げ加工方法では、縮みフランジ成形部13の範囲において、圧縮応力が1番強い領域gは存在せず、圧縮応力が2番目に強い領域fが長手方向に断続的に3箇所存在する。また、圧縮応力が2番強い領域fの周囲には、圧縮応力が3番目に強い領域eが広く存在する。応力が略ゼロの領域dも、存在する。縮みフランジ成形部13の範囲においては、圧縮応力が2番強い領域fが30%位の面積を占め、圧縮応力が3番目に強い領域eが40%位の面積を占め、応力が略ゼロの領域dが30%位の面積を占めている。
その結果、本実施形態によれば、縮みフランジ成形部13においては、圧縮応力のレベルが3段階の内、1段階近く低減できている。
【0052】
(素材の引張強度が1180MPaの場合)
図14(A)に示すように、従来の曲げ加工方法では、伸びフランジ成形部12の範囲において、引張応力が1番強い領域aが長手方向に非常に広い範囲で連続的に存在する。また、引張応力が1番強い領域aの周囲には、引張応力が2番目に強い領域bと3番目に強い領域cと応力が略ゼロの領域dとが狭い間隔で存在する。伸びフランジ成形部12の範囲においては、引張応力が1番強い領域aが90%位の面積を占め、引張応力が2番目に強い領域bと3番目に強い領域cと応力が略ゼロの領域dとが残りの10%位の面積を占めている。
【0053】
これに対して、図14(B)に示すように、本実施形態の曲げ加工方法では、伸びフランジ成形部12の範囲において、引張応力が1番強い領域aは長手方向で連続的に存在するが、幅方向で範囲が狭くなっている。また、引張応力が1番強い領域aの周囲には、引張応力が2番目に強い領域bと3番目に強い領域cと応力が略ゼロの領域dとが狭い間隔で存在する。伸びフランジ成形部12の範囲においては、引張応力が1番強い領域aが70%位の面積を占め、引張応力が2番目に強い領域bと3番目に強い領域cと応力が略ゼロの領域dとが残りの30%位の面積を占めている。
その結果、本実施形態によれば、引張強度が980MPaの場合より低減レベルが少ないが、伸びフランジ成形部12における引張応力を低減できる効果が認められる。
【0054】
また、図15(A)に示すように、従来の曲げ加工方法では、縮みフランジ成形部13の範囲において、圧縮応力が1番強い領域gが長手方向で広い範囲に存在する。また、圧縮応力が1番強い領域gの上方には、圧縮応力が2番目に強い領域fと応力がゼロの領域dとが狭い間隔で存在する。縮みフランジ成形部13の範囲においては、圧縮応力が1番強い領域gが90%位の面積を占め、圧縮応力が2番目に強い領域fと応力がゼロの領域dとが10%位の面積を占めている。
【0055】
これに対して、図15(B)に示すように、本実施形態の曲げ加工方法では、縮みフランジ成形部13の範囲において、圧縮応力が1番強い領域gは長手方向で断続的に2箇所存在する。また、圧縮応力が1番強い領域gの周囲には、圧縮応力が2番目に強い領域fと3番目に強い領域cと応力が略ゼロの領域dとが狭い間隔で存在する。縮みフランジ成形部13の範囲においては、圧縮応力が1番強い領域gが30%位の面積を占め、圧縮応力が2番目に強い領域fが40%位の面積を占め、圧縮応力が3番目に強い領域eと応力が略ゼロの領域dとが30%位の面積を占めている。
その結果、本実施形態によれば、引張強度が980MPaの場合より低減レベルが少ないが、縮みフランジ成形部13における圧縮応力を低減できる効果が認められる。
【0056】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態のプレス成形方法によれば、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13から長手方向に離間する位置でハット頂上部11Aを形成する素材部分SS1Aをパッド22が下型ポンチ21に押圧した状態で、上型ダイ23は、下降することによって伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS2、SS3を、下型ポンチ21の成形面に対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ回転しつつ移動させてから、下型ポンチ21に押圧するので、素材SSの曲げ加工途中において、縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3には、素材外縁SS31に沿って延伸させる引張力f1が作用し、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2には、材料供給が増加して素材外縁SS21に沿って縮ませる圧縮力f2が作用する。そのため、曲げ加工が進行するに従って、縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3における曲げ加工に伴う素材外縁SS31の肉余りが減少され、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2における曲げ加工に伴う素材外縁SS21の肉不足が減少される。したがって、曲げ加工後のプレス部品10では、縮みフランジ成形部13に残留する圧縮応力α2が減少し、伸びフランジ成形部12に残留する引張応力α1が減少する。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品10において、縮みフランジ成形部13の残留圧縮応力α2及び伸びフランジ成形部12の残留引張応力α1がそれぞれ減少することよって、略ハット型断面が断面中心に対して回転する捻り量を低減させ、その寸法精度を向上させることができる。また、本曲げ加工は、冷間プレス工法で行われ、ホットプレス等のように素材を加熱、冷却する必要がないので、簡単な型構造でよく、生産性の低下を伴うことはない。
【0057】
よって、本実施形態によれば、長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、その略ハット型断面のハット頂上部を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とが形成されたプレス部品を、素材外縁が展開抜きされた素材を冷間プレス工法で曲げ加工することによって形成する場合において、簡単な型構造で、生産性を低下させることなく、その寸法精度を向上させることができるプレス成形方法を提供することができる。
【0058】
また、本実施形態によれば、上型ダイ23は、伸びフランジ成形部12と縮みフランジ成形部13とその間に挟まれたハット頂上部11Bとを形成する素材部分SS2、SS3、SS1Bを、パッド22を介することなく下型ポンチ21に押圧するので、上型ダイ23が下降する途中において、伸びフランジ成形部12と縮みフランジ成形部13とその間に挟まれたハット頂上部11Bとを形成する素材部分SS2、SS3、SS1Bは、パッド22の拘束を受けず、下型ポンチ21に対してより容易に移動することができる。そのため、縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3における曲げ加工に伴う素材外縁SS31の肉余りがより一層減少され、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2における曲げ加工に伴う素材外縁SS21の肉不足がより一層減少される。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品10において、縮みフランジ成形部13の残留圧縮応力α2及び伸びフランジ成形部12の残留引張応力α1がそれぞれ減少することに基づき、略ハット型断面が断面中心に対して回転する捻り量をより一層低減させることができる。
【0059】
また、本実施形態によれば、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2には、その素材外縁SS21から外方へ延びる余肉部YSを設けるので、上型ダイ23が下降する途中に余肉部YSが下方へ引っ張られ、下型ポンチ21の成形面に対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側への素材部分SS2、SS3、SS1Bの移動をより一層促進させることができる。そのため、縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3における曲げ加工に伴う素材外縁SS31の肉余りがより一層減少され、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2における曲げ加工に伴う素材外縁SS21の肉不足がより一層減少される。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品10において、縮みフランジ成形部13の残留圧縮応力α2及び伸びフランジ成形部12の残留引張応力α1がそれぞれ減少することに基づき、略ハット型断面が断面中心に対して回転する捻り量をより一層低減させることができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、上型ダイ23と下型ポンチ21には、余肉部YSを下方へ折り曲げ加工するように形成された上型凸部23Kと下型凹部21Kとを備え、上型凸部23Kと下型凹部21Kとによって余肉部YSを下方へ折り曲げ加工した後に、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS2、SS3の曲げ加工を完了させるので、上型凸部23Kと下型凹部21Kとの間で余肉部YSを予めクリンチ(拘束)した状態で、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS2、SS3の曲げ加工を進行させることができる。そのため、縮みフランジ成形部13及び伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS3、SS2の曲げ加工時における素材の流れを、下型ポンチ21の成形面に対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ向かう略一方通行(矢印Qの方向)とすることができる。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品10において、縮みフランジ成形部13における肉余り量が減って残留圧縮応力α2をより一層減少させ、伸びフランジ成形部12における材料供給量が増加して残留引張応力α1をより一層減少させて、略ハット型断面が断面中心に対して回転する捻り量を低減させ、プレス部品全体の寸法精度を更に向上させることができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、素材SSは、引張強度が1〜1.2GPa程度の鋼板からなるので、引張強度が非常に高く通常の冷間プレス工法では形状凍結しにくいプレス部品において、ホットプレス等の生産性の低い工法を用いることなく、プレス部品全体の寸法精度を向上させることができる。また、本プレス成形方法によれば、プレス部品の高強度化と軽量化とを、低コストで実現することができる。
【0062】
また、本他の実施形態のプレス型によれば、パッド22は、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13から長手方向に離間する位置でハット頂上部11Aを形成する素材部分SS1Aを下型ポンチ21の成形面に押圧可能に形成され、上型ダイ23は、曲げ加工途中に、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS2、SS3を、下型ポンチ21の成形面に対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ回転移動可能に形成されたので、素材SSの曲げ加工途中において、パッド22が伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13から離間する位置でハット頂上部11Aを形成する素材部分SS1Aを下型ポンチ21の成形面に拘束させ、その拘束させた素材部分SS1Aを中心にして、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS2、SS3を、下型ポンチ21の成形面に対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ回転しつつ移動させることができる。そのため、素材SSの曲げ加工途中において、縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3には、素材外縁SS31に沿って延伸させる引張力f1が作用し、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2には、材料供給が増加して素材外縁SS21に沿って縮ませる圧縮力f2が作用する。すなわち、曲げ加工が進行するに従って、縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3における曲げ加工に伴う素材外縁SS31の肉余りが減少され、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2における曲げ加工に伴う素材外縁SS21の肉不足が減少される。したがって、曲げ加工後のプレス部品10では、縮みフランジ成形部13に残留する圧縮応力α2が減少し、伸びフランジ成形部12に残留する引張応力α1が減少する。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品10において、縮みフランジ成形部13の残留圧縮応力α2及び伸びフランジ成形部12の残留引張応力α1がそれぞれ減少することよって、略ハット型断面が断面中心に対して回転する捻り量を低減させ、その寸法精度を向上させることができる。また、本曲げ加工は、冷間で行われ、ホットプレス等のように素材を加熱、冷却する必要がないので、簡単な型構造でよく、生産性の低下を伴うことはない。
【0063】
よって、本他の実施形態によれば、長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、その略ハット型断面のハット頂上部を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とが形成されたプレス部品を、素材外縁が展開抜きされた素材を曲げ加工することによって形成する場合において、簡単な型構造で、生産性を低下させることなく、その寸法精度を向上させることができるプレス型を提供することができる。
【0064】
また、本他の実施形態によれば、上型ダイ23は、伸びフランジ成形部12と縮みフランジ成形部13とその間に挟まれたハット頂上部11Bとを形成する素材部分SS2、SS3、SS1Bを、パッド22を介することなく下型ポンチ21の成形面に押圧可能に形成されたので、上型ダイ23が下降する途中において、伸びフランジ成形部12と縮みフランジ成形部13とその間に挟まれたハット頂上部11Bとを形成する素材部分SS2、SS3、SS1Bは、下型ポンチ21の成形面に対してパッド22の拘束を受けず、より容易に移動することができる。そのため、縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS3における曲げ加工に伴う素材外縁SS31の肉余りがより一層減少され、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2における曲げ加工に伴う素材外縁SS21の肉不足がより一層減少される。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品10において、縮みフランジ成形部13の残留圧縮応力α2及び伸びフランジ成形部12の残留引張応力α1がそれぞれ減少することに基づき、略ハット型断面が断面軸中心に回転する捻り量をより一層低減させることができる。
【0065】
また、本他の実施形態によれば、上型ダイ23と下型ポンチ21には、伸びフランジ成形部12を形成する素材部分SS2の素材外縁SS21から外方へ延びる余肉部YSを、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS2、SS3の曲げ加工開始前に、下方へ折り曲げ加工するように形成された上型凸部23Kと下型凹部21Kとを備えたので、上型ダイ23と下型ポンチ21との間で余肉部YSを予めクリンチ(拘束)した状態で、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS2、SS3の曲げ加工を進行させることができる。そのため、伸びフランジ成形部12及び縮みフランジ成形部13を形成する素材部分SS2、SS3の曲げ加工時における素材の流れを、下型ポンチ21の成形面に対して縮みフランジ成形側から伸びフランジ成形側へ向かう略一方通行(矢印Qの方向)とすることができる。その結果、曲げ加工後におけるプレス部品10において、縮みフランジ成形部13における肉余り量が減って残留圧縮応力α2をより一層減少させ、伸びフランジ成形部12における材料供給量が増加して残留引張応力α1をより一層減少させて、略ハット型断面が断面中心に対して回転する捻り量を低減させ、プレス部品全体の寸法精度を更に向上させることができる。
【0066】
<変形例>
上述した実施形態は、本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜変更することができる。
例えば、本実施形態によれば、上型ダイ23と下型ポンチ21には、余肉部YSを下方へ折り曲げ加工するように形成された上型凸部23Kと下型凹部21Kとを備え、上型凸部23Kと下型凹部21Kとによって余肉部YSを下方へ折り曲げ加工して余肉部YSをクリンチ(拘束)したが、余肉部YSをクリンチ(拘束)する方法は、余肉部YSを下方へ折り曲げ加工する方法に限らない。例えば、上型凸部23Kと下型凹部21Kは、余肉部YSを挟持しながら上下動可能な挟持機構を備えてもよい。
例えば、本実施形態によれば、素材は、引張強度が980MPa以上の高張力鋼板としたが、これに限ることはなく、引張強度が980MPa以下の場合にも適用できることは言うまでもない。
例えば、本実施形態によれば、プレス成形する際、下型ポンチ21を固定し上型ダイ23を上下動させたが、上型ダイ23を固定し下型ポンチ21を上下動させてもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、長手方向へ連続する略ハット型断面を有し、その略ハット型断面のハット頂上部を挟んで対向する位置に伸びフランジ成形部と縮みフランジ成形部とが形成されたプレス部品を、曲げ加工によって形成するプレス成形方法及びプレス型として利用できる。
【符号の説明】
【0068】
10 プレス部品
11、11A、11B ハット頂上部
12 伸びフランジ成形部
13 縮みフランジ成形部
20 プレス型
21 下型ポンチ
21K 下型凹部
22 パッド
23 上型ダイ
23K 上型凸部
SS 素材
YS 余肉部
SS1A、SS1B 素材部分
SS2、SS3 素材部分
SS21、SS31 素材外縁
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