(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記記憶部は、各前記パラメータの値に対応する前記補正値を、前記テンションリールにより前記圧延材の先端部の巻き取りを開始してからの経過時間の関数の形で予め記憶し、
前記張力補正値算出部は、前記パラメータ設定部に入力された前記パラメータの値に対応する前記補正値の関数に、前記テンションリールにより前記圧延材の先端部の巻き取りを開始してからの経過時間を代入して前記補正値を算出する請求項1に記載の圧延材の張力制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明を実施するための形態について添付の図面を参照しながら説明する。各図において、同一又は相当する部分には同一の符号を付して、重複する説明は適宜に簡略化又は省略する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
【0010】
実施の形態1.
図1及び
図2は、この発明の実施の形態1に係るもので、
図1は圧延材の張力制御装置の全体構成を模式的に示す図、
図2は圧延材の張力制御装置が備えるドライブ制御装置の構成を示すブロック図である。
【0011】
この発明に係る圧延材の張力制御装置は、金属の圧延ラインにおいて、圧延が完了した圧延材を巻き取る工程に適用される。
図1に示すのは、この発明に係る圧延材の張力制御装置が適用された圧延ラインにおける圧延が完了した圧延材の巻き取り工程部分である。ここでは、アルミプラント、すなわち、圧延ラインは熱間圧延ラインであり圧延材はアルミである場合を例に挙げて説明する。しかしながら、この発明に係る圧延材の張力制御装置を、ここで説明する例以外の他の種類の圧延ライン、他の種類の圧延材に適用されることは妨げられない。
【0012】
図1に示す仕上げ圧延機1は、圧延材2を仕上げ圧延するものである。前述したように、ここでは、圧延材2は例えばアルミ鋼材である。仕上げ圧延機1は、圧延材2を上下から挟む上下の圧延ロールを備えている。仕上げ圧延機1を通された圧延材2は、最終的な製品の厚さに仕上げられる。
【0013】
テンションリール3は、仕上げ圧延機1により圧延された圧延材2を巻き取るためのものである。仕上げ圧延機1とテンションリール3との間には、デフレクターロール4が設けられている。仕上げ圧延機1から略水平に出てきた圧延材2を、デフレクターロール4により下方へと変向させて、テンションリール3で巻き取るようになっている。なお、デフレクターロール4には、圧延材2にかかる張力を測定する張力測定装置(図示せず)が備えられている。
【0014】
テンションリール3にはマンドレル機構5が設けられている。マンドレル機構5により、テンションリール3は、半径方向に拡大及び縮小可能である。マンドレル機構5によりテンションリール3が拡大することで、圧延材2に対し半径方向の内側から外側の方向に圧力をかけることができる。
【0015】
テンションリール3の外方にはベルトラッパー10が設けられている。ベルトラッパー10は、ベルト11及びローラー12を備えている。ベルト11は、ベルトラッパー10の外周に無端状に巻き掛けられている。ベルトラッパー10のテンションリール3と対向する側の一部分は、テンションリール3の外形とほぼ相似形に凹んでおり、当該部分においてはベルト11がテンションリール3の外周から一定間隔を保って沿うように配置されている。
【0016】
このようにして、ベルト11はベルトラッパー10外周の周回経路に沿って循環移動可能に設けられている。そして、複数のローラー12が、この周回経路の内側に沿ってベルト11の移動を案内するように配置されている。
【0017】
ベルトラッパー10における、テンションリール3の下方側から仕上げ圧延機1側にかけての部分(
図1中で破線で囲った部分)は、可動部13になっている。可動部13は、最下端部を支点にして、
図1中の矢印Aで示すように動くことができる。また、ベルトラッパー10の全体は、
図1中の矢印Bの方向に移動可能である。したがって、可動部13を下げた状態では、可動部13とテンションリール3とが干渉することなく、ベルトラッパー10を矢印Bの方向に移動させることができる。
【0018】
テンションリール3の回転は、電動機6により駆動される。電動機6は、ドライブ装置7から供給される電力により駆動される。ドライブ制御装置20は、テンションリール3の回転速度及びトルクの指令値を出力する。ドライブ装置7は、ドライブ制御装置20から出力された回転速度及びトルクの指令値に基づいて、電動機6が指令値の示す回転速度及びトルクでテンションリール3を回転させるように、電動機6へと供給する電力の例えば電流、電圧、周波数(電動機6が交流モータの場合)等を調節する。
【0019】
次に、
図2を参照しながら、ドライブ制御装置20の構成についてさらに説明する。
図2に示すように、ドライブ制御装置20は、圧延設定計算部21、張力補正値算出部22、記憶部24、パラメータ設定部23及び速度トルク設定部25を備えている。
【0020】
圧延設定計算部21は、定常時における仕上げ圧延機1とテンションリール3との間の圧延材2の張力値を算出する。ここで、定常時とは、テンションリール3での圧延材2の巻き取り中において、仕上げ圧延機1とテンションリール3との間の圧延材2の張力がほぼ一定で大きく変化しない状態となっている時を指す。具体的には、圧延材2の先端部と尾端部とを除く中間部をテンションリール3により巻き取っている状態である。
【0021】
なお、圧延設定計算部21による定常時における圧延材2の張力値の算出は、既知の方法及び構成により、例えば、仕上げ圧延機1での圧延速度、圧延材2の物性値及びテンションリール3の回転速度等を考慮して行うことができる。また、圧延設定計算部21は、当該圧延ラインにおいて、所望の製品コイルを圧延するために必要な他の設定計算も実施するようにしてもよい。
【0022】
張力補正値算出部22は、圧延設定計算部21により算出される仕上げ圧延機1とテンションリール3との間の圧延材2の張力値の補正値を算出するものである。前述したように、圧延材2の中間部を巻き取っている場合には、仕上げ圧延機1とテンションリール3との間の圧延材2の張力は定常的である。これに対し、圧延材2の先端部をテンションリール3に巻き取り始める時は、圧延材2の先端部のテンションリール3への巻き付け状態が時々刻々と変化する過渡的な状態である。このため、圧延材2の先端部の巻き取りを開始してから巻き取りが完了して定常状態に移行するまでの間は、仕上げ圧延機1とテンションリール3との間の圧延材2の張力値が変動する。
【0023】
そこで、張力補正値算出部22は、テンションリール3により圧延材2の先端部の巻き取りを開始してから予め定めた一定時間が経過するまでの間における圧延材2の張力値の補正値を算出する。なお、この補正値算出の対象となる前記一定時間は、巻き付けが完了するまでに必要な時間以上となるように予め定められる。
【0024】
次に、この張力補正値算出部22における張力値の補正値の算出方法について説明する。張力補正値算出部22による補正値の算出は、圧延材2の先端部における摩擦ロス、曲げ応力、マンドレル機構5の拡大時の張力、及び、圧延材2の先端部による巻き付け時の段差の各要素を考慮して行う。
【0025】
ここで、摩擦ロスは、圧延材2の先端部分とベルトラッパー10及びテンションリール3との間における摩擦により発生するロスである。曲げ応力は、テンションリール3に巻き付ける上で圧延材2を曲げるために必要な曲げ応力である。また、マンドレル機構5の拡大時の張力は、マンドレル機構5を拡大した際にテンションリール3を介して圧延材2に作用する張力である。そして、圧延材2の先端部による巻き付け時の段差とは、テンションリール3に2周回目以降に巻き付けられる圧延材2が乗り上げる圧延材2の先端部の段差のことである。
【0026】
張力の補正値の算出に必要なこれらの各要素は、圧延材2の種別、幅及び厚み並びに圧延材2の温度の各パラメータにより変化する。換言すれば、これらの各要素は、これらのパラメータを用いた例えば物理演算等により導出する事ができる。
【0027】
パラメータ設定部23は、これらの圧延材2の種別、幅及び厚み並びに圧延材2の温度の各パラメータを設定するためのものである。具体的に例えば、パラメータ設定部23は、操作者が各パラメータの値を入力するための入力装置を備えている。そして、操作者はこの入力装置を操作して、予め圧延材2の種別、幅及び厚み並びに圧延材2の温度の各パラメータの値を入力する。
【0028】
パラメータ設定部23は、入力された値に基づいて、圧延材2の種別、幅及び厚み並びに圧延材2の温度の各パラメータの値を設定する。そして、張力補正値算出部22は、パラメータ設定部23により設定された各パラメータの値に基づいて、仕上げ圧延機1とテンションリール3との間の圧延材2の張力値の補正値を算出する。
【0029】
この実施の形態においては、ドライブ制御装置20が備える記憶部24に、圧延材2の材質、幅及び厚み並びに温度の各パラメータの値に対応する張力の補正値が予め記憶されている。すなわち、各パラメータの値をそれぞれ変化させた場合の張力の補正値について予め計算しておき、この計算結果を、各パラメータの値の組のそれぞれに対応させた形で、記憶部24に予め記憶している。そして、張力補正値算出部22は、パラメータ設定部23に入力された各パラメータの値の組に対応する補正値を取得することで、必要な補正値を算出する。
【0030】
ここで、前述したように、補正値算出の対象となる前記一定時間の間においては、圧延材2の張力は定常状態へと向けて変化する。そこで、記憶部24は、各前記パラメータの値に対応する前記補正値を、テンションリール3により前記圧延材の先端部の巻き取りを開始してからの経過時間の関数の形で予め記憶している。そして、張力補正値算出部22は、パラメータ設定部23に入力された各前記パラメータの値に対応する補正値の関数に、テンションリール3により圧延材2の先端部の巻き取りを開始してからの経過時間を代入して補正値を算出する。
【0031】
あるいは、テンションリール3により圧延材2の先端部の巻き取りを開始してからの経過時間毎の補正値についても予め算出して記憶部24に記憶しておき、張力補正値算出部22は、各前記パラメータの値に対応する補正値を、経過時間毎に記憶部24から取得して算出するようにしてもよい。
【0032】
速度トルク設定部25は、圧延設定計算部21が算出した張力値と張力補正値算出部22が算出した補正値とに基づいて、テンションリール3の回転速度及びトルクの指令値を設定する。すなわち、速度トルク設定部25は、圧延設定計算部21が算出した張力値を張力補正値算出部22が算出した補正値により補正し、目標とする圧延材2の張力値を計算する。そして、目標とする圧延材2の張力値を達成するためのテンションリール3の回転速度及びトルクを算出し、この算出した回転速度及びトルクの値を指令値とする。速度トルク設定部25により設定された指令値は、ドライブ制御装置20からドライブ装置7へと出力される。
【0033】
次に、以上のように構成された圧延材の張力制御装置における、テンションリール3による圧延材2の巻き取り開始時における動作について説明する。テンションリール3による圧延材2の巻き取り開始時においては、ベルトラッパー10は、
図1に示すように、ベルト11がテンションリール3の周囲にテンションリール3の外周から一定間隔を保って沿う位置に配置される。また、マンドレル機構5は縮小した状態である。
【0034】
仕上げ圧延機1を通った圧延材2の先端部が、テンションリール3とベルトラッパー10との間に挿入されると、圧延材2の先端部がベルトラッパー10に誘導されて、テンションリール3の外周に巻き付き始める。
【0035】
テンションリール3による圧延材2の先端部の巻き取りが開始されると、圧延設定計算部21は圧延材2の張力値を算出する。また、張力補正値算出部22は、圧延材2の張力値の補正値を算出する。速度トルク設定部25は、張力補正値算出部22からの補正値により補正された後の圧延材2の張力値に基づいて、速度及びトルクの指令値を設定する。ドライブ装置7は、こうして設定された指令値に基づいて電動機6を駆動制御し、テンションリール3が電動機6により回転される。
【0036】
こうして、張力補正値算出部22により算出された補正値により補正された張力値に基づくテンションリール3の回転制御が実施され、圧延材2はテンションリール3に巻き付けられていく。そして、圧延材2のテンションリール3への巻き付けが完了するタイミングでマンドレル機構5が拡大して、巻き取られた圧延材2を内側から保持する。また、ベルトラッパー10は、テンションリール3から離れる方向に後退する。
【0037】
また、圧延材2のテンションリール3への巻き付けの完了後、圧延材2のテンションリール3への巻き付けを開始してから前記一定時間が経過した以降は、張力補正値算出部22は補正値の算出を行わない。したがって、圧延材2のテンションリール3への巻き付けを開始してから前記一定時間が経過した後は、圧延設定計算部21により設定された圧延材2の張力値に基づいてテンションリール3の回転制御が実施され、テンションリール3に圧延材2がコイル状に巻き取られていくことになる。
【0038】
以上のように構成された圧延材の張力制御装置は、仕上げ圧延機1による圧延が完了した圧延材2を巻き取るテンションリール3を回転させる電動機6を制御するものである。そして、テンションリール3の回転速度及びトルクの指令値を出力するドライブ制御装置20と、ドライブ制御装置20から出力された指令値に基づいて、電動機6に電力を供給するドライブ装置7と、を備えている。また、その上で、ドライブ制御装置20は、定常時における仕上げ圧延機1とテンションリール3との間の圧延材2の張力値を算出する圧延設定計算部21と、テンションリール3により圧延材2の先端部の巻き取りを開始してから予め定めた一定時間が経過するまでの間の前記張力値の補正値を算出する張力補正値算出部22と、圧延設定計算部21が算出した張力値と張力補正値算出部22が算出した補正値とに基づいて、前記指令値を設定する速度トルク設定部25と、を備えている。
【0039】
このため、圧延材2がテンションリール3に巻き付く初期段階において、テンションリール3を駆動する電動機6の制御に用いる圧延材2の張力値を張力補正値算出部22で算出した補正値によって補正することで、圧延材2がテンションリール3に到達してから巻き付くのに必要な最小限のターン数を巻き取った後に、速やかにマンドレル機構5を拡大させることができる。したがって、圧延材2のテンションリール3への巻き取り開始時にマンドレル機構5を拡大するまでに必要な時間を短縮することができ、マンドレル機構5又はベルトラッパー10に起因する傷、歪み等が製品(圧延材2)にできる範囲が狭まり、歩留まりを向上することが可能である。