特許第6376140号(P6376140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6376140-自動車部品及び自動車部品の製造方法 図000004
  • 特許6376140-自動車部品及び自動車部品の製造方法 図000005
  • 特許6376140-自動車部品及び自動車部品の製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376140
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】自動車部品及び自動車部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20180813BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20180813BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20180813BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20180813BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20180813BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20180813BHJP
   C23C 22/07 20060101ALI20180813BHJP
   C25D 13/00 20060101ALI20180813BHJP
   C25D 13/20 20060101ALI20180813BHJP
   C22C 38/38 20060101ALN20180813BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20180813BHJP
   C22C 38/14 20060101ALN20180813BHJP
【FI】
   C23C28/00 C
   B21D22/20 H
   C23C2/12
   C22C38/00 301T
   C21D1/18 Q
   C21D9/00 A
   C23C22/07
   C25D13/00 308Z
   C25D13/20 A
   !C22C38/38
   !C22C21/02
   !C22C38/14
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-554782(P2015-554782)
(86)(22)【出願日】2014年12月17日
(86)【国際出願番号】JP2014083420
(87)【国際公開番号】WO2015098653
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2016年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-267794(P2013-267794)
(32)【優先日】2013年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100128587
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 一騎
(72)【発明者】
【氏名】真木 純
(72)【発明者】
【氏名】山中 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】入川 秀昭
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−227620(JP,A)
【文献】 特開平10−072641(JP,A)
【文献】 特開2000−328216(JP,A)
【文献】 特開2004−339530(JP,A)
【文献】 特開2000−038640(JP,A)
【文献】 児島 与志夫,“電着塗料の高つきまわり性制御技術”,TECHNO-COSMOS,日本,日本ペイント株式会社,2003年 3月,Vol.16,p.26-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00−2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形された鋼板の表面に、厚みが10μm以上50μm以下のAl−Fe金属間化合物からなる金属間化合物層を有し、当該金属間化合物層の中の最も鋼板側に位置する拡散層の厚みが、10μm以下であり、
前記金属間化合物層の表面には、ZnOを含有する皮膜及びリン酸亜鉛皮膜を含む表面皮膜層を有し、当該表面皮膜層の表面粗さが、JIS B0601(2001)に定める最大断面高さ:Rtとして、3μm以上20μm以下であり、
前記表面皮膜層の表面に、厚みが6μm以上15μm未満の電着塗膜を有し、
前記Al−Fe金属間化合物は、Al−Fe化合物、又は、Al−Fe−Si化合物からなる、自動車部品。
【請求項2】
前記最大断面高さRtは、7μm以上14μm以下である、請求項1に記載の自動車部品。
【請求項3】
前記ZnOの平均粒径は、直径50nm以上1000nm以下である、請求項1又は2に記載の自動車部品。
【請求項4】
前記ZnOの含有量は、金属Zn換算で、片面当たり0.3g/m以上3g/m以下である、請求項1〜3の何れか1項に記載の自動車部品。
【請求項5】
前記ZnOの含有量は、金属Zn換算で、片面当たり0.5g/m以上1.5g/m以下である、請求項1〜4の何れか1項に記載の自動車部品。
【請求項6】
ZnOを含有する皮膜を表面に有するAlめっき鋼板を使用し、熱間プレス工法を用いて自動車部品を製造するに際し、
平均初晶径が4μm以上40μm以下であり、かつ、3質量%以上15質量%以下のSiと、2質量%以上4質量%以下のFeと、を含有するAlめっき層のめっき付着量を片面あたり30g/m以上110g/m以下とし、ZnO量を金属Zn換算で0.3g/m以上3g/m以下とし、
熱間プレスの際の加熱工程における昇温速度を12℃/秒以上とし、到達板温を870℃以上1100℃以下とし、電着塗膜の厚みを6μm以上15μm未満とする、自動車部品の製造方法。
【請求項7】
前記Alめっき層の付着量は、片面当たり50g/m以上80g/m以下である、請求項に記載の自動車部品の製造方法。
【請求項8】
ZnOを含有する皮膜を表面に有するAlめっき鋼板を使用し、熱間プレス工法を用いて自動車部品を製造するに際し、
平均初晶径が4μm以上40μm以下であり、かつ、3質量%以上15質量%以下のSiと、2質量%以上4質量%以下のFeと、を含有するAlめっき層のめっき付着量を片面あたり30g/m以上60g/m未満とし、ZnO量を金属Znとして0.3g/m以上3g/m以下とし、
熱間プレスの際の加熱工程における昇温速度を12℃/秒未満とし、到達板温を850℃以上950℃以下とし、電着塗膜の厚みを6μm以上15μm未満とする、自動車部品の製造方法。
【請求項9】
前記Alめっき層の付着量は、片面当たり35g/m以上55g/m以下である、請求項に記載の自動車部品の製造方法。
【請求項10】
ZnOを含有する皮膜を表面に有するAlめっき鋼板を使用し、熱間プレス工法を用いて自動車部品を製造するに際し、
平均初晶径が4μm40μm以下であり、かつ、3質量%以上15質量%以下のSiと、2質量%以上4質量%以下のFeと、を含有するAlめっき層のめっき付着量を片面あたり60g/m以上110g/m以下とし、ZnO量を金属Znとして0.3g/m以上3g/m以下とし、
熱間プレスの際の加熱工程における昇温速度を12℃/秒未満とし、到達板温を920℃以上970℃以下とし、電着塗膜の厚みを6μm以上15μm未満とする、自動車部品の製造方法。
【請求項11】
前記Alめっき層の付着量は、片面当たり60g/m以上90g/m以下である、請求項10に記載の自動車部品の製造方法。
【請求項12】
前記ZnOの含有量は、金属Zn換算で、片面当たり0.5g/m以上1.5g/m以下である、請求項6〜11の何れか1項に記載の自動車部品の製造方法。
【請求項13】
前記Alめっき層の平均初晶径は、4μm以上30μm以下である、請求項6〜12の何れか1項に記載の自動車部品の製造方法。
【請求項14】
熱間プレス加工に先立ち、前記Alめっき鋼板に対して、リン酸塩を含む化成処理液を利用した化成処理を施す、請求項6〜13の何れか1項に記載の自動車部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品及び自動車部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護と地球温暖化の抑制のために、化石燃料の消費を抑制する要請が高まっており、この要請は、様々な製造業に対して影響を与えている。例えば、移動手段として日々の生活や活動に欠かせない自動車についても例外ではなく、車体の軽量化などによる燃費の向上等が求められている。しかし、自動車では、単に車体の軽量化を実現することは製品品質上許されず、適切な安全性を確保する必要がある。
【0003】
自動車の構造の多くは、鉄系材料(特に鋼板)により形成されており、この鋼板の重量を低減することが、車体の軽量化にとって重要である。しかしながら、上述の通り、単に鋼板の重量を低減することは許されず、鋼板の機械的強度を確保することもが求められる。このような鋼板に対する要請は、自動車製造業のみならず、様々な製造業でも同様に高まっている。よって、鋼板の機械的強度を高めることにより、以前使用されていた鋼板より薄肉化しても機械的強度を維持又は高めることが可能な鋼板について、研究開発が行われている。
【0004】
一般的に、高い機械的強度を有する材料は、曲げ加工等の成形加工において、成形性、形状凍結性が低下する傾向にあり、複雑な形状に加工する場合、加工そのものが困難となる。この成形性についての問題を解決する手段の一つとして、いわゆる「熱間プレス方法(ホットスタンプ法、ホットプレス法、ダイクエンチ法、プレスハードニングとも呼ばれる)」が挙げられる。この熱間プレス方法では、成形対象である材料を一旦高温(オーステナイト域)に加熱して、加熱により軟化した鋼板に対してプレス加工を行って成形した後に、冷却する。この熱間プレス方法によれば、材料を一旦高温に加熱して軟化させるので、その材料を容易にプレス加工することができ、更に、成形後の冷却による焼入れ効果により、材料の機械的強度を高めることができる。従って、この熱間プレス加工により、良好な形状凍結性と高い機械的強度とを両立した成形品が得られる。
【0005】
しかし、この熱間プレス方法を鋼板に適用した場合、例えば800℃以上の高温に加熱することにより、表面の鉄などが酸化してスケール(酸化物)が発生する。従って、熱間プレス加工を行った後に、このスケールを除去する工程(デスケーリング工程)が必要となり、生産性が低下する。また、耐食性を必要とする部材等では、加工後に部材表面へ防錆処理や金属被覆をする必要があり、表面清浄化工程、表面処理工程が必要となり、やはり生産性が低下する。
【0006】
このような生産性の低下を抑制する方法の例として、鋼板に被覆を施す方法が挙げられる。一般に、鋼板上の被覆としては、有機系材料や無機系材料など様々な材料が使用される。なかでも、鋼板に対して犠牲防食作用のある亜鉛系めっき鋼板が、その防食性能と鋼板生産技術の観点から、自動車鋼板等に広く使われている。しかし、熱間プレス加工における加熱温度(700〜1000℃)は、有機系材料の分解温度やZnの沸点などよりも高く、熱間プレスで加熱したとき、表面のめっき層が蒸発し、表面性状の著しい劣化の原因となる場合がある。
【0007】
よって、高温に加熱する熱間プレス加工を行う鋼板としては、例えば、有機系材料被覆やZn系の金属被覆に比べて沸点が高いAl系の金属被覆が施された鋼板(すなわち、Alめっき鋼板)を使用することが望ましい。
【0008】
Al系の金属被覆を施すことにより、鋼板表面にスケールが付着することを防止でき、デスケーリング工程などの工程が不要となるため、生産性が向上する。また、Al系の金属被覆には防錆効果もあるため、塗装後の耐食性も向上する。Al系の金属被覆を所定の鋼成分を有する鋼に施したAlめっき鋼板を熱間プレス加工に用いる方法が、下記特許文献1に記載されている。
【0009】
しかしながら、下記特許文献1のようなAl系の金属被覆を施した場合、熱間プレス方法におけるプレス加工前の予備加熱の条件によっては、Al被覆はまず溶融し、その後鋼板からのFe拡散によりAl−Fe化合物へと変化する。更に、Al−Fe化合物は成長して、鋼板の表面までAl−Fe化合物となる。以後この化合物層を、Al−Fe合金層と称する。このAl−Fe合金層は、極めて硬質である。元来Al−Fe合金層は、比較的表面が滑りにくく、潤滑性が悪い。更に、このAl−Fe合金層は、比較的割れやすく、めっき層にヒビが入ったり、パウダー状に剥離したりしやすい。加えて、剥離したAl−Fe合金層が金型に付着したり、Al−Fe表面が強く擦過されて金型に付着したりし、金型にAl−Feが凝着・堆積してプレス品の品位を低下させる。そのため、補修時に金型に凝着したAl−Fe合金の粉末を除去する必要があり、生産性低下やコスト増大の一因となっている。
【0010】
更に、このAl−Fe合金層は、通常のリン酸塩処理との反応性が低く、電着塗装の前処理である化成処理皮膜(リン酸塩皮膜)が生成し難い。化成処理皮膜は付着しなくとも、塗料密着性は良好で、Alめっきの付着量を十分な量とすれば塗装後耐食性も良好となるが、付着量を増大させることは先述した金型凝着を劣化させる傾向にある。
【0011】
一方、下記特許文献2には、ウルツ鉱型の化合物をAlめっき鋼板表面に処理する技術が開示されている。下記特許文献2では、かかる処理により、熱間潤滑性と化成処理性を改善している。この技術は、潤滑性向上に有効で、塗装後耐食性の向上効果も認められる。
【0012】
また、下記特許文献3には、鋼板の表面に形成されたAl−Feを主とする金属間化合物相の結晶粒のうち、Alが40%以上65%以下を含有する金属間化合物相の結晶粒の平均切片長さと、かかる金属間化合物相の厚みと、を制御するとともに、Alめっき層の表面にZnOを含有する潤滑皮膜を形成する技術が開示されている。下記特許文献3では、この技術により、塗装後耐食性及びホットスタンプ成形時の成形性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−38640号公報
【特許文献2】国際公開第2009/131233号
【特許文献3】国際公開第2012/137687号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上説明したように、比較的高融点のAlをめっきしたAlめっき鋼板は、自動車鋼板等の耐食性を要求する部材として有望視され、Alめっき鋼板の熱間プレスへの適用について改善提案もなされている。
【0015】
しかしながら、上記従来技術において、電着塗装の膜厚は20μm程度と、比較的厚いものを前提としていた。しかしながら、電着塗装は車体を浸漬して塗装する手法であり、その膜厚のコストへの影響は大きい。近年、電着塗装の薄膜化が進行しつつあり、より薄い電着塗装においても特性を確保する必要がある。
【0016】
上記特許文献1には、このような電着塗装についての記述は無く、上記特許文献2には、電着塗装厚みが20μmとされている。また、上記特許文献3では、一般的な電着塗装厚みとして1〜30μmという値が記載されている。このような比較的厚い電着塗装を前提とした場合には従来技術で問題は無かったが、電着塗装の膜厚が15μm未満となると、状況が一変する。
【0017】
すなわち、Alめっき鋼板を合金化させた後の表面粗さは大きいことが知られており、JIS B0601(2001)に定めるRa(算術平均粗さ、ISO25178に定める算術平均高さSa)として2μm前後となる。このような表面粗さの大きい表面を膜厚の薄い塗膜で覆うとき、合金層の凸部直上の実質的な塗膜厚は薄くなる。その結果、この局部的に塗膜厚の薄い部分を起点として、塗膜の下の腐食が開始される。算術平均粗さRaが2μmである場合、かかる素材に関する、JIS B0601(2001)に定めるRt(最大断面高さ)は約20μmとなる。最大断面高さRtが約20μm程度ということは、素材の表面に10μm程度の凸部が現れ得ることを示している。かかる場合に電着塗装の膜厚が14μmであるとすると、局部的に4μm程度の部位が存在し、かかる部位が優先的に腐食しうることに本発明者らは想到した。
【0018】
なお、上記特許文献3では、その実施例として、電着塗装厚みが約20μmの例のみが開示されているのみであり、電着塗装厚みが15μm未満という領域においても、上記特許文献3に開示されている効果が安定して得られるかは不明である。また、上記特許文献3では、上記のような最大断面高さRtと腐食との関係に関する知見については、一切開示されていない。
【0019】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、従来よりも少ない電着塗膜厚においても優れた塗装後耐食性を有し、熱間プレス加工における成形性及び生産性を向上させ、更には熱間プレス成形後の化成処理性も改善した、自動車部品及び自動車部品の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、鋼板の表面にAl−Fe金属間化合物からなる金属間化合物層を有し、当該金属間化合物層の表面に、ZnOを含有する皮膜とリン酸亜鉛を主成分とする皮膜とを含む表面皮膜層を有し、当該表面皮膜層の表面粗さが所定の閾値以下となるようにすることで、電着塗膜の厚みが15μm未満であっても十分な塗装後耐食性を有することを見出し、更にその表面粗さを実現するためのAlめっき条件、加熱条件を見出すことで、本発明をなすに至った。
上記知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0021】
(1)成形された鋼板の表面に、厚みが10μm以上50μm以下のAl−Fe金属間化合物からなる金属間化合物層を有し、当該金属間化合物層の中の最も鋼板側に位置する拡散層の厚みが、10μm以下であり、前記金属間化合物層の表面には、ZnOを含有する皮膜及びリン酸亜鉛皮膜を含む表面皮膜層を有し、当該表面皮膜層の表面粗さが、JIS B0601(2001)に定める最大断面高さ:Rtとして、3μm以上20μm以下であり、前記表面皮膜層の表面に、厚みが6μm以上15μm未満の電着塗膜を有し、前記Al−Fe金属間化合物は、Al−Fe化合物、又は、Al−Fe−Si化合物からなる、自動車部品。
(2)前記最大断面高さRtは、7μm以上14μm以下である、(1)に記載の自動車部品。
(3)前記ZnOの平均粒径は、直径50nm以上1000nm以下である、(1)又は(2)に記載の自動車部品。
(4)前記ZnOの含有量は、金属Zn換算で、片面当たり0.3g/m以上3g/m以下である、(1)〜(3)の何れか1つに記載の自動車部品。
(5)前記ZnOの含有量は、金属Zn換算で、片面当たり0.5g/m以上1.5g/m以下である、(1)〜(4)の何れか1つに記載の自動車部品。
)ZnOを含有する皮膜を表面に有するAlめっき鋼板を使用し、熱間プレス工法を用いて自動車部品を製造するに際し、平均初晶径が4μm以上40μm以下であり、かつ、3質量%以上15質量%以下のSiと、2質量%以上4質量%以下のFeと、を含有するAlめっき層のめっき付着量を片面あたり30g/m以上110g/m以下とし、ZnO量を金属Zn換算で0.3g/m以上3g/m以下とし、熱間プレスの際の加熱工程における昇温速度を12℃/秒以上とし、到達板温を870℃以上1100℃以下とし、電着塗膜の厚みを6μm以上15μm未満とする、自動車部品の製造方法。
)前記Alめっき層の付着量は、片面当たり50g/m以上80g/m以下である、()に記載の自動車部品の製造方法。
)ZnOを含有する皮膜を表面に有するAlめっき鋼板を使用し、熱間プレス工法を用いて自動車部品を製造するに際し、平均初晶径が4μm以上40μm以下であり、かつ、3質量%以上15質量%以下のSiと、2質量%以上4質量%以下のFeと、を含有するAlめっき層のめっき付着量を片面あたり30g/m以上60g/m未満とし、ZnO量を金属Znとして0.3g/m以上3g/m以下とし、熱間プレスの際の加熱工程における昇温速度を12℃/秒未満とし、到達板温を850℃以上950℃以下とし、電着塗膜の厚みを6μm以上15μm未満とする、自動車部品の製造方法。
)前記Alめっき層の付着量は、片面当たり35g/m以上55g/m以下である、()に記載の自動車部品の製造方法。
10)ZnOを含有する皮膜を表面に有するAlめっき鋼板を使用し、熱間プレス工法を用いて自動車部品を製造するに際し、平均初晶径が4μm40μm以下であり、かつ、3質量%以上15質量%以下のSiと、2質量%以上4質量%以下のFeと、を含有するAlめっき層のめっき付着量を片面あたり60g/m以上110g/m以下とし、ZnO量を金属Znとして0.3g/m以上3g/m以下とし、熱間プレスの際の加熱工程における昇温速度を12℃/秒未満とし、到達板温を920℃以上970℃以下とし、電着塗膜の厚みを6μm以上15μm未満とする、自動車部品の製造方法。
11)前記Alめっき層の付着量は、片面当たり60g/m以上90g/m以下である、(10)に記載の自動車部品の製造方法。
12)前記ZnOの含有量は、金属Zn換算で、片面当たり0.5g/m以上1.5g/m以下である、()〜(11)の何れか1つに記載の自動車部品の製造方法。
13)前記Alめっき層の平均初晶径は、4μm以上30μm以下である、()〜(12)の何れか1つに記載の自動車部品の製造方法。
14)熱間プレス加工に先立ち、前記Alめっき鋼板に対して、リン酸塩を含む化成処理液を利用した化成処理を施す、()〜(13)の何れか1つに記載の自動車部品の製造方法。

【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、従来よりも少ない電着塗膜厚においても優れた塗装後耐食性を有し、熱間プレス加工における成形性及び生産性を向上させ、更には熱間プレス成形後の化成処理性も改善した自動車部品とその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】代表的なAlめっき層の断面組織を示した断面写真である。
図2】代表的なAl−Fe層及び拡散層を示した断面写真である。
図3】実施例1で製造したハット成形品の形状を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0025】
(めっき鋼板について)
本発明の一実施形態に係るめっき鋼板について説明する。
本実施形態に係るめっき鋼板は、鋼板上の片面又は両面のそれぞれの面に、少なくとも2層の層構造を有する。つまり、鋼板の片面又は両面には、少なくともAlを含有するAlめっき層が形成され、そのAlめっき層上に、少なくともZnOを含有する表面皮膜層が更に積層される。
【0026】
<鋼板>
鋼板としては、例えば、高い機械的強度(例えば、引張強さ・降伏点・伸び・絞り・硬さ・衝撃値・疲れ強さ・クリープ強さなどの機械的な変形及び破壊に関する諸性質を意味する。)を有するように形成された鋼板を使用することが望ましい。本発明の一実施形態に使用されうる高い機械的強度を実現する鋼板の成分の一例は、以下の通りである。
【0027】
この鋼板は、例えば、質量%で、C:0.1%以上0.4%以下、Si:0.01%以上0.6%以下、Mn:0.5%以上3%以下、Ti:0.01%以上0.1%以下、B:0.0001%以上0.1%以下を含有し、かつ、残部は、Fe及び不純物からなる。
【0028】
鋼中に添加される各成分について説明する。なお、以下において、%の表記は、特に断りがない場合は「質量%」を意味する。
【0029】
[C:0.1%以上0.4%以下]
Cは、目的とする機械的強度を確保するために添加される。Cの含有量が0.1%未満の場合には、十分な機械的強度の向上が得られず、Cを添加する効果が乏しくなる。一方、Cの含有量が0.4%超過の場合には、鋼板を更に硬化させることができるものの、溶融割れが生じやすくなる。従って、Cの含有量は、質量%で0.1%以上0.4%以下であることが望ましい。Cの含有量は、更に望ましくは、0.15%以上0.35以下である。
【0030】
[Si:0.01%以上0.6%以下]
Siは、機械的強度を向上させる強度向上元素の一つであり、Cと同様に、目的とする機械的強度を確保するために添加される。Siの含有量が0.01%未満の場合には、強度向上効果を発揮しにくく、十分な機械的強度の向上が得られない。一方、Siは、易酸化性元素でもある。よって、Siの含有量が0.6%超過の場合には、溶融Alめっきを行う際に、濡れ性が低下し、不めっきが生じる可能性がある。従って、Siの含有量は、質量%で0.01%以上0.6%以下であることが望ましい。Siの含有量は、更に望ましくは、0.01%以上0.45%以下である。
【0031】
[Mn:0.5%以上3%以下]
Mnは、鋼を強化させる強化元素の1つであり、焼入れ性を高める元素の1つでもある。更に、Mnは、不純物の1つであるSによる熱間脆性を防止するのにも有効な元素である。Mnの含有量が0.5%未満の場合には、これらの効果が得られず、0.5%以上の含有量で上記効果が発揮される。一方、Mnの含有量が3%超過の場合には、残留γ相が多くなり過ぎて強度が低下する可能性がある。従って、Mnの含有量は、質量%で0.5%以上3%以下であることが望ましい。Mnの含有量は、更に望ましくは、0.8%以上3%以下である。
【0032】
[Ti:0.01%以上0.1%以下]
Tiは、強度強化元素の1つであり、Alめっき層の耐熱性を向上させる元素でもある。Tiの含有量が0.01%未満の場合には、強度向上効果や耐酸化性向上効果が得られず、0.01%以上の含有量でこれらの効果が発揮される。一方、Tiは、あまり添加され過ぎると、例えば、炭化物や窒化物を形成して、鋼を軟質化させる可能性がある。特に、Tiの含有量が0.1%超過の場合には、目的とする機械的強度を得られない可能性が高い。従って、Tiの含有量は、質量%で0.01%以上0.1%以下であることが望ましい。Tiの含有量は、更に望ましくは、0.01%以上0.07%以下である。
【0033】
[B:0.0001%以上0.1%以下]
Bは、焼入れ時に作用して強度を向上させる効果を有する。Bの含有量が0.0001%未満の場合には、このような強度向上効果が低い。一方、Bの含有量が0.1%超過の場合には、介在物を形成して鋼板が脆化し、疲労強度を低下させる可能性がある。従って、Bの含有量は、質量%で0.0001%以上0.1%以下であることが望ましい。Bの含有量は、更に望ましくは、0.0001%以上0.01%以下である。
【0034】
[任意元素について]
かかる鋼板は、上記以外の任意元素として、Cr:0.01%以上0.5%以下、Al:0.01%以上0.1%以下、N:0.001%以上0.02%以下、P:0.001%以上0.05%以下、S:0.001%以上0.05%以下程度を含有することが多い。Crは、Mnと同様焼入性に効果があり、Alは、脱酸剤として適用される。なお、かかる鋼板には、上記任意元素の全てが添加されていなくともよいことは言うまでもない。
【0035】
[不純物について]
また、かかる鋼板は、その他の製造工程などで混入してしまう不可避的な不純物を含んでもよい。かかる不純物としては、例えば、Ni、Cu、Mo、O等がありうる。
【0036】
このような成分で形成される鋼板は、熱間プレス方法などによる加熱により焼入れされて、約1500MPa以上の機械的強度を有することができる。このように高い機械的強度を有する鋼板ではあるが、熱間プレス方法により加工すれば、加熱により軟化した状態でプレス加工を行うことができるので、容易に成形することができる。また、かかる鋼板は、高い機械的強度を実現できる。その結果、軽量化のために鋼板の厚みを薄くしたとしても、機械的強度を維持又は向上することができる。
【0037】
<Alめっき層>
Alめっき層は、上述の通り、鋼板の片面又は両面に形成される。このAlめっき層は、例えば溶融めっき法により鋼板の表面に形成されてもよいが、本発明におけるAlめっき層の形成方法は、かかる例に限定されるものではない。
【0038】
また、Alめっき層のめっき成分としては、Alを含有し、更にSiを含有することが多い。めっき成分としてSiが含有されることで、溶融めっき金属被覆時に生成されるAl−Fe合金層を制御することができる。Siの含有量が3%未満の場合には、Al−Fe合金層がAlめっきを施す段階で厚く成長し、加工時にめっき層割れを助長して、耐食性に悪影響を及ぼす可能性がある。一方、Siの含有量が15%超過の場合には、めっき層の加工性や耐食性が低下する恐れがある。従って、Siは、質量%で3%以上15%以下の含有量で含有されることが望ましい。
【0039】
Alめっき浴におけるSi以外の元素として、浴中の機器や鋼帯より溶出するFeが2〜4%存在する。また、かかるSiやFeに加えて、Alめっき浴中にMg、Ca、Sr、Li等の元素を0.01〜1%程度含有させることも可能である。
【0040】
このような成分で形成されるAlめっき層は、鋼板の腐食を防止することができる。また、鋼板を熱間プレス方法により加工する場合には、高温に加熱された鋼板の表面が酸化することにより発生するスケール(鉄の酸化物)の発生を、防止可能である。よって、かかるAlめっき層を形成することで、スケールを除去する工程・表面清浄化工程・表面処理工程などを省略することができ、生産性を向上できる。また、Alめっき層は、有機系材料によるめっき被覆や他の金属系材料(例えばZn系)によるめっき被覆よりも沸点などが高いため、熱間プレス方法により成形する際に高い温度での加工が可能となり、熱間プレス加工における成形性を更に高め、かつ、容易に加工できるようになる。
【0041】
なお、かかるAlめっき層の平均初晶径は、4μm以上40μm以下である。なお、Alめっき層の平均初晶径は、断面研磨後に光学顕微鏡で観察することで測定が可能である。Alめっきにおいて、初晶はAlであることが多く、凝固の終期でAl−Siの共晶(Al−Si共晶)が凝固する。従って、Al−Siの共晶からなる共晶部の場所を特定し、互いに隣り合う共晶部の間に存在する組織を、Al初晶からなる初晶部と判断することができる。Alめっき層の平均初晶径がかかる範囲となることで、後述する表面皮膜層において所望の表面粗さが実現される。
【0042】
図1に、代表的なAlめっき層の断面組織を示す。断面組織を観察することで、初晶部の位置を判断することができる。図1において、点線で囲んだ領域が、Al初晶からなる初晶部であり、互いに隣り合う初晶部の間に存在する領域が、共晶部である。ここで、初晶部を表わす楕円と面積が同等な円に換算することで、初晶径(円の直径)を求めるものとする。また、上記のようにして得られた初晶径の平均を算出する際には、1つの視野について5か所の初晶径を測定し、任意の2視野における計10か所の測定値についての平均を求めるものとする。
【0043】
かかる平均初晶径は、合金(すなわち、共晶部)の生成状況とめっき後の冷却速度に依存し、事実上4μm未満とすることは困難である。従って、平均初晶径の下限を4μm以上とする。一方で、平均初晶径が大きすぎるとめっき組成が部分的に不均一であることを意味し、めっき組成が部分的に不均一となることで、加熱後の凹凸が大きくなりやすい。従って、平均初晶径の上限を40μmとする。平均初晶径は、より望ましくは、4μm以上30μm以下である。
【0044】
かかるAlめっき層の付着量は、(1)片面当たり30g/m以上110g/m以下であってもよいし、(2)片面当たり30g/m以上60g/m未満であってもよいし、(3)片面当たり60g/m以上110g/m以下であってもよい。本発明の実施形態に係る熱間プレス方法では、後述するように、かかるAlめっき層の付着量に応じて、熱間プレス方法における加熱工程での昇温速度や最高到達板温等が制御される。
【0045】
ここで、上記(1)に示した付着量は、より望ましくは、50g/m以上80g/m以下であり、上記(2)に示した付着量は、より望ましくは、35g/m以上55g/m以下であり、上記(3)に示した付着量は、より望ましくは、60g/m以上90g/m以下である。
【0046】
なお、Alめっき層の付着量は、例えば蛍光X線分析などの公知の方法により測定することが可能である。例えば、Alの付着量が既知の試料を用いて、蛍光X線強度と付着量との関係を示す検量線を予め作成しておき、かかる検量線を用いて、蛍光X線強度の測定結果からAlめっき層の付着量を決定すればよい。
【0047】
本発明の実施形態において、上述のAlめっき鋼板を熱間成形して、部品形状にする。このため、熱間成形時にAlめっき成分と鋼板成分とが反応して、Al−Fe系の金属間化合物へと変化する。Al−Fe系あるいはAl−Fe系にSiを含有した系においては、沢山の化合物が知られており、合金化しためっき層は、複雑な構造をとる。代表的には、合金化しためっき層は、5層が積層したような構造をとることが多い。以下では、この合金化した複数の層からなるめっき層を、「金属間化合物層」とも称することとする。
【0048】
本発明の実施形態において、このAl−Fe層(金属間化合物層)の最も鋼板側にある拡散層の厚みを、10μm以下とする。代表的なAl−Fe層及び拡散層を、図2に示す。断面研磨後、ナイタールエッチングをすることで、このような断面組織を得ることができる。ここで、本発明の実施形態に係る金属間化合物層は、図2に例示したようなa〜eの5層が積層したような構造をとっており、この中のd層とe層とを合わせて、「拡散層」と定義する。なお、本発明の実施形態において、金属間化合物層の層数については、図2に例示したような5層に限定されるものではなく、金属間化合物層が5層以外の層数を有している場合であっても、金属間化合物層の最も鋼板側から第1層目及び第2層目を、拡散層として扱えばよい。
【0049】
この拡散層の厚みは、10μm以下とする。このような厚みとする理由は、スポット溶接性がこの厚みに依存するためである。拡散層が10μm超過となるとチリが発生しやすくなり、適正溶接電流範囲が狭くなる。拡散層の厚みの下限については特に限定しないが、かかる拡散層は通常1μm以上存在し、事実上は1μmが下限である。
【0050】
<表面皮膜層>
表面皮膜層は、上記のようなAlめっき層の表面に積層される。この表面皮膜層は、少なくとも、ZnOを含有するものとする。ZnOの微粒子を水溶液中に懸濁させた液を用いて、かかる懸濁液をロールコーター等でAlめっき層上に塗布することで、表面皮膜層を形成することができる。この表面皮膜層は、熱間プレスにおける潤滑性や、化成処理液との反応性を改善する効果がある。
【0051】
表面皮膜層におけるZnO以外の成分としては、例えば有機物のバインダー成分を含有させることができる。有機性バインダーとして、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、シランカップリング剤などの水溶性樹脂が挙げられる。また、表面皮膜層に対して、ZnO以外の酸化物、例えばSiOやTiO、Al等を含有させることも可能である。
【0052】
上記懸濁液の塗布方法としては、例えば、上記のようなZnOを含有する懸濁液を所定の有機性のバインダーと混合してAlめっき層の表面に塗布する方法や、粉体塗装による塗布方法などが挙げられる。
【0053】
ここで、ZnOの粒径(平均粒径)は、特に限定するものではないが、例えば、直径50nm以上1000nm以下程度であることが望ましく、50nm以上400nm以下であることが更に望ましい。なお、ZnOの粒径の定義は、熱間プレスをした後の粒径として定義する。代表的には900℃で炉内に5〜6分保定した後に金型で急冷するプロセスを経た後の粒径を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)等で観察して定めるものとする。なお、熱間プレスの際にバインダーの有機成分は分解されるため、表面皮膜層には酸化物のみが残存することとなる。
【0054】
ZnOを含有する皮膜の付着量は、特に限定されるものではないが、鋼板の片面当たり、金属Zn換算で0.3g/m以上3g/m以下であることが好ましい。ZnOの付着量が金属Zn換算で0.3g/m以上である場合には、潤滑向上効果などを効果的に発揮することができる。一方、ZnOの付着量が金属Zn換算で3g/m超過の場合には、上記Alめっき層及び表面皮膜層の厚みが厚くなり過ぎ、溶接性が低下する。従って、ZnOは、片面側の表面皮膜層において、金属Zn換算で0.3g/m以上3g/m以下であることが望ましい。なかでも、ZnOの付着量は、0.5g/m以上1.5g/m以下であることが特に望ましい。ZnOの付着量が0.5g/m以上1.5g/m以下となることで、熱間プレス時の潤滑性も確保でき、更に、溶接性や塗料密着性も良好となる。ZnOとバインダー以外の成分として、例えば、Mg、Ca、Ba、Zr、P、B、V、Si等の化合物を表面皮膜層に含有させることも可能である。
【0055】
塗布後の焼付け・乾燥方法としては、例えば、熱風炉・誘導加熱炉・近赤外線炉などの方法でもよいし、これらの組み合わせによる方法を用いても良い。また、塗布に使用されるバインダーの種類によっては、塗布後の焼付け・乾燥の代わりに、例えば紫外線・電子線などによる硬化処理が行われてもよい。なお、塗布後の焼付温度は60〜200℃程度であることが多い。表面皮膜層の形成方法はこれらの例に限定されるものではなく、様々な方法により形成可能である。
【0056】
バインダーを使用しない場合にはAlめっきに塗布した後、加熱前の密着性がやや低く、強い力で擦ると部分的に剥離する懸念がある。
【0057】
次に、リン酸亜鉛皮膜について述べる。
通常の自動車の塗装工程において、電着塗装の前に浸漬型の化成処理が行われている。この化成処理は、公知のリン酸塩を含む化成処理液を用いて実施されるものである。この化成処理によって、ZnOを含む皮膜中の亜鉛と化成処理液に含まれるリン酸塩とが反応することで、Alめっき層及び表面皮膜層の形成されている鋼板の表面に、リン酸亜鉛皮膜が形成される。このリン酸亜鉛皮膜は、塗膜との密着性を改善すると共に、塗装後耐食性にも寄与する。例えば上記特許文献1に示すような従来のAlめっき鋼板の場合、合金化したAl−Fe表面は強固なAlの酸化皮膜で覆われており、化成処理液との反応性が低かった。かかる化成処理液との反応性を改善した技術が、上記特許文献2に記載されている。本発明の実施形態においても、リン酸亜鉛皮膜(化成処理皮膜)については上記特許文献2と同様であり、ZnOを含有する皮膜を付着させることで、Alめっき鋼板と化成処理液との反応性が改善され、リン酸亜鉛皮膜も形成されるようになる。
【0058】
リン酸亜鉛皮膜量は、ほぼZnOの含有量に支配され、ZnOを含有する皮膜中のZnO量が金属Zn換算で片面当たり0.3g/m以上3g/m以下のとき、リン酸亜鉛皮膜量としては片面当たり0.6g/m以上3g/m以下程度となる。表面皮膜層の表面にリン酸亜鉛皮膜が形成され、部品としては表面皮膜層とリン酸亜鉛皮膜の両者を分けることは困難である。従って、部品としては、表面皮膜層とリン酸亜鉛皮膜の合計の厚みとなり、ZnO量が金属Zn換算で片面当たり0.3g/m以上3g/m以下のとき、表面皮膜層とリン酸亜鉛皮膜の合計厚みは、0.5μm以上3μm以下程度である。
【0059】
なお、表面皮膜層のZnO量やリン酸亜鉛皮膜量は、蛍光X線分析法等の公知の分析方法により測定することが可能である。例えば、Znの付着量やリンの付着量が既知の試料を用いて、蛍光X線強度と付着量との関係を示す検量線を予め作成しておき、かかる検量線を用いて、蛍光X線強度の測定結果からZnO量及びリン酸亜鉛皮膜量を決定すればよい。
【0060】
(熱間プレス方法による加工について)
以上、本発明の実施形態に係る自動車部品の原材料として好適に利用可能な、本実施形態に係るめっき鋼板について説明した。このように形成されるめっき鋼板は、特に熱間プレス方法による加工を施す場合に有用である。従って、ここでは、上記構成を有するめっき鋼板が熱間プレス方法により加工される場合について説明する。
【0061】
本実施形態に係る熱間プレス方法では、まず、上記のようなめっき鋼板を高温に加熱して、めっき鋼板を軟化させる。そして、軟化しためっき鋼板をプレス加工して成形し、その後、成形されためっき鋼板を冷却する。このようにめっき鋼板を一旦軟化させることにより、後続するプレス加工を容易に行うことができる。また、上記成分を有するめっき鋼板は、加熱及び冷却されることにより、焼入れされて約1500MPa以上の高い機械的強度を実現することができる。
【0062】
本実施形態に係るめっき鋼板は、熱間プレス方法において加熱されるが、このときの加熱方法として、通常の電気炉、ラジアントチューブ炉に加え、赤外線加熱等の加熱方法を採用することができる。
【0063】
Alめっき鋼板は、加熱された際に融点以上で溶融し、同時にFeとの相互拡散によりAl−Feを中心としたAl−Fe合金層(すなわち、上記の金属間化合物層)へと変化する。Al−Fe合金層の融点は高く、1150℃程度である。Al−Fe、あるいは、更にSiを含有するAl−Fe−Si化合物は複数存在し、高温加熱、あるいは、長時間加熱することで、よりFe濃度の高い化合物へと変態していく。最終製品として望ましい表面状態は、表面まで合金化された状態で、かつ、合金層中のFe濃度が高くない状態である。未合金のAlが残存すると、未合金のAlが残存している部位のみが急速に腐食して、塗装後耐食性において塗膜膨れが極めて起こりやすくなるため、望ましくない。逆に、Al−Fe合金層中のFe濃度が高くなり過ぎてもAl−Fe合金層自体の耐食性が低下して、塗装後耐食性において塗膜膨れが起こりやすくなる。これは、Al−Fe合金層の耐食性が、合金層中のAl濃度に依存するためである。従って、塗装後耐食性上望ましい合金化状態があり、合金化状態は、Alめっき付着量と加熱条件とで決定される。
【0064】
更に本発明の実施形態においては、ZnOを含有する皮膜(すなわち、表面皮膜層)が形成されたAlめっき鋼板を熱間プレスして成形するが、成形した後の表面粗さが重要となる。合金化した後のAl−Fe合金層の表面粗さの制御の観点からは、Alめっき付着量、昇温速度、到達板温の3つの因子を制御することが重要である。
【0065】
特に影響の大きい因子は昇温速度であり、12℃/秒以上の昇温速度で昇温することで、Alめっき付着量、到達板温を問わずに、表面粗さを低減することができる。このときの昇温速度は、50℃から(到達板温−30℃)までの平均昇温速度とする。かかる昇温パターンの場合には、Alめっき付着量は、30g/m以上110g/m以下とする。めっき付着量が30g/m未満では、Alめっきによる耐食性が十分でなく、めっき付着量が110g/m超過では厚すぎるめっきが成形時に剥離しやすく、金型に凝着しやすいためである。Alめっき付着量は、より望ましくは、50g/m以上80g/m以下である。昇温速度の上限値は特に定めないが、通電加熱等の手法を用いても300℃/秒超の昇温速度を得ることは困難である。かかる昇温パターンでの昇温速度は、望ましくは、12℃/秒以上150℃/秒以下である。また、かかる昇温パターンでは、到達板温は表面粗さに影響を与えるものではないが、到達板温は、870℃以上1100℃以下とする。到達板温が870℃未満である場合には、合金化が完全に終了しない可能性があり、到達板温が1100℃超過である場合には、合金化が進行しすぎて耐食性不良となる可能性がある。
【0066】
一方、昇温速度が12℃/秒未満においては、Alめっき付着量と到達板温によって、表面粗さは様々に変化する。Alめっき付着量が少ない方が表面粗さは小さい傾向にある。そのため、かかる昇温パターンでは、Alめっき付着量は、片面あたり30g/m以上60g/m未満とする。また、かかるAlめっき付着量のめっき鋼板を12℃/秒未満の昇温速度で加熱する場合、到達板温は、850℃以上950℃以下とする。このとき、Alめっき付着量が30g/m未満では、耐食性を得ることは難しい。また、到達板温が850℃未満では、焼入後の硬度が不十分となる可能性があり、950℃超過の到達板温では、Al−Feの拡散が進行し過ぎて、やはり耐食性が低下する。かかる昇温パターンにおいて、昇温速度の下限は特に設けないが、めっき付着量によらず1℃/秒未満の昇温速度では経済合理性を著しく欠く。また、かかる昇温パターンにおいて、Alめっき付着量は、望ましくは、35g/m以上55g/m以下であり、到達板温は、望ましくは、850℃以上900℃以下であり、昇温速度は、望ましくは、4℃/秒以上12℃/秒以下である。
【0067】
一方、昇温速度が12℃/秒未満であり、かつ、Alめっき付着量が多い場合には、表面粗さは大きくなりやすいため、到達板温を厳しく管理することが重要である。到達板温が高い方が表面粗さは小さくなりやすい。そのため、かかる昇温パターンでは、Alめっき付着量が片面あたり60g/m以上110g/m以下のときには、到達板温を920℃以上970℃以下にすることが重要である。Alめっき付着量が片面あたり110g/m超過となる場合には、厚すぎるAlめっきが成形時に剥離しやすく、金型に凝着する可能性があり、到達板温が920℃未満では、表面粗さが大きくなりやすいために、薄い電着塗膜での耐食性を保つことができない。Alめっき付着量は、より望ましくは、60g/m以上90g/m以下である。昇温速度の下限は特に設けないが、めっき付着量によらず1℃/秒未満の昇温速度では経済合理性を著しく欠く。また、かかる昇温パターンにおいて、到達板温は、望ましくは、940℃以上970℃以下であり、昇温速度は、望ましくは、4℃/秒以上12℃/秒以下である。
【0068】
Alめっきの付着量を30g/m以上110g/m以下にしたとき、熱間プレス部品としてのAl−Fe合金層の厚み(すなわち、金属間化合物層の厚み)は、ほぼ10μm以上50μm以下となる。従って、Al−Fe合金層の厚みは、この領域となることが望ましい。
【0069】
次に、熱間プレスした後の表面粗さの限定理由を説明する。本発明の実施形態は、電着塗膜厚が15μm未満において、良好な塗装後耐食性を有する部品を提供するもので、前述したように、表面粗さを一定値以下に制御するものである。その指標としては、JIS B0601(2001)(JIS B0601(2001)は、ISO4287に対応した規格である。)に定める最大断面高さ:Rtを用いるものとする。この最大断面高さRtは、評価長さでの粗さ曲線の最大山高さと最大谷深さとの和として規定され、概ね粗さ曲線の最大値と最小値の差異に対応する。本発明の実施形態に係る高強度自動車部品では、表面皮膜層の最大断面高さRtの値を3μm以上20μm以下とする。最大断面高さRtを3μm未満とすることは事実上不可能であるために、下限をこの値とする。また、最大断面高さRtが20μm超過となると、凹凸に起因して電着塗膜の薄い部位を起点にして腐食が起こるために、上限を20μmとする。表面皮膜層の最大断面高さRtの値は、より望ましくは、7μm以上14μm以下である。
【0070】
(めっき鋼板及び熱間プレス方法による効果の一例)
以上、本発明の実施形態に係る自動車部品に用いられるめっき鋼板及びめっき鋼板の熱間プレス方法について説明した。本実施形態に係るめっき鋼板を用いて形成された自動車部品は、ZnO及びリン酸亜鉛等を含有する表面皮膜層を有することにより、上述の通り、例えば、高い潤滑性を実現し、化成処理性が改善される。
【0071】
ZnOにより化成処理皮膜が付着する理由は、化成処理反応は酸による素材へのエッチング反応を引き金として反応が進行するものである一方で、ZnO自体が両性化合物であり酸に溶解することから、化成処理液と反応するためと考えている。
【0072】
(自動車用部品について)
以上説明したようなAlめっき鋼板に対して、以上説明したような熱間プレス加工を行うことにより、本発明の実施形態に係る自動車用部品が製造される。この自動車用部品は、成形された鋼板(母材となる鋼板)の表面に、厚みが10μm以上50μm以下のAl−Fe金属間化合物からなる金属間化合物層を有し、この金属間化合物層の中の最も鋼板側に位置する拡散層の厚みが、10μm以下となっている。また、金属間化合物層の表面には、ZnOを含有する皮膜及びリン酸亜鉛皮膜を含む表面皮膜層を有し、この表面皮膜層の表面粗さが、JIS B0601(2001)に定める最大断面高さ:Rtとして、3μm以上20μm以下となっている。更に、上記表面皮膜層の表面には、厚みが6μm以上15μm未満の電着塗膜を有している。かかる自動車用部品は、例えば約1500MPa以上という高い機械的強度を有する。
【0073】
なお、表面皮膜層の表面に形成される電着塗膜は、特に限定されるものではなく、公知の電着塗膜を公知の方法で成膜することが可能である。また、電着塗膜の厚みは、望ましくは8μm以上14μm以下である。本発明の実施形態に係る自動車部品は、表面皮膜層の表面粗さが、最大断面高さRtで3μm以上20μm以下と、極めて平坦な表面となっているため、電着塗膜の厚みを上記のように極めて薄くしたとしても、優れた塗装後耐食性、熱間プレス加工における優れた成形性及び生産性、並びに、熱間プレス成形後の優れた化成処理性といった優れた効果を、安定して実現することが可能となる。
【実施例】
【0074】
続いて、実施例を参照しながら、本発明の実施形態に係る自動車用部品をより詳細に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の実施形態に係る自動車用部品のあくまでも一例であって、本発明の実施形態に係る自動車用部品が下記の例に限定されるものではない。
【0075】
<実施例1>
本実施例では、表1に示す鋼成分の冷延鋼板(板厚1.2mm)を使用して、この冷延鋼板をAlめっきした。このときの焼鈍温度は、約800℃であった。また、Alめっき浴はSi:9%を含有し、他に鋼帯から溶出するFeを約2%含有していた。めっき後の付着量をガスワイピング法で片面あたり20g/m以上120g/m以下の範囲に調整し、冷却後、直径が約50nmであるZnOと、ZnO量に対して20%のアクリル系のバインダーとが含有された懸濁液をロールコーターで塗布し、約80℃で焼きつけた。付着量は、金属Zn量として0.1g/m以上4g/m以下の範囲とした。また、めっき付着量及び冷却速度を変えることで、平均初晶径を調整した。平均初晶径は、組織の断面を光学顕微鏡で観察して、上記の方法により算出した。
【0076】
【表1】
【0077】
このめっき鋼板を、次に示す条件でホットスタンプした。加熱方法は2種類とした。1つは、一定温度に保定された大気炉に挿入する方法であり、もう1つは、2ゾーンの遠赤外加熱炉を用いる方法である。後者については、1ゾーンを1150℃に、もう1ゾーンを900℃に保定し、1150℃の炉内で800℃まで加熱したのちに900℃の炉に移動させた。それぞれ熱電対を溶接して板温を実測し、50℃〜(到達板温−30)℃までの平均昇温速度を測定した。
【0078】
到達板温と、到達板温での保定時間を調節した後に、ハット形状に成型して下死点で10秒間冷却して焼入した。次に、このハット成形品より、耐食性評価のため一部を切出した。この時の成形形状と切出し部位を、図3に示す。切り出した試験片は、リン酸塩を含む化成処理液である日本パーカライジング(株)社製化成処理液(PB−SX35)で化成処理後、日本ペイント(株)社製電着塗料(パワーニクス110)を5μm以上20μm以下狙いで塗装し、170℃で焼き付けた。
【0079】
塗装後耐食性評価は、自動車技術会制定のJASO M609に規定する方法で行った。塗膜には疵を付与せず、端面のみシールして試験に供した。腐食試験180サイクル(60日)後の腐食状況を観察して、下記のように評点付けした。比較材として、片面45g/mの合金化溶融亜鉛めっき鋼板も冷間でハット成形して同様に評価したところ、○の評点であった。
【0080】
◎:赤錆、膨れ発生無し
○:赤錆、膨れ面積3%以下
△:赤錆、膨れ面積5%以下
×:赤錆、膨れ面積5%超
【0081】
また、化成処理までした試料について、JIS B0601(2001)に基づき表面粗さ(Rt)を測定した。更に断面検鏡後、3%ナイタールでエッチングして光学顕微鏡観察することで、拡散層の厚みを求めた。
【0082】
ハット成形後、R部内面部(圧縮応力部)からのAl−Feの剥離が認められたため、剥離程度を目視で評点付けした。このような圧縮応力部からのAl−Feの剥離が金型に凝着してプレス品に疵をつけるため、剥離は望ましくない。
【0083】
○:剥離殆ど無し
△:剥離小
×:剥離大
【0084】
スポット溶接性については、ハット成形試験と同じ熱処理条件で1.4mmtの平板を加熱し、金型焼入れした。この試料を用いて、単相交流電源(60Hz)、加圧400kgf(1kgfは、約9.8Nである。)、12サイクルで適正電流範囲を評価した。下限は4×(t)0.5(tは厚みである。)とし、上限はチリ発生として、下の基準で評価した。
【0085】
○:適正1.5kA以上
×:適正1.5kA未満
【0086】
表2に得られた結果をまとめた。この表では、めっき付着量、ZnO量はいずれも片面当たりの付着量で表示している。またZnO量は、金属Znとしての量である。なお、本発明例に該当するサンプルでは、いずれにおいても、表面皮膜層としてZnOを含む皮膜とリン酸亜鉛を含む皮膜とが形成されていることを確認している。
【0087】
【表2】
【0088】
表2において、Alめっき付着量、ZnO量、平均初晶径、昇温速度、到達板温、電着塗膜の膜厚が適正な場合には、優れた塗装後耐食性を示すことがわかる。しかし、例えばAlめっき付着量の少ない場合(番号1)、ZnO量の少ない場合(番号30)、電着塗膜の薄すぎる場合(番号31)、平均初晶径が大きすぎる場合(番号32)には、十分な耐食性が得られず、また、到達板温が低すぎる場合(番号10)や高すぎる場合(番号11)にも耐食性が低下する。番号11は、到達板温が高すぎてAl−Fe自体が溶融し、表面粗さが大きくなっている。昇温速度が低い場合には、Alめっき付着量によって適正な到達板温範囲が異なり、特にめっき付着量が厚い場合に900℃前後の到達板温としたとき(番号29)、表面粗さが増大して十分な耐食性が得られない。従って、このような場合には、到達板温をより高め(番号21、22)にする必要があることが明らかとなった。
【0089】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明により、Alめっき鋼板を熱間プレスするに際し、潤滑性がよく、加工性が改善されたことから、従来に比べ複雑なプレス加工が可能となった。更に、熱間プレスの保守点検の省力化も可能となり、生産性の向上も図られることが可能となった。熱間プレス後の加工製品においても化成処理性が良いことから、最終製品の塗装、耐腐食性も向上することが確認されている。以上のことから、本発明によりAlめっき鋼の熱間プレスの適用範囲が拡大し、最終用途である自動車や産業機械へのAlめっき鋼材の適用可能性を高めるものと確信する。
図1
図2
図3