(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記舵角比調節用モータの出力軸は、前記車体の幅方向及び前記ステアリングコラムの中心軸の軸方向にそれぞれ直交する、請求項1に記載した舵角可変式ステアリング装置。
前記舵角比調節用モータよりも前側で前記舵角比調節用モータに対して固定された部分に、幅方向外方に向かう程後方に向かう方向に傾斜した傾斜面部が設けられている、請求項1〜6のうちの何れか1項に記載した舵角可変式ステアリング装置。
【背景技術】
【0002】
操舵輪(フォークリフト等の特殊車両を除き、通常は前輪)に舵角を付与する為のステアリング装置として、例えば
図11に示す様な構造が、広く知られている。このステアリング装置においては、車体1に円筒状のステアリングコラム2が支持されており、ステアリングコラム2の内径側にステアリングシャフト3が回転可能に支持されている。そして、ステアリングコラム2の後端開口よりも後方に突出した、ステアリングシャフト3の後端部分に、ステアリングホイール4が固定されている。ステアリングホイール4を回転させると、この回転が、ステアリングシャフト3、自在継手5a、中間シャフト6、自在継手5bを介して、ステアリングギヤユニット7の入力軸8に伝達される。入力軸8が回転すると、ステアリングギヤユニット7の両側に配置された1対のタイロッド9、9が押し引きされて、左右1対の操舵輪に、ステアリングホイール4の操作量に応じた舵角が付与される。尚、図示の例の場合、電動モータ10によってステアリングシャフト3に、運転者がステアリングホイール4に加えた力に応じた補助力を付与する、コラムアシスト型の電動式パワーステアリング装置とされている。
【0003】
又、車両の走行状態や運転状態等に応じて、ステアリングホイールの操舵量と、操舵輪の舵角の変化量と、の関係を変化させる舵角可変式ステアリング装置についても、従来から知られ、一部で実施されている。この様な舵角可変式ステアリング装置として、例えば特許文献1〜4には、差動式の変速機をステアリング装置に組み込むと共に、この差動式変速機の回転要素を電動モータ等の駆動源(一般的にはパワーステアリング装置を構成する駆動源とは別の駆動源)により回転駆動する事で、操舵量と舵角の変化量との関係を変化させる構造が記載されている。特許文献1、2に記載された構造の場合は、差動式の変速機として遊星歯車式変速機が使用されている。又、特許文献3、4に記載された構造の場合は、差動式の変速機として波動歯車式変速機が使用されている。
【0004】
ところで、ステアリング装置を搭載した自動車が衝突事故を起こした場合、この自動車が他の自動車等に衝突する、所謂一次衝突の際には、車体の前部が潰れてステアリングコラム2の前端部に後方に向いた大きな衝撃荷重が加わる。そこで、この衝撃荷重に拘らず、ステアリングコラム2の後方への変位を防止して、ステアリングホイール4が後方に変位しない(運転者の身体に向けて突き上げられない)様にする事が、運転者を保護するために重要になる。この為に、特許文献5には、コラムアシスト型の電動式パワーステアリング装置の補助動力源である電動モータが、ステアリングコラムを支持したパイプ(ステアリングハンガービーム)よりも前側位置に支持固定された構造が記載されている。なお、上記パイプは、ステアリングコラムに対し、車体の幅方向に配設されている。また、電動モータの出力軸は、車体の幅方向及びステアリングコラムの中心軸にそれぞれ直交する状態とされている。この様な特許文献5に記載されたステアリング装置を搭載した自動車が衝突事故を起こして、ステアリングコラムが後方に押されると、電動モータがパイプに衝突し、ステアリングコラム、延いては、ステアリングホイールがそれ以上後方へと変位する事が阻止される。但し、特許文献5に記載された構造は、コラムアシスト型の電動式パワーステアリング装置を搭載したものに限定されてしまう。ところが、普通自動車の中でも比較的大型の車両等では、コラムアシスト型よりも比較的大きな補助力を付与する事ができる、ピニオンアシスト型やラックアシスト型の電動式パワーステアリング装置が採用される場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、コラムアシスト型の電動式パワーステアリング装置を搭載した構造に限定される事なく、衝突事故の際にステアリングホイールが運転者の身体に向けて突き上げられるのを防止できる、舵角可変式ステアリング装置を実現すべく発明されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の舵角可変式ステアリング装置は、ステアリングコラムと、第一の回転軸と、第二の回転軸と、変速機と、舵角比調節用モータと、を備える。
前記ステアリングコラムは、筒状で、車体の幅方向に配設された支持フレームに支持される。
前記第一の回転軸は、前記ステアリングコラムの内側に回転自在に支持され、後端部に固定されるステアリングホイールにより回転される。
前記第二の回転軸は、前記第一の回転軸と同心に設けられ、回転に伴って操舵輪に舵角を付与する。
前記変速機は、前記第一の回転軸と前記第二の回転軸との間に設けられ、前記第一の回転軸と前記第二の回転軸とを互いに回転力の伝達を可能に接続する、差動式のもので、例えば、遊星歯車式変速機や波動歯車式変速機、ボール式変速機等により構成される。
前記舵角比調節用モータは、前記ステアリングコラムに対し支持固定され、前記変速機を構成する回転要素(例えば遊星歯車式変速機のキャリア、波動歯車式変速機を構成するウェーブジェネレータ、ボール式変速機の回転部材)を回転駆動する為のものである。
そして、前記舵角比調節用モータにより前記回転要素を回転駆動する事で、前記第一の回転軸の回転量と前記第二の回転軸の回転量との関係を変化させる。これにより、前記ステアリングホイールの操舵量と前記舵角の変化量との関係(舵角比)を変化させる。
【0008】
特に、本発明の舵角可変式ステアリング装置に於いては、
前記第二の回転軸又は前記第二の回転軸の回転に伴って変位する部材(例えばステアリングギヤユニットを構成するピニオン軸やラック軸)に対し、前記ステアリングホイールから付与される力と同方向の補助力を付与する補助力付与用モータを備えた補助力付与装置を更に備える様に構成する。そして、前記補助力付与装置を、前記舵角比調節用モータよりも前側部分に設け、前記補助力付与用モータと前記舵角比調節用モータとを、前記ステアリングコラムの中心軸の軸方向に関して、重畳した状態で設ける。さらに、前記舵角比調節用モータが、前記ステアリングコラムのうちこのステアリングコラムが前記支持フレームに対して支持される部分より前側部分に支持固定されている。そして、前記舵角比調節用モータは、一次衝突時に、前記支持フレームに衝突する事によりそれ以上後方に変位する事が阻止される。
【0009】
前記舵角比調節用モータの出力軸は、前記車体の幅方向及び前記ステアリングコラムの中心軸の軸方向にそれぞれ直交してもよい。
【0010】
前記舵角比調節用モータの出力軸と、前記車体の幅方向と、が成す鋭角θが0°≦θ<90°を満たしてもよい。
【0012】
前記補助力付与装置が補助力付与用モータを備える様に構成する。そして、前記補助力付与用モータを、前記ステアリングコラムのうち前記舵角比調節用モータが支持固定された部分より前側部分に支持固定してもよい。そして、一次衝突時に、前記舵角比調節用モータが前記支持フレームに衝突した状態で、前記補助力付与用モータが更に後方に変位する傾向になると、前記補助力付与用モータが前記舵角比調節用モータに衝突する様に構成する。
【0013】
補助力付与
用モータの出力軸と、前記舵角比調節用モータの出力軸と、は平行であってもよい。
【0014】
前記舵角比調節用モータと前記補助力付与用モータとを、前記ステアリングコラムに対し幅方向に関して互いに同じ側に支持固定してもよい。
【0015】
前記舵角比調節用モータよりも前側で前記舵角比調節用モータに対して固定された部分に、幅方向外方に向かう程(幅方向に関してステアリングコラムから離れる程)後方に向かう方向に傾斜した傾斜面部を設けてもよい。
【0016】
作動時に、前記第一の回転軸及び前記第二の回転軸が前記ステアリングコラムの内径側で回転する事を実質的に阻止するステアリングロック装置を更に備えてもよい。そして、前記ステアリングロック装置を構成するアクチュエータを、前記ステアリングコラムのうち前記ステアリングコラムが前記支持フレームに対し支持された部分より前側部分で、幅方向に関して前記舵角比調節用モータと同じ側に支持固定する。そして、一次衝突時に、前記舵角比調節用モータと前記アクチュエータとのうちの一方の部材が前記支持フレームに衝突した状態で、前記舵角比調節用モータと前記アクチュエータとのうちの他方の部材が更に後方に変位する傾向になると、前記他方の部材が前記一方の部材に衝突する様に構成する。
【発明の効果】
【0017】
上述の様に構成する本発明の舵角可変式ステアリング装置を搭載した車両が衝突事故を起こした場合、一次衝突に伴い車体の前部が潰れると、ステアリングコラムの前端部に後方に向いた大きな衝撃荷重が加わり、ステアリングコラムに対して支持固定された舵角比調節用モータが後方に変位する傾向になる。そして、舵角比調節用モータが、支持フレームに衝突する為、ステアリングコラムがそれ以上後方に変位する事が阻止される。この結果、ステアリングコラムの内径側に回転可能に支持された第一の回転軸の後端部に支持されたステアリングホイールが運転者の身体に向けて突き上げられる事を防止でき、運転者の保護を図れる。尚、本発明の場合、電動式パワーステアリング装置の構造やこの電動式パワーステアリング装置の有無に拘わらず、上述の様な効果を得る事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施形態の第1例]
図1〜2は、本発明の実施形態の第1例を示している。本例を含め、本発明の舵角可変式ステアリング装置の特徴は、衝突事故の際にステアリングホイール4(図
11参照)が運転者の身体に向けて突き上げられるのを防止する為の構造にある。
【0020】
本例の舵角可変式ステアリング装置は、ステアリングコラム2aと、後側に配置され、特許請求の範囲に記載した第一の回転軸に相当するアッパシャフト11と、前側に配置され、特許請求の範囲に記載した第二の回転軸に相当するロアシャフト12と、差動式の変速機13と、舵角比調節用モータ14と、を備える。
【0021】
ステアリングコラム2aの中間部は、コラム側ブラケット15を介して、ハンガーパイプ(ステアリングハンガービーム)16の取付部17に対し支持固定されている。ハンガーパイプ16は、特許請求の範囲に記載した支持フレームに相当する。コラム側ブラケット15は、鋼板等の十分な強度及び剛性を有する金属板を曲げ成形して成るもので、ステアリングコラム2aの中間部に溶接等により支持固定されている。又、ハンガーパイプ16は、車体の幅方向に配設されており、ハンバーパイプ16の幅方向両端部は、車体の幅方向両側部分(例えば左右1対のフロントピラー等)に支持固定されている。コラム側ブラケット15の幅方向2箇所位置に形成された通孔18、18を挿通したボルト若しくはスタッド(図示省略)により、コラム側ブラケット15はハンガーパイプ16の取付部17に支持固定されている。従って、本例の場合、ステアリングコラム2aは、車体に対して、前後方向の変位が阻止されている。
【0022】
アッパシャフト11は、ステアリングコラム2aの内径側に回転自在に支持されている。ステアリングコラム2aの後端開口部よりも後方に突出したアッパシャフト11の後端部には、ステアリングホイール4が支持固定されている。従って、アッパシャフト11は、ステアリングホイール4の操作に伴って回転する。
【0023】
ロアシャフト12は、アッパシャフト11の前方にこのアッパシャフト11と同心に設けられている。したがって、ロアシャフト12の回転は、自在継手5a、中間シャフト6、自在継手5b(図
11参照)を介してステアリングギヤユニット7の入力軸8に伝達可能である。
【0024】
変速機13は、アッパシャフト11とロアシャフト12との間に設けられ、これらアッパシャフト11とロアシャフト12とを互いに回転力の伝達を可能に接続する差動式のもので、例えば遊星歯車式変速機や波動歯車式変速機、ボール式変速機等により構成される。即ち、変速機13は、アッパシャフト11の回転を所定の変速比で変速してから、ロアシャフト12に伝達する(これらアッパシャフト11の回転量とロアシャフト12の回転量との関係を変化させる)ものである。変速機13の変速比の調節は、この変速機13を構成する回転要素(例えば遊星歯車式変速機のキャリア、波動歯車式変速機を構成するウェーブジェネレータ、ボール式変速機の回転部材)を回転駆動する(回転要素の回転速度を調節する)事により行う。この様な変速機13は、ステアリングコラム2aの前端寄り部分に支持固定されたケーシング19の内側に収納されている。又、ケーシング19の前部上面にはロアブラケット20が支持固定されている。ロアブラケット20はハンガーパイプ16の取付部17に対し支持固定されている。
【0025】
又、電動モータである舵角比調節用モータ14は、変速機13を構成する回転要素を回転駆動する為のものである。本例の場合、舵角比調節用モータ14の中心軸(出力軸)αと、ハンガーパイプ16の中心軸及びステアリングコラム2aの中心軸に対しそれぞれ直交する仮想直線βと、が平行になる様に、舵角比調節用モータ14は変速機13のケーシング19に対し支持固定されている。従って、舵角比調節用モータ14は、ケーシング19を介して、ステアリングコラム2aに支持固定されている。
【0026】
これにより、中心軸α及び仮想直線βに直交してステアリングコラム2aの中心軸を含む仮想平面γと、舵角比調節用モータ14の上端部と、の距離(中心軸αの方向に関する距離)D
14を、仮想平面γとハンガーパイプ16の上端部との距離D
16よりも大きくしている(D
14>D
16)。即ち、仮想平面γを基準とした場合に、舵角比調節用モータ14の上端部の方がハンガーパイプ16の上端部よりも上方に突出する(仮想平面γから遠くなる)様に構成されている。換言すれば、ステアリングコラム2aの中心軸の軸方向に関して、舵角比調節用モータ14の少なくとも一部と、ハンガーパイプ16とが、重畳する様に構成している。
【0027】
上述の様な本例の舵角可変式ステアリング装置は、ステアリングホイール4の操作によってアッパシャフト11が回転させられると、アッパシャフト11の回転が変速機13を介して(変速機13により変速されて)ロアシャフト12に伝達される。そして、ロアシャフト12の回転が、自在継手5a、中間シャフト6、自在継手5bを介して入力軸8に伝達され、ステアリングギヤユニット7の両側に配置された1対のタイロッド9、9が押し引きされ、左右1対の操舵輪に舵角が付与される。
【0028】
上述の様な舵角比可変式ステアリング装置を搭載した車両が衝突事故を起こした場合、一次衝突に伴い車体の前部が潰れると、ステアリングコラム2aの前端部、又は、ステアリングコラム2aの前端部に支持固定された部材(ケーシング19や舵角比調節用モータ14等)に後方に向いた大きな衝撃荷重が加わり、これら各部材14、19が後方に変位する傾向になる。すると、ステアリングコラム2aの前端部(前端部に支持された変速機13のケーシング19)に対して支持固定された舵角比調節用モータ14が、ハンガーパイプ16に衝突し、ステアリングコラム2aがそれ以上後方に変位する事が阻止される。この為、ステアリングコラム2aの内径側に回転可能に支持されたアッパシャフト11の後端部に支持されたステアリングホイール4が後方に向けて変位する(運転者に向けて突き上げられる)事を防止でき、運転者の保護を図れる。又、ステアリングホイール4と運転者の身体との位置関係(距離)を適切に維持できる為、例えばこのステアリングホイール4に設置したエアバッグの衝撃軽減効果を十分に発揮させられる。この点からも運転者の保護を図れる。尚、上述の様に、一次衝突後のステアリングホイール4と運転者の身体との位置関係(距離)を適切に維持する観点から、ハンガーパイプ16の前端部と舵角比調節用モータ14の後端部との、ステアリングコラム2aの中心軸の軸方向に関する距離Lを適切な値に決定する。即ち、この距離Lは、車種等に応じて適宜設定される値であり、例えば5mm以上に設定する事ができる。
【0029】
又、本例の舵角比調節用モータ14は、その中心軸αと、ハンガーパイプ16の中心軸及びステアリングコラム2aの中心軸に対しそれぞれ直交する仮想直線βと、が互いに平行になる様に、ケーシング19に対して支持されている。この為、舵角比調節用モータ14の重心とステアリングコラム2aの中心軸とを結ぶ仮想直線と、重力の作用方向と、がなす角度(幅方向に関する距離)を小さくでき、舵角比調節用モータ14の存在に基づいてステアリングコラム2aに加わるこのステアリングコラム2aの中心軸回りのモーメントを小さく抑えられる。この結果、ハンガーパイプ16の取付部17と、コラム側ブラケット15及びロアブラケット20と、の結合部に加わる捩り応力を小さく抑えられる為、取付部17やコラム側ブラケット15及びロアブラケット20の薄肉・軽量化ができる。
【0030】
尚、本例の舵角可変式ステアリング装置に、二次衝突の際に、運転者の身体に加わる衝撃を緩和する為の衝撃吸収機構を組み込む事もできる。即ち、衝突事故の際には、一次衝突に続いて、運転者の身体がステアリングホイール4(図
11参照)に衝突する二次衝突が発生する。そこで、ステアリングコラム2aの中間部に支持固定されたコラム側ブラケット15、及び、ステアリングコラム2aの前端部(に支持された変速機13のケーシング19)に支持固定されたロアブラケット20を、ハンガーパイプ16の取付部17に対して、二次衝突に伴う前方への衝撃荷重により前方に離脱可能に支持すると共に、ステアリングコラム2aと共に前方に変位する部分と車体との間に、塑性変形する事で衝撃荷重を吸収するエネルギ吸収部材を設ける。或いは、ステアリングコラム2aを、前側のインナコラムの後部と後側のアウタコラムの前端部とを、軸方向の相対変位を可能に嵌合させることによって、全長を収縮可能に構成する。又、アッパシャフト11を、インナシャフトとアウタチューブとをトルク伝達を可能に、且つ、軸方向に大きな衝撃荷重が加わった場合に全長を収縮可能に組み合わせて成るものとする。そして、アウタコラムの中間部に支持固定されたコラム側ブラケット15を、ハンガーパイプ16の取付部17に対して、二次衝突に伴う前方への衝撃荷重により前方に離脱可能に支持すると共に、アウラコラムと車体との間に、塑性変形する事で衝撃荷重を吸収するエネルギ吸収部材を設ける。この様な構造の場合、二次衝突の際には、アウタコラムがステアリングコラムの全長を縮めながら前方に変位する事で、衝撃荷重を吸収する。尚、インナコラムとアウタコラムとをテレスコープ状に組み合わせて成るステアリングコラムを備えた舵角比可変式ステアリング装置を搭載した車両が衝突事故を起こし、このステアリングコラムの前端部に後方に向いた大きな衝撃荷重が加わると、前側に配置されたインナコラムがこのステアリングコラム2aの全長を縮めながら後方に変位する傾向となる。この場合でも、インナコラムの変位量が大きくなると、ステアリングホイール4が運転者に向けて突き上げられる可能性がある為、インナコラムに舵角比調節用モータ14を支持固定して、一次衝突の際に、このインナコラムが後方に変位する事を阻止するとよい。何れにしても、本例の舵角可変式ステアリング装置によれば、衝突事故が発生した場合でも、ステアリングホイール4と運転者の身体との位置関係を適切に維持できる為、上述の様な衝撃吸収機構の設計を容易に行う事ができる。
【0031】
又、本例の舵角比可変式ステアリング装置に、ステアリングホイール4の上下位置を調節する為のチルト機構や、前後位置を調節する為のテレスコピック機構を組み込む事もできる。
【0032】
舵角比可変式ステアリング装置にチルト機構を組み込む場合には、ロアブラケット20を、車体の幅方向に配置したチルト軸を中心とする揺動変位を可能に、車体に対し支持する。さらに、ステアリングコラム2aの中間部をハンガーパイプ16の取付部17に対し、上下位置の調節を可能な状態と、調節後の位置に保持可能な状態と、を切り換え可能に支持する。
【0033】
又、舵角比可変式ステアリング装置にテレスコピック機構を組み込む場合には、ステアリングコラム2aを、インナコラムとアウタコラムとを組み合わせて全長を伸縮可能に構成する。さらに、アッパシャフトを、インナシャフトとアウタチューブとを組み合わせて全長を伸縮可能に構成する。そして、インナコラムとアウタコラムとのうち、後側に配置されたコラム部材を、ハンガーパイプ16の取付部17に対し、前後位置の調節を可能な状態と、調節後の位置に保持可能な状態と、を切り換え可能に支持する。
【0034】
[実施形態の第2例]
図3は、本発明の実施形態の第2例を示している。本例の舵角可変式ステアリング装置には、電動式パワーステアリング装置が組み込まれている。この電動式パワーステアリング装置においては、補助力付与用モータ21を補助動力源として、ステアリングホイール4(図
11参照)を操作する為に要する力の低減を図っている。また、この電動式パワーステアリング装置は、補助力付与用モータ21の補助動力をステアリングギヤユニット7aを構成するピニオン軸に付与する、ピニオンアシスト型としている。この様なピニオンアシスト型は、前述の図
11に示したコラムアシスト型と比較して、大きな補助力を付与できる為、普通自動車の中でも比較的大型の車両に好ましく適用できる。
【0035】
この様なピニオンアシスト型の電動式パワーステアリング装置を組み込んだステアリング装置の場合には、衝突事故の際に、電動式パワーステアリング装置の補助動力源である電動モータ(補助力付与用モータ)をハンガーパイプ16(
図2参照)に衝突させる事により、ステアリングコラムの後方への変位を防止する構造(例えば、特許文献5に記載された構造を参照)を採用する事ができない。これに対し、本例の場合には、舵角比調節用モータ14をハンガーパイプ16に衝突させる事により、ステアリングコラム2aの後方への変位を防止できる。即ち、大きな補助力を得るべく、ピニオンアシスト型の電動式パワーステアリング装置を組み込んだ場合でも、衝突事故の際に、ステアリングコラム2aの後方への変位を防止できる。
【0036】
その他の部分の構成及び作用は、上述した実施形態の第1例と同様である。
【0037】
[実施形態の第3例]
図4は、本発明の実施形態の第3例を示している。本例の舵角可変式ステアリング装置には、補助力付与用モータ21aの補助動力を減速機22を介してロアシャフト12に付与する、コラムアシスト型の電動式パワーステアリング装置が組み込まれている。本例の場合、変速機13を収納するケーシング19の前部に、減速機22が支持固定されている。補助力付与用モータ21aは、ステアリングコラム2aの幅方向に関して、舵角比調節用モータ14がケーシング19に対して支持固定された側と反対側で、減速機22に対し支持固定されている。従って、補助力付与用モータ21aの存在に基づいてステアリングコラム2aに加わるステアリングコラム2aの中心軸回りのモーメントの方向は、舵角比調節用モータ14の存在に基づいて加わるモーメントの方向と逆になる。又、補助力付与用モータ21aの中心軸α
21と、舵角比調節用モータ14の中心軸α
14(ハンガーパイプ16の中心軸及びステアリングコラム2aの中心軸に対しそれぞれ直交する仮想線)と、は互いに平行になる様に構成されている。この為、ステアリングコラム2aの中心軸回りのモーメントをより小さく抑える事ができて、ハンガーパイプ16の取付部17と、コラム側ブラケット15及びロアブラケット20と、の結合部に加わる捩り応力をより小さく抑えられる。
【0038】
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施形態の第1例と同様である。
【0039】
[実施形態の第4例]
図5は、本発明の実施形態の第4例を示している。本例の場合、舵角比調節用モータ14の外周面の幅方向外側部分に、鋼板等の金属板を略L字形に曲げ成形して成る案内板23が支持固定されている。これにより、舵角比調節用モータ14よりも前側に幅方向外方に向かう程(ステアリングコラム2aから離れる程)後方に向かう方向に傾斜した傾斜面部24が設けられている。この様な本例の舵角可変式ステアリング装置を搭載した車両が衝突事故を起こした場合、一次衝突の際に潰れて後方に変位した車体の前部は、傾斜面部24に案内され、この傾斜面部24に沿って幅方向外方へと移動する。従って、一次衝突の際に舵角比調節用モータ14に加わる後方に向いた衝撃荷重を小さく抑える事ができる。
【0040】
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施形態の第1例と同様である。
【0041】
[実施形態の第5例]
図6は、本発明の実施形態の第5例を示している。本例の場合、舵角比調節用モータ14の外周面の幅方向外側部分に、この舵角比調節用モータ14への通電を制御する為の制御器(ECU)25が支持固定されている。そして、制御器25の前端面の幅方向外半部に、幅方向外方に向かう程後方に向かう方向に傾斜した傾斜面部24aが設けられている。
【0042】
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施形態の第1例及び上述した実施形態の第4例と同様である。
【0043】
[実施形態の第6例]
図7は、本発明の実施形態の第6例を示している。本例の舵角可変式ステアリング装置には、補助力付与用モータ21bの補助動力を減速機22を介してロアシャフト12に付与する、コラムアシスト型の電動式パワーステアリング装置が組み込まれている。減速機22は、変速機13を収納するケーシング19の前部に支持固定されている。補助力付与用モータ21bは、ステアリングコラム2aの幅方向に関して、舵角比調節用モータ14が変速機13を収納するケーシング19に対して支持固定された側と同じ側で、減速機22に対し支持固定されている。換言すれば、補助力付与用モータ21bと舵角比調節用モータ14とは、ステアリングコラム2aの中心軸の軸方向に関して、重畳した状態で設けられている。従って、一次衝突時に、舵角比調節用モータ14がハンガーパイプ16(
図2参照)に衝突した状態で、補助力付与用モータ21bが更に後方に変位する傾向になると、この補助力付与用モータ21bが舵角比調節用モータ14に衝突する。この結果、ステアリングコラム2aの後方への変位が、一体化したこれら両モータ14、21bと、ハンガーパイプ16と、の係合部(当接部)により阻止される。即ち、本例によれば、一次衝突の際に、ステアリングコラム2aが後方に変位するのを阻止する為の構造を二重にでき、舵角比調節用モータ14がハンガーパイプ16(
図2参照)に衝突した状態で、ステアリングコラム2aがそれ以上後方に変位する事に対する阻止力をより大きくする事ができる。又、舵角可変式ステアリング装置を組み立てる際に、この舵角可変式ステアリング装置の向きを変更する事なく、舵角比調節用モータ14と補助力付与用モータ21bとを組み付ける事ができ、製造コストを抑える事ができる。
【0044】
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施形態の第1例と同様である。
【0045】
[実施形態の第7例]
図8は、本発明の実施形態の第7例を示している。本例の舵角可変式ステアリングコラムには、アッパシャフト11がステアリングコラム2a内で回転する事を実質的に阻止する為のステアリングロック装置26が組み込まれている。ステアリングロック装置26は、ステアリングコラム2aの周囲で変速機13の後側に隣接する部分に設けられている。ステアリングロック装置26は、ステアリングコラム2aの中間部に形成された通孔(図示省略)と、周方向の少なくとも1箇所に係合凹部が形成されたキーロックカラー(図示省略)と、通孔の内側をステアリングコラム2aの径方向に変位可能に設けられたロックピン(図示省略)と、直動式のアクチュエータ(ソレノイド)27と、を備える。
【0046】
このうちのキーロックカラーは、アッパシャフト11のうち通孔と軸方向に関する位相が一致する位置に外嵌固定されている。そして、アクチュエータ27によりロックピンを径方向内方に変位させ、ロックピンの先端部(径方向内端部)を係合凹部に係合させる事により、ステアリングコラム2aに対するアッパシャフト11の回転を実質的に不能にする。即ち、係合凹部とロックピンとを係合させた状態で、ステアリングホイール4(図
11参照)を所定以上の(キーロックレギュレーションにより規定された値を越える)力で回転させた場合には、アッパシャフト11はキーロックカラーに対して回転する。但し、操舵輪に、所望の舵角を付与する為に、ステアリングホイール4を、通常の運転姿勢のまま操作する程度の力では、アッパシャフト11が回転する事はない。これに対し、アクチュエータ27によりロックピンを径方向外方に変位させこのロックピンの先端部と係合凹部との係合を外した状態では、ステアリングコラム2aに対するアッパシャフト11の回転が可能になる。
【0047】
本例の場合、アクチュエータ27は、ステアリングコラム2aの幅方向に関して、舵角比調節用モータ14が変速機13を収納するケーシング19に対して支持された側と同じ側に支持固定されている。ここで、アクチュエータ27の中心軸α
27と、舵角比調節用モータ14の中心軸α
14と、は互いに平行である。換言すれば、アクチュエータ27と舵角比調節用モータ14とは、ステアリングコラム2aの中心軸の軸方向に関して重畳した状態で設けられている。この為、本例の舵角可変式ステアリング装置を搭載した車両が衝突事故を起こした場合には、ステアリングコラム2aが後方に変位する事に伴い、先ず、アクチュエータ27がハンガーパイプ16に衝突する。この状態で、舵角比調節用モータ14が更に後方に変位する傾向になると、この舵角比調節用モータ14がアクチュエータ27に衝突する。この結果、ステアリングコラム2aの後方への変位が、一体化したこれらアクチュエータ27及び舵角比調節用モータ14と、ハンガーパイプ16と、の係合部(当接部)により阻止される。即ち、本例によれば、一次衝突の際に、ステアリングコラム2aが後方に変位するのを阻止する為の構造を二重にできる。又、舵角可変式ステアリング装置を組み立てる際に、この舵角可変式ステアリング装置の向きを変更する事なく、舵角比調節用モータ14とアクチュエータ27とを組み付ける事ができ、製造コストを抑える事ができる。
【0048】
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施形態の第1例及び上述した実施形態の第6例と同様である。
【0049】
[実施形態の第8例]
図9及び
図10は、本発明の実施形態の第8例を示している。本例の場合、舵角比調節用モータ14の中心軸αと、ハンガーパイプ16の中心軸δ及びステアリングコラム2aの中心軸εに対しそれぞれ直交する仮想直線β(
図2参照)と、が平行に配置されない。即ち、上述した実施形態においては、舵角比調節用モータ14の中心軸αが、ハンガーパイプ16の中心軸δ及びステアリングコラム2aの中心軸εに直交していたが、本例では直交しない。
【0050】
より具体的には、
図10に示すように、ステアリングコラム2aの中心軸εの軸方向から見た際に、舵角比調節用モータ14の中心軸αと、ハンガーパイプ16の中心軸δと、が成す鋭角θが0°≦θ<90°を満たす。ここで、ステアリングコラム2aの中心軸εの軸方向に関して、舵角比調節用モータ14の少なくとも一部と、ハンガーパイプ16と、が重畳する。
【0051】
このように、舵角比調節用モータ14を、ハンガーパイプ16に対して直角(θ=90°)とならないように、斜めに配置(0°≦θ<90°)することで、ステアリングコラム2aの中心軸εの軸方向から見た際に、舵角比調節用モータ14とハンガーパイプ16とが重なる領域を広くできる。したがって、一次衝突時の舵角比調節用モータ14の後方への変位が、ハンガーパイプ16によって規制され易くなるため、ステアリングコラム2a、ひいてはステアリングホイール4が後方に変位する事を防止でき、運転者の保護がより確実となる。
【0052】
本出願は、2014年11月28日出願の日本特許出願2014−241031に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。