(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
管状の容器内に、ゲル状媒体層と液体層とが容器の長手方向に交互に重層され、さらに磁性体粒子が装填されたデバイス内において、前記磁性体粒子を移動させるための磁性体粒子の操作方法であって、
前記容器は、内壁面に沿って前記磁性体粒子を容器の長手方向に移動させるための磁性体粒子移動部を有し、前記磁性体粒子移動部は、容器の長手方向に延在しており、
前記磁性体粒子移動部の延在方向に沿って前記磁性体粒子が移動するように、前記容器の外部から磁場操作が行われ、
前記ゲル状媒体層が装填された部分において、容器の長手方向に垂直な面における容器内壁面の断面形状が非円形であり、かつ、前記断面における前記磁性体粒子移動部の形状が湾曲形状または角形状であり、
前記断面における前記磁性体粒子移動部の曲率半径をr、前記容器内壁面の断面積をSとしたとき、r<(S/π)1/2を満たす、磁性体粒子の操作方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[磁性体粒子操作用デバイス]
図1A〜
図1Cは、本発明の磁性体粒子操作用デバイスの一形態を示す模式的断面図である。
図1Aに示すように、このデバイスは、管状の容器10内に、容器底面側から、液体層32,35,31とゲル状媒体層22,21とが交互に重層されている。ゲル状媒体は、隣接する液体層中の液体と混和性を有さず、これらの液体に対して、不溶または難溶である。
【0019】
図1Aにおいて、容器上部の液体層31には、多数の磁性体粒子70が含まれている。磁性体粒子70は、その表面または内部に、核酸や抗原等の目的物質を特異的に固定可能な粒子である。磁性体粒子70を液体層31中で分散させることにより、液体層31中に含まれる目的物質が粒子70に選択的に固定される。
【0020】
図1Bに示すように、容器10の外壁面に、磁力源である磁石9を近付けると、目的物質が固定された磁性体粒子は、磁場の作用により、磁石9近傍の容器10の内壁面に集められる。
図1Cに示すように、磁石9を、外壁面に沿って容器10の長手方向に移動させると、磁場の変化に追随して、磁性体粒子70も容器10の長手方向に沿って移動し、ゲル状媒体層21、液体層35、ゲル状媒体層22、液体層32へと順に移動する。
【0021】
本明細書では、容器内壁面に沿って磁性体粒子を容器の長手方向に移動させるための部分を「磁性体粒子移動部」という。本発明の磁性体粒子操作用デバイスでは、ゲル状媒体層が装填された部分において、容器の長手方向に垂直な面における容器内壁面の断面形状が非円形であり、上記断面における磁性体粒子移動部の形状が湾曲形状または角形状であることを特徴としている。
【0022】
図2は、
図1CのA−A線断面図であり、ゲル状媒体層21が装填された部分における、容器10の長手方向に垂直な断面を示している。以下の説明においては、「容器の長手方向に垂直な面における断面形状」および「容器の長手方向に垂直な面における断面積」を、それぞれ「断面形状」および「断面積」と略記する場合がある。
【0023】
図2に示す容器10の内壁面の断面形状は非円形であり、点10b−点10c間の曲線部と、点10b−点10c間の直線部とを有する。上記曲線部は、容器外方に凸の曲線からなり、変曲点10aを有する。本明細書では、曲線部の点のうち、曲率半径が最小となる点を変曲点という。
【0024】
本形態では、変曲点10aにおける曲率半径をr(mm)、容器10の内壁面の断面積をS(mm
2)としたとき、πr
2<Sであるため、r<(S/π)
1/2を満たす。
【0025】
本形態では、変曲点10aに対応する容器外壁面と対向するように磁石9を近付ける。すると、目的物質が固定された磁性体粒子70は、内壁面の曲面形状に合うように変曲点10a近傍に球状に集められる。その後、磁石9を容器10の長手方向に沿って移動させることで、磁性体粒子70は、変曲点10a近傍に球状に集められた状態で長手方向に沿って移動する。したがって、磁性体粒子70は、棒状の塊となって容器10の長手方向に移動し、ゲル状媒体層21を通過する。
【0026】
図3は、容器内壁面の断面形状が円形である形態を表す模式的断面図である。
図3に示す容器90の内壁面の断面形状は円形であり、
図2に示す容器10の内壁面と同一の断面積S(mm
2)を有する。容器90の内壁面の半径をR(mm)とすると、S=πR
2となる。上述のとおり、本形態ではπr
2<Sであるため、πr
2<πR
2となり、r<Rを満たす。
【0027】
容器90の外壁面と対向するように磁石9を近付けると、目的物質が固定された磁性体粒子70は、容器90の内壁面の曲面形状に合うように集められる。r<Rであるため、磁性体粒子70の塊は、
図2よりも周方向に広がる。したがって、磁石9を容器10の長手方向に沿って移動させると、磁性体粒子70は、帯状の塊となって容器10の長手方向に移動し、ゲル状媒体層21を通過する。
【0028】
ゲル状媒体層21内への磁性体粒子70の進入および移動により、ゲル状媒体が穿孔されるが、ゲルの復元力による自己修復作用により、ゲル状媒体層の孔は塞がれる。本形態では、半径Rよりも小さい曲率半径rを有する磁性体粒子移動部が存在するため、
図2に示すように磁性体粒子70を棒状の塊として容器10の長手方向に移動させることで、
図3に示すような磁性体粒子70を帯状の塊として移動させる場合に比べて、ゲル状媒体層21の孔の径を小さくできる。したがって、ゲル状媒体層21の孔を速やかに塞ぐことができるため、液体層31の液体が液体層35に混入することを防止できる。
【0029】
本形態では、さらに、容器10の内壁面の断面積Sがπr
2よりも大きいため、容器内壁面の断面が半径rの円形である場合に比べて、容器の断面積を確保できる。したがって、ゲル状媒体を装填する際にコンタミネーションが生じやすくなるといった問題や、容器内に装填する磁性体粒子の量を多くすることができないといった問題が低減される。
【0030】
以下、
図2と同様の断面形状を有する容器を用いて、容器内壁面の変曲点に対応する容器外壁面と対向するように磁石を配置した場合と、容器内壁面の直線部に対応する容器外壁面と対向するように磁石を配置した場合との比較を示す。
【0031】
図4(a)〜
図4(c)は、容器内壁面の変曲点に対応する容器外壁面と対向するように磁石を配置した場合において、磁性体粒子がゲル状媒体層を通過する様子を観察した写真である。
図4(a)に示すように、管状の容器内に、容器底面側(紙面の下側)から、液体層である第二水層132、ゲル状媒体層121、液体層である第一水層131が配置されており、第一水層131内に磁性体粒子が装填されている。第一水層131の水は着色されており、第二水層132の水は無色である。容器の長手方向に沿って磁石を移動させると、
図4(b)に示すように、第一水層131に装填されていた磁性体粒子は、磁石の移動に追随するように棒状の塊となってゲル状媒体層121へ進入する。その際、磁性体粒子によってゲル状媒体層121に棒状の孔が形成され、この孔に第一水層131から水の一部が流入する。しかし、ゲル状媒体層121においては、磁性体粒子が通過すると速やかに孔が塞がれるため、第一水層131からゲル状媒体層121に流入する水の量はわずかである。その後、
図4(c)に示すように、磁性体粒子がゲル状媒体層121を通過し終わっても、第一水層131の流入による第二水層132の着色は確認されなかった。この結果から、ゲル状媒体層121の孔が速やかに塞がれるため、第一水層131の水が第二水層132に混入することが防止されていることがわかる。
【0032】
一方、
図5(a)〜
図5(c)は、容器内壁面の直線部に対応する容器外壁面と対向するように磁石を配置した場合において、磁性体粒子がゲル状媒体層を通過する様子を観察した写真である。
図5(a)〜
図5(c)においては、容器内壁面を構成する直線部に対応する容器外壁面と対向するように磁石が配置されていることを除いて、
図4(a)〜
図4(c)と同じである。容器の長手方向に沿って磁石を移動させると、
図5(b)に示すように、第一水層131に装填されていた磁性体粒子は、磁石の移動に追随するように帯状の塊となってゲル状媒体層121へ進入する。その際、磁性体粒子によってゲル状媒体層121に帯状の孔が形成され、この孔に第一水層131から水の一部が流入する。
図4(b)と異なり、ゲル状媒体層121において孔がすぐには塞がらず、ゲル状媒体層121に水が流入していく。その後、
図5(c)に示すように、磁性体粒子がゲル状媒体層121を通過し終わると、第一水層131の流入による第二水層132の着色が確認された。この結果から、ゲル状媒体層121の孔が塞がりにくいため、ゲル状媒体層121の孔が塞がれる前に、第一水層131から水の一部が水層132に混入したことがわかる。
【0033】
以上の結果から、湾曲形状の磁性体粒子移動部に磁性体粒子を集めて、磁性体粒子を棒状の塊として容器の長手方向に移動させることで、ゲル状媒体層に形成される孔の径を小さくでき、ゲル状媒体層で隔てられた液体層間での液体の混入を防止できることが確認された。
【0034】
図2に示す形態では、磁性体粒子移動部の断面形状が湾曲形状である例について説明したが、磁性体粒子移動部の断面形状は角形状であってもよい。例えば、
図2においては、点10bまたは点10cを磁性体粒子移動部とすることができる。
【0035】
ただし、点10bまたは点10cのように、磁性体粒子移動部の断面形状が角形状であると、磁性体粒子との摩擦が大きくなり、磁性体粒子の移動が妨げられるため、磁性体粒子が磁性体粒子移動部に詰まりやすくなる。そのため、磁性体粒子移動部の断面形状は、湾曲形状であることが好ましい。
【0036】
磁性体粒子移動部の断面形状が湾曲形状である場合、
図2に示す変曲点10aのように、曲率半径が最小である部分を磁性体粒子移動部とすることが好ましいが、容器内壁面の曲率半径をr、容器内壁面の断面積をSとしたとき、πr
2<S、つまりr<(S/π)
1/2を満たす部分を磁性体粒子移動部とすることができる。
【0037】
また、容器内壁面の断面形状が曲線部および直線部を有する場合、曲線部は、変曲点が存在しない円弧からなってもよい。曲線部が円弧からなる場合、円弧状のいずれの点も一定の曲率半径rを有する。この場合も、πr
2<S、つまりr<(S/π)
1/2を満たせば、曲線部の任意の部分を磁性体粒子移動部とすることができる。
【0038】
容器内壁面の断面形状が曲線部および直線部を有する場合、その断面形状は、
図2に示す形状に限定されない。容器内壁面の断面形状は、
図6Aに示す容器110および
図6Dに示す容器113のように、複数の直線部を有してもよく、
図6Bに示す容器111のように、複数の曲線部を有してもよい。さらに、容器内壁面の断面形状は、
図6Cに示す容器112のように、多角形の角部が丸みを帯びた形状であってもよい。
【0039】
図6A〜
図6Cでは、湾曲形状の磁性体粒子移動部として、変曲点110a,111a,111b,112a〜112dを磁性体粒子移動部とすることができる。また、
図6Dのように、変曲点113bの曲率半径が大きい場合には、角形状の磁性体粒子移動部として、点113aを磁性体粒子移動部としてもよい。
【0040】
容器内壁面の断面形状としては、曲線部および直線部を有する形状に限定されず、曲線部のみを有する形状でも、直線部のみを有する形状でもよい。
【0041】
容器内壁面の断面形状が曲線部のみを有する場合、その断面形状は、
図7に示す容器210のように、変曲点210aを有する曲線と円弧とを組み合わせた形状であってもよい。その他、曲率半径の異なる変曲点を有する曲線を組み合わせた形状であってもよく、半径の異なる円弧を組み合わせた形状であってもよい。
【0042】
また、容器内壁面の断面形状が曲線部のみを有する場合、その断面形状は、
図8に示す容器310のように楕円形であってもよい。
【0043】
上述のとおり、磁性体粒子移動部の断面形状が湾曲形状である場合、r<(S/π)
1/2を満たす部分が磁性体粒子移動部であることが好ましく、曲率半径の最も小さい部分が磁性体粒子移動部であることがより好ましい。例えば、
図7では、変曲点210aが磁性体粒子移動部であることが好ましい。また、容器内壁面の断面形状が楕円形である場合、長径と交わる変曲点の曲率半径が最も小さいため、
図8では、変曲点310aが磁性体粒子移動部であることが好ましい。
【0044】
容器内壁面の断面形状が直線部のみを有する場合、その断面形状は、任意の形状の多角形でよい。
【0045】
容器内壁面の断面形状が多角形である場合、それぞれの角部の曲率半径は0である。そのため、それぞれの角部を角形状の磁性体粒子移動部とすることができる。角部の角度は同じであってもよく、異なっていてもよい。角部の角度が異なる場合、角度の最も小さい部分が磁性体粒子移動部であることが好ましい。
【0046】
図2および
図6〜
図8に示した形態では、容器内壁面の断面形状が線対称である例について説明したが、磁性体粒子移動部を有する限り、容器内壁面の断面形状は対称である必要はない。
【0047】
上述したように、磁性体粒子移動部の断面形状が角形状であると、磁性体粒子との摩擦が大きくなり、磁性体粒子の移動が妨げられるため、磁性体粒子が磁性体粒子移動部に詰まりやすくなる。そのため、磁性体粒子移動部の断面形状は、湾曲形状であることが好ましい。
【0048】
一方、容器内壁面に直線部が存在すると、同じ断面積で比べたときに磁性体粒子移動部の曲率半径を小さくできる。また、後述のような磁性体粒子操作用装置を用いて磁性体粒子を移動させる場合、直線部に対応する容器外壁面を容器押圧部と対向させることで、容器の押圧が容易となる。
【0049】
以上を考慮すると、容器内壁面の断面形状は、
図2に示すような、直線部と、湾曲形状の磁性体粒子移動部とを有する形態がより好ましい。
【0050】
磁性体粒子移動部の断面形状が湾曲形状である場合、磁性体粒子移動部の曲率半径r(mm)は、0.5mm〜10mmであることが好ましく、1.5mm〜5.5mmであることがより好ましい。
【0051】
容器内壁面の断面積S(mm
2)は、少なくとも前記ゲル状媒体層が装填された部分において、0.2mm
2〜80mm
2であることが好ましく、1.5mm
2〜25mm
2であることがより好ましい。
【0052】
磁性体粒子移動部の曲率半径をr(mm)、容器内壁面の断面積をS(mm
2)とすると、r<(S/π)
1/2を満たすことが好ましく、r<0.5×(S/π)
1/2としてもよい。また、r≧0である。
【0053】
容器内壁面の断面形状によっては、r<(2S/π)
1/2とすることもできる。例えば、
図9に示す容器410のように容器内壁面の断面形状が半楕円形である場合、短径をR
1、長径をnR
1(nは1より大きい係数)とすると、容器内壁面の断面積SはS=πnR
12/2で表される。この場合、磁性体粒子移動部の曲率半径rは、r<R
1すなわちr<(2S/πn)
1/2を満たすことが好ましい。nは1より大きいため、r<(2S/π)
1/2を満たすことが好ましい。なお、長径と交わる変曲点410aにおける曲率半径r
1はr
1=R
1/nで表され、nは1より大きいため、r
1<R
1を満たす。
【0054】
図9では容器内壁面の断面形状が半楕円形である場合について説明したが、
図2の場合も含めて、容器内壁面の断面形状が曲線部と1本の直線部とからなる場合(特に、1つの変曲点を有する曲線部と1本の直線部とからなる場合)には、r<(2S/π)
1/2を満たすことが好ましい。また、
図6Aのように、容器内壁面の断面形状が曲線部と2本の直線部とからなる場合(特に、1つの変曲点を有する曲線部と2本の直線部とからなる場合)には、磁性体粒子移動部の曲率半径rは直線部の長さLより小さいことが好ましい。
【0055】
本発明の磁性体粒子操作用デバイスでは、少なくともゲル状媒体層が装填された部分において、容器内壁面の断面形状が非円形であり、かつ、磁性体粒子移動部の断面形状が湾曲形状または角形状であればよい。なかでも、磁性体粒子が移動する領域において、容器内壁面の断面形状が非円形であり、かつ、磁性体粒子移動部の断面形状が湾曲形状または角形状であることが好ましく、容器の長手方向の全体において、容器内壁面の断面形状が非円形であり、かつ、磁性体粒子移動部の断面形状が湾曲形状または角形状であることがより好ましい。
【0056】
容器内壁面の断面形状が上述の形状である限り、容器の肉厚は特に限定されない。磁石と対向する側において容器の肉厚が一定であると、磁石と容器内壁面との距離を一定に保つことができるため、磁性体粒子をスムーズに移動できる。そのため、磁石と対向する側において、容器の肉厚は、少なくともゲル状媒体層が装填された部分で一定であることが好ましく、すべての部分で一定であることがより好ましい。さらに、容器の長手方向の全体において肉厚が一定であることが特に好ましい。
【0057】
容器は必ずしも直管状である必要はなく、管の長手方向に沿ってみた場合に、径の大きい部分や、径の小さい部分が存在してもよい。
【0058】
容器の長さは特に限定されず、一例として、50mm〜200mm程度でよい。容器の内壁の断面積や長さは、処理すべき物質の量、磁性体粒子の量等に応じて適切なものを選択すればよい。
【0059】
容器内で磁性体粒子を移動可能であり、液体およびゲル状媒体を保持できるものであれば、容器の材質は特に限定されない。容器外からの磁場操作により容器内の磁性体粒子を移動させるためには、プラスチック等の透磁性材料が好ましく、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、テトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン等の樹脂材料が挙げられる。容器の材質としては、上述の素材の他、セラミック、ガラス、シリコーン、非磁性金属等も用いられ得る。容器内壁面の撥水性を高めるために、フッ素系樹脂やシリコーン等によるコーティングが行われてもよい。
【0060】
粒子の操作中あるいは操作後に、吸光度、蛍光、化学発光、生物発光、屈折率変化等の光学的測定が行われる場合や、光照射が行われる場合は、光透過性を有する容器が好ましく用いられる。また、容器が光透過性であれば、容器内の粒子操作の状況を目視確認できることからも好ましい。一方、液体や磁性体粒子等を遮光する必要がある場合は、光透過性を有していない遮光性の容器が好ましく用いられる。使用目的等によって、光透過部分と遮光部分とを有する容器を採用することもできる。
【0061】
本発明の磁性体粒子操作用デバイスは、管状の容器内にゲル状媒体層と液体層とが交互に重層されており、容器が上述した形状を有していれば、その他の構成は特に限定されない。
【0062】
磁性体粒子への目的物質の固定方法は特に限定されず、物理吸着、化学吸着等の各種公知の固定化メカニズムが適用可能である。例えば、ファンデルワールス力、水素結合、疎水相互作用、イオン間相互作用、π−πスタッキング等の種々の分子間力により、粒子の表面あるいは内部に目的物質が固定される。
【0063】
磁性体粒子の粒径は1mm以下が好ましく、0.1μm〜500μmがより好ましい。粒子の形状は、粒径が揃った球形が望ましいが、粒子操作が可能である限りにおいて、不規則な形状で、ある程度の粒径分布を持っていてもよい。粒子の構成成分は単一物質でもよく、複数の成分からなるものでもよい。
【0064】
磁性体粒子は、磁性体のみからなるものでもよいが、磁性体の表面に目的物質を特異的に固定するためのコーティングが施されたものが好ましく用いられる。磁性体としては、鉄、コバルト、ニッケル、ならびにそれらの化合物、酸化物、および合金等が挙げられる。具体的には、マグネタイト(Fe
3O
4)、ヘマタイト(Fe
2O
3、またはαFe
2O
3)、マグヘマイト(γFe
2O
3)、チタノマグネタイト(xFe
2TiO
4・(1−x)Fe
3O
4)、イルメノヘマタイト(xFeTiO
3・(1−x)Fe
2O
3)、ピロタイト(Fe
1−xS(x=0〜0.13)‥Fe
7S
8(x〜0.13))、グレイガイト(Fe
3S
4)、ゲータイト(αFeOOH)、酸化クロム(CrO
2)、パーマロイ、アルコニ磁石、ステンレス、サマリウム磁石、ネオジム磁石、バリウム磁石が挙げられる。
【0065】
磁性体粒子に選択的に固定される目的物質としては、例えば核酸、タンパク質、糖、脂質、抗体、受容体、抗原、リガンド等の生体由来物質や細胞自身が挙げられる。目的物質が生体由来物質である場合は、分子認識等により、粒子の内部あるいは粒子表面に目的物質が固定されてもよい。例えば、目的物質が核酸である場合は、磁性体粒子として、表面にシリカコーティングが施された磁性体粒子等が好ましく用いられる。目的物質が、抗体(例えば、標識抗体)、受容体、抗原およびリガンド等である場合、粒子表面のアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、アピジン、ピオチン、ジゴキシゲニン、プロテインA、プロテインG等により、目的物質を粒子表面に選択的に固定できる。特定の目的物質を選択的に固定可能な磁性体粒子として、例えば、ライフテクノロジーズから販売されているDynabeads(登録商標)や、東洋紡から販売されているMagExtractor(登録商標)等の市販品を用いることもできる。
【0066】
図1A〜
図1Cでは、液体層35内および液体層31内で磁性体粒子70を分散させ、磁性体粒子を液体層内の液体と接触させることにより、磁性体粒子への目的物質の固定、磁性体粒子表面に付着している夾雑物を除去するための洗浄操作、磁性体粒子に固定されている目的物質の反応、磁性体粒子に固定されている目的物質の液体中への溶出等の操作が行われる。
【0067】
例えば、シリカコーティングが施された磁性体粒子を用いて核酸の分離・抽出を行う場合、核酸抽出液と核酸を含む液体試料31中で磁性体粒子70を分散させ、磁性体粒子70の表面に核酸を固定した後、磁性体粒子70を洗浄液35中へ移動させる。洗浄液35中で磁性体粒子70を分散させ表面に付着した夾雑タンパク質等を除去した後、磁性体粒子70を核酸溶出液32中へ移動させる。核酸溶出液32中で磁性体粒子70を分散させることにより、粒子表面に固定されていた核酸を核酸溶出液32中に回収することができる。なお、
図1A〜
図1Cでは、容器10内に、洗浄液として1層の液体層35が装填されているが、洗浄液は2層でもよく、3層以上が用いられてもよい。また、分離の目的や、用途における不所望の阻害が生じない範囲において、洗浄液を省略することもできる。
【0068】
また、磁性体粒子に選択的に固定される物質が抗原である場合、第一の媒体層である液体層31内に含まれる抗原が、プロテインGやプロテインA等の抗原を選択的に固定化可能な分子でコーティングされた磁性体粒子70の表面に固定され、液体層35内で磁性体粒子を分散させることにより、粒子表面に付着した夾雑物を除去するための洗浄が行われ、第二の媒体層である液体層32内で磁性体粒子を分散させることにより、粒子表面に固定された抗原と液体層32内の抗体との抗原抗体反応や、液体層32内への目的物質の遊離溶出等を行うことができる。
【0069】
上記の粒子操作方法は、ピペット等により液流を発生させる必要がないため、密閉系で実施できる。容器内に液体、ゲル状媒体および磁性体粒子を密封装填すれば、外部からのコンタミネーションを防止できる。そのため、RNA等の分解しやすい目的物質を磁性体粒子に固定して操作する場合や、空気中の酸素等と反応しやすい液体を用いる場合等に、特に有用である。容器を密閉系とする場合、容器の開口部を熱融着する方法や、適宜の封止手段を用いて封止することができる。操作後の粒子や目的物質を溶出後の液体を容器外に取り出す必要がある場合は、樹脂栓等を用いて、取り外し可能に開口部を封止することが好ましい。また、
図1A〜
図1Cに示すデバイスのように、液体に接してゲル層等を配置することによって、液体を密封装填してもよい。
【0070】
容器内に装填される液体は、磁性体粒子表面に固定された目的物質の、抽出、精製、反応、分離、検出、分析等の化学操作の場を提供する。液体の種類は特に限定されないが、ゲル状媒体を溶解しないものが好ましい。そのため、液体としては、水溶液や、水と有機溶媒の混合溶液等の水系液体が好ましく用いられる。液体は、これら化学操作のための単なる媒体として機能し得る他に、化学操作に直接関与するか、あるいは当該操作に関与する化合物を成分として含んでいてもよい。液体に含まれる物質としては、磁性体粒子に固定された反応性物質と反応する物質、当該反応によって磁性体粒子の表面に固定された物質と更に反応する物質、反応試薬、蛍光物質、各種の緩衝剤、界面活性剤、塩類、およびその他の各種補助剤、並びに、アルコール等の有機溶剤等を例示することができる。水系液体は、水、水溶液、水懸濁液等の任意の態様で提供され得る。
【0071】
液体試料中に含まれる目的物質を磁性体粒子の表面に固定する場合、液体中には、磁性体粒子の表面に固定されるべき目的物質の他に、多種多様な夾雑物が含まれている場合がある。液体試料中には、例えば、動植物組織、体液、排泄物等の生体試料、細胞、原虫、真菌、細菌、ウィルス等の核酸包含体等が含まれていてもよい。体液には血液、髄液、唾液、乳等が含まれ、排泄物には糞便、尿、汗等が含まれる。細胞には血液中の白血球、血小板や、口腔細胞等の粘膜細胞の剥離細胞、唾液中白血球等が含まれる。
【0072】
核酸、抗原、抗体等の目的物質を含む液体試料は、例えば、細胞懸濁液、ホモジネート、細胞溶解液との混合液等の態様で調製してもよい。血液等の生体由来試料中に含まれる目的物質を粒子表面に固定する場合、液体試料は、血液等の生体由来試料と、そこから目的物質を抽出するための細胞溶解液(核酸抽出液)との混合物である。細胞溶解液は、カオトロピック物質や界面活性剤等の細胞を溶解可能な成分を含む。
【0073】
核酸の抽出を行うために用いられる細胞溶解液(核酸抽出液)としては、カオトロピック物質、EDTA等のキレート剤、トリス塩酸等を含有する緩衝液が挙げられる。また、細胞溶解液には、TritonX−100等の界面活性剤を含めることもできる。カオトロピック物質としては、グアニジン塩酸塩、グアニジンイソチアン酸塩、ヨウ化カリウム、尿素等が挙げられる。細胞溶解液は、上記の他に、プロテアーゼK等のタンパク質分解酵素や各種の緩衝剤、塩類、およびその他の各種補助剤、並びに、アルコール等の有機溶剤等を含んでいてもよい。
【0074】
洗浄液としては、核酸が粒子表面に固定された状態を保持したまま、試料中に含まれる核酸以外の成分(例えばタンパク質、糖質等)や、核酸抽出等の処理に用いられた試薬等を洗浄液中に遊離させ得るものであればよい。洗浄液としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム等の高塩濃度水溶液、エタノール、イソプロパノール等のアルコール水溶液等が挙げられる。
【0075】
核酸溶出液としては、水または低濃度の塩を含む緩衝液を用いることができる。具体的には、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、蒸留水等を用いることができ、pH7〜9に調整された5〜20mMトリス緩衝液を用いることが一般的である。核酸が固定された磁性体粒子を溶出液中で分散させることにより、核酸溶出液中に核酸を遊離溶出させることができる。回収された核酸は、必要に応じて濃縮や乾固等の操作を行った後、分析や反応等に供することができる。
【0076】
容器内に装填されるゲル状媒体は、粒子操作前においてゲル状、若しくはペースト状であればよい。ゲル状媒体は、隣接する液体層の液体に不溶性または難溶性であり、化学的に不活性な物質であることが好ましい。ここで、液体に不溶性または難溶性であるとは、25℃における液体に対する溶解度が概ね100ppm以下であることを意味する。化学的に不活性な物質とは、液体層との接触や磁性体粒子の操作(すなわち、ゲル状媒体中で磁性体粒子を移動させる操作)において、液体層、磁性体粒子や磁性体粒子に固定された物質に、化学的な影響を及ぼさない物質を指す。
【0077】
ゲル状媒体の材料や組成等は、特に限定されず、物理ゲルであってもよいし、化学ゲルであってもよい。例えば、WO2012/086243号に記載されているように、非水溶性または難水溶性の液体物質を加熱し、加熱された当該液体物質にゲル化剤を添加し、ゲル化剤を完全に溶解させた後、ゾル・ゲル転移温度以下に冷却することで、物理ゲルが形成される。
【0078】
容器内へのゲル状媒体および液体の装填は、適宜の方法により行い得る。管状の容器が用いられる場合、装填に先立って容器の一端の開口が封止され、他端の開口部からゲル状媒体および液体が順次装填されることが好ましい。上述のように、本発明の磁性体粒子操作用デバイスでは、容器内壁面の断面が円形である場合に比べて、容器内壁面の断面積を確保できるので、ゲル状媒体を装填する際にコンタミネーションが生じやすくなるといった問題が低減される。
【0079】
容器内に装填されるゲル状媒体および液体の容量は、操作対象となる磁性体粒子の量や、操作の種類等に応じて適宜に設定され得る。容器内に複数のゲル状媒体層や液体層が設けられる場合、各層の容量は同一でも異なっていてもよい。各層の厚みも適宜に設定され得る。操作性等を考慮した場合、層厚みは、例えば、2mm〜20mm程度が好ましい。
【0080】
本発明の磁性体粒子操作用デバイスは、上述した形状を有する管状の容器内に、ゲル状媒体および液体を装填することで作製することができる。容器内に装填される液体は、例えば、核酸抽出液等の細胞を溶解可能な液体である。この液体は、アルコール等が添加されたものでもよい。磁性体粒子は、デバイスを使用する際に容器内に装填する。また、予め核酸抽出液等の液体と磁性体粒子とを共存させた状態でデバイスを作製してもよい。
【0081】
[磁性体粒子操作デバイス作製用キット]
容器とは別に、ゲル状媒体および液体等が、独立に提供されてもよい。容器内へのゲル状媒体および液体の装填は、磁性体粒子の操作の直前に行われてもよく、磁性体粒子の操作前に十分な時間をおいて行われてもよい。ゲル状媒体が液体に不溶または難溶である場合には、装填後に長時間が経過しても、両者の間での反応や吸収はほとんど生じない。
【0082】
磁性体粒子は、デバイスを作製するためのキットの一構成部材として提供されてもよい。磁性体粒子を液体中に共存させた状態で、キットの構成部材として提供することもできる。
【0083】
デバイス内あるいはキットに含まれる磁性体粒子の量は、対象となる化学操作の種類や、各液体層の容量等に応じて適宜に決定される。例えば、容器として断面積2mm
2〜15mm
2程度の細長いキャピラリーが用いられる場合の磁性体粒子の量は、通常、10〜200μg程度の範囲が好適である。
【0084】
[磁性体粒子操作用装置]
図10(a)は、磁性体粒子の操作の自動化を実施可能な磁性体粒子操作用装置の一形態を示す模式図である。
図10(a)に示す磁性体粒子操作用装置100は、容器保持部170と、磁場印加部190とを備える。
【0085】
磁場印加部190は、磁場を変化可能に構成されており、支持板193に固定されたリニアガイド192と、リニアガイド192にスライド可能に取り付けられた永久磁石191とを有する。永久磁石191をスライドさせる方法は特に限定されず、モータ等の駆動手段によりスライドさせてもよいし、手動でスライドさせてもよい。永久磁石191はリニアガイド192上をスライドすることができるため、一軸方向に磁場を変化させることができる。磁性体粒子操作用装置100では、永久磁石191を一軸方向に移動させることで、容器510内において磁性体粒子70を容器510の長手方向に移動させることができる。
【0086】
容器保持部170は、容器510を保持可能に構成されている。容器510内には、液体層531,535,532とゲル状媒体層521,522とが交互に重層され、さらに磁性体粒子70が装填されている。容器510は、容器保持部170に着脱可能に保持されている。
【0087】
図10(b)は、
図10(a)のB−B線断面図である。
図10(b)に示すように、容器510は
図2に示した容器10と同様の断面形状を有している。具体的には、容器510の内壁面の断面形状は非円形であり、点510b−点510c間の曲線部と、点510b−点510c間の直線部とを有する。上記曲線部は、容器外方に凸の曲線からなり、変曲点510aを有する。
【0088】
容器510は、変曲点510aに対応する外壁面が永久磁石191と対向するように容器保持部170によって保持されている。そのため、磁性体粒子70は、内壁面の曲面形状に合うように変曲点510a近傍に球状に集められる。つまり、容器510においては、変曲点510aを磁性体粒子移動部としている。
【0089】
図10(a)に示すように、永久磁石191をリニアガイド192に沿って移動させることにより、永久磁石191に引き寄せられた磁性体粒子70は、変曲点510a近傍に球状に集められた状態で長手方向に沿って移動する。したがって、磁性体粒子70は、容器510の長手方向に沿って棒状の塊となって移動し、液体層531からゲル状媒体層521を通過して液体層535へと移動する。
【0090】
上記のような磁性体粒子操作用装置を用いることで、これまでに説明した磁性体粒子操作用デバイス内において、磁性体粒子の操作を自動化することができる。
【0091】
磁性体粒子操作用装置は、上記で説明した構成に限定されるものではなく、種々の構成を採用することができる。
【0092】
図10(a)では、永久磁石191を一方向(下方向)にのみ移動させているが、二方向(上下方向)に往復移動させてもよい。
【0093】
磁場印加部が有する磁力源としては、永久磁石を用いる以外に電磁石を用いることも可能である。また、磁場印加部は、複数の磁力源を有してもよい。
【0094】
容器を保持する向きは特に限定されず、容器の長手方向を鉛直にして容器を保持するほか、例えば、容器の長手方向を水平にして容器を保持してもよいし、容器の長手方向を斜めにして容器を保持してもよい。
【0095】
容器の長手方向に沿って磁場を変化させる方法としては、
図10(a)に示したような、磁場印加部場がリニアガイド等の移動機構を有し、磁力源を一軸方向に移動させる構成に限定されず、容器保持部がリニアガイド等の移動機構を有し、容器保持部を一軸方向に移動させる構成であってもよい。つまり、容器保持部および磁場印加部の一方が、容器保持部に対して相対的に磁力源を一軸方向に移動させることが可能な移動機構を有していればよい。また、磁力源および容器保持部の両方が移動するように、容器保持部および磁場印加部の両方が上記移動機構を有していてもよい。