(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6376232
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】調光シート、調光装置、および、調光シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20180813BHJP
G02F 1/137 20060101ALI20180813BHJP
G02F 1/1334 20060101ALI20180813BHJP
C09K 19/60 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/137 500
G02F1/1334
C09K19/60 C
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-39017(P2017-39017)
(22)【出願日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年4月2日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲志
【審査官】
右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−157021(JP,A)
【文献】
特開2015−140535(JP,A)
【文献】
米国特許第4688900(US,A)
【文献】
米国特許第4435047(US,A)
【文献】
特開2006−162823(JP,A)
【文献】
特開2000−321562(JP,A)
【文献】
特開2008−102341(JP,A)
【文献】
特開2008−007745(JP,A)
【文献】
特開2007−249041(JP,A)
【文献】
特開2007−183526(JP,A)
【文献】
特開昭57−058128(JP,A)
【文献】
特開2010−102014(JP,A)
【文献】
特開2012−168364(JP,A)
【文献】
特開2015−014775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1334
G02F 1/137
C09K 19/00 − 19/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の透明電極層と、
前記一対の透明電極層に挟まれた調光層と、を備え、
前記調光層は、液晶組成物に含まれる紫外線重合性化合物の紫外線照射による重合体であって複数のドメインを有したポリマーネットワークと、前記各ドメインに内在して前記透明電極層に印加される電圧信号によって配向を切り替える前記液晶組成物に含まれる液晶化合物と二色性色素と、を含み、
前記二色性色素は、液晶色素であるアントラキノン化合物と、芳香族複素環化合物とを含み、
前記液晶色素は、黄色用色素であり、
前記芳香族複素環化合物は、青色用色素である1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物を含む
調光シート。
【請求項2】
前記芳香族複素環化合物は、赤色用色素である2−ブロモ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物を含む
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記調光層は、前記一対の透明電極層に挟まれたスペーサをさらに備え、
前記スペーサが有する色は、前記ポリマーネットワークが有する色よりも濃暗色である
請求項1または2に記載の調光シート。
【請求項4】
前記液晶組成物は、前記ポリマーネットワークを構成する繰り返し骨格を有した紫外線重合性化合物を含み、
前記二色性色素が吸収するピーク波長帯域は、紫外領域以外である
請求項1から3のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項5】
前記ポリマーネットワークは、前記二色性色素を含み、
前記ポリマーネットワークにおける前記二色性色素の濃度は、前記液晶組成物における前記二色性色素の濃度よりも低い
請求項1から4のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項6】
前記液晶組成物と外気との接触、および、前記液晶組成物に対する紫外線の入射の少なくとも一方を抑えるバリア層をさらに備える
請求項1から5のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項7】
調光シートと、
前記調光シートを駆動するための電圧信号を前記調光シートに入力する駆動部と、
を備え、
前記調光シートは、請求項1から6のいずれか一項に調光シートである
調光装置。
【請求項8】
前記調光シートに対する紫外線の入射を抑える光透過性基材をさらに備える
請求項7に記載の調光装置。
【請求項9】
液晶色素であるアントラキノン化合物を含む二色性色素と、液晶化合物とを含む液晶組成物、および、紫外線重合性化合物を含む封入対象を、一対の透明電極層の間に封入することと、
前記封入対象に紫外線を照射して前記紫外線重合性化合物を重合させることによって、複数のドメインを有したポリマーネットワークを形成すると共に、前記各ドメインには前記液晶組成物を内在させることと、を含み、
前記二色性色素は、芳香族複素環化合物を含み、
前記液晶色素は、黄色用色素であり、
前記芳香族複素環化合物は、青色用色素である1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物を含む
調光シートの製造方法。
【請求項10】
前記芳香族複素環化合物は、赤色用色素である2−ブロモ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物を含む
請求項9に記載の調光シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の透過率を可逆的に変える調光シート、調光装置、および、調光シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調光装置が備える調光シートの型式として、例えば、エレクトロクロミック型、偏光板型、液晶型が知られている。エレクトロクロミック型の調光シートは、調光シートに印加される電場の大きさに応じて可逆的に酸化還元反応を進めると共に、その酸化還元反応の進行に伴って光の吸収率を変える(例えば、特許文献1を参照)。偏光板型の調光シートは、相互に異なる光学特性を有した2つの偏光板を相対的に移動させて、2つの偏光板を透過する光の透過率を変える(例えば、特許文献2を参照)。液晶型の調光シートは、液晶分子に印加される電場の大きさに応じて、光を散乱する状態と、光を透過する状態との間で、液晶分子の配向を可逆的に変える。
【0003】
液晶型の調光シートが有する形態として、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)、カプセル型ネマティック液晶(NCAP:Nematic Curvilinear Aligned Phase)、高分子ネットワーク型液晶(PNLC: Polymer Network Liquid Crystal)が知られている。高分子分散型液晶は、孤立した多数の空隙を高分子層のなかに備え、高分子層に分散した各空隙のなかに液晶組成物を保持する(例えば、特許文献3を参照)。カプセル型ネマティック液晶は、カプセル状を有した液晶組成物を高分子層のなかに保持する(例えば、特許文献4を参照)。高分子ネットワーク型液晶は、3次元の網目状を有した高分子ネットワークを備え、高分子ネットワークのなかの相互に連なる空隙のなかに、液晶組成物を保持する(例えば、特許文献5を参照)。
【0004】
調光シートを駆動する方式として、ノーマル方式とリバース方式とが知られている。ノーマル方式で駆動される調光シートは、非通電時において低い透過率を有し、電力を消費することによって透過率を高める。非通電時に低い透過率を有するノーマル方式は、例えば、光の遮蔽性を頻繁に必要とするスクリーンなどへの適用に好適である。リバース方式で駆動される調光シートは、非通電時において高い透過率を有し、電力の消費によって透過率を下げる。非通電時に高い透過率を有するリバース方式は、例えば、透過率による安全性を非常時に必要とする建材などへの適用に好適である(例えば、特許文献6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−157021号公報
【特許文献2】特開2015−140535号公報
【特許文献3】米国特許第4688900号公報
【特許文献4】米国特許第4435047号公報
【特許文献5】特開2006−162823号公報
【特許文献6】特開2000−321562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した各種の調光シートは、住宅用や車両用のサンルーフに適用されて、自然光の透過と、自然光の遮断とを求められる。液晶型の調光シートは、液晶組成物に二色性色素を含め、例えば、電圧非印加時に無色の高透過状態を保ち、電圧印加時に二色性色素の吸収による有色の低透過状態を保つ。この際、自然光の遮断性を高めること、また、自然光の遮断時に意匠性を高めること、これらの観点において、調光シートが有する色味を低透過時に濃くすることが、調光シートやそれを備える調光装置に求められる。
本発明は、調光シートが有する色味を低透過時において濃くすることを可能とした調光シート、および、調光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための調光シートは、一対の透明電極層と、前記一対の透明電極層に挟まれた調光層とを備える。前記調光層は、複数のドメインを有したポリマーネットワークと、前記各ドメインに内在して前記透明電極層に印加される電圧信号によって配向を切り替える液晶組成物を含む。前記液晶組成物は、液晶化合物と二色性色素とを含み、前記二色性色素は、液晶色素であるアントラキノン化合物を含む。
上記課題を解決するための調光装置は、上記調光シートと、前記調光シートを駆動するための電圧信号を前記調光シートに入力する駆動部とを備える。
【0008】
上記課題を解決するための調光シートの製造方法は、液晶色素であるアントラキノン化合物を含む二色性色素と、液晶化合物とを含む液晶組成物、および、紫外線重合性化合物を含む封入対象を、一対の透明電極層の間に封入することと、前記封入対象に紫外線を照射して前記紫外線重合性化合物を重合させることによって、複数のドメインを有したポリマーネットワークを形成すると共に、前記各ドメインには前記液晶組成物を内在させることとを含む。
【0009】
上記各構成によれば、二色性色素が液晶色素であるアントラキノン化合物であるため、液晶分子と二色性色素との相溶性が得られやすい。そのため、調光シートが有する色味を低透過時において濃くすることが可能である。
【0010】
上記調光シートにおいて、前記二色性色素は、芳香族複素環化合物と前記液晶色素とを含み、前記液晶色素は、黄色用色素であり、前記芳香族複素環化合物は、青色用色素である1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物であってもよい。
【0011】
上記調光シートにおいて、前記二色性色素は、芳香族複素環化合物と前記液晶色素とを含み、前記液晶色素は、黄色用色素であり、前記芳香族複素環化合物は、赤色用色素である2−ブロモ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物であってもよい。
【0012】
上記各調光シートによれば、アントラキノン化合物よりも耐光性が高い青色用色素、あるいは、アントラキノン化合物よりも耐光性が高い赤色用色素が、二色性色素に含まれるため、調光シートにおいて耐光性を得ることが可能ともなる。
【0013】
上記調光シートにおいて、前記調光層は、前記一対の透明電極層に挟まれたスペーサをさらに備え、前記スペーサが有する色は、前記ポリマーネットワークが有する色よりも濃暗色である構成であってもよい。この調光シートによれば、調光シートが有する色味を低透過時において濃くすることを、スペーサが有する色味によって補助することが可能ともなる。
【0014】
上記調光シートは、前記液晶組成物と外気との接触、および、前記液晶組成物に対する紫外線の入射の少なくとも一方を抑えるバリア層をさらに備えてもよい。この調光シートによれば、液晶組成物と外気との接触や、液晶組成物に対する紫外線の入射を抑えることが可能であるため、液晶組成物の劣化を抑えることが可能でもある。
【0015】
上記調光シートにおいて、前記液晶組成物は、前記ポリマーネットワークを構成する繰り返し骨格を有した紫外線重合性化合物を含み、前記二色性色素が吸収するピーク波長帯域は、紫外領域以外であってもよい。この調光シートによれば、ポリマーネットワークを構成する繰り返し骨格を有した紫外線重合性化合物を、液晶組成物が含む。そのため、ポリマーネットワークを形成するための紫外線重合性化合物と液晶組成物との混合物を用い、その混合物のなかでの紫外線重合性化合物の重合によって、ポリマーネットワークを形成することが可能でもある。
【0016】
上記調光シートにおいて、前記ポリマーネットワークは、前記二色性色素を含み、前記ポリマーネットワークにおける前記二色性色素の濃度は、前記液晶組成物における前記二色性色素の濃度よりも低くてもよい。この調光シートによれば、液晶組成物を構成する材料の一部である二色性色素を、ポリマーネットワークが含む。そのため、ポリマーネットワークを形成するための重合性化合物と液晶組成物との混合物を用い、その混合物のなかでの重合性化合物の重合によって、ポリマーネットワークを形成することが可能でもある。
上記調光装置は、前記調光シートに対する紫外線の入射を抑える光透過性基材をさらに備えることも可能である。
上記調光装置によれば、調光シートに紫外線が入射することによる調光シートの劣化を抑えることが可能ともなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】調光シートの一実施形態における層構成を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照して調光シート、調光装置、および、調光シートの製造方法の一実施形態について説明する。調光装置は、液晶型の調光シート11と、調光シート11を駆動するための駆動部21とを備える。
【0019】
調光シート11は、可視光を透過する光透過性を備える。調光シート11は、調光シート11における可視光の透過率を変更できるように構成されている。調光シート11は、高分子ネットワーク型液晶(PNLC)型式であって、ノーマル式とリバース式とのいずれかの方式を採用している。調光シート11は、光透過性を有した一対の透明電極層12と、一対の透明電極層12に挟まれた調光層11Mとを備える。一対の透明電極層12を構成する材料は、例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、酸化スズ(TO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)である。なお、調光シート11がリバース方式である場合には、透明電極層12と調光層11Mとの間に配向層が介在する。駆動部21は、調光シート11における透過率を変更するための電圧信号を生成する。例えば、調光シート11の透過率が高低の2階調で表現されるとき、駆動部21は現在の透過率を反転させるための電圧信号を生成する。駆動部21は、一方の透明電極層12に電圧信号を入力し、他方の透明電極層12に基準電圧を印加する。
【0020】
調光層11Mは、多数のドメイン1Dを有した硬化性樹脂であるポリマーネットワーク1PNと、各ドメインを埋める液晶組成物1LCMと、スペーサ1SPとを備える。液晶組成物1LCMは、液晶化合物1LCCと二色性色素1DDとを含む。また、液晶組成物1LCMは、ポリマーネットワーク1PNの形成に用いられた紫外線重合性化合物1PNRの未反応分を含むことも可能であり、紫外線重合性化合物1PNRの未反応分を含まない構成とすることも可能である。
【0021】
紫外線重合性化合物1PNRは、紫外領域の光を受けて重合反応を行う一方、二色性色素1DDが吸収するピーク波長帯域は、その紫外領域以外である。なお、ピーク波長帯域は、二色性色素1DDにおける吸収ピークの半値波長で区画される帯域である。液晶組成物1LCMが紫外線重合性化合物1PNRを含む構成であれば、ポリマーネットワーク1PNを形成するための紫外線重合性化合物1PNRと、液晶組成物1LCMとの混合物を用い、その混合物のなかでの紫外線重合性化合物1PNRの重合によって、ポリマーネットワーク1PNを形成することが容易となる。
【0022】
スペーサ1SPは、一対の透明電極層12に挟まれて、一対の透明電極層12の間隙を保つための機能を有する。スペーサ1SPは、例えば、ガラス粒子や樹脂粒子であって、ポリマーネットワーク1PNが有する色よりも濃暗色を有し、二色性色素1DDが発現する色と同じ色を有することが可能である。二色性色素1DDの発現する色が黒色である場合、スペーサ1SPの有する色は、ポリマーネットワーク1PNよりも濃暗色であり、スペーサ1SPは、例えば、30μmの直径を有する黒色のプラスチック粒子である。
【0023】
液晶化合物1LCCは、ネマティック液晶相を有する液晶分子、スメクティック液晶相を有する液晶分子、および、コレステリック液晶相を有する液晶分子の少なくとも1種類の液晶分子を含む。液晶化合物1LCCは、ノーマル式において、正の誘電率異方性を有し、液晶分子の長軸方向の誘電率が液晶分子の短軸方向の誘電率よりも大きい。液晶化合物1LCCは、リバース式において、負の誘電率異方性を有し、液晶分子の短軸方向の誘電率が液晶分子の長軸方向の誘電率よりも大きい。液晶分子の駆動電圧が低いこと、また、液晶分子の散乱特性が高いことの観点から、液晶分子の誘電率において異方性が大きく、また、液晶分子の屈折率において異方性が大きいことが好ましい。
【0024】
液晶分子は、環構造が連結された棒状構造を有するコア構造と、コア構造の末端に位置する官能基である末端基とによって構成される。コア構造は、液晶相の温度範囲を調整するため、また、液晶分子の長軸方向での屈折率や液晶分子の短軸方向での屈折率を調整するため、これらの要請に応じて適宜選択される。末端基は、相転移温度を調整するための極性を有し、相転移温度の要請に応じて適宜選択される。両末端基は、環構造との共役を通じて誘電率の異方性を調整するための極性を有し、誘電率の異方性の要請に応じて適宜選択される。環構造は、芳香族環構造、および、脂肪族環構造を含む。環構造は、例えば、ベンゼン環、シクロヘキサン環、ピリジン環、ピリミジン環、ジオキサン環、ビシクロオクタン環、ビフェニル環、トリフェニル環、フェニルシクロヘキサン環、ナフタレン環、アントラセン環、インデン環、アズレン環、フェナントレン環、フルオレン環、これらのうちでフッ素原子が導入された環構造である。環構造の連結は、環構造同士の単結合を含み、例えば、エチレン結合、エステル結合、アゾ結合、カルボキシル結合、テトラフルオロエチレン結合を介した連結である。末端基は、例えば、アルキル基、アルコキシル基、シアノ基、ニトロ基、ニトリル基、ブロモ基、クロロ基、フルオロ基、パーフルオロ基である。環構造の連結、および、末端基は、ポリマーネットワーク1PNの形成に用いられた紫外線重合性化合物1PNRと不活性であり、紫外線の照射によってはこれらの結合反応や解離反応を進めないものとすることが可能である。上述したように紫外線が照射される液晶分子と紫外線重合性化合物1PNRとが不活性であれば、紫外線重合性化合物1PNRと液晶分子との混合物を用い、その混合物のなかでの紫外線重合性化合物1PNRの重合によって、ポリマーネットワーク1PNを形成することが容易となる。
【0025】
液晶化合物1LCCの相転移温度は、40℃以上120℃に設定されることが好ましく、より好ましくは、80℃以上100℃以下である。液晶化合物1LCCは、電圧信号の印加による調光シート11での透過率の切り替え特性、電圧信号の印加による調光シート11でのヘイズの切り替え特性、調光層11Mと配向膜との密着性などに応じて、1種類、または、2種類以上の液晶分子を混合して使用することが可能である。例えば、調光シート11の配置される環境の温度が、液晶化合物1LCCの相転移温度に近いほど、液晶化合物1LCCの駆動時に流れる電流が大きく、調光シート11の有する透過率の切り替え特性が低下する。そのため、液晶化合物1LCCでは、調光シート11の配置される環境の温度において、調光シート11での透過率の切り替え特性、電圧信号の印加による調光シート11でのヘイズの切り替え特性、調光層11Mと配向膜との密着性などが得られるべく、2種類以上の液晶分子が混合される。また例えば、保護シートなどの他の機能シートが、100℃程度の加熱によって調光シート11に貼り付けられる場合、液晶分子の相転移温度は、その加熱時の加工温度よりも高いことが好ましい。こうした相転移温度の設定であれば、他の機能シートが貼り着けられた構成において、液晶化合物1LCCの劣化を抑えることが可能となる。
【0026】
なお、液晶化合物1LCCは、それが液晶相を呈する温度範囲を拡張するほど、低透過状態での透過率を高め、低透過率状態での透過率と高透過状態での透過率との差異を縮小させてしまう傾向を有する。そのため、液晶化合物1LCCの相転移温度が120℃であるように、調光シート11の耐熱性が高められた構成においては、低透過率状態での透過率と高透過状態での透過率との差異を拡張すること、ひいては、調光シートが有する色味を低透過時において濃くすることの要請が、より一層に高まる。
【0027】
紫外線重合性化合物1PNRは、紫外線の照射によって他の紫外線重合性化合物1PNRと重合してポリマーネットワーク1PNを形成する。重合反応の形式は、例えば、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、重付加反応である。重合反応の形式が、ラジカル重合であるとき、紫外線重合性化合物1PNRは、ラジカル型の紫外線重合性化合物1PNRや、そのオリゴマーを用いることができる。単官能紫外線重合性化合物は、例えば、ブチルエチルアクリレートやシクロヘキシルアクリレートなどのアクリレート化合物、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートやフェノキシエチルメタクリレートなどのメタクリレート化合物、これらのオリゴマーである。二官能紫外線重合性化合物は、例えば、スチルベン化合物、ジアクリレート化合物、ジメタクリレート化合物、これらのオリゴマーである。多官能紫外線重合性化合物は、例えば、トリアクリレート化合物、テトラアクリレート化合物、トリメタクリレート化合物、テトラメタクリレート化合物、これらのオリゴマーである。液晶組成物1LCMは、ポリマーネットワーク1PNの形成を促進させるため、紫外線によってラジカルを発生する重合開始剤を含むことが好ましい。紫外線重合性化合物1PNR、および、重合開始剤は、電圧信号の印加による調光シート11での透過率の切り替え特性、電圧信号の印加による調光シート11でのヘイズの切り替え特性、調光層11Mと配向膜との密着性などに応じて、1種類、または、2種類以上を混合して使用することが可能である。
【0028】
二色性色素1DDは、可視光の吸収に対して異方性を示す色素分子である。調光層11Mを透過した光の色は、二色性色素1DDの分子軸方向によって異なる。二色性色素1DDは、液晶組成物1LCMの全質量に対して2.0質量%以上の濃度を有し、それによって、調光シート11が有する色味を低透過時において濃くする。二色性色素1DDは、青色用の色素、赤色用の色素、および、黄色用の色素の少なくとも一種類を含む。二色性色素1DDを構成する各色用の色素のうち少なくとも一種類は、液晶化合物1LCCが液晶相を有する温度範囲において、これと同様に液晶相を有する液晶色素であり、それによって、液晶化合物1LCCとの相溶性を示し、液晶組成物1LCMの全質量に対して2.0質量%以上の濃度を実現する。液晶色素は、式(1)に示すアントラキノン化合物である。
【0030】
式(1)において、R
1は、アントラキノン化合物に異方性を付与する官能基である。R
2は、アントラキノン化合物に液晶相を発現させる官能基である。R
3は、アントラキノン化合物の吸収によって発現する色を制御するための官能基である。R
1、R
2は、例えば、置換フェニル基、置換シクロヘキシル基、置換フェニルエチル基、置換シクロヘキシルエチル基、置換フェニルエチニル基である。置換フェニル基、置換シクロヘキシル基、置換フェニルエチル基、置換シクロヘキシルエチル基、置換フェニルエチニル基の各々は、例えば、直鎖アルキル基が置換された官能基である。置換フェニルエチニル基は、例えば、1−ブチル−4−フェニルエチニル基である。
【0031】
R
3は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、置換アルキル基、芳香族炭化水素基、ハロゲン基を表す。アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基である。アルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基である。置換アルキル基は、例えば、ジアルキルアミノ基、ジフェニルアミノ基である。芳香族炭化水素基は、例えば、ベンゼン、ビフェニル、ナフタレンである。ハロゲン基は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子である。各R
3は、相互に同一でもあってもよく異なっていてもよい。
【0032】
黄色用の二色性色素1DDにおけるR
1、R
2の一例は、式(2)に示す1−ブチル−4−フェニルエチニル基であり、黄色用の二色性色素1DDの一例は、2,6−(1−ブチル−4−フェニルエチニル)アントラキノンである。黄色用の二色性色素1DDにおけるR
3の一例は、水素原子である。
【0034】
住宅用や車両用のサンルーフに適用される調光シート11は、自然光の透過と、自然光の遮断とを求められる。ノーマル方式の調光シート11では、電圧信号の印加時に無色の高透過状態を保ち、電圧信号の非印加時に二色性色素1DDの吸収による有色の低透過状態を保つ。リバース方式の調光シート11では、電圧信号の非印加時に無色の高透過状態を保ち、電圧信号の印加時に二色性色素1DDの吸収による有色の低透過状態を保つ。いずれの方式であれ、二色性色素1DDが2.0質量%以上の濃度を有する構成であれば、調光シート11が有する色味を低透過時に濃くすることが可能であり、自然光の遮断性を高めること、また、自然光の遮断時に意匠性を高めることが可能となる。
【0035】
二色性色素1DDは、上記アントラキノン化合物以外に、青色用の二色性色素1DDとして、式(3)に示す1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物を含むことが可能である。また、二色性色素1DDは、上記アントラキノン化合物以外に、赤色用の二色性色素1DDとして、式(4)に示す2−ブロモ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物を含むことが可能である。
【0038】
式(3)において、R
5は、炭素数が1以上4以下のアルキル基である。R
6は、アルキル基、置換アルキル基、フェニル基、置換フェニル基である。各R
6は、相互に同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0039】
式(4)において、R
7は、炭素数が1以上4以下のアルキル基である。R
8は、アルキル基、置換アルキル基、フェニル基、置換フェニル基、ハロゲン原子である。ハロゲン原子は、好ましくは臭素原子である。こうした2−ブロモ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物は、青色用の二色性色素1DDである1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物と、黄色用の二色性色素1DDであるアントラキノン化合物との間において、色素同士の溶解性を高める機能を有する。
【0040】
上述したポリマーネットワーク1PNは、こうした二色性色素1DDを含むことも可能である。この際、ポリマーネットワーク1PNにおける二色性色素1DDの濃度は、液晶組成物1LCMにおける二色性色素1DDの濃度よりも低い。このように、ポリマーネットワーク1PNに二色性色素1DDが取り込まれている構成であれば、ポリマーネットワーク1PNを形成するための紫外線重合性化合物1PNRと液晶組成物1LCMとの混合物を用い、その混合物のなかでの紫外線重合性化合物1PNRの重合によって、ポリマーネットワーク1PNを形成することが容易ともなる。
【0041】
ここで、調光層11Mの厚さを厚くすることは、ポリマーネットワーク1PNと液晶組成物1LCMとの屈折率差に起因したヘイズの増大を招く。他方、調光層11Mの厚さを薄くすることは、液晶組成物1LCMの厚みを薄くすることに伴う色味の低下を招く。この点、液晶色素である二色性色素1DDを用いる構成であれば、例えば、液晶組成物1LCMの全質量に対する1.0質量%程度の添加によって凝集を招いてしまうアゾ系色素と比べて、液晶化合物1LCCと二色性色素1DDとの相溶性が高い。しかも、二色性色素1DDを用いることによる液晶化合物1LCCの相転移温度の低下への寄与も、5℃以下に抑えられ、液晶色素ではないアゾ系色素に比べて低い。それゆえに、2.0質量%以上の高濃度に添加された二色性色素1DDが、液晶組成物1LCMにおいて凝集することを抑え、かつ、耐熱性の高められた調光シート11においても、それが有する色味をそれの低透過時において濃くすることが可能である。
【0042】
また、紫外線が照射される工程において、紫外線重合性化合物1PNRと二色性色素1DDとの反応性が低いため、ポリマーネットワーク1PNを形成するための紫外線重合性化合物1PNRと液晶組成物1LCMとの混合物を用い、その混合物のなかでの紫外線重合性化合物1PNRの重合によって、ポリマーネットワーク1PNを形成することが可能でもある。また、液晶化合物1LCCと二色性色素1DDとの相溶性がアゾ系色素と比べて高いため、二色性色素1DDの分散を補助するための色素分散剤の濃度を低下させること、さらには、色素分散剤の添加を割愛することが可能ともなる。
【0043】
[調光シート11の製造方法]
まず、液晶化合物1LCCと紫外線重合性化合物1PNRと二色性色素1DDとを含む液晶組成物1LCMを、一対の透明電極層12の間に封入する。この際、液晶組成物1LCMのなかで二色性色素1DDが凝集することを抑えるため、液晶化合物1LCCと二色性色素1DDとを混合した後に、その混合物のなかに紫外線重合性化合物1PNRを加えて混合する。
【0044】
次いで、封入された液晶組成物1LCMに対して、例えば、一方の透明電極層12と対向する外側、および、他方の透明電極層12と対向する外側、これら両方から、紫外線を照射する。封入された液晶組成物1LCMの両側面から紫外線を同時に照射する方法であれば、ポリマーネットワーク1PNの深さ方向について、紫外線重合性化合物1PNRにおける重合速度の均一化を図ることができる。結果として、透明電極層12の面方向、および、調光層11Mの深さ方向のいずれにおいても、ドメイン1Dの大きさ、および、ドメイン1Dの形状の均一化を図ることができる。
【0045】
以上、一実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)二色性色素1DDが液晶色素であるアントラキノン化合物であるため、液晶分子と二色性色素1DDとの相溶性が得られやすい。そのため、調光シート11が有する色味を低透過時において濃くすることが可能である。
【0046】
(2)青色用色素、および、赤色用色素の少なくとも一方が、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物であり、アントラキノン化合物よりも耐光性が高いため、調光シート11において、色味を濃くすることと、耐光性を得ることとの両立が可能ともなる。
(3)調光シート11が有する色味を低透過時において濃くすることを、スペーサ1SPが有する色味によって補助することが可能ともなる。
【0047】
なお、一実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
[階調]
・調光層11Mが有する透過率は、高い透過率と低い透過率との2種類に限らず、高い透過率と低い透過率との間の中間の透過率を含めた3種類以上とすることも可能である。この際、駆動部21は、各透過率を得るための別々の電圧信号を調光シート11に入力する。
【0048】
[スペーサ]
・スペーサ1SPが有する色は、ポリマーネットワーク1PNが有する色よりも明色とすることも可能であり、二色性色素1DDが発現させる色に限らず、二色性色素1DDが発現させる色とは異なる色とすることも可能であり、無色透明とすることも可能である。
【0049】
[機能層]
・調光装置は、調光層11Mの端面や透明電極層12の表面などを覆うバリア層をさらに備えることも可能である。バリア層は、ガスバリア機能と紫外線バリア機能との少なくとも一方を備える。ガスバリア機能は、調光層11Mに含まれる液晶組成物1LCMと外気との接触を抑える機能である。紫外線バリア機能は、調光層11Mに含まれる液晶組成物1LCMに紫外線が入射することを抑える機能である。
【0050】
ガスバリア機能を備えるバリア層は、例えば、プラスチックフィルムとガスバリアフィルムとの積層体として構成される。プラスチックフィルムは、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリエーテルサルフォンフィルムである。ガスバリアフィルムは、例えば、酸化ケイ素フィルムや酸窒化ケイ素フィルムである。
【0051】
紫外線バリア機能を備えるバリア層は、例えば、重合開始剤、不飽和二重結合を有する化合物、トリアジン系紫外線吸収剤を含む。紫外線吸収剤は、例えば、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系である。なお、ガスバリア機能や紫外線バリア機能は、透明電極層12の基材が兼ね備えることも可能である。
【0052】
・調光装置は、調光シート11の機械的な強度を高める機能を有した光透過性基材をさらに備えることも可能である。光透過性基材を構成する材料の一例は、ガラスやシリコンなどの透明無機材料、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリサルホンなどの透明有機材料である。
【0053】
光透過性基材は、バリア層と同じく、ガスバリア機能、および、紫外線バリア機能の少なくとも一方を備えることも可能である。光透過性基材と調光シート11との接合は、光学両面粘着シート(OCA)などの透明粘着剤による形態を採用することができる。また、ガスバリア機能や紫外線バリア機能は、光透過性基材と調光シート11とを接着するための透明粘着層に備えられることも可能である。すなわち、調光装置のなかの調光シート11以外の構成部材が、ガスバリア機能や紫外線バリア機能を備えることも可能である。
【0054】
なお、調光層11Mに含まれる液晶組成物1LCMは、紫外線重合性化合物1PNRや重合開始剤を含む。紫外線重合性化合物1PNRが有する重合性不飽和結合や重合開始剤は、自然光の紫外線を吸収して変性しやすい。そのため、紫外線の照射による劣化が、液晶組成物1LCMにおいて生じやすい。他方、液晶組成物1LCMの劣化を抑制するために紫外線吸収剤や光安定剤などの耐候剤を、液晶組成物1LCMに含ませると、ポリマーネットワーク1PNの形成が行われる際に、硬化に要する紫外線が耐候剤に吸収されてしまい、ポリマーネットワーク1PNの形成が阻害される。そこで、上述したように、紫外線の照射を抑える機能を、液晶組成物1LCMではなく、調光層11M以外の構成部材が備える構成であれば、調光層11Mを紫外線から保護することが可能であって、調光シート11の耐候性の向上を図ることが可能となる。
【0055】
[ポリマーネットワーク]
・調光シート11の製造方法は、紫外線重合性化合物1PNRと液晶組成物1LCMとの混合物に紫外線を照射することに限らず、紫外線重合性化合物1PNRを予め重合させたポリマーネットワーク1PNを液晶組成物1LCMに加えることも可能である。
【符号の説明】
【0056】
1LCM…液晶組成物、1LCC…液晶化合物、1DD…二色性色素、1PN…ポリマーネットワーク、1PNR…紫外線重合性化合物、11…調光シート、11M…調光層、12…透明電極層、21…駆動部。
【要約】
【課題】調光シートが有する色味を低透過時において濃くすることを可能とした調光シート、調光装置、および、調光シートの製造方法を提供する。
【解決手段】一対の透明電極層12と、一対の透明電極層12に挟まれた調光層11Mと、を備え、調光層11Mは、複数のドメイン1Dを有したポリマーネットワーク1PNと、各ドメイン1Dに内在して透明電極層12に印加される電圧信号によって配向を切り替える液晶組成物1LCMを含み、液晶組成物1LCMは、液晶化合物1LCCと二色性色素1DDとを含み、二色性色素1DDは、液晶色素であるアントラキノン化合物を含む。
【選択図】
図1