(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳述する。なお、以下の実施形態は、本発明を具現化した一例であって、本発明の技術範囲を限定する性格のものではない。
【0021】
<システム概要>
図1は、本願記載の計測システムの概要の一例を模式的に示す説明図である。
図1は、本願記載の計測システムを、建物の変位を計測する変位計測装置1を用いて地震等の揺れに対する建物の状況を解析する住宅構造モニタリングシステムに適用した例を示している。
【0022】
図1に例示する計測システムでは、戸建て住宅、集合住宅等の建物が地震等の災害にあった場合に、災害に関する情報、災害の対応に関する情報等の様々な情報を、建物の居住者に提供する。このようなサービスは、例えば、住宅、建築、情報提供等の様々な事業を展開する管理事業体により、建物に居住する居住者等の顧客を対象に提供される。
【0023】
例えば、地震等の災害が発生した場合、管理事業体は、変位計測装置1の計測結果等の様々な情報から、災害状況、被害状況等の状況を診断し、建物の居住者に対して診断結果及び診断結果に基づく災害・被害情報等の様々な情報を提供する。また、管理事業体は、建物内の各戸から、それぞれの被害状況を示す戸別の被害情報を収集し、収集した戸別の被害情報をも加味して、より正確で緻密な状況把握を行うと共に、より有益な災害・被害情報等の情報を居住者に提供する。
【0024】
建物の各階には、変位計測装置1が配設されている。変位計測装置1は、戸毎又は階毎に配設され、入出力装置2と通信可能に接続されている。各戸に配設された入出力装置2は、専用網、VPN(Virtual Private Network )、インターネット等のネットワークNWに接続されている。なお、変位計測装置1は、ネットワークNWに接続するように構成することも可能であり、入出力装置2及び変位計測装置1間の通信を、ネットワークNWを介して行うことも可能である。
【0025】
ネットワークNWには、サーバコンピュータ等のコンピュータを用いた情報処理装置3が接続されており、情報処理装置3は、管理事業体により管理されている。情報処理装置3は、ネットワークNWを介して、様々な地域の建物から、変位計測装置1が計測した計測結果等の様々な情報を受信し、受信した情報を記録する。また、記録された情報は、構造性の診断等の目的のために管理事業体により適切に利用される。
【0026】
また、管理事業体は、オペレータが操作する端末装置4を管理しており、端末装置4は、ネットワークNWを介して入出力装置2及び情報処理装置3と通信することができる。
【0027】
このような入出力装置2としては、必ずしも専用の装置を用いる必要は無く、例えば、HEMS(Home Energy Management System )と呼ばれる家庭内エネルギー管理システムに用いられるディスプレイ付きコンピュータを用いることが可能である。即ち、本願出願人らは、住宅構造モニタリングシステムと家庭内エネルギー管理システムとを融合させたスマートハウスを提唱している。
【0028】
<各装置の構成>
図2は、本願記載の計測システムにて用いられる変位計測装置1の一例を示す概略図である。
図2(a)は、正面図であり、
図2(b)は、A−B断面における平面図であり、
図2(c)は、右側面図である。変位計測装置1は、例えば、戸建住宅や集合住宅の各階におけるパイプスペース、メーターボックス、収納室、設備機械室、更には外周壁内、間仕切壁内等の壁体内も含め、日常的な居住空間からは区画された、あまり目立たない非居住空間等に配設されている。
【0029】
変位計測装置1は、建物の下層階と上層階との間に略垂直に取り付けられた縦杆100と、縦杆100の中間部と下層階との間に斜めに取り付けられた伸縮可能な斜材101と、斜材101の伸縮変位を計測する計測器102とを備えている。
【0030】
縦杆100は、細長い棒状部材を用いて形成され、その上下両端は、それぞれ下層階及び上層階の躯体を構成する梁材、土台、棟木、床版等の横架材(剛性を有する床材、床下材等の水平部材を含む)に対して、ピン節点と見做しうる接合形態により接合される。ピン節点とは構造力学的に、軸力及び剪断力は伝達するが、曲げモーメントは伝達しないとして扱うことのできる節点である。
図2に例示する縦杆100は、幅数センチ程度の角形鋼管を用いて形成されている。縦杆100の上下両端には、角形鋼管の管端開口を塞ぐように溶接された封端プレート100aを介して、横断面十字形の継手部材100bが溶接されており、その継手部材100bの端部は、該端部に溶接された平板状のエンドプレート100cを介して、下層階及び上層階のH形鋼からなる梁材60のフランジに、ボルト・ナット綴着によってそれぞれ接合されている。
【0031】
斜材101は、縦杆100の中間部から下層階の梁材60にかけて、縦杆100に対して例えば約20°の角度をなすように配設されている。斜材101は、略円筒状の外筒部材101aの内側に略円筒状の内筒部材101bを挿装して互いに摺動自在とすることにより、全体の長さを伸縮させるように形成されている。斜材101の上端には、その材端に開口して軸方向に延びるスリットが形成され、そのスリットに平板状の接合プレート101cが挿入されて溶接されている。その接合プレート101cは、縦杆100の下から2/5程度の位置から側方に突設された平板状の取付プレート100dに対し、接合プレート101cの弱軸方向(板厚方向)を斜材101の傾斜角の変位を拘束しない方向(
図2(a)の紙面内で斜材101の材軸に直交する方向)に向けて溶接されている。
【0032】
斜材101の下端も上端と同様に、その材端に開口して軸方向に延びるスリットが形成され、そのスリットに平板状の接合プレート101dが挿入されて溶接されている。接合プレート101dは、縦杆100の下端から側方に所定距離だけ離れて下層階の梁材60の上面に突設された平板状の取付プレート60aに対し、接合プレート101dの弱軸方向(板厚方向)を斜材101の傾斜角の変位を拘束しない方向(同上)に向けて溶接されている。これらにより、斜材101の上下両端は、縦杆100及び下層階の梁材60に対し、ピン節点と見做せる接合形態でそれぞれ接合されることとなる。
【0033】
図3は、本願記載の計測システムにて用いられる変位計測装置1の計測器102の一例を示す概略図である。計測器102は、略円筒状をなし、斜材101と略平行になるように、内筒部材101bに保持具1020を介して添設されている。計測器102の外筒部材101a側の先端からは、棒状をなす計測子1021が斜材101と平行に付勢状態で突出しており、計測子1021の先端は、外筒部材101aの側面に配設された略L字形の計測片1022に当接又は固接されている。計測器102の後部には、各種通信線を内包するケーブルが接続されており、入力装置及び/又は情報処理装置3に接続されている。
【0034】
このように構成された変位計測装置1は、上層階と下層階との間に地震等の揺れにより層間変位が生じた場合、層間変位を、変位計測装置1が備える斜材101の伸縮変位として計測する。計測された斜材101の伸縮変位は、計測結果として、入出力装置2、情報処理装置3等の装置へ送信される。
【0035】
図4は、本願記載の計測システムにて用いられる変位計測装置1及び入出力装置2の構成例を概略的に示すブロック図である。前述の変位計測装置1は、各階又は各戸に配設されており、計測部10、演算部11、接続部12、通信部13等の各種構成を備えている。
【0036】
計測部10は、前述の縦杆100、斜材101、計測器102等の各種部材を備えており、斜材101の伸縮変位を層間変位として検出する。
【0037】
演算部11は、例えば、計測器102に内蔵されており、計測した伸縮変位を層間変位(又は層間変形角)に変換する簡単な演算を行う。演算部11が行う演算は、伸縮変位が層間変位と線形近似するという前提に基づいて実施される一次関数を用いた演算である。簡単な演算のみを実行可能な単純な構成とすることで、地震等の揺れによる振動、衝撃、変形への耐性を高めることを見込むことができる。また、演算が簡単であるため、演算を高速に実行することが可能である。なお、層間変位に代えて層間変形角に変換するようにすることも可能である。
【0038】
接続部12は、通信用アダプタ及びその付属回路を用いて構成される通信回路であり、ケーブル内に内包された接続線を介して入出力装置2と通信可能に接続される。
【0039】
通信部13は、通信アダプタ及びその付属回路を用いて構成される通信回路であり、ケーブル内に内包された通信線を介してネットワークNWに対して通信可能に接続される。
【0040】
集合住宅の戸別に配設される入出力装置2は、制御部20、記録部21、記憶部22、通信部23、接続部24、入力部25、表示部(画像出力部)26、操作部27、音声出力部28等の各種構成を備えている。なお、入力部25及び表示部26等のユーザインターフェースは、別体の装置として入出力装置2に接続されていても良い。
【0041】
制御部20は、情報処理回路、計時回路、レジスタ回路等の各種回路を備え、装置内の各部を制御する処理を実行するCPU(Central Processing Unit )等の回路である。
【0042】
記録部21は、ハードディスクドライブ等の磁気記録媒体、半導体記録媒体等の不揮発性メモリにて構成される回路であり、各種プログラム及びデータ等の様々な情報が記録されている。
【0043】
記憶部22は、揮発性メモリを用いて構成される回路であり、各種プログラムの実行に際して発生するデータを一時的に記憶する。なお、便宜上、記録部21及び記憶部22を異なる構成として示しているが、一の回路で構成しても良く、また相互にその機能を補完することも可能である。
【0044】
通信部23は、通信用アダプタ及びその付属回路を用いて構成される通信回路であり、図示しないルータ等の装置を介してネットワークNWと接続する。
【0045】
接続部24は、通信用アダプタ及びその付属回路を用いて構成される通信回路であり、変位計測装置1と通信可能に接続する。
【0046】
入力部25及び表示部26は、指又は支持具の接触又は接近を検知する薄板状の入力部25と、液晶パネル等の薄膜状の表示部26とを積層したタッチパネル式ディスプレイを用いて構成されている。そして、表示部26は、建物に重大な損傷が発生している虞があること等の警告を表示出力する。
【0047】
操作部27は、電源ボタン等の各種ボタン、その他入力用部品を用いて構成される入力用マンマシンインターフェースである。
【0048】
音声出力部28は、音声を出力するスピーカ等の部品を用いて構成される出力用マンマシンインターフェースである。
【0049】
図5は、本願記載の計測システムにて用いられる情報処理装置3及び端末装置4の構成例を概略的に示すブロック図である。
【0050】
情報処理装置3は、制御部30、記録部31、記憶部32、通信部33等の各種機構を備えている。記録部31には、各建物に関する情報、各戸に関する情報、各変位計測装置1が計測した計測結果に関する情報、被害に関する情報、被害に対する対応状況を示す情報等の様々な情報が記録されている。
【0051】
端末装置4は、制御部40、記録部41、記憶部42、入力部43、出力部44、表示部45等の各種機構を備えている。入力部43は、キーボード、マウス等の入力用マンマシンインターフェースである。出力部44は、音声及び非常時における光を発する出力用マンマシンインターフェースである。表示部45は、モニタ等の出力用マンマシンインターフェースである。
【0052】
<各装置の処理概要>
このように構成された計測システムでは、地震等の揺れが生じて、変位計測装置1が配設されている階に対する上層階と下層階との間に層間変位が生じた場合、縦杆100が揺動し、斜材101が伸縮する。計測器102は、斜材101の伸縮を伸縮変位として計測し、計測した結果を入出力装置2及び/又はネットワークNWに接続する情報処理装置3へ送信する。入出力装置2は、計測結果に基づく層間変位が所定の基準値を超えると判断した場合、基準値を超える層間変位が生じていることを居住者に警告する出力を表示部26及び/又は音声出力部28から行う。また、情報処理装置3では、各所の変位計測装置1で計測された計測結果に基づき大地震の発生の有無、建物の状況、住居者に対する警告の要否及び内容についての判断を行い、必要に応じて警告を示す警告情報を入出力装置2へ送信する。入出力装置2では、受信した警告情報に基づいて、居住者に警告する出力を表示部26及び/又は音声出力部28から行う。なお、計測結果に基づく各種判断は、計測器102、入出力装置2、情報処理装置3のそれぞれで行うように設計することが可能であり、その場合、判断内容は、それぞれの装置に適した内容となる。また、情報処理装置3の処理は、必要に応じて端末装置4を操作するオペレータの操作に基づき実行される。そして、情報処理装置3、オペレータに操作される端末装置4等の各装置では、各戸、各地域の層間変形角を収集し、建物の倒壊の状況を把握し、建物、地域等の単位でグルーピング等の処理を行うことにより、復旧対応を支援することになる。
【0053】
<変位計測装置の特性>
次に、本願記載の計測システムにて用いられる変位計測装置1の特性について説明する。
図6は、本願記載の変位計測装置1の特性の一例を示す説明図である。
図6(a)は、変位計測装置1における縦杆100及び斜材101の配置を概略的に示している。この概略モデルにおいて、階高(縦杆100の長さ)を2,762mm、縦杆100の中間部と斜材101の上端との節点の高さを1,381mm、縦杆100の下端と斜材101の下端との離隔距離を1,000mm、略垂直の縦杆100に対する斜材の傾斜角度を36°に設定したときの、斜材101の伸縮変位と、その伸縮変位に対応する実際の層間変位及び層間変形角は、表1のようになる。
【0055】
図6(b)のグラフは、斜材101の伸縮変位を横軸にとり、層間変位を縦軸にとって、それらの相関性を示したものである。このグラフにおける実線は表1に示した実際の伸縮変位と層間変位との関係を示しており、一点鎖線は、伸縮変位と層間変位との関係を線形近似した一次関数を示している。
【0056】
図7は、本願記載の変位計測装置1の特性の他の例を示す説明図である。
図7(a)は、変位計測装置1における縦杆100及び斜材101の配置を概略的に示している。この概略モデルにおいて、階高(縦杆100の長さ)を2,762mm、縦杆100の中間部と斜材101の上端との節点の高さを1,381mm、縦杆100の下端と斜材101の下端との離隔距離を500mm、略垂直の縦杆100に対する斜材の傾斜角度を20°に設定したときの、斜材101の伸縮変位と、その伸縮変位に対応する実際の層間変位及び層間変形角は、表2のようになる。
【0058】
図7(b)のグラフは、斜材101の伸縮変位を横軸にとり、層間変位を縦軸にとって、それらの相関性を示したものである。このグラフにおける実線は表2に示した実際の伸縮変位と層間変位との関係を示しており、一点鎖線は、伸縮変位と層間変位との関係を線形近似した一次関数を示している。
【0059】
図8は、比較用の変位計測装置の特性の一例を示す説明図である。この変位計測装置は、
図8(a)に示すように、下層階の梁材60と上層階の梁材60(縦杆100の上端)との間に、軸方向に伸縮可能な斜材70を配置したものである。この概略モデルにおいて、階高を2,762mm、縦杆100の下端と斜材101の下端との離隔距離を500mm、略垂直の縦杆100に対する斜材70の傾斜角度を10°に設定したときの、斜材70の伸縮変位と、その伸縮変位に対応する実際の層間変位及び層間変形角は、表3のようになる。
【0061】
図8(b)のグラフは、斜材70の伸縮変位を横軸にとり、層間変位を縦軸にとって、それらの相関性を示したものである。このグラフにおける実線は表3に示した実際の伸縮変位と層間変位との関係を示しており、一点鎖線は、伸縮変位と層間変位との関係を線形近似した一次関数を示している。
【0062】
なお、柱、梁に囲まれた矩形の躯体(柱梁構面)に水平力が作用すると、該躯体は平行四辺形に変形し、厳密には高さ方向にも微少な変位を生じるが、その変位量は、地震による躯体全体の変形量から見ると極めて軽微(
図6、7の概略モデルにおいて、層間変形角が1/15(rad)のとき、高さの変化は約6mm)である。そこで、装置側でのデータ処理を簡素化して実用的な誤差範囲内での変位計測を実現するため、上記3例の表及びグラフに示した値は、躯体が平行四辺形に変形した場合でも、その高さ方向の寸法は一定であると見做して幾何学的に算出したものである。
【0063】
上記3例を対比すると、
図6〜
図8及び表1〜表3から把握されるように、下層階と上層階との間に垂直に近い角度で斜材70を配置した比較用の変位計測装置は、斜材の伸縮変位が大きくなると、実際の層間変位を示す曲線と近似直線との乖離が顕著になり、誤差が増大する。この誤差は、斜材の角度が垂直に近いほど建物の高さの変化が斜材の伸縮変位に反映されやすくなる一方で、高さの変化を無視したことによるものである。また、比較用の変位計測装置は、平行四辺形の変形の向き(左右)によって誤差の生じる方向や大きさが異なるため、地震によって伸縮変位を計測した後、そのデータを再処理しないと層間変位を精度良く把握できない、という不都合もある。
【0064】
これに対し、縦杆100の中間部に斜材101を連結して垂直線に対する斜材101の角度を大きくした本願記載の変位計測装置1は、伸縮変位と層間変位との関係の線形性が高く、線形近似して一次式により伸縮変位から層間変位を求めても誤差が小さいことが明らかである。この効果は、伸縮変位が大きくなる領域、即ち、層間変形角が大きくなる領域、特に層間変形角が±1/30(rad)となる領域で顕著であり、層間変形角が±1/15(rad)でも誤差が小さい。
図8及び表3に示した比較用の変位計測装置が、層間変形角±1/30、±1/15(rad)で、誤差約10%、22%であるのに対し、
図6及び表1に示した本願記載の変位計測装置1では、層間変形角±1/30、±1/15(rad)で、誤差5%以下、10%以下に抑えることができる。
【0065】
なお、層間変形角の±1/30(rad)は、建物の被災度区分判定基準において、一般の鉄骨ブレース造の建物では50%超でブレースに破断が生じていると想定される変形量である。この程度の変形が生じている場合、余震等の更なる外乱により変形が進む虞があり、応急対応を行うことが望ましい。また、層間変形角の±1/15(rad)は、建築基準法施行規則第一条の三第一項の認定に係る性能評価業務方法の別記でも記載されているように、鉄骨ブレース造において、計算上、構造耐力を負担していると評価できる範囲であり、これを超えると実際に建物が倒壊していなくても、復旧が困難であり、構造計算上は建物が倒壊されていると判断することもできる変形量である。
【0066】
従って、各装置の処理概要として説明したように、入出力装置2、情報処理装置3等の各装置は、計測結果に基づく層間変位が所定の基準値を超えると判断した場合、警告の出力処理を実行するが、所定の基準値としては、層間変形角±1/30(rad)に相当する層間変位が設定される。また、更に大きな揺れの基準として、層間変形角±1/15(rad)に相当する層間変位が設定される。なお、層間変形角は、層間変位及び階間高さを用いて求めることができるので、変位計測装置1が設置される階について、基準となる層間変形角に相当する層間変位を予め設定しておくことが可能である。
【0067】
また、
図6及び
図7並びに表1及び表2から明らかなように、縦杆100と斜材101との角度が大きいほど、伸縮変位と層間変位との線形性は高くなる。従って、建物内で変位計測装置1を配置する空間における制約の範囲内で、縦杆100に対する斜材101の角度を10°以上、好ましくは20°以上、より好ましくは36°以上とすることが望ましい。
【0068】
上述の表及びグラフによって説明した本願記載の変位計測装置1の特性は幾何学的な原理に基づくものであるが、本願記載の変位計測装置1はさらに、実際の建物への設置態様においても、以下の優位性を具備している。すなわち、実際の建物においては、柱と梁とが互いの接合角度を保持する剛節点に近い形態で接合されたり、下層階と上層階との間に筋交い、耐力壁、外装材、内装材等が配設されたりして剛性が増強されるため、柱・梁に囲まれる矩形の躯体は、平行四辺形よりもさらに複雑に湾曲した変形を生じることになる。その変位は、部位によっては上述した平行四辺形の単純変形による高さ方向の微少な変位を超える場合もある。そのような条件下で、例えば特許文献2に記載された斜材のみによる変位計測装置を柱に近接させて設置すると、その変位計測装置が柱や梁の湾曲等による構面の複雑な変形まで拾い出してしまい、その結果、計測値から算出される層間変位に余計な誤差が含まれてしまうおそれがある。
【0069】
そこで、本願記載の変位計測装置1は、柱・梁に囲まれる矩形の躯体が複雑な湾曲変形を生じても、それに影響されにくく、構成部材の幾何学的な位置関係を明快に保持した状態で変位計測ができるように、縦杆100と斜材101とを組み合わせて、それらの端部を全てピン節点で躯体に接合するという構成を採用している。この構成によれば、躯体に水平力が作用したとき、縦杆100が躯体に生じる複雑な湾曲変形の影響を受けずに直線性を保持したまま傾倒するので、その中間部に接合された斜材101の伸縮変位を計測することで、躯体の水平変位だけを精度良く抽出することができる。さらに、縦杆100の中間部に斜材101を連結することで、変位計測装置の設置幅(縦杆と斜材の下端との間隔幅)が小さくても、垂直線に対する斜材の角度を大きくして、伸縮変位を層間変位に線形近似した場合の誤差を小さくすることができる。
【0070】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、他の様々な形態で実施することが可能である。そのため、上述した実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。更に、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0071】
以下に、無数に存在する本発明の様々な形態の一部について説明する。
【0072】
図9は、本願記載の計測システムにて用いられる変位計測装置1の一例を示す概略図である。
図9(a)は、正面図であり、
図9(b)は、C−D断面における平面図であり、
図9(c)は、右側面図である。なお、計測器102は省略している。
図9に例示する変位計測装置1は、
図2に例示した変位計測装置1を部分的に改変したものであり、縦杆100及び下層階の梁材60に対する斜材101の接合形態が異なっている。
【0073】
図9に例示する変位計測装置1は、縦杆100の中間部の側部に、平板状の2枚の取付プレート100eが、互いの面同士を平行にして側方へ突出するように取り付けられている。一方、斜材101の上端には、その材端に開口して軸方向に延びるスリットが形成され、そのスリットに平板状の接合プレート101eが挿入されて溶接されている。接合プレート101eは、その弱軸方向(板厚方向)を柱梁構面(
図9(a)の紙面)に直交させる姿勢で、縦杆100の側部に取り付けられた2枚の取付プレート100eの間に挟み込まれ、それらとともにボルト・ナット綴着されている。
【0074】
また、下層階の梁材60には、平板状の2枚の取付プレート60bが、互いの面同士を平行にして上方へ突出するように取り付けられている。そして、斜材101の下端には、先述した上端と同様に、その材端に開口して軸方向に延びるスリットが形成され、そのスリットに平板状の接合プレート101fが挿入されて溶接されている。接合プレート101fは、その弱軸方向(板厚方向)を柱梁構面(
図9(a)の紙面)に直交させる姿勢で、梁材60に取り付けられた2枚の取付プレート60bの間に挟み込まれ、それらとともにボルト・ナット綴着されている。
【0075】
このような接合形態により、斜材101は、縦杆100及び下層階の梁材60に対し、ピン節点を介して接合されることとなる。
【0076】
図10は、本願記載の計測システムにて用いられる変位計測装置1の一例を示す概略図である。
図10(a)は、正面図であり、
図10(b)は、E−F断面における平面図であり、
図10(c)は、右側面図である。なお、計測器102は省略している。
図10に例示する変位計測装置1は、
図9に例示した変位計測装置1を部分的に改変したものであり、縦杆100の形状および縦杆100に対する斜材101の接合形態が異なっている。
【0077】
図10に例示する変位計測装置1では、縦杆100に断面寸法の小さいH形鋼が用いられている。そのH形鋼は中間部で分断され、分断されたH形鋼同士が、それぞれのウェブを表裏両側から挟むように添設された2枚の連結プレート100fを介して、材軸方向に連結されている。また、縦杆100の上下両端は、そのウェブと同一面をなすように梁材60に添設された連結プレート60cと、縦杆100のウェブとを、表裏両側から連結プレート100gで挟むようにして連結されている。
【0078】
一方、斜材101の上端には、
図9に例示した形態と同様に、その材端に開口して軸方向に延びるスリットが形成され、そのスリットに平板状の接合プレート101eが挿入されて溶接されている。接合プレート101eは、その弱軸方向(板厚方向)を柱梁構面(
図10(a)の紙面)に直交させる姿勢で、縦杆100の中間部に配置された2枚の取付プレート100fの間に挟み込まれ、それらとともにボルト・ナット綴着されている。斜材101の下端と下層階の梁材60との接合形態は、
図9に例示した形態と同じである。
【0079】
このような接合形態によっても、斜材101は、縦杆100及び下層階の梁材60に対し、ピン節点を介して接合されることとなる。
【0080】
図11は、本願記載の計測システムにて用いられる変位計測装置1の一例を示す概略図である。
図11(a)は、正面図であり、
図11(b)は、G−H断面における平面図であり、
図11(c)は、右側面図である。
図11に例示する変位計測装置1は、
図10に例示した変位計測装置1を部分的に改変したものあり、斜材101の形態が異なっている。
図11に例示する変位計測装置1では、斜材を構成する外筒部材101a及び内筒部材101bに角形鋼管が用いられている。斜材101の上端と縦杆100との接合形態、及び斜材101の下端と梁材60との接合形態は、いずれも、
図10に例示した変位計測装置1と同様である。このような接合形態によっても、斜材101は、縦杆100及び下層階の梁材60に対し、ピン節点を介して接合されることとなる。
【0081】
このように縦杆100と、斜材101と、梁材60との接合形態については、構造的にピン節点と見做しうる様々な接合形態を適宜選択して実施することが可能である。また、縦杆100及び斜材101についても様々な材料を用いることが可能であり、例えば、上述した形態以外にも、縦杆100に丸鋼管やリップ付き溝形鋼等を用いることが可能である。さらに、縦杆100は、建物の躯体を構成する柱材のうち、上下両端が梁材に対して
ピン節点と見做しうる接合形態で接合された間柱等を利用するものであっても良い。
【0082】
また、斜材101は、縦杆100の中間部と下層階の梁材60とを繋ぐことに替えて、縦杆100の中間部と上層階の梁材60とを繋ぐようにしても良い。
【0083】
更に、計測器102は、斜材101の外側に取り付けるのではなく、斜材101の内側に内包させる等、様々な形態に展開することが可能である。
【課題】地震等の揺れにより、建物に変位、特に大きな層間変位が生じた場合であっても、その状況を高精度に計測することが可能な計測システム及び変位計測装置を提供する。
【解決手段】建物の下層階と上層階との間に取り付けられた縦杆100と、縦杆100と下層階又は上層階との間に斜めに取り付けられ、長手方向に伸縮可能な長尺状の斜材101と、斜材101の伸縮変位を計測する計測器102とを備える変位計測装置1を用いる。そして、計測器102が計測した伸縮変位から、下層階及び上層階の間の層間変位との関係に基づいて導出される層間変位が、建物の損傷に関する閾値に基づいて設定された基準値を超える場合に、建物の損傷に関する警告を出力する。なお、伸縮変位及び層間変位の関係は線形近似される。