特許第6376259号(P6376259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6376259廃棄物固形化燃料中の塩素濃度の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376259
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】廃棄物固形化燃料中の塩素濃度の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20180813BHJP
   G01N 23/2202 20180101ALI20180813BHJP
【FI】
   G01N23/223
   G01N23/2202
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-175814(P2017-175814)
(22)【出願日】2017年9月13日
(62)【分割の表示】特願2013-85489(P2013-85489)の分割
【原出願日】2013年4月16日
(65)【公開番号】特開2018-10008(P2018-10008A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2017年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】武井 俊達
(72)【発明者】
【氏名】近藤 光隆
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−21797(JP,A)
【文献】 特開2013−40867(JP,A)
【文献】 特開平8−271456(JP,A)
【文献】 特開2012−255689(JP,A)
【文献】 木村龍男,「蛍光X線法による石炭中無機元素分析の検討」,公害資源研究所彙報,工業技術院公害資源研究所,1989年 3月30日,第18巻第3号,p.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃プラスチックを含む廃棄物固形燃料中の塩素濃度の測定方法であって、
JIS Z 7302−6の方法に従って塩素濃度を測定した塩素濃度既知の廃棄物固形化燃料を乾燥及び粉砕し、得られた粒状の粉砕物を加圧装置によって加圧成型して標準試料を作製する標準試料作製ステップと、
作製された前記標準試料に対して蛍光X線強度測定を行って、蛍光X線強度と廃棄物固形化燃料中の塩素濃度とが対応付けられた検量線を作成する検量線作成ステップと、
塩素濃度未知の廃棄物固形燃料を乾燥及び粉砕し、得られた粒状の粉砕物を加圧装置によって加圧成型して測定対象試料を作製する測定対象試料作製ステップと、
作製された前記測定対象試料に対して、前記検量線作成ステップにおいて行った蛍光X線強度測定での測定条件と同型の装置を用いて同条件で蛍光X線強度測定を行って得られた蛍光X線強度と、前記検量線作成ステップにおいて作成された検量線と、に基づいて前記測定対象試料中の塩素濃度を測定する塩素濃度測定ステップと、を含むことを特徴とする、廃棄物固形燃料中の塩素濃度の測定方法。
【請求項2】
前記測定対象試料作製ステップ及び前記標準試料作製ステップにおいて、前記廃棄物固形燃料が直径10mm未満になるまで粉砕されることを特徴とする、請求項1に記載の廃棄物固形燃料中の塩素濃度の測定方法。
【請求項3】
前記測定対象試料作製ステップ及び前記標準試料作製ステップにおいて、乾燥及び粉砕された前記廃棄物固形燃料を金型に充填して、前記金型に充填された前記廃棄物固形燃料の全体に対して、前記加圧装置を用いて1000kg以上の大きさの力を付与して加圧成型を行うことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の廃棄物固形燃料中の塩素濃度の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル等の廃プラスチック等を含む廃棄物固形燃料中の塩素濃度の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境の保護の観点から、本来廃棄される廃棄物を、別の用途に用いる試みが行われている。例えば、産業廃棄物のうち、再利用が困難であり、ただ燃焼させるしかないとされる古紙や木屑、廃プラスチックを用いて、廃棄物固形化燃料(Refuse Paper & Plastic Fuel;以下、「RPF」ともいう)を得る試みが行われている。RPFは炭素元素を豊富に含むため燃焼し易く、RPFは、ボイラ駆動等のための燃料として好適である。
【0003】
しかし、RPFには、例えば廃プラスチックに由来する塩素が含まれることがある。そのため、RPFを燃焼させると、塩素を含む灰が発生する。そして、この灰がボイラ内に堆積すると、含まれる塩素により、ボイラ内の構造物の腐食が進むことがあり、ボイラの耐久性を低下させることがある。従って、燃焼させるRPFは、塩素濃度ができるだけ低いことが好ましい。
【0004】
低塩素濃度のRPFを選定するべく、RPF等の固形燃料中の塩素濃度を測定する技術が知られている。具体的には、JIS Z7302−6に基づいて、RPF中の塩素含有量(塩素濃度)が測定可能である。しかしながら、この方法においては、イオンクロマトグラフを用いて測定するため、測定が面倒で時間もかかる。そこで、このような課題を解決するため、特許文献1には、固形燃料を酸素ボンブ燃焼容器内で燃焼させ、この燃焼により発生する塩化水素及び塩素を上記燃焼容器内に収容したアルカリ水溶液に吸収させ、その吸収液中の塩素量を蛍光X線で測定する固形燃料中の塩素濃度の測定方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−21797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1に記載の技術は、酸素ボンブ燃焼容器等の気密性が保たれた特殊な容器を使用するものであるから、簡便に行えるものではない。また、例えば大気下等の開放系において測定を行おうとすると、測定結果がばらついたり、良好な精度での測定が行えなかったりすることがある。従って、前記特許文献1に記載の技術には、依然として、簡便かつ迅速な測定が行い難いという課題がある。
【0007】
そこで、簡便かつ迅速な測定を行うべく、前記特許文献1に代わる技術が望まれている。例えば、測定者が独自に検量線を作成し、当該検量線を用いて、測定者が独自に作成した濃度未知の固形燃料からなる試料について塩素濃度の測定を行うことが考えられる。これによれば、簡便かつ迅速に塩素濃度を測定することができることもある。
【0008】
しかし、検量線の作成方法や試料の作製方法等の測定条件が測定者毎に異なると、仮に同じ固形燃料からなる試料であっても、同じ測定結果(塩素濃度)にならないことがある。そのため、前記の方法によれば、簡便かつ迅速な測定ができることはあるが、良好な精度という点で依然として課題がある。
【0009】
本発明は前記の課題に鑑みて為されたものであり、本発明が解決する課題は、従来よりも簡便かつ迅速に精度よく廃棄物固形燃料中の塩素濃度を測定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、以下の知見を見出して本発明を完成させた。即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
【0011】
(1)
廃プラスチックを含む廃棄物固形燃料中の塩素濃度の測定方法であって、
JIS Z 7302−6の方法に従って塩素濃度を測定した塩素濃度既知の廃棄物固形化燃料を乾燥及び粉砕し、得られた粒状の粉砕物を加圧装置によって加圧成型して標準試料を作製する標準試料作製ステップと、
作製された前記標準試料に対して蛍光X線強度測定を行って、蛍光X線強度と廃棄物固形化燃料中の塩素濃度とが対応付けられた検量線を作成する検量線作成ステップと、
塩素濃度未知の廃棄物固形燃料を乾燥及び粉砕し、得られた粒状の粉砕物を加圧装置によって加圧成型して測定対象試料を作製する測定対象試料作製ステップと、
作製された前記測定対象試料に対して、前記検量線作成ステップにおいて行った蛍光X線強度測定での測定条件と同型の装置を用いて同条件で蛍光X線強度測定を行って得られた蛍光X線強度と、前記検量線作成ステップにおいて作成された検量線と、に基づいて前記測定対象試料中の塩素濃度を測定する塩素濃度測定ステップと、を含むことを特徴とする、廃棄物固形燃料中の塩素濃度の測定方法。
(2)
前記測定対象試料作製ステップ及び前記標準試料作製ステップにおいて、前記廃棄物固形燃料が直径10mm未満になるまで粉砕されることを特徴とする、前記(1)に記載の廃棄物固形燃料中の塩素濃度の測定方法。
(3)
前記測定対象試料作製ステップ及び前記標準試料作製ステップにおいて、乾燥及び粉砕された前記廃棄物固形燃料を金型に充填して、前記金型に充填された前記廃棄物固形燃料の全体に対して、前記加圧装置を用いて1000kg以上の大きさの力を付与して加圧成型を行うことを特徴とする、前記(1)または前記(2)に記載の廃棄物固形燃料中の塩素濃度の測定方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来よりも簡便かつ迅速に精度よく廃棄物固形燃料中の塩素濃度を測定する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】RPF標準板の作製フローである。
図2】検量線の作成フローである。
図3】作成可能な検量線の一例である。
図4】RPFサンプルの塩素濃度の測定フローである。
図5】実施例1において作成した検量線である
図6】実施例1の精度を示すグラフである。
図7】比較例1の精度を示すグラフである。
図8】実施例3の精度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0015】
本実施形態の固形燃料中の塩素濃度の測定方法は、蛍光X線強度測定により、例えば廃棄物固形化燃料(RPF)等の固形燃料中の塩素濃度を測定するものである。本実施形態の固形燃料中の塩素濃度の測定方法は、主に、4つのステップ(工程)を含んでいる。具体的には、(1)塩素濃度既知の固形燃料を乾燥及び粉砕し、得られた粒状の粉砕物を加圧装置によって加圧成型して標準試料を作製する標準試料作製ステップと、(2)作製された前記標準試料に対して蛍光X線強度測定を行って検量線を作成する検量線作成ステップと、(3)塩素濃度未知の固形燃料を乾燥及び粉砕し、得られた粒状の粉砕物を加圧装置によって加圧成型して測定対象試料を作製する測定対象試料作製ステップと、(4)作製された前記測定対象試料に対し、前記蛍光X線強度測定での測定条件と同条件で蛍光X線強度測定を行って得られた蛍光X線強度と、蛍光X線強度と固形燃料中の塩素濃度とが対応付けられた検量線と、に基づいて前記測定対象試料中の塩素濃度を測定する塩素濃度測定ステップと、の4つのステップが含まれている。ここで、(1)標準試料作製ステップと、(2)検量線作成ステップとを少なくとも経ることで、検量線を作成することができる。
【0016】
これらのうち、(3)測定対象試料作製ステップと、(4)塩素濃度測定ステップとの少なくとも2つのステップを経ることにより、従来よりも簡便かつ迅速に精度よく固体燃料中の塩素濃度を測定する方法を提供することができる。ただし、よりいっそうの効果を得るために、これら4つのステップを経ることが好ましい。そこで、以下の説明においては、これらの4つのステップを行うものとして、各ステップについて説明する。なお、本実施形態の測定方法は、特にRPF中の塩素に対して好適であるので、以下の説明においては、固形燃料の一例として、RPFを例に挙げて説明する。
【0017】
<各ステップの説明>
(1)標準試料作製ステップ
本ステップでは、塩素濃度既知の固形燃料を乾燥及び粉砕し、得られた粒状の粉砕物を加圧装置によって加圧成型してRPF標準板(標準試料、蛍光X線強度測定用試料)を作製する。作製されたRPF標準板は、後記する検量線を作成する際に用いられる。本ステップを、図1に示すフローを参照しながら説明する。図1は、RPF標準板の作製フローである。
【0018】
まず、JIS Z 7302−6の方法(所謂JIS法)に従って、RPF中の塩素濃度を測定する。この測定は、複数のRPFについて行って、複数(例えば20検体程度)の濃度既知のRPFが準備される。そして、濃度既知のRPFのそれぞれについて、乾燥が行われる(ステップS101)。なお、乾燥は、後記する粉砕(ステップS102)の後に行われてもよい。この乾燥は、十分に行われることが好ましく、所謂「絶乾」となることがより好ましい。RPFを十分に乾燥させることにより、より正確な蛍光X線強度が得られ易いという利点がある。
【0019】
乾燥方法は特に制限されないが、RPFの大きさ等によっても異なるため一概には言えないものの、直径30mm程度の円筒状のRPFであれば、例えば105℃で1時間以上とすることが好ましい。自然乾燥でもよいが、乾燥装置を用いる場合には、例えば、ヤマト科学社製 定温乾燥器 DV 600等が使用可能である。
【0020】
乾燥されたRPFは、その後、粉砕される(ステップS102)。ただし、前記のように、RPFは、粉砕後に乾燥されるようにしてもよい。粉砕は、粒状のRPFの粉砕物が得られる程度にまで粉砕するものとする。また、これ以外の粉砕の条件は特に制限されないが、例えば、粒径(直径)として10mm未満になるまで粉砕することが好ましく、より好ましくは5mm以下、特に好ましくは2mm以下である。粒径が小さければ小さいほど、RPF中の塩化ビニル等の塩素含有材料を細かくして全体に分散させることができ、より精度のよい測定結果を得ることができる。粉砕は、1回のみ行ってもよく、複数回行ってもよい。また、必要に応じて、所望の粒径のRPFが得られるように、所定の孔径を有する篩を用いてもよい。
【0021】
粉砕装置は、どのようなものを用いてもよい。例えば、粉砕は、カッタ、ミキサ、ウィレーミル等の任意の粉砕装置を用いることができる。カッタとしては例えばMERRY社製 PIP−19、ミキサとしては例えば大阪ケミカル社製 WDL−1、ウィレーミルとしては例えば吉田製作所社製 1029型(φ2mm)等が使用可能である。さらに、必要に応じて、RPFは、人手によって粉砕されてもよい。
【0022】
次に、RPFの粒状の粉砕物は、金型等に充填され、加圧装置によって加圧成型される(ステップS103)。成型は、加圧装置を用いて行うものとする。また、これ以外の成型の条件は特に制限されないが、できるだけ密になるように大きな力を付与可能な加圧装置を用いて成型することが好ましい。得られる成型品(RPF標準板)ができるだけ密になっていることで、含まれる空隙によるX線の乱反射等を抑制し、より精度のよい測定結果を得ることができる。また、できるだけ大きな力を付与することで、成型品(RPF標準板)の表面の凹凸を減らして高い平滑状態にすることができ、後記する蛍光X線強度測定を良好に行うことができる。
【0023】
従って、成型の条件として、具体的には例えば、円形状の金型(例えば内径30mm)にRPFの粒状の粉砕物を充填後、金型に充填された粉砕物の全体に対して例えば1000kg(1t)以上20000kg(20t)以下、好ましくは10000kg(10t)以下程度の大きさの力を付与することができる。これにより、厚さが例えば3mm程度、重さが例えば2g程度の、円板状のRPFからなる板(RPF標準板)を作製することができる。なお、このような金型としては、例えば、三庄インダストリ社製 N1246−00等が使用可能である。
【0024】
力を付与する加圧装置は特に制限されないが、できるだけ大きな力を付与できる加圧装置を用いることが好ましい。従って、このような手段としては、手動プレス機や電動プレス機が挙げられるが、より大きな力を付与可能という観点から、電動プレス機を用いることが好ましい。ただし、より手軽に成型を行うという観点からは、手動プレス機を用いてもよい。このような手動プレス機としては、例えば、島津製作所社製 ハンドプレスSSP−10A等が挙げられる。
【0025】
また、成型は、金型を用いた成型に限定されるものではない。即ち、金型を用いた場合に得られる成型品と同様のものが成型可能であれば、金型以外のどのような手段や方法を使用してもよい。
【0026】
以上のステップS101〜ステップS103を経ることにより、濃度既知のRPF標準板が得られる(ステップS104)。なお、この濃度既知のRPF標準板は、後記する検量線を作成するとき(検量線作成ステップ)に用いられる。
【0027】
(2)検量線作成ステップ
本ステップでは、前記の(1)標準試料作製ステップにおいて作製されたRPF標準板(標準試料)に対して蛍光X線強度測定を行うことで、検量線を作成する。作成された検量線が用いられることにより、濃度未知のRPFの塩素濃度が、迅速かつ簡便に精度よく測定可能となる。
【0028】
具体的には、まず、前記の(1)標準試料作製ステップにおいて作製された各RPF標準板について、蛍光X線強度の測定を行う(ステップS201)。ここで、蛍光X線分析法は、X線を試料(RPF標準板や後記するRPFサンプル板等)に照射したときに発生する蛍光X線のエネルギや強度から、含まれる塩素等の成分元素の濃度等を分析する手法である。塩素については、Kα線が測定される。蛍光X線分析装置の具体的な種類は特に制限されず、例えばスペクトリス社製 波長分散型蛍光X線 PW2404や、オックスフォード社製 Twin−X、SII ナノテクノロジー社製 SEA1200VX、テクノエックス社製 ED05S、SII ナノテクノロジー社製 SEA1000AII等が使用可能である。なお、詳細は後記するが、RPF標準板についての蛍光X線強度測定と、RPFサンプルについての蛍光X線強度測定とは、同型の装置を用いて同条件にて行うものとする。
【0029】
そして、測定された蛍光X線強度について、各RPF標準板の濃度は既知であるから、x軸を既知の塩素濃度、y軸を蛍光X線強度としたグラフが作成される(ステップS202)。そして、グラフ上の各プロットについて、最小二乗法を用いて、近似直線をひく。このようにして引かれた近似直線を、後記する濃度未知のRPFの塩素濃度測定に用いる検量線とし、検量線が完成する(ステップS203)。
【0030】
このようにして作成された検量線の一例を、図3に示す。なお、図3では、図示の簡略化のために、0.5質量%、0.75質量%及び1.0質量%の3検体のみプロットし、相関係数(R2値)を1としている。また、図3は、説明を簡略化して行うための検量線の一例であり、現実の検量線と必ずしも一致するものではない。
【0031】
図3に示す検量線においては、塩素濃度が0.5質量%のときの蛍光X線強度は20kcps、塩素濃度が0.75質量%のときの蛍光X線強度は30kcps、塩素濃度が1.0質量%のときの蛍光X線強度は40kcpsである。そのため、これらのプロットについて最小二乗法により(図3では単にプロットを線で結ぶことにより)得られる検量線の式は、y=40xとなる。
【0032】
(3)測定対象試料作製ステップ
本ステップでは、塩素濃度未知のRPF(固形燃料)を乾燥及び粉砕し、得られた粒状の粉砕物を加圧装置によって加圧成型してRPFサンプル板(測定対象試料、蛍光X線強度測定用試料)を作製する。この点を、図4を参照しながら説明する。
【0033】
図4は、RPFサンプルの塩素濃度の測定フローである。本実施形態では、濃度未知のRPFサンプルに含まれる塩素の濃度を測定するものとする。そこで、当該濃度未知のRPFサンプルについて、前記のRPF標準板の作製方法と同様にして、RPFサンプル板が作製される(ステップS301〜ステップS304)。ただし、作製条件や作製方法は、前記の(1)標準試料作製ステップにおける条件や方法等と同様であることが好ましいが、必ずしも厳密に同様とする必要はない。従って、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、適宜条件や方法を変更してもよい。
【0034】
(4)塩素濃度測定ステップ
本ステップでは、前記の(3)測定対象試料作製ステップにおいて作製された測定対象試料に対し、前記の(2)検量線作成ステップにおける蛍光X線強度測定での測定条件と同条件で蛍光X線強度測定を行って得られた蛍光X線強度と、前記の(2)検量線作成ステップにおいて作成された、蛍光X線強度と固形燃料中の塩素濃度とが対応付けられた検量線(例えば図3に示す検量線)と、に基づいて前記測定対象試料中の塩素濃度を測定する。
【0035】
具体的には、まず、RPF標準板についての蛍光X線強度測定を行ったときと同様の装置及び条件で、RPFサンプル板についての蛍光X線強度の測定が行われる(図4のステップS305)。ただし、測定条件は必ずしも厳密に同様とする必要はなく、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、適宜条件を変更してもよい。そして、作成された検量線(図3参照)に基づいて、測定された強度に対応する塩素濃度が測定される(ステップS306)。
【0036】
このときの算出方法の一例を、より具体的に説明する。前記のように、図3に示す検量線の式はy=40x(xはJIS法に基づく塩素濃度、yは蛍光X線強度)である。そこで、蛍光X線強度に対応する塩素濃度を算出する式を得るためにxとyとを入れ替えると、y=(1/40)x=0.025xとの式が得られる。この式において、xは蛍光X線強度、yは塩素濃度である。
【0037】
従って、本実施形態のステップS306における「検量線を用いて塩素濃度を算出」とは、検量線の式(y=40x)を変換して得られる式を用い、測定された蛍光X線強度(x)から、塩素濃度(y)を算出することである。これにより、測定された蛍光X線強度及び検量線を用いて、濃度未知のRPF中の塩素濃度が測定できる。
【0038】
なお、本ステップでは、検量線を用いてRPF中の塩素濃度を特定(決定)しているため、厳密な意味で、RPF中の塩素濃度を直接測定しているわけではない。しかしながら、本明細書においては、このような検量線を用いてRPF中の塩素濃度を特定することを広義の「測定」と考え、便宜上、そのように呼称するものとする。
【実施例】
【0039】
次に、実施例を挙げて、本実施形態をより具体的に説明する。
【0040】
<検量線の作成>
まず、JIS法により測定した塩素濃度既知の19検体のRPFを用いて、検量線を作成した。
はじめに、定温乾燥機(ヤマト科学社製 DV600)を用いて、105℃で1時間乾燥させることで、それぞれのRPFを完全に乾燥させた(絶乾)。
【0041】
次いで、乾燥後の各RPFを粉砕用カッタ、パイプカッタ(MERRY社製 PIP−19)及びミキサ(大阪ケミカル社製 WDL−1)を用いて予備粉砕した後、孔径2mmの篩がセットされたウィレーミル(吉田製作所社製 1029型)を用いて各RPFを粉砕し、直径2mm以下の粒状の粉砕物を得た。なお、装置に供するRPFは、それぞれ約100gずつとした。
【0042】
最後に、各RPFの粉砕物のうちの約2gを金型成形器(φ30mm、三庄インダストー社製 N1426−00)にそれぞれ充填した。次いで、手動の油圧式加圧成形機(加圧装置;島津製作所社製 SSP−10A)によって、RPF粉砕物に対して、10000kg(10t)の力を付与し、加圧成型を行った。そして、金型からRPFの板を取り出し、両面が平滑であることを確認し、19枚のRPF標準板を作製した。
【0043】
19枚のRPF標準板について、蛍光X線分析装置(オックスフォード社製 Twin−X)を用いて蛍光X線強度(kcps)を測定し、グラフを作成した。作成されたグラフを図5に示す。そして、19検体のプロットについて、最小二乗法を用いて近似直線を得、得られた近似直線を検量線とした。この検量線(近似直線)の式はy=44.001x(xは既知濃度、yは蛍光X線強度)であり、相関係数は0.9939であった。
【0044】
<比較的少数の検体についての濃度測定(実施例1及び実施例2)>
前記の19枚のRPF標準板をRPFサンプル板とし、前記の蛍光X線分析装置を用いて、蛍光X線強度を測定した。そして、測定された蛍光X線強度から、作成された検量線に基づき、塩素濃度を求めた。そして、測定された塩素濃度(蛍光X線法に基づく塩素濃度)を縦軸(y軸)とし、対応する既知濃度(JIS法に基づく塩素濃度)を横軸(x軸)として、グラフにプロットした(実施例1)。
【0045】
また、用いた蛍光X線分析装置をSII ナノテクノロジー社製 SEA1200VXに代えたこと以外は実施例1と同様にして、グラフにプロットした(実施例2)。
【0046】
以上の実施例1及び実施例2の結果を図6に示す。図6において、一点鎖線は傾きが1の直線であり、グラフの形状がこの直線に近いほど、本実施形態の固形燃料中の塩素濃度の測定方法により測定された塩素濃度は、JIS法に基づく塩素濃度に近く、良好な精度であることを示している。
【0047】
実施例1の近似直線(太実線)の傾きは1.0285であり、相関係数は0.8375であった。また、実施例2の近似直線(破線)の傾きは0.9045であり、相関係数は0.8906であった。グラフの形状は、実施例1及び実施例2のいずれも、傾きが1の一点鎖線の直線に近い形状になっていた。このように、蛍光X線測定装置の種類によらず、精度よく、ばらつきの少ない(近似直線の傾きが1に近い)結果が示された。この結果は、蛍光X線分析装置に用いられる標準板を測定対象試料と同じRPFにより構成することで、マトリックスの相異による測定への影響を低減させることができたためと考えられる。
【0048】
また、相関係数は、実施例1及び実施例2のいずれにおいても1に近く、ばらつきが少しあるものの相関が良好な結果が示された。このことは、測定条件によらず、精度のよい良好な結果が得られることを示している。特に、蛍光X線分析装置は、測定機構や測定精度の高さ等の違いにより、種々販売されている。そのため、実施例1及び実施例2の結果から、どのような測定装置であっても、JIS法に準ずるほどに精度よく、簡便かつ迅速に、RPF等の固形燃料中の塩素濃度を測定することができることがわかった。
【0049】
<本実施形態の検量線を用いない従来の測定(比較例1及び比較例2)>
JIS法により測定した塩素濃度既知の6検体のRPFを用いて、以下の比較例1及び比較例2の評価を行った。
【0050】
6検体のRPFについて、乾燥を行わないこと、及び、粉砕時に孔径5mmの篩がセットされたウィレーミルを用いた(即ち、粒状RPFの粒径が5mm以下)こと以外は実施例1及び実施例2と同様にしてRPFサンプル板を作製した。
【0051】
また、実施例1及び実施例2のRPFサンプル板に相当する標準板として各装置メーカ推奨の標準試料を用い、検量線を作成した。なお、比較例1での標準試料は塩化ナトリウム水溶液、比較例2での標準試料はポリエチレン板である。
【0052】
作製した6枚のRPFサンプル板について実施例1及び実施例2と同様にして蛍光X線強度を測定し、前記の各標準試料から作成される検量線により、蛍光X線分析法に基づく塩素濃度を測定した。その結果を、図6と同様にして、図7に示す。
【0053】
比較例1の近似直線(太実線)の傾きは1.2909であり、相関係数は0.5591であった。また、比較例2の近似直線(破線)の傾きは0.3953であり、相関係数は0.8528であった。グラフの形状は、比較例1及び比較例2のいずれも、傾きが1の一点鎖線の直線とは大きく異なっており、蛍光X線法に基づいて測定された塩素濃度は、JIS法に基づいて測定される塩素濃度と大きく異なっていることがわかった。従って、比較例1及び比較例2の方法では、精度の低い結果しか得られないことがわかった。
【0054】
また、相関係数は、特に比較例1で小さく、ばらつきが大きいことが示された。このことは、測定条件によってばらつきが大きく、蛍光X線法に基づいて測定される塩素濃度の信頼性が低いことを示している。
【0055】
<検体数の増減による精度の変化(実施例3)>
JIS法により測定した塩素濃度既知のRPFを100検体とし、成型時に付与する力を10000kg(10t)、用いた蛍光X線分析装置をスペクトリス社製 波長分散型蛍光X線PW2404としたこと以外は実施例1と同様にして、図6と同様のグラフを描いた。
【0056】
その結果、図8に示すように、得られた近似直線の傾きは1.0016、相関係数は0.9910であった。このことから、検体数が多ければ多いほど、より高い精度で、ばらつきの少ない結果が得られると考えられる。
【0057】
<RPFサンプルに含まれる水分量による蛍光X線強度の変化>
水分含有量が0質量%(絶乾)のRPFと、水分含有量5質量%のRPFと、水分含有量10質量%のRPFとを用い、それぞれRPF標準板を作製した。そして、作製された3枚のRPF標準板について、実施例3で用いた蛍光X線分析装置を用いて、蛍光X線強度を測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0058】
【表1】
※ 表1中、括弧内の数字は、「0質量%」の結果からの減少率である。
【0059】
表1に示すように、水分量が多くなればなるほど、蛍光X線の強度が低下した。特に、水分が10質量%の割合で含まれているものにおいては、最大約30%も強度が減少した。蛍光X線の強度が低下すると、測定精度の低下を招く。従って、RPFサンプルに含まれる水分量はできるだけ少ないことが好ましいことがわかった。
【0060】
<粉砕の程度及び成型の方法の相異による蛍光X線強度の変化>
粉砕の程度や成型の方法が、蛍光X線強度にどのように影響するのかを調べるために、以下の評価を行った。
【0061】
粉砕の程度を、直径10mm以上、直径5mm以下、及び、直径2mm以下の3通りとして、RPF標準板を作製した。なお、直径10mm以上の粉砕は、ウィレーミル等を用いた粉砕ではなく、RPFを単に輪切りにして得たものであり、粒状のRPFとはいえないものである。また、成型は、各粉砕の程度において、それぞれ、人間の指押しによる成型、手動プレス機(加圧装置)を用いた成型(付与する力の大きさは10000kg)、及び自動プレス機(加圧装置)を用いた成型(付与する力の大きさは20000kg)の3通りとした。そして、9枚のRPF標準板について、実施例3と同様の蛍光X線分析装置を用いて、蛍光X線強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
※ 表2中、括弧内の数字は、「直径2mm以下」の結果からの減少率である。
また、評価項目において、「○」は強度十分、「△」は強度がやや弱い、「×」は強度が弱いことを示している。
【0063】
表2に示すように、RPFを単に輪切りにしただけの「直径10mm以上」においては、指押し成型又は加圧装置による加圧成型のいずれにおいても、傾向X線の強度が弱かった。また、直径5mm以下になるまで、及び直径2mm以下になるまで粉砕を行った場合、指押し程度の大きさの力での成型では、蛍光X線の強度は弱かった。従って、これらの場合には、良好な精度での塩素濃度の測定が行えない可能性がある。
【0064】
一方で、直径5mm以下の粒状になるまで、及び直径2mm以下の粒状になるまで粉砕を行った場合、自動プレス機及び手動プレス機のいずれを用いた場合でも、比較的良好な蛍光X線強度が得られた。従って、粉砕を行って、自動プレス機や手動プレス機等の加圧装置によって加圧成型を行えば、良好な精度で塩素濃度を測定することができることがわかった。特に、直径2mm以下の粒状になるまで粉砕を行うことで、より良好な精度での測定を行うことができることがわかった。
【0065】
以上、説明したように、本実施形態によれば、各測定者が標準試料(RPF標準板等)を作製して検量線を作成すれば、その後は、標準試料の作製方法と同様の方法で測定対象試料(RPFサンプル板等)を作製して蛍光X線強度を測定することで、当該測定対象試料中の塩素濃度を簡便かつ迅速に、精度よく測定することができる。特に、検量線作成時に用いた蛍光X線分析条件と同じ測定条件で測定対象試料についての蛍光X線強度分析を行うことで、測定者によるばらつきを抑制することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8