特許第6376261号(P6376261)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6376261光ファイバ歪み及び温度測定装置並びに光ファイバ歪み及び温度測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6376261
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】光ファイバ歪み及び温度測定装置並びに光ファイバ歪み及び温度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20180813BHJP
   G01D 5/353 20060101ALI20180813BHJP
   G01K 11/32 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   G01B11/16 G
   G01D5/353 B
   G01K11/32 C
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-186058(P2017-186058)
(22)【出願日】2017年9月27日
【審査請求日】2017年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】小泉 健吾
(72)【発明者】
【氏名】山口 ▲徳▼郎
(72)【発明者】
【氏名】村井 仁
【審査官】 池田 剛志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−191659(JP,A)
【文献】 特開平10−048067(JP,A)
【文献】 特開2017−156289(JP,A)
【文献】 特開2017−116423(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/042507(WO,A1)
【文献】 小泉 健吾,村井 仁,社会インフラモニタリングに向け分布光ファイバーセンシング技術,OKIテクニカルレビュー,日本,沖電気工業株式会社,2015年12月,Vol.82 No.2,pp.32−35,[online],[検索日 2018年2月22日],URL,http://www.oki.com/jp/otr/2015/n226/pdf/otr226_r14.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B11/00−11/30
G01D 5/26− 5/38
G01K 1/00−19/00
G01M11/00−11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブ光を生成する光源部と、
前記プローブ光により測定対象となる光ファイバで発生する後方ブリルアン散乱光を、2分岐する分岐部と、
前記分岐部で2分岐された一方の散乱光が入力されて自己遅延型のホモダイン干渉により干渉信号を生成する干渉信号取得部と、
前記分岐部で2分岐された他方の散乱光が入力されて、前記散乱光の強度を取得する散乱光強度取得部と、
前記干渉信号の強度から取得した周波数シフト量と、前記散乱光の強度から歪みδε及び温度変化δTを分離して取得する信号処理部と
を備え
前記干渉信号取得部は、
入力された散乱光を第1光路及び第2光路に2分岐する干渉計分岐部と、
前記第1光路に設けられ、前記信号処理部からの指示に応じて散乱光の位相を変化させることができる遅延調整部と、
前記第1光路及び第2光路を経て受け取った光を合波して干渉光を生成する干渉計合波部と
を有する自己遅延型のホモダイン干渉計、及び、
前記干渉光を電気信号に変換して干渉信号を生成する干渉光受光部
を備え、
前記信号処理部は、
前記第1光路を伝播する散乱光の位相を、0から2πまで掃引するように変化させるよう前記遅延調整部に指示を送り、
各位相においてブリルアン周波数シフトが生じていない参照区間の平均強度を測定し、
前記平均強度の最小値及び最大値を取得し、
前記平均強度が前記最小値と前記最大値の間の基準値になるように前記第1光路を伝播する光の位相を設定し、前記干渉信号の強度を、前記最小値及び最大値を用いて規格化する
ことを特徴とする光ファイバ歪み及び温度測定装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、
前記周波数シフト量δν及び前記強度δP/Pと、予め求めておいた、光ファイバ中の後方ブリルアン散乱の周波数シフトの歪み依存係数Cνε、及び、温度依存係数CνT、並びに、後方ブリルアン散乱の散乱係数の、歪み依存係数CPε、及び、温度依存係数CPTとから、下記の2元連立方程式(1)を解くことにより、光ファイバ中の歪みδεと温度変化δTを取得する
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ歪み及び温度測定装置。
【数1】
【請求項3】
前記自己遅延型のホモダイン干渉計は、空間結合系で構成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ歪み及び温度測定装置。
【請求項4】
プローブ光を生成する過程と、
前記プローブ光により測定対象となる光ファイバで発生する後方ブリルアン散乱光を2分岐する過程と、
前記2分岐された一方の散乱光を第1光路及び第2光路に2分岐する過程と、
前記第1光路を伝搬する散乱光に遅延を与える過程と、
前記第1光路及び前記第2光路を伝播する散乱光を合波して干渉光を生成する過程と、
前記干渉光を光電変換することにより電気信号である干渉信号を生成する過程と、
前記干渉信号の強度から周波数シフト量を取得する過程と、
前記後方ブリルアン散乱光が2分岐された他方の散乱光から、散乱光強度を取得する過程と、
前記周波数シフト量及び前記散乱光強度から歪みδε及び温度変化δTを分離して取得する過程と
を備え
さらに、
前記第1光路を伝播する散乱光の位相を、0から2πまで掃引するように変化させ、各位相においてブリルアン周波数シフトが生じていない参照区間の平均強度を測定する過程と、
前記平均強度の最小値及び最大値を取得する過程と、
前記平均強度が前記最小値と前記最大値の間の基準値になるように前記第1光路を伝播する光の位相を設定する過程と
を備え、
前記周波数シフト量を取得する過程では、前記干渉信号の強度を、前記最小値及び最大値を用いて規格化する
ことを特徴とする光ファイバ歪み及び温度測定方法。
【請求項5】
前記周波数シフト量δν及び前記強度δP/Pと、予め求めておいた、光ファイバ中の後方ブリルアン散乱の周波数シフトの歪み依存係数Cνε、及び、温度依存係数CνT、並びに、後方ブリルアン散乱の散乱係数の、歪み依存係数CPε、及び、温度依存係数CPTとから、下記の2元連立方程式(1)を解くことにより、光ファイバ中の歪みδεと温度変化δTを取得する
ことを特徴とする請求項に記載の光ファイバ歪み及び温度測定方法。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブリルアン散乱光を用いた、光ファイバ歪み及び温度測定装置並びに光ファイバ歪み及び温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信の発展とともに、光ファイバ自体をセンシング媒体とする分布型光ファイバセンシングが盛んに研究されている。特に、散乱光を利用する光ファイバセンシングは、点ごとに計測する電気センサとは異なり、長距離の分布としてのセンシングが可能であるため、被測定対象全体の物理量を計測することができる。
【0003】
分布型光ファイバセンシングでは、光ファイバの片端から光パルスを入射し、光ファイバ中で後方散乱された光を時間に対して測定する時間領域リフレクトメトリ(OTDR:Optical Time Domain Reflectometry)が代表的である。光ファイバ中の後方散乱には、レイリー散乱、ブリルアン散乱及びラマン散乱がある。この中で自然ブリルアン散乱を測定するものはBOTDR(Brillouin OTDR)と呼ばれる(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
ブリルアン散乱は、光ファイバに入射される光パルスの中心周波数に対して、ストークス側及び反ストークス側にGHz程度周波数シフトした位置に観測され、そのスペクトルはブリルアン利得スペクトル(BGS:Brillouin Gain Spectrum)と呼ばれる。BGSの周波数シフト及びスペクトル線幅は、それぞれブリルアン周波数シフト(BFS:Brillouin Frequency Shift)及びブリルアン線幅と呼ばれる。BFS及びブリルアン線幅は、光ファイバの材質および入射光波長によって異なる。例えば、石英系のシングルモード光ファイバの場合、波長1.55μmにおけるBFSの大きさ及びブリルアン線幅は、それぞれ約11GHz及び約30MHzとなることが報告されている。また、非特許文献1からシングルモードファイバ中の歪み、温度の変化に伴うBFSの大きさは波長1.55μmにおいて、それぞれ0.049MHz/με、1.0MHz/℃である。
【0005】
ここで、BFSは歪みと温度に対して依存性を持つため、BOTDRは橋梁やトンネルなどに代表される大型建造物や、地滑りが発生する恐れのある箇所などの監視目的で利用可能として注目されている。
【0006】
BOTDRは、光ファイバ中で発生する自然ブリルアン散乱光のスペクトル波形を測定するため、別途用意した参照光とのヘテロダイン検波を行うのが一般的である。自然ブリルアン散乱光の強度はレイリー散乱光の強度に比べて2〜3桁小さい。このため、ヘテロダイン検波は最小受光感度を向上させる上でも有用となる。
【0007】
ここで、自然ブリルアン散乱光は非常に微弱なため、ヘテロダイン検波を適用しても十分な信号雑音比(S/N)を確保できない。その結果、S/N改善のための平均化処理が必要となる。BOTDRを行う従来の光ファイバ歪み測定装置では、時間、振幅及び周波数の3次元の情報を取得しているが、平均化処理とこの3次元情報の取得のため、測定時間の短縮が難しい。
【0008】
これに対し、光の周波数変化をコヒーレント検波により与えられるビート信号の位相差として測定することにより、時間及び位相の2次元の情報を取得する、自然ブリルアン散乱光を用いた、光ファイバ歪み測定装置及び光ファイバ歪み測定方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
この特許文献1に開示されている光ファイバ歪み測定装置及び光ファイバ歪み測定方法によれば、自己遅延ヘテロダイン型のBOTDR(SDH−BOTDR:Self−Delayed Heterodyne BOTDR)の技術を用いて、光の周波数変化をコヒーレント検波により与えられるビート信号の位相差として測定することにより、時間及び位相の2次元の情報を取得する。このSDH−BOTDRでは、周波数掃引を必要としないため、3次元の情報の取得が必要な従来技術に比べて、測定時間が短縮される。
【0010】
ここで、BOTDRに限らずブリルアン散乱を用いた分布型光ファイバセンシングでは、上述のように、歪み及び温度の両方に対してBFSが生じる。従って、歪みと温度を区別することは必須の課題である。この課題に対して、光ファイバ中の後方ブリルアン散乱係数の、歪み依存係数及び温度依存係数を利用した方法が提案されている(例えば、非特許文献2又は3参照)。
【0011】
SDH−BOTDRにおいて、歪みと温度を区別する技術として、光ファイバ歪み及び温度測定装置並びに光ファイバ歪み及び温度測定方法の提案もなされている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2016−191659号公報
【特許文献2】特開2017−156289号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】T.Kurashima et al.,“Brillouin Optical−fiber time domain reflectometry”,IEICE Trans. Commun., vol.E76−B, no.4, pp.382−390 (1993)
【非特許文献2】T.R.Parker et al.,“Simultaneous distributed measurement of strain and temperature from noise−initiated Brillouin scattering in optical fibers”,IEEE J.Quantum Electron., vol.34, No.4, pp.645−659 (1998)
【非特許文献3】Y.Sakairi et al.,“Asystem for measuring temperature and strain separately by BOTDR and OTDR”, Proceedings of SPIE, vol.4920, pp.274−284 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ここで、ホモダイン干渉計による測定は、特許文献2等に開示されているヘテロダイン干渉計による測定と比べて、3dBの信号雑音比(S/N)の改善効果を望める。また、ホモダイン干渉計では、周波数シフタ等のデバイスも削減できるため、装置の小型化、低コスト化にも有効である。
【0015】
しかしながら、ホモダイン干渉計から出力される信号は直流(DC)成分であり、BFSの周波数変化が強度変化として直接観測される。このため、ホモダイン干渉計では、ブリルアン散乱光自身の強度情報を取得することができない。従って、特許文献2に開示されている光ファイバ歪み及び温度測定装置並びに光ファイバ歪み及び温度測定方法は、ヘテロダイン干渉計において有効な技術であり、ホモダイン干渉計には、適用できない。
【0016】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものである。この発明の目的は、ホモダイン干渉計を用いたBOTDRにおいて、歪みと温度変化を分離して取得することが可能な、光ファイバ歪み及び温度測定装置並びに光ファイバ歪み及び温度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した目的を達成するために、この発明の光ファイバ歪み及び温度測定装置は、光源部と、分岐部と、干渉信号取得部と、散乱光強度取得部と、信号処理部とを備えて構成される。
【0018】
光源部は、プローブ光を生成する。分岐部は、プローブ光により測定対象となる光ファイバで発生する後方ブリルアン散乱光を、2分岐する。干渉信号取得部は、分岐部で2分岐された一方の散乱光が入力されて自己遅延型のホモダイン干渉により干渉信号を生成する。散乱光強度取得部は、分岐部で2分岐された他方の散乱光が入力されて、散乱光の強度を取得する。信号処理部は、干渉信号の強度から取得した周波数シフト量と、散乱光の強度から歪みδε及び温度変化δTを分離して取得する。ここで、干渉信号取得部では、2分岐された一方の散乱光の位相を変化させることができる。
【0019】
この光ファイバ歪み及び温度測定装置の好適実施形態によれば、信号処理部は、周波数シフト量δν及び強度δP/Pと、予め求めておいた、光ファイバ中の後方ブリルアン散乱の周波数シフトの歪み依存係数Cνε、温度依存係数CνT、並びに、後方ブリルアン散乱の散乱係数の、歪み依存係数CPε及び温度依存係数CPTとから、以下の2元連立方程式(1)を解くことにより、光ファイバ中の歪みδεと温度変化δTを取得する。ただし、被測定ファイバ中の伝送損失は無視するものとする。
【0020】
【数1】
【0021】
また、この発明の光ファイバ歪み及び温度測定方法は、以下の過程を備えて構成される。
【0022】
先ず、プローブ光を生成する。次に、プローブ光により測定対象となる光ファイバで発生する後方ブリルアン散乱光を2分岐する。次に、2分岐された一方の散乱光を第1光路及び第2光路に2分岐する。第1光路を伝搬する散乱光に遅延を与えた後、第1光路及び第2光路を伝播する散乱光を合波して干渉光を生成する。次に、干渉光を光電変換することにより電気信号である干渉信号を生成し、干渉信号の強度から周波数シフト量を取得する。また、後方ブリルアン散乱光が2分岐された他方の散乱光から、散乱光強度を取得する。次に、周波数シフト量及び散乱光強度から歪みδε及び温度変化δTを分離して取得する。
【0023】
この光ファイバ歪み及び温度測定方法の実施に当たり、好適には、歪みδε及び温度変化δTを、周波数シフト量δν及び強度δP/Pと、予め求めておいた、光ファイバ中の後方ブリルアン散乱の周波数シフトの歪み依存係数Cνε、温度依存係数CνT、並びに、後方ブリルアン散乱の散乱係数の、歪み依存係数CPε及び温度依存係数CPTとから、上記2元連立方程式(1)を解くことにより取得する。
【発明の効果】
【0024】
この発明の光ファイバ歪み及び温度測定装置並びに光ファイバ歪み及び温度測定方法によれば、ホモダイン干渉計を用いて光の周波数変化を位相差として測定することにより、時間及び位相の2次元の情報を取得する。このため、3次元の情報の取得が必要な従来技術に比べて、測定時間が短縮される。また、周波数シフト量と散乱光強度から、歪みと温度変化を分離して取得することができる。
【0025】
また、ホモダイン干渉計を用いることで、ヘテロダイン干渉計を用いる場合に比べて、S/Nの改善が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】光ファイバ歪み及び温度測定装置の基本構成の模式的なブロック図である。
図2】ホモダイン干渉計の模式図である。
図3】光ファイバ歪み及び温度測定装置で行われる規格化を説明する模式図である。
図4】光ファイバに与えた歪み変化及び温度変化を示す図である。
図5】ホモダイン干渉により得られた、周波数シフト量を示す図である。
図6】δP/Pを示す図である。
図7】分離後のδεを示す図である。
図8】分離後のδTを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各図は、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0028】
(原理)
先ず、この発明の歪み及び温度の測定原理について簡単に説明する。
【0029】
後方ブリルアン散乱では、周波数シフトだけでなく、その散乱係数も温度依存性、及び、歪み依存性を有することが報告されている。BFSの歪み依存係数及び温度依存係数をそれぞれCνε及びCνTとし、ブリルアン散乱係数の歪み依存係数及び温度依存係数をそれぞれCPε及びCPTとして、これらの係数を予め測定しておけば、次式で示す2元連立方程式(a)を解くことによって歪みと温度の分離が可能となる。
【0030】
【数2】
【0031】
ここで、δνはBFSの大きさであり、δP/Pは、ブリルアン散乱強度の相対変化である。これら、δνB及びδP/Pは、BOTDRで測定される値である。また、δε及びδTは、それぞれ、歪み及び温度の変化量である。
【0032】
しかし、自己遅延型のホモダイン干渉計を用いると、自己遅延型のヘテロダイン干渉計を用いる場合と同様に、BFSに起因する位相差だけでなく、ブリルアン散乱係数の変化に伴う強度変化も位相差として捉えてしまう。すなわち、ホモダイン干渉計で観測される周波数シフトには、BFSの歪み依存係数Cνε及び温度依存係数CνTだけでなく、ブリルアン散乱係数の歪み及び温度の変化に起因する変化分が重畳されている。このため、2元連立方程式(a)は、上記式(1)となる。
【0033】
ホモダイン干渉計の干渉信号から得られたδνとδP/Pと、予め取得しておいた各係数を用いて、上記式(1)の2元連立方程式を解くことにより、δε及びδTを取得することができる。
【0034】
上記式(1)の2元連立方程式を解くと、δε及びδTは、それぞれ以下の式(2)で与えられる。
【0035】
【数3】
【0036】
(構成例)
図1を参照して、この発明の、光ファイバ歪み及び温度測定装置を説明する。図1は、この発明の、光ファイバ歪み及び温度測定装置(以下、単に測定装置とも称する。)の構成例を示す模式図である。
【0037】
測定装置は、光源部10、光サーキュレータ20、光増幅器30、光バンドパスフィルタ32、分岐部34、干渉信号取得部40、散乱光強度取得部70、信号処理部80及びタイミング制御器90を備えて構成される。
【0038】
光源部10は、プローブ光を生成する。光源部10は、連続光を生成する光源12と、連続光から光パルスを生成する光パルス発生器14を備えて構成される。
【0039】
ここで、測定装置は、周波数変化に応じた位相差を測定する。このため、光源12の周波数揺らぎ及び周波数スペクトル線幅(以下、単に線幅とも称する。)は、ブリルアンシフトよりも十分に小さくなければならない。そこで、光源12として周波数安定化狭線幅光源が用いられる。例えば、測定対象となる光ファイバ(以下、被測定光ファイバとも称する。)100の歪みを0.008%としたとき、ブリルアンシフトは4MHzに相当する。このため、0.008%程度の歪みを測定するには、光源12の周波数揺らぎ及び線幅は4MHzより十分に小さく、数10kHz以下であることが望ましい。なお、周波数揺らぎ及び線幅が10kHz程度若しくはそれ以下の狭線幅レーザが、既製品として一般に入手可能である。
【0040】
光パルス発生器14は、任意好適な従来周知の、音響光学(AO:Acoust Optical)変調器又は電気光学(EO:Electric Optical)変調器を用いて構成される。光パルス発生器14は、タイミング制御器90で生成された電気パルスに応じて、連続光から光パルスを生成する。この光パルスの繰り返し周期は、被測定光ファイバ100を光パルスが往復するのに要する時間よりも長く設定される。この光パルスが、プローブ光として、光源部10から出力される。
【0041】
この光源部10から出力されたプローブ光は、光サーキュレータ20を経て、被測定光ファイバ100に入射される。なお、光サーキュレータ20に換えて、光カプラを用いても良い。
【0042】
被測定光ファイバ100からの後方散乱光は、光サーキュレータ20を経て、例えば、エルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)などで構成される光増幅器30に送られる。光増幅器30で増幅された後方散乱光は、光バンドパスフィルタ32に送られる。光バンドパスフィルタ32は、10GHz程度の透過帯域を有しており、後方散乱光のうち自然ブリルアン散乱光のみを透過する。この自然ブリルアン散乱光は、分岐部34に送られる。
【0043】
分岐部34は、自然ブリルアン散乱光を2分岐して、一方を干渉信号取得部40に送り、他方を散乱光強度取得部70に送る。
【0044】
干渉信号取得部40は、自己遅延型のホモダイン干渉計50と、干渉光受光部60を備えて構成される。
【0045】
自己遅延型のホモダイン干渉計50は、干渉計分岐部52、遅延調整部54及び干渉計合波部56を備えて構成される。ホモダイン干渉計50に送られた自然ブリルアン散乱光は、干渉計分岐部52で第1光路及び第2光路に2分岐される。第1光路には遅延調整部54が設けられている。第1光路に送られた光は遅延調整部54を経て干渉計合波部56に送られる。第2光路に送られた光はそのまま干渉計合波部56に送られる。
【0046】
干渉計合波部56は、第1光路及び第2光路を経て受け取った光を合波して干渉光を生成し、この干渉光を干渉光受光部60に送る。
【0047】
干渉光受光部60は、バランスフォトダイオード(PD)62及びFET増幅器64で構成される。干渉光は、バランスPD62で電気信号に変換された後、FET増幅器64で増幅される。増幅された電気信号は信号処理部80に送られる。
【0048】
散乱光強度取得部70は、強度測定用遅延路72、及び、散乱光受光部74を備えて構成される。分岐部34で2分岐されて散乱光強度取得部70に送られた散乱光は、強度測定用遅延路72で所定の遅延を受けた後、散乱光受光部74に送られる。散乱光受光部74は、例えば、PD76及びFET増幅器78で構成される。散乱光は、PD76で電気信号に変換された後、FET増幅器78で増幅される。増幅された電気信号は信号処理部80に送られる。
【0049】
信号処理部80では、上記式(1)の2元連立方程式を解くことにより、δε及びδTを取得する。
【0050】
ここで、偏波変動の影響を防ぐために、自己遅延型のホモダイン干渉計は、いわゆる空間結合系で構成されるのが良い。図2は、空間結合系で構成された、自己遅延型のホモダイン干渉計の模式図である。
【0051】
自己遅延型のホモダイン干渉計50は、例えば、第1及び第2のハーフミラー152及び156と、第1及び第2のミラー154及び155と、位相制御素子153を備えて構成される。
【0052】
第1のハーフミラー152、第1のミラー154、第2のミラー155、及び第2のハーフミラー156は、例えば長方形の頂点に配置される。第1のハーフミラー152に入力された光は、第1のハーフミラー152で2分岐される。2分岐された一方は、第2のハーフミラー156に送られ、他方は、第1のミラー154、及び、第2のミラー155を経て、第2のハーフミラー156に送られる。第2のハーフミラー156に入力された光は、干渉光受光部60に送られる。
【0053】
また、位相制御素子153は、第1のハーフミラー152、第1のミラー154、第2のミラー155及び第2のハーフミラー156を結ぶ光路上に設けられる。
【0054】
この場合、第1のハーフミラー152が干渉計分岐部52として、また、第2のハーフミラー156が干渉計合波部56として機能する。また、第1のミラー154、第2のミラー155及び位相制御素子153が、遅延調整部54として機能する。
【0055】
第1のハーフミラー152及び第2のハーフミラー156を結ぶ辺を第1の辺とし、第1のミラー154及び第2のミラー155を結ぶ辺を第2の辺とするとき、第2の辺を第1の辺に直交する方向に移動させることで、第1光路を伝播する光の光路長、すなわち、遅延量が変わる。また、位相制御素子153は、例えば、信号処理部80からの電気信号により位相、すなわち、微小な遅延量が変わる。
【0056】
ここで、ホモダイン検波後の信号はDC信号であり、位相変化量の基準となる初期位相が分からない。このため、BFSが生じている区間(図3(A)中、IIで示す区間)の強度をみたときに、BFSが生じていない参照区間(図3(A)中、Iで示す区間)の強度に対し、その大きさや変化の方向が定まらない。従って、周波数シフト量を算出するためには、規格化処理が必要となる。この規格化処理は例えば以下のように行われる。
【0057】
先ず、位相制御素子153の電圧を、位相が0から2πまで掃引するように変化させ、BFSが生じていない参照区間の平均強度を測定し、平均強度の最小値(Min)と最大値(Max)を取得する(図3(B)参照)。
【0058】
次に、参照区間の平均強度が、取得した最小値と最大値の中間値(Mid=(Max+Min)/2)になるように位相制御素子153に印加する電圧を調整する。
【0059】
BFSが生じた区間の強度Pを以下の式で規格化する。
【0060】
=(I−Mid)/(Max−Min)
は、規格化後の強度を示す。この規格化後の強度Pから、BFSの周波数シフト量を得ることができる。
【0061】
ここで、Pの絶対値が、歪み又は温度変化による周波数シフトの大きさを示す。また、Pの符号により、歪みが圧縮方向であるか引張り方向であるか、または、温度変化が上昇方向か低下方向であるかがわかる。
【0062】
また、ここでは、参照区間の平均強度を中間値としたが、これに限定されない。平均強度は、最小値と最大値の間の任意好適な値に設定することができる。
【0063】
例えば、温度変化に着目し、参照区間の平均強度を中間値とした場合に、−250℃〜+250℃の範囲の温度変化を測定できるのであれば、参照区間の平均強度を中間値より低くすることで、例えば、−100℃〜+400℃の範囲の温度変化を測定可能に設定できる。また、Max−Minは、500℃の温度範囲に対応する。
【0064】
図4〜8を参照して、光ファイバに歪み変化及び温度変化を与えたときの周波数シフトについて説明する。
【0065】
図4は、光ファイバに与えた歪み変化及び温度変化を示す図である。図4では、横軸に光ファイバにおける位置[単位:m]を取って示し、縦軸に歪み変化[単位:με]及び温度変化[単位:℃]を取って示している。ここでは、光ファイバの長さを1kmとし、光ファイバ歪み及び温度測定装置側の端部から300〜320mの区間と940〜960mの区間に、200μεの歪みを付与し、620〜640mの区間と940〜960mの区間に、20℃の温度変化を付与した場合について考える。
【0066】
ここでは、BFSの歪み依存係数Cνεを0.049MHz/μεとし、温度依存係数CνTを1.0MHz/℃としている。また、ブリルアン散乱係数の歪み依存係数CPεを、−7.7×10−4%/℃とし、温度依存係数CPTを0.36%/℃としている。
【0067】
図5は、ホモダイン検波を施すことにより得られた、周波数シフト量δνを示す図である。図5では、横軸に光ファイバにおける位置[単位:m]を取って示し、縦軸に周波数シフト量δν[単位:MHz]を取って示している。
【0068】
図6は、散乱光強度取得部70が取得する、δP/Pを示す図である。図6では、横軸に光ファイバにおける位置[単位:m]を取って示し、縦軸にδP/P[単位:%]を取って示している。
【0069】
信号処理部80では、干渉信号取得部40から得られたδνと散乱光強度取得部70から得られたδP/Pと、予め取得しておいた各係数を用いて、上記式(1)の2元連立方程式を解くことにより、δε及びδTを取得する。
【0070】
図5に示すδνと、図6に示すδP/Pから、上記式(2)により、歪みδε及び温度変化δTが分離されて求められる。
【0071】
図7は、分離後のδεを示す図である。図7では、横軸に光ファイバにおける位置[単位:m]を取って示し、縦軸にδε[単位:με]を取って示している。また、図8は、分離後のδTを示す図である。図8では、横軸に光ファイバにおける位置[単位:m]を取って示し、縦軸にδT[単位:℃]を取って示している。
【0072】
上述したように、自己遅延型のホモダイン干渉計を用いた測定装置及び測定方法により、δε及びδTをそれぞれ分離して取得することができる。
【符号の説明】
【0073】
10 光源部
12 光源
14 光パルス発生器
20 光サーキュレータ
30 光増幅器
32 光バンドパスフィルタ
34 分岐部
40 干渉信号取得部
50 自己遅延型のホモダイン干渉計
52 干渉計分岐部
54 遅延調整部
56 干渉計合波部
60 干渉光受光部
62 バランスPD
64、78 FET増幅器
70 散乱光強度取得部
72 強度測定用遅延路
74 散乱光受光部
76 PD
80 信号処理部
90 タイミング制御器
100 被測定光ファイバ
152、156 ハーフミラー
153 位相制御素子
154、155 ミラー
【要約】
【課題】自己遅延型のホモダイン干渉計を用いて、歪みと温度を分離して取得する。
【解決手段】光源部と、分岐部と、干渉信号取得部と、散乱光強度取得部と、信号処理部とを備えて構成される。光源部は、プローブ光を生成する。分岐部は、プローブ光により測定対象となる光ファイバで発生する後方ブリルアン散乱光を、2分岐する。干渉信号取得部は、分岐部で2分岐された一方の散乱光が入力されて自己遅延型のホモダイン干渉により干渉信号を生成する。散乱光強度取得部は、分岐部で2分岐された他方の散乱光が入力されて、散乱光の強度を取得する。信号処理部は、干渉信号の強度から取得した周波数シフト量と、散乱光の強度から歪みδε及び温度変化δTを分離して取得する。ここで、干渉信号取得部では、2分岐された一方の散乱光の位相を変化させることができる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8