【実施例1】
【0042】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。この発明では、SnとSbからなるSn系はんだ合金を核表面にめっき被膜した核材料において、はんだめっき層中のSbの分布が均質となされた核材料およびこれを使用したはんだ継手を提供するものである。
【0043】
本発明のはんだめっき層の組成は、SnとSbを含有する(Sn−Sb)系合金からなる。Sbの含有量については、合金全体に対してのSb量が0.1〜30.0質量%の範囲であれば、Sbの濃度比率を70.0〜125.0%の所定範囲内で制御することができ、はんだめっき層中のSb分布を均質にできる。
【0044】
例えば、(Sn−5Sb)系はんだ合金である場合、目標値となるSbの分布は5質量%が目標値となるが、許容範囲としては3.59質量%(濃度比率71.8%)〜5.94質量%(濃度比率118.8%)である。
【0045】
なお、許容範囲とは、この範囲内にあれば、問題なくバンプ形成等のはんだ付けを行い得る範囲をいう。また、濃度比率(%)とは目標とする含有量(質量%)に対する計測値(質量%)、あるいは目標とする含有量(質量%)に計測値の平均の値(質量%)の比率(%)をいう。すなわち、濃度比率(%)は、
濃度比率(%)=(計測値(質量%)/目標とする含有量(質量%))×100
あるいは、
濃度比率(%)=(計測値の平均の値(質量%)/目標とする含有量(質量%))×100
として表することができる。
【0046】
また、Sn,Sbからなる二元のはんだめっき層中にはそれ以外の添加元素を添加しても、Sbの濃度比率を70.0〜125.0%の所定範囲内で制御することができる。
【0047】
添加元素としては、Ag、Cu、Ni、Ge、Ga、In、Zn、Fe、Pb、Bi、Au、Pd、Coなどのうち一種または二種以上使用することが考えられる。
【0048】
核(コア)としては金属材料が使用される。核の形状は球体その他の形状(柱状のカラムやシート状など)が考えられる。本例では、球体であって、核として特にCuからなるボール(以下Cuボールという)を使用したCu核ボールの場合について説明する。
【0049】
Cuボールの粒径(球径)は、BGAのサイズなどによっても相違するが、以下の例では200μmφ程度の球状であり、はんだめっき層の径方向の片側の厚みは20〜100μmである。Cu核ボールの粒径は使用する電子部品の密度やサイズによって適宜選定されるもので、1〜1000μmの範囲内のCuボールを使用することができ、使用するCuボールの粒径に応じてめっき厚が適宜選定されるものである。めっき処理を行うめっき装置は、電気めっき装置を使用した。
【0050】
続いて、Cuボールを使用したCu核ボール例を示す。
【0051】
図1は、本発明の一実施形態に係るCu核ボールの構成例を示す断面図、
図2は、本発明の他の実施形態に係るCu核ボールの構成例を示す断面図である。説明の都合上、図示は誇張して描いてある。
【0052】
Cu核ボール10は、
図1のように、Cuボール12と、この例ではNi下地めっき層14を介してSn系はんだ合金からなるはんだめっき層16が形成されている。Ni下地めっき層14はCuボール12とはんだめっき層16との間で金属拡散によるはんだめっき層16の組成変化を防止するための下地めっきの役割を担うもので、1〜4μm程度の厚みである。このNi下地めっき層14は必須の要件ではなく、
図2のようにCuボール12の表面に直接はんだめっき層を形成することもできる。なお、下地めっき層14を形成する場合、下地めっき層14は、Ni、Coから選択される1元素以上からなる層で構成しても良い。
【0053】
Cuボール12で使用するCuは純銅でも、銅の合金でもよい。
【0054】
Cuを主成分とする合金組成のCuボール12を使用する場合には、その純度は特に限定されないが、純度の低下によるCu核ボールの電気伝導度や熱伝導率の劣化を抑制し、また必要に応じてα線量を抑制する観点から、99.9質量%以上が好ましい。
【0055】
核としては、Cu以外にも、Ni、Ag、Bi、Pb、Al、Sn、Fe、Zn、In、Ge、Sb、Co、Mn、Au、Si、Pt、Cr、La、Mo、Nb、Pd、Ti、Zr、Mgの金属単体やこれらの二種以上の合金、金属酸化物、あるいは金属混合酸化物により構成しても良い。
【0056】
Cuボール12は、スタンドオフ高さを制御する観点から真球度が0.95以上であることが好ましく、さらに0.99以上であることがより好ましい。Cuボール12の真球度が0.95未満であると、Cuボール12が不定形状になるため、バンプ形成時に高さが不均一なバンプが形成され、接合不良が発生する可能性が高まる。さらに、Cu核ボール10を電極に搭載してリフローを行う際、真球度が低いとCu核ボール10が位置ずれを起こしてしまい、セルフアライメント性も悪化する。
【0057】
ここに、真球度とは真球からのずれを表す。真球度は、例えば、最小二乗中心法(LSC法)、最小領域中心法(MZC法)、最大内接中心法(MIC法)、最小外接中心法(MCC法)など種々の方法で求められる。詳しくは、真球度とは、500個の各Cuボールの直径を長径で割った際に算出される算術平均値であり、値が上限である1.00に近いほど真球に近いことを表す。長径の長さとは、ミツトヨ社製のウルトラクイックビジョン、ULTRA QV350−PRO測定装置によって測定された長さをいう。
【0058】
はんだめっき層16を含めたCu核ボール10全体の直径は1〜1000μmであることが好ましい。この範囲にあると、球状のCu核ボール10を安定して製造でき、また、粒径を選定することによって電極端子間が狭ピッチである場合の接続短絡を抑制することができる。
【0059】
粒径が1〜300μm程度のCu核ボール10の集合体を「Cu核パウダ」と呼称する場合がある。このCu核パウダは、はんだペースト中の粉末用はんだとして配合された状態で使用される場合がある。
【0060】
はんだめっき層16ははんだ合金であって、この例ではSnとSbからなる。この場合、前述のようにはんだめっき層16中のSb含有量は目標値の5質量%に対して許容範囲として3.59質量%(濃度比率71.8%)〜5.94質量%(濃度比率118.8%)程度が好ましい。
【0061】
はんだめっき層16は電気めっき層の一例であり、はんだめっき層16の厚みは、Cuボール12の粒径によっても相違するが径方向の片側100μm以下が好ましい。例えば、粒径が215μmφのCuボール12であるときは、50〜70μmの厚みとなるようにはんだめっき層16が形成される。十分なはんだ接合量を確保するためである。はんだめっき層を溶融めっきで形成する場合、Cuボールの粒径が小さくなると、はんだめっき層の膜厚が均一とならず、Cu核ボール中でのCuボールの偏心や、はんだめっき層表面の凹凸が大きくなり、Cu核ボールの真球度が低下する。このため、はんだめっき層16は電気めっき処理で形成される。
【0062】
めっき液としては、有機酸、Sb(III)化合物、例えば、酢酸Sb、フッ化Sb、塩化Sb、臭化Sb、ヨウ化Sb、酒石酸Sbカリウム、クエン酸Sb、硝酸Sb、酸化Sb、リン酸Sbおよび界面活性剤の混合液が使用される。めっき液にSb(III)化合物が連続して、または間欠的に供給されることで、めっき液中のSbの濃度ははんだめっき層形成中、一定となるように制御される。
【0063】
SnとSbからなるSn−Sb系はんだ合金組成のはんだめっき層を電気めっきにて形成する場合、SbがSnより優先されてはんだめっき層に取り込まれる為、電気めっき液中のSb濃度とはんだめっき層中のSb量が一致しないという問題があり、Sbの濃度分布が均質なはんだ合金めっき層を形成することはできなかった。そこで
図6の条件になるようにアノード電極とカソード電極との間に所定の直流電圧が印加されると共に、Cuボールを揺動させながら、液中のSb濃度が均一となるように調整して電気めっき処理を行う。
【0064】
この電気めっき処理によるはんだめっき層16の生成過程について
図6を参照してさらに詳細に説明する。
図6は、はんだめっき層16の厚さと、はんだめっき層16中のSb濃度(曲線L)との関係を、Cu核ボール径を基準にしたときの特性曲線図である。
【0065】
この例では、Cuボールの初期値として粒径215μmのものを使用した場合である。はんだめっき層16の厚みを逐一モニターし、この例でははんだめっき層16の厚みが所定値ずつ順次増加したときのCu核ボール10をその都度サンプルとして採集する。採集したサンプルは洗浄してから乾燥させた上で、粒径を計測する。
【0066】
計測タイミングのCu核ボールの粒径が、目的の値となっているときのはんだめっき層中のSbの含有量を順次測定すると、
図6曲線Lのような結果が得られた。この結果よりはんだめっき層16が所定の厚みだけ順次増加してもそのときのSbの含有量は、直前の含有量とほぼ同じ値となっていることが判る。曲線Lの場合にはSbの含有量はほぼ4.0〜7.0質量%となっている。従って、
図6曲線LからSbの濃度分布はめっき厚に対して均質(均等)となっており、濃度勾配が無いことが理解できる。以上のように、膜厚は均一にコントロールできる反面、濃度が不均質となってしまう電気めっきの問題点を、Sb濃度比率が所定の範囲内に収まるように、はんだめっき層16中のSb濃度をコントロールすることで、Sbが均質に分布するはんだめっき層16を有するCu核ボール10が得られる。
【0067】
図3はこのときのCu核ボール10の断面図を示す。これを拡大した
図4から明らかなように、はんだめっき層16はSnとSbが均質に混在しながら成長した過程がよく分かる。
【0068】
また、
図5はCu核ボール10の表面の拡大図である。Cu核ボール等、核材料が球体である場合、核を被覆するはんだめっき層の最表面が単一金属の状態に近いほど、結晶粒が大きくなるため、核材料の真球度は低下する傾向にある。これに対し、はんだめっき層16中のSbがほぼ均質に分布した状態であるので、はんだめっき層16の最表面が単一金属ではなく、合金状態となり、結晶粒が小さくなる。これにより、Cu核ボール10の真球度が高く、0.98以上である。Cu核ボール10の真球度が0.98以上であると、Cu核ボール10を電極に搭載してリフローを行う際、Cu核ボール10が位置ずれを起こすことが抑制され、セルフアライメント性が向上する。
【0069】
はんだめっき層16中のSbの濃度は、はんだめっき層16の厚みが成長してもほぼ同じ状態を維持していることから、はんだめっき層16中のSbはほぼ均質に分布した状態で成長(析出)していることが明らかとなった。Sb濃度が所期の値内に収まるようにめっき液中のSb濃度が均質にされた状態でめっき処理が行われる。この例では、はんだめっき層16中のSbの含有量としては5質量%を目標値としているので、目標値に到達するようにめっき液中のSb濃度が制御される。
【0070】
はんだめっき層16中のSbの濃度分布を所期値に収めるためには、電圧・電流制御を行いながらめっき処理がなされる。このようなめっき処理によってはんだめっき層16中のSbの分布を所期値に維持することができる。
【0071】
はんだめっき層16におけるSbの濃度分布が目標値に相応した値となっていることを確認するため以下のような実験を行った。
(1)下記条件にてはんだめっき層16の組成が(Sn−5Sb)となるCu核ボール10を作成した。
・Cuボール12の直径 :250μm
・Ni下地めっき層14の膜厚:2μm
・はんだめっき層16の膜厚 :23μm
・Cu核ボール10の直径 :300μm
【0072】
実験結果の測定を容易にするため、Cu核ボール10としてはその厚みが比較的薄いはんだめっき層を有するCu核ボールを作製した。
【0073】
めっき方法は電気めっき工法にて
図6の条件となるように作製した。
(2)試料としては、同一組成の(Sn−5Sb)系はんだ合金のはんだめっき層が形成されたCu核ボール10を10個用意した。これらを試料Aとして使用した。
(3)それぞれの試料A1〜A10を樹脂で封止する。
(4)封止した各試料A1〜A10を、樹脂ごと研磨して各試料A1〜A10の断面を観察する。観察機材は日本電子製のFE−EPMAJXA−8530Fを使用した。
【0074】
試料A1の断面図を
図7に示す。はんだめっき層16のうちCuボール12の表面側から便宜上内層16a、中間層16bおよび外層16cに分ける。内層16aはCuボール12の表面から9μmまで、中間層16bは9〜17μmまで、そして外層16cは17〜23μmとし、内層16a、中間層16bおよび外層16cより、
図7のようにこの例では厚み5μmで幅が40μmの内層領域17a、中間層領域17b、外層領域17cをそれぞれ切り取り、各領域を計測領域として、定性分析によりSbの濃度の計測を行った。この作業を計10視野ずつ各内層16a、中間層16bおよび外層16cについて行った。
【0075】
その結果を纏めたものが表1である。この表1によれば、内層、中間層、外層において最小値4.25質量%(濃度比率85.1%)、最大値6.20質量%(濃度比率124.0%)の範囲にあることが分かる。
【0076】
【表1】
【0077】
試料A(A1〜A10)は、目標とするSbの含有量(目標値)が5(質量%)である。そこで、表1中の試料A1〜A10の濃度比率(%)は、以下の(1)式で求められる。
濃度比率(%)=(計測値/5)×100・・・(1)
【0078】
そして試料A1〜A10の算術平均を算出した結果、
内層領域17a=4.79(質量%)(濃度比率95.8%)
中間層領域17b=5.12(質量%)(濃度比率102.4%)
外層領域17c=4.82(質量%)(濃度比率96.5%)
となった。
【0079】
また、内層、中間層、外層の各領域17a〜17cをこのように算術平均でははんだめっき層中のSbは上記の3.59質量%〜5.94質量%の許容範囲内にあるために、ほぼ目標値のSbの濃度比率となっていることが分かる。
【0080】
このような計測作業を試料A(A1〜A10)とは別に作成した試料B〜Dについても同様に行い、その結果を表2に示す。試料B〜Dは、試料Aと同様に、同一組成の(Sn−5Sb)系はんだ合金のはんだめっき層が形成されたCu核ボール10を例えば10個用意したものを使用した。
【0081】
【表2】
【0082】
試料A〜Dは、目標とするSbの含有量(目標値)が5(質量%)である。そこで、表2中の試料A〜Dの濃度比率(%)は、以下の(2)式で求められる。
濃度比率(%)=(計測値の平均値/5)×100・・・(2)
【0083】
表2の結果から分かることは、多少のばらつきはあるものの、はんだめっき層16中のSb濃度は目標値の3.59〜5.94質量%に収まっていることがわかる。
【0084】
そしてこれらの試料A(A1〜A10)、及び、試料B〜Dと同じロットで製造したCu核ボールそれぞれ10個(例)を抽出し、それぞれを基板に通常のリフロー処理により接合した。接合結果も併せて表2に示す。
【0085】
接合結果については、全てのサンプルにて一切の接合不良が測定されなかったものを「良」、1つのサンプルでも接合時に位置ずれが発生したもの、及び1つのサンプルでも接合時にCu核ボール10がはじけ飛ばされたものを「不良」と判定した。
【0086】
いずれも内周側が外周側より早めに溶融して、内周側と外周側とで体積膨張差が生じてCu核ボール10がはじき飛ばされるような事態は、発生せず、またはんだめっき層16全体がほぼ均一に溶融するから、溶融タイミングのずれによって発生すると思われる核材料の位置ずれは生じていないので、位置ずれなどに伴う電極間の短絡などのおそれはない。よって接合不良は一切発生しない良好な結果が得られた為、「良」と判定した。
【0087】
上述したように、(Sn−5Sb)系はんだ合金である場合、表1及び表2の結果から、3.59質量%(濃度比率71.8%)〜6.20質量%(濃度比率124.0%)の範囲まで許容できることがわかり、3.59質量%(濃度比率71.8%)〜5.94質量%(濃度比率118.8%)の範囲が、より好ましい許容できる範囲であることがわかった。