(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1では焼結時の加圧力に関して一切言及されていない。ハイブリッドAgペーストを用いただけでは気孔率の低減には限界がある。また、特許文献1に記載の発明は電気抵抗値を低減するために接着剤をペースト中に含有させないことを目的とするため、ヒートサイクル耐性および放熱性の各々の特性を向上させるための検討が十分であるとは言い難い。
【0010】
特許文献2に記載の発明は、前述のように、室温で加圧した後に無加圧で焼結するために切欠きの発生が抑制されるとされている。しかし、特許文献2では、加圧時の加圧方法に関して、焼結前での被接合部材の押込量が規定されているだけである。焼結前では室温で加圧しているものの、その後無加圧で焼結をしているために十分に気孔率を低減することができず、ヒートサイクル耐性および放熱性を十分に向上させることができない。
【0011】
また、両文献に記載の発明において、仮にICや基板が劣化しない程度に加圧しながら焼結すれば気孔率が若干低減すると思われる。しかし、パワーデバイスの小型化および動作温度の上昇が進むにつれて、気孔率が若干低減する程度で高いヒートサイクル耐性および放熱性の要求に対応することは困難である。
【0012】
そこで、本発明の課題は、ヒートサイクル耐性および放熱性に優れる金属焼結接合体、およびダイ接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ヒートサイクル耐性および放熱性の両立を図るために鋭意検討を行った。ヒートサイクル耐性に関しては、サイクル数の増加に伴いクラックの伸展がダイの角部から発生するため、ダイ角部のヒートサイクル耐性を向上させる点に着目した。また、放熱性に関しては、通常ダイの中央部にICが設けられるために当該部分が最も高温になることから、ダイの中央部を効率よく放熱させる点に着目した。
【0014】
そして、従来では、ダイと基板を接合するため、例えば特許文献2の図に示すように均一な組織を有する金属焼結接合体が検討されてきた。しかし、本発明者らは、ヒートサイクル特性および放熱性を両立させるためには、金属焼結接合体の組織が従来のように均一であってはならないと想定し、敢えて、金属焼結接合体を不均一な組織にすることを着想して、さらに検討を行った。本発明者らは、金属焼結接合体のダイ中央部に対応する領域および金属焼結体のダイ角部に対応する領域の気孔率を低減させることによって、ヒートサイクル耐性および放熱性の向上を同時に実現できることに思い至った。
【0015】
このような金属焼結接合体は、単に、従来のように焼結前もしくは焼結中に圧力を加えただけでは得られない。例えば特許文献2の
図5および
図6には超音波顕微鏡により焼結体を観察した写真が示されている。仮に気孔率にバラツキがあるならばこれらの写真に現れているはずであるが、気孔率のばらつきを観察することはできない。したがって、基板に塗布したペーストを単に加圧しただけでは所望の気孔率の分布を得ることができない。
【0016】
本発明者らは、更に検討を進めた結果、ペーストの加圧時におけるペーストの挙動に着目した。通常、ペーストは粉末と溶剤で構成されるため、加圧により粉末と溶剤が同時に流動すると思われる。ただ、加圧条件によっては、溶剤が粒子から分離して溶剤のみが外部に押し出される。そこで、本発明者らは、粉末と溶剤が同時に流動する条件を詳細に調査した。
【0017】
その結果、ペーストをダイと略同一の面積および略同一形状である矩形状に塗布して加圧すると、4辺の近傍からペーストがはみ出してその周辺で気孔率が高くなり、角部および中央部では相対的に気孔率が低くなるため、矩形状領域の対角線を中心線とする帯状領域の気孔率が低くなる。これとともに、矩形状領域の対角線を中心線とする帯状領域の気孔率が低くなる知見も得られた。本発明者らは、これらの知見に基づいて加圧時の種々の条件を更に検討した結果、押込量と加圧速度が所定の条件の場合、上述のように所望の気孔率の分布を有する金属焼結接合体を得る知見が得られた。
【0018】
また、特許文献2に記載の発明のように、ダイより広い範囲にペーストを塗布し、その後にダイをペーストに押し込んだとしても、上記気孔率を示さない知見も得られた。
【0019】
上記のように気孔率の分布を示す現象は、ペーストがある程度の流動性を有する状態で発現する。このため、従来ではよく行われているように、焼結前に有機溶媒を揮発させる工程を行う場合には発現しない。また、ペーストを塗布した後、気孔率を低くしたい部分に別途ペーストを塗布して金属焼結接合体に密度勾配を形成することによっても、ダイと対向する矩形状領域の対角線を中心線とする帯状領域であって、少なくとも矩形状領域の中央部および角部の気孔率が低くなる知見が得られた。
【0020】
これらの知見により得られた本発明は次の通りである。
(1)基板とダイを接合する金属焼結接合体であって、金属焼結接合体がダイと対向する矩形状領域の少なくとも中央部および角部は、矩形状領域の平均気孔率より低い低気孔率領域を有し、低気孔率領域は、矩形状領域の対角線を中心線とする帯状領域内に位置することを特徴とする金属焼結接合体。
【0021】
(2)帯状領域の幅は、ダイの1辺の長さの3〜30%である、上記(1)に記載の金属焼結接合体。
【0022】
(3)低気孔率領域が主として中央部を占有する、上記(1)または上記(2)に記載の金属焼結接合体。
【0023】
(4)低気孔率領域が主として角部を占有する、上記(1)または上記(2)に記載の金属焼結接合体。
【0024】
(5)低気孔率領域が帯状領域に均一に存在する、上記(1)または上記(2)に記載の金属焼結接合体。
【0025】
(6)矩形状領域の面積に対する低気孔率領域の面積率は15%以上である、上記(1)〜上記(5)のいずれか1項に記載の金属焼結接合体。
【0026】
(7)帯状領域の面積に対する低気孔率領域の面積率は60%以上である、上記(1)〜上記(6)のいずれか1項に記載の金属焼結接合体。
【0027】
(8)低気孔率領域の気孔率は、矩形状領域の平均気孔率に対して70%以下である、上記(1)〜上記(7)のいずれか1項に記載の金属焼結接合体。
【0028】
(9)基板に
ペーストを塗布して焼結することにより得られた上記(1)〜上記(8)のいずれか1項に記載の金属焼結接合体を介してダイを基板に接合するダイ接合方法において、基板の塗布面であってダイと対向する矩形状領域に、ペーストの塗布面積がダイの面積の±0.4%となるようにペーストを矩形状に塗布する塗布工程と、ダイを塗布後のペースト上に載置する載置工程と、塗布後のペーストを、加圧速度が1μm/s以上であり、ダイをペーストに押し込む押込量がペーストの塗布厚に対して10〜60%となるように、ダイで加圧する加圧工程と、加圧工程後のペーストを3MPa以下の加圧力、および180〜350℃の加熱温度で焼結する焼結工程とを備えることを特徴とするダイ接合方法。
【0029】
(10)塗布工程後であって載置工程前に、矩形状領域の中央部および角部に更にペーストを上塗りする上塗り塗布工程を備える、上記(9)に記載のダイ接合方法。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の例示として本発明を実施するための形態を以下に詳述する。
1.金属焼結接合体
(1)基板およびダイ
本発明に係る金属焼結接合体(以下、適宜、「接合体」と称する。)は、基板とダイとを接合する。本発明において、「ダイ」は例えばSiなどの通常用いられている材質である。電子部品である。「基板」としてはその表面に後述するペーストを塗布することが可能であれば特に限定されない。例えば酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、酸化チタン、窒化チタンまたはこれらの混合物を含むセラミック基板、Cu、Fe、Ni、Cr、Al、Ag、Au、Tiを含む金属基板、ガラスエポキシ基板、BTレジン基板、ガラス基板、樹脂基板、紙等が挙げられる。
【0032】
また、これらの基板上には、ペーストとの親和性を向上させるために、AgやCu、Ni、Auメッキが施されていてもよい。メッキの膜厚は50nm〜50μmであることが好ましい。
【0033】
(2)金属焼結接合体がダイと対向する矩形状領域
本発明に係る金属焼結接合体は、後述するように、ダイと対向する矩形状領域において特徴を有する。これは、ダイの形状が通常矩形状であり、金属焼結接合体のダイに対向する領域でヒートサイクル耐性および放熱性を示す必要があるためである。本発明では、角部が面取りされているような場合や、角度が90°から若干ずれていてもよい。また、本発明において、「矩形」とは平面視で長方形および正方形を包含する。
【0034】
(3)矩形状領域の少なくとも中央部および角部は矩形状領域の平均気孔率より低い低気孔率領域を有する。
【0035】
本発明に係る金属焼結接合体は、ヒートサイクル耐性および放熱性を向上させる観点から、ダイと対向する矩形状領域において少なくとも中央部および角部の気孔率が接合体における矩形状領域の平均気孔率よりも低い低気孔率領域を有する。ヒートサイクル耐性の測定では、主にダイの角部に加わる応力に起因して接合体にクラックが伸展する。このため、ダイの角部に対向する領域の気孔率を低減させることによって、最もクラックが伸展しやすい部分の接合強度が向上し、ヒートサイクル耐性が向上する。
【0036】
また、放熱性に関して、ダイに設けられたパワーデバイスのほとんどはダイの中央部に配線が集中するため、駆動時に中央部が最も高温になる。そして、ダイの熱は接合体を介して基板の面方向に放射状に伝導する。このため、接合体において、ダイの中央部に対応する接合体中央部の放熱性を向上させることが放熱性を向上させるための有効な手段である。
【0037】
そこで、従来では接合体の気孔率が均一になるようにしていたのに対して、本発明に係る金属焼結接合体では、敢えて、ダイに対向する矩形状領域であって、矩形状領域の少なくとも中央部と角部に低気孔率領域を設けることによって、従来では成しえなかった高いヒートサイクル耐性と放熱性の両立を実現することができたのである。
【0038】
本発明において、「中央部」とは、金属焼結接合体がダイと対向する矩形状領域において、対角線が交差する点を中心として、その中心点からの距離がダイの1辺の長さの30%以内の領域を表す。また、同様に、「角部」とは、金属焼結接合体がダイと対向する矩形状領域において、頂点からの距離がダイの1辺の長さの30%以内の領域を表す。なお、本発明における低気孔率領域は後述する帯状領域内に位置すればよいため、上記「中央部」および「角部」の全体を低気孔率領域とする必要はなく、各々の少なくとも一部分が低気孔率領域であればよい。
【0039】
本発明において、低気孔率領域の気孔率は、SEMもしくは光学顕微鏡によって、金属焼結接合体の1200倍の断面写真を撮影し、金属部分と気孔部分を同定し、直線を縦横等間隔に10本ずつ、合計で20本引き、各線と気孔が重なる部分の長さの合計を各線の長さで除した割合を計算することにより求めることができる。なお、低気孔率領域は、SEMもしくは光学顕微鏡のいずれも、濃い色で視覚的に区別することができる。
【0040】
また、本発明において、接合体における矩形状領域の平均気孔率は以下のように求めることができる。まず、接合体の35倍以上のX線平面写真を撮影し、接合体の1辺の長さが200mmになるように印刷する。印刷した画像に線引きし、1辺が2mmの正方形の方眼を形成する。そして、低気孔率領域とそれ以外の領域(以下、適宜、「高気孔率領域」と称することがある。)を方眼の升目に沿って切り分ける。1つの升目に低気孔率領域と高気孔率領域とが含まれる場合には、方眼の升目を2等分する。
【0041】
このようにして得られた面積から、矩形状領域の面積に対する低気孔率領域の面積の割合である低気孔率領域の面積率、および矩形状領域の面積に対する高気孔率領域の面積の割合である高気孔率領域の面積率を算出する。その後、低気孔率領域の面積率と低気孔率領域の気孔率を乗じ、高気孔率領域の面積率と高気孔率領域の気孔率を乗じ、各々の合計を算出することにより矩形状領域の平均気孔率を求めることができる。なお、高気孔率領域の気孔率では、高気孔率領域において、低気孔率領域の気孔率と同様の手法で求めることができる。
【0042】
(4)低気孔率領域の気孔率:20%以下
本発明では、低気孔率領域の気孔率が低いほど、ヒートサイクル耐性および放熱性が向上するため、気孔率が低いほど好ましい。低気孔率領域の気孔率の上限は好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、特に好ましくは12%以下である。一方、低気孔率領域の気孔率を0%にすることは現実的には困難である。低気孔率領域の気孔率の下限は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは3%以上である。
【0043】
また、同様の観点から、低気孔率領域の気孔率は、金属焼結結合体における矩形状領域の平均気孔率に対して、好ましくは70%以下であり、より好ましくは60%以下であり、特に好ましくは55%以下である。
【0044】
(5)低気孔率領域は、矩形状領域の対角線を中心線とする帯状領域内に位置する。
金属焼結接合体は、単に低気孔率領域を有するのみでは本発明の効果を発揮することができない。ヒートサイクル耐性は、低気孔率領域が一方に偏っていると向上せず、矩形状領域の全体に均一に分散して存在しても向上しない。効率的にヒートサイクル耐性を向上させるためには、低気孔率領域が金属焼結接合体の対称な領域に位置する必要がある。これによって、一対の低気孔率領域が、各々少なくとも2つの対称な角に存在することになるため、高いヒートサイクル耐性を示すことができる。そこで、本発明では、低気孔率領域は接合体の対角線を中心線とする帯状領域内に位置することを要件とする。
【0045】
なお、本発明においては、帯状領域の幅が広すぎると角部の領域が広くなるため、低気孔率領域の面積が狭い場合に低気孔率領域を対称の位置に配置することができず、所望のヒートサイクル耐性が得られない場合がある。また、帯状領域の幅が広すぎると中心部の領域が広くなるため、放熱性が向上するような位置に低気孔率領域を配置することができない場合がある。さらに帯状領域が広すぎ低気孔率領域が帯状領域のすべてを占有してしまうと、金属焼結接合体全体の強度が高くなりすぎてしまい、応力を緩和できず、ダイが破損してしまう原因になる。そこで、帯状領域の幅は、ダイの1辺の長さの3〜30%であることが望ましい。ダイが長方形の場合には、「1辺の長さ」は短辺の長さを表す。
【0046】
また、本発明では、ヒートサイクル耐性および放熱性を向上させる観点から、矩形状領域の面積に対する低気孔率領域の面積率は、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上であり、特に好ましくは20%以上である。また、同様の観点から、帯状領域の面積に対する低気孔率領域の面積率は、好ましくは6
0%以上であり、より好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。低気孔率領域の面積率は、前述のように、平均気孔率を算出する際に求めることができる。
【0047】
さらに、パワーデバイスの性能によっては、放熱性やヒートサイクル耐性のいずれかを優先的に向上させたい場合がある。そこで、放熱性を向上させたい場合には、低気孔率領域が主として中央部を占有するように位置することが望ましい。一方、ヒートサイクル耐性を向上させたい場合には、主として角部を占有するように位置することが望ましい。ここで、本発明において「主として」とは、全低気孔率領域の60%以上の面積率であることを表す。いずれかの特性を優先的に向上させる必要がない場合には、低気孔率領域が帯状領域に均一に存在していればよい。
【0048】
(6)金属粒子
本発明の金属焼結接合体は、金属ナノ粒子で構成されていてもよく、マイクロ粒子とナノ粒子とのハイブリッド粒子でもよく、また、フレーク状マイクロ粒子とナノ粒子とのハイブリッド粒子のいずれを用いてもよい。ペーストの流動性を確保する観点から、金属粒子の粒径は、接合体の厚さの1/6以下であることが望ましい。
【0049】
また、金属粒子の構成元素としては、融点が少なくともパワーデバイスの駆動温度で溶融しない温度を示す元素からなることが望ましく、例えば、Ag、Cu、Pd、Au、Pt、Ti、Ni、Al、Znなどが挙げられる。これらの中でも、汎用性の観点からAg、Cuが好ましく、これらの混合粉末であることが好ましく、Agであることが特に好ましい。
【0050】
(7)金属焼結接合体の厚さ
金属焼結接合体の厚さは、接合強度を確保し、また、塗布時の均一性を担保するため、20〜200μmであることが望ましい。なお、ダイと基板が傾斜している場合も十分に考えられるため、本発明における接合体の厚さは、接合体の中心での厚さとする。
【0051】
2.ダイ製造方法
本発明に係る金属焼結接合体は、例えば以下のように製造することができる。製造方法の一例を、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の金属焼結接合体を用いたダイボンディングを行う工程の概略工程図であり、
図1(A)はダイをダイマウンターでAgペースト上に載置する工程であり、
図1(B)はダイでAgペーストを加圧する工程であり、
図1(C)はダイに重りを置いて接合圧力を加えながらホットプレート上でAgペーストを焼結する工程である。
【0052】
(1)ペーストを準備する工程
まず、金属マイクロ粒子、または金属ナノ粒子、もしくは金属ナノ粒子と金属マイクロ粒子とのハイブリッド粒子を準備する。そして、本発明の金属焼結接合体を形成するためのペーストを製造する。このペーストは、上記金属粒子もしくはハイブリッド粒子とアルコールを攪拌、混合して製造する。
【0053】
アルコールは、低級アルコールまたは、低級アルコキシ、アミノおよびハロゲンからなる群から選択される1以上の置換基を有する低級アルコールであるのが好ましい。前記低級アルコールは、例えば、炭素原子1〜6個を有するアルキル基と、水酸基1〜3個、好ましくは1〜2個を含むものが挙げられる。前記低級アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、2−メチルブチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、および1−エチル−1−メチルプロピル基などの直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。炭素原子1〜6個を有するアルキル基と水酸基1〜3個とを有する低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、n−プロパノール、i−プロパノール、トリエチレングリコール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノールn−ペンタノール、i−ペンタノール、sec−ペンタノール、t−ペンタノール、2−メチルブタノール、n−ヘキサノール、1−メチルペンタノール、2−メチルペンタノール、3−メチルペンタノール、4−メチルペンタノール、1−エチルブタノール、2−エチルブタノール、1,1−ジメチルブタノール、2,2−ジメチルブタノール、3,3−ジメチルブタノール、および1−エチル−1−メチルプロパノール等が挙げられる。
【0054】
低級アルコキシ、アミノおよびハロゲンからなる群から選択される1以上の置換基を有する前記低級アルコールにおいて、置換基については以下のとおりである。前記低級アルコキシとしては、前記低級アルキル基に−O−が置換された基が挙げられる。前記低級アルコキシとしては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、i−ブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペンチルオキシ等が挙げられる。前記ハロゲンとしては、フッ素、臭素、塩素およびヨウ素が挙げられる。
【0055】
低級アルコキシ、アミノおよびハロゲンからなる群から選択される1以上の置換基を有する前記低級アルコールとしては、例えば、メトキシメタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−クロロエタノール、エタノールアミン等が挙げられる。
【0056】
なお、本発明の金属焼結接合体を製造するためには、後述するようにダイでペーストを加圧して粒子を流動させるため、ペーストの粘性を調整することが好ましい。ペーストの粘性は0.1〜300Pa・sの範囲であればよく、100〜200Pa・sの範囲が好ましい。上記アルコールは、常温での粘性の上昇を抑えるため、沸点は200℃以上であることが望ましい。また、ペースト中の粉末の含有量は、75〜95質量%であればよい。
【0057】
(2)ペーストを基板上に塗布する工程
ペーストを基板上に塗布する工程では、基板の塗布面においてダイと対向する矩形状領域にペーストを塗布する。ペーストを塗布する面積は、ダイの面積と同程度であることが望ましい。ペーストの塗布面積がダイの面積より大幅に広すぎると、ダイに対応する面からはみ出たペーストが、ペーストを加圧する際にペーストの流動を阻害し、帯状領域を形成することができない。一方、ペーストの塗布面積が狭すぎるとペーストを加圧してもペーストがダイ全面に広がらず、ダイの角部に金属焼結接合体が形成されない。そこで、ペーストの塗布面積は、ダイの面積の±0.4%以下であることが好ましく、ダイの面積の±0.3%以下であることがより好ましく、ダイの面積の±0.1%であることがさらに好ましく、ダイの面積と略同一であることが特に好ましい。
【0058】
塗布手段は、基板表面に金属ペーストを塗布することが可能であれば特に限定されない。例えば、印刷法、コーティング法等により行ってもよい。印刷法としては、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、スタンピング、ディスペンス、スキ−ジ印刷、シルクスクリ−ン印刷、噴霧、刷毛塗り等が挙げられ、スクリーン印刷法、スタンピングおよびディスペンスが好ましい。
【0059】
また、本発明のダイ接合方法では、塗布したペーストにおいて前述の帯状領域のうち、中央部および角部にペーストを上塗りしてもよい。これにより、ペーストが所望の密度勾配を有することになる。この場合、後述するようにダイでペーストを意図的に加圧する必要はないが、下記(3)工程のように加圧してもよい。加圧するとペーストが流動することによって、急激な密度勾配を回避することができるため、焼結時のクラックなどを防ぐことができる。その後の焼結工程は後述する通りである。
【0060】
塗布された金属ペーストの厚さは、例えば、20〜500μm、好ましくは50〜400μm、より好ましくは80〜300μmである。
【0061】
(3)ダイを塗布後のペースト上に載置する工程
図1(A)に示すように、ダイマウンターでダイを吸着し、ペースト上に載置する。この工程では、ダイをペースト上に載置する前に、ダイマウンターのクリアランスを制御する設備を用いてダイと基板の平坦度を向上させてもよい。具体的には、基板に対するダイの傾斜角度が1°以下であることが好ましく、0.8°以下であることがより好ましく、0.5°以下であることが特に好ましい。ダイが傾斜した状態でペーストを加圧すると、本発明に係る金属焼結接合体のように矩形状領域の中央部および角部に低気孔率領域を形成することができない。理由としては、以下のことが推察される。ダイが傾斜していると、ペーストが等方的ではなく一方向に流動し、低気孔率領域が生じず、もしくは低気孔率領域が生じたとしても接合体の片側にだけ生じて接合体の対称な領域に位置することができない。これに対して、基板とダイの傾斜角度がほとんどなく、極めて平坦度が高い状態でダイがペーストを加圧すると、圧力がペーストに均一に加えられてペーストが等方的に流動し、所定の位置に低気孔率領域が生じる。
【0062】
(4)ダイでペーストを加圧する加圧工程
次に、
図1(B)に示すように、ダイでAgペーストを加圧する。
【0063】
本発明では、上記条件でペーストを加圧することによって低気孔率領域が形成される。これは以下のように推察される。ダイを加圧するとペーストがある程度広がり、ダイの4辺部からペーストがはみ出る。すると、はみ出したことにより、4辺の近傍領域での粉末密度が低下し、焼結後に4辺の近傍領域において気孔率が高くなる。一方、角部では、ペーストがダイに押されてもペーストがほとんどはみ出ないため、粉末密度の低下が見られない。すると、対角線を中心線とする帯状領域の気孔率が増加せず、帯状領域に低気孔率領域が形成される。
【0064】
本発明では、ペーストの流動性によらず金属焼結接合体が所定の厚さとなるように、ペーストの塗布厚の10〜60%の範囲で押し込む必要がある。この範囲内であると、ペーストが等方的に流動して所望の密度勾配が得られる。押込量が10%未満であると、ペーストが十分に流動せず所望の密度勾配を得ることができない。押込量の下限は10%以上であり、好ましくは20%以上であり、より好ましくは25%以上である。一方、押込量が60%を超えると、ペーストのはみ出し量が多すぎて、所望の金属焼結接合体の厚さを得ることができない。また、ダイの下に残存するペースト量が少なくなり、密度分布が低減し、所望の低気孔率領域を得ることができない。押込量の上限は60%以下であり、好ましくは50%以下であり、より好ましくは40%以下である。
【0065】
本発明では、ペーストが粉末および溶剤とともに流動するように、1μm/s以上の加圧速度でダイをペーストに押し込む。加圧速度が1μm/s未満であると、ペースト中の溶剤成分のみが外部に押し出されて粉末が流動せず、低気孔率領域が得られない。加圧速度の下限は1μm/s以上であり、好ましくは2μm/s以上である。加圧速度の上限は、特に制限されないが、装置の仕様、および押し込み量の制御が可能な範囲であればよく、200μm/s以下であることが好ましい。
【0066】
加圧時間は、加圧による密度勾配が発現する程度の時間でよく、数秒〜1分程度でよい。
【0067】
また、これは焼結前の工程であるため、ペーストの流動性を確保する観点から室温で行うことが好ましい。ペーストの流動性を上げたい場合には、揮発しない程度に加温することも可能であり、例えば50℃程度まで加温してもよい。
【0068】
(5)接合圧力を加えながら180〜350℃の温度範囲内でペーストを焼結する工程
図1(C)に示すように、ダイに重りを置いて接合圧力を加えながらホットプレート上でAgペーストを焼結する。ダイに載せる重りの質量は、接合圧力が3MPa以下になるように適宜選択する。接合圧力が3MPaを超えると、ICや基板が破損する恐れがある。また、ダイの下で焼結された接合体の板厚が薄くなり、密度分布が低減して所望の低気孔率領域を得ることができない。加熱温度は、180〜350℃の温度域まで加熱し、加熱時間は5〜300分間であることが好ましい。
【0069】
なお、焼結時にダイと基板が多少傾いてもペーストに発生した密度勾配が消失することはないため、重りを置く位置は特に限定されないが、ダイと基板の傾斜角度が前述の範囲内を維持するように、ダイの中央部とすることが望ましい。ダイに重りを載せる代わりにバネやシリンダー等を用いて接合圧力を加えてもよい。
【0070】
加熱後、空冷してダイボンディングが終了する。
【実施例】
【0071】
・実施例1
(ペーストの作製)
本実施例では、厚さが260nmであり平均粒径が8.0μmのAgマイクロフレーク粒子を50gと、平均粒径が0.3μmのサブマイクロ粒子のハイブリッド粒子を50g用いて、Ag粒子を得た。なお、平均粒径は、レーザー方法(大塚電子株式会社製、ダイナミック光散乱光度計DLS−8000)により求めた。この粒子とエチレングリコールを、キーエンス社製のKEYENCEHM−500ハイブリッドミキサーを用いて混合し、粘性が150Pa・sのハイブリッドAgペーストを作製した。このペーストは、Ag粒子がペーストの90質量%であった。
【0072】
(ペーストの塗布、ダイの載置、ダイでのペーストの加圧)
このペーストを、表面にNi−Agメッキ(膜厚:40μm)が施された20mm×20mm×1mmの銅基板に、メタルマスクを用いて4mm×4mm×0.1mmのサイズで塗布した。その後、ダイマウンターを用いて4mm×4mm×0.4mmのSiダイをCu基板に塗布したペースト上に載置した。そして、0.2MPaの荷重圧で、Siダイで10秒間、室温で加圧した。加圧後のペーストの厚みは、0.07mm(塗布時の70%)であった。また、加圧速度は下記表1に示す速度とした。この際、ダイマウンターのクリアランスを制御する設備を用いて、基板とダイとの傾斜角度が1°となるように調整した。
【0073】
(ペーストの加熱)
ダイの上に重りを置き0.2MPaの荷重圧を加えながら、ホットプレート上で180℃、5分間加熱し、250℃まで10℃/minの昇温速度で昇温し、30分保持した。その後、室温まで冷却してダイボンディングを終了した。
【0074】
(焼結体の観察)
ペーストと基板もしくはダイとの接合状態を、日立製作所製FS300IIIを用いてSAT(high speed Scanning Acoustic Tomograph)により観察した。この画像は、超音波プローブの走査ピッチを0.01mmとしたものである。また、株式会社東研社製TUX−3200を用いてX線観察を行い、撮影したX線写真から密度分布の有無について目視で観察した。
【0075】
接合体の断面微細構造は、日本電子株式会社製JSM−6610LVを用いてSEMにより観察した。
【0076】
(密度の状態、気孔率、面積率)
密度の状態は、接合体のX線平面写真から目視にて観察した。帯状領域に濃い色が確認できる場合には「〇」とし、濃い色が確認できなかった場合には「×」とした。
【0077】
低気孔率領域の気孔率は、金属焼結接合体の1200倍の断面SEM写真を撮影し、金属部分と気孔部分を同定し、直線を縦横等間隔に10本ずつ、合計で20本引き、各線と気孔が重なる部分の長さの合計を各線の長さで除した割合を算出した。
【0078】
接合体全体の平均気孔率は、接合体の35倍のX線平面写真を撮影し、接合体の1辺の長さが200mmになるように印刷した。印刷した画像に線引きし、1辺が2mmの正方形の方眼を形成した。X線平面写真において、色の濃い部分が低気孔率領域であり、色の薄い部分が高気孔率領域である。そして、低気孔率領域と高気孔率領域を方眼の升目に沿って切り分けた。1つの升目に低気孔率領域と高気孔率領域とが含まれる場合には、方眼紙の升目を2等分した。
【0079】
このようにして得られた面積から、矩形状領域の面積に対する低気孔率領域の面積の割合である低気孔率領域の面積率、および矩形状領域の面積に対する高気孔率領域の面積の割合である高気孔率領域の面積率を算出した。その後、低気孔率領域の面積率と前述のように求めた低気孔率領域の気孔率を乗じ、高気孔率領域の面積率と前述のように求めた高気孔率領域の気孔率を乗じ、各々の合計を算出することにより求めた。なお、低気孔率領域は、金属焼結接合体の対角線を中心線とし、幅がダイの1辺の長さの20%である帯状領域内に位置するものを対象とした。
【0080】
(TCTクラック伸展率)
ヒートサイクル耐性は、−40℃:20分、200℃:40分を1サイクルとする条件で500サイクル試験後にダイの対角線断面を観察し、対角線上のクラック伸展長さを測定し、対角線全体を100%にした場合のクラック伸展長さの占有率を算出し、クラック伸展率とした。
【0081】
・実施例2、5〜10、比較例1〜4
これらの実施例は、実施例1において、各々表1に記載の条件に変更してダイボンディングを行ったものである。
【0082】
・実施例3および4
実施例1において、ペーストを基板に塗布した後、中央部(中心)および角部(4角)に同一のペーストを各々0.5mg再塗布した後、実施例1と同様にダイボンディングを行った。なお、実施例3では、角部にペーストを別途塗布し、実施例4では、中央部にペーストを別途塗布した。
【0083】
・比較例5
実施例1において、メタルマスクを用いて5mm×5mm×0.1mmのサイズで塗布し、ダイマウンターを用いて4mm×4mm×0.4mmのSiダイを、Cu基板に塗布したペースト上に載置したことを除いて、実施例1と同様にダイボンディングを行った。
【0084】
なお、表1において、「−」は、密度勾配がみられず均一な気孔率となったため、測定を行わなかったことを表す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1から明らかなように、実施例の接合体は所定の密度勾配を有しており、少なくとも接合体の中央部および角部に低気孔率領域が存在し、その気孔率が平均気孔率より低い値を示した。この結果、優れたヒートサイクル耐性を示した。また、このような低気孔率領域が存在するため、放熱性にも優れる。実施例3では、全低気孔率領域の60%以上が角部に存在していた。実施例4では、全低気孔率領域の60%以上が中央部に存在していた。
【0087】
一方、比較例1および2では、ダイ搭載速度密度が遅く、ペーストが等方的に流動しなかったため、密度勾配が一切観察されず、接合体のどの場所でも気孔率が同程度であり、焼結密度が場所によらず均一であった。このため、比較例1および2の気孔率は、場所によらず金属焼結接合体全体の平均気孔率を示した。
【0088】
比較例3は加熱時の加圧力が高すぎるため、密度勾配を示さず、低気孔率領域が形成されなかった。
【0089】
比較例4はダイでペーストを押し込んでいないためにペーストが流動せず、密度勾配を示さず、低気孔率領域が形成されなかった。
【0090】
比較例5はペーストの塗布面積が広く、加圧前からダイの周囲にペーストが存在するためにダイの下に位置するペーストがダイからはみ出なかったため、密度勾配を示さず、低気孔率領域が形成されなかった。
【0091】
以下に写真を用いて更に詳述する。
図2は、実施例1の接合体の平面写真および断面写真であり、
図2(a)はX線平面写真(35倍)であり、
図2(b)はSAT平面写真であり、
図2(c)は
図2(a)のX−Y断面のSEM写真(30倍)であり、
図2(d)は
図2(c)中の左側の破線で囲まれた部分における接合界面拡大断面写真(1200倍)であり、
図2(e)は
図2(c)中の右側の破線で囲まれた部分における接合界面拡大断面写真(1200倍)である。
【0092】
図2(a)および
図2(b)から明らかなように、実施例1では、対角線を中心線とする帯状領域に低気孔率領域が存在していることがわかった。実施例1では、金属焼結接合体の面積に対する低気孔率領域の面積率は30%であり、帯状領域の面積に対する低気孔率領域の面積率は85%であった。
図2(c)から明らかなように、接合界面にボイドが発生していないことがわかった。
図2(e)から明らかなように、
図2(a)のX−Y断面において、
図2(e)に示す低気孔率領域では気孔が少なく低い気孔率を示すことから高い焼結密度を有することがわかった。また、
図2(d)に示す領域では気孔が多く低気孔率領域より気孔率が高いことがわかった。
【0093】
次に、ダイ搭載速度およびダイ押込量を調査した結果を示す。
図3は、金属焼結接合体のX線平面写真であり、
図3(a)は実施例1、
図3(b)は実施例5、
図3(c)は実施例6、
図3(d)は実施例7、
図3(e)は実施例8、
図3(f)は実施例9、
図3(g)は比較例1、
図3(h)は比較例2、
図3(i)は比較例4のX線平面写真である。
【0094】
図3(a)〜
図3(f)から明らかなように、実施例では対角線を中心線とする帯状領域が濃くなっており、この濃い色で示されている領域が低気孔率領域である。一方、
図3(g)〜
図3(i)から明らかなように、比較例1および比較例2では、ダイ搭載速度が遅いためにペーストが十分に流動せず、低気孔率領域が見られなかった。また比較例4は、ペーストにダイを押し込んでいないため、ペーストが流動せず、低気孔率領域が見られなかった。
【0095】
図3において、濃い色の部分が低気孔率領域であることを確認するため、断面観察により気孔の分布を確認した。
図4は、金属焼結接合体の接合界面付近の拡大断面図であり、
図4(a)は実施例1の拡大断面SEM写真であり、
図4(b)は比較例1の拡大断面SEM図である。なお、
図4では、
図2(a)と同様に、中心部を通過するように2つに切断し、その破断面を観察した。
図4(a)から明らかなように、実施例1の金属焼結接合体の中心部では気孔があまり見られず、中心部以外の領域では気孔が多数見られた。一方、
図4(b)から明らかなように、比較例1の金属焼結接合体では気孔が全体に均一に分散していることがわかった。
【0096】
図5は、ヒートサイクル試験後における接合界面の断面SEM写真であり、
図5(a)は実施例1の断面SEM写真であり、
図5(b)は比較例1の断面SEM写真である。
図5(a)に示すように、実施例1ではヒートサイクル試験後においてもクラックが一切見られなかった。一方、
図5(b)に示すように、比較例1ではヒートサイクル試験後においてクラックが発生していることがわかった。このため、クラック伸展率は比較例1の方が大きいことがわかった。