【実施例】
【0060】
次に、本発明の実験例(実施例と比較例とを含む)について説明する。ただし、本発明は、以下記載の実施例に限定されるものではない。
【0061】
1.使用した化合物とその略称
(1)酸化チタニウム前駆体
チタニウムテトライソプロポキシド:(関東化学株式会社製、カタログ上の品番:40884−05)・・・「TTiP」と略
(2)アセチルアセトン:(関東化学株式会社製、鹿一級試薬、カタログ上の品番:01040−71)・・・「AcAc」と略
(3)アセト酢酸エチル:(東京化成工業株式会社製、品番:A0649)・・・「EAcAc」と略
(4)マロン酸ジエチル:(和光純薬工業株式会社製、カタログ上の品番:057−01436)・・・「DEM」と略
(5)希釈用溶剤
イソプロピルアルコール:(和光純薬工業株式会社製)・・・「IPA」と略
【0062】
(6)金属酸化物
(a)Copper Chromite Black Spinel:(アサヒ化成工業株式会社製、No.ブラック3702)・・・「3702」と略
(b)Iron Cobalt Black Spinel:(アサヒ化成工業株式会社製、No.ブラック3402)・・・「3402」と略
(c)Cu(Fe,Mn)
2O
4:(アサヒ化成工業株式会社製、No.F−6331−2 Coal Black)・・・「6331」と略
(d)(Fe,Cr)
2O
3:(アサヒ化成工業株式会社製、No.ブラック6340 Chromium Iron Oxide)・・・「6340」と略
(e)(Bi,Mn)
2O
3:(アサヒ化成工業株式会社製、No.ブラック6301 Bismuth Manganate Black Rutile)・・・「6301」と略
(f)CuCr
2MnO
5:(シェファードカラージャパン製、No.BLACK 20C920 Copper Chromite Black Spinel)・・・「920」と略
(g)CuCr
2O
4:(シェファードカラージャパン製、No.BLACK 30C965 Copper Chromite Black Spinel)・・・「965」と略
(h)CuCr
2O
4:(シェファードカラージャパン製、No.ブラック1G Copper Chromite Black Spinel)・・・「1G」と略
(i)(Mn,Cu,Fe)(Mn,Fe)
2O
4:(シェファードカラージャパン製、No.ブラック444 Manganese Ferrite Black Spinel)・・・「444」と略
(j)Cu(Cr,Mn)
2O
4:(東罐マテリアルテクノロジー株式会社製、No.42−302A Copper Chromite Black Spinel)・・・「302A」と略
(k)Cu(Cr,Mn)
2O
4:(東罐マテリアルテクノロジー株式会社製、No.42−303B Copper Chromite Black Spinel)・・・「303B」と略
(l)Copper Chromite Black Spinel(アサヒ化成工業株式会社製、No.ブラック3250LM、粒子径約700nm)・・・「3250」と略
(7)有機シラン
オルトケイ酸テトラエチル:(東京化成工業株式会社製)・・・「TEOS」と略
(8)ヒドロキシアセトン:(東京化成工業株式会社製)・・・「HA」と略
【0063】
上記各金属酸化物の組成を表1に示す。表中の%は、金属酸化物全体を100%としたときの各金属酸化物の質量%を意味する。また、表1の数値は、左欄の金属酸化物換算の数値に過ぎない。金属酸化物中の金属は、左欄以外の酸化物の形態もとり得る。
【0064】
【表1】
【0065】
2.分析方法
(1)膜表面の形態観察には、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡(SEM,型式:MiniscopeTM3030Plus及びS−4800)を用いた。
(2)膜の投影面積に対する表面積、最大高さ(Rz)および算術平均粗さ(Ra)の測定には、キーエンス株式会社製の型式「VK−X100」の形状測定レーザー顕微鏡を用いた。
(3)膜中の酸化チタニウムの結晶形の同定には、CuKαを線源としたX線回折装置(株式会社リガク製、型式「RINT2500HF」)を用いた。測定は、操作速度を毎分2度/minおよびステップ幅を0.02度として行った。
(4)250〜2500nmの短波長領域における光反射率は、株式会社島津製作所製の紫外可視分光光度計(型式:3100PC)を用いて測定した。
(5)2〜20μmの長波長領域における光反射率は、Agilent Technologies社製の分光光度計(型式:BIO−RAD FTS6000)を用いて測定した。
(6)2〜25μmの波長領域における熱放射率は、Agilent Technologies社製の赤外分光放射測定器(型式:Varian 680−IR)を用いて測定した。
(7)光吸収率の測定は、分光光度計(PerkinElmerのUV/VIS/NIRLambda1050)を使って、入射角8°で、室温にて測定した。分光光度計は、試料の表面からの反射「半球方向指向性反射(HDR)」「反射率ρ」を測定するための積分球を備えている。試料は不透明であるので、透過率はなしと考えた。従ってρ(λ)+α(λ)=1であり、ここで、αは吸収率であり、λは波長である。
スペクトル値はΔλ=10nmインターバルで得た。スペクトル太陽放射照度G(λ)は、米国材料試験協会(ASTM)の標準G173−03を用いて計算した。日射に対する全吸収率、又は加重太陽光吸収率をα
Sで表し、下記の数式として定義した。
【0066】
【数1】
【0067】
この積分は、矩形法の中点近似によって評価した。数式(1)の下限は、G−173データの下限に対応するように280nmに設定した。光吸収率測定は室温の25℃で行った。他の高温用コーティング(Pyromarkなど)でおこなった研究に基づいて、光吸収率は温度に依存しないと考えられる。
【0068】
3.太陽熱発電用集熱膜の作製および膜特性
(実験例1)
TTiP:AcAc=1:2(モル比)となるように、61.85gのTTiPと43.58gのAcAcとを混合して、約80℃で加熱することによりTTiPとAcAcとを反応させた。次に、306.963gのIPAを反応液中に入れて、反応液を希釈した。続いて、12.5gの粉末状の金属酸化物「920」を混合した。次に、前記までの工程で得られた混合物(混合液ともいう)をスプレー装置(HARDER & STEENBECK社製のスプレーガン、0.4mmノズル、商品名:コラーニ)に投入した。SUS304製の基板を315℃まで加熱し、基板の一端側から他端側までスプレーを移動させながら、基板に110秒間噴霧して成膜を行った。スプレー時の圧力は0.2MPaとした。次に、20.83gのTEOSと63.36gのエタノールとの混合液と、7.41gのHAと63.36gのエタノールと9.01gのイオン交換水との混合液とを混合して40℃にて静置させた液を、固形分濃度0.6質量%となるようにエタノールにて希釈したものを上記と同じスプレー装置に投入した。室温にて、上記成膜上に2秒間噴霧し、すぐに基板を400℃に加熱して1時間保持し、上記成膜上に多孔質シリカ膜を形成した。
【0069】
上記条件で得られた膜を400℃にて加熱したときの結晶形態を調べるため、315℃の加熱条件を経て得られた膜、および当該膜を400℃で1時間加熱した後の膜のX線分析を行った。各膜のX線チャートを
図2に示す。315℃の加熱条件を経て得られた膜では金属酸化物のピークとの重なりから明確ではないが、400℃に加熱した膜ではアナターゼ型の酸化チタニウムのピーク(黒い下矢印を参照)が認められた。この結果から、太陽熱発電用集熱膜の作製時に用いたTTiPとAcAcとの反応により、最終的にアナターゼ型の酸化チタニウムが形成されていることがわかった。
【0070】
(実験例2〜7)
モル比にて、TTiP:AcAc=1:0(実験例2)、1:0.5(実験例3)、1:1(実験例4)、1:1.5(実験例5)、1:3(実験例6)および1:4(実験例7)となるように、TTiPとAcAcとを混合した以外、実験例1と同じ条件で成膜を行い、SEMにより膜表面の形態観察を行った。モル比にてTTiP:AcAc=1:2の実験例1と併せて、
図3に示す。
図3から明らかなように、TTiP:AcAc=1:1以上(実験例1,4〜7)、好ましくは1:1.5以上(実験例1,5〜7)にて細孔を多く有する膜を形成できることがわかった。実験例2,3は比較例に相当する。
【0071】
(実験例8〜10)
AcAcに代えて、EAcAc(実験例8)およびDEM(実験例9,10)を、それぞれTTiP:EAcAc=1:2、TTiP:DEM=1:2およびTTiP:DEM=1:4の各モル比になるように使用して、それ以外を実験例1と同じ条件として成膜を行った。実験例9,10は比較例に相当する。
図4に、各膜表面のSEM写真を示す。
図4中、低倍率とは撮影時の倍率が500倍を意味し、高倍率とは撮影時の倍率が5000倍を意味する。
図4に示す形態からもわかるように、EAcAcを使用した場合にはAcAc使用時と同様の多孔体膜が形成できた。しかし、DEMを使用した場合には多孔体膜を形成できなかった。
【0072】
(実験例11〜20)
粉末状の金属酸化物「920」を、「3702」(実験例11)、「3402」(実験例12)、「6331」(実験例13)、「965」(実験例14)、「1G」(実験例15)、「302A」(実験例16)、「303B」(実験例17)、「6301」(実験例18)、「6340」(実験例19)および「444」(実験例20)にそれぞれ代えて、他の条件を実験例1と同じ条件として成膜を行った。
【0073】
(実験例21)・・・比較例に相当
実験例1の比較として、以下の条件にて平滑膜を作製した。まず、日本曹達株式会社製の有機チタンポリマー(品番:B−10、テトラ−n−ブトキシチタニウム重合体)3gと、日本乳化剤株式会社製のイソプロピルジクリコール(iPDG)6gと、和光純薬工業株式会社製の1−ブタノール(試薬一級)1.85gとを混合し、Branson社製の超音波洗浄器(商品名:Bransonic)内で15分超音波照射して混合した。この混合物に9gの粉末状の金属酸化物「920」を添加し、再度、15分超音波を照射して混合物を作製した。次に、この混合物を、スプレー装置(HARDER & STEENBECK社製のスプレーガン、0.4mmノズル、商品名:コラーニ)に投入し、0.2Mpaの圧力で、加熱しない(室温の)SUS304に2秒噴霧して成膜を行った。成膜後すぐに、400℃の加熱したヒーターに基板を載せて1時間静置させた。その後、実験例1と同様の条件で多孔質シリカ膜を形成した。
【0074】
・・・比較例に相当
(実験例22〜31)
粉末状の金属酸化物「920」を、「3702」(実験例22)、「3402」(実験例23)、「6331」(実験例24)、「965」(実験例25)、「1G」(実験例26)、「302A」(実験例27)、「303B」(実験例28)、「6301」(実験例29)、「6340」(実験例30)および「444」(実験例31)にそれぞれ代えて、他の条件を実験例21と同じ条件として成膜を行った。
【0075】
表2は、実験例1,11〜15の条件で作製した膜の形態に起因する各種特性を示す。表3は、実験例16〜20の条件で作製した膜の形態に起因する各種特性を示す。表4は、実験例21〜26の条件で作製した膜の形態に起因する各種特性を示す。表5は、実験例27〜31の条件で作製した膜の形態に起因する各種特性を示す。表中、「立体」と表示のあるのは、多孔体膜(立体膜)が形成できていることを意味する。「平滑」と表示があるのは、多孔体膜(立体膜)が形成できていないことを意味する。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
表2〜5の比較から明らかなように、多孔体膜の表面積/面積(すなわち、膜の投影面積「膜平面の面積:S1」に対する複合粒子のネットワークの面積「S2」の比=S2/S1)は8.2以上と8を超えている一方で、平滑膜のS2/S1は約5.6以下と6未満であった。
【0081】
図5は、実験例1および実験例21の各条件で得られた膜表面のSEM写真を示す(5Aは実験例1であり、5Bは実験例21である)。撮影時の倍率は、共に5000倍である。両SEM写真を比較して明らかなように、TTiPにAcAcを反応させる工程を経た実験例1では多孔体膜が形成できるが、テトラ−n−ブトキシチタニウム重合体をiPDGにて分散させただけの工程を経た実験例21では多孔体膜が形成されず、平滑膜が形成された。
【0082】
次に、各種立体膜および各種平滑膜の短波長領域における光反射率を比較して説明する。
【0083】
図6は、実験例1および実験例21の各条件で作製した膜(920立体膜、920平滑膜)と、実験例11および実験例22の各条件で作製した膜(3702立体膜、3702平滑膜)の短波長領域(250〜2500nm)における光反射率(%)をグラフに示す。
図7は、実験例12および実験例23の各条件で作製した膜(3402立体膜、3402平滑膜)と、実験例13および実験例24の各条件で作製した膜(6331立体膜、6331平滑膜)の短波長領域(250〜2500nm)における光反射率(%)をグラフに示す。
図8は、実験例14および実験例25の各条件で作製した膜(965立体膜、965平滑膜)と、実験例15および実験例26の各条件で作製した膜(1G立体膜、1G平滑膜)の短波長領域(250〜2500nm)における光反射率(%)をグラフに示す。
図9は、実験例16および実験例27の各条件で作製した膜(302A立体膜、302A平滑膜)と、実験例17および実験例28の各条件で作製した膜(303B立体膜、303B平滑膜)の短波長領域(250〜2500nm)における光反射率(%)をグラフに示す。
図10は、実験例18および実験例29の各条件で作製した膜(6301立体膜、6301平滑膜)と、実験例19および実験例30の各条件で作製した膜(6340立体膜、6340平滑膜)の短波長領域(250〜2500nm)における光反射率(%)をグラフに示す。
図11は、実験例20および実験例31の各条件で作製した膜(444立体膜、444平滑膜)の短波長領域(250〜2500nm)における光反射率(%)をグラフに示す。
図6〜
図11における各グラフの横軸は波長(nm)を、縦軸は光反射率(%)をそれぞれ意味する。各グラフにおいて、破線は平滑膜を、実線は立体膜を示す。また、各グラフの右側に、波長400、500、600および700nmのときの各膜の光反射率を示す。
【0084】
いずれの立体膜についても、平滑膜よりも光反射率が低い、すなわち光吸収率が高い傾向が認められた。また、各立体膜の光反射率は、可視光領域における波長400〜700nmにおいて、5%未満であった。これに対して、平滑膜の場合には、「6331」、「303B」および「444」の3つの膜だけが波長400〜700nmにおいて5%未満の光反射率を示しているものの、残りの平滑膜については、上記波長領域のいずれかの波長において5%以上の光反射率を示していた。
【0085】
次に、
図6〜
図11に示す各種膜の内の一部について、長波長領域における光反射率および熱放射率を比較して説明する。
【0086】
図12は、実験例1および実験例21の各条件で作製した膜(920立体膜、920平滑膜)の長波長領域における光反射率(%)および熱放射率をグラフに示す。
図13は、実験例11および実験例22の各条件で作製した膜(3702立体膜、3702平滑膜)の長波長領域における光反射率(%)および熱放射率をグラフに示す。
図14は、実験例12および実験例23の各条件で作製した膜(3402立体膜、3402平滑膜)の長波長領域における光反射率(%)および熱放射率をグラフに示す。
図15は、実験例13および実験例24の各条件で作製した膜(6331立体膜、6331平滑膜)の長波長領域における光反射率(%)および熱放射率をグラフに示す。
図16は、実験例14および実験例25の各条件で作製した膜(965立体膜、965平滑膜)の長波長領域における光反射率(%)および熱放射率をグラフに示す。
図17は、実験例16および実験例27の各条件で作製した膜(302A立体膜、302A平滑膜)の長波長領域における光反射率(%)および熱放射率をグラフに示す。
図18は、実験例17および実験例28の各条件で作製した膜(303B立体膜、303B平滑膜)の長波長領域における光反射率(%)および熱放射率をグラフに示す。
図12〜
図18における各グラフの横軸は波長(μm)を、左側の縦軸は光反射率を、右側の縦軸は熱放射率(下は1、上はゼロ)をそれぞれ意味する。熱放射率は、完全黒体の熱放射率を1とし、それに対する比率で示されている。各グラフにおいて、太線は光反射率を、細線は熱放射率をそれぞれ示す。立体膜についてはグラフ上において実線で示し、平滑膜についてはグラフ上において破線で示す。
【0087】
ここで、「熱放射」とは、吸収した太陽熱を電磁波として外方向に放出することを意味する。このため、熱放射はゼロに近いほうが好ましい。一般的に光吸収率の測定や熱放射の測定の際に比較対象となる完全黒体は、光吸収率が100%であり、そのときの熱放射を1とする。キルヒホッフの法則から、光吸収率=熱放射と考えられるため、完全黒体は100%の光吸収率を有する一方、そのすべてを外に熱放射すると考える。理想の膜は、完全黒体なみに100%の光吸収率を有し、外方向に熱放射しない(熱放射がゼロ)のものである。このような膜は、現実的には存在しないが、光吸収率と熱放射率の差が大きいほど、良い膜といえる。逆に、好ましくない膜は、光吸収率が低く熱を集める力が弱いのに、熱放射率が高いものである。太陽光を吸収しにくく、吸収した光によってもたらされる熱を外に放射しやすいからである。
図12〜
図18の光吸収率と熱放射率との関係から、まず、いずれの立体膜も平滑膜より光反射率が低い、すなわち光吸収率が高い傾向が認められた。また、高温時の太陽熱の熱放射エネルギーが一番大きい2〜5μmの波長において、いずれの立体膜についても、平滑膜に比べて光反射率の値が熱放射の値を下回っているのが認められた。すなわち、立体膜は低い光反射率(高い光吸収率)でありながら熱放射が抑えられていた。前述のようにキルヒホッフの法則により、理論的には光吸収率=熱放射率と考えると、完全黒体は光吸収率100%(光反射率0%)でかつ熱放射率1であるが、膜の構造等によりその均衡を変えられることがわかった。太陽熱発電の集熱体は低光反射率(高光吸収率)で低熱放射率であるのが理想であり、できるだけこれらの両数値の乖離があるものが望まれる。「920」、「303B」および「302A」の各平滑膜の特性としては、2〜5μmの波長ではわずかに光反射率が熱放射率を下回っている、もしくは同じ、あるいは若干上回っている。しかし、5μm以上の波長域では、顕著に光反射率が熱放射率を上回る傾向が認められた。すなわち、光反射率が高い(光吸収率が悪い)のに熱放射が高くなり太陽熱発電用には不向きであると考えられる。これに対して、「920」、「303B」および「302A」の立体膜では、光吸収率が熱放射率を上回る傾向が確認できた。その他の膜(例えば、「965」、「6331」あるいは「3402」)でも、立体膜にすることにより同様の傾向が認められた。
【0088】
以上より、Mn、Cr、Cu、Zr、Mo、Fe、CoおよびBiから選択される2種以上の金属を主として含む金属酸化物の粒子と、粒子表面を部分的若しくは全体的に覆う酸化チタニウムとを備える複合粒子のネットワーク構造を有し、膜表面のRaを1.0μm以上とし、かつ膜平面の面積に対する前記複合粒子のネットワークの面積の比を7以上とした立体膜では、光反射率が低く、光吸収率に対する熱放射率の低い良好な特性が認められた。
【0089】
(実験例32)
ベース膜を含む三層構造の集熱膜を以下の方法により作製した。まず、日本曹達株式会社製の有機チタンポリマー(品番:B−10、テトラ−n−ブトキシチタニウム重合体)3gと、日本乳化剤株式会社製のイソプロピルジクリコール(iPDG)6gと、和光純薬工業株式会社製の1−ブタノール(試薬一級)1.85gとを混合し、Branson社製の超音波洗浄器(商品名:Bransonic)内で15分超音波照射して混合した。この混合物に9gの粉末状の金属酸化物「3250」を添加し、再度、15分超音波を照射して混合物を作製した。次に、この混合物を、スプレー装置(HARDER & STEENBECK社製のスプレーガン、0.4mmノズル、商品名:コラーニ)に投入し、0.2Mpaの圧力で、室温または加熱したSUS304に2秒噴霧して成膜を行った。成膜後すぐに、400℃の加熱したヒーターに基板を載せて30分間静置させた。ベース膜の膜厚は約8μmであった。
【0090】
次に、光吸収膜の原料として、TTiP:AcAc=1:2(モル比)となるように、61.85gのTTiPと43.58gのAcAcとを混合して、約80℃で6時間加熱することによりTTiPとAcAcとを反応させた。次に、306.963gの2−プロパノールを反応液中に入れて、反応液を希釈した。続いて、12.5gの粉末状の金属酸化物「3250」を混合し、30分間超音波処理した。次に、前記までの工程で得られた混合物(混合液ともいう)をスプレー装置(HARDER & STEENBECK社製のスプレーガン、0.4mmノズル、商品名:コラーニ)に投入した。350℃の温度を保ったベース膜の一端側から他端側までスプレーを移動させながら、ベース膜の上に110秒間噴霧して成膜を行った。スプレー時の圧力は0.2MPaとした。光吸収膜原料のチタン前駆体は、ヒーター上で熱分解して結晶化する際に金属酸化物粒子を固化し、有機溶媒の蒸発によって細孔が作製される。基板表面の温度を保ちながら、この工程を数回繰り返した。次に、20.83gのTEOSと63.36gのエタノールとの混合液と、7.41gのHAと63.36gのエタノールと9.01gのイオン交換水との混合液とを混合して40℃にて静置させた液を、固形分濃度0.6質量%となるようにエタノールにて希釈したものを上記と同じスプレー装置に投入した。室温にて、上記光吸収膜上に2秒間噴霧し、すぐに基板を400℃に加熱して1時間保持し上記光吸収膜上に多孔質シリカ膜を形成した。光吸収膜の厚みはおおよそ17μm、多孔質シリカ膜の厚みはおおよそ5〜10nm、そして、ベース膜、光吸収膜及び多孔質シリカ膜からなる三層構造の厚みは、おおよそ25μmであった。以下の耐熱試験用に3×3cm四方の8個のサンプル(以下、「サンプル1〜8」と称する)を作製した。
【0091】
実験例32で作製した膜の形態に起因する各種特製を表6に示す。また、ベース膜及び光吸収膜のそれぞれの形態を比較したSEM写真を
図19に示す。ベース膜表面に対し、光吸収膜はスプレーコーティングを繰り返すことによって細孔が形成されていることがわかる。
【表6】
【0092】
図20は、実験例32で作製した光吸収膜(3250立体膜)およびベース膜(3250平滑膜)の短波長領域(250〜2500nm)における光反射率(%)を表わすグラフである。立体膜は平滑膜よりも光反射率が低い、すなわち光吸収率が高いことは、
図6〜
図11に示した結果と同様である。また、立体膜の光反射率は、可視光領域における波長400〜700nmにおいて、4%未満と小さく、平滑膜と比較して有意な差を示した。
【0093】
図21は、実験例32で作製した光吸収膜(3250立体膜)およびベース膜(3250平滑膜)の長波長領域(2〜25μm)における光反射率(%)および熱放射率を表わすグラフである。3250平滑膜は、2〜5μmの波長でわずかに光反射率が熱放射率を下回っているが、5μm以上では特定の波長域で光反射率が熱放射率を大きく上回る傾向が認められた。これに対して、3250立体膜では、光反射率の値が小さく、光吸収率が熱放射率を上回る傾向が確認できた。
【0094】
4.耐熱試験及び光吸収率の測定
(耐熱試験方法)
耐熱試験と光吸収率測定はAustralian National University (ANU)で実施した。600℃、750℃又は850℃の温度にて、それぞれ10時間、20時間または100時間の耐熱試験を行い、対照として高耐熱性シリコンコーティング材であるPyromark2500を用いて作製した膜と比較した。試料(塗膜+基板)をプログラミング化されたマッフル炉に入れて耐熱試験を実施した。昇温および降温は3℃/分に設定した。本試験では、目標温度に到達し、室温に戻るまでの時間は、耐熱試験時間に追加する。
【0095】
(結果)
上記試験の結果を
図22〜26及び表7〜9に示す。
図22は、実験例32で作製した8個のサンプル(三層構造膜)についての耐熱試験前の光吸収率測定データである。400〜2500nmの波長領域では、これら8個のサンプルの加重太陽光吸収率は、96.91%±0.08%と極めて均一であった。
図23は、実験例32で作製した三層構造膜(サンプル8)(図中、3250と表示)の耐熱試験前の光吸収率を、対照膜(図中、Pyromarkと表示)と比較した結果である。横軸は測定波長、縦軸は光吸収率である。それぞれの膜は同じ耐熱ステンレス基板(SS253MA)上に塗布されている。
図23に示したように、実験例32で作製した三層構造膜は、対照膜よりはるかに吸収率が高いことがわかる。
【0096】
図24は、実験例32で作製した三層構造膜(図中、3250と表示)について、600℃での耐熱試験前、試験後の光吸収率を示す。サンプル7とサンプル6を用いて、それぞれ600℃で10時間と100時間の耐熱試験を行った。サンプル6は最初に600℃で10時間耐熱試験を行い、室温にて光吸収率を測定し、その後90時間600℃にて追加加熱し、再度光吸収率を測定したものである。参照として太陽放射強度を2軸に示す。サンプル7、サンプル6とも低い波長域では、対照膜(Pyromark)と比較して光吸収率は低下した。しかし、700nm以降の波長域では、対照膜よりも高い光吸収率でありながら、光吸収率の低下はほとんどなかった。加重太陽光吸収率を表7に示す。どの事例に於いても、予想される不確実性の範囲内に於いて、耐熱試験前の光吸収率と比較して、わずかな低下しかなかった(±0.1%以内)。結果として、サンプル7とサンプル6は600℃の試験において、大変耐熱性があるといえる。
【0097】
【表7】
【0098】
図25は、実験例32で作製した三層構造膜(図中、3250と表示)について、750℃での耐熱試験前、試験後の光吸収率の測定結果である。600℃耐熱試験と同様の手法で、サンプル5とサンプル4で750℃の耐熱試験(10時間と100時間(10+90時間)を行った。サンプル4は10時間の耐熱試験後に90時間を追加して光吸収率測定を行った。加重太陽光吸収率を表8に示す。測定結果は600°Cと似たような結果となったが、100時間後の光吸収率は耐熱試験前と比較して、600℃試験の際よりも低下した。しかし、750℃では、表8に示されるように対照膜よりサンプル4および5の低下は少なかった。
【0099】
【表8】
【0100】
図26は、実験例32で作製した三層構造膜(図中、3250と表示)について、850℃での耐熱試験前、試験後の光吸収率の測定結果である。サンプル3は10時間、サンプル1は20時間、サンプル2は100時間の耐熱試験を行った。サンプル1は最初に10時間を行い、追加で10時間の耐熱試験を行った。サンプル2は最初に10時間、その後に追加で90時間の耐熱試験を行った。加重太陽光吸収率結果を表9に示す。
【0101】
【表9】
【0102】
結果は600℃、750℃と比較して低下した。特に1500nm付近では特に低下した。興味深いのは、20時間(−0.49%)と100時間(−0.50%)では、ほとんど加重太陽光吸収率では低下がなかった。しかし、本現象を確信するためには、更なる長時間の耐熱試験が必要と考えられる。加重太陽光吸収率の低下度合は対照膜(試験前96.77%、10時間の耐熱試験後94.02%、−2.75%低下)よりもはるかに少ない。対照膜は100時間では剥離が起きてしまった。これらの結果から実験例32で作製した膜(3250)は対照膜と比較して、単に光吸収率が高いだけではなく、高温耐久性があることを示している。