特許第6376332号(P6376332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376332
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】ロールコート塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/28 20060101AFI20180813BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20180813BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20180813BHJP
   B05D 7/06 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   B05D1/28
   B05D5/06 104B
   B05D5/06 104Z
   B05D7/00 L
   B05D7/06 C
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-67083(P2014-67083)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-188807(P2015-188807A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(72)【発明者】
【氏名】原田 亮一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 明子
(72)【発明者】
【氏名】北角 俊実
(72)【発明者】
【氏名】木村 晋
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−152788(JP,A)
【文献】 特開2008−280807(JP,A)
【文献】 特開2004−330161(JP,A)
【文献】 特開2004−345345(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0068447(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面の中央部に設けられた不陸部又は凹凸部と、前記不陸部又は前記凹凸部からみて前記基材の周縁の側の部分に設けられ前記不陸部又は前記凹凸部のうちの凸部の上面よりも低く形成されて前記不陸部又は前記凸部の前記上面と段差を生ずる平面部と、を同時にロールコートにより塗装するロールコート塗装方法であって、
前記塗装する際に前記段差に基づいて前記平面部に塗装されない非塗装領域と、塗装される塗装領域と、が生じ、
前記不陸部又は前記凹凸部により形成された不陸の上をロールが転動する際に、前記非塗装領域と前記塗装領域との境界部が直線状となるように、前記境界部を含む部位に処理を施し、
前記処理の後に、前記不陸部又は前記凸部の前記上面および前記平面部をロールコートにより塗装するものであり、
前記処理は、前記境界部を含む部位に施され、前記境界部が直線状となるように、前記境界部を含む部位の形状を、前記塗装領域における平面部の形状に対して変化させる加工であることを特徴とするロールコート塗装方法。
【請求項2】
前記加工は、前記平面部の表面から下方へ後退した凹部を前記境界部を含む部位に形成する加工であることを特徴とする請求項記載のロールコート塗装方法。
【請求項3】
前記加工は、前記不陸部又は前記凸部の前記上面の側から前記周縁の側へ向かって下方へ傾斜した面を有し前記境界部の位置よりも前記周縁の側において前記平面部のうちの一部と段差なく接続されるテーパ部を前記境界部を含む部位に形成する加工であることを特徴とする請求項記載のロールコート塗装方法。
【請求項4】
前記加工は、前記平面部の表面から上方へ突出し前記不陸部又は前記凸部の前記上面の高さよりも低い突起部を前記境界部を含む部位に形成する加工であることを特徴とする請求項記載のロールコート塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、ロールコート塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凹凸面を有する基材をフレキソロールにより塗装し、凸面に模様を形成する外装材の表面塗装方法がある(特許文献1)。例えば、特許文献1に開示された塗装方法を利用して、表面に凸部を有する被塗装物を塗装すると、塗料の付着したロールが凸部の表面に接触して凸部の表面を塗装することができる。
【0003】
ここで、凸部の表面と段差を生ずる平面部であって凸部の表面よりも低い平面部が被塗装物の周縁部に存在する場合には、平面部のうちで凸部から離れた領域は、ロールと接触し塗装される。一方で、平面部のうちで凸部の近傍の領域は、ロールと接触せず塗装されない。そのため、塗装される領域(塗装領域)と、塗装されない領域(非塗装領域)と、の間の境界部が、平面部の表面に生ずる。
【0004】
しかし、凸部の表面に不陸が存在したり、複数の凸部が離隔して設けられることで複数の凸部の全体として不陸が存在する場合には、ロールの面が不陸により上下に変動することがある。すると、非塗装領域の端部(塗装領域と非塗装領域との間の境界部)が歪み、被塗装物の意匠性が損なわれることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−330161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、非塗装領域の端部が歪むことを抑えることができるロールコート塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、基材の表面の中央部に設けられた不陸部又は凹凸部と、前記不陸部又は前記凹凸部からみて前記基材の周縁の側の部分に設けられ前記不陸部又は前記凹凸部のうちの凸部の上面よりも低く形成されて前記不陸部又は前記凸部の前記上面と段差を生ずる平面部と、を同時にロールコートにより塗装するロールコート塗装方法であって、前記塗装する際に前記段差に基づいて前記平面部に塗装されない非塗装領域と、塗装される塗装領域と、が生じ、前記不陸部又は前記凹凸部により形成された不陸の上をロールが転動する際に、前記非塗装領域と前記塗装領域との境界部が直線状となるように、前記境界部を含む部位に処理を施し、前記処理の後に、前記不陸部又は前記凸部の前記上面および前記平面部をロールコートにより塗装するものであり、前記処理は、前記境界部を含む部位に施され、前記境界部が直線状となるように、前記境界部を含む部位の形状を、前記塗装領域における平面部の形状に対して変化させる加工であることを特徴とするロールコート塗装方法である。
【0008】
このロールコート塗装方法によれば、塗装の前に基材に処理を施すことにより、表面に段差を有する基材であっても、その段差に基づいて生ずる塗装されない非塗装領域の端部を歪みなく表すことができる。このため、安価なロールコート塗装を用いつつ、基材を綺麗に塗装することができる。また、このロールコート塗装方法によれば、基材の製造の際に、非塗装領域の端部が形成される部位の近傍を予め加工された状態に成形することで、低コストで塗装の歪みのない塗装基材を得ることができる。
【0013】
の発明は、第の発明において、前記加工は、前記平面部の表面から下方へ後退した凹部を前記境界部を含む部位に形成する加工であることを特徴とするロールコート塗装方法である。
【0014】
このロールコート塗装方法によれば、非塗装領域の端部が形成される位置を含む領域は、平面部の表面から下方へ凹んでいる。そのため、塗装ロールは、凹んだ部位を塗装しない。そのため、非塗装領域の端部は、平面上には表されず、平面部と凹んだ部位との間の縁に表される。これにより、非塗装領域の端部を略直線状に表現することができ、塗装の歪みを抑えた塗装基材を得ることができる。
【0015】
の発明は、第の発明において、前記加工は、前記不陸部又は前記凸部の前記上面の側から前記周縁の側へ向かって下方へ傾斜した面を有し前記境界部の位置よりも前記周縁の側において前記平面部のうちの一部と段差なく接続されるテーパ部を前記境界部を含む部位に形成する加工であることを特徴とするロールコート塗装方法である。
【0016】
このロールコート塗装方法によれば、非塗装領域の端部が形成される位置の近傍に、平面部のうちの一部に段差なく接続されたテーパ部が平面部の表面から上方へ突出している。そのため、塗装ロールの表面は、テーパ部の表面と略完全に接触し、テーパ部の表面から平面部のうちの一部の表面にわたって連続して塗装する。そのため、非塗装領域の端部は、テーパ部の凸部の側の縁に表される。これにより、非塗装領域の端部を略直線状に表現することができ、歪みを抑えた非塗装領域の端部が形成された塗装基材を得ることができる。
【0017】
の発明は、第の発明において、前記加工は、前記平面部の表面から上方へ突出し前記不陸部又は前記凸部の前記上面の高さよりも低い突起部を前記境界部を含む部位に形成する加工であることを特徴とするロールコート塗装方法である。
【0018】
このロールコート塗装方法によれば、非塗装領域の端部が形成される位置よりも基材の端部側の部位を、凸部よりも低い高さに平面部の表面からわずかに突出させる。そのため、塗装ロールは、突起部と平面部との間のわずかな段差になじむようにして、突起部の表面と、平面部の表面と、に接触する。そのため、非塗装領域の端部は、突起部のうちの凸部の側の縁に表される。これにより、歪みを抑えた非塗装領域の端部が形成された塗装基材を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の態様によれば、非塗装領域の端部が歪むことを抑えることができるロールコート塗装方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態にかかるロールコート塗装方法を使用するロールコート塗装装置を例示する模式的平面図である。
図2図1に表したロールコート塗装装置を矢視Aの方向にみたときの模式的平面図である。
図3図2に表した領域A11の模式的拡大図である。
図4】凸部と平面部との間の非塗装領域を説明する模式図である。
図5】比較例にかかるロールコート塗装方法を使用するロールコート塗装装置を例示する模式的拡大図である。
図6】比較例において凸部と平面部との間の非塗装領域を説明する模式図である。
図7】本実施形態にかかるロールコート塗装方法の前処理で形成される被塗装物の具体例を例示する模式的拡大図である。
図8】本実施形態にかかるロールコート塗装方法を表すフローチャート図である。
図9】被塗装物の製造の一部を例示する模式的平面図である。
図10】本実施形態にかかる他のロールコート塗装方法を表すフローチャート図である。
図11】本実施形態の不陸の具体例を例示する模式的断面図である。
図12】本実施形態の被塗装物の具体例を例示する模式的斜視図である。
図13】本実施形態の被塗装物の他の具体例を例示する模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本実施形態にかかるロールコート塗装方法を使用するロールコート塗装装置を例示する模式的平面図である。
図2は、図1に表したロールコート塗装装置を矢視Aの方向にみたときの模式的平面図である。
【0022】
図1に表したロールコート塗装装置100は、塗装ロール110と、バックアップロール120と、ピックアップロール130と、を備える。塗装ロール110の外周部には、例えばゴムなどの弾性を有する部材が設けられている。塗装ロール110は、軸110cを中心として回転可能である。バックアップロール120は、塗装ロール110と対向する位置に設けられ、軸120cを中心として回転可能である。ピックアップロール130は、塗装ロール110と対向する位置に設けられ、軸130cを中心として回転可能である。
【0023】
塗装ロール110は、図1に表した矢印A1の方向に回転し、被塗装物(基材)200の表面201に塗料140を塗ることができる。塗料140は、塗装ロール110が図1に表した矢印A1の方向に回転し、ピックアップロール130が図1に表した矢印A3の方向に回転することで、被塗装物200の表面201に供給される。被塗装物200は、例えばコンベヤなどにより、塗装ロール110とバックアップロール120との間を通り、図1に表した矢印A4の方向へ送り出される。このとき、バックアップロール120は、被塗装物200に圧力を与え、被塗装物200が撓むことを抑制する。
【0024】
被塗装物200としては、例えば床材や壁材などが挙げられる。壁材には、例えば屋外で使用される外装材なども含まれる。被塗装物200は、例えば建材などとして用いられる。
【0025】
図2に表したように、被塗装物200は、凸部210と、平面部220と、を有し、板状を呈する。凸部210は、被塗装物200のうちで表面201の側の中央部に設けられている。平面部220は、被塗装物200のうちで表面201の側の部分であって凸部210からみて周縁側の部分に設けられている。平面部220は、凸部210の表面(上面)211(図3参照)と段差を生じ、凸部210よりも低く(あるいは薄く)形成されている。
【0026】
平面部220は、テーパ部221と、水平部223と、を有する。水平部223は、塗装ロール110の軸110cと略平行な表面を有する。テーパ部221は、平面部220のうちで凸部210の近傍に設けられ、凸部210の側から被塗装物200の端部側(周縁側)へ向かって下方へ傾斜した面を有する。テーパ部221は、水平部223と段差なく接続されている。
【0027】
ここで、本願明細書において「下方」とは、被塗装物200の表面201(塗装面:塗料140が塗られる面)から塗装面とは反対側の面(裏面203)へ向かう方向をいう。一方で、本願明細書において「上方」とは、被塗装物200の裏面203から表面201へ向かう方向をいう。
【0028】
被塗装物200は、1つの凸部210を有していてもよいし、複数の凸部210を有していてもよい。図2に表した被塗装物200は、複数の凸部210を有している。被塗装物200が複数の凸部210を有する場合には、複数の凸部210の全体により、被塗装物200の表面201の側に不陸が存在する。一方、被塗装物200が1つの凸部210を有する場合には、1つの凸部210の表面(上面)211に不陸が存在する。このように、本願明細書において「不陸」には、複数の凸部210が設けられることで表面201の全体に存在する不陸と、凹凸が形成されることで1つの凸部210の表面211に存在する不陸と、が含まれる。被塗装物200が有する不陸の詳細については、後述する。
【0029】
被塗装物200を図1に表した矢視Aの方向にみたときに、被塗装物200の全体は、塗装ロール110とバックアップロール120との間を通る。そのため、被塗装物200の凸部210と、被塗装物200の平面部220と、は、ロールコート塗装装置100により略同時に塗装される。このとき、塗装ロール110の表面(外周面:塗料140を被塗装物200に塗る面)は、凸部210の表面211と平面部220との間の段差に完全には追従することができない。そのため、塗料140が塗られない非塗装領域と、塗料140が塗られる塗装領域と、が、平面部220に生ずる。
【0030】
ここで、前述したように、被塗装物200の表面201の側には不陸が存在するため、塗装ロール110の表面が被塗装物200の不陸の上を転動すると上下に変動することがある。あるいは、塗装ロール110の表面が被塗装物200の不陸の上を転動すると、塗装ロール110が圧縮される度合いが変化することがある。すると、テーパ部221が平面部220に設けられていない場合には、平面部220に生じた非塗装領域の端部(塗料140が塗られる塗装領域と、塗料140が塗られない非塗装領域、との間の境界部)が、歪むことがある。
これについて、図面を参照しつつさらに説明する。
【0031】
図3は、図2に表した領域A11の模式的拡大図である。
図4は、凸部と平面部との間の非塗装領域を説明する模式図である。
図5は、比較例にかかるロールコート塗装方法を使用するロールコート塗装装置を例示する模式的拡大図である。
図6は、比較例において凸部と平面部との間の非塗装領域を説明する模式図である。
【0032】
図4(a)は、塗装後の被塗装物の表面を表す模式的平面図である。図4(b)は、塗装後の被塗装物の表面を表す模式的斜視図である。図5は、図2に表した領域A11の模式的拡大図に相当する。図6(a)は、塗装後の比較例にかかる被塗装物の表面を表す模式的平面図である。図6(b)は、塗装後の比較例にかかる被塗装物の表面を表す模式的斜視図である。
【0033】
図3に表したように、凸部210が設けられた部分(被塗装物200のうちで表面201の側の中央部)を「パターン部」あるいは「不陸部」あるいは「凹凸部」と称する。パターン部230と平面部220との間の境界線241は、図3に表した通りである。すなわち、パターン部230と平面部220との間の境界線241は、複数の凸部210のうちで平面部220に最も近い凸部210と、平面部220と、の間に存在する。凸部210が設けられることで、パターン部(不陸部、凹凸部)230が形成されている。
【0034】
ここで、図5に表した比較例について説明する。図5に表した被塗装物200aは、凸部210と、平面部220と、を有する。被塗装物200aの凸部210は、図2に関して前述した凸部210と同じである。被塗装物200aの平面部220は、水平部223を有する一方で、図2および図3に表した被塗装物200のようにはテーパ部221を有していない。
【0035】
塗装ロール110の表面111は、凸部210の表面211と平面部220との間の段差に完全には追従することができない。より具体的には、塗装ロール110の表面111は、凸部210の表面211と平面部220との間の段差により、平面部220のうちの一部から浮く。そのため、図5に表したように、塗料140が塗られない非塗装領域223aと、塗料140が塗られる塗装領域223bと、が、平面部220に生ずる。
【0036】
被塗装物200の表面201の側には不陸が存在するため、塗装ロール110の表面111が被塗装物200の不陸の上を転動すると上下に変動することがある。すると、図6(a)および図6(b)に表したように、非塗装領域223aの端部(非塗装領域223aと塗装領域223bとの間の境界部)223cが歪むことがある。非塗装領域223aの端部223cが歪むと、被塗装物200の意匠性が損なわれる。
【0037】
これに対して、本実施形態にかかるロールコート塗装方法では、被塗装物200の塗装を行う前に、非塗装領域223aの端部223cを含む部位に前処理を施す。図3に表した例では、前処理は、被塗装物200の塗装を行う前に、非塗装領域223aの端部223cを含む部位にテーパ部221を形成する処理である。
【0038】
前述したように、塗装ロール110の表面111は、凸部210の表面211と平面部220との間の段差に完全には追従することができない。そのため、図3に表したように、塗料140が塗られない非塗装領域223aと、塗料140が塗られる塗装領域223bと、が、平面部220に生ずる。テーパ部221が水平部223と段差なく接続された接続部225は、非塗装領域223aの端部223cよりも被塗装物200の端部側に位置する。テーパ部221における凸部210の側の側面は、鉛直な面またはテーパ部221の上面の傾斜(角度)よりも急な傾斜(角度)の面を有する。
【0039】
これによれば、被塗装物200の表面201の側に不陸が存在しても、塗装ロール110の表面111は、テーパ部221の表面と安定的に接触する。そのため、非塗装領域223aの端部223cの位置が変動することを抑えることができる。これにより、図4(a)および図4(b)に表したように、凸部210の表面211と平面部220との間の段差に基づいて生ずる非塗装領域223aの端部223cを歪みなく直線的に表すことができる。また、比較的安価なロールコート塗装を用いつつ、被塗装物200を綺麗に塗装することができる。
【0040】
また、非塗装領域223aの端部223cが形成される位置の近傍に、平面部220に段差なく接続されたテーパ部221が平面部220の表面から上方へ突出している。そのため、塗装ロール110の表面111は、テーパ部221の表面と略完全に接触し、テーパ部221の表面から平面部220の表面にわたって連続して塗装する。そのため、非塗装領域223aの端部223cは、テーパ部221の凸部210の側の縁に表される。これにより、非塗装領域223aの端部223cを略直線状に表現することができ、歪みを抑えた非塗装領域223aの端部223cが形成された塗装基材を得ることができる。
【0041】
また、ロールコート塗装時に、塗装ロール110が、テーパ部221における凸部210の側の側面に接触することがある。すなわち、非塗装領域223aの端部223cがテーパ部221の側面に生じることがある。この際、不陸部または凹凸部によってロールコート塗装時の塗装ロール110の圧縮変形量が変化すると、塗装ロール110がテーパ部221の側面に接触する量が変わる。これに対して、テーパ部221の側面は、鉛直な面またはテーパ部221の上面の傾斜よりも急な傾斜の面を有する。そのため、被塗装物200の表面201の側からみても、接触量の変化による非塗装領域223aの端部223cの歪みをほとんど認識することができない。よって、非塗装領域223aの端部223cを直線状に表現することができ、美観に優れた建材を得ることができる。
【0042】
図7は、本実施形態にかかるロールコート塗装方法の前処理で形成される被塗装物の具体例を例示する模式的拡大図である。
図7は、図2に表した領域A11の模式的拡大図に相当する。
【0043】
図7(a)は、図5に関して前述した被塗装物200aである。図7(b)は、図2および図3に関して前述した被塗装物200である。図7に表した範囲223dは、図7に表した被塗装物200aにおいて、非塗装領域223aの端部223cが歪む範囲(変動する範囲)を表す。
【0044】
図7(c)〜図7(e)に表した被塗装物200b、200c、200dにおいては、ロールコート塗装方法の前処理は、非塗装領域223aの端部223cを含む部位に、非塗装領域223aの端部223cが歪むことを抑える加工を施すことである。これによれば、被塗装物200b、200c、200dの製造の際に、非塗装領域223aの端部223cが形成される部位の近傍を予め加工された状態に成形することで、低コストで塗装の歪みのない塗装基材を得ることができる。
【0045】
図7(c)に表した具体例にかかる被塗装物200bでは、ロールコート塗装方法の前処理(加工)は、被塗装物200の塗装を行う前に、非塗装領域223aの端部223cを含む部位に第1の凹部221bを形成する処理である。第1の凹部221bは、平面部220の表面から下方へ後退した形状を有する。つまり、第1の凹部221bは、平面部220の表面から下方へ凹んでいる。非塗装領域223aの端部223cは、平面部220と第1の凹部221bとの間の縁に表される。
【0046】
図7(d)に表した具体例にかかる被塗装物200cでは、ロールコート塗装方法の前処理(加工)は、被塗装物200の塗装を行う前に、非塗装領域223aの端部223cを含む部位に第2の凹部221cを形成する処理である。第2の凹部221cは、平面部220の表面から下方へ後退した形状を有する。つまり、第2の凹部221cは、平面部220の表面から下方へ凹んでいる。また、第2の凹部221cの底部は、凸部210の側から平面部220の側へ向かって下方へ傾斜した面を有する。非塗装領域223aの端部223cは、平面部220と第2の凹部221cとの間の縁に表される。
【0047】
図7(c)に表した具体例および図7(d)に表した具体例によれば、非塗装領域223aの端部223cが形成される位置を含む領域は、平面部220の表面から下方へ凹んでいる。そのため、塗装ロール110は、凹んだ部位(第1の凹部221bおよび第2の凹部221c)を塗装しない。そのため、非塗装領域223aの端部223cは、平面上には表されず、平面部220と凹んだ部位との間の縁に表される。これにより、非塗装領域223aの端部223cを略直線状に表現することができ、塗装の歪みを抑えた塗装基材を得ることができる。
【0048】
図7(e)に表した具体例にかかる被塗装物200dでは、ロールコート塗装方法の前処理(加工)は、被塗装物200の塗装を行う前に、非塗装領域223aの端部223cを含む部位に突起部221dを形成する処理である。突起部221dは、平面部220の表面から上方へ突出する。平面部220の表面からみたとき、突起部221dの高さは、凸部210の高さよりも低い。突起部221dの高さは、塗装ロール110の表面111が、平面部220と突起部221dとの間の段差に追従することができる程度の高さである。
【0049】
図7(e)に表した具体例によれば、非塗装領域223aの端部223cが形成される位置よりも被塗装物200dの端部側の部位を、凸部210よりも低い高さに平面部220の表面からわずかに突出させる。そのため、塗装ロール110は、突起部221dと平面部220との間のわずかな段差になじむようにして、突起部221dの表面と、平面部220の表面と、に接触する。そのため、非塗装領域223aの端部223cは、突起部221dのうちの凸部210の側の縁に表される。これにより、歪みを抑えた非塗装領域223aの端部223cが形成された塗装基材を得ることができる。
【0050】
図7(f)に表した具体例かかる被塗装物200eでは、ロールコート塗装方法の前処理は、被塗装物200の塗装を行う前に、非塗装領域223aの端部223cを含む部位にマスキングテープ221eを貼り付ける処理である。
【0051】
図7(f)に表した具体例によれば、塗料140が塗られる塗装領域と、塗料140が塗られない非塗装領域、との間の境界部は、マスキングテープ221eの表面に形成される。そのため、マスキングテープ221eを外すことにより、非塗装領域223aの端部223cは、マスキングテープ221eと平面部220との間の縁に表される。これにより、塗装の歪みを抑えた塗装基材を得ることができる。
【0052】
図8は、本実施形態にかかるロールコート塗装方法を表すフローチャート図である。
図9は、被塗装物の製造の一部を例示する模式的平面図である。
図8に表したフローチャート図では、図7(b)〜図7(e)に表した被塗装物200、200b、200c、200dの形状のいずれかを形成する場合を例に挙げる。
図9(a)は、熱ラミネート成形に使用するカレンダ成形装置を例示する模式的平面図である。図9(b)は、形状転写装置を例示する模式的平面図である。
【0053】
図8に表したロールコート塗装方法では、被塗装物200の塗装を行う前に、凹凸部(本実施形態では凸部210)や不陸部と、図7(b)〜図7(e)に表した被塗装物200、200b、200c、200dの形状のいずれかと、を熱ラミネート成形により形成する(ステップS101:前処理を含む基材成形)。なお、成形方法は、熱ラミネート成形に限定されず、例えばプレス成形などの他の成形方法であってもよい。
【0054】
続いて、ロールコート塗装により被塗装物200の塗装を行う(ステップS103:色および柄の印刷)。続いて、ロールコート塗装により表面保護層の形成を行う(ステップS105:ガードコート)。なお、ステップS105においては、ロールコート塗装の代わりにスプレーコート塗装などが使用されてもよい。
【0055】
図9(a)および図9(b)を参照しつつ、本実施形態にかかるロールコート塗装方法についてさらに説明する。
図9(a)に表したカレンダ成形装置400は、送り出し部410と、加熱部420と、加圧部430と、を備える。また、カレンダ成形装置400の後段には、形状転写装置440と、切断装置450と、が設けられている。
【0056】
被塗装物200が有する例えば複数のシート材のそれぞれは、ロール状に巻回され、送り出し部410にセットされる。送り出し部410にセットされたロール状の各シート材は、送り出し部410からシート面と垂直な方向に重ねられた状態で加熱部420に送り込まれる。
【0057】
加熱部420には、図示しないヒータが設けられている。加熱部420を通過する各シート材は、ヒータの熱によって所定の温度に加熱される。
【0058】
加熱部420により加熱された各シート材は、加圧部430において圧着される。加圧部430は、第1の加圧ローラ431と、第2の加圧ローラ432と、を有する。各シート材は、シート面と垂直な方向に積層された状態で第1の加圧ローラ431と第2の加圧ローラ432との間に送り込まれ、第1の加圧ローラ431と第2の加圧ローラ432との間での挟み込みによって互いに接して加圧される。各シート材は、加熱部420で加熱されていることから、第1の加圧ローラ431と第2の加圧ローラ432との間での加圧によって互いに溶着する。これにより、各シート材は、互いに密着して積層化される。
【0059】
次に、熱ラミネートされた積層体(中間構造体)の表面に、凹凸部や不陸部と、図7(b)〜図7(e)に表した被塗装物200、200b、200c、200dの形状のいずれかと、を転写する。加圧部430の後段には、形状転写装置440が配置されている。形状転写装置440は、中間構造体が冷却硬化する前の柔らかい状態のときに、所定の形状(凹凸部や不陸部など)を中間構造体に転写する。
【0060】
形状転写装置440は、第1の転写ローラ441と、第2の転写ローラ442と、を有する。第1の転写ローラ441および第2の転写ローラ442は、互いに接近して設けられている。第1の転写ローラ441および第2の転写ローラ442のいずれか一方の表面には、例えば凸部210の反転形状の突出部441aが設けられている。図9(b)に表した形状転写装置440では、第1の転写ローラ441の表面に突出部441aが設けられている。
【0061】
加圧部430で溶着された中間構造体は、まだ温かい状態で、第1の転写ローラ441と第2の転写ローラ442との間に送られる。中間構造体が第1の転写ローラ441と第2の転写ローラ442との間を通過する際に、第1の転写ローラ441の表面に設けられた突出部441aが、中間構造体の表面に押し込まれる。
【0062】
これにより、中間構造体の表面に溝が形成される。溝が形成されていない部分、すなわち溝によって区画された領域は相対的に凸部210になる。
【0063】
溝を含む凹凸が形状転写装置440によって転写された後、ロールコート塗装により、被塗装物200の表面に塗装が行われる。塗装が行われた後、中間構造体は、形状転写装置440の後段に設けられた切断装置450に送り込まれ、必要なサイズに切断される。
【0064】
次に、塗装された塗装基材の表面に、樹脂系の親水性コート剤を例えばスプレーを使って吹き付け塗布する。その後、例えば紫外線を照射することで、コート剤を硬化させる。これにより、塗料140が塗られた表面に表面保護層が形成される。
【0065】
図10は、本実施形態にかかる他のロールコート塗装方法を表すフローチャート図である。
図10に表したフローチャート図では、図7(f)に表した被塗装物200eにおける前処理を行う場合を例に挙げる。
【0066】
図10に表したロールコート塗装方法では、被塗装物200の塗装を行う前に、凹凸部(本実施形態では凸部210)や不陸部を熱ラミネート成形により形成する(ステップS111:前処理を含む基材成形)。なお、成形方法は、熱ラミネート成形に限定されず、例えばプレス成形などの他の成形方法であってもよい。
【0067】
続いて、所定の位置にマスキングテープ221eを貼る(ステップS113:事前作業)。「所定の位置」とは、非塗装領域223aの端部223cを含む部位である。続いて、ステップS115およびステップS117は、図8に関して前述したステップS103およびステップS105のそれぞれと同じである。
【0068】
図11は、本実施形態の不陸の具体例を例示する模式的断面図である。
図11(a)に表した具体例では、複数の凸部210aが設けられている。凸部210aの表面211は、水平な面である。水平な面は、例えば塗装ロール110の軸110cと略平行である。図11(a)に表した具体例では、複数の凸部210aが設けられることで、被塗装物200の表面201の全体として不陸が存在する。
【0069】
図11(b)に表した具体例では、複数の凸部210bが設けられている。複数の凸部210bのうちの少なくともいずれかの表面211は、傾斜した面である。傾斜した面は、例えば塗装ロール110の軸110cとは非平行である。図11(b)に表した具体例では、複数の凸部210bが設けられることで、被塗装物200の表面201の全体として不陸が存在する。
【0070】
図11(c)に表した具体例では、複数の凸部210cが設けられている。複数の凸部210cのそれぞれの表面には、凸部210cにより形成される凹凸よりも微細な凹凸が形成されている。図11(c)に表した具体例では、複数の凸部210cが設けられることで被塗装物200の表面201の全体として不陸が存在するとともに、複数の凸部210cのそれぞれの表面211において不陸が存在する。
【0071】
図11(d)に表した具体例では、1つの凸部210dが設けられている。凸部210dの表面には、凸部210dにより形成される凹凸よりも微細な凹凸が形成されている。図11(d)に表した具体例では、1つの凸部210dの表面211において不陸が存在する。
【0072】
図12は、本実施形態の被塗装物の具体例を例示する模式的斜視図である。
図12に表した被塗装物200は、例えば浴室などにおいて用いられる床材である。図12に表した被塗装物200は、洗い場251を有する。洗い場251には、複数の凸部210(図2参照)が形成されている。本具体例の複数の凸部210は、例えば滑り止めとして機能する。互いに隣り合う複数の複数の凸部210の間の部分は、排水溝として機能する。洗い場251のうちの一部には、排水口253が設けられている。図12に表した被塗装物200では、複数の凸部210が洗い場251に設けられることで、洗い場251の全体として不陸が存在する。
【0073】
図13は、本実施形態の被塗装物の他の具体例を例示する模式的平面図である。
図13(a)は、本具体例の被塗装物の不陸を側方からみた模式的平面図である。図13(b)は、図13(a)に表した被塗装物を矢視Bの方向にみたときの模式的平面図である。
【0074】
図13(a)および図13(b)に表した被塗装物200は、例えば浴室などにおいて用いられる壁材である。あるいは、図13(a)および図13(b)に表した被塗装物200は、例えば屋外などにおいて用いられる壁材(外装材)である。図13(a)および図13(b)に表した被塗装物200では、表面255に不陸が存在する。図11(d)に関して前述したように、図13(a)および図13(b)に表した被塗装物200の表面255に形成された不陸は、例えば1つの凸部210の表面211に存在する。
【0075】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、ロールコート塗装装置100などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや不陸の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0076】
100 ロールコート塗装装置、 110 塗装ロール、 110c 軸、 111 表面、 120 バックアップロール、 120c 軸、 130 ピックアップロール、 130c 軸、 140 塗料、 200、200a、200b、200c、200d、200e 被塗装物、 201 表面、 203 裏面、 210、210a、210b、210c、210d 凸部、 211 表面、 220 平面部、 221 テーパ部、 221b 第1の凹部、 221c 第2の凹部、 221d 突起部、 221e マスキングテープ、 223 水平部、 223a 非塗装領域、 223b 塗装領域、 223c 端部、 223d 範囲、 225 接続部、 230 パターン部、 241 境界線、 251 洗い場、 253 排水口、 255 表面、 400 カレンダ成形装置、 410 送り出し部、 420 加熱部、 430 加圧部、 431 第1の加圧ローラ、 432 第2の加圧ローラ、 440 形状転写装置、 441 第1の転写ローラ、 441a 突出部、 442 第2の転写ローラ、 450 切断装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13