(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両に搭載して、自車両または他車両の運転者、歩行者、環境状況検出器に認識させるための、所定の光パターン(Q)を自車両周辺の路面に表示する車両運転支援装置であって、コヒーレント光源(Ds)と、前記コヒーレント光源(Ds)からの放射光による光源ビーム(Fb)を走査して投射ビーム(Fo)を出力し、自車両周辺の路面に前記光パターン(Q)を投射する路面投射光学系(Up)と、自車両周辺の路面が濡れているか否かの情報を保持する路面濡水情報保持手段(Uw)と、前記コヒーレント光源(Ds)および前記路面投射光学系(Up)を制御する制御回路(Ec)とを具備し、前記路面濡水情報保持手段(Uw)が自車両周辺の路面が濡れている旨の情報を保持する期間は、前記制御回路(Ec)は、路面に対する入射角が浅く、かつ自車両が走行する走行帯の境界近傍に向けた、前記光パターン(Q)を投射する前記投射ビーム(Fo)の出力を停止するよう制御することを特徴とする車両運転支援装置。
前記路面濡水情報保持手段(Uw)が自車両周辺の路面が濡れている旨の情報を保持する期間は、前記制御回路(Ec)は、自車両が走行する走行帯と同じ走行帯を走行する後続車両の前方の路面に前記光パターン(Q)を投射する前記投射ビーム(Fo)の出力を停止するよう制御することを特徴とする請求項1に記載の車両運転支援装置。
前記路面濡水情報保持手段(Uw)は、自車両周辺の路面が濡れているか否かを検知して、前記した自車両周辺の路面が濡れているか否かの情報たる路面濡水検知信号(Sw)を生成する路面濡水検知器(Xw)を具備する請求項1に記載の車両運転支援装置。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ等のレーザビームを用いて自車両周辺の路面に何らかの光パターンを表示し、自車両または他車両の運転者、歩行者、環境状況検出器に認識させる従来技術に関しては、例えば特開平05−238307号公報には、車両の前方の所定距離だけ離れた路面位置に、視認可能なスポットマーカ、あるいは2次元ガルバノメータを用いた走査による多角形等の図形を照射し、歩行者や他車両の運転車に対し、自車両の存在を認識させることができるようにするものが記載されている。
【0003】
また、特開2003−231450号公報には、自車両および他車両が照射するレーザビームによって路面に形成される光パターンを撮像装置によって取得し、その情報に基づいて自車両の進行上注意すべき状態を判定するものが記載されている。
この技術においては、自車両の車速・運動状態量・舵角・操舵力に基づいて、自車両が走行すると推定される移動走行軌跡を算出し、その走行軌跡を走行したものとした場合に車体が通過する部分と通過しない部分との、左右それぞれの境界線を算出し、その境界線のうち、速度等に依存して安全上必要な部分を、レーザビームをスキャンアクチュエータによって走査して描画する。
【0004】
さらに、特表2004−526612号公報には、自車両の後方の路面に、スペクタクル・ショーのための照明効果の分野で利用されている方法によって光パターンを表示し、事故や緊急停止の場合に、後続の車両に情報を提供するものが記載されている。
【0005】
いま述べた技術においては、路面に投射される光パターンを形成するレーザビームが路面で乱反射し、光の入射方向にあまり依存せずに、あらゆる方向に概ね均等に拡散されることを前提としている。
ところが、雨天で路面が濡れている場合、特に路面への入射角度が浅い(光線が路面と成す角度が小さい)光線については、このような前提は成り立たずに、正反射成分が卓越するため、もし路面に投射される光パターンを形成するレーザビームの正反射成分が、偶々対向車両の運転者の眼を直射した場合、その運転者が強く眩惑され、それを原因とした交通事故の発生が懸念される。
【0006】
このような眩惑の問題に対処するため、例えば特開2003−231438号公報には、路面が濡れている場合に配慮して、路面に投射される光パターンを形成するレーザビームが照射された路面を撮像装置によって撮像された画像のコントラストに基づいて、障害物たる歩行者を検出した場合、これを避けて可視光ビームを照射するようにするものが記載されている。
しかしながら、この技術の場合、眩惑から保護されるのは歩行者のみで、対向車両などの他車両の運転者に対する眩惑の問題は、依然として解決されないままであった。
【0007】
また、特開2003−285685号公報には、路面が濡れている場合に配慮して、半導体レーザからのビームに対し、ブリュースター角を成すガラス板を挿入しておくことにより、路面に平行な偏光成分がガラス板で反射して取り除かれるため、路面に投射される光パターンを形成するレーザビームは、濡れた路面でも強い正反射が起こらず、歩行者や他車両の運転者への眩惑の問題を解決できると主張するものが記載されている。
しかしながら、ブリュースター角とはP偏波の光を100%透過させる角度であって、S偏波の光を100%反射する角度ではないし、また、例えば水のブリュースター角は約53度、すなわち光線が路面と成す角度は約37度であり、光線の角度がこれより浅くなるとP偏波であっても反射が急激に増加するし、また、雨で濡れた路面は平坦でないため、深い(光線が路面と成す角度が90度に近い)角度のレーザビームで投射する至近距離の光パターンを表示する場合を除き、比較的遠方の路面に投射される光パターンを形成するレーザビームは、少なくとも部分的に強い正反射を生じるため、他車両の運転者に眩惑を与える問題は、ビームをP偏波にしただけでは解決されない。
因みに、通常の半導体レーザは、元々直線偏波で発振するため、ガラス板を挿入せずとも、濡れた路面の水面に対してP偏波となるように半導体レーザを配置すれば済む。
【0008】
本発明のような、所定の光パターンを自車両周辺の路面上に描画し、それを自車両または他車両の運転者、歩行者、環境状況検出器に認識させるための技術ではないが、特開2011−157022号公報には、半導体レーザのビームを強度変調しながら走査することにより、所望の配光パターンを動的に生成することが可能な車両用前照灯であって、雨天時用配光パターンとして、通常のロービーム配光パターンよりも近い領域を、減光または消灯するものが記載されている。
これは前照灯であり、広い範囲を走査するため、公報に記載されているように、レーザ光が人の眼に入射されたとしても時間が短く、眼に悪影響を及ぼす事は抑制される。
そのため、近い領域を減光するだけで構わないとすることは合理的である。
しかし、近い領域を消灯してしまうことは、自車両が歩行者や障害物と接触する事故を起こす危険性が増大する問題を孕んでおり、対向車両の運転者の眩惑への配慮に対する代償として、バランスを大いに逸しており、到底採用できる技術とは言えない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
先ず、本発明の車両運転支援装置を簡略化して示すブロック図である
図1を参照して、その構成について説明する。
コヒーレント光源(Ds)からの放射光(Fs)は、コリメータレンズやビームエキスパンダ等の、必要に応じて挿入する変換光学系(Bc)によって、遠方に投射するに適する太さを有する光源ビーム(Fb)と成し、路面投射光学系(Up)に入力される。
なお、前記コヒーレント光源(Ds)については、例えば半導体レーザや、半導体レーザの放射光を、高調波発生・光パラメトリック効果などのような非線形光学現象を利用して波長変換する光源などを使用できる。
【0017】
前記路面投射光学系(Up)は、例えば音響光偏向素子(AOD)やガルバノメータミラー等の光偏向素子の2個を、その偏向方向が直交するように配置し、それぞれを独立に駆動制御することによって、入射されたビームを任意の方向に向けて射出することができる、2次元偏向器を備えている。
2個ある各光偏向素子の偏向角は、ガルバノメータミラーの場合は、コイルに流す駆動電流の大きさで規定され、音響光偏向素子の場合は、超音波トランスデューサに印加する高周波の駆動電圧の周波数で規定される。
該路面投射光学系(Up)に入力された前記光源ビーム(Fb)は、方位角 θ,ψ の方向に偏向されて本車両運転支援装置(Uf)の外部に放出される投射ビーム(Fo)となり、自車両周辺の路面に到達してビームスポット(P)を形成するが、方位角 θ,ψ を動的に変化することによって前記ビームスポット(P)が連続的に移動するから、直線や曲線、円、多角形、文字などの任意の光パターン(Q)を、自車両周辺の路面上に投射することができる。
【0018】
ここで、今後の説明の便宜のために、本明細書における前記した方位角 θ,ψ について定義しておく。
本車両運転支援装置が車両に搭載された状態で、直進時の車両の進行方向を向き、平坦な路面に平行な軸をz軸として、偏向後のビームについての垂直面内の角度である俯角、すなわち光線が路面と成す角度を θ 、水平面内の角度を ψ と書くこととし、また、θ,ψ の両方を方位角と呼ぶことにする。
【0019】
制御回路(Ec)は、光源変調信号(Ss)を介して前記コヒーレント光源(Ds)に対する投入電力を変調し、点灯または消灯を制御し、また点灯時の明るさを制御する。
さらに、前記制御回路(Ec)は、方位角目標信号(Sp)を介して方位角 θ,ψ の目標値 θp,ψp を前記路面投射光学系(Up)に伝送し、該路面投射光学系(Up)が具備する駆動回路が、方位角目標値 θp,ψp が実現されるよう、各光偏向素子の前記した駆動電流や駆動電圧を制御する。
【0020】
一方、路面濡水情報保持手段(Uw)は、自車両周辺の路面が濡れている旨の情報である路面濡水検知信号(Sw)を出力する。
なお、前記路面濡水情報保持手段(Uw)が自車両周辺の路面が濡れているか否かの情報を取得する方法については後述する。
前記制御回路(Ec)は、前記路面濡水検知信号(Sw)がアクティブである、すなわち自車両周辺の路面が濡れている旨の情報を得ている期間は、前記コヒーレント光源(Ds)または前記路面投射光学系(Up)、あるいは両方を制御して、路面に対する入射角が浅く、かつ自車両が走行する走行帯の境界近傍に向けた、前記光パターン(Q)を投射する前記投射ビーム(Fo)の出力を停止する。
【0021】
ここで、路面に対する入射角が浅いと判断する基準としては、路面を平坦な水面であると単純化したモデルを考え、前記投射ビーム(Fo)が水面に対してP偏波となるように本車両運転支援装置を構成するとして、光線が路面と成す角度 θ の下限を、例えば、反射率が20%となる約11.2度、あるいは反射率が30%となる約8.5度とすることができる。
ただし、路面に溜まっている雨水は、純粋な水ではないし、油膜が浮いていることが多い上に、平坦でもないため、路面の反射率は、単純な θ のみの関数ではないことは明らかで、θ が同じであっても、路面の部分毎に異なる。
そのため、許容できる路面反射率を決めたとしても、路面に対する入射角が浅いと判断するための光線が路面と成す角度 θ の下限値は、理論的考察から一意的に求めることはできず、実験的に決めることが、より妥当である。
【0022】
因みに、先に述べた反射率の値は、よく知られているフレネル係数を求めることによって、簡単に計算することができる。
具体的には、水面の法線と光線とが成す角度、すなわち入射角 φ (ただし φ = 90−θ)を決めると、屈折角 χ は、水の屈折率 n の値1.333を介して、以下の式
sinχ = sinφ/n
により関係付けられているから、パワー反射率(振幅反射率であるフレネル係数の2乗)は、以下の式
R = { tan(φ−χ)/tan(φ+χ) }^2
で計算できる。
ただし、記号 ^2 は2乗を表す。
【0023】
前記制御回路(Ec)が前記光パターン(Q)を投射する前記投射ビーム(Fo)の出力を停止する制御の仕方として、例えば最も簡単には、自車両周辺の路面が濡れているか否かには無頓着に、前記路面投射光学系(Up)と前記コヒーレント光源(Ds)を制御しておき、投射内容が自車両が走行する走行帯の境界近傍に対する光パターンであり、かつ θ または θp がその下限値以下であり、さらに前記路面濡水検知信号(Sw)がアクティブであるときは、前記コヒーレント光源(Ds)を消灯するよう、追加制御すればよい。
ただし、このような単純な制御の場合は、追加制御によって前記コヒーレント光源(Ds)を消灯している期間も、前記路面投射光学系(Up)は無駄に動いていることになるから、θ または θp が下限値以下になってから、次に下限値を超えるまでの制御シーケンス部分を省略するように制御することにより、前記した無駄な動きを避けることができる。
【0024】
なお、前記した走行帯とは、ある瞬間の自車両の車体を路面に投影した領域を、車両の走行に伴って移動させ、和集合的・累積的に合成して形成される領域に対し、安全上必要な幅方向の余裕を付加した領域を指す。
したがって、例えば、車両通行帯に沿って通行している場合は、その車両通行帯の幅が過剰に広いものでない限り、走行帯と車両通行帯とは概ね同じものとなる。
しかし、車線変更や右左折を行う場合は、車両通行帯の境界を越えて行くため、それらの行為を開始してから完了するまでの期間においては、走行帯は車両通行帯とは相違し、いま説明した領域によって解釈する必要がある。
また、道路標示による車両通行帯が設定されていない場所においても同様に、いま説明した領域によって解釈する必要がある。
【0025】
ここで、前記光パターン(Q)を投射する前記投射ビーム(Fo)の出力を停止する条件を、路面に対する入射角が浅いこと、および自車両が走行する走行帯の境界近傍に光パターンを投射する場合、とした理由について説明する。
先ず、路面に対する入射角が深い場合を考えると、反射率が低い上に、正反射成分は上空に逃げてしまうため、対向車両や、同じ方向に走行する先行車や後続車、左また右の前方または後方を走行する車両の運転者に眩惑を与えることが無く、よって、条件から外せることが理解できる。
【0026】
次に、投射対象が自車両が走行する走行帯の境界近傍で無い場合、例えば直進走行中に、ψ = 0 の方向近傍に投射すべき光パターンが存在する場合を考えると、第1に、先行車両が近いときは、下向きの投射ビームが先行車両の車体に当たるだけであり、第2に、先行車両が少し離れていて、投射ビームが自車両の前方の濡れた路面で反射したときは、反射光がその車体に当たり、仮に後方窓から車内に入っても、光は上向きであるから、さらにそれがルームミラーに反射された場合も含め、天井に当たるだけであり、第3に、先行車両が遠方にあるときは、濡れた路面で反射した正反射光が、先行車両のルームミラーを介して運転者の眼に入る可能性があるが、距離が離れているため十分に弱まっており、何れにしても、先行車両の運転者に眩惑を与えることが無く、よって、条件から外せることが理解できる。
【0027】
なお、いま述べたような光パターンの投射は、環境状況検出器、すなわち、その反射散乱光を、例えば撮像素子を具備して画像として取得し、反射散乱体が路面なのか、あるいは先行車両や障害物なのかを識別し、自車両の前方環境の安全状況の情報を抽出する検出器とともに本車両運転支援装置を使用する場合には、安全を確保する上で必要な光パターンの投射である。
本発明によれば、雨天時であっても、前記環境状況検出器のための投射ビーム(Fo)の出力を停止する必要は無く、安全が確保される大きな利点がある。
【0028】
以上において述べたように、本発明の車両運転支援装置によれば、半導体レーザ等のコヒーレント光源からの放射光を走査して、所定の光パターンを自車両周辺の路面上に描画し、それを自車両または他車両の運転者、歩行者、環境状況検出器に認識させることを可能ならしめ、交通安全に寄与するとともに、雨天で路面が濡れている場合に、路面に投射される光パターンを形成するレーザビームの正反射成分が、他車両の運転者に眩惑を与えることを抑制できるため、眩惑を原因とした交通事故の発生を防止できる。
【0029】
ただし、投射対象が自車両が走行する走行帯の境界近傍で無い場合であっても、雨天時には、自車両が走行する走行帯と同じ走行帯を走行する後続車両の前方の路面に前記光パターン(Q)を投射する前記投射ビーム(Fo)の出力を停止することが望ましい。
その理由は、この状況での路面からの正反射光は、後続車両の運転者の眼を直射する可能性が高いからである。
因みに、いま述べたような光パターンの投射は、例えば、走行速度に応じた車間距離の限界位置を表すマークを路面に表示して、それを後続車両の運転者が認識できるようにし、追突事故の防止を図ろうとする用途などに有用性がある。
【0030】
前記路面濡水情報保持手段(Uw)の実現に関しては、専用の路面濡水検知器(Xw)を備えることが最も確実である。
該路面濡水検知器(Xw)の具体的な構成の一例を述べると、例えば、適当な波長を有する強度が既知の光束を路面に対して斜めに照射して、その正反射成分光の強度を測定し、照射光束に対する正反射成分光の強度の比が規定値以上である場合に、自車両周辺の路面が濡れている旨の情報である路面濡水検知信号(Sw)を出力するように構成する。
いま述べた形式の路面濡水検知器(Xw)は、自車両の車体下面の、路面に面した箇所に設置すればよい。
また、濡れることによって導電率や静電容量などの電気的パラメータが変化する電気回路素子を、例えば自車両の屋根に設置して、前記電気的パラメータの値が規定の閾値を超えたか否かによって降水の有無を検知する、降水センサを用いて路面濡水検知信号(Sw)を生成するようにしてもよい。
【0031】
さらに、本車両運転支援装置の前記路面投射光学系(Up)によって自車両周辺の路面の特定の箇所に試験用光パターンを投射し、その反射散乱光を、例えば撮像素子を具備して画像として取得し、画像解析によって路面濡水検知信号(Sw)を生成するようにしてもよく、ここで、前記した特定の箇所としては、ψ = 0 の方向近傍で、路面に対する入射角が浅くない投射ビーム(Fo)で投射できる箇所とすることが、この試験用光パターンによる他車両運転者への眩惑の可能性を排除する上で好適である。
あるいは、後述するように、撮像素子を用いずに、前記投射ビーム(Fo)の路面における後方散乱光のうちの、前記路面投射光学系(Up)を逆に戻って来る成分を検出し、その強度によって路面濡水検知信号(Sw)を生成するように構成する方法もある。
【0032】
これまで述べたような、専用の前記路面濡水検知器(Xw)を具備することによって前記路面濡水情報保持手段(Uw)の実現する代わりに、より簡便な実現方法として、例えば、ワイパーを動作させるスイッチが入っている場合に前記路面濡水検知信号(Sw)を出力するようにしてもよい。
あるいは、自車両周辺の路面が濡れているか否かを運転者自身が判断し、濡れていると判断した場合には、前記路面濡水検知信号(Sw)を出力するスイッチを手動でオン状態にすることとしてもよい。
【0033】
ここで、根本的な事項につき、一点補足しておく。
雨天時に路面に浅い角度で投射する投射ビームが、対抗車両の運転者への眩惑という副作用を示す問題はあるとしても、安全の確保のため、その出力を停止しない方が良いのではないか、との疑問が生ずるかも知れないが、そのような条件の投射ビームは、路面に人間や環境状況検出器が有効に認識可能な光パターンを形成しない(レーザポインタを照射したときの照射点は、白い紙に当てれば見えるが、鏡面に当てても見えないという経験から容易に理解できる)ため、それを出力しても自車両に付与される安全は何も無く、単に空へ逃げたり他の車両に当たって無駄に終わるか、眩惑という副作用を与えて対向車両の事故リスクを高めるかの何れかしか無く、よって、前記した条件の投射ビームについては、出力を停止することが最善の策である、と言うことができる。
当然、雨天でなければ光パターン投射によって付与されたはずの安全性が、雨天時は付与されなくなる訳であるから、このために低下した安全性を補いたい場合は、本発明とは別に、有効な方策を講じる必要がある。
【0034】
以降においては、本発明の実施例について説明する。
先ず、本発明の車両運転支援装置の実施例の一部の一形態を簡略化して示す模式図である
図2を参照して、ガルバノメータミラーを用いて構成した、前記コヒーレント光源(Ds)と前記路面投射光学系(Up)とを合わせた光学系について説明する。
半導体レーザによるコヒーレント光源(Ds)からの放射光は、非球面レンズを用いたコリメータとしての変換光学系(Bc)を介して、並行光束の光源ビーム(Fb)に変換され、後述する偏光ビームスプリッタ(Bs)を介し、θ偏向ガルバノメータミラー(G1)の回転鏡(Gr1)に入射される。
該回転鏡(Gr1)は、アクチュエータ(Ga)の駆動によって往復回転するアクチュエータ軸(Gz)に固定されており、前記制御回路(Ec)の制御に基づいて駆動回路(図示を省略)から前記アクチュエータ(Ga)に流される駆動電流によって、偏向後の方位角 θ が制御される。
【0035】
前記回転鏡(Gr1)で反射されたビームは、前記θ偏向ガルバノメータミラー(G1)と同様の構造を有し、ただし前記アクチュエータ軸(Gz)と直交するアクチュエータ軸を有するψ偏向ガルバノメータミラー(G2)に入射され、同様に偏向後の方位角 ψ が制御される。
前記ψ偏向ガルバノメータミラー(G2)の回転鏡(Gr2)で反射されたビームは、前記投射ビーム(Fo)として前記路面投射光学系(Up)から射出され、立体角領域(A)内の任意の方向に2次元偏向され、自車両周辺の路面に前記光パターン(Q)を投射することができる。
なお、本図の光学系を車両に設置する場所として、運転室内のフロントガラスの上辺の左と右の端部であって前方路面を見通せる2箇所が好適であるが、フロントガラスの上辺の中央部、すなわちフロントガラスとルームミラーの間隙部の1箇所でもよい。
【0036】
因みに、ガルバノメータミラーの場合、ミラーを含む磁気的可動部には回転に対する慣性モーメントがあるため、例えば方位角座標 θ,ψ を跳躍移動させるために、駆動電流をステップ的に変化させたときは、電流値と方位角 θ,ψ とが瞬時に対応する訳ではなく、θ,ψ は有限の速度でしか立上がらないし、リンギング(減衰振動)しながら定常値に漸近する挙動を示す。
そのため、θ,ψ を検出し、PIDフィードバック制御を行って応答速度を改善したり、リンギングやオーバーシュートが発生している期間は、前記光源変調信号(Ss)を介して前記コヒーレント光源(Ds)を消灯し、前記ビームスポット(P)の不要な軌跡を見えなくするなどの工夫を行う。
このように方位角座標 θ,ψ を跳躍移動させるのではなく、直線や曲線を投射するために、方位角 θ,ψ を徐々に変化させるように駆動する場合は、前記したリンギングは発生し難いが、動作遅れに起因する方位角目標値 θp,ψp と方位角 θ,ψ との誤差が生じ、結果として前記光パターン(Q)の位置や形状の誤差が生ずるため、補正処理が必要である。
【0037】
先に、自車両周辺の路面が濡れているか否かの情報を生成する路面濡水検知器(Xw)の構成方法の複数例を説明したが、
図2には、前記投射ビーム(Fo)の路面における後方散乱光のうちの、前記路面投射光学系(Up)を逆に戻って来る成分を検出することにより路面濡水検知器を実現するための構成を含めて描いてある。
先述のように前記投射ビーム(Fo)が水面に対してP偏波となるように本車両運転支援装置を構成することが好適であるから、図において前記投射ビーム(Fo)の偏波が θ 方向と平行になるよう、前記コヒーレント光源(Ds)を配置し、また前記偏光ビームスプリッタ(Bs)を、これに適合するように配置すれば、理想的には前記光源ビーム(Fb)のほぼ100%が前記回転鏡(Gr1)に向けて反射される。
前記投射ビーム(Fo)が路面に当たって後方散乱光を生ずる際は、一般に偏波面の回転が起こるから、この散乱光が路面から前記回転鏡(Gr2)、前記回転鏡(Gr1)を経て戻って来た際は、路面に対してS偏波となった成分が前記偏光ビームスプリッタ(Bs)を透過するため、光センサ(Bx)によってそれを検出することができる。
【0038】
例えば、前記偏光ビームスプリッタ(Bs)における前記光源ビーム(Fb)の微弱な透過光を、光センサ(図示を省略)によって検出できるようにしておけば、光源ビーム強度を常時モニタすることができる。
実験的を通じて、路面が乾燥している場合と濡れている場合とを見分けるための、光源ビーム強度に対する前記光センサ(Bx)での検出量の比の閾値を決定しておけば、この構成を路面濡水検知器として機能させることができ、前記路面濡水検知信号(Sw)を生成することができる。
【0039】
なお、太陽光や街燈などの道路照明光、他車両が発した光などの外乱光の影響を回避するため、例えば干渉フィルタ等を利用した狭帯域フィルタ(Bf)を、前記光センサ(Bx)に前置することが好適である。
さらに外乱光の影響の回避能力を高めるため、前記コヒーレント光源(Ds)の駆動電流に対し、適当な周波数の振幅変調を加えておき、前記光センサ(Bx)の検出信号のうち、前記振幅変調周波数に合致する電気的な狭帯域フィルタを通過した信号に基づいて、前記路面濡水検知信号(Sw)を生成するようにしたり、さらに同期検波やロックイン増幅回路の技術を用いて、検知確度を高めた前記路面濡水検知信号(Sw)を生成するよう、工夫することができる。
さらに、検出信号が正常に取得できた場合に、変調信号に対する検出信号の位相遅れを測定できるようにしておけば、前記投射ビーム(Fo)が路面に当たった地点と自車両の距離を推定することが可能となる。
【0040】
次に、本発明の車両運転支援装置の技術に関連する概念の概略図である
図3を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図は、車両の現在位置(Y)と未来位置(Y’)、さらに先の未来位置(Y”)を示したものであり、2本の2点鎖線で挟まれた領域は、ある瞬間の自車両の車体を路面に投影した領域を、車両の走行に伴って移動させ、和集合的・累積的に合成して形成される領域で、言うなれば自車両占有路面軌跡を表し、また2本の破線で挟まれた領域は、前記した自車両占有路面軌跡に対し、安全上必要な幅方向の余裕を付加した領域、すなわち走行帯を表す。
ただし、図の(a)は直進する場合、(b)は左へ進路を曲げる場合を描いてある。
なお、(a)のみには、参考のために車両通行帯境界道路標示(L)も描いてある。 (b)については、左へカーブする車両通行帯境界道路標示に沿って進行する場合と、車両通行帯境界道路標示を横切って車線変更する場合とがあり、図が煩雑になることを避けるため、車両通行帯境界道路標示の描画を省略してある。
【0041】
車両に搭載された車両運転支援システムは、運転者による現在の舵角やハンドル操作による舵角の変化速度、現在の車両の速度やアクセル操作による加速度、さらには撮像素子を用いて取得した前方の道路状況への分析を援用して、近い未来までの自車両の時々刻々の路面上の位置と向きをシミュレートすることにより、走行帯の形状を決定することができ、自車両または他車両の運転者、歩行者、環境状況検出器に認識させるための、自車両が走行する走行帯の境界近傍に投射すべき光パターンの形状を決定する。
ここで、投射すべき光パターンを、走行帯の境界線そのものとする場合もある。
ただし、どれだけ遠方の光パターンまで投射しなければならないかについては、自車両の速度に依存し、この速度が速いほど、投射すべき光パターンの重点は遠方に移る。
【0042】
車両運転支援システムは、投射光パターンの形状を表す情報を、路面上の平面座標から方位角座標 θ,ψ に変換し、本発明の車両運転支援装置の前記制御回路(Ec)に対し、例えば方位角目標値 θp,ψp の配列としてデータを送信する。
前記制御回路(Ec)は、受信した方位角目標値 θp,ψp の配列を繰り返し読み出して、前記光源変調信号(Ss)および前記方位角目標信号(Sp)を生成して前記コヒーレント光源(Ds)および前記路面投射光学系(Up)を制御する。
【0043】
ただし、前記路面濡水情報保持手段(Uw)が自車両周辺の路面が濡れている旨の情報を保持しているとき、すなわち前記路面濡水検知信号(Sw)がアクティブであるときは、前記した路面に対する入射角が浅いと判断するための光線が路面と成す角度 θ の下限値に対し、これを下回る θp を有する前記した θp,ψp の配列の部分を、前記路面投射光学系(Up)が指している期間は、前記制御回路(Ec)は、前記コヒーレント光源(Ds)が消灯するよう前記光源変調信号(Ss)を制御することにより、路面に対する入射角が浅く、かつ自車両が走行する走行帯の境界近傍に向けた、前記光パターン(Q)を投射する前記投射ビーム(Fo)の出力を停止する。
【0044】
ここで、路面が濡れていて、θ が下限値を下回り、かつ自車両が走行する走行帯の境界近傍に位置する光パターンのうち、左右何れのものの投射ビームを停止すべきかについては、状況に応じて決める必要がある。
車両が左側通行である場合、走行帯の左側の境界の外側は、車道の端(歩道または路側帯)、あるいは同一方向に進行する車両通行帯であって対向車両の車両通行帯ではないから、直進、もしくは左へ進路を曲げているときは、路面が濡れていて、θ が下限値を下回っていても、走行帯の左側の境界近傍の光パターンを投射する投射ビームを停止する必要は無い。
(ただし、歩行者への眩惑も回避すべきと判断する場合は、この条件でも投射ビームを停止する。)
【0045】
しかし、右へ進路を曲げているときは、濡れた路面での正反射光が対向車両の運転者の眼を直射する可能性があるため、走行帯の左側の境界近傍の光パターンを投射する投射ビームを停止する必要がある。
一方、走行帯の右側の境界の外側は、対向車の車両通行帯である可能性があるため、直進、もしくは左または右へ進路を曲げているときの何れであっても、路面が濡れていて、θ が下限値を下回っているときは、走行帯の右側の境界近傍の光パターンを投射する投射ビームを停止する必要がある。