特許第6376349号(P6376349)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6376349セレン、テルルおよび白金族元素の分離方法
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  • 特許6376349-セレン、テルルおよび白金族元素の分離方法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376349
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】セレン、テルルおよび白金族元素の分離方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20180813BHJP
   C22B 61/00 20060101ALI20180813BHJP
   C22B 1/04 20060101ALI20180813BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20180813BHJP
   C22B 5/00 20060101ALI20180813BHJP
   C22B 3/12 20060101ALI20180813BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   C22B11/00 101
   C22B61/00
   C22B1/04
   C22B7/00 H
   C22B5/00
   C22B3/12
   C22B3/10
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-39675(P2015-39675)
(22)【出願日】2015年2月28日
(65)【公開番号】特開2016-160479(P2016-160479A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】鍋井 淳宏
(72)【発明者】
【氏名】ミルワリエフ リナート
(72)【発明者】
【氏名】岡田 智
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−126800(JP,A)
【文献】 特開2007−270233(JP,A)
【文献】 特開2001−316735(JP,A)
【文献】 特開平11−293361(JP,A)
【文献】 特開2000−169117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 11/00
C22B 1/04
C22B 3/10
C22B 3/12
C22B 5/00
C22B 7/00
C22B 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレン、テルルおよび白金族元素を含有する溶液を還元処理してセレン、テルルおよび白金族元素が濃縮した還元滓を形成し、該還元滓を酸化焙焼してセレンを選択的に揮発させることによって焙焼残渣中のテルルおよび白金族元素とセレンとを分離することを特徴とするセレン、テルルおよび白金族元素の分離方法。
【請求項2】
セレン、テルル、および白金族元素を含有する溶液が脱銅電解スライムを塩化浸出処理した液から、さらに金を抽出した後液である請求項1に記載する分離方法。
【請求項3】
セレン、テルル、および白金族元素を含有する溶液に亜硫酸ガスまたは亜硫酸水素ナトリウム溶液を添加して、液中のテルルの濃度が0.5g/L以下になるまで、セレン、テルル、および白金族元素を還元濃縮する請求項1または請求項2に記載する分離方法。
【請求項4】
上記還元滓を、空気流通下、400℃〜700℃に焙焼して、テルルおよび白金族元素を焙焼残渣に残してセレンを選択的に揮発させる請求項1〜請求項3の何れかに記載する分離方法。
【請求項5】
酸化焙焼によって揮発した二酸化セレンガスを苛性ソーダ水溶液に通じて亜セレン酸ソーダを生成させ、さらに該亜セレン酸ソーダを含む液を中和し、亜セレン酸イオンを還元して金属セレンを回収する請求項1〜請求項4の何れかに記載する分離方法。
【請求項6】
焙焼残渣をアルカリ浸出してテルルを溶出させることによって焙焼残渣中の白金族元素と分離する請求項1〜請求項5の何れかに記載する分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱銅電解スライムの金抽出後液などに含まれているセレン、テルル、および白金族元素を効率よく分離し回収する処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅電解精製工程において電解槽内に沈積する銅電解スライムは、銅と共に金、銀、白金族元素などの様々な貴金属を含んでおり、貴金属回収の原料として利用されている。銅電解スライムから上記貴金属を回収する方法として、例えば、非特許文献1に記載されている処理方法が知られている。この回収方法では、銅電解スライムを脱銅処理した後に塩化浸出処理して金、白金族元素、セレン、テルルを浸出し、この浸出液に抽出溶媒を接触させて金を抽出する。次いで、金抽出後液に亜硫酸ガスを吹き込み、セレンとテルルと白金族元素を還元滓にして回収し、該還元滓からセレンを蒸留してテルルと白金族元素から分離する。
【0003】
また、金抽出後液から白金族元素とセレンおよびテルルを段階的に還元滓にして分離回収する処理方法が知られている。特許文献1(特開2001−316735号公報)には、金抽出後液に亜硫酸ガスを吹き込み、塩素イオン濃度を1.5モル/L以下に制御してセレンおよびテルルの沈澱を抑制しつつ白金族元素を還元滓にして分離し、次に白金族元素を分離した液分にさらに亜硫酸ガスを吹き込み、塩素イオン濃度を2モル/L以下および液中のセレン濃度を3g/L以上に制御してテルルの還元を抑制しながらセレンを還元滓にして分離し、この液分にさらに亜硫酸ガスを吹き込んでテルルを還元滓にして分離する処理方法が記載されている。
【0004】
さらに、上記処理方法において、白金族元素を還元滓にして分離した液分に亜硫酸ガスを吹き込んで沈澱させたセレン還元滓には、セレンと共にテルルやルテニウムおよびロジウムが含まれているので、該還元滓を水酸化ナトリウム水溶液でスラリーにしてセレンおよびテルルを浸出させ、一方、ルテニウムおよびロジウムを残浸出残渣中に濃縮させることによって、セレンおよびテルルとルテニウムおよびロジウムとを分離する処理方法が知られている(特許文献2:特開2007−270233号公報)。
【0005】
また、上記金抽出後液に亜硫酸ガスを吹き込んでセレン、テルル、および白金族元素を含む還元滓を形成し、この還元滓に苛性ソーダと硝酸ソーダの混合フラックスを添加して加熱溶融し、この溶融物を水浸出して、亜セレン酸ソーダを含む液分と、白金族元素を含む残渣に分離し、残渣の白金族元素を塩酸酸化浸出して回収する処理方法が知られている(特許文献3:特開2003−268457号公報)。
【0006】
また、上記金抽出後液からセレンとテルルを段階的に還元沈澱させた後に白金族元素を回収する処理方法が知られている。例えば、特許文献4(特開2004−190133号公報)には、金抽出後液に亜硫酸ガスを吹き込んで、先にセレンを還元沈澱させて分離し、次いでテルルを還元沈澱させ、上記セレン還元滓からセレンを蒸留分離する一方、テルル還元滓に含まれるセレンおよびテルルをアルカリ浸出してセレン、テルルを回収する一方、セレン蒸留残渣をアルカリ溶融した残渣と、テルル還元滓をアルカリ浸出した残渣とから白金族元素を塩化浸出して回収する処理方法が記載されている。
【0007】
一方、上記金抽出後液から白金族元素を溶媒抽出によって分離する処理方法が知られており、特許文献5(特開2001−207223号公報)には、金抽出後液に塩化トリオクチルメチルアンモニウムおよびリン酸トリブチルを接触させて白金族元素を抽出した後に、この抽出残液に亜硫酸ガスを吹き込んでセレンおよびテルルを還元して回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−316735号公報
【特許文献2】特開2007−270233号公報
【特許文献3】特開2003−268457号公報
【特許文献4】特開2004−190133号公報
【特許文献5】特開2001−207223号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. E. Hoffmann et al., Proceeding of Copper 95- Cobre 95 International Conference
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1の処理方法は、セレンとテルルと白金族元素を含む還元滓をセレン蒸留精製する際に蒸留セレン中のテルルの含有量が高くなり、高品位のセレンの回収ができない難点があった。
また、特許文献1、2の処理方法は、塩酸濃度、温度、亜硫酸ガス濃度、亜硫酸ガス量などのセレン還元時のパラメータが多いため、制御が難しく、白金族元素とセレン、テルルの回収率が低下するなどの問題がある。
さらに、セレンとテルルを段階的に還元する特許文献1、4の処理方法は亜硫酸ガスによる二段階還元処理の工程管理が非常に難しく、しかも何れの沈殿においてもセレン、テルルまたは白金族元素の混入が避けられない。さらに、セレン滓とテルル滓とを段階的に生成させる処理方法では、セレン滓とテルル滓に白金族元素が分散して含まれるようになるので白金族元素の回収率が低下し、またテルル滓のセレン含有量も多いのでセレンの回収率も低下するという課題があった。
一方、特許文献3の処理方法は、混合フラックスを用いた溶融工程の乾式処理の後に水浸出の湿式処理が続くので処理工程が複雑になる。
特許文献5の方法は、溶媒抽出によって白金族元素とセレン、テルルを分離し、有機溶媒中に白金族元素を抽出するが、その際にビスマスなどの不純物も同時に抽出されるため、抽出後の回収処理も煩雑で手間がかかる欠点がある。
【0011】
本発明は、従来方法の上記問題を解消した処理方法であり、銅電解スライム中の金を抽出した後液などから白金族元素を効率よく濃縮・回収し、さらにセレン、テルル、白金族元素の濃縮物からセレンを効率よく分離し、回収する処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
〔1〕セレン、テルルおよび白金族元素を含有する溶液を還元処理してセレンとテルルおよび白金族元素が濃縮した還元滓を形成し、該還元滓を酸化焙焼してセレンを選択的に揮発させることによって焙焼残渣中のテルルおよび白金族元素とセレンとを分離することを特徴とするセレン、テルルおよび白金族元素の分離方法。
〔2〕セレン、テルル、および白金族元素を含有する溶液が脱銅電解スライムを塩化浸出処理した液から、さらに金を抽出した後液である上記[1]に記載する分離方法。
〔3〕セレン、テルル、および白金族元素を含有する溶液に亜硫酸ガスまたは亜硫酸水素ナトリウム溶液を添加して、液中のテルルの濃度が0.5g/L以下になるまで、セレン、テルルおよび白金族元素を還元濃縮する上記[1]または上記[2]に記載する分離方法。
〔4〕上記還元滓を、空気流通下、400℃〜700℃で焙焼して、テルルおよび白金族元素を焙焼残渣に残してセレンを選択的に揮発させる上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する分離方法。
〔5〕酸化焙焼によって揮発した二酸化セレンガスを苛性ソーダ水溶液に通じて亜セレン酸ソーダを生成させ、さらに該亜セレン酸ソーダを含む液を中和し、亜セレン酸イオンを還元して金属セレンを回収する上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する分離方法。
〔6〕焙焼残渣をアルカリ浸出してテルルを溶出させることによって焙焼残渣中の白金族元素と分離する上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する分離方法。
【0013】
〔具体的な説明〕
本発明の方法は、セレン、テルル、および白金族元素を含有する溶液を還元処理してセレンとテルルおよび白金族元素が濃縮した還元滓を形成し、該還元滓を酸化焙焼してセレンを選択的に揮発させることによって焙焼残渣中のテルルおよび白金族元素とセレンとを分離することを特徴とするセレンとテルルおよび白金族元素との分離方法である。本発明の分離方法の概略を図1に示す。
【0014】
セレン、テルル、および白金族元素を含有する溶液(以下、セレンテルル白金族含有液と云う)としては、例えば、脱銅電解スライムを塩化浸出処理して、さらに金を溶媒抽出した後液を用いることができる。また、セレンテルル白金族含有液として、セレン、テルルおよび白金族を含有する酸性溶液であれば、本方法で処理することができる。
【0015】
〔還元工程〕
セレンテルル白金族含有液を還元処理してセレンとテルルと白金族元素が濃縮した還元滓を形成する。還元処理は上記含有液に還元剤を添加して撹拌し液中のセレン、テルル、および白金族元素を還元すれば良い。還元剤は亜硫酸ガス、亜硫酸水素ナトリウム溶液などを用いることができる。還元処理の液温は70℃〜80℃に加熱するのが好ましい。この還元処理によって上記含有液に含まれるセレン、白金族元素、およびテルルはメタルに還元され析出して還元滓が形成される。この還元滓を固液分離して回収する。
【0016】
還元工程において、セレンの酸化還元電位(約+0.74V 対標準水素電極(vs SHE))と白金族の酸化還元電位(約+0.73V〜+0.83V vs SHE)は近似しており、テルルの酸化還元電位(約+0.53V vs SHE)はセレンよりやや低いので、白金族元素とセレンの還元が先に進み、その次にテルルの還元が進む。従って、液中のテルル濃度が0.5g/L以下(酸化還元電位+0.53V vs SHE以下)、好ましくは0.1g/L以下(酸化還元電位+0.51V vs SHE以下)になるまで還元処理すれば、上記液に含まれるセレン、白金族元素、およびテルルの大部分を還元することができる。液中のテルルが上記濃度以下になるまで亜硫酸ガスを吹き込み、あるいは亜硫酸水素ナトリウム溶液を添加して還元滓を形成すれば良い。亜硫酸ガス吹込み量を上記酸化還元電位を参考にして制御しても良い。
【0017】
還元処理によって上記セレンテルル白金族含有液に含まれるセレン、白金族元素、およびテルルの大部分がメタルに還元され、セレンおよび白金族元素およびテルルが濃縮した還元滓が形成される。この還元処理の後にスラリーを固液分離して該還元滓を回収する。
【0018】
〔酸化焙焼工程〕
上記還元滓を酸化焙焼してセレンを揮発させる一方、テルルおよび白金族元素を焙焼残渣に残す。酸化焙焼は該還元滓を、空気流通下、400℃〜700℃、好ましくは450℃〜650℃に加熱すれば良い。還元滓を空気流通下、上記温度に加熱すると還元滓に含まれるセレンは二酸化セレンを生成して気化する。一方、還元滓に含まれるテルルのほとんどは酸化物になるが、二酸化テルルは上記温度範囲ではほとんど気化しないので白金族元素と共に還元滓に残る。このように該酸化焙焼によって、セレンと、テルルおよび白金族元素とを分離することができる。
【0019】
焙焼温度が400℃より低いとセレンが十分に揮発せず、また700℃より高いとテルルの揮発量が多くなるので好ましくない。焙焼時間は生成する二酸化セレンガスの濃度が低下して頭打ちになれば焙焼を終了すれば良い。例えば還元滓量が約45gのルツボ試験の場合には焙焼時間は約4時間程度で良い。
【0020】
酸化焙焼によって気化した二酸化セレンガスを苛性ソーダ水溶液に通じて亜セレン酸ソーダを生成させ、該亜セレン酸ソーダを含む液を中和し、該亜セレン酸ソーダを還元して金属セレンを回収することができる。具体的には、例えば、亜セレンソーダを含む液を硫酸性にしたのち、亜硫酸ガスを吹き込んで該溶液を還元すると、亜セレン酸イオンが還元されて金属セレンを生成するので、この金属セレンを回収することができる。苛性ソーダ水溶液の濃度は、発生する二酸化セレン量にもよるので限定しないが、液中のpHを8以上でコントロールすれば良い。
【0021】
酸化焙焼残渣にはテルル酸化物および白金族元素が含まれている。この焙焼残渣をアルカリ浸出してテルルを溶出させて回収することができる。一方、アルカリ浸出残渣から白金族元素を回収することができる。
【0022】
〔テルルの回収〕
酸化焙焼残渣を苛性ソーダ溶液などのアルカリ溶液に混合してテルルを浸出させることができる。このアルカリ浸出はpH13以上の強アルカリ性下で行えば、亜テルル酸イオンにして溶出させることができる。アルカリ浸出の液温は60℃以上が好ましい。このアルカリ浸出はアルカリ溶融と水浸出とを組み合わせて行ってもよい。例えば、酸化焙焼残渣に苛性ソーダと硝酸ソーダを、重量比で1:1:1になるように混合し、350℃〜500℃で5〜7時間加熱することによってアルカリ熔融処理し、このアルカリ熔融残渣に水を加えてスラリーにし、これを70℃〜90℃で0.5〜2時間加熱してアルカリ浸出してもよい。
【0023】
上記アルカリ浸出によってテルルは液中に溶出し、ロジウムやパラジウムなどの白金族元素は溶出せずに浸出残渣中に残る。また、セレンは酸化焙焼によって先に分離されているので、テルルのみを選択的に溶出させることができる。これを濾別してテルル浸出液を回収し、該テルル浸出液に硫酸または塩酸を加えて中和すると二酸化テルルの沈澱が生成する。この沈澱の二酸化テルル品位は概ね99質量%以上であり、高品位の二酸化テルルを回収することができる。
【0024】
〔白金族元素の回収〕
上記アルカリ浸出残渣に過酸化水素などの酸化剤を塩酸と共に添加して白金族元素を溶出させることができる。この塩化浸出処理によって白金族元素は塩化物錯体を形成して溶出する。この浸出液に塩化アンモニウム溶液を添加すると白金が塩化白金酸アンモニウムを形成して選択的に沈澱するので、この沈殿を濾別して、800℃〜950℃にすることによって金属白金を回収することができる。一方、濾液にはパラジウムなどが残り、この濾液にアンモニア水を添加するとパラジウムを含む沈澱が生成するので、これを回収して800℃以上に加熱するとスポンジ状の金属パラジウムを得ることができる。ロジウムとルテニウムについても公知の方法によって精製し、回収することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の分離方法は、セレンテルル白金族元素含有液の還元処理において、セレンおよびテルルと白金族元素の大部分を同時に還元して還元滓中に濃縮するので、従来の方法よりも還元処理が容易である。白金族元素とセレン、テルルを段階的に還元する従来の方法は還元処理が煩雑になるだけでなく、セレン滓とテルル滓に白金族元素が分散して含まれるので白金族元素の回収率が低下するが、本発明の分離方法は還元処理を段階的に行うものではないので、還元処理が容易であり、セレン、テルル、白金族元素の回収率を高めることができる。
【0026】
また、本発明の分離方法は、還元滓を酸化焙焼することによって、セレンを選択的に気化してテルルおよび白金族元素と分離するので、テルルおよび白金族元素が混入しない高純度のセレンを回収することができる。
【0027】
さらに、本発明の分離方法は、セレンを分離した焙焼残渣を、例えばアルカリ浸出してテルルを溶出させることによって、テルルと残渣中に残る白金族元素とを容易に分離することができ、また、セレンは酸化焙焼によって先に分離されているので、アルカリ浸出によってセレンが混入しないテルル浸出液を得ることができ、高純度の二酸化テルルを容易に回収することができる。
【0028】
一方、アルカリ浸出残渣にはセレンおよびテルルが実質的に含まれておらず、高い回収率で高濃度の白金族元素濃縮物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の分離方法の概略工程図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を示す。セレン、テルル、白金族元素の濃度は誘導結合プラズマ発光分光分析装置を用いて測定した。表中の−印は検出限界以下を示す。
【0031】
〔実施例1〕
セレンテルル白金族元素含有液として脱銅電解スライムを塩化浸出処理して金、白金族元素、セレン、テルルを浸出し、さらに金を抽出した後液を用い、該含有液500mLを70℃付近まで加熱した後に、亜硫酸水素ナトリウム水溶液(濃度300g/L)を滴下しながら撹拌し、酸化還元電位とセレン濃度、テルル濃度の経時変化を測定した。反応時間5時間後、溶液中のテルル濃度が0.01g/L(酸化還元電位0.51V vs SHE)まで低下した後、スラリーをろ過して、還元後液1.0Lと還元滓44g(湿潤重量)とを得た。
セレンテルル白金族元素含有液、還元後液、還元滓に含まれるセレン、テルル、白金族元素の含有量を表1に示す。還元後液中のセレン濃度は0.005g/Lであって極めて低く、また白金族元素は検出限界以下であったことから、セレン、テルルおよび白金族元素の99質量%以上が還元されて還元滓中に濃縮している。
上記還元滓44g(湿潤重量)を、焙焼温度650℃、空気流量1L/minの条件で4時間、酸化焙焼を行い、焙焼残渣1.48gを得た。酸化焙焼によって揮発した二酸化セレンガスは苛性ソーダ水溶液(濃度1mol/L)2Lに通じ、セレン回収液を得た。この結果を表1に示す。
表1に示すように、焙焼残渣中のセレン量は49mgであり、還元滓に含まれるセレン(33.9g)の99.9質量%が揮発して分離された。一方、還元滓に含まれるテルルの96.7質量%、また白金族元素の全量が焙焼残渣に残っている。また、酸化焙焼後のセレン回収液中のセレン濃度は17g/L、テルル濃度は20ppmであり、白金族元素(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム)は検出されなかった。
【0032】
【表1】
【0033】
〔実施例2〕
実施例1で得た還元滓44g(湿潤重量)を用い、焙焼温度450℃、空気流量1L/min、焙焼時間4時間の条件で酸化焙焼を行い、焙焼残渣1.49gを得た。酸化焙焼によって揮発した二酸化セレンガスは苛性ソーダ水溶液(濃度1mol/L)2Lに通じ、セレン回収液を得た。焙焼残渣とセレン回収液に含まれるセレンとテルルおよび白金族元素の含有量を表2に示す。
焙焼残渣のセレン量は55mgであり、還元滓に含まれるセレン(33.9g)の99.9質量%が揮発して分離された。一方、還元滓に含まれるテルルの97.5質量%、白金族元素の全量が焙焼残渣に残っている。また、酸化焙焼後のセレン回収液中のセレン濃度は17g/L、テルル濃度は15ppmであり、白金族元素(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム)は検出されなかった。
【0034】
【表2】
【0035】
〔実施例3〕
実施例1で得た酸化焙焼残渣1.48gに水100mLと苛性ソーダ水溶液を加えてpH13以上に調整し、80℃に加熱して1時間テルルを溶出させ、アルカリ浸出残渣0.24gとアルカリ浸出液110mLを得た。次にアルカリ浸出液にpH6になるように塩酸を加えて中和し、生成した沈澱を固液分離・乾燥し、二酸化テルル1.37g(テルル換算1.10g)と中和液120mLを回収した。アルカリ浸出残渣、二酸化テルル、および中和後液のセレンとテルルおよび白金族元素の含有量を表3に示す。テルルの95.7質量%、セレンの全量を溶出することができ、白金族元素濃縮物が得られた。
【0036】
【表3】
【0037】
〔比較例1〕
実施例1で用いたセレンテルル白金族元素含有液500mLを70℃付近まで加熱した後に、亜硫酸水素ナトリウム水溶液(濃度300g/L)を滴下しながら撹拌し、液中セレン濃度が約10g/Lになるまでセレン滓を生成させた後、冷却し、濾過して、濾液700mLとセレン滓33.9g(湿潤重量)を得た。この濾液700mLに引き続き亜硫酸水素ナトリウム水溶液(濃度300g/L)を滴下しながら撹拌してテルル滓を生成させた後に冷却し、濾過して、還元後液1.0Lとテルル滓10.0g(湿潤重量)を得た。セレン滓、テルル滓、還元後液の成分を表4に示す。
このようにセレン滓とテルル滓を段階的に生成させる還元処理では、セレン滓中に白金とパラジウムは濃縮されるが、ロジウムとルテニウムはセレン滓とテルル滓に分配されており、白金族元素の回収が面倒になる。
【0038】
【表4】
【0039】
〔参考例1〕
焙焼温度を350℃にした以外は実施例1と同様に還元処理と酸化焙焼を行い、焙焼残渣18.2gを得た。酸化焙焼によって揮発した二酸化セレンガスは苛性ソーダ水溶液(濃度1mol/L)2Lに通じてセレン回収液を得た。焙焼残渣の成分を表5に示す。この結果に示すように、焙焼温度が350℃では還元滓中のセレンが51質量%しか揮発せず、セレンとテルルおよび白金族元素との分離が不十分になる。
【0040】
【表5】
【0041】
〔参考例2〕
焙焼温度を750℃にした以外は実施例1と同様に還元処理と酸化焙焼を行い、焙焼残渣1.47gを得た。酸化焙焼によって揮発した二酸化セレンガスは苛性ソーダ水溶液(濃度1mol/L)2Lに通じてセレン回収液を得た。焙焼残渣の成分を表6に示す。この結果に示すように、還元滓に含まれるセレンの99.9質量%が揮発し、焙焼残渣中にテルル、白金族元素が濃縮される。また、セレン回収液中のセレン濃度は17g/Lであり、白金、パラジウム、ロジウムとルテニウムはセレン回収液中に含まれていなかった。しかし、該セレン回収液中のテルル濃度は340ppmと高く、高純度(3N)のセレンを回収するには適さない。
【0042】
【表6】
図1