特許第6376366号(P6376366)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ケミラ ユルキネン オサケイティエの特許一覧

<>
  • 特許6376366-安定化サイズ製剤 図000013
  • 特許6376366-安定化サイズ製剤 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376366
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】安定化サイズ製剤
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/16 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
   D21H21/16
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-549479(P2016-549479)
(86)(22)【出願日】2015年2月6日
(65)【公表番号】特表2017-505389(P2017-505389A)
(43)【公表日】2017年2月16日
(86)【国際出願番号】FI2015050076
(87)【国際公開番号】WO2015118228
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2017年5月25日
(31)【優先権主張番号】20145118
(32)【優先日】2014年2月6日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】504186286
【氏名又は名称】ケミラ ユルキネン オサケイティエ
【氏名又は名称原語表記】KEMIRA OYJ
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100087594
【弁理士】
【氏名又は名称】福村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ストゥレンゲル,リーッタ
(72)【発明者】
【氏名】リンドフォース,ユハ
(72)【発明者】
【氏名】ヒヴァリネン,サリ
(72)【発明者】
【氏名】ヴオティ,サウリ
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−519441(JP,A)
【文献】 特開2004−149573(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0188054(US,A1)
【文献】 特表2003−519732(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/145828(WO,A1)
【文献】 米国特許第05647898(US,A)
【文献】 特開平03−059191(JP,A)
【文献】 特開平02−127594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00 − 1/38
D21C 1/00 − 11/14
D21D 1/00 − 99/00
D21F 1/00 − 13/12
D21G 1/00 − 9/00
D21H 11/00 − 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイズ剤と、キシラン若しくはアラビノガラクタン又はこれらの混合物を含む変性非食物多糖とを含有し、該変性非食物多糖が非食物多糖をカチオン性荷電アミノ試薬で変性することによって得られ、前記サイズ剤に対する前記変性非食物多糖の割合が0.05〜1であることを特徴とする安定化サイズ製剤。
【請求項2】
前記サイズ剤が、AKD若しくはASA又はこれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載の安定化サイズ製剤。
【請求項3】
前記非食物多糖が、キシラン若しくはアラビノガラクタン又はこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の安定化サイズ製剤。
【請求項4】
前記カチオン性荷電アミノ試薬がグリシジルトリメチルアンモニウムクロリドであることを特徴とする、請求項1に記載の安定化サイズ製剤。
【請求項5】
前記変性非食物多糖の置換度が0.03〜1.5であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の安定化サイズ製剤。
【請求項6】
前記サイズ製剤が、分散液の形態にあることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の安定化サイズ製剤。
【請求項7】
前記サイズ剤と、キシラン若しくはアラビノガラクタン又はこれらの混合物を含む前記変性非食物多糖であって、該変性非食物多糖が非食物多糖をカチオン性荷電アミノ試薬で変性することによって得られる変性非食物多糖とを水溶液中で接触させ、次いで、140bar〜160barの圧力で均質化させることによって分散液を形成することを特徴とする、請求項1に記載の安定化サイズ製剤の製造方法。
【請求項8】
紙又は紙製品をサイズ処理するために使用される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の安定化サイズ製剤。
【請求項9】
前記安定化サイズ製剤のパルプへの投与量が0.5kg/t〜3kg/tであることを特徴とする、請求項8に記載の安定化サイズ製剤。
【請求項10】
カチオン性荷電アミノ試薬と反応させることによって多糖を官能基化して、変性非食物多糖を製造することを含む請求項1に記載の安定化サイズ製剤を製造する方法であって、
i.帯電剤、水、及び触媒量の塩基の混合物を作り、該混合物を室温よりも高い温度で十分に攪拌し、
ii.段階iで得られた混合物に、キシラン若しくはアラビノガラクタン又はこれらの混合物を含む前記非食物多糖と少量の水とを入れ、得られた混合物を一定温度で数時間攪拌し、次いで
iii.結果として得られたカチオン性帯電非食物多糖を、回収の前に洗浄及び濾過する段階を有することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製紙に関し、特に製紙において使用される安定化サイズ製剤と紙をサイズ処理する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
紙をサイズ処理とは、元からある繊維ネットワークを疎水性にし、水又は他の水性液体が紙の中に侵入するのを防止又は減少させることである。サイズ処理はインク又は捺染染料が広がって滲み出すのを防ぐ。抄紙繊維は水と相互作用する傾向が強い。この性質は、特に乾燥中に強い繊維間水素結合が広がって行くのに重要であるが、再湿潤されるとその強度を失う理由でもある。タオルやティッシュ等のある種のグレードの紙には高い吸水性を有することが重要である。また、段ボール媒体紙も、波形成形工程で適切に変形するためには、ある程度は吸水しなくてはならない。その一方で、このような性質は多くの種類のグレードの紙、例えば、液体包装材、段ボール紙の最外層、筆記及び印刷用紙、並びに大部分の特殊紙にとっては不都合である。紙料にサイズ剤を添加することによって及び/又は紙の表面にサイズ剤を塗布することによって、水及び液体の吸収性を減少させることができる。
【0003】
1950年代から、ペースト製剤、分散液製剤、強化製剤形態等の様々な形態のロジン系サイズ剤、アルキルケトン二量体(AKD)サイズ剤、アルケニル無水コハク酸(ASA)サイズ剤、及びポリマーサイズ剤(PSAs)と称されることがある主としてアクリル酸スチレンとマレイン酸スチレンとを基材とするポリマーが市場に出ている。今日、紙力増強用の澱粉及び紙コーティング用のポリマーバインダ以外で、サイズ剤は製紙において最も重要な品質向上添加剤である。
【0004】
製紙工程で添加されると、サイズ剤のエマルジョンが製造される。製紙工程における紙力増強剤以外の用途の内、カチオン化澱粉がサイズ剤エマルジョン又は分散液の安定化剤としても一般的に使用されている。純粋な澱粉は、冷水又はアルコールに溶解しない白色で無味無臭の粉末である。澱粉は2つのタイプの分子からなっており、それは、次に示す直鎖状及び螺旋状アミロースと分岐アミロペクチンとである。
【0005】
【化1】
【0006】
【化2】
【0007】
澱粉を取り出す植物に応じて、澱粉は20重量%〜25重量%のアミロースと、75重量%〜80重量%のアミロペクチンとを含有している。
【0008】
ガラクトマンナンは、ガラクトース側基を有するマンノース主鎖からなる多糖である。上部に分岐ガラクトースを有するマンノースの主鎖を見せているガラクトマンナンの一部分を以下に示す。
【0009】
【化3】
【0010】
グアーガムなどの非イオン性ガラクトマンナンが、制御された環境下で、ASAサイズ剤のエマルジョン中で使用されてきた。このようなASA−グアーガムエマルジョンは、デポジションロータを用いた様々な処理に付されていた。通常、エマルジョン中でのグアーガムの使用量が多ければ多いほど、エマルジョンは安定になる。界面活性剤をさらに使用すると、沈着量が減り、エマルジョンの平均粒径は小さくなる。
【0011】
US 4606773においては、アルケニル無水コハク酸(ASA)型の紙サイズ剤が、乳化剤としてのカチオン性水溶性ポリマーとカチオン澱粉とを用いて製造されている。この文献に開示されている方法においては水溶性ポリマーが乳化剤として使用されている。カチオン性を有するように変性された分子量が20,000〜750,000であるポリマーが、水溶性のカチオン澱粉と共に使用されており、カチオン澱粉とポリマーとの重量比は75:25〜25:75である。
WO 2008/145828 A1は、サイズ組成物中に存在していてもよいキシランエステルを開示している。このエステルは、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、又は酪酸等の短鎖脂肪族カルボン酸とキシランとを反応させることによって製造される。
【0012】
ASAの安定化のためにカチオン化澱粉を投与する際には、通常、澱粉とASAとの比が1:1〜4:1の範囲になるようにする。さらに、使用される澱粉は重要な栄養源である。したがって、将来のためにより長期に亘る維持が可能な溶液を開発するためには、製紙で用いる乳化剤として食物基材ではない薬剤を含有するサイズ剤を開発して用いることが非常に有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】US 4606773
【特許文献2】WO 2008/145828 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、紙及び紙製品の製造に使用する安定なサイズ製剤を提供することである。
【0015】
本発明の更なる目的は、成分が食物に由来せず、それ故に使用時により長期に亘って維持することのできる、サイズ製剤を提供することである。
【0016】
本発明の更に別の目的は、サイズ製剤で使用するのにより効率の良い安定化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、非食物性・反栄養素性の多糖の変性誘導体を提供する。サイズ製剤において変性多糖は安定化剤として成功裡に使用されており、本発明による紙及び紙製品の製造に特に適している。
【0018】
一般に、澱粉はサイズ剤の安定化剤として使用されてきた。本発明は、魅力的でより長期に亘って維持することができ、食物に由来しない、澱粉の代替品を提供する。技術的な目的には、栄養として重要な澱粉を使用する代わりに、環境に優しいバイオポリマーを使用するのがよい。
【0019】
澱粉を非食物性で反栄養素性の多糖に置換することの効果の1つは、栄養目的でより多くの澱粉を使用することができるようになることである。
【0020】
本発明の方法と製品との他の効果は、サイズ製剤に必要な安定化効果を与える非食物多糖の濃度が他の安定化剤に比べて非常に低いので、安定化効果を向上させることができることである。したがって、例えば、澱粉の必要量に比べて、本発明によると、必要とされる多糖はかなり少量である。このことによって、サイズ剤エマルジョンの製造コストをさらに下げることができ、結局は、サイズ製剤のコストも下げることができる。
【0021】
より少量の安定化剤を用いて必要な安定化効果を与えることの別の利点としては、後続の処理で必要な薬剤の量も減らすことができることである。澱粉を安定化剤として使用した場合には、澱粉は紙の中に完全には保持されない。保持されない材料は製紙工程の溶離剤に含まれることになる。したがって、澱粉を使用すると、製紙工程の廃水中の有機物負荷が増加する。本発明による変性したキシラン又はアラビノガラクタン等の非食物多糖が使用されると、必要な安定化剤の量は著しく少なくなり、廃水の有機物負荷も低下させる。
【0022】
本発明は、サイズ製剤中で高い安定化効果を与える、変性した非食物多糖を製造する方法を提供する。
【0023】
本発明は、安定化サイズ製剤と該安定化サイズ製剤を製造する方法もさらに提供する。製剤の使用についても記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】GTACカチオン化キシランがASAサイズ製剤を安定化するのに用いられている紙シートから測定された、コッブ60疎水性試験の結果を示している。
図2】GTACカチオン化アラビノガラクタンがASAサイズ製剤を安定化するのに用いられている紙シートから測定された、コッブ60疎水性試験の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
非食物性多糖という用語によって、栄養飲食物源を提供しない多糖が意味される。澱粉と異なり、非食物多糖は栄養上の目的で使用することはできない。
【0026】
非食物多糖としては、グルコースの繰り返し単位の長鎖からなる非消化性の非澱粉多糖(NSP)を挙げることができる。非澱粉多糖におけるグルコース単位は、澱粉とは異なり、β-アセタール連鎖結合によって結合している。β-アセタール結合は、消化管の酵素によっては開裂することができない。非澱粉多糖としては、例えば、セルロース、ヘミセルロース、ゴム、ペクチン、キシラン、マンナン、グルカン及び粘液を挙げることができる。小麦に含まれている通常のNSPはアラビノキシランとセルロースである。好ましくは、本発明の非食物多糖は、キシラン、アラビノガラクタン、又はこれらの組み合わせから選択される。
【0027】
一態様において、本発明の安定化サイズ製剤は、サイズ剤と、キシラン若しくはアラビノガラクタン又はこれらの組み合わせとを含む変性非食物多糖とを有している。
【0028】
キシラン(CAS番号:9014-63-5)は、高度に複雑な多糖の一例であり、植物の細胞壁及びある種の海藻中に見出される。キシランは、五炭糖であるキシロース単位から作られる多糖である。キシランは、植物の細胞壁中では、セルロースとほぼ同程度に一般的なものであり、主として、セルロースにおけるのと同様に連結しているβ-D-キシロース単位を含有している。キシランの化学式は以下のように示すことができる。
【0029】
【化4】
【0030】
この式において、nはキシロース単位の数である。
【0031】
非食物多糖の他の具体例はアラビノガラクタンである。これは、アラビノースとガラクトース単糖類とから成るバイオポリマーである。天然には二種類のアラビノガラクタンが見出されており、それらは植物アラビノガラクタンと微生物アラビノガラクタンである。植物においては、アラビアゴム及びガティガムを含む多数のゴムの主要な成分である。アラビノースもガラクトースも両方ともフラノース配置の中にのみ存在する。アラビノガラクタンの構造の一例は以下の式(5)によって示される。
【0032】
【化5】
【0033】
カラマツの木(larix laricina)の木質部から得られるアラビノガラクタンは、6:1のモル比のD-ガラクトース及びL-ガラクトースと少量のD-グルクロン酸とによって成っている。アラビノガラクタンは様々な植物に見出されるが、ウエスタンラーチ(western larch)(Larix occidentalis)により豊富に含まれる。
【0034】
本発明の一面においては、変性非食物多糖の製造方法が提供される。非食物多糖の性質は、様々な薬剤で官能基化又は誘導体化することによって変性することができる。疎水性及び/又は可塑性等の変性された多糖の特性は、エステル基及び/又はエーテル基をヘミセルロースの主鎖に導入して変性することによってさらに高めることができる。置換基の質、置換度、主鎖のタイプ、残っている主鎖の分子量に応じて、溶解度及び熱的性質は注目に値するほど変えることができ、分散特性はさらに高めることができる。
【0035】
ここに開示されている方法は、非食物多糖を帯電させることのできる官能基化剤を用いた官能基化によって非食物多糖を変性することを含む。非食物多糖は、カチオン性又はアニオン性を示すように変性することができる。この帯電を行うのにはいくつかの方法を用いることができる。
【0036】
本発明の非食物多糖は、該多糖を適当なカチオン化剤でカチオン化することによって帯電される。非食物多糖をカチオン性に帯電するこの方法は次の段階を有する。
i. 帯電剤、水、及び触媒量の塩基の混合物を作り、この混合物を室温よりも高い一定温度で十分に攪拌し、
ii. 段階iで得られた混合物に非食物多糖と少量の水とを入れ、得られた混合物を一定温度で数時間攪拌し、次いで
iii.結果として得られた帯電非食物多糖を、回収の前に洗浄及び濾過する。
【0037】
本発明による好ましい反応方法においては、非食物多糖を荷電アミノ試薬と反応させることによって帯電非食物多糖を製造する。荷電アミノ試薬と水と触媒量の塩基とを十分に混合し、室温より高い一定温度に保つ。非食物多糖と、少量の水、好ましくは荷電アミノ試薬のモル量の10%未満の量の水とをこの混合物に入れる。得られた混合物を、好ましくは少なくとも12時間、前記一定温度で攪拌する。得られた生成物を、好ましくはアルコールと水とで洗浄して濾過する。
【0038】
一態様において、非食物多糖はキシラン若しくはアラビノガラクタン又はこれらの混合物を含有する。
【0039】
好ましくは、塩基は金属水酸化物であり、より好ましくはNaOH又はKOHであり、最も好ましくはNaOHである。触媒量の塩基とは、非食物多糖のモル量の、好ましくは0.01〜50%、より好ましくは0.01〜10%の量の塩基である。荷電アミノ試薬は、好ましくはカチオン性に帯電したアミノ試薬であり、より好ましくは、2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(EPTA)、2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(HPMA)、グリシジルトリエチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリエチルアンモニウムブロミド又はグリシジルトリエチルアンモニウムのメチル硫酸塩、グリシジルトリプロピルアンモニウムクロリド、グリシジルトリプロピルアンモニウムブロミド又はグリシジルトリプロピルアンモニウムのメチル硫酸塩、及びグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GTAC)から選択される。最も好ましくは、荷電アミノ試薬はグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GTAC)である。好ましくは、段階i及びiiにおける温度は35〜50℃であり、より好ましくは約45℃等の40〜50℃である。
【0040】
本発明の一態様において、得られるカチオン性非食物多糖誘導体は、高い置換度で四級アンモニウム基を含むのが好ましい。これらのカチオン性非食物多糖誘導体は、様々な反応媒体中で、多糖と好ましくはグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GTAC)との反応によって製造される。GTACの水溶液中で、エポキシ基の従来技術による加水分解と共に多糖と塩化物イオンとの相互作用も起こる。このような反応によって、水酸イオンが形成され、この水酸イオンがGTACエポキシ基の加水分解を促進し、GTACと多糖との反応における内部触媒として作用する。このようにして、置換度の高いカチオン性多糖を得ることができる。GTACの非食物多糖との自己触媒反応は、温度が高い方がより速く進行するが、反応効率は低くなる。外部触媒の不存在下で、ナトリウム塩類が触媒として用いられた場合には、特定量の自由水が反応系中にある場合のみに多糖とGTACとの反応が進行する。塩基、好ましくはNaOHが触媒として使用される場合は、反応効率は約90%である。非食物多糖の変性が開始するのに必要な量の2倍又は3倍の量の自由水があると、非食物多糖のカチオン化反応による収量が減少する。
【0041】
本発明でカチオン化される好適な非食物多糖はキシラン及びアラビノガラクタン又はこれらの混合物である。
【0042】
帯電剤は市販の薬剤から選択することができる。
【0043】
一態様において、帯電剤としてグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GTAC)を用いてキシランをカチオン化する。GTACと水と触媒量のNaOHとを十分に混合し、混合物を45℃に予熱する。キシランと、追加で少量の水、好ましくは前記荷電アミノ試薬のモル量の10%未満の量の水とを予熱した混合物に加え、得られた混合物を前記一定の温度、即ち45℃で約16時間十分に攪拌する。混合物を引き続いてアルコール、好ましくはエタノールと水で洗浄し、濾過する。
【0044】
反応機構は次の通りである。
【0045】
【化6】
【0046】
カチオン化試料の置換度(DS)は、良く知られているケルダール法で窒素量を分析し、以下の式を用いて試料中の窒素の全量からDSを算出することによって求めることができる。
【0047】
【数1】
【0048】
ここにおいて、Nはケルダール法で推定した窒素量(%)であり、132は繰り返し単位の分子量であり、151.5はGTACの分子量である。
【0049】
置換度(DS)は、荷電アミノ試薬、試薬の割合、及び反応条件に依存する。以下の表1は、45℃で製造され、反応時間が16時間経過した時点で試験したカチオン性キシラン試料のいくつかにおいて、これらのパラメータがDSに与える影響を示している。
【0050】
【表1】
【0051】
別の態様において、カチオン性帯電剤としてグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GTAC)を用いてアラビノガラクタンをカチオン化する。GTACと水と触媒量のNaOHとを十分に混合し、混合物を45℃に予熱する。次いで、アラビノガラクタンと、追加で少量の水、好ましくは20モル%未満、より好ましくは10モル%未満の量の水とを予熱した混合物に加え、得られた混合物を前記一定の温度、即ち45℃で約16時間十分に攪拌する。混合物を引き続いてアルコール、好ましくはエタノールと水で洗浄し、濾過する。
【0052】
以下の表2は、試験したカチオン性アラビノガラクタン試料のいくつかにおいて、荷電アミノ試薬及び試薬の割合がDSに与える影響を示している。
【0053】
【表2】
【0054】
追加で加える少量の水は、好ましくは20%未満、好ましくは5〜20%、より好ましくは6〜15%、また、一層好ましくは6〜10%である。
【0055】
変性非食物多糖の置換度は、好ましくは0.03〜1.5である。GTACで帯電させたキシランの置換度は、好ましくは0.1〜1.5であり、より好ましくは0.1〜1.1である。一方、GTACで帯電させたアラビノガラクタンの置換度は、好ましくは0.75〜1.5であり、より好ましくは0.8〜1.2である。
【0056】
本発明の他の面においては、安定化されたサイズ製剤は、サイズ剤とカチオン性帯電非食物多糖を有して提供される。
【0057】
製剤に含まれるサイズ剤は、好ましくは、アルキルケトン二量体(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)、又はこれらの混合物である。製剤中のASAの量は、製剤の重量に対して1〜3重量%であり、好ましくは1〜2重量%であり、最も好ましくは1.2〜1.3重量%であり、例えば1.24〜1.26重量%である。
【0058】
一態様において、安定化サイズ製剤はASA又はAKDとカチオン化キシランを有している。この多糖は、GTACを用いることによって最も効果的にカチオン化することができ、置換度は好ましくは1.1未満であり、より好ましくは0.03〜0.98である。
【0059】
別の好ましい態様においては、安定化サイズ製剤はASA又はAKDとカチオン化アラビノガラクタンとを有している。この多糖は、GTACを用いることによって最も効果的にカチオン化することができ、置換度は好ましくは0.75〜1.1であり、より好ましくは0.9〜1.0である。
【0060】
安定化サイズ製剤における帯電された官能基化非食物多糖の量とサイズ剤の量との比は0.05:1〜1:1、好ましくは0.07:1〜0.5:1、より好ましくは0.09:1〜0.11:1である。このようなカチオン化多糖の量は、対応する澱粉の必要量、また参照試験で使用される多糖の量よりもかなり少ない。同じ安定化効果を与えるのに必要な澱粉の量は大凡20倍を超えるものとなる。
【0061】
本発明による安定化サイズ製剤は、好ましくは分散液の形態にあり、より好ましくはエマルジョンの形態にある。
【0062】
一態様において、エマルジョン型サイズ製剤におけるASAの量は1.25重量%であり、GTACでカチオン化して変性されたキシレンの量とASAとの比は約0.1:1である。
【0063】
別の態様において、エマルジョン型サイズ製剤におけるASAの量は1.25重量%であり、GTACでカチオン化して変性されたアラビノガラクタンの量とASAとの比は約0.1:1である。
【0064】
本発明の製剤は、例えば、Fennopol K 3400 R のような、一般に使用されている、又は容易に入手することのできる市販の乳化剤若しくは歩留向上剤、又はPACのような促進剤をさらに含むことができる。非食物多糖を帯電することによって、明らかな歩留向上効果が得られる。
【0065】
本発明のサイズ製剤のパルプ1トン当たりの投与量は、製剤が帯電した非食物多糖の安定化剤を有している場合は、0.5〜3kg/tである。アラビノガラクタン基材のサイズ製剤の必要量は、キシラン基材のサイズ製剤を用いた場合よりも、わずかに多く、好ましくは約30%多いことが見出された。
【0066】
本発明の更なる面においては、安定化サイズ製剤を製造する方法が提供される。サイズ剤と帯電した非食物多糖とを水溶液中で接触させ、それによって分散液を形成する。
【0067】
一態様において、カチオン性非食物多糖を、まず、水又は水溶液に溶解させ、引き続いてそこにサイズ剤を入れる。次いで、得られた混合物を均質化する。効率的な混合を確実に行うためには、サイズ剤を帯電した非食物多糖の水溶液と混合するのが好ましい。
【0068】
好ましくは、水性混合物を均質化することによってサイズ製剤を形成する。均質化は、高圧で、好ましくは140〜160 barの圧力で行うことができる。
【0069】
本発明のさらに別の面においては、前記安定化サイズ製剤を紙又は紙製品をサイズ処理するための使用が提供される。パルプ完成紙料1トン当たりのサイズ製剤の好適な投与量は0.5〜3 kg/tである。
【0070】
サイズ製剤の安定性は、ハンドシート(handsheets)を製造し、サイズ製剤を使用した製造プロセスで得られるこの紙製品のコッブ値を測定することによって評価することができる。コッブ60値は、ISO規格535:1991(E)に従って、サイズ処理した紙の吸水度を示す。
【0071】
本発明による安定化サイズ製剤を用いると、コッブ60値は、安定化剤として澱粉を使用して得られた紙製品のコッブ60値に匹敵する。ある製剤においては、コッブ60値は、澱粉基材の製剤で測定したものよりも低くすらなる。このように、安定化能力又は最終的な紙製品の品質を犠牲にすることなく、澱粉で安定化したサイズ製剤を非食物多糖で置き換えることが可能である。
【0072】
帯電した変性非食物多糖は、澱粉の必要量よりも明らかに少ない量の、場合によっては1/10又は1/20にも低減した量で同等の効果を得ることができる。サイズ製剤のエマルジョン中の安定化剤の量は、安定化剤としての澱粉に比べて1/20程度に大きく低減されている。これは、流出水中の化学的負荷と流出水の後処理及び再循環とに特に効果がある。
【0073】
カチオン性官能基及びアニオン性官能基の両方を有する変性非食物多糖を製造することも可能である。しかしながら、コッブ60値に関する試験結果では、そのような製剤の性能は単にカチオン性に変性された非食物多糖に劣ることが示されている。
【0074】
以下において、本発明を制限することを意図しない例を参照して本発明をより詳細に具体的に記載する。
【0075】
(例)
(例1)
市販の非食物多糖であるキシランから置換度の異なる5つの試料を作製した。
【0076】
GTAC(Reisacat、チバ−ビーエーエスエフ(Ciba-Basf))、H2O、及び触媒量のNaOHを反応フラスコ中で十分に混合した。そして、直ちに、反応フラスコを45℃に予備加熱した水浴に入れた。次いで、キシランと追加の少量の水とを混合物に添加し、添加後の混合物を一定の温度で16時間十分に攪拌した。得られた混合物をエタノールと水で洗浄し、濾過した。
【0077】
このようにして作った混合物を、膜カットオフ1000〜3000を用いて、最終的に限外濾過/透析した。薬剤の具体的な量については、詳細は表3を参照されたい。
【0078】
NMR分析用の試料を真空で乾燥した。
【0079】
【表3】
【0080】
(例2)
市販の非食物多糖であるアラビノガラクタンから置換度の異なる7つの試料を作製した。
【0081】
GTAC(Reisacat、チバ−ビーエーエスエフ(Ciba-Basf))、H2O、及び触媒量のNaOHを反応フラスコ中で十分に混合した。そして、直ちに、反応フラスコを45℃に予備加熱した水浴に入れた。次いで、アラビノガラクタンと追加の少量の水とを混合物に添加し、添加後の混合物を一定の温度で16時間十分に攪拌した。得られた混合物をエタノールと水で洗浄し、濾過した。
【0082】
このようにして作った混合物を、膜カットオフ1000〜3000を用いて、最終的に限外濾過/透析した。薬剤の具体的な量については、詳細は表4を参照されたい。
【0083】
【表4】
【0084】
(例3)
料理用ミキサーを用いて2分間混合した後、150 barの圧力でホモジナイザーを通過させることによってASAエマルジョンを作製した。
【0085】
まず、表1に示されている安定化剤としてのGTACカチオン化キシランとASAとを0.1:1の割合で用いて、1.25%のASAエマルジョンからサイズ剤エマルジョンを製造した。
【0086】
次いで、表2に示されている安定化剤としてのGTACカチオン化アラビノガラクタンとASAとを0.1:1の割合で用いて、1.25%のASAエマルジョンからサイズ剤エマルジョンを製造した。
【0087】
参照として、澱粉(Raisamyl 50021)とASAとを2:1の割合で用いて、安定化剤としての澱粉と1.25%のASAエマルジョンからサイズ剤エマルジョンを製造した。安定化剤として、カチオン化しないキシランとアラビノガラクタンとをそれぞれASAと0.1:1の割合で用いて、1.25%のASAエマルジョンから参照試料を更に製造した。
(例4)
pH8.5の50/50の硬材/軟材のクラフトパルプ完成紙料に、例3で製造した安定化サイズ製剤を加えることによって、80 g/m2の実験室用ハンドシートを作製した。得られた紙の加工処理では填料を使用せず、ウェットエンドでの澱粉量は5kg/tであった。
【0088】
使用された安定化サイズ製剤の投与量は、アラビノガラクタンで安定化したサイズ製剤については 0.5 kg/t、0.75 kg/t、及び1.25 kg/t であり、キシランで安定化したサイズ製剤については 0.75 kg/t、1.5 kg/t、及び3 kg/t であった。歩留向上剤として K 3400 R(200 g/t)を使用した。
【0089】
キシラン安定化サイズ製剤についてのコッブ60試験の結果を図1に示す。さらに、澱粉ついての参照試料の試験結果も示している。図2にはアラビノガラクタン安定化サイズ製剤についての試験結果が示されている。
【0090】
コッブ60の数値が小さいほどサイズ処理の結果が良好となっている。即ち、紙製品がより疎水性で吸水性が小さくなっている。
【0091】
図1は、カチオン化キシランが使用されている紙シートは、澱粉を基材とするサイズ剤が使用されている紙シートと少なくとも同程度に疎水性であることを示している。置換度が0.03から0.98に上がると、疎水性がわずかに増加している。
【0092】
図2は、カチオン化アラビノガラクタンが使用されている紙シートは、澱粉を基材とするサイズ剤が使用されている紙シートよりもわずかに疎水性に劣ることを示している。置換度が上がると疎水性が増加し、DS=0.94の試料では、コッブ60値は澱粉を用いた参照例と実質的に同じになっている。
図1
図2