(54)【発明の名称】プレキャスト製残存型枠パネルの目地部から汚水が流出してプレキャスト製残存型枠パネルを汚くする現象と施工後にプレキャスト製残存型枠パネルにひび割れが生じる現象を抑止する残存型枠の施工方法、及びこの施工方法に使用されるプレキャスト製残存型枠パネル
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
擁壁の壁面を化粧被覆する工法として、例えば、壁面から所定間隔を設けて、プレキャスト製残存型枠パネルを立設し、その壁面とプレキャスト製残存型枠パネルとの間にコンクリートを打設する残存型枠構築方法が知られている。従来の残存型枠構築方法では、例えば、
図10(a)に示すように、クレーターUが多く存在する背面に被連結金具103が設けられたプレキャスト製残存型枠パネル101が使用されている。この被連結金具103は、プレキャスト製残存型枠パネル101の背面から突出し、露出されている。この残存型枠構築方法は、
図10(a)及び(b)に示すように、例えば、鋼矢板104の前面に、プレキャスト製残存型枠パネル101を幅方向X、及び高さ方向Yに積み重ね、セパレータ111を介して、被連結金具103と鋼矢板104とを連結し、プレキャスト製残存型枠110を構築した後に、プレキャスト製残存型枠パネル101の背面と鋼矢板104との間にコンクリート12を打設し、硬化させる。硬化する際、コンクリート12が収縮し、ひび割れ変位が生じ、コンクリート12にはひび割れC2が生じる。そして、このひび割れC2が生じると、プレキャスト製残存型枠パネル101に対し幅方向Xに引き裂く力が生じるため、プレキャスト製残存型枠パネル101には、ひび割れC1が生じる。プレキャスト製残存型枠パネル101の表面にひび割れC1が生じると、外観上好ましくないことに加え、プレキャスト製残存型枠パネル101の長期耐久性能が低下するおそれがある。
具体的には、
図11に示したように、プレキャスト製残存型枠パネルの表面に複数のひび割れが、高さ方向に向けて生じる。
【0003】
このひび割れは、コンクリートの原料に含まれる水分が蒸発し、コンクリートが収縮することで生じることが現状である。構造物に生じるひび割れが許容される範囲は、「許容ひび割れ幅」として、日本工業規格やACI委員会によって規定されている(非特許文献1)。この許容ひび割れ幅は、構造物の種類や構造物の周囲の環境によって異なるが、約0.05から0.40mmである。
【0004】
コンクリートのひび割れは、コンクリートの骨材、乾燥収縮、温度等のコンクリート特有の性質によって生じる自己ひずみひび割れと、建築物の重量や地震力などによる荷重を受けることによって生じる構造ひび割れに分けられている。この自己ひずみひび割れは、主に、乾燥収縮ひび割れ、沈みひび割れ、温度ひび割れ、凍結融解ひび割れに分類される。中でも、乾燥収縮ひび割れは、コンクリートのひび割れの中でも最も頻度が多いことが知られている。
【0005】
乾燥収縮ひび割れとは、例えば、壁などの部材にコンクリートの収縮が生じないように拘束されると、コンクリートには引張力が生じ、この引張力がコンクリートの引張強度を超えたときに生じるひび割れである。そして、この乾燥収縮ひび割れは、面積が広い構造物や、端部が剛性の高い構造物で拘束された場合に生じやすい。この乾燥収縮ひび割れを防止するために、例えば、コンクリートの水分量を減らしたり、収縮量に対応した膨張剤をコンクリートに混合したりする方法が行われている(例えば、特許文献1)。
【0006】
特許文献1のように、セメント材の水分量を減らしたり、収縮量に対応した膨張剤をセメント材に混合したりする方法では、膨張剤を混合させる分だけコストがかかることに加え、コンクリートの水分量を減少させるため、コンクリートの流動性が悪くなり、複雑な隙間(空間)に適切にコンクリートが打設できないおそれがあることに加え、硬化後所望の強度が得られないおそれもある。また、プレキャスト製残存型枠パネルの表面までひび割れが生じた場合、外観を損なわないようにひび割れ部分に粉体を塗布し、ひび割れを化粧する対応がなされている。しかし、粉体を塗布する作業時間とコストが生じるという問題に加え、時間が経過すると粉体がプレキャスト製残存型枠から剥がれ落ちてしまい、再度ひび割れが露出するという問題があった。
【0007】
上記問題点を解消するために、発明者は、プレキャスト製残存型枠パネルのひび割れ抑止方法を提案している(特許文献2)。特許文献2のプレキャスト製残存型枠パネルのひび割れ抑止方法は、プレキャスト製残存型枠パネルのパネル本体の背面から少なくとも10mmの範囲を弾性樹脂製カバー材で覆われた被連結金具がプレキャスト製残存型枠パネル本体の背面の所定の位置に設けられ、被連結金具とセパレータとを連結してプレキャスト製残存型枠を構築した後に、プレキャスト製残存型枠パネルの背面にコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、コンクリートを打設した後、コンクリートを硬化させるコンクリート硬化工程を含むものである。そして、このプレキャスト製残存型枠パネルのひび割れ抑止方法において、被連結金具の弾性樹脂製カバー材で覆われた部分は、コンクリートによって固められず、コンクリート硬化工程においてコンクリートの収縮によって生じるひび割れ変位や、外力によってコンクリートに生じるひび割れ変位が、弾性樹脂製カバー材の弾性変位追従機能と被連結金具の弾性変位追従機能によって、パネル本体にほとんど伝わらないことにより、施工した後に、プレキャスト製残存型枠パネルにひび割れが生じることが抑止される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2のプレキャスト製残存型枠パネルを使用して試験施工した結果、目標のひび割れ抑止効果が半分程度しか望めない結果となっている。
この結果を招く要因として、プレキャスト製残存型枠パネルを製造する過程で、原材料に含まれている余剰水や気泡等がプレキャスト製残存型枠パネルの背面に噴出することで、±1.5mm程度の凹凸部(以下、「クレーター」と記す。)が形成されることにより、プレキャスト製残存型枠パネルの背面に打設したコンクリートがクレーターに食い込み、プレキャスト製残存型枠パネルと一体化(固着)し、施工後にコンクリートに発生するひび割れ変位が直接プレキャスト製残存型枠パネル本体に伝わり、特許文献2に記載の発明における「弾性変位追従機能」が作動する機会が失われたことにあることが分かった。
【0011】
そこで、本発明は、背面に多くのクレーターが形成されたプレキャスト製残存型枠パネルを用いた場合でも、プレキャスト製残存型枠の外観を長期に亘り維持できる残存型枠の施工方法、及びこの残存型枠の施工方法に用いるプレキャスト製残存型枠パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の残存型枠の施工方法は、プレキャスト製残存型枠パネルのパネル本体の背面に透湿防水機能又は遮水機能を有する隔離シートを設けることで、パネル本体と隔離シートとの間に第一の隙間が形成され、プレキャスト製残存型枠パネルを用いて残存型枠を構築する残存型枠構築工程と、残存型枠を構築した後に、プレキャスト製残存型枠パネルの背面側にコンクリート等のセメント系固結材を打設するセメント系固結材打設工程と、セメント系固結材を打設した後、セメント系固結材を硬化させるセメント系固結材硬化工程とを含み、隔離シートを設けることで、プレキャスト製残存型枠パネルの背面にセメント系固結材が固着されないと共に、隔離シートとセメント系固結材との間に、肌別れによる第二の隙間が形成され、第一の隙間、及び第二の隙間が形成されることで、セメント系固結材の硬化工程において、セメント系固結材の収縮によって生じるひび割れ変位や、外力によってセメント系固結材に生じるひび割れ変位がプレキャスト製残存型枠パネルのパネル本体にほとんど伝わらず、施工した後にプレキャスト製残存型枠パネルにひび割れが生じることが抑止されることを特徴とする。
【0013】
本発明の残存型枠の施工方法は、プレキャスト製残存型枠パネルの背面から突出するように設けられた被連結金具が通される切込みを備えた隔離シートが、パネル本体の背面に設けられ、切込みと被連結金具との間に形成される隙間を第一シーリング材で埋めると共に、隣接するプレキャスト製残存型枠パネルの隔離シートの端部同士を第二シーリング材でつなぎ合わせることで、プレキャスト製残存型枠パネルの背面全域をつなぎ合わされた隔離シートで覆い、つなぎ合わされた隔離シートによって、プレキャスト製残存型枠パネルの背面全域とセメント系固結材とが遮断されることで、打設されたセメント系固結材から生じる汚染物を含有した余剰水、硬化したセメント系固結材側に侵入した水がプレキャスト製残存型枠パネル側に流れ込むことを防止することにより、プレキャスト製残存型枠パネルの目地部の隙間からの水漏れを長期に亘り防止し、水漏れ防止の信頼性を飛躍的に向上させることを特徴とする。
【0014】
本発明の残存型枠の施工方法は、隔離シートが弾性を有し、第一の隙間や第二の隙間に侵入した水が凍結することで発生する凍結膨張力を隔離シートの弾性によって吸収することで、凍結膨張力がパネル本体にほとんど伝わらないことにより、プレキャスト製残存型枠パネルにひび割れが生じることが抑制されることを特徴とする。
【0015】
本発明のプレキャスト製残存型枠パネルは、上記の残存型枠の施工方法に使用され、ステンレス鋼で構成されたフックが背面から突出するように、プレキャスト製残存型枠パネルのパネル本体の背面の所定の位置に設けられた被連結金具と、パネル本体の背面に設けられた透湿防水機能又は遮水機能を有する隔離シートとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る残存型枠の施工方法は、透湿防水機能又は遮水機能を有する隔離シートを背面に設けたプレキャスト製残存型枠パネルを使用する。パネル本体の背面に隔離シートを設けることで、パネル本体と隔離シートとの間に第一の隙間、隔離シートとセメント系固結材との間に第二の隙間が形成されるため、セメント系固結材とパネル本体とが直接接することはなく、セメント系固結材の収縮によって、幅方向にひび割れ変位(プレキャスト製残存型枠パネルが引き裂かれる力)が生じても、このひび割れ変位はプレキャスト製残存型枠パネル本体にほとんど伝わらない。
したがって、本発明に係る残存型枠の施工方法により施工した後のプレキャスト製残存型枠の外観を保つと共に、長期耐久性能を低下させずに、長期間安定して、プレキャスト製残存型枠パネルを維持できる。
【0017】
本発明に係る残存型枠の施工方法は、隔離シートに設けられた切込みと被連結金具との間に形成される隙間を第一シーリング材で埋めると共に、第二シーリング材で隣接するプレキャスト製残存型枠パネルの隔離シートの端部同士をつなぎ合わせることで、プレキャスト製残存型枠パネルの背面全域をつなぎ合わされた隔離シートで覆う。そうすると、つなぎ合わされた隔離シートによって、プレキャスト製残存型枠パネルの背面全域とセメント系固結材とが遮断されるため、打設されたセメント系固結材から生じる汚染物を含有した余剰水、硬化したセメント系固結材側に侵入した水がプレキャスト製残存型枠パネル側に流れ込むことを防止できる。このように、硬化したセメント系固結材側に侵入した水がプレキャスト製残存型枠パネル側に流れ込むことを防止することで、プレキャスト製残存型枠パネルの目地部の隙間からの水漏れを長期に亘り防止し、水漏れ防止の信頼性を飛躍的に向上させ、長期に亘り、外観を維持することができる。
【0018】
本発明に係る残存型枠の施工方法では、弾性を有する隔離シートを使用することで、第一の隙間や第二の隙間に侵入した水が凍結したときに発生する凍結膨張力は隔離シートの弾性によって吸収される。そのため、凍結膨張力は、プレキャスト製残存型枠パネル本体にほとんど伝わらず、プレキャスト製残存型枠パネルにひび割れが生じることが抑制され、長期に亘り、外観を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルを示す図である。(a)断面図、(b)背面図
【
図2】本発明の実施形態に係るプレキャスト製残存型枠の施工方法によって構築されたプレキャスト製残存型枠を示す図である。(a)断面図、(b)正面図
【
図3】本発明の実施形態に係るプレキャスト製残存型枠の施工方法によって構築されたプレキャスト製残存型枠の背面図である。
【
図4】従来のプレキャスト製残存型枠の施工方法で構築されたプレキャスト製残存型枠パネルのひび割れ変位を説明するためのプレキャスト製残存型枠の断面図である。
【
図5】従来のプレキャスト製残存型枠の施工方法で構築されたプレキャスト製残存型枠パネル(背面にレイタンスあり)のひび割れ変位を説明するためのプレキャスト製残存型枠の断面図である。
【
図6】従来のプレキャスト製残存型枠の施工方法で構築されたプレキャスト製残存型枠の目地漏れ防止について説明するためのプレキャスト製残存型枠の断面図である。
【
図7】従来のプレキャスト製残存型枠の施工方法で構築されたプレキャスト製残存型枠(背面にレイタンスあり)の目地漏れ防止を説明するためのプレキャスト製残存型枠の断面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るプレキャスト製残存型枠の施工方法によって構築されたプレキャスト製残存型枠の目地漏れ防止を説明するためのプレキャスト製残存型枠の断面図である。
【
図9】本発明の実施形態に係るプレキャスト製残存型枠の施工方法によって構築されたプレキャスト製残存型枠(背面にレイタンスあり)の目地漏れ防止を説明するためのプレキャスト製残存型枠の断面図である。
【
図10】従来のプレキャスト製残存型枠の施工方法によって、鋼矢板の前面に構築されたプレキャスト製残存型枠にひび割れが生じる過程を説明するための図である。(a)断面図、(b)正面図
【
図11】従来のプレキャスト製残存型枠の施工方法によって構築されたプレキャスト製残存型枠のプレキャスト製残存型枠パネルにひび割れが生じた様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態に係るプレキャスト製残存型枠の施工方法(以下、「施工方法」と記す。)は、主として、プレキャスト製残存型枠パネルを用いてプレキャスト製残存型枠を構築(施工)した後に、プレキャスト製残存型枠パネルに生じるひび割れを抑止するためや隣接するプレキャスト製残存型枠パネルの間に形成される目地部から目地漏れすることを防止するために使用される。
以下、本実施形態に係る施工方法、及びこの施工方法に使用するプレキャスト製残存型枠パネルを、
図1から
図3を参照し、説明する。
【0021】
本実施形態に係る施工方法では、
図1に示したプレキャスト製残存型枠パネル1を使用する。このプレキャスト製残存型枠パネル1は、
図1(a)に示すように、プレキャスト製残存型枠パネル本体2と、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面の所定の位置に設けられた複数の被連結金具3と、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面(裏面)2aに設けられた透湿防水機能又は遮水機能を有する隔離シート4とを備えている。
【0022】
[プレキャスト製残存型枠パネル本体2]
プレキャスト製残存型枠パネル本体2は、
図1(b)に示すように、矩形状であり、その背面2aにはクレーターUが形成されている。プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aには、幅方向X及び高さ方向Yに2つずつ被連結金具3が設けられている。この被連結金具3は、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aから突出するように設けられている(
図1(a))。
このプレキャスト製残存型枠パネル本体2のサイズは、適宜変更できるが、例えば、高さ300mm、幅900mmものが使用される。プレキャスト製残存型枠パネル本体2の内部の幅方向X及び高さ方向Yには、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の強度を確保するために、複数の鉄筋5が設けられている。
【0023】
[被連結金具3]
被連結金具3は、フック部6と、このフック部6の両端に連結された埋設部7とを備え被連結金具3は、埋設部7がプレキャスト製残存型枠パネル本体2の内部に埋め込まれ、フック部6をプレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面から突出させ、プレキャスト製残存型枠パネル本体2に設けられる。
被連結金具3には、金属製のものを使用でき、耐食性に優れた素材を使用することが好ましく、例えば、ステンレス鋼材(SUS304)が使用できる。
【0024】
[隔離シート4]
隔離シート4は、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aと、後述するコンクリート12(セメント系固結材)が直接接することを回避するために、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面側に設けられている。この隔離シート4は、プレキャスト製残存型枠パネル本体2のサイズとほぼ同じサイズのものを使用する。
隔離シート4は、透湿防水機能又は遮水機能を備え、この隔離シート4には、例えば、透湿防水シート、遮水シート、プラスチック製シートを使用することができる。
【0025】
透湿防水シートとは、水は通過させないが、湿気(水蒸気)は通す性質を有するシートをいう。この透湿防水シートとは、日本工業規格JIS A61111で規定されている。透湿防水シートは、主としてポリエチレン製不織布で構成され、強度が大きいことに加え、発火性、防水性、耐久性、防風性を備えている。
一方、遮水シートとは、水が全く流出しないようにされたシートをいい、この遮水シートには、例えば、塩化ビニルを使用することができる。
【0026】
隔離シート4は、適宜選択でき、本実施形態では、隔離シート4に透湿防水シートを採用した例について説明する。
隔離シート4には、厚みが1.5mmから10mmものを使用する。この厚みは、0.5mmから5.0mmが最も好ましく、弾性を有するものを使用する。隔離シート4には、ヤング率(引張弾性率)が、3MPaから5000MPaのものを使用でき、目的に応じて、適当な引張弾性率の素材を選択できる。
隔離シート4には切込み9が、プレキャスト製残存型枠パネル1のフック部6に対応する位置に形成されている。本実施形態の隔離シート4には、切込み9は4つ形成されている。隔離シート4は、切込み9にフック部6が通されることで、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aに設けられる。そのため、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aは隔離シート4で覆われ、フック部6は隔離シート4に覆われず、剥き出しとなる。
【0027】
隔離シート4を設けた際、隔離シート4とプレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aとの間には、0.5mmから1.0mm程度の微小な隙間(第一の隙間)が形成される。また、切込み9と被連結金具3との間に形成された隙間は、シーリング材15(第一シーリング材)で埋められる(
図1(b))。切込み9と被連結金具3との隙間は、シーリング材15で予め埋めても、プレキャスト製残存型枠10の構築過程で埋めてもよい。本実施形態では、プレキャスト製残存型枠10の構築過程において、切込み9と被連結金具3との間に形成された隙間をシーリング材15で埋める例について説明する。
【0028】
次に、プレキャスト製残存型枠パネル1を使用した施工方法について、説明する。
施工方法で使用するセメント系固結材には、水分を含み、経時的に固化するものであれば使用でき、例えば、コンクリート、モルタル、気泡モルタル等を使用することができる。本実施形態では、セメント系固結材として、コンクリート12を使用した例について説明する。
【0029】
[残存型枠構築工程]
本実施形態に係る施工方法は、
図2(b)に示すように、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aに隔離シート4が設けられたプレキャスト製残存型枠パネル1を積み重ね、擁壁13の前面にプレキャスト製残存型枠10を構築する。この際、被連結金具3と擁壁とをセパレータ11によって連結することで、プレキャスト製残存型枠パネル1は、擁壁13の前面に固定される。
そして、
図3に示すように、切込み9と被連結金具3との間に形成される隙間をシーリング材15で埋めると共に、隣接するプレキャスト製残存型枠パネル1の隔離シート4の上下左右の端部をシーリング材14(第二シーリング材)によって、隔離シート4の端部同士をつなぎ合わせる。切込み9と被連結金具3との間の隙間をシーリング材15で埋め、隔離シート4の端部同士をつなぎ合わせることで、プレキャスト製残存型枠パネル1の背面2a全域が、つなぎ合わされた隔離シート4で完全に覆われる。
なお、シーリング材14には、コーキング材やテープを使用することができ、シーリング材15には弾性を有するコーキング材等を使用することができ、適宜選択することができる。また、被連結金具3のプレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aから少なくとも10mmの範囲がシーリング材15で覆われていることが好ましい。
【0030】
[セメント系固結材打設工程]
プレキャスト製残存型枠パネル1の背面2a全域をつなぎ合わされた隔離シート4で覆った後、
図2(a)に示すように、プレキャスト製残存型枠パネル1と擁壁13との間にコンクリート12を打設する。プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2a全域が隔離シート4によって覆われているため、コンクリート12は、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aに接触することなく打設される。
【0031】
[セメント系固結材硬化工程]
コンクリート12を打設した後、コンクリート12を硬化させる。硬化する際、コンクリート12は収縮し、コンクリート12と隔離シート4との間で肌分かれし、隔離シート4とコンクリート12との間には、0.3mmから1.0mm程度の微小な隙間(第二の隙間)が形成される。
【0032】
次に、本実施形態に係る施工方法、及びこの施工方法に使用するプレキャスト製残存型枠パネル1の作用効果について、説明する。
【0033】
従来の残存型枠の施工方法では、
図4に示すように、背面に多くのクレーターUを有するプレキャスト製残存型枠パネル101を使用して構築されたプレキャスト製残存型枠110は、コンクリート12が硬化する際に、コンクリート12が収縮する変位が幅方向Xに加わり、コンクリート12及びプレキャスト製残存型枠110にひび割れC2が発生する。
一方、背面に多くのクレーターUを有し、レイタンスLが存在するプレキャスト製残存型枠パネル101では、
図5に示すように、コンクリート12が硬化する際に、コンクリート12が収縮する変位が幅方向Xに加わり、コンクリート12にひび割れC2が発生する。
なお、レイタンスLが存在する場合、プレキャスト製残存型枠パネル101のひび割れは生じにくくなるが、コンクリート12側から発生する汚水等は、プレキャスト製残存型枠パネル101の目地部から漏れ出す。
【0034】
上記のように、コンクリート12の収縮によって生じるひび割れ変位や外力によるコンクリート12に生じるひび割れ変位が、幅方向Xに生じる。
本実施形態の施工方法では、プレキャスト製残存型枠パネル本体2と隔離シート4との間に第一の隙間が形成され、隔離シート4とコンクリート12との間に第二の隙間が形成される。これらの隙間が形成されることで、コンクリート12とプレキャスト製残存型枠パネル本体2とが直接接することはなく、コンクリート12の収縮によって、幅方向Xにひび割れ変位(プレキャスト製残存型枠パネル1が引き裂かれる力)が生じても、このひび割れ変位はプレキャスト製残存型枠パネル本体2にほとんど伝わらない。
したがって、プレキャスト製残存型枠10を施工した後に、プレキャスト製残存型枠パネル本体2にひび割れが生じることを抑止することができ、プレキャスト製残存型枠10の外観を維持することができる。
【0035】
また、本実施形態で使用するプレキャスト製残存型枠パネル1には隔離シート4が設けられているため、コンクリート12が打設されると、隔離シート4がプレキャスト製残存型枠パネル本体2とコンクリート12との間に配置され、プレキャスト製残存型枠パネル1の背面2a全域とコンクリート12とが遮断される。そのため、背面にクレーターUを有するプレキャスト製残存型枠パネル本体2を使用した場合でも、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aとコンクリート12とは、隔離シート4によって確実に仕切られる。
したがって、本実施形態に係る施工方法は、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aに多くのクレーターUが形成されている場合でも、コンクリート12のひび割れ変位に対応することができる。
【0036】
本実施形態で使用する隔離シート4は、防水機能を有する。そのため、水分がコンクリート12側からプレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2a側に流出することができない。したがって、コンクリート12から発生する遊離石灰水やコンクリート12に侵入した雨水等の汚水がパネル本体12側に流出することを確実に防止することができる・
さらに、隔離シート4は透湿機能を有する。そのため、打設したコンクリート12側で発生した水蒸気は隔離シート4を通過し、プレキャスト製残存型枠パネル本体2側に移動することができ、その後、プレキャスト製残存型枠10の外側に放出される。したがって、コンクリート12側に余分な水分が滞留することを防止できる。
【0037】
従来の残存型枠の施工方法では、
図6及び
図7に示すように、隣接するプレキャスト製残存型枠パネル101間に形成される目地部105にシーリング材106を直接密着させることにより、目地部105の隙間を塞ぎ、プレキャスト製残存型枠パネル101の背面に打設されるコンクリート12の余剰水や雨水の浸水が目地部105から漏れ出ることを防止していた。プレキャスト製残存型枠パネル101は、製造の過程で背面に粉塵(レイタンスL)が形成される場合が多い。このレイタンスLは外力を加えることで、比較的容易に剥がれてしまうおそれがあり、シーリング材106の密着性が低くなる。そのため、レイタンスLが形成されたプレキャスト製残存型枠パネル101の背面に直接、シーリング材106を用いた場合、水漏れ防止の信頼性を確保できないおそれがあった。
【0038】
本実施形態の施工方法は、切込み9と被連結金具3との間に形成される隙間をシーリング材15で埋めると共に、隣接するプレキャスト製残存型枠パネル1の隔離シート4の端部同士をシーリング材14でつなぎ合わせ、プレキャスト製残存型枠10の背面2a全域を、つなぎ合わされた隔離シート4で覆う。そうすると、つなぎ合わされた隔離シート4によって、プレキャスト製残存型枠10の背面2a全域とコンクリート12とが完全に遮断される。
そのため、
図8及び
図9に示すように、打設されたコンクリート12から生じる汚染物を含有した余剰水、硬化したコンクリート12側に侵入した水が、プレキャスト製残存型枠パネル1(プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面)側に流れ込むことを防止できる。
したがって、プレキャスト製残存型枠パネル1の目地部8の隙間からの水漏れを長期に亘り防止し、水漏れ防止の信頼性を飛躍的に向上させることができ、長期に亘り残存型枠10の外観を維持することができる。
【0039】
プレキャスト製残存型枠10が構築された後、第一の隙間と第二の隙間には、雨水等が侵入し、この雨水等が凍結すると、プレキャスト製残存型枠パネル1の前後方向Zに凍結膨張力が作用する。
本実施形態の施工方法では、弾性を有する隔離シート4を使用するため、第一の隙間や第二の隙間に侵入した水(雨水等)が凍結し、前後方向Zに凍結膨張力が作用すると、隔離シート4が弾性変形する。このように、雨水等の凍結に伴い、隔離シート4が弾性変形することで、雨水等の凍結膨張力が吸収され、その凍結膨張力はプレキャスト製残存型枠パネル本体2にほとんど伝わらない。
したがって、冬場に雨水等の凍結によって生じる、プレキャスト製残存型枠パネル1のひび割れを抑制することができる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の施工方法は、背面に隔離シート4を設けたプレキャスト製残存型枠パネル1を使用し、プレキャスト製残存型枠10を構築することで、プレキャスト製残存型枠パネル1に生じるひび割れや目地部8から汚水等が漏れ出すことを確実に抑止することができる。
【0041】
本実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネル1に設けられた被連結金具3は、ステンレス鋼(SUS304)で構成されている。SUS304は、耐食性に優れているため、長期間安定して、プレキャスト製残存型枠パネル1を維持できる。
【0042】
以上、本実施形態について説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
本実施形態では、隔離シート4をシーリング材14でつなぎ合わせる例を説明したが、隔離シート4の端部同士を溶着することでつなぎ合わせることもできる。この場合、隔離シート4にプレキャスト製残存型枠パネル本体2よりも大きいサイズの隔離シート4を設け、隣接する隔離シート4の端部を重ね合わせる。そして、重ね合わせたところを熱溶着し、つなぎあわせる。
【解決手段】プレキャスト製残存型枠パネル1の背面に透湿防水機能又は遮水機能を有する隔離シート4を設けることで、パネル本体2と隔離シート4との間に第一の隙間を形成し、残存型枠パネル1を用いて残存型枠10を構築する工程と、残存型枠パネル1の背面側にコンクリート12を打設する工程と、コンクリート12を硬化させる工程とを含み、隔離シート4を設けることで、残存型枠パネル1の背面にコンクリート12が固着されないと共に、隔離シート4とコンクリート12との間に第二の隙間が形成され、これらの隙間が形成されることで、コンクリート12の収縮によるひび割れ変位や、外力によって生じるひび割れ変位がパネル本体2に伝わらず、残存型枠パネル1にひび割れが生じることが抑止される。