特許第6376376号(P6376376)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376376
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】V1b受容体の放射性標識リガンド
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/04 20060101AFI20180813BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20180813BHJP
   A61K 51/00 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 5/14 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 25/30 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20180813BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20180813BHJP
   C07B 59/00 20060101ALN20180813BHJP
【FI】
   C07D471/04 118Z
   C07D471/04CSP
   A61K31/5377
   A61K51/00 200
   A61P43/00 111
   A61P1/00
   A61P1/04
   A61P1/14
   A61P5/14
   A61P9/10
   A61P9/12
   A61P17/14
   A61P25/08
   A61P25/16
   A61P25/18
   A61P25/20
   A61P25/22
   A61P25/28
   A61P25/30
   A61P29/00
   A61P37/02
   !C07B59/00
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-264135(P2013-264135)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-120644(P2015-120644A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年11月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】古閑 一実
(72)【発明者】
【氏名】吉永 光周
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 直樹
(72)【発明者】
【氏名】須原 哲也
(72)【発明者】
【氏名】張 明栄
(72)【発明者】
【氏名】河村 和紀
(72)【発明者】
【氏名】樋口 真人
(72)【発明者】
【氏名】南本 敬史
(72)【発明者】
【氏名】前田 純
(72)【発明者】
【氏名】永井 裕司
(72)【発明者】
【氏名】木村 泰之
(72)【発明者】
【氏名】破入 正行
【審査官】 新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/017236(WO,A1)
【文献】 特開2010−173974(JP,A)
【文献】 特開2010−173978(JP,A)
【文献】 Bioorg. med. Chem.,2006年,Vol.14,pp.8599-8607
【文献】 European Journal of Medicinal Chemistry,2011年,Vol.46,pp.4760-4767
【文献】 J. Med. Chem.,2008年,Vol.51,pp.5833-5842
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)に示される化合物又はその製薬学的に許容される塩。
【化1】


[上記一般式(I)において、
Xは、CH又はNを示し、
1は、C1-5アルキル(該C1-5アルキルはヒドロキシ、ハロゲン原子、シアノ、C3-7
クロアルキル、及びC1-5アルコキシからなる群より選ばれる同一又は異なった1〜3個
の置換基で置換されても良い)であり、
2は、11Cで標識されたメチル基である。]
【請求項2】
請求項に記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を含有する、バソプレッシンV1b受容体標識剤。
【請求項3】
請求項に記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を含有する、陽電子断層撮影用のバソプレッシンV1b受容体標識剤。
【請求項4】
請求項に記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を含有する、バソプレッシンV1b受容体に関連した疾患の診断薬であって、当該疾患が、気分障害、不安障害、統合失調症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、摂食障害、高血圧、消化器疾患、薬物依存症、てんかん、脳梗塞、脳虚血、脳浮腫、頭部外傷、炎症、免疫関連疾患、及び脱毛症からなる群から選択される、前記診断薬。
【請求項5】
請求項に記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を含有する、医薬組成物。
【請求項6】
請求項に記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩の製造方法であって、式(II):
【化2】


(式中、R1、Xは上記で定義した通りである)で表される化合物と、式R2−L1(R2
上記で定義した通りであり、L1は脱離基である)で表される化合物とを、塩基及び溶媒
の存在下で反応させることを含む方法。
【請求項7】
1が、4−ニトロベンゼンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基、
メタンスルホニルオキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選択される、請求項に記
載の方法。
【請求項8】
塩基が、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン又はジイ
ソプロピルエチルアミンを含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
溶媒が、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメ
チルスルホキシド、水又はそれらの混合物である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギニン−バソプレッシン(AVP)の受容体である、バソプレッシンV1b受容体に特異的に結合する放射性同位元素標識リガンドに関する。特に、陽電子断層撮影(positron emission tomography;PET)等の画像診断に使用するための放射性同位元素標識リガンドに関する。
【背景技術】
【0002】
AVPは9個のアミノ酸よりなるペプチドである。AVPは、脳内の神経細胞で生合成され、下垂体後葉から血液中へと分泌され、血圧及び体液量の調節を行う。また、AVPは下垂体前葉へと分泌され、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌を刺激する。
【0003】
AVP受容体は、これまでV1a、V1b及びV2受容体の3つのサブタイプがクローニングされており、いずれもGタンパク質共役型受容体である。V1a及びV1b受容体はGqタンパク質と共役し、受容体の活性化は、イノシトールリン脂質の代謝を亢進させまた、細胞内Ca2+濃度を上昇させる(非特許文献1及び非特許文献2参照)。また、V2受容体は、Gsタンパク質と共役し、受容体の活性化は、細胞内サイクリックAMP量を増加させる。V1a受容体は、脳、肝臓、副腎、血管平滑筋などに発現している。V2受容体は腎臓などに発現している。V1b受容体は、脳、下垂体などに発現し、脳内では、視床下部、嗅球、海馬、大脳皮質、線条体、小脳などに発現している(非特許文献3及び非特許文献4参照)。V1b受容体ノックアウトマウスでは、AVP誘発によるACTH分泌が減少している(非特許文献5参照)。そのため、V1b受容体はAVPによる下垂体前葉からのACTH分泌に関わることが示唆される。
【0004】
近年、非侵襲的イメージング技術の医療や創薬への利用が進んでいる。臨床では、がんなどの病気の診断、心臓や脳での活動の測定、および開発候補品の標的タンパク質への結合割合の評価に使用されている。また、前臨床では、病態モデル動物の解析や放射性同位元素標識体リガンドの実験動物での体内動態のトレースに使用されている。特に、PETは非侵襲的イメージング技術の中で、微量なシグナルを高感度で検出することに優れ、定量性もあるため広範に利用されるようになっている。この技術を使用するためには、陽電子放出核種で標識したリガンドが必要であり、このリガンドは生体内に投与した後も安定して目的臓器に到達し、体内から速やかに排泄される性質を有することが好ましい。
【0005】
バソプレッシンV1b受容体に特異的に結合する放射性同位元素標識リガンドは、PET等の画像診断技術を用いて非侵襲的にバソプレッシンV1b受容体の発現量、または受容体の分布の変化を測定するために有用である。また、非標識体のバソプレッシンV1b受容体リガンドを投与した後に、微量の放射性同位元素標識リガンドを投与しPETで評価することで、バソプレッシンV1b受容体への非標識体バソプレッシンV1b受容体リガンドの結合を間接的に定量することが可能となり、ヒトでの投与量を設定するのに有用である。これまでにバソプレッシンV1b受容体への放射性同位元素標識リガンドに関する報告がなされているが、非標識体バソプレッシンV1b受容体リガンドによる放射能取り込み抑制は確認されていない(非特許文献6参照)。従って、ヒトでの画像診断を行うために有用な、バソプレッシンV1b受容体に特異的に結合する放射性同位元素標識リガンドの創製が求められている。
【0006】
また、V1b受容体に特異的に結合するピリドピリミジン−4−オン誘導体は、特許文献1〜3に開示されているが、放射性同位元素標識体及びそれらの製造方法の開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2009/017236号公報
【特許文献2】特開2010−173974号公報
【特許文献3】特開2010−173978号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sugimoto T, Kawashima H, J. Biol. Chem., 269, 27088-27092, 1994.
【非特許文献2】Lolait S, Brownstein M, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 92, 6783-6787, 1995.
【非特許文献3】Vaccari C, Ostrowski N, Endocrinology, 139, 5015-5033, 1998.
【非特許文献4】Hernando F, Burbach J, Endocrinology, 142, 1659-1668, 2001.
【非特許文献5】Tanoue A, Tsujimoto G, J. Clin. Invest., 113, 302-309, 2004.
【非特許文献6】Schonberger M, Hooker JM, Bioorg. Med. Chem. Lett., 20, 3103-3106, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、バソプレッシンV1b受容体に特異的に結合する新規な放射性同位元素標識リガンドを提供することにある。さらには、生体内に投与した後に代謝を受けずに安定であり、目的臓器(例えば、脳など)に十分な量が特異的に集積し、かつ生体内から速やかに排泄されるという画像診断用に好ましい特性を有した放射性同位元素標識リガンドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前述した課題を解決する目的で鋭意探索研究した結果、優れた放射性同位元素標識リガンド(以下、「本発明の化合物」とも記載する)、及びその製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも記載する)を見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のものに関するが、これらに限定されない。
(1)下記一般式(I)に示される化合物又はその製薬学的に許容される塩
【0012】
【化1】
【0013】
[上記一般式(I)において、
Xは、CH又はNを示し、
1は、C1-5アルキル(該C1-5アルキルはヒドロキシ、ハロゲン原子、シアノ、C3-7シクロアルキル、及びC1-5アルコキシからなる群より選ばれる同一又は異なった1〜3個の置換基で置換されても良い)であり、
2は、同一又は異なった1〜3個のハロゲン原子で置換されても良いC1-5アルキル基であり、
ここで、R2は、11C、18F、123I、125I、131I、75Br、76Br及び82Brからなる群より選ばれる1つの放射性同位元素で標識されている]、
(2)R211Cで標識されたメチル基である、(1)に記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩、
(3)(1)又は(2)に記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を含有する、バソプレッシンV1b受容体標識剤、
(4)(1)又は(2)に記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を含有する、陽電子断層撮影用のバソプレッシンV1b受容体標識剤、
(5)(1)又は(2)に記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を含有する、バソプレッシンV1b受容体に関連した疾患の診断薬、
(6)(1)又は(2)に記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を含有する、医薬組成物、
(7)(1)又は(2)に記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩の製造方法であって、式(II):
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、R1、Xは上記で定義した通りである)で表される化合物と、式R2−L1(R2は上記で定義した通りであり、L1は脱離基である)で表される化合物とを、塩基及び溶媒の存在下で反応させることを含む方法、
(8)L1が、4−ニトロベンゼンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる、(7)に記載の方法、
(9)塩基が、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン又はジイソプロピルエチルアミンを含む、(7)又は(8)に記載の方法、又は
(10)溶媒が、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水又はそれらの混合物である、(7)〜(9)のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の化合物は、目的臓器である下垂体への十分な量の移行が認められた。従って、当該化合物は、生体内に投与した後に代謝を受けずに安定であると考えられる。また、PETを用いた画像診断の結果、本発明の化合物は、下垂体におけるバソプレッシンV1b受容体が多く発現している部位である下垂体前葉へ特異的に集積することが明らかになった。従って、本発明の化合物は、バソプレッシンV1b受容体に特異的に結合すると考えられる。さらに、本発明の化合物は、投与後生体内から速やかに排泄された。このように、本発明の化合物は、PET等の画像診断に好ましい特性を有する。
【0017】
また、非標識体バソプレッシンV1b受容体リガンドを投与した後に、本発明の化合物を投与すると、本発明の化合物の取り込み抑制が生じる。従って、本発明の化合物を用いると、当該受容体への非標識体の結合を間接的に定量することが可能となる。
【0018】
すなわち、本発明の化合物は非侵襲的な可視化を可能とし、微量なシグナルを高感度で検出することに優れ、定量性もあるといった好ましい特性を有する。
【0019】
さらに、本発明の製造方法は、放射性同位元素標識リガンドである本発明の化合物の効率的な供給を可能とする。先ず、放射標識化合物を用いる工程は、放射性物質を扱うための特殊な施設で行わなければならない。この点、本発明の製造方法では、そのような工程を最終段階で行うため、特殊な施設での作業量を最小限に抑えることができ、結果として作業の煩雑性を緩和すると共に作業に伴うコストを抑えることができる。また、当該工程を最終段階で行うことは、その後の追加工程があれば生ずるであろう標識化合物のロスを防止することにつながる。さらに、本発明の製造方法は、迅速に行うことができる。この特徴は、半減期の短い同位体を用いて放射標識化合物を製造する際に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】化合物A−1投与後30から90分の間の加算平均PET画像を示す。
図2】化合物B−1投与後30から90分の間の加算平均PET画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において、「C1-5アルキル基」とは、炭素数1〜5個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を意味し、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基又はネオペンチル基等を挙げることができる。
【0022】
本発明において、「C3-7シクロアルキル基」としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等を挙げることができる。
【0023】
本発明において、「C1-5アルコキシ基」とは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5個のアルコキシ基を意味し、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基等を挙げることができる。
【0024】
本発明において、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。
【0025】
本発明において、「脱離基」としては、アリールスルホニルオキシ基(該アリールスルホニルオキシ基のアリールは、C1-5アルキル基、ニトロ基又はハロゲン原子等で置換されても良い)、C1-5アルキルスルホニルオキシ基(該C1-5アルキルスルホニルオキシ基のC1-5アルキル基は、ハロゲン原子で置換されても良い)、ハロゲン原子等を挙げることができる。当該アリールは、単環から2環式の芳香族炭素環であり、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル等の基を挙げることができる。
【0026】
当該アリールスルホニルオキシ基(該アリールスルホニルオキシ基のアリールは、C1-5アルキル基、ニトロ基又はハロゲン原子等で置換されても良い)としては、4−ニトロベンゼンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基等を挙げることができる。
【0027】
当該C1-5アルキルスルホニルオキシ基(該C1-5アルキルスルホニルオキシ基のC1-5アルキル基は、ハロゲン原子で置換されても良い)としては、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等を挙げることができる。
【0028】
本発明において、「塩基」としては、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基や、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の有機塩基を挙げることができる。
【0029】
本発明の放射性同位元素標識化合物で使用される好ましい放射性核種は、11C、18F、123I、125I、131I、75Br、76Br又は82Brである。インビトロでのバソプレッシンV1b受容体標識に使用する場合の好ましい核種は125Iなどである。画像診断に使用する場合の好ましい核種は、11C、18F、123I、76Brなどである。画像診断の手法としては、PET、単一光子放射断層撮影(SPECT)等が利用可能であるが、感度の点ではPETが好ましい。
【0030】
本発明における「製薬学的に許容される塩」とは、薬剤的に許容することのできる酸付加塩を意味し、硫酸、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硝酸等の無機酸との塩、或いは、酢酸、安息香酸、シュウ酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、マロン酸、マンデル酸、グルコン酸、ガラクタル酸、グルコヘプトン酸、グリコール酸、グルタミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、ナフタレン−2−スルホン酸等の有機酸との塩が含まれる。遊離体から当該塩への変換は従来の方法で行うことができる。
【0031】
なお、本発明の化合物の遊離体が水和物又は溶媒和物を形成する場合、それらも本発明の化合物の範囲内に含まれる。同様に、本発明の化合物の医薬上許容される塩が水和物又は溶媒和物を形成する場合には、それらも本発明の化合物の範囲内に含まれる。また、本発明の化合物は、エナンチオマー、ジアステレオマー、平衡化合物、これらの任意の割合の混合物、ラセミ体等を全て含む。
【0032】
本発明の化合物において、好ましい態様を以下に挙げる。
【0033】
1は、C1-5アルキルである化合物が好ましく、イソプロピル又はtert−ブチルである化合物がより好ましく、tert−ブチルである化合物がさらに好ましい。
【0034】
2は、11Cで標識されたメチルであることが好ましい。
【0035】
好ましくは、R1はtert−ブチルであり、R211Cで標識されたメチルである。
【0036】
本発明の化合物は、バソプレッシンV1b受容体を標識化するために、即ち、バソプレッシンV1b受容体標識剤として用いることができる。この標識剤は、例えば、PET等を用いる画像診断において有用である。
【0037】
本発明の1つの態様は、動物に一般式(I)に示される化合物又はその製薬学的に許容される塩を有効量投与することを特徴とする、動物におけるバソプレッシンV1b受容体の画像診断方法である。
【0038】
また、本発明の他の1つの態様は、動物に一般式(I)に示される化合物又はその製薬学的に許容される塩を有効量投与することを特徴とする、動物の脳におけるバソプレッシンV1b受容体の画像診断方法である。
【0039】
また、本発明の他の1つの態様は、動物に一般式(I)に示される化合物又はその製薬学的に許容される塩を有効量投与することを特徴とする、動物におけるバソプレッシンV1b受容体の発現した組織を用いた画像診断方法である。ここで、バソプレッシンV1b受容体の発現した組織とは例えば脳スライス切片等が挙げられる。
【0040】
これらの態様は、別の側面では、一般式(I)に示される化合物又はその製薬学的に許容される塩を含む、バソプレッシンV1b受容体に関連した疾患の診断薬に関する。
【0041】
これらの方法又は診断薬は、バソプレッシンV1b受容体に関連した疾患、例えば、気分障害、不安障害、統合失調症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、摂食障害、高血圧、消化器疾患、薬物依存症、てんかん、脳梗塞、脳虚血、脳浮腫、頭部外傷、炎症、免疫関連疾患、又は脱毛症の診断に有用である。
【0042】
また、本発明の他の1つの態様は、動物に一般式(I)に示される化合物又はその製薬学的に許容される塩を有効量投与することを特徴とする、動物におけるバソプレッシンV1b受容体の機能を検出又は定量化する方法である。
【0043】
ここで、「動物」は、ヒトやサル等の哺乳動物を含み、好ましくはヒトである。
【0044】
本発明の化合物は、バソプレッシンV1b受容体が関与すると考えられている多様な病気においてバソプレッシンV1b受容体結合リガンド(バソプレッシンV1b受容体アゴニスト、アンタゴニスト、インバースアゴニスト等)の作用を評価することを目的とした臨床試験に使用することが可能である。例えば、バソプレッシンV1b受容体調節剤の臨床評価を行うにあたって、脳内での当該薬物の受容体占有の程度を評価するためのトレーサー化合物(バソプレッシンV1b受容体標識剤)としても利用可能である。
【0045】
本発明の化合物は、例えば下記に示す方法に従って製造することができる。
【0046】
化合物(I)、(II)及びそれらの製薬学的に許容される塩は、当業者に公知である種々の有機合成手法を用いて合成することができる。例えば、以下に製造法を示すが本合成法に限られたものではない。なお、以下の製造法の例示において、化合物は反応に支障にならない塩を形成していてもよい。
式(I)で表される化合物は、スキーム1に示す合成法で製造することができる。
【0047】
【化3】
【0048】
(式中、R1、R2及びXは前記と同義である。L1は脱離基を示す。脱離基とは、4−ニトロベンゼンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、ハロゲン原子等を意味する。)
式(I)で表される化合物は、式(II)で表される化合物と、式(1−a)で表される化合物とを反応させることにより得ることができる(工程1−1)。工程1−1における反応は、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水等の溶媒中、又はそれらの混合溶媒中、室温から溶媒の沸点付近の温度条件下、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基や、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の有機塩基の存在により、反応が進行する。
【0049】
式(II)で表される化合物は、スキーム2に示す合成法で製造することができる。
【0050】
【化4】
【0051】
(式中、R1、Xは前記と同義である。Halはハロゲン原子を示す。L2はフェノール性水酸基の保護基を示す[プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis)第4版、ジョン ウィリー アンド サンズ(John Wiley & Sons, INC.) 参照]。L3は脱離基を示す。脱離基とは、p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、ハロゲン原子等を意味する。)
式(2−b)で表される化合物は式(2−a)で表される化合物をボロン酸誘導体とした後、過酸を用いてヒドロキシ化することにより得ることができる(工程2−1)。本工程は、WO2006/021886号公報記載の方法に従って実施することができる。式(2−d)で表される化合物は、工程2−2、工程2−3及び工程2−4の3つの異なる工程により、それぞれ製造することができる。すなわち、工程2−2は、式(2−b)で表される化合物と式(2−c)で表される化合物を反応させることにより得ることができる。式(2−c)で表される化合物は塩を形成しても良い。工程2−2における反応は、工程1−1と同様の方法で行うことができる。また、式(2−d)で表される化合物は、式(2−b)で表される化合物と式(2−e)で表される化合物を光延反応の条件下反応させて得ることができる(工程2−3)。光延反応に関する包括的概観はSynthesis. 1981, 1-28; Chem. Asian J. 2007, 2, 1340-1355.; Chem. Pharm. Bull. 2003, 51(4), 474-476に見出される。さらに、式(2−d)で表される化合物は、式(2−a)で表される化合物と式(2−e)で表される化合物をパラジウム触媒を用いたエーテル化反応の条件下反応させることにより得ることができる(工程2−4)。パラジウム触媒を用いたエーテル化反応に関する包括的概観は、M. Paulucki, J. P. Wolfe, S. L. Buchwald, J. Am. Chem. Soc., 1996, 118, 10333.; G. Mann, J. F. Hartwig, J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 13109.; M. Watanabe, M. Nishiyama, Y. Koie, Tetrahedron Lett. 1999, 40, 8837.; Q. Shelby, N. Kataoka, G. Mann, J. F. Hartwig, J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 10718.; K. E. Torraca, S. Kuwabe, S. L. Buchwald, J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 12907.; C. A. Parrish, S. L. Buchwald, J. Org. Chem. 2001, 66, 2498.; P. M. Karen, E. Torraca, X. Huang, C. A. Parrish, and S. L. Buchwald, J. Am. Chem. Soc, 2001, 10770-10771.; Andrei V. Vorogushin, Xiaohua Huang, and Stephen L. Buchwald J. Am. Chem. Soc., 2005, 8146 -8149.に見出される。式(II)で表される化合物は式(2−d)で表される化合物のL2基を、一般的手法にて脱保護する[プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis)第4版、ジョン ウィリー アンド サンズ(John Wiley & Sons, INC.) 参照]ことにより得ることができる(工程2−5)。
【0052】
式(2−a)で表される化合物のうち、式(3−d)で表される化合物はスキーム3に示す合成法で製造することができる。
【0053】
【化5】
【0054】
(式中、R1、L2、X、Halは上記と同じである。L4はC1-5アルキルを示す。)
式(3−d)で表される化合物は式(3−a)で表される化合物と、式(3−b)で表されるアルデヒドを、脱水縮合させることにより1,2−ジヒドロピリドピリミジン−4−オン誘導体(3−c)を得た後に(工程3−1)、引き続き酸化反応に付すことにより、得ることができる(工程3−2)。工程3−1における縮合反応は、酢酸等の有機酸存在下、エタノール、2−プロパノール等の溶媒中、反応溶媒の沸点付近の温度条件下進行し、モレキュラーシーブス等の脱水剤を用いて副生する水を除くことにより、より円滑に縮合反応は進行する。工程3−2における酸化反応は、活性二酸化マンガン等の酸化剤を用い、クロロホルム、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等の溶媒中、又はそれらの混合溶媒中、室温から反応溶媒の沸点付近の温度条件下進行する。また、式(3−d)で表される化合物は式(3−a)で表される化合物と式(3−e)で表される化合物を、エタノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン等の溶媒中、反応溶媒の沸点付近の温度条件下縮合させ得ることができる(工程3−3)。
【0055】
以下、実施例と試験例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【実施例】
【0056】
本発明は下記の実施例によって更に詳細に説明されるが、これら実施例は本発明を限定するものではなく、また、本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【0057】
実施例中記載の各機器データは以下の測定機器で測定した。
MSスペクトル:Agilent 6150/Agilent 1290Infinity
NMRスペクトル:[1H-NMR]JNM−ECA600(日本電子)
実施例中で使用した略語を以下に示す。
MS(質量分析)、APCI(大気圧化学イオン化)、ESI(エレクトロスプレーイオン化)。
【0058】
実施例A−1:N−tert−ブチル−2−[2−(3−11C−メトキシフェニル)−6−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−4−オキソピリド[2,3−d]ピリミジン−3(4H)−イル]アセトアミド(A−1)の合成
【0059】
【化6】
【0060】
(1)2−[6−ブロモ−2−(3−メトキシフェニル)−4−オキソ−1,4−ジヒドロピリド[2,3−d]ピリミジン−3(2H)−イル]−N−tert−ブチルアセトアミド(A−1−1)の合成
【0061】
【化7】
【0062】
窒素気流下、2−アミノ−5−ブロモ−N−[2−(tert−ブチルアミノ)−2−オキソエチル]ニコチンアミド(25.0g)、3−メトキシベンズアルデヒド(31.0g)、酢酸(22.8g)のEtOH(500mL)懸濁液をディーン・スターク装置で脱水しながら5時間加熱還流した。放冷後、減圧下で反応溶媒を留去し、得られた残渣にEtOAcを加え、生じた固体をろ取、乾燥し表題化合物(33.4g、無色固体)を得た。
MS (ESI neg.) m/z : 445([M-H]-).
【0063】
(2)2−[6−ブロモ−2−(3−メトキシフェニル)−4−オキソピリド[2,3−d]ピリミジン−3(4H)−イル]−N−tert−ブチルアセトアミド(A−1−2)の合成
【0064】
【化8】
【0065】
窒素気流下、実施例A−1(1)で得られた化合物A−1−1(33.0g)、MnO2(32.1g)のTHF(512mL)、CHCl3(130mL)懸濁液を5時間加熱還流した。熱時セライト(登録商標)を用いてろ過後、THF(600mL)にて洗浄し、ろ液を減圧下で濃縮した。得られた残渣にEtOAcを加え、生じた固体をろ取、乾燥し表題化合物(28.7g、無色固体)得た。
MS (ESI pos.) m/z : 445([M+H]+).
【0066】
(3)N−tert−ブチル−2−[6−ヒドロキシ−2−(3−メトキシフェニル)−4−オキソピリド[2,3−d]ピリミジン−3(4H)−イル]アセトアミド(A−1−3)の合成
【0067】
【化9】
【0068】
窒素気流下、実施例A−1(2)で得られた化合物A−1−2(4.45g)、4,4,4’,4’,5,5,5’,5’−オクタメチル−2,2’−ビ−1,3,2−ジオキサボロラン(5.08g)、PdCl2(dppf)・CH2Cl2(408mg)及びAcOK(2.94g)のDMSO(45mL)溶液を100℃にて2時間加熱攪拌した。放冷後、水(200mL)を加え、生じた固体をろ取、乾燥し固体(9.91g、茶褐色固体)を得た。得られた固体(9.91g)のTHF(25mL)及びEtOH(25mL)溶液にNaHCO3水溶液(1.68g/水 15mL)を加えた後に氷冷し、反応液温度8℃以下を保ちながら、30%過酸化水素水(3.40mL)を加えた後、2時間攪拌した。反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液(3.78g/水 50mL)を加えた後、15分間攪拌した。CHCl3(100mL)、飽和食塩水(100mL)を加え分液後、水層をCHCl3(50mL)で2回抽出した。有機層を合わせてNa2SO4で乾燥後に乾燥剤をろ別し、ろ液を減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SNAP Cartridge HP−Sphere、移動相:CHCl3/MeOH=100/0〜90/10;v/v)にて精製し表題化合物(3.69g、灰色固体)を得た。
MS (ESI pos.) m/z : 383([M+H]+).
【0069】
(4)N−tert−ブチル−2−[2−(3−メトキシフェニル)−6−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−4−オキソピリド[2,3−d]ピリミジン−3(4H)−イル]アセトアミド(A−1−4)の合成
【0070】
【化10】
【0071】
実施例A−1(3)で得られた化合物A−1−3(3.65g)、4−(3−クロロプロピル)モルホリン 塩酸塩(2.29g)、炭酸セシウム(15.6g)及びヨウ化カリウム(0.792g)のDMF(36mL)懸濁液を外温85℃で4時間攪拌した。反応液を放冷後、飽和NaHCO3水溶液(120mL)、EtOAc(120mL)及びトルエン(20mL)を加え分液後、有機層を飽和食塩水(120mL)で洗浄した。水層をEtOAc(120mL)及びトルエン(20mL)で2回抽出し、有機層を合わせてNa2SO4で乾燥した。乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SNAP Cartridge HP−Sphere、移動相:CHCl3/MeOH=99/1〜90/10;v/v)にて精製し表題化合物(4.55g、褐色アモルファス)を得た。
MS (ESI pos.) m/z : 510([M+H]+).
1H-NMR (600 MHz, CDCl3) δ (ppm) ; 1.35 (9 H, s), 2.01 - 2.08 (2 H, m), 2.48 (4 H, br. s.), 2.55 (2 H, t, J=7.0 Hz), 3.73 (4 H, t, J=4.5 Hz), 3.83 (3 H, s), 4.19 (2 H, t, J=6.4 Hz), 4.52 (2 H, s), 5.45 (1 H, s), 7.02 - 7.05 (1 H, m), 7.23 (1 H, d, J=7.4 Hz), 7.25 - 7.26 (1 H, m), 7.37 (1 H, t, J=7.8 Hz), 7.95 (1 H, d, J=3.3 Hz), 8.72 (1 H, d, J=3.3 Hz).
【0072】
(5)N−tert−ブチル−2−[2−(3−ヒドロキシフェニル)−6−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−4−オキソピリド[2,3−d]ピリミジン−3(4H)−イル]アセトアミド(プレカーサーA)の合成
の合成
【0073】
【化11】
【0074】
実施例A−1(4)で得られた化合物A−1−4(1.00g)をCHCl3(20mL)に溶解し、氷冷下でBBr3(1mmol/Lジクロロメタン溶液、9.81mL)を滴下し室温で24時間攪拌した。反応液に氷冷下でMeOHを加えた後に、CHCl3(80mL)、飽和NaHCO3水溶液(100mL)を加え分液後、有機層を飽和食塩水(100mL)で洗浄した。水層をCHCl3(100mL)で2回抽出し有機層を合わせてNa2SO4で乾燥した。乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SNAP Cartridge KP-NH、移動相:CHCl3/MeOH=100/0〜90/10;v/v)にて精製した。得られた粗精製物にEtOAc(1.5mL)及びn−ヘキサン(1.5mL)を加え、10分間加熱還流後に、室温まで冷却し、12時間攪拌した。固体をろ取、乾燥し、表題化合物(400mg、淡褐色固体)を得た。
MS (ESI pos.) m/z : 496([M+H]+).
1H-NMR (600 MHz, CDCl3) δ (ppm) ; 1.32 (9 H, s), 2.01 - 2.07 (2 H, m), 2.42 - 2.51 (4 H, m), 2.54 (2 H, t, J=6.8 Hz), 3.73 (4 H, t, J=4.3 Hz), 4.15 - 4.20 (2 H, m), 4.51 (2 H, s), 5.48 (1 H, s), 6.89 - 6.93 (1 H, m), 7.06 (1 H, d, J=7.4 Hz), 7.12 - 7.15 (1 H, m), 7.24 (1 H, t, J=7.8 Hz), 7.93 - 7.97 (1 H, m), 8.39 (1 H, br. s.), 8.66 (1 H, d, J=3.3 Hz).
【0075】
(6)N−tert−ブチル−2−[2−(3−11C−メトキシフェニル)−6−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−4−オキソピリド[2,3−d]ピリミジン−3(4H)−イル]アセトアミド(A−1)の合成
【0076】
【化12】
【0077】
化合物A−1は、プレカーサーAのフェノール部分の酸素原子をサイクロトロン装置により製造した[11C]ヨウ化メチルを用いてアルキル化することにより合成した。
【0078】
18.0MeVの陽子を用いて14N(P,α)11C反応に従って窒素を20μAのビームカレントを用いて15分照射することにより炭素−11を製造した。標的ガス中の少量の酸素(5ppm)の存在により炭素−11は[11C]二酸化炭素に変換された。得られた[11C]二酸化炭素を水素化リチウムアルミニウムを用いて還元し、続いてヨウ化水素酸と反応させることにより[11C]ヨウ化メチルを合成した。
【0079】
プレカーサーA(1.0mg)、水酸化ナトリウム水溶液(0.5mol/L、5μL)及び無水N,N−ジメチルホルムアミド(300μL)の混合物をよく振り混ぜて混和した。反応混合物を−20℃に冷却し、[11C]ヨウ化メチルを吹き込み、その後80℃で5分間加熱した。反応混合物にアセトニトリル/水/トリエチルアミン(40/60/0.1)溶液(1mL)を加え、分取HPLCカラム(SHISEIDO CAPCELL PAC C−18 250×10 mm)に注入し、5mL/分の流量でアセトニトリル/水/トリエチルアミン(40/60/0.1)溶液により溶出した。8〜9分後に溶出され丸底フラスコに集められた化合物Aを含む放射活性フラクションを、減圧下エアヒーターで100℃に加熱して蒸発乾固させた。残渣を生理食塩水(3mL)に溶解し、滅菌したバイアル瓶に集めた。品質管理はアセトニトリル/水/トリエチルアミン(40/60/0.1)溶液を移動相として、1mL/分の流量で分析的HPLC(SHISEIDO CAPCELL PAC C−18 250×4.6 mm)を用いて行った。当該標識体の保持時間と非標識体の保持時間が同等であることを確認した。
【0080】
本製造により、収量2.10GBq〜3.24GBq、放射化学的純度98%以上、比放射能45〜89GBq/μmolの化合物A−1が得られた。HPLC精製および調剤を含む平均全合成時間は、照射の終了から約28分であった。
【0081】
実施例B−1:N−tert−ブチル−2−[2−(6−11C−メチルオキシピリジン−2−イル)−6−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−4−オキソピリド[2,3−d]ピリミジン−3(4H)−イル]アセトアミド(B−1)の合成
【0082】
【化13】
【0083】
(1)2−[6−ブロモ−2−(6−メトキシピリジン−2−イル)−4−オキソ−1,4−ジヒドロピリド[2,3−d]ピリミジン−3(2H)−イル]−N−tert−ブチルアセトアミド(B−1−1)の合成
【0084】
【化14】
【0085】
実施例A−1(1)と同様の手法にて、6−メトキシピリジン−2−カルバルデヒド(5.0g)から表題化合物(8.28g)を得た。
【0086】
(2)2−[6−ブロモ−2−(6−メトキシピリジン−2−イル)−4−オキソピリド[2,3−d]ピリミジン−3(4H)−イル]−N−tert−ブチルアセトアミド(B−1−2)の合成
【0087】
【化15】
【0088】
実施例A−1(2)と同様の手法にて、実施例B−1(1)で得られた化合物B−1−1(8.28g)から表題化合物(6.86g、無色固体)を得た。
MS (ESI pos.) m/z : 446([M+H]+).
【0089】
(3)N−tert−ブチル−2−[6−ヒドロキシ−2−(6−メトキシピリジン−2−イル)−4−オキソピリド[2,3−d]ピリミジン−3(4H)−イル]アセトアミド(B−1−3)の合成
【0090】
【化16】
【0091】
実施例A−1(3)と同様の手法にて、実施例B−1(2)で得られた化合物B−1−2(6.22g)から表題化合物(3.85g、灰色固体)を得た。
MS (ESI pos.) m/z : 384([M+H]+).
【0092】
(4)N−tert−ブチル−2−[2−(6−メトキシピリジン−2−イル)−6−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−4−オキソピリド[2,3−d]ピリミジン−3(4H)−イル]アセトアミド(B−1−4)の合成
【0093】
【化17】
【0094】
実施例A−1(4)と同様の手法にて、実施例B−1(3)で得られた化合物B−1−3(1.80g)から表題化合物(1.31g、黄色アモルファス)を得た。
MS (ESI pos.) m/z : 511([M+H]+).
1H-NMR (600 MHz, CDCl3) δ (ppm) ; 1.24 (9 H, s), 2.01 - 2.09 (2 H, m), 2.48 (4 H, br. s.), 2.55 (2 H, t, J=7.0 Hz), 3.70 - 3.77 (4 H, m), 3.94 (3 H, s), 4.20 (2 H, t, J=6.2 Hz), 5.08 (2 H, s), 5.39 (1 H, s), 6.87 (1 H, d, J=8.3 Hz), 7.67 - 7.71 (1 H, m), 7.72 - 7.77 (1 H, m), 7.96 (1 H, d, J=3.3 Hz), 8.73 (1 H, d, J=3.3 Hz).
【0095】
(5)N−tert−ブチル−2−[2−(6−ヒドロキシピリジン−2−イル)−6−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−4−オキソピリド[2,3−d]ピリミジン−3(4H)−イル]アセトアミド(プレカーサーB)の合成
【0096】
【化18】
【0097】
実施例B−1(4)で得られた化合物B−1−4(700mg)、ヨウ化ナトリウム(1.44g)をアセトニトリル(20mL)に懸濁し、クロロトリメチルシラン(1.21mL)を加えた。15分間室温で攪拌後、外温85℃で1時間攪拌した。反応液を放冷後、氷冷下で水(20mL)を加えた後、飽和NaHCO3水溶液(100mL)及びCHCl3(100mL)を加え分液後、有機層を飽和食塩水(100mL)で洗浄した。水層をCHCl3(100mL)で3回抽出し、有機層を合わせてNa2SO4乾燥後、乾燥剤を濾別し、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SNAP Cartridge HP-Sphere、移動相:CHCl3/MeOH=98/2〜85/15;v/v)にて精製した。得られた粗精製物にEtOAc(6mL)及びn−ヘキサン(3mL)を加え、析出物をろ取、乾燥し、表題化合物(290mg、淡褐色アモルファス)を得た。
MS (ESI pos.) m/z : 497([M+H]+).
1H-NMR (600 MHz, CDCl3) δ (ppm) ; 1.41 (9 H, s), 1.99 - 2.09 (2 H, m), 2.48 (4 H, br. s.), 2.55 (2 H, t, J=6.8 Hz), 3.69 - 3.76 (4 H, m), 4.20 (2 H, t, J=6.2 Hz), 4.61 (2 H, s), 6.09 (1 H, s), 6.73 (1 H, d, J=8.3 Hz), 6.96 (1 H, d, J=6.6 Hz), 7.48 - 7.54 (1 H, m), 7.87 - 7.93 (1 H, m), 8.74 (1 H, d, J=3.3 Hz), 10.54 - 11.09 (1 H, m).
【0098】
(6)N−tert−ブチル−2−[2−(6−11C−メチルオキシピリジン−2−イル)−6−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−4−オキソピリド[2,3−d]ピリミジン−3(4H)−イル]アセトアミド(B−1)の合成
【0099】
【化19】
【0100】
(方法1)
実施例B−1−(5)で得られたプレカーサーB (1.0 mg)と炭酸セシウム(10.0 mg)をジメチルスルホキシド(300 μL)に懸濁し、35.5 GBqの[11C]CO2から誘導した[11C]CH3Iを室温にて吹き込んだ。次いで100℃にて3分間加熱した。反応物を放冷後、溶媒 (50 mmol/L リン酸水溶液:アセトニトリル=4:1) を1 ml加え、HPLCを用いて精製した。HPLCカラムはX-Terra C18 (250×10 mm)を用い、移動相は50 mmol/Lリン酸水溶液とアセトニトリルの体積比が4:1である溶媒を用い、流速は4 ml/minで行った。11分から12分に溶出したフラクションを25% アスコルビン酸 (100 μL)とTween 80/エタノール混合溶媒 (100 μL)を加えたなすフラスコに分取した後、減圧濃縮を行った。次いで0.5 mMリン酸ナトリウム補正液(1 ml)と注射用水(2 ml)の混合溶液にて再溶解を行い、0.81 GBqの表題化合物を含む溶液を得た。分析HPLCにて当該標識体の保持時間と非標識体の保持時間が同等であることを確認した。HPLCカラムはX-Terra C18 (150×4.6 mm)を用い、移動相は50 mmol/Lリン酸水溶液とアセトニトリルの体積比が4:1である溶媒を用い、流速は1 ml/minで行った。
(方法2)
実施例B−1−(5)で得られたプレカーサーB (1.0 mg)と炭酸カリウム(10.3 mg)をジメチルホルムアミド(300 μL)に懸濁し、19.2 GBqの[11C]CO2から誘導した[11C]CH3Iを室温にて吹き込んだ。次いで100℃にて3分間加熱した。反応物を放冷後、溶媒 (50 mmol/L リン酸水溶液:アセトニトリル=4:1) を1 ml加え、HPLCを用いて精製した。HPLCカラムはSunfire C18 (250×10 mm)を用い、移動相は50 mmol/Lリン酸水溶液とアセトニトリルの体積比が4:1である溶媒を用い、流速は5 ml/minで行った。10分から12分に溶出したフラクションを25% アスコルビン酸 (100 μL)とTween 80/エタノール混合溶媒 (100 μL)を加えたなすフラスコに分取した後、減圧濃縮を行った。次いで0.5 mMリン酸ナトリウム補正液(1 ml)と注射用水(2 ml)の混合溶液にて再溶解を行い、1.91 GBqの表題化合物を含む溶液を得た。分析HPLCにて当該標識体の保持時間と非標識体の保持時間が同等であることを確認した。HPLCカラムはX-Terra C18 (150×4.6 mm)を用い、移動相は50 mmol/Lリン酸水溶液とアセトニトリルの体積比が4:1である溶媒を用い、流速は1 ml/minで行った。
【0101】
試験例1
・V1b受容体結合試験
ヒトV1b受容体を一過性に発現させた293FT細胞を回収し、15mmol/L トリス塩酸緩衝液(pH7.4、2mmol/L 塩化マグネシウム、0.3mmol/L エチレンジアミン四酢酸、1mmol/L グリコールエーテルジアミン四酢酸を含む)中でホモジナイズした。得られたホモジネートを50,000×g、4℃で20分間遠心分離し、沈殿物を75mmol/L トリス塩酸緩衝液(pH7.4、12.5mmol/L 塩化マグネシウム、0.3mmol/L エチレンジアミン四酢酸、1mmol/L グリコールエーテルジアミン四酢酸、250mmol/L ショ糖を含む)に再懸濁して粗膜標品とし、結合試験実施前まで−80℃にて保存した。結合試験の際は、この粗膜標品を50mmol/L トリス塩酸緩衝液(pH7.4、10mmol/L 塩化マグネシウム、0.1% ウシ血清アルブミンを含む)にて希釈し、各被検化合物、及び[3H]AVP(最終濃度0.4〜1nmol/L)と混合し、室温で60分間インキュベーションした。被検化合物はDMSOにて段階的に希釈し、混合時の被検化合物の最終濃度は、0.01nmol/L〜1μmol/Lである。インキュベーション後、混合溶液を0.3% ポリエチレンイミンを浸透させたGF/Cフィルターへと吸引濾過した。このGF/Cフィルターを乾燥させてシンチレーターを加えた後、トップカウント(パーキンエルマー社)を用いてフィルター上に残存する放射能を測定した。10μmol/Lの未標識AVP存在下での放射能を0%とし、未標識AVP非存在下での放射能を100%とした。各濃度の被検化合物存在下での放射能より用量反応曲線を作成し、被検化合物の50%阻害濃度(IC50値)を算出した。化合物A−1−4及びB−1−4のIC50値を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
試験例2
・PETイメージング
方法
PET撮像には雄性アカゲザルを用いた。サルはイソフルラン(1.5% v/v)によって持続的に麻酔し、伏在静脈に放射性標識化合物および薬液投与のための留置針を設置した。PET撮像は小動物用PET Focus 220 (Siemens)を使用し、イソフルラン麻酔下のサルを同機器に測定用の姿勢にて固定した。PET撮像中は、動物を保温マットにて覆い体温の維持を行い、パルスオキシメータで状態を管理した。
【0104】
放射性標識化合物A−1(388 MBq/サル個体)を静脈内投与し、投与直後から90分間のPET撮像を行った。撮像はリストモードで実施し、0.5 mm Hanningフィルターを用いて画像再構成を行った。得られたPETイメージデータは、PMOD software (PMOD Technology)を使用し、放射性標識化合物分布の三次元マップの構築、および下垂体に設定したregion of interest(ROI)での放射能濃度の時間変化の解析に用いた。
【0105】
放射性標識化合物A−1の下垂体での放射能集積の低下を確認するため、同じ個体のサルを使用し、非標識化合物A−1―4を前投与(10 mg/kg、伏在静脈より投与)し、直後に放射性標識化合物A−1(352 MBq/サル個体)を投与し、放射性標識化合物投与直後から90分間のPET撮像を行った(Blocking試験)。
【0106】
放射性標識化合物B−1(341 MBq/サル個体)を静脈内投与し、投与直後から90分までの間のPET撮像を行った。また、下垂体での放射能集積の低下は、非標識化合物B−1―4を前投与(10 mg/kg、伏在静脈より投与)し、直後に放射性標識化合物B−1(303 MBq/サル個体)を投与し、放射性標識化合物投与直後から90分間のPET撮像を行った。PET撮像、画像再構成およびPETイメージデータの解析は、放射性標識化合物A−1と同様の方法を用いた。
【0107】
試験結果
試験結果を図1及び2に示す。
【0108】
図1に示されている通り、放射性標識化合物A−1を使用した試験において、放射性標識化合物A−1の投与直後より、V1b受容体の高い発現を認める下垂体において放射能濃度の上昇を確認した。下垂体への放射能の取り込みは投与2分後にピークに達し、そのピークの取り込み量は0.11%Injected dose (ID)/mLであった。ピークに達した後は徐々にその放射能は低下し、投与90分後での取り込み量は0.044%ID/mLであった。下垂体以外の頭部内の組織において、下垂体と同様の放射能の取り込みは認められなかった。
【0109】
非標識化合物A−1を前投与することにより、下垂体での放射能取り込みは、投与1分後でピークに達し、そのピーク値の取り込み量は0.085%ID/mLであった。ピークに達した後、放射能は低下し、投与90分後での取り込み量は0.012%ID/mLであった。放射性標識化合物A−1単独投与での試験結果と比較し、下垂体での放射能の取り込みは低下した。
【0110】
図2に示されている通り、放射性標識化合物B−1を使用した試験において、放射性標識化合物B−1の投与直後より下垂体において放射能濃度の上昇を確認した。下垂体への放射能の取り込みは投与2分後にピークに達し、そのピークの取り込み量は0.13%Injected dose (ID)/mLであった。ピークに達した後は徐々にその放射能は低下し、投与90分後での取り込み量は0.068%ID/mLであった。下垂体以外の頭部内の組織において、下垂体と同様の放射能の取り込みは認められなかった。
【0111】
非標識化合物B−1−4を前投与することにより、下垂体での放射能取り込みは、投与2分後でピークに達し、そのピーク値の取り込み量は0.078%ID/mLであった。ピークに達した後、放射能は低下し、投与90分後での取り込み量は0.008%ID/mLであった。放射性標識化合物B−1単独投与での試験結果と比較し、下垂体での放射能の取り込みは低下した。
【0112】
同じ個体のサル脳の核磁気共鳴画像と重ね合わせた放射性標識化合物A−1投与30から90分の間のPET加算画像を図1に示す。(a) 放射性標識化合物A−1のみ投与したサル(冠状断面図)、(b) 放射性標識化合物A−1のみ投与したサル(矢状断面図)、(c) 非標識化合物A−1−4を前投与後、放射性標識化合物A−1を投与したサル(冠状断面図)、(d) 非標識化合物A−1−4を前投与後、放射性標識化合物A−1を投与したサル(矢状断面図)。同じ個体のサル脳の核磁気共鳴画像と重ね合わせた放射性標識化合物B−1投与30から90分の間のPET加算画像を図2に示す。(a) 放射性標識化合物B−1のみ投与したサル(冠状断面図)、(b) 放射性標識化合物B−1のみ投与したサル(矢状断面図)、(c) 非標識化合物B−1−4を前投与後、放射性標識化合物B−1を投与したサル(冠状断面図)、(d) 非標識化合物B−1−4を前投与後、放射性標識化合物B−1を投与したサル(矢状断面図)。各図中の右上埋め込み図は矢印部分(下垂体に相当)の拡大図。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、PET等の画像診断技術を用いてバソプレッシンV1b受容体の機能変化に起因する各種疾患の診断をするために有用である。また、バソプレッシンV1b受容体拮抗物質又は作動物質を各種病気の治療薬として使用するに当たって、PET等の画像診断技術を用いてその有効量を推定するためにも有用である。
図1
図2