(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376380
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】ニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20180813BHJP
C04B 35/00 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C04B35/00
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-148022(P2014-148022)
(22)【出願日】2014年7月18日
(65)【公開番号】特開2016-23333(P2016-23333A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【弁理士】
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫
(72)【発明者】
【氏名】長尾 昌芳
【審査官】
塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】
特表平06−510090(JP,A)
【文献】
特開2009−046340(JP,A)
【文献】
特開昭63−040756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C04B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li2CO3粉末とNiO粉末との混合粉末を、大気中、700〜900℃で焼成し、LiNiO2焼成体を得る焼成工程と、
前記LiNiO2焼成体を粉砕してLiNiO2粉末を得る粉砕工程と、
前記LiNiO2粉末を焼結してLiNiO2焼結体を得る焼結工程と、
を備え、
前記焼結工程は、
前記LiNiO2粉末を、還元雰囲気で、400〜600℃で加圧焼結して、中間焼結体を得る加圧焼結工程と、
前記中間焼結体を、大気中で、700〜850℃で加熱保持して、LiNiO2焼結体を得る本焼結工程と、
を含むことを特徴とするリチウム含有ニッケル酸化物スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極材として有用なニッケル酸リチウム(LiNiO
2)膜をスパッタリング成膜するためのニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器などの電源に用いられる高エネルギー密度電池として、リチウム二次電池の需要が高まっている。このリチウムイオン二次電池の正極材には、従来から用いられていたコバルト酸リチウム(LiCoO
2)に代わるニッケル酸リチウム(LiNiO
2)が提案されている。
【0003】
このニッケル酸リチウムの製造方法として、出発原料である炭酸リチウム(Li
2CO
3)と酸化ニッケル(NiO)とを混合した原料を618℃以下の温度で、かつ非酸化雰囲気で焼成し、その後、酸化雰囲気で、かつ618℃以上の温度で焼成することにより、ニッケル含有リチウム化合物を得ることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。ここでは、Li
2CO
3の融点618℃以下で、非酸化雰囲気でNiOを不安定化してLiとの反応を促進し、その後、酸化雰囲気で昇温することで結晶構造を整えることができる。得られたニッケル含有Li化合物をスパッタリングターゲットとして用いて、LiNiO
2膜を成膜している。
【0004】
一方、ニッケル酸リチウムの他の製造方法としては、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)を成形・焼結してスパッタリングターゲットとすることが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。ここでは、予め膜組成を構成する全元素を含む前駆体を作製し、これを酸化することで、ターゲット材の原料を作製した後、この原料を成形、焼結することによりスパッタリングターゲットを作製している。その作製手順としては、先ず、炭酸リチウム(Li
2CO
3)を溶解・懸濁させた水中に、所定量のNi塩溶液を滴下し、炭酸塩を作製し、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)の原料となる炭酸塩前駆体を得ている。この炭酸塩前駆体を、大気中で、930℃、3時間酸化処理して、LiNiO
2のターゲット原料粉を作製している。このターゲット原料粉を成形し、大気中で、前記酸化処理温度よりも高い温度で焼結して、LiNiO
2のスパッタリングターゲットを作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−119266号公報
【特許文献2】特開2012−164671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1で提案された製造方法では、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)と比較して安価な材料から、ニッケル含有リチウム化合物を形成することができるが、この形成されたニッケル含有Li化合物には、化学量論組成をから見て、組成ずれが発生しやすく、単相のニッケル酸リチウム(LiNiO
2)を得ることができなかった。
【0007】
また、前記特許文献2で提案された製造方法によっても、化学量論組成から組成ずれのあるニッケル含有リチウム化合物を焼結してスパッタリングターゲットを作製しているので、ターゲット中においても組成ずれが残っており、このスパッタリングターゲットを用いて形成された膜にも、組成ずれが残ってしまい、目標の成分組成、即ち、LiNiO
2を有する膜が得られない。
【0008】
そこで、本発明は、炭酸リチウム(Li
2CO
3)と酸化ニッケル(NiO)とをターゲット原料として、化学量論組成を有し、組成ずれのないニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Li
2CO
3とNiOとの混合粉末を、酸化雰囲気で、Li
2CO
3の融点以上の温度で焼成すると、Li
2CO
3がNiOと反応して、塊状のLiNiO
2を得ることができ、これを粉砕して得たLiNiO
2粉末は、LiNiO
2相で形成され、Li
2CO
3が含まれていないという知見を得た。そこで、この得られたLiNiO
2粉末を、還元雰囲気で、前記温度より低い温度で焼結することによって、化学量論組成から組成ずれのないニッケル酸リチウム(LiNiO
2)の焼結体を得られることが判明した。さらに、この焼結後に、酸化雰囲気、高い温度で本焼結すると、この焼結体の密度及び相対密度を向上できることも判明した。
【0010】
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)本発明のニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの製造方法は、Li
2CO
3粉末とNiO粉末との混合粉末を、大気中、700〜900℃で焼成し、LiNiO
2焼成体を得る焼成工程と、前記LiNiO
2焼成体を粉砕してLiNiO
2粉末を得る粉砕工程と、前記LiNiO
2粉末を焼結してLiNiO
2焼結体を得る焼結工程と、を備
え、前記焼結工程は、前記LiNiO2粉末を、還元雰囲気で、400〜600℃で加圧焼結して、中間焼結体を得る加圧焼結工程と、前記中間焼結体を、大気中で、700〜850℃で加熱保持して、LiNiO2焼結体を得る本焼結工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係るニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの製造方法では、Li
2CO
3とNiOとの混合粉末を、大気中、700〜900℃で焼成し、LiNiO
2を得る焼成工程と、前記焼成工程で得られたLiNiO
2を粉砕してLiNiO
2粉末を得る粉砕工程と、前記粉砕工程で得られたLiNiO
2粉末を焼結して焼結体を得る焼結工程とを備えることとし、焼結工程の前に、所定の温度範囲で焼成工程を実施することで、化学量論組成から組成ずれのないニッケル酸リチウム(LiNiO
2)を得ることができ、これを焼結することで、組成ずれのないニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットを得ることができる。
【0012】
ここで、前記焼成工程における焼成温度が、700℃未満であると、未反応のLi
2CO
3が残り、組成ずれの原因となるので好ましくない。一方、その焼成温度が、900℃を超えると、Liが蒸発して組成ずれの原因となるので好ましくない。
【0013】
また、本発明に係るニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの製造方法において、前記焼結工程は、前記LiNiO
2粉末を、還元雰囲気中、400〜600℃で加圧焼結して中間焼結体を得る加圧焼結(ホットプレス)工程と、前記中間焼結体を、大気中、700〜850℃で加熱保持する本焼結工程とを有することが好ましい。このような工程手順にすることにより、より確実にスパッタリングターゲットの組成ずれを防止することができる。また、より密度の高いスパッタリングターゲットを得ることができる。
【0014】
ここで、加圧焼結(ホットプレス)工程における加熱温度が、400℃未満であると、密度を向上する効果が低くなるので好ましくない。一方、その加熱温度が、600℃を超えると、LiNiO
2が還元されて組成ずれの原因となるので好ましくない。なお、還元雰囲気のホットプレス工程においては、一部のLiNiO
2が還元され、組成ずれが発生しても、次の、大気中での本焼成工程により、LiNiO
2に戻るので、組成ずれの問題は生じない。ただし、この場合であっても、加圧焼結工程における加熱温度が、600℃を超えて過度に還元されると、スパッタリングターゲットに組成ずれとして残る場合がある。
【0015】
また、前記本焼結工程における加熱温度が、700℃未満であると、ターゲット密度を向上する効果が低くなるので好ましくない。一方、その加熱温度が、850℃を超えると、Liが蒸発して組成ずれの原因となるので好ましくない。
【発明の効果】
【0016】
以上の様に、本発明に係るニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの製造方法によれば、Li
2CO
3粉末とNiO粉末との混合粉末を、大気中、700〜900℃で焼成し、LiNiO
2焼成体を得る焼成工程と、前記LiNiO
2焼成体を粉砕して得たLiNiO
2粉末を焼結してLiNiO
2焼結体を得る焼結工程と、を備えているので、化学量論組成からずれた組成を有するニッケル含有リチウム化合物の生成を低減した単相のニッケル酸リチウム(LiNiO
2)を得ることができる。
【0017】
さらに、前記焼結工程が、前記LiNiO
2粉末を、還元雰囲気中、400〜600℃で加圧焼結して中間焼結体を得る加圧焼結(ホットプレス)工程と、前記中間焼結体を、大気中、700〜850℃で加熱保持する本焼結工程とを有することにより、より確実にスパッタリングターゲットの組成ずれを防止することができ、より密度の高いスパッタリングターゲットを得ることができる。
【0018】
以上の様に、本発明に係る方法により製造されたニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットにおいては、組成ずれを防止した単相のニッケル酸リチウム(LiNiO
2)で構成されているので、このスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング成膜すれば、組成ずれのないニッケル酸リチウム(LiNiO
2)膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る方法で製造されたニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの一具体例についてのX線回折による計測結果のXRDパターンを示す。
【
図2】本発明に係る方法で製造されたニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの他の具体例についてのX線回折による計測結果のXRDパターンを示す。
【
図3】本発明に係る方法で製造されたニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの別の具体例についてのX線回折による計測結果のXRDパターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係るニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの製造方法について、以下に、実施例により具体的に説明する。
【0021】
〔実施例〕
先ず、本発明に係るニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットを製造するために、原料粉末として、平均粒径D50が150μm、純度4NのLi
2CO
3粉末(株式会社高純度科学研究所製)と、平均粒径D50が1.8μm、純度3NのNiO粉末(フルウチ化学株式会社製)とを用意した。そして、以下に示す混合工程、焼成工程、粉砕工程、焼結工程:ホットプレス工程、焼結工程:本焼結工程、機械加工工程の手順に従い、製造を実施した。
【0022】
(混合工程)
Li
2CO
3粉末とNiO粉末とを、モル比が1:2となるように秤量した。秤量した各原料粉末を、ボールミルにより混合し、実施例1〜11の混合粉末を得た。この混合では、ZrO
2ボールを用い、溶媒にはヘキサンを用いた。得られた各混合粉末を乾燥し、目開き0.5mmの篩にかけた。
【0023】
(焼成工程)
実施例1〜11の混合粉末をそれぞれ容器に入れ、大気中で、表1に示された加熱温度で、48時間、加熱保持し、塊状のLiNiO
2焼成体を得た。
【0024】
(粉砕工程)
得られた塊状のLiNiO
2焼成体をそれぞれベッセルによって解砕し、目開き90μmの篩にかけて、実施例1〜11のLiNiO
2粉末を得た。
【0025】
(焼結工程:ホットプレス工程)
得られた実施例1〜11のLiNiO
2粉末を、それぞれモールドに充填し、真空槽内を10
−2Torr(1.3Pa)の到達真空圧力まで排気した後、表1に示す加熱温度で2時間、圧力14.7MPaでホットプレスすることにより、実施例1〜11の中間焼結体を得た。
【0026】
(焼結工程:本焼結工程)
上記実施例1〜11の中間焼結体を、大気中、表1に示した加熱温度で、48時間、加熱保持し、実施例1〜11の焼結体を得た。
【0027】
(機械加工工程)
得られた実施例1〜11の焼結体を機械加工して、直径200mm、厚さ5mmの実施例1〜11のスパッタリングターゲットを作製した。ここで、実施例ごとに、同じスパッタリングターゲットを5個ずつ作製した。
【0028】
〔比較例〕
実施例との比較のため、比較例1、2のニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットを作製した。各比較例のスパッタリングターゲットは、上記実施例の場合と同様の手順で作製されたが、比較例1、2では、上記の焼成工程における温度が、本発明の温度範囲外となっており、比較例1は、低い場合であり、また、比較例2は、高い場合である。
【0030】
次いで、作製された実施例1〜11及び比較例1、2のスパッタリングターゲットについて、以下に示すように、組成ずれの評価を行い、さらに、ターゲット密度及び相対密度を測定した。
【0031】
<組成ずれの評価>
下記の条件で、実施例1〜11及び比較例1、2のスパッタリングターゲットのそれぞれの5サンプルについて、XRD測定を実施した。
・試料の準備:得られた焼結体をメノウ乳鉢にて粉砕したものを測定試料とした。
・装置:理学電機社製(RINT−Ultima/PC)
・管球:Cu
・管電圧:40kV
・管電流:40mA
・走査範囲(2θ):10°〜90°
・スリットサイズ:発散(DS)2/3度、散乱(SS)2/3度、受光(RS)0.3mm
・測定ステップ幅:2θで0.04度
・スキャンスピード:毎分4度
・試料台回転スピード:30rpm
上記測定により得られたXRDパターンにおいて、LiNiO
2相のみが検出された場合を組成ずれ無しとし、LiNiO
2相以外の相、即ち、組成ずれが発生したニッケル含有リチウム化合物相も検出された場合、組成ずれ有とした。5サンプル中、組成ずれのあったサンプルの数を、表2の「組成ずれ発生数」欄に示した。なお、5サンプルいずれにおいても組成ずれ無しの場合は、「0」である。
【0032】
なお、本発明に係る方法で製造されたニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの一具体例として、上記実施例1の場合についてのX線回折による計測結果のXRDパターンを
図1に示した。また、本発明に係る方法で製造されたニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの他の具体例として、上記実施例6の場合についてのX線回折による計測結果のXRDパターンを
図2に示した。
図1及び
図2のXRDパターンによれば、単相のLiNiO
2相が確認された。さらに、本発明に係る方法で製造されたニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの別の具体例として、実施例11の場合についてのX線回折による計測結果のXRDパターンを
図3に示した。
図3のXRDパターンによれば、LiNiO
2相と、化学量論組成からずれたニッケル含有リチウム化合物相とが確認された。
【0033】
<密度の評価>
得られた実施例1〜11及び比較例1、2の焼結体を、所定寸法に機械加工した後、重量を測定し嵩密度を求めた。これらの嵩密度を理論密度(4.81g/cm
3)で割ることで、各々の相対密度を算出した。密度及び相対密度について、それらの結果を、表2の「密度(g/cm
3)」欄及び「相対密度(%)」欄に示した。なお、比較例1、2の場合には、全サンプルにおいて、組成ずれが発生したため、密度及び相対密度を測定しなかった。表2においては、「−」と表記した。
【0035】
上記の表2によれば、実施例1〜6、8〜10の場合には、いずれも、スパッタリングターゲットの5サンプル中で組成ずれ発生を確認できなかった。さらに、実施例7の場合は、ホットプレス工程の加熱温度が高いため、実施例11の場合は、本焼成工程の加熱温度が高いため、一部のサンプルで組成ずれが発生したが、いずれの場合も、ターゲット密度及び相対密度を向上することができた。
【0036】
一方、比較例1の場合には、焼成工程における加熱温度が低く、比較例2の場合には、その加熱温度が高いため、いずれの場合も、全てのサンプルで組成ずれが発生した。
【0037】
以上のことから、本実施例に係るニッケル酸リチウムスパッタリングターゲットの製造方法によれば、Li
2CO
3とNiOとの混合粉末を、酸化雰囲気で、Li
2CO
3の融点以上の温度で焼成すると、塊状のLiNiO
2を得ることができ、これを粉砕して得たLiNiO
2粉末を、還元雰囲気で、前記温度より低い温度で焼結することによって、化学量論組成から組成ずれのないニッケル酸リチウム(LiNiO
2)の焼結体が得られることを確認できた。さらに、この焼結後に、酸化雰囲気、高い温度で本焼結すると、この焼結体の密度及び相対密度を向上できることも確認できた。