特許第6376404号(P6376404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6376404PON通信システムにおける局側装置及び故障端末特定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376404
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】PON通信システムにおける局側装置及び故障端末特定方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 12/44 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
   H04L12/44 200
   H04L12/44 M
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-95913(P2015-95913)
(22)【出願日】2015年5月8日
(65)【公開番号】特開2016-213678(P2016-213678A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2017年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100110799
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 温道
(72)【発明者】
【氏名】片山 久嗣
(72)【発明者】
【氏名】豊田 重治
【審査官】 宮島 郁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−359596(JP,A)
【文献】 特開2013−135288(JP,A)
【文献】 特開2006−303673(JP,A)
【文献】 特開2008−104028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L12/28,12/44−12/46
H04B10/00−10/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
局側装置と、前記局側装置と光カプラを介して接続される複数の宅側装置とを含むPON(Passive Optical Network)通信システムに用いられる局側装置であって、
各宅側装置から送信されてくる上りバースト光信号の強度をそれぞれ検知する光強度検知部と、
前記検知された光強度が宅側装置ごとに書き込まれる光強度記憶部と、
どの宅側装置に対しても上りバースト光信号の送信を指定していない時間に検知された光信号の強度を異常光強度として認識し、前記異常光強度を、前記光強度記憶部に書き込まれた各宅側装置の上りバースト光信号の強度とそれぞれ比較し、前記比較の結果、光強度の差がしきい値よりも小さい1若しくは複数の宅側装置を、連続信号を出し続ける故障の発生した宅側装置又はその候補であると推定する故障推定部とを備える、局側装置。
【請求項2】
前記光強度検知部は、すべての宅側装置と正常に通信している時に、各宅側装置から受信される上りバースト光信号強度をあらかじめ検知して前記光強度記憶部に書き込んでおく、請求項1に記載の局側装置。
【請求項3】
前記故障推定部は、前記推定された1又は複数の宅側装置に対して、消光/発光コマンドを出すことによって、常時発光状態を検知した宅側装置を故障の発生した宅側装置であると特定する、請求項1又は請求項2に記載の局側装置。
【請求項4】
局側装置と、前記局側装置と光カプラを介して接続される複数の宅側装置とを含むPON(Passive Optical Network)通信システムに用いられる局側装置において、故障している宅側装置を推定する方法であって、
前記複数の宅側装置に対して上りバースト光信号送信のタイミングを指定し、
各宅側装置から送信されてくる上りバースト光信号強度をあらかじめ検知して記憶し、
どの宅側装置に対しても上りバースト光信号の送信を指定していない時間に検知される光信号の強度を異常光強度として認識し、
前記異常光強度を、前記記憶した各宅側装置の上りバースト光信号強度とそれぞれ比較し、
前記比較の結果、光強度の差がしきい値よりも小さな1又は複数の宅側装置を、連続信号を出し続ける故障の発生した宅側装置又はその候補であると推定する、故障端末特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局側装置と複数の宅側装置との間を結ぶ光データ通信ネットワーク、特にPON(Passive Optical Network)通信システムにおいて、宅側装置の故障を特定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
局側装置OLT(Optical Line Terminal:光加入者線端局装置)と、複数の宅側装置ONU(Optical Network Unit:光加入者線終端装置)との間を、光データ通信ネットワークを使って双方向通信するシステムがあり、特に、局側装置OLTと各宅側装置ONUとの間を、それぞれ1本の光ファイバで放射状に結ぶ(Single Star)ネットワーク構成が古くから実用化されている。このネットワーク構成では、システム及び機器構成は簡単になるが、1つの宅側装置ONUが一本の光ファイバを占有し、宅側装置ONU数がN局あれば、局側装置OLTから直接接続される光ファイバがN本必要となり、システムの低価格化を図るのが困難である。
【0003】
そこで、局側装置OLTから引かれる1本の光ファイバを、複数の宅側装置ONUで共有するPON通信システムが実用化されている。
PON通信システムでは、特に外部からの電源供給を必要とせず入力された信号から受動的(Passive)に信号を分岐・多重する受動型光分岐器(光カプラ;OC)を介して、一つの局側装置OLTと複数の宅側装置ONUが光伝送路で接続される。局側装置OLTとN局の宅側装置ONUとは、光ファイバ及び光カプラOCを介して接続された1対Nの伝送を基本としている。これにより、1つの局側装置OLTに対して、多くの宅側装置ONUを割り当てることができ、全体的な設備コストを抑えることができる。
【0004】
PON通信システムでは、局側装置OLTと光分岐器間の光伝送路を複数の宅側装置ONUで共有するため、宅側装置ONUから局側装置OLTに向かう方向(以下、上り方向と称する)において、各宅側装置ONUが送出する光信号の衝突回避対策が必要である。このため、局側装置OLTが時分割アクセス制御方式により各宅側装置ONUの光信号送出タイミングを制御している。
【0005】
この時分割アクセス制御方式により、各宅側装置ONUは、局側装置OLTにより指定されたある区切られた時間に光信号を送出する。このように各宅側装置ONUから送出される光信号を「バースト光信号」と呼ぶ。
このように、PON通信システム上で1台の局側装置OLTに複数の宅側装置ONUがつながっているため、いずれかの宅側装置ONUが常時点灯状態になる故障を起こすと、他の宅側装置ONUからの光信号に重なってしまい、他の残りの宅側装置ONUとも通信を行うことが困難になるという障害が発生する。この場合、局側装置OLTのシステム管理者が点灯状態の宅側装置ONUを何らかの手段で特定して、常時点灯の故障が発生した宅側装置ONUを修理又は交換する必要がある。
【0006】
しかし常時点灯状態では、局側装置OLTは、各宅側装置ONUからの上りパケットの識別ができないので、点灯状態の宅側装置ONUを特定するのに工夫が必要である。
特許文献1においては、局側装置OLTが順次宅側装置ONUに消光命令を出すことで宅側装置ONUの発光を停止させ、故障のある宅側装置ONUを特定するという、障害復旧手順を定めている。
【0007】
特許文献2においては、局側装置OLTにおいて、各宅側装置ONUの上りバースト光信号強度をあらかじめ検知しておき、障害が発生した時に、各宅側装置ONUの上りバースト光信号強度をそれぞれ再検知し、同じ宅側装置ONU同士で故障前後の光強度を比較し、障害発生前後で光強度の変化が最も小さい宅側装置ONUを、連続信号を出し続ける故障の発生した宅側装置ONUであると判定する。
【0008】
この特許文献2においては、いずれかの宅側装置ONUが常時点灯すると、その故障以外の宅側装置ONUからの光信号強度は、当該の宅側装置ONUの光信号強度に前記故障の宅側装置ONUの光信号強度が上乗せされたものとなり、光信号強度が増大する。しかし故障の宅側装置ONUの光信号強度はそのままである。したがって、故障判定部14は、各宅側装置ONUからの光信号強度を測定して、それらの測定結果を記憶しておき、障害発生前後で光強度の変化が小さい順に、故障宅側装置ONUの候補を決定する。これにより、連続信号を出し続ける故障宅側装置ONUを特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4228693号公報
【特許文献2】特許第4798457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1においては、局側装置OLTに接続されている宅側装置ONUの台数が多い場合、故障している宅側装置ONUを切り分けるまでひとつずつ確認の手順を行う必要があり、復旧に時間がかかる。
また、特許文献2においては、各故障宅側装置ONUからの光信号強度を測定して、現在(故障時)の光信号強度と過去(正常時)に測定した光信号強度とを、宅側装置ONUごとに比較しなければならない。このため、宅側装置ONUの数だけ比較を行う必要があり、宅側装置ONUの台数に応じて、時間あるいはコストがかかる。
【0011】
そこで本発明は、局側装置と、前記局側装置と光カプラを介して接続される複数の宅側装置とを含むPON通信システムにおいて、先行技術よりも、より簡単な処理を行うだけで、連続信号を出し続ける故障の発生した宅側装置を特定できる局側装置及び故障端末特定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のPON通信システムにおける局側装置は、各宅側装置から送信されてくる上りバースト光信号の強度をそれぞれ検知する光強度検知部と、前記検知された光強度が宅側装置ごとに書き込まれる光強度記憶部と、どの宅側装置に対しても上りバースト光信号の送信を指定していない時間に検知された光信号の強度を異常光強度として認識し、前記異常光強度を、前記光強度記憶部に書き込まれた各宅側装置の上りバースト光信号の強度とそれぞれ比較し、前記比較の結果、光強度の差がしきい値よりも小さい1若しくは複数の宅側装置を、連続信号を出し続ける故障の発生した宅側装置又はその候補であると推定する故障推定部とを備えるものである。
【0013】
この局側装置であれば、前記複数の宅側装置に対して上りバースト光信号送信のタイミングを指定して、各宅側装置から送信されてくる上りバースト光信号強度をあらかじめ検知して記憶しておき、どの宅側装置に対しても上りバースト光信号の送信を指定していない時間に検知される光信号の強度を異常光強度として認識し、前記認識した異常光強度を、記憶した各宅側装置の上りバースト光信号強度とそれぞれ比較し、前記比較の結果、光強度の差がしきい値よりも小さい宅側装置を、連続信号を出し続ける故障の発生した宅側装置であると推定することができる。
【0014】
また前記比較の結果、光強度の差の小さな宅側装置が複数あり、故障の発生した宅側装置を明確に決定し難い場合は、光強度の差がしきい値よりも小さいものを複数の故障宅側装置の候補とする。これにより、PON通信システムに接続されたすべての宅側装置の中から、故障の発生が疑われる宅側装置を絞ることができる。
前記光強度検知部は、各宅側装置から受信される上りバースト光信号強度をあらかじめ検知しておくタイミングは、すべての宅側装置と正常に通信している時であることが望ましい。
【0015】
前記故障推定部は、前記推定された1又は複数の宅側装置に対してのみ消光/発光コマンドを出すことによって、常時発光状態を検知する宅側装置ONUを故障の発生した宅側装置であると、短時間で特定することができる。
また本発明のPON通信システムにおける故障端末特定方法は、前記PON通信システムにおける局側装置の発明と実質同一発明に係る方法である。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明によれば、局側装置において、連続信号を出し続ける故障した宅側装置を推定することができ、すみやかに故障した宅側装置の特定作業に入ることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】PON通信システムの構成例を示す概略図である。
図2】局側装置OLTにおける上り信号受信部1の構成図である。
図3】各宅側装置ONUからの一連のバースト光信号の受信光強度Pinの波形を示すグラフである。
図4】いずれかの宅側装置ONUが常時発光して、PON通信システムの上り光通信が行えなくなった場合の、各宅側装置ONUからの一連のバースト光信号の受信光強度Pinの波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は、PON通信システムの構成例を示す概略図である。
PON通信システムは、複数の加入者宅に備えられる各宅側装置ONUが、局舎に備えられる局側装置OLTに対して、幹線光ファイバF1、光カプラOC1,OC2、支線光ファイバF2を介してツリー状に接続されている。
【0019】
すなわち局側装置OLTは、幹線光ファイバF1を通して光カプラOC1に接続され、光カプラOC1は、1又は複数台の宅側装置ONUと接続されるとともに、1又は複数台の第2の光カプラOC2と接続されている。第2の光カプラOC2は、複数台の宅側装置ONUに、支線光ファイバF2で接続されている。
なお、ネットワークのツリーの分岐点となる光カプラOCの数は、図1では2つ示しているが、”2”に限られるものではない。光カプラOCの数は1以上であれば、いくらであっても良い。接続される宅側装置ONUの数も限定されない。
【0020】
幹線光ファイバF1と、支線光ファイバF2とは、それぞれ1本のシングルモードファイバを用いている。光カプラOCは、特に外部からの電源供給を必要とせず入力された信号から受動的に信号を分岐・多重するスターカプラで構成されている。
宅側装置ONUは、加入者宅内に設置されるパーソナルコンピュータやテレビなどの光ネットワークサービスを享受するための端末機器を接続するネットワークインタフェースを備えている。
【0021】
上り回線と下り回線とは異なる波長の光を用いており、上下での信号の衝突は起きない仕組みとなっている。よって、局側装置OLTが送信する信号は、光カプラOC1、第2の光カプラOC2を通して、複数台の宅側装置ONUに分配され、各宅側装置ONUが送信する信号は、局側装置OLTに集められる。
上位のネットワークから局側装置OLTに入ってくる信号に含まれる下りフレームは、局側装置OLTにおいて所定の処理が行われ、中継されるべき論理リンクが特定される。そして、局側装置OLTを通して、光信号として幹線光ファイバF1に送信される。幹線光ファイバF1に送信された光信号は、光カプラOCで分岐され、光カプラOCにつながる宅側装置ONUに送信されるが、当該論理リンクを構成する宅側装置ONUのみが所定の光信号を取り込むことができ、フレームを宅内ネットワークインタフェースに中継する。
【0022】
一方、上り光信号には、それぞれの宅側装置ONUからの上りフレームが含まれている。上りフレームは、それぞれの宅側装置ONUからの上りフレームどうしが互いに時間的に競合しないように送信される必要がある。そのために、局側装置OLTは、各宅側装置ONUに対して上り光信号を送信してもよいウィンドウ期間(以下、ウィンドウあるいはタイミングということがある)を順番に割り当てる。局側装置OLTは、その割当て情報を制御フレームとして通知する。ウィンドウを割り当てられた宅側装置ONUは、自己に割り当てられたウィンドウに上り光信号を送信する。この方法は一種の時分割多重方式であり、各宅側装置ONUから送出される上り光信号を「バースト光信号」という。
【0023】
このようにして、各宅側装置ONU間の上り光信号の競合は回避される。各宅側装置ONUはあるウィンドウが与えられたとき、そのウィンドウに収まる限り複数のフレームを連続して送信してもよい。
図2に、局側装置OLTの上り信号受信部1の構成を示す。上り信号受信部1は、光ファイバF1を通して宅側装置ONUから入ってくる光信号を電気信号に変換するO/E変換部11と、変換された電気信号を解読し処理する信号処理部12とを備えている。さらに信号処理部12によって処理された信号を上位のネットワークに送り出すためのインターフェイス部13を備えている。
【0024】
上り信号受信部1はこれに加えて、各宅側装置ONUからの光信号のレベルを検知する光強度検知部14と、いずれかの宅側装置ONUの故障を推定する故障推定部15と、故障が推定された宅側装置ONUの情報をLED、液晶表示器などのインジケータでシステム管理者に報知する報知部16とを備え、さらに各宅側装置ONUから受信される光強度の平均値を数値化した値を保持する光強度記憶部17を備えている。
【0025】
前記O/E変換部11は、フォトダイオードなどの光電変換素子を備え、光ファイバF1から入ってきたバースト光信号を電気信号に変換する。電気信号に変換された受信データは、信号処理部12において同期をとられ、パリティを用いて誤り訂正が行われる。誤り訂正された受信データは、復号処理が行われ、インターフェイス部を通して上位ネットワークへ渡される。
【0026】
また信号処理部12は、各宅側装置ONUのウィンドウ期間の情報(どの時刻にどの宅側装置ONUからのバースト光信号が入ってくるかという情報)及びアイドル期間(後述)の情報(どの時刻にアイドル期間が設定されているかという情報)を、故障推定部15に通知しておく。その前提として信号処理部12と故障推定部15とは共通の時計で動いている必要がある。
【0027】
前記O/E変換部11によって変換された電気信号は、光強度検知部14にも分配供給される。光強度検知部14は、電気信号の大きさに基づいて、宅側装置ONUからの光信号のレベルを検知する。
故障推定部15は、光強度検知部14に、所定の時刻になれば各宅側装置ONUからの光強度の検知を開始するように指示を与える。この指示を与える時刻は、PONシステムの通信が正常に行われている時点であればよく、故障推定部15が任意に設定することができる。例えば、PONシステムの立ち上げ直後、宅側装置ONUが新規に加入した直後、一日のうち決まった時刻、あるいはシステム管理者が適宜判断した時刻などであり、PONシステム内の光通信に異常が発見されない時刻である。
【0028】
図3は、故障推定部15から光強度の検知を開始するように指示が与えられた時刻(時刻t=0とする)から始まる、光強度検知部14によって検知される、各宅側装置ONUからの一連のバースト光信号の受信光強度Pinの波形を示すグラフである。図3では宅側装置ONUの数を3つ示しているが、この数に限られない(実際には、もっと多くの宅側装置ONUが接続される)。しかし以下では便宜上、宅側装置ONUの数を3つとして説明を進める。
【0029】
図3に示すように、光強度検知部14には、宅側装置ONU1からのバースト光信号が受信され、続いて宅側装置ONU2からのバースト光信号が受信され、続いて宅側装置ONU3からのバースト光信号が受信される。図3では、宅側装置ONU2からの受信強度が一番強く、宅側装置ONU1,3となるに連れて受信強度が弱くなっているが、これは局側装置OLTから見て、宅側装置ONU1〜3の発光素子の特性や、光ファイバの長さなどの光伝送路の特性が異なるからである。
【0030】
局側装置OLTが宅側装置ONUにウィンドウ期間を割り当てるとき、局側装置OLTは、どの宅側装置ONUも発光してはいけないという「アイドル期間」を設定し、各宅側装置ONUに通知するようにしている。
図3に、各ウィンドウ期間を”tw”で示す。ウィンドウ期間twとウィンドウ期間twとの間に、どの宅側装置ONUの発光も禁止するアイドル期間が設けられている。このアイドル期間を、”ti”で示す。
【0031】
このアイドル期間tiを設ける本来の意味は、各宅側装置ONUからのバースト光信号が重複しないようにマージンをとることである。アイドル期間tiは隣接する宅側装置ONUの間に絶対設ける必要があるものではなく、設けない場合もある(図3では宅側装置ONU1と宅側装置ONU2の間、宅側装置ONU2と宅側装置ONU3の間には設けられていないが、宅側装置ONU3と宅側装置ONU1の間には設けられている)。ウィンドウ期間twが通常、約15μ秒であるのに対して、アイドル期間tiは、0秒から約1μ秒の範囲内で設定される。
【0032】
PONシステムの通信が正常に行われていれば、「どの宅側装置ONUの発光も禁止する」というアイドル期間tiの定義からわかるように、アイドル期間tiの間、光強度検知部14が検知する光信号の強度はゼロであるはずである。
しかし故障により、一部の宅側装置ONUが常時発光するようになれば、他の正常な宅側装置ONUからの上りバースト光信号を解読することができなくなる。このような場合、アイドル期間tiの間でも、光強度検知部14が検知する光信号の強度はゼロでなくなる。本発明では、このアイドル期間に現れる光信号を利用して、故障している宅側装置ONUを推定する。以下、故障している宅側装置を推定する方法を説明する。
【0033】
光強度検知部14では、故障推定部15からの光強度検知開始の指示に従って、各ウィンドウ期間twの時点において、内蔵する所定のローパスフィルタを通して、各光信号強度を検知する。検知した光強度の情報は故障推定部15に渡される。故障推定部15は光強度の数値化を行う。前記光強度の数値化は、光強度検知部14から渡される信号の、例えば振幅の包絡線を求め、それをA/D変換することで実施できる。
【0034】
なお、光強度検知部14の前記ローパスフィルタの時定数は、各ウィンドウ期間及びアイドル期間における光信号の平均レベルが検知できるように、最適のものを選択しておくとよい。
故障推定部15は、ウィンドウ期間twの光強度の値を光強度記憶部17に書き込む。
光強度記憶部17は故障推定部15からの書き込みにより、各ウィンドウ期間twにおける光強度の値を、光強度検知部14が光強度を検知した時刻とともに記憶素子に書き込む。記憶の履歴の扱いについては限定されないが、例えば新しい時刻に値が記憶されると、そのウィンドウ期間twについて記憶された古い値を消去するようにしてもよいし、消去せずに、そのウィンドウ期間twについて記憶された複数の値を時系列に記憶するようにしてもよい。
【0035】
図4は、いずれかの宅側装置ONUが常時発光して、PON通信システムの上り光通信が行えなくなった場合の、各宅側装置ONUからの一連のバースト光信号の受信光強度Pinの波形を示すグラフである。
宅側装置ONU2が常時発光しているので、図4のグラフからわかるように、その故障している宅側装置ONU2の光が他の宅側装置ONUのバースト光信号に上乗せされ、宅側装置ONU1,3からのバースト光信号は宅側装置ONU2の光に隠れてしまい、解読が困難な状態になっている。
【0036】
そこで、故障推定部15は、障害発生時に光強度記憶部17の記憶値を参照して、故障と推定される宅側装置ONUを特定するため、次のような手順を実行する。
(1)故障推定部15は、光強度検知部14に、アイドル期間tiにおいて光信号強度を測定するように指示する。
(2)故障推定部15は、光強度検知部14で測定された光強度の数値化を行い、故障推定部15内のバッファ領域に一時的に蓄える。
【0037】
(3)故障推定部15は、アイドル期間tiにおける光信号強度について、光強度記憶部17に記憶されたPONシステム正常時の各宅側装置ONUの光強度の値と比較する。
(4)光強度記憶部17に記憶された各宅側装置ONUの光信号強度値と、アイドル期間tiにおける光強度の値との差をとり、いずれかの差が所定のしきい値よりも小さくなった場合、その宅側装置ONUを、常時発光しているらしい宅側装置ONUであると推定する。
【0038】
(5)ただしアイドル期間tiにおける光強度の値と、光強度記憶部17に記憶された各宅側装置ONUの光信号強度との差がしきい値よりも小さくなる宅側装置ONUが複数ある場合、それぞれの宅側装置ONUを、故障した宅側装置ONUの候補としてあげておく。
(6)局側装置OLTは、常時発光しているらしいと推定された1又は複数の宅側装置ONUについて、故障判定の精度を高める措置をとる。具体的には、当該1又は複数の候補の宅側装置ONUに、光出力の消光/発光を制御するDPoE OAMメッセージ(消光/発光コマンドという)を送信し、発光を停止させる。ここでDPoE(Docsis Providing of EPON)とは、ケーブルテレビ事業者が伝送路を従来の同軸ケーブルから光ファイバに置き換えた高速通信サービスを提供するために標準化した規格を意味する。OAM(Operation Administration and Maintenance)とは、局側装置OLTが宅側装置ONUを制御するメッセージを意味する。
【0039】
この消光/発光コマンドは、故障して常時発光している宅側装置ONUに対しても有効である。この発光を停止させたとき、当該1又は複数の候補の宅側装置ONU以外の宅側装置ONUからの信号が信号処理部12によって解読できるようになれば、当該1の宅側装置ONUが故障であると判定することができる。または、当該複数の候補の宅側装置ONUのいずれかが故障ONUであると判定することができる。
【0040】
(7)当該複数の候補の宅側装置ONUのいずれかが故障ONUであると判定された場合、そのあと、当該複数の候補の宅側装置ONUにDPoE OAMメッセージ(0xD9/0x0605)を送信し、1つずつ再発光させる。まず一番目の宅側装置ONUを再発光させたとき、他の宅側装置ONUについて信号処理部12によって光信号の内容が正常に読めるときは、当該第一番目の宅側装置ONUは異常発光する故障ONUでないと判定することができる。このようにして二番目、三番目・・・の宅側装置ONUを再発光させていく。ある宅側装置ONUを再発光させたとき、他の宅側装置ONUについて光信号の内容が正常に読めなくなれば、当該宅側装置ONUは異常発光する故障ONUであると判定することができる。
【0041】
このように、前記(1)〜(5)の手順によって、常時発光しているらしい宅側装置ONUを推定できる。
その推定された宅側装置ONUに対してのみ、(6)(7)のように消光/発光コマンドを送信するので、特許文献1に記載された従来の手法のように、PONシステムにあるすべての宅側装置ONUに対して消光/発光コマンドを送信する手法と比べて、異常発光している宅側装置ONUを発見するのに要する時間が短くなる。これは、(1)〜(5)の手順で常時発光していないとされた正常宅側装置ONUに対しては、消光/発光コマンドを出さなくて済むので、それだけ探索時間が節約できるからである。
【0042】
(8)故障の宅側装置ONUを特定したあと、特定された宅側装置ONUを報知部16に表示させ、SNMP Trap等の警報機能、電子メールなどでシステム管理者に通知して、宅側装置ONUの現場に行き点検をするように促すことができる。
以上で、本発明の実施の形態の説明をしたが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 上り信号受信部
11 O/E変換部
12 信号処理部
13 インターフェイス部
14 光強度検知部
15 故障推定部
16 報知部
17 光強度記憶部
図1
図2
図3
図4