(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376408
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】電磁パルス防護方法及び電磁パルス防護システム
(51)【国際特許分類】
F41H 13/00 20060101AFI20180813BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
F41H13/00
H05H1/24
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-131626(P2015-131626)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-15312(P2017-15312A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2017年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102864
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】西方 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】黒田 能克
(72)【発明者】
【氏名】池淵 博
(72)【発明者】
【氏名】濱本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】森岡 朋也
(72)【発明者】
【氏名】落合 敦司
【審査官】
諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開平5−223499(JP,A)
【文献】
特開2006−226608(JP,A)
【文献】
特開平10−59297(JP,A)
【文献】
米国特許第8981261(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0084252(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0144392(US,A1)
【文献】
米国特許第7255062(US,B1)
【文献】
欧州特許出願公開第1746381(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41H 11/00−13/00
H01S 3/00− 3/30
H05H 1/00− 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁パルスを発生する脅威を捜索する捜索ステップと、
前記捜索ステップにおける脅威の探知に応答して、集光点にレーザ光を集光して前記集光点においてプラズマを発生する発生ステップ
とを具備する
電磁パルス防護方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁パルス防護方法であって、
前記発生ステップでは複数の前記集光点のそれぞれにレーザ光を集光して複数の前記集光点のそれぞれにおいてプラズマを発生する
電磁パルス防護方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電磁パルス防護方法であって、
複数の前記集光点のそれぞれにおいてプラズマを発生することにより、前記電磁パルスから防護されるべき防護対象と前記脅威の間にプラズマが形成され、これにより前記脅威によって発生される前記電磁パルスから前記防護対象が遮蔽される
電磁パルス防護方法。
【請求項4】
請求項1に記載の電磁パルス防護方法であって、
前記発生ステップでは前記集光点に複数のレーザ装置によって発生されたレーザ光が集光される
電磁パルス防護方法。
【請求項5】
請求項2に記載の電磁パルス防護方法であって、
複数の前記集光点のうちの一の集光点に、複数のレーザ装置のうちの複数によって発生されたレーザ光が集光される
電磁パルス防護方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の電磁パルス防護方法であって、
前記レーザ光が、パルス発振を行うパルスレーザによって発生されたパルスレーザ光である
電磁パルス防護方法。
【請求項7】
請求項1に記載の電磁パルス防護方法であって、
前記集光点の位置が前記脅威の位置に応じて定められた
電磁パルス防護方法。
【請求項8】
請求項7に記載の電磁パルス防護方法であって、
前記集光点の位置が、前記電磁パルスから防護されるべき防護対象の位置と前記脅威の位置の間に設定される
電磁パルス防護方法。
【請求項9】
電磁パルスを発生する脅威を捜索する脅威探知装置と、
前記脅威探知装置による前記脅威の探知に応答して、集光点にレーザ光を集光して前記集光点においてプラズマを発生するレーザシステム
とを具備する
電磁パルス防護システム。
【請求項10】
請求項9に記載の電磁パルス防護システムであって、
前記レーザシステムは、それぞれがレーザ光を生成する複数のレーザ装置を具備し、
前記レーザシステムは、複数の前記集光点のそれぞれに前記複数のレーザ装置が発生するレーザ光を集光して複数の前記集光点のそれぞれにおいてプラズマを発生するように構成された
電磁パルス防護システム。
【請求項11】
請求項9に記載の電磁パルス防護システムであって、
前記レーザシステムは、それぞれがレーザ光を生成する複数のレーザ装置を具備し、
前記レーザシステムは、前記集光点に前記複数のレーザ装置によって発生されたレーザ光を集光するように構成された
電磁パルス防護システム。
【請求項12】
請求項10に記載の電磁パルス防護システムであって、
複数の前記集光点のうちの一の集光点に、複数のレーザ装置のうちの複数によって発生されたレーザ光が集光される
電磁パルス防護システム。
【請求項13】
請求項9乃至12のいずれかに記載の電磁パルス防護システムであって、
前記レーザシステムは、前記レーザ光をパルス発振によって発生する
電磁パルス防護システム。
【請求項14】
請求項9に記載の電磁パルス防護システムであって、
前記レーザシステムは、前記集光点の位置を前記脅威の位置に応じて設定する
電磁パルス防護システム。
【請求項15】
請求項14に記載の電磁パルス防護システムであって、
前記集光点の位置が、前記電磁パルスから防護されるべき防護対象と前記脅威の間に設定される
電磁パルス防護システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁パルス防護方法及び電磁パルス防護システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器は、強力な電磁パルスを受けると、正常に動作せず、場合によっては破壊してしまうことがある。EMP(electromagnetic pulse)兵器は、このような現象を利用するものであり、何らかの方法によって強力な電磁パルスを発生し、目標物に照射することで電子機器の動作を妨害し、又は破壊するように構成される。
【0003】
近年のEMP兵器の開発により、様々な装備をEMP兵器から発せられる強力な電磁パルスによる攻撃から防護する必要が生じている。EMP兵器による攻撃から防護対象を防護するための一つの方法は、防護対象の全体を導電体で形成されたシールドで覆う方法である。しかしながら、この方法は、例えば、レーダのアンテナのように、装置の構成上、電気的な開口が不可欠な防護対象には適用できない。また、シールド形成の施工の問題で、シールドに隙間が生じた場合にも電磁パルスの影響を防ぐことが困難となり、電子機器に影響を与えることは避けられない。
【0004】
このような背景から、電気的な開口が不可欠な防護対象を含む様々な防護対象を強力な電磁パルスによる攻撃から防護する技術の提供が望まれる。
【0005】
なお、本発明に関連し得る技術として、特開第2007−206588号公報は、レーザビームを集光してプラズマを発生させ、そのプラズマから発行する可視光により文字、画像等の可視像を空中に描く空中可視像形成装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−206588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的の一つは、電気的な開口が不可欠な防護対象を含む様々な防護対象を電磁パルスによる攻撃から防護する技術を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的及び新規な特徴は、本明細書及び図面の開示から理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下では、[発明を実施するための形態]において使用される番号・符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態との対応関係の一例を示すために、参考として、括弧付きで付加されたものである。
【0010】
本発明の一の観点では、電磁パルス防護方法が、電磁パルス(2a)を発生する脅威(2)を捜索する捜索ステップと、捜索ステップにおける脅威(2)の探知に応答して、集光点(4)にレーザ光(5)を集光して集光点(4)においてプラズマ(6)を発生する発生ステップとを具備する。
【0011】
一実施形態では、発生ステップにおいて複数の集光点(4)のそれぞれにレーザ光(5)を集光して複数の集光点(4)のそれぞれにおいてプラズマ(6)を発生する。複数の集光点(4)のそれぞれにおいてプラズマ(6)を発生することにより、電磁パルス(2a)から防護されるべき防護対象(3)と脅威(2)の間にプラズマ(6)が生成され、これにより脅威(2)によって発生される電磁パルス(2a)から防護対象(3)が防護される。
【0012】
一実施形態では、発生ステップにおいて集光点(4)に複数のレーザ装置(22)によって発生されたレーザ光(5)が集光されてもよい。他の実施形態では、複数の集光点(4)のうちの一の集光点(4)に、複数のレーザ装置(22)のうちの複数によって発生されたレーザ光(5)が集光されてもよい。
【0013】
レーザ光(5)は、パルス発振を行うパルスレーザによって発生されたパルスレーザ光であることが好ましい。
【0014】
集光点(4)の位置は、脅威(2)の位置に応じて定められることが好ましい。一実施形態では、集光点(4)の位置が、電磁パルス(2a)から防護されるべき防護対象(3)の位置と脅威(2)の位置の間に設定される。
【0015】
本発明の他の観点では、電磁パルス防護システムが、電磁パルス(2a)を発生する脅威(2)を捜索する脅威探知装置(10)と、脅威探知装置(10)による脅威(2)の探知に応答して、集光点(4)にレーザ光(5)を集光して集光点(4)においてプラズマ(6)を発生するレーザシステム(20、30)とを具備する。
【0016】
一実施形態では、レーザシステム(30)は、それぞれがレーザ光(5)を生成する複数のレーザ装置(22)を具備する。この場合、レーザシステム(30)は、複数の集光点(4)のそれぞれに複数のレーザ装置(22)が発生するレーザ光(5)を集光して複数の集光点(4)のそれぞれにおいてプラズマ(6)を発生するように構成されることが好ましい。
【0017】
一実施形態では、また、レーザシステム(30)が、集光点(4)に複数のレーザ装置(22)によって発生されたレーザ光(5)を集光するように構成されてもよい。複数の集光点(4)のうちの一の集光点(4)に、複数のレーザ装置(22)のうちの複数によって発生されたレーザ光(5)が集光されてもよい。
【0018】
一実施形態では、レーザシステム(20、30)は、レーザ光(5)をパルス発振によって発生することが好ましい。
【0019】
また、レーザシステム(20、30)は、集光点(4)の位置を脅威(2)の位置に応じて設定することが好ましい。一実施形態では、集光点(4)の位置が、電磁パルス(2a)から防護されるべき防護対象(3)と脅威(2)の間に設定される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、様々な防護対象を電磁パルスによる攻撃から防護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1の実施形態の電磁パルス防護システムの例を示す概念図である。
【
図2】第1の実施形態における電磁パルス防護システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施形態の電磁パルス防護システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4】第2の実施形態の電磁パルス防護システムの例を示す概念図である。
【
図5】第2の実施形態における電磁パルス防護システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】第3の実施形態の電磁パルス防護システムの例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態の電磁パルス防護システム1の例を示す概念図である。本実施形態の電磁パルス防護システム1は、強力な電磁パルス(EMP)による攻撃能力を有する脅威2が防護対象3に接近していると判断される場合に、脅威2が発生する電磁パルス2aから防護対象3を防護するためのものである。脅威2としては、例えば、航空機やミサイル等の飛翔体に搭載されたEMP兵器が挙げられる。以下で詳細に述べられるように、本実施形態の電磁パルス防護システム1は、集光点4にレーザ光5を集光することで集光点4においてプラズマ6を生成し、生成されたプラズマ6を用いて脅威2が発生する電磁パルス2aから防護対象3を防護する。プラズマは、プラズマ周波数よりも低い周波数を有する電波を反射する性質を有しているから、適切な位置にプラズマ6を発生することにより、電磁パルス2aから防護対象3を防護することができる。
【0023】
図2は、本実施形態における電磁パルス防護システム1の構成の一例を示すブロック図である。本実施形態の電磁パルス防護システム1は、脅威探知装置10と、レーザシステム20とを備えている。脅威探知装置10は、脅威2を捜索し、その位置を特定する装置である。脅威探知装置10は、脅威2を探知した場合、脅威2に関する情報、例えば、位置や速度等を示す脅威探知情報をレーザシステム20に送信する。一実施形態では、レーザレーダが脅威探知装置10として用いられ得る。
【0024】
レーザシステム20は、脅威探知装置10から受け取った脅威探知情報に応じて集光点4を設定し、更に、設定した集光点4にレーザ光5を集光するように構成されている。詳細には、レーザシステム20は、インターフェース21、レーザ装置22、駆動機構23と、制御部24とを備えている。
【0025】
インターフェース21は、脅威探知装置10から脅威探知情報を受けとって制御部24に転送する。
【0026】
レーザ装置22は、レーザ光5を発生する。本実施形態では、レーザ装置22は、パルス発振を行うパルスレーザとして構成されており、発生されるレーザ光5は、パルスレーザ光である。レーザ装置22としてパルスレーザが用いられるのは、集光点4におけるプラズマの発生を容易化するためである。上述のように、本実施形態の電磁パルス防護システム1は、集光点4においてプラズマ6を生成し、そのプラズマ6によって防護対象3を電磁パルスから防護する構成を採用している。集光点4においてプラズマ6を生成するためには、集光点4における電界強度を大気の絶縁破壊電界強度よりも増大すればよい。パルスレーザは、レーザ光のピーク出力、即ち、瞬間的な電界強度の増大に適しており、よって、プラズマの発生のためには、レーザ装置22としてパルスレーザを用いることが好ましい。レーザ装置22としては、例えば、レーザ波長が1.06μm、パルス幅が10ns、パルスエネルギーが100Jのパルスレーザ光を発生するパルスレーザが用いられ得る。なお、プラズマが発生可能であれば、レーザ装置22として連続波発振を行うレーザを用いてもよい。この場合、連続波レーザ光がレーザ光5として発生される。
【0027】
駆動機構23は、レーザ装置22を駆動してレーザ装置22の光軸の方向(即ち、レーザ光5が出射される方向)を所望の向きに向けるための機構である。駆動機構23は、レーザ装置22の仰俯角(水平面と光軸の間の角度)及び旋回角(水平面にある所定方向と、光軸の水平面への投影の間の角度)が制御部24から与えられた指令値になるようにレーザ装置22の向きを制御する。
【0028】
制御部24は、所望の位置の集光点4にレーザ光5が集光されるようにレーザ装置22と駆動機構23とを制御する。詳細には、制御部24は、脅威探知装置10から受け取った脅威探知情報に応じて集光点4の位置を設定する。制御部24は、更に、レーザ光5が集光点4に向けて出射されるように(即ち、レーザ装置22の光軸が集光点4を通過するように)駆動機構23を制御すると共に、レーザ光5が集光点4において集光されるようにレーザ装置22の焦点距離(レーザ装置22の光学系の焦点距離)を調節する。
【0029】
図3は、本実施形態の電磁パルス防護システム1の動作の一例を示すフローチャートである。脅威探知装置10により、所定の警戒領域(例えば、防護対象3を含む領域)における脅威2の捜索が行われる。(ステップS01)。脅威探知装置10は、捜索により脅威2を探知すると、脅威2に関する情報、例えば、位置や速度等を示す脅威探知情報をレーザシステム20に送信する。
【0030】
更に、レーザシステム20の制御部24により、集光点4の位置が設定される。(ステップS02)。集光点4の位置の設定は、脅威探知情報に基づいて行われる。本実施形態では、脅威探知情報に記述された脅威2の位置に基づいて集光点4の位置が設定される。一実施形態では、脅威探知情報を参照して脅威2と防護対象3の間の位置に集光点4が設定されてもよい。他の実施形態では、脅威探知情報に記述された脅威2の位置及び速度に基づいてレーザ光5が出射される時点における脅威2の予測位置が算出され、算出された予測位置と防護対象3の間の位置に集光点4が設定されてもよい。
【0031】
更に、レーザ光5が集光点4で集光されるように出射される(ステップS03)。詳細には、駆動機構23により、レーザ光5が集光点4を通過するようにレーザ装置22の光軸の向きが調節され、更に、レーザ装置22の焦点距離が調節される。レーザ装置22の光軸の向きと焦点距離の調節が完了すると、レーザ装置22は、制御部24による制御の下、レーザ光5を出射する。
【0032】
レーザ光5が集光点4に集光され、集光点4において電界強度が大気の絶縁破壊電界強度を超えると、集光点4においてプラズマ6が生成される。上述のように、レーザ光5としてパルス発振によって発生されたパルスレーザ光を用いることで、プラズマ6の発生が容易化されることに留意されたい。プラズマは、プラズマ周波数よりも低い周波数を有する電波を反射する性質を有しているから、レーザ光5によって生成されたプラズマ6は、電磁パルスに対する電磁シールドとして機能する。したがって、脅威2が発生する電磁パルス2aから、防護対象3を防護することができる。
【0033】
脅威2の捜索は、電磁パルス防護システム1が動作している限り継続して行われ、脅威2の探知に応答して(例えば、脅威2が探知される毎に)、集光点4の位置の設定とレーザ光5の出射が行われる。
【0034】
上述の動作では、集光点4の位置が脅威2の位置に基づいて決定されるが、集光点4の位置は、脅威2の位置に関係なく予め決められていてもよい。この場合、予め決められた位置の集光点4にレーザ光5が集光される。
【0035】
本実施形態の電磁パルス防護システム1の利点の一つは、様々な防護対象を電磁パルスによる攻撃から防護できることにある。電磁シールドとしてプラズマを利用する本実施形態の電磁パルス防護システム1は、防護対象3の全体を導電体で形成されたシールドで覆う必要がない。したがって、本実施形態の電磁パルス防護システム1は、防護対象3が、例えばレーダのアンテナのように、装置の構成上、電気的な開口が不可欠である場合にも適用可能である。加えて、本実施形態の電磁パルス防護システム1は、防護対象3の規模が大きい場合でも低コストで防護対象3を防護することができる。
【0036】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態の電磁パルス防護システム1Aの例を示す概念図である。第2の実施形態の電磁パルス防護システム1Aは、複数のレーザ装置を備えており、複数の集光点4のそれぞれに該複数のレーザ装置によって生成されたレーザ光5を集光するように構成されている。このような構成によれば、広い領域にプラズマ6を生成することができるので、より確実に電磁パルスから防護対象3を防護することができる。
【0037】
図5は、第2の実施形態の電磁パルス防護システム1Aの構成の例を示すブロック図である。本実施形態の電磁パルス防護システム1Aは、脅威探知装置10と、レーザシステム30とを備えている。脅威探知装置10は、脅威2を捜索し、捜索によって脅威2を探知した場合、脅威2に関する情報、例えば、位置や速度等を示す脅威探知情報をレーザシステム30に送信する。例えば、レーザレーダが脅威探知装置10として用いられ得る。
【0038】
レーザシステム30は、脅威探知装置10から受け取った脅威探知情報に応じて複数の集光点4を設定し、更に、設定した複数の集光点4のそれぞれにレーザ光5を集光するように構成されている。詳細には、レーザシステム30は、レーザ照射管制装置31と、複数のサブシステム20A〜20Cを備えている。
【0039】
レーザ照射管制装置31は、脅威探知装置10から受け取った脅威探知情報に応じて複数の集光点4を設定する。レーザ照射管制装置31は、更に、サブシステム20A〜20Cのそれぞれに、設定した複数の集光点4のうちから指定した集光点4の位置でレーザ光5が集光されるようにレーザ光5を出射するように指示するレーザ照射指令を送信する。
図6では、サブシステム20A、20B、20Cに対して指定した集光点4が、それぞれ、符号4A、4B、4Cで示されている。サブシステム20A、20B、20Cは、それぞれに送信されたレーザ照射指令に応じて、それぞれ、集光点4A、4B、4Cに集光されるようにレーザ光5を出射する。
【0040】
サブシステム20A〜20Cのそれぞれは、第1の実施形態のレーザシステム20と同様の構成を有している。より具体的には、サブシステム20A〜20Cは、それぞれ、インターフェース21、レーザ装置22、駆動機構23と、制御部24とを備えている。
【0041】
インターフェース21は、レーザ照射管制装置31からレーザ照射指令を受けとって制御部24に転送する。レーザ装置22は、集光点4に集光するレーザ光5を発生する。第1の実施形態と同様に、レーザ装置22は、パルス発振を行うパルスレーザとして構成されている。駆動機構23は、レーザ装置22を駆動してレーザ装置22の光軸の方向(即ち、レーザ光5が出射される方向)を所望の向きに向ける。制御部24は、レーザ照射指令に指示された位置の集光点4にレーザ光5が集光されるようにレーザ装置22と駆動機構23とを制御する。制御部24は、レーザ装置22の光軸をレーザ光5が集光点4を通過する方向に向けるように駆動機構23を制御し、更に、レーザ装置22の焦点距離を調節する。
【0042】
第2の実施形態の電磁パルス防護システム1Aの動作は、複数のレーザ装置22から出射されたレーザ光5が、それぞれについて指定された集光点4に集光される点を除けば、第1の実施形態の電磁パルス防護システム1の動作と同様である。
【0043】
より具体的には、脅威探知装置10により、所定の警戒領域(例えば、防護対象3を含む領域)における脅威2の捜索が行われ、捜索により脅威2が探知されると、脅威探知情報が脅威探知装置10からレーザシステム30に送信される。
【0044】
更に、レーザ照射管制装置31により、集光点4の位置が複数設定される。該複数の集光点4は、互いに位置が異なるように設定される。これは、上述のように、プラズマ6が生成される領域を拡大し、より確実に防護対象3を電磁パルスから防護するためである。プラズマ6が生成される領域を拡大することで、広い領域で電磁パルスを反射することができ、脅威2から防護対象3に電磁パルスが到達しにくくなる。
【0045】
本実施形態においても、集光点4の位置の設定は、脅威探知情報に基づいて行われる。一実施形態では、脅威探知情報を参照して脅威2と防護対象3の間の複数の位置に集光点4が設定されてもよく、他の実施形態では、脅威探知情報に記述された脅威2の位置及び速度に基づいてレーザ光5が出射される時点における脅威2の予測位置が算出され、算出された予測位置と防護対象3の間に集光点4の位置が設定されてもよい。レーザ照射管制装置31は、各サブシステム20A〜20Cに、設定した集光点4の位置でレーザ光5が集光されるようにレーザ光5を出射するように指示するレーザ照射指令を送信する。
【0046】
更に、サブシステム20A〜20Cのそれぞれにより、対応する集光点4でレーザ光5が集光されるように出射される。サブシステム20A〜20Cのそれぞれは、それぞれに供給されたレーザ照射指令に指定された集光点4の位置でレーザ光5が集光されるようにレーザ光5を出射する。サブシステム20A〜20Cのそれぞれでは、駆動機構23により、レーザ光5が集光点4を通過するようにレーザ装置22の光軸の向きが調節され、更に、レーザ装置22の焦点距離が調節される。レーザ装置22の光軸の向きと焦点距離の調節が完了すると、レーザ装置22は、レーザ光5を出射する。
【0047】
レーザ光5が各集光点4に集光され、各集光点4において電界強度が大気の絶縁破壊電界強度を超えると、各集光点4においてプラズマ6が生成される。プラズマは、プラズマ周波数よりも低い周波数を有する電波を反射する性質を有しているから、レーザ光5によって生成されたプラズマ6は、電磁パルスに対する電磁シールドとして機能する。したがって、脅威2が発生する電磁パルス2aから、防護対象3を防護することができる。
【0048】
なお、上述の動作では、集光点4の位置が脅威2の位置に基づいて決定されるが、集光点4の位置は、脅威2の位置に関係なく予め決められていてもよい。この場合、予め決められた位置の集光点4にレーザ光5が集光される。
【0049】
第2の実施形態の電磁パルス防護システム1Aも、第1の実施形態の電磁パルス防護システムと同様に、様々な防護対象を強力な電磁パルスによる攻撃から防護できる。電磁シールドとしてプラズマを利用する本実施形態の電磁パルス防護システム1は、防護対象3の全体を導電体で形成されたシールドで覆う必要がなく、電気的な開口を有するような防護対象3(例えば、レーダのアンテナ)や大規模な防護対象3の防護に適している。
【0050】
加えて、第2の実施形態では、複数のレーザ装置22(即ち、複数のサブシステム)が設けられ、それぞれに対応する複数の集光点4が設定される。これにより、プラズマ6が生成される領域を拡大し、より確実に防護対象3を電磁パルスから防護することができる。
【0051】
(第3の実施形態)
図6は、本発明の第3の実施形態の電磁パルス防護システム1Bの例を示す概念図である。第3の実施形態の電磁パルス防護システム1Bの構成は、第2の実施形態の電磁パルス防護システム1Aの構成と同一である(
図5参照)。ただし、第3の実施形態の電磁パルス防護システム1Bは、複数のレーザ装置のそれぞれによって発生されたレーザ光5を一の集光点4に集光するように動作する点で相違する。
図6には、3つのサブシステム20A〜20Cに設けられたレーザ装置22によって発生されたレーザ光5を一の集光点4に集光する動作が図示されている。
【0052】
より具体的には、脅威探知装置10により、所定の警戒領域(例えば、防護対象3を含む領域)における脅威2の捜索が行われ、捜索により脅威2が探知されると、脅威探知情報が脅威探知装置10からレーザシステム30に送信される。
【0053】
更に、レーザ照射管制装置31により、集光点4の位置が設定される。集光点4の位置の設定は、脅威探知情報に基づいて行われる。本実施形態では、脅威探知情報に記述された脅威2の位置に基づいて集光点4の位置が設定される。一実施形態では、脅威探知情報を参照して脅威2と防護対象3の間の位置に集光点4が設定されてもよい。他の実施形態では、脅威探知情報に記述された脅威2の位置及び速度に基づいてレーザ光5が出射される時点における脅威2の予測位置が算出され、算出された予測位置と防護対象3の間の位置に集光点4が設定されてもよい。レーザ照射管制装置31は、各サブシステム20A〜20Cに、設定した集光点4の位置でレーザ光5が集光されるようにレーザ光5を出射するように指示するレーザ照射指令を送信する。
【0054】
更に、サブシステム20A〜20Cのそれぞれにより、レーザ光5が集光点4で集光されるように出射される。サブシステム20A〜20Cのそれぞれは、レーザ照射指令に指定された集光点4の位置でレーザ光5が集光されるようにレーザ光5を出射する。サブシステム20A〜20Cのそれぞれでは、駆動機構23により、レーザ光5が集光点4を通過するようにレーザ装置22の光軸の向きが調節され、更に、レーザ装置22の焦点距離が調節される。レーザ装置22の光軸の向きと焦点距離の調節が完了すると、レーザ装置22は、レーザ光5を出射する。
【0055】
レーザ光5が集光点4に集光され、集光点4において電界強度が大気の絶縁破壊電界強度を超えると、集光点4においてプラズマ6が生成される。プラズマは、プラズマ周波数よりも低い周波数を有する電波を反射する性質を有しているから、レーザ光5によって生成されたプラズマ6は、電磁パルスに対する電磁シールドとして機能する。したがって、脅威2が発生する電磁パルス2aから、防護対象3を防護することができる。
【0056】
なお、上述の動作では、集光点4の位置が脅威2の位置に基づいて決定されるが、集光点4の位置は、脅威2の位置に関係なく予め決められていてもよい。この場合、予め決められた位置の集光点4にレーザ光5が集光される。
【0057】
第3の実施形態の電磁パルス防護システム1Bも、第1及び第2の実施形態の電磁パルス防護システム1、1Aと同様に、様々な防護対象を強力な電磁パルスによる攻撃から防護できる。電磁シールドとしてプラズマを利用する本実施形態の電磁パルス防護システム1Bは、防護対象3の全体を導電体で形成されたシールドで覆う必要がなく、電気的な開口を有するような防護対象3(例えば、レーダのアンテナ)や大規模な防護対象3の防護に適している。
【0058】
加えて、複数のレーザ装置22で生成されたレーザ光5を一の集光点4で集光させる第3の実施形態の電磁パルス防護システム1Bは、個々のレーザ装置22の小型化に適している。本実施形態の電磁パルス防護システム1Bは、複数のレーザ装置22のそれぞれで生成されたレーザ光5を一の集光点4に集光するため、個々のレーザ光5の出力を小さくできる。これは、個々のレーザ装置22の小型化が可能であることを意味している。個々のレーザ装置22を小型化することにより、サブシステム20A〜20Cのそれぞれを移動体(例えば、車両や艦船)に搭載することができ、これは、運用性の向上に寄与する。
【0059】
異なる観点で見れば、第3の実施形態の電磁パルス防護システム1Bは、大出力のプラズマ6の生成に適しているということもできる。複数のレーザ装置22を使用する本実施形態の電磁パルス防護システム1Bは、レーザ装置22の数を増大させ、又は、個々のレーザ装置22の出力を増大させることで、大出力のプラズマ6を生成することができる。
【0060】
なお、第2の実施形態のように複数の集光点4を設定すると共に、該複数の集光点4のうちの少なくとも一の集光点4(最も好適には、該複数の集光点4の各々)について、該集光点4に複数のレーザ装置22によって生成されたレーザ光5を集光してもよい。これにより、広い領域でプラズマ6を発生させながら、個々のレーザ装置22の出力を低減する(又は大出力のプラズマ6を生成する)ことができる。このような手法は、レーザ装置22の数が、設定される集光点4の数よりも多い場合に採用され得る。
【0061】
以上には、本発明の実施形態が様々に記載されているが、本発明は、上記の実施形態に限定されると解釈してはならない。本発明が、様々な変更と共に実施され得ることは、当業者には自明的であろう。
【符号の説明】
【0062】
1、1A、1B:電磁パルス防護システム
2 :脅威
2a :電磁パルス
3 :防護対象
4、4A〜4C:集光点
5 :レーザ光
6 :プラズマ
10 :脅威探知装置
20 :レーザシステム
20A〜20C:サブシステム
21 :インターフェース
22 :レーザ装置
23 :駆動機構
24 :制御部
30 :レーザシステム
31 :レーザ照射管制装置