特許第6376426号(P6376426)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ソミック石川の特許一覧

<>
  • 特許6376426-ボールジョイント 図000002
  • 特許6376426-ボールジョイント 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376426
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】ボールジョイント
(51)【国際特許分類】
   F16C 11/06 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
   F16C11/06 R
   F16C11/06 Q
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-260334(P2012-260334)
(22)【出願日】2012年11月28日
(65)【公開番号】特開2014-105803(P2014-105803A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年10月19日
【審判番号】不服2017-11155(P2017-11155/J1)
【審判請求日】2017年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198271
【氏名又は名称】株式会社ソミック石川
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】横井 良紘
(72)【発明者】
【氏名】水谷 雅之
【合議体】
【審判長】 中村 達之
【審判官】 平田 信勝
【審判官】 内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−46038(JP,A)
【文献】 特開平8−303447(JP,A)
【文献】 特開平7−54835(JP,A)
【文献】 特開平8−82318(JP,A)
【文献】 実開平3−12013(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状のスタッド部の先端部に形成された球状のボール部を摺動可能に収容して直接保持する樹脂製のベアリングシートと、
前記ベアリングシートを保持する筒状またはカップ状のシート収容部を有する金属製のソケットと、
前記スタッド部が貫通する前記ベアリングシートのシート開口部上を覆って同ベアリングシート内への異物の侵入を防ぐダストカバーとを備えたボールジョイントにおいて、
前記ソケットは、
前記シート収容部が前記ボール部の球心よりも前記スタッド部側に延びて形成されており、
前記ベアリングシートは、
前記シート収容部の開口部側における外周部まで覆う覆い部を有するとともに同覆い部が前記シート収容部の開口部に非固着状態で嵌められており、
前記ダストカバーは、
前記覆い部に装着されていることを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
請求項1に記載したボールジョイントにおいて、
前記ソケットは、
前記シート収容部における前記スタッド部側の端部の周方向の全周が前記ボール部の摺動面よりも前記スタッド部側にストレート状に延びて形成されていることを特徴とするボールジョイント。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したボールジョイントにおいて、
前記ダストカバーにおける前記覆い部に装着された部分にサークリップが嵌め込まれた状態でまたはバンド部材が内包された状態で設けられていることを特徴とするボールジョイント。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載したボールジョイントにおいて、
前記ベアリングシートは、
底部を有することなく貫通した筒状に形成されており、
前記ボール部は、
先端部が前記筒状に形成された前記ベアリングシートから露出していることを特徴とするボールジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸状のスタッド部の先端部に形成された球状のボール部を摺動可能に収容する樹脂製のベアリングシートが金属製のソケット内に保持されるボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車などの車両におけるサスペンション機構(懸架装置)やステアリング機構(操舵装置)には、軸状の各構成要素を互いに可動的に連結するためにボールジョイントが用いられている。一般に、ボールジョイントは、主として、軸状のボールスタッドの先端部に形成された略球状のボール部が金属製のソケット内に樹脂製のボールシート(「ベアリングシート」ともいう)を介して摺動自在な状態で保持されて構成されている。この場合、ボールジョイントには、ボール部が摺動するソケット内への水滴や粉塵などの異物の侵入を防止ために少なくともボールシートの開口部上を覆う状態でダストカバーが設けられている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、ソケットから露出する樹脂製のボールシートにおける開口部の外側にゴム製のダストカバーが装着されたボールジョイントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−303447号公報
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたボールジョイントにおいては、ダストカバーを樹脂製のボールシートに装着しているため、ダストカバーを金属製のボールシートに装着した場合に比べてダストカバーの密着性が確保し易い一方で、ボールシートの端部がソケットから張り出しているためにボール部の引き抜き力および抉り抜き力に対する強度の確保が困難であるという問題があった。
【発明の概要】
【0006】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、ダストカバーのシール性を確保しつつボール部の引き抜き力および抉り抜き力に対する強度も確保することができるボールジョイントを提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、軸状のスタッド部の先端部に形成された球状のボール部を摺動可能に収容して直接保持する樹脂製のベアリングシートと、ベアリングシートを保持する筒状またはカップ状のシート収容部を有する金属製のソケットと、スタッド部が貫通するベアリングシートのシート開口部上を覆って同ベアリングシート内への異物の侵入を防ぐダストカバーとを備えたボールジョイントにおいて、ソケットは、シート収容部がボール部の球心よりもスタッド部側に延びて形成されており、ベアリングシートは、シート収容部の開口部側における外周部まで覆う覆い部を有するとともに同覆い部がシート収容部の開口部に非固着状態で嵌められており、ダストカバーは、覆い部に装着されていることを特徴とするボールジョイント。
【0008】
このように構成した本発明の特徴によれば、ボールジョイントは、ソケットのシート収容部がボール部の球心よりもスタッド部側に延びて形成されているとともに、ベアリングシートがシート収容部の開口部側の外周部まで覆う覆い部を有しており、この覆い部にダストカバーが装着されて構成されている。すなわち、本発明に係るボールジョイントは、ダストカバーが樹脂製のボールシートに装着されているためダストカバーが金属製のソケットに装着されている場合比べてシール性を確保し易い。また、ボールジョイントは、ダストカバーが装着されたボールシートの覆い部の内側に金属製のソケットが延びて形成されているためダストカバーの装着による覆い部の変形およびボールシートにおけるボール部を収容する部分の変形を防止することができるととともに、ボール部に作用する引き抜き力および抉り抜き力によるボール部を収容する部分の変形も抑えることができる。この結果、ボールジョイントは、ダストカバーのシール性を確保しつつボール部の引き抜き力および抉り抜き力に対する強度も確保することができる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイントは、ソケットは、シート収容部におけるスタッド部側の端部の周方向の全周がボール部の摺動面よりもスタッド部側にストレート状に延びて形成されていることにある。
【0010】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイントは、ソケットがベアリングシートに対してボール部が摺動する摺動面よりもスタッド部側に延びて形成されているため、ボール部に作用する引き抜き力および抉り抜き力によるボール部を収容する部分の変形をより効果的に抑えることができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイントは、ダストカバーにおける覆い部に装着された部分にサークリップが嵌め込まれた状態でまたはバンド部材が内包された状態で設けられていることにある。
【0012】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイントは、ダストカバーが装着されたベアリングシートの覆い部の内側に金属製のソケットが延びて形成されているためダストカバーの装着による覆い部の変形およびベアリングシートにおけるボール部を収容する部分の変形を防止することができるとともに、ボール部に作用する引き抜き力および抉り抜き力によるボール部を収容する部分の変形も抑えることができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイントにおいて、ベアリングシートは、底部を有することなく貫通した筒状に形成されており、ボール部は、先端部が筒状に形成されたベアリングシートから露出していることにある。
【0014】
また、これらの場合、前記ボールジョイントは、ソケットにおけるシート収容部の開口部側の外周部および同外周部に対向するベアリングシートにおける覆い部の内周部がそれぞれ互いに対応するテーパ形状に形成することができる。これによれば、ボールジョイントは、ソケットのシート収容部の開口部側における外周部およびこの外周部に対向するボールシートにおける覆い部の内周部がそれぞれテーパ状に形成されているため、互いに面する距離を長く確保でき、シール性をより確保することができる。また、これらの場合、前記ボールジョイントにおいて、ベアリングシートは、シート開口部とは反対側の端部側がソケットから露出した状態で同ソケットに固定するとよい。これによれば、ボールジョイントは、ベアリングシートにおけるシート開口部とは反対側の端部側がソケットから露出した状態で同ソケットに固定されて構成されている。すなわち、ボールジョイントは、ボールシートがソケットに対してシート開口部の反対側で固定される形態のボールジョイントにおいても、ボールシートとソケットとが面する経路が屈曲するとともに同面する距離がボールシートの覆い部だけ長くなるため、ボールシートの固定部からの浸水を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るボールジョイントの構成を概略的に示す断面図である。
図2】本発明の変形例に係るボールジョイントの構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るボールジョイントの一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るボールジョイント100の縦断面を概略的に示す断面図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。
【0017】
このボールジョイント100は、自動車などの車両に採用されるサスペンション機構(懸架装置)またはステアリング機構(操舵装置)において、各構成要素間の角度変化を許容しつつ各構成要素を互いに連結するジョイント部材である。なお、図1に示したボールジョイント100は、サスペンション機構における図示しないスタビライザーリンクの両端部に設けられるもののうちの一方のボールジョイントを示している。
【0018】
(ボールジョイント100の構成)
ボールジョイント100は、主として、ボールスタッド110、ソケット120、ボールシート130およびダストカバー140によって構成されている。これらのうち、ボールスタッド110は、鉄鋼材により構成されており、軸状に形成されたスタッド部111の一方の端部側にフランジ部112および括れ部113をそれぞれ介して略球状に形成されたボール部114を備えて構成されている。スタッド部111は、ボールジョイント100を図示しないステアリング機構における構成要素に連結するための部分であり、ボール部114とは反対側の端部に雄ネジ111aが形成されて構成されている。一方、ボール部114は、ボールシート130内にて摺動する部分であり、ボールシート130に対して摺動する摺動面114aがボールシート130の内周面に対して円滑に摺動するように滑らかな球面状に形成されている。
【0019】
ソケット120は、非鉄金属または鉄鋼材などの金属材料を鋳造して成形されており、略円筒体状に形成されたシート収容部121と、同シート収容部121の外周部から水平方向に延びて形成された連結部124とで構成されている。本実施形態においては、ソケット120は、アルミニウム合金製であるが、他の材料、例えば、マグネシウム材や亜鉛材を用いて構成することもできる。
【0020】
シート収容部121は、円筒体で構成されており、この円筒体の内周部に前記ボールスタッド110におけるボール部114をボールシート130を介して収容し保持する部分である。この場合、シート収容部121は、スタッド部111が貫通する端部側がボール部114の球心Oよりもスタッド部111側に延びて形成されている。より具体的には、シート収容部121における図示上側の端部は、ボール部114の摺動面114aと括れ部113との間の部分に対向する位置まで延びて形成されている。また、シート収容部121におけるスタッド部111側の端部の外周部は、先端部に向かって小径化するテーパ状のシート対向部122が形成されるとともに同シート対向部122の根元側に図示水平方向に張り出したカバー支持部123がそれぞれ形成されている。
【0021】
一方、連結部124は、一方(図示左側)の端部側がシート収容部121に繋がるとともに、他方(図示右側)の端部側が図示しないスタビライザーリンクにおけるアーム部に連結される。ソケット120におけるシート収容部121の内周部には、同内周部に保持されるボールスタッド110のボール部114との間にベアリングシートとしてのボールシート130が設けられている。
【0022】
ボールシート130は、ボールスタッド110におけるボール部114を摺動自在に保持する樹脂製の部品であり、ボール部114における摺動面114aの球面に沿った内周面を有する有底筒状に形成されている。より具体的には、ボールシート130は、ボールスタッド110のボール部114の摺動面114aに対応する球面状に形成されたボール収容部131におけるシート開口部132の外側に覆い部133が形成されるとともに、同ボール収容部131における底部側の外周部に筒状に張り出して固定部134が形成されて構成されている。
【0023】
覆い部133は、ソケット120におけるシート収容部121の開口部の外周部、すなわち、シート対向部122まで覆うようにボール収容部131のシート開口部132を折り返して形成されている。より具体的には、覆い部133は、ボール収容部131におけるシート開口部132から径方向外側に張り出して形成されるとともに、この張り出して形成された部分の一部がソケット120のカバー支持部123側に向かってカバー支持部123に達する長さでリング状に張り出して形成されている。この場合、覆い部133におけるシート対向部122に対向する内周部は、シート対向部122のテーパ形状に対応するテーパ形状に形成されて同シート対向部122に接している。一方、覆い部133における外周部は、ボールスタッド110の軸線方向に対して平行(図示垂直方向)に形成されている。
【0024】
固定部134は、ボールシート130を前記覆い部133とともにソケット120のシート収容部121に固定するための部分である。この固定部134は、ボールシート130の成形時においてはストレート状に形成されており、シート収容部121に固定する際に加熱によるカシメ加工により径方向外側に変形される。
【0025】
なお、ボールシート130を構成する樹脂は、合成樹脂材、例えば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリウレタン樹脂(PUR)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)、ナイロン樹脂(PA−6T,9T)またはポリプロピレン(PP)などで構成される。
【0026】
ボールシート130の覆い部133の外周部には、ボールシート130の上部および同ボールシート130のボール収容部131内に収容されるボールスタッド110のボール部114を覆う状態でダストカバー140が設けられている。ダストカバー140は、弾性変形可能なゴム材または軟質の合成樹脂材などによって構成されており、中央部が膨らんだ略円筒状に形成されている。このダストカバー140は、一方(図示上側)の開口部にボールスタッド110におけるスタッド部111が挿入されて同スタッド部111におけるフランジ部112の直下部分が弾性力によって固定されている。また、ダストカバー140における他方(図示下側)の開口部は、覆い部133の外周部に嵌め込まれた状態でサークリップ141によって固定されている。これにより、ボールシート130内への異物の浸入が防止される。
【0027】
(ボールジョイント100の製造)
このように構成されたボールジョイント100の製造について説明する。なお、このボールジョイント100の製造工程の説明においては、本発明に直接関わらない製造工程については適宜省略する。
【0028】
まず、作業者は、ボールジョイント100を構成する部品であるボールスタッド110、ソケット120およびボールシート130をそれぞれ用意する。この場合、ソケット120は、例えば、アルミダイキャストなどの鋳造加工や鋼材の鍛造加工などの別途の各種成形加工により成形される。また、ボールシート130における固定部134は、ソケット120のシート収容部121内を貫通することができるストレート状の円筒形状に形成されている。次に、作業者は、ボールスタッド110におけるボール部114をボールシート130のボール収容部131内に圧入して嵌合させる。この場合、作業者は、ボール収容部131内に図示しないグリースを塗布した状態でボール部114を圧入する。
【0029】
次に、作業者は、ボール部114を収容したボールシート130をソケット120のシート収容部121内に固定する。具体的には、作業者は、ボール部114を収容したボールシート130をソケット120のシート収容部121における一方(図示上側)の開口部から挿入する。これにより、ボールシート130の覆い部133がシート収容部121の図示上端部に同上端部および外周部(シート対向部122)を覆った状態で引っ掛かる。また、これと同時にボールシート130における固定部134がート収容部121における他方(図示下側)の開口部から突出する。次いで、作業者は、ボールシート130の固定部134を加熱(例えば、超音波カシメ加工)により軟化させて径方向外側に塑性変形させることにより固定部134をシート収容部121における他方(図示下側)の開口部に掛ける。これにより、作業者は、ボールシート130をソケット120のシート収容部121に固定することができる。
【0030】
次に、作業者は、ソケット120に固定されたボールシート130にダストカバー140を装着する。具体的には、作業者は、ダストカバー140を用意した後、ダストカバー140における一方(図示上側)の端部をボールスタッド110の外周部に嵌め込むとともに、同ダストカバー140における他方(図示下側)の端部をボールシート130における覆い部133の外周部に嵌め込む。そして、作業者は、ボールシート130における覆い部133に嵌め込んだダストカバー140にサークリップ141を嵌め込むことによりダストカバー140をボールシート130に固定する。これにより、ボールジョイント100が完成する。
【0031】
(ボールジョイント100の作動)
次に、このように構成されたボールジョイント100の作動について説明する。本実施形態においては、ボールジョイント100を自動車などの車両のサスペンション機構(懸架装置)に組み込んだ例について説明する。ここで、サスペンション機構(懸架装置)とは、車両において路面からの振動を減衰するとともに車輪を確実に路面に接地させることにより、車両の走行安定性および操縦安定性を維持する装置である。そして、ボールジョイント100は、サスペンション機構においてボールスタッド110を一定の方向に回転または揺動させながら車両からの負荷を支える。
【0032】
車両(図示せず)に搭載されたボールジョイント100は、車両の走行時にダストカバー140とソケット120との境界部分に水が掛かることがある(図において矢印参照)。この場合、ボールジョイント100は、ダストカバー140を樹脂製のボールシート130に対して装着しているため密着性が高くダストカバー140内およびボールシート130内への浸水を効果的に防止してシール性能を十分に発揮することができる。
【0033】
また、車両に搭載されたボールジョイント100は、車両の走行時にボールシート130における固定部134とソケット120との境界部分に水が掛かることがある(図において矢印参照)。この場合、ボールジョイント100は、ボールシート130とソケット120とが互いに面する経路がボールシート130における覆い部133によって屈曲するとともに、同面する長さが覆い部133の長さだけ長く形成されており、さらには、前記ダストカバー140が樹脂製のボールシート130に対して装着されているため、固定部134からの浸水が効果的に防止される。
【0034】
また、ボールジョイント100には、車両走行に応じてボールスタッド110のボール部114に対して引き抜き力および抉り抜き力がそれぞれ作用する場合がある。ここで、引き抜き力とは、ボール部114をボールシート130内から引抜こうとするボールスタッド110の軸線方向に作用する力であり、抉り抜き力とは、ボール部114がボール収容部131内で摺動しながら引き抜き力が作用する力である。そして、この場合、ボールシート130におけるボール収容部131は、ボール部114による圧迫によってシート開口部132が拡がる方向に変形しようとするが、シート開口部132の外側にソケット120のシート収容部121が形成されているため変形が抑えられる。これにより、ボールジョイント100は、車両の走行時においてボールスタッド110のボール部114がボールシート130のボール収容部131内から抜けることが防止される。
【0035】
上記作動方法の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、ボールジョイント100は、ソケット120のシート収容部121がボール部114の球心Oよりもスタッド部111側に延びて形成されているとともに、ベアリングシートとしてのボールシート130がシート収容部121の開口部側の外周部まで覆う覆い部133を有しており、この覆い部133にダストカバー140が装着されて構成されている。すなわち、本発明に係るボールジョイント100は、ダストカバー140が樹脂製のボールシート130に装着されているためダストカバー140が金属製のソケット120に装着されている場合比べてシール性を確保し易い。また、ボールジョイント100は、ダストカバー140が装着されたボールシート130の覆い部133の内側に金属製のソケット120が延びて形成されているためダストカバー140の装着による覆い部133の変形およびボールシート130におけるボール部114を収容する部分の変形を防止することができるととともに、ボール部114に作用する引き抜き力および抉り抜き力によるボール部114を収容する部分の変形も抑えることができる。この結果、ボールジョイント100は、ダストカバー140のシール性を確保しつつボール部114の引き抜き力および抉り抜き力に対する強度も確保することができる。
【0036】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記各変形例の説明に使用する図面においては、上記実施形態と同様の構成部分については同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0037】
例えば、上記実施形態においては、ソケット120におけるシート収容部121における図示上側の端部がボール部114の摺動面114aと括れ部113との間の部分に対向する位置まで延びて形成されている。これにより、ボールジョイント100は、ボール部114に作用する引き抜き力や抉り抜き力によるボール収容部131の変形を防止してボール部114の抜けを防止することができる。しかし、ソケット120におけるシート収容部121におけるスタッド部111側の端部は、ボール部114の球心O、換言すれば、ボール部114が最もボール収容部131側に張り出しているボール部114の赤道部よりもスタッド部111側に延びて形成されていれば、必ずしも上記実施形態に限定されるものではない。この場合、ソケット120におけるシート収容部121におけるスタッド部111側の端部は、好ましくはボール部114の摺動面114aよりもスタッド部111側に延びて形成するとよく、この場合、摺動面114aと括れ部113との間がより好適である。なお、ボール部114の赤道部とは、ボール部114の球心Oを通りボールスタッド110の軸線に直交する平面とボール部114の表面とが交わる部分である。
【0038】
また、上記実施形態においては、ボールジョイント100は、ソケット120におけるシート収容部121の開口部側の外周部および同外周部に対向するボールシート130における覆い部133の内周部をそれぞれ互いに対応するテーパ形状に形成した。しかし、ソケット120におけるシート収容部121の開口部側の外周部および同外周部に対向するボールシート130における覆い部133の内周部は、互いに対向する面で構成されていればよく、例えば、互いにストレート状に形成してもよい。
【0039】
これらの場合、ソケット120におけるシート収容部121の開口部側の外周部と同外周部に対向するボールシート130における覆い部133の内周部とは、互いに接触するように構成してもよいし、両者の間に僅かな隙間を設けて互いに対向配置するように構成してもよい。これにより、ソケット120におけるシート収容部121の開口部側の外周部と同外周部に対向するボールシート130における覆い部133の内周部とを互いに接触するように構成した場合にはシール性をより向上させることができるとともに、両者の間に僅かな隙間を設けて互いに対向配置するように構成した場合には両者の加工負担の軽減および組付け性を向上させることができる。
【0040】
また、これらの場合、ボールシート130におけるカバー支持部123および覆い部133におけるカバー支持部123に対向する部分を傾斜面にすることもできる(図2参照)。これによれば、ボールジョイント100は、カバー支持部123と覆い部133におけるカバー支持部123に対向する部分の距離が図示水平方向に延びて形成する場合(図1参照)に比べて長くなるためシール性を向上させることができる。
【0041】
また、これらに代えて、ソケット120におけるシート収容部121の開口部側の外周部に雄ネジを形成するとともに、同外周部に対向するボールシート130における覆い部133の内周部に前記雄ネジに噛み合う雌ねじを形成しておき、両者を噛み合わせることによってボールシート130をソケット120に固定することができる。
【0042】
また、上記実施形態においては、ボールジョイント100は、ボールシート130がシート開口部132とは反対側の端部側がソケット120のシート収容部121から露出した状態で同ソケット120に固定されて構成されている。しかし、ボールジョイント100は、図2に示すように、ソケット120におけるシート収容部121の底部部分が金属製のプラグ150によって閉塞されることにより、ボールシート130の底部側がシート収容部121から露出しない構成であってもよい。
【0043】
また、上記実施形態においては、ボールシート130は、有底筒状であるカップ状に構成されている。しかし、ボールシート130は、覆い部133を備えていればカップ状以外の形状、例えば、底部を有することなく貫通した筒状に形成されていてもよい。
【0044】
削除
【0045】
また、上記実施形態においては、ダストカバー140をサークリップ141によってボールシート130に固定している。しかし、ダストカバー140は、サークリップ141に相当するバンド部材を内包して構成されていてもよいし、ダストカバー140自体が有する弾性力によってボールシート130に固定するように構成されていてもよい。
【0046】
ボールジョイント100をサスペンション機構におけるスタビライザーリンクに採用した実施例について説明した。しかし、本発明に係るボールジョイント100は、当然、これに限定されるものではない。このボールジョイント100は、自動車などの車両を構成するサスペンション機構の他、ステアリング機構などにも広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0047】
O…ボール部の球心
100…ボールジョイント、
110…ボールスタッド、111…スタッド部、112…フランジ部、113…括れ部、114…ボール部、114a…摺動面、
120…ソケット、121…シート収容部、122…シート対向部、123…カバー支持部、124…連結部、
130…ボールシート、131…ボール収容部、132…シート開口部、133…覆い部、134…固定部、
140…ダストカバー、141…サークリップ、
150…プラグ。
図1
図2