特許第6376439号(P6376439)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6376439スパッタリングターゲット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376439
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20180813BHJP
   C04B 35/00 20060101ALI20180813BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20180813BHJP
   H01L 31/072 20120101ALI20180813BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C04B35/00
   H01L21/363
   H01L31/06 400
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-102086(P2014-102086)
(22)【出願日】2014年5月16日
(65)【公開番号】特開2015-218356(P2015-218356A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100119921
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 正之
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【弁理士】
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫
(72)【発明者】
【氏名】長尾 昌芳
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−184866(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/129045(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C04B 35/00
H01L 21/363
H01L 31/072
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuZnSnS膜形成用のスパッタリングターゲットであって、
CuZnSnS相中に、他の硫化物相が分散分布している組織を有し、
前記他の硫化物相は、CuSnS相を含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
CuS粉:31.3〜43.8wt%と、ZnS粉:14.9〜29.8wt%と、SnS粉:33.9〜49.3wt%との混合紛体を、温度:500〜600℃で、ホットプレス法で焼結して焼結体を得ることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、光導電セル、フォトダイオード、フォトトランジスタなどの光電素子の光吸収層に用いられる硫化物系化合物膜をスパッタリング成膜するためのスパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、太陽電池に用いられる半導体としては、単結晶Si、多結晶Si、アモルファスSi、GaAs、InP、CdTe、CuIn1−xGaSe(CIGS)、CuZnSnS(CZTS)などが知られている。これらの中でも、CIGSやCZTSに代表されるカルコパイライト系の化合物は、光吸収係数が大きいので、低コスト化に有利な薄膜化が可能である。特に、CZTSは、太陽電池に適したバンドギャップエネルギーを有しており、しかも、環境負荷元素や希少元素を含まないという特徴があることから、種々の開発が行われている。
【0003】
従来では、このCZTSからなる光吸収層の形成においては、スパッタ法、真空蒸着法、パルスレーザー堆積(PLD)法等を用いて、基板上にCu、Sn、及びZnSが所定の順序で積層された前駆体を形成し、この前駆体を、HS存在雰囲気下で硫化させることによりCZTS膜を製造していた。しかし、この製造方法では、有毒な硫化水素を用いるため、安全及び環境負荷に対するリスクが高く、さらには、熱処理温度が高いために樹脂基材などのフレキシブルで軽量かつ割れない基材を用いることが極めて困難であり、酸化錫系、酸化インジウム系、酸化亜鉛系などの透明導電膜は、温度条件によっては、導電性や光線透過率が劣化してしまうため、この製造方法を用いたのでは、透明導電膜付き基材の上に、CZTS膜を形成することは困難となる。
【0004】
また、CZTS膜を形成するための硫化物スパッタリングターゲットとして、Cu、Zn、Snの各金属粉末とS粉末を化学量論比で調合した混合体を用いた場合には、スパッタ時にプラズマの影響により、Sが選択的に蒸発してしまい、所望の組成比の膜を得ることは極めて困難である。これは、Sの融点及び沸点が、123℃及び445℃と低いことに起因する。さらに、硫化第二銅(CuS)、硫化亜鉛(ZnS)、硫化第二錫(SnS)を用いた場合は、プラズマの影響により、CuSが分解して、Sが選択的に蒸発してしまう問題がある。これは、CuSが220℃以上で硫化第一銅(CuS)とSとに分解するからである。これに対し、融点が1000度以上あるCuSを用いると熱的には安定させることができるが、Cuに対して不足するSをS粉末で補う場合には、やはりプラズマの熱により、Sが選択的に蒸発してしまう。ここで、S粉末の替わりにSnSの一部又は全てをSnSに替えてSを補う場合でも、やはり十分に安定にスパッタリングは行えない。これも、SnSが600℃付近でSnSとSに分解するからである。
【0005】
以上の問題を解決した単相多結晶CZTS焼結体による硫化物スパッタリングターゲットが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。この単相多結晶CZTS焼結体をスパッタターゲットとして用いることにより、硫化水素ガスを用いることなく、CZTS半導体薄膜を250℃以下の温度で基板上に作成でき、ターゲット組成比を制御しやすくなるので、CZTS薄膜の組成比をも容易に制御できる。そして、CuS、ZnS及びSnSを、おおよそ2:1:1の範囲で調合してホットプレス法で焼結すると、単相多結晶のCuZnSnS焼結体が得られる。その焼結体の結晶構造は、単相多結晶であり、その具体的結晶構造としては、Cu:Zn:Sn:Sの原子数比が2:1:1:4付近で成り立つカルコパイライト構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−245238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1で提案されたスパッタリングターゲットは、単相多結晶のCuZnSnS焼結体で構成されているため、単相多結晶構造は、元々脆い性質であるため、焼結後に該焼結体を所定形状に機械加工しようとすると、ターゲット割れが発生し易いという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、基板上にCuZnSnS膜をスパッタリング成膜するための多相多結晶の硫化物焼結体で構成され、密度を向上させて、ホットプレス時、機械化加工時及びバッキングプレートへのボンディング時における割れの発生を抑制したスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記特許文献1で提案された硫化物スパッタリングターゲットの製造においては、CuS粉、ZnS粉及びSnS粉を、モル比で2:1:1の範囲で調合し、これをホットプレス法で焼結して、単相多結晶のCuZnSnS焼結体が作製されていたが、本発明者らは、CuS粉の代わりに、CuS粉を用いて、CuS粉、ZnS粉及びSnS粉が、モル比1:1:1になるように配合し、混合された混合粉末を、比較的低い温度によるホットプレス法で焼結すると、CuとZnとSnとの硫化物相(CuZnSnS相)中に、少なくともCuとSnとの硫化物相(CuSnS相)が分散分布した組織を有する多相多結晶構造の焼結体が得られるという知見を得た。
【0010】
そこで、CuS粉、ZnS粉及びSnS粉がモル比で1:1:1になるように配合した混合粉末を、温度:520℃、圧力:200kgf/cm、保持時間:2時間の条件でホットプレス焼結したところ、CuZnSnS相中に、少なくともCuSnS相が分散分布した組織を有する多相多結晶構造の焼結体が得られ、その焼結体についてのX線回折分析(XRD)では、CuZnSnS相と、CuSnS相とに関連するピークが存在することが確認され、その焼結体が、多相多結晶構造であることが分かった。そして、ホットプレス時、機械加工時及びバッキングプレートへのボンディング時における割れは、発生しなかった。
【0011】
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)本発明のスパッタリングターゲットは、CuZnSnS膜形成用のスパッタリングターゲットであって、CuZnSnS相中に、他の硫化物相が分散分布している組織を有し、前記他の硫化物相は、CuSnS相を含むことを特徴とする。
(2)本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、CuS粉:31.3〜43.8wt%と、ZnS粉:14.9〜29.8wt%と、SnS粉:33.9〜49.3wt%との混合紛体を、温度:500〜600℃で、ホットプレス法で焼結して焼結体を得ることを特徴とする。
【0012】
本発明のスパッタリングターゲットは、CuZnSnS相と、他の硫化物相とを含む組織を有した多相多結晶構造になっているので、焼結体の密度が向上し、ホットプレス時、機械加工時及びバッキングプレートへのボンディング時における割れの発生を抑制することができる。
【0013】
本発明において、スパッタリングターゲットの組成は、CuZnSnS膜を成膜できる範囲であればよく、目標とする組成成分比であるCu:Zn:Sn:S=2:1:1:4を中心値として、適宜の範囲で設定することができ、例えば、Cu:20.0〜30.0at%、Zn:8.0〜17.0at%、Sn:9.0〜16.0at%の範囲とすることができる。これは、焼結体の素地となるCuとZnとSnとの硫化物相、即ち、CuZnSnS相が形成される範囲を示したものであり、目標とする組成成分比であるCu:Zn:Sn:S=2:1:1:4を中心値として、焼結体の素地となるCuZnSnS相が少なくとも形成される範囲である。
なお、Cu:Zn:Sn:S=2:1:1:4からずれた配合でスパッタリングターゲットを製造する場合、他の硫化物として、CuSnS相以外に、CuS相、CuS相、SnS相、ZnS相等が生成する。
【0014】
ここで、図1に、本発明の硫化物スパッタリングターゲットの一具体例について、EPMA(フィールドエミッション型電子線プローブ)にて得られた元素分布像の写真を示した。この具体例は、Cu:28.6wt%、Zn:14.2wt%、Sn:7.2wt%、S:残部の組成を有する焼結体の場合である。図中の4枚の写真から、Cu、Zn、Sn、Sの各元素の組成分布の様子をそれぞれ観察することができる。
【0015】
なお、EPMAによる元素分布像は、本来カラー像であるが、図1の写真では、白黒像に変換して示しているため、その写真中において、白いほど、当該元素の濃度が高いことを表している。具体的には、Cuに関する分布像では、Cu元素が全体的(灰色)に存在し、特に白く斑点状に、Cuリッチ領域が分布し、Znに関する分布像では、Zn元素が全体的に存在しているが、Cuリッチ領域に対応する領域には、Zn元素が存在していないことが観察される。また、Snに関する分布像では、Sn元素が全体的に存在しているといえるが、Sn元素が存在していないか又は、全体から比較すると少ない領域が斑点状に分布し、Sに関する分布像では、S元素が全体的に存在するが、S元素の濃度が低い領域が斑点状に存在することが観察される。これらのことから、焼結体中には、CuとZnとSnとの硫化物相と、Cu、Sn及びZnのうちの少なくとも1種以上の硫化物相とが、別々に存在していることが分かる。
【0016】
一方、図2のグラフは、上記の硫化物スパッタリングターゲットの一具体例のX線回折(XRD)による分析結果を示している。図2の上段のグラフは、全体のピークを示しているが、その中段のグラフには、CuZnSnS相に係るピークが、そして、その下のグラフは、CuSnS相に係るピークが示されている。図1に示された分布画像と図2のグラフに現れたピークとを併せて考慮すると、焼結体は、CuZnSnS相と、CuSnS相との2相を含む多相多結晶構造であることが分かる。
【0017】
また、本発明の硫化物スパッタリングターゲットの製造方法では、CuS粉、ZnS粉及びSnS粉を、モル比でCuS粉::ZnS粉:SnS粉=1:1:1となるように配合しており、CuとZnとSnとの硫化物相と、Cu、Sn及びZnのうちの少なくとも1種以上の硫化物相とにより多相構造になるように、CuS粉を31.3〜43.8wt%、ZnS粉を14.9〜29.8wt%、SnS粉を33.9〜49.3wt%配合し混合して混合紛体を作製している。この混合粉末を、温度:500〜600℃で、ホットプレス法により焼結して焼結体を作製している。なお、この温度が、500℃未満の場合には、目標組成であるCuZnSnS相が形成され難くなり、一方、600℃を超える場合には、他の硫化物相、即ち、CuSnS相、CuS相、CuS相、SnS相及びZnS相が形成されず、CuZnSnS相による単相多結晶構造になってしまうので、焼結時の温度は、500〜600℃の範囲であることが好ましい。
【0018】
この様に、上記硫化物スパッタリングターゲットの製造方法によれば、CuS粉:31.3〜43.8wt%と、ZnS粉:14.9〜29.8wt%と、SnS粉:33.9〜49.3wt%との混合紛体を、温度:500〜600℃で、焼結して得られた焼結体は、CuZnSnS相中に、他の硫化物相が含まれる多相多結晶構造となっており、密度比が高い焼結体が得られる。
【発明の効果】
【0019】
以上の様に、本発明のスパッタリングターゲットは、CuZnSnS膜形成用のスパッタリングターゲットであって、CuZnSnS相中に、他の硫化物相が分散分布している多相多結晶構造を有しているので、密度比が高い硫化物の焼結体が得られ、ホットプレス時、機械化加工時及びバッキングプレートへのボンディング時における割れの発生を抑制することができる。
【0020】
また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法によれば、CuS粉:31.3〜43.8wt%と、ZnS粉:14.9〜29.8wt%と、SnS粉:33.9〜49.3wt%との混合紛体を、温度:500〜600℃で、焼結して焼結体を得ているので、CuZnSnS相中に、他の硫化物相が分散分布した多相多結晶構造の硫化物の焼結体を作製でき、硫化物の焼結体における密度比を向上でき、ホットプレス時、機械化加工時及びバッキングプレートへのボンディング時における割れの発生を抑制できるため、スパッタリングターゲットの生産性向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る硫化物スパッタリングターゲットの一具体例について、スパッタリングターゲットの組織をEPMAにより測定した各元素の元素分布像である。
図2】本発明に係る硫化物スパッタリングターゲットのX線回折(XRD)の分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、CuZnSnS膜をスパッタリング成膜するための本発明に係るスパッタリングターゲット及びその製造方法について、以下に、実施例により具体的に説明する。
【0023】
〔実施例〕
先ず、CuZnSnS膜をスパッタリング成膜できるスパッタリングターゲットを製造するため、原料として、2N5のCuS粉(三津和化学薬品製)と、脱ガス処理済で4NのZnS粉(堺化学製)と、2N5のSnS粉(三津和化学薬品製)とを用意した。そして、CuS粉を36.2wt%、ZnS粉を22.2wt%、SnS粉を41.6wt%になるように秤量して、秤量された粉末350gをボールミル装置のポットに投入した。さらに、該ポットに、ヘキサンを400ml、直径5mmのZrOボールを0.5kg投入して、85rpmで回転させながら、8時間、混合した。得られた混合粉末を200℃以下に加熱されたホットプレート上で6時間乾燥させた。
【0024】
次いで、乾燥した混合粉末を、篩い目0.5mmの篩いで粒径調整を行った。その後、ホットプレス装置のモールド内に、上記混合粉末を充填し、ホットプレスで焼結を行った。ここでのホットプレス条件は、温度:520〜600℃、圧力:200kgf/cm、保持時間:2時間であり、昇温速度:10℃/minであった。次いで、得られた硫化物の焼結体を、ロータリー研磨機で湿式研磨加工して、直径76±0.3mm、厚さ3±0.1mmの大きさに機械加工され、その裏面に、Inによりバッキングプレートを貼着して、実施例1〜3のスパッタリングターゲットを作製した。なお、表1に示されるように、実施例1の場合は、温度:520℃、実施例2の場合は、温度:560℃、実施例3の場合は、温度:600℃で焼結された。
【0025】
〔比較例〕
上記実施例と比較するため、比較例1〜3のスパッタリングターゲットを作製した。比較例1〜3の場合は、実施例の場合と同様の混合粉末を用いて、圧力:200kgf/cm、保持時間:2時間でホットプレス焼結されるが、比較例1の場合は、温度:400℃であり、比較例2の場合は、温度:650℃であり、比較例3の場合は、温度:750℃であって、焼結温度が本実施例の温度の範囲外となっている。
【0026】
【表1】

【0027】
以上で作製された実施例1〜3及び比較例1〜3のスパッタリングターゲットについて、ホットプレス時、機械加工時、及び、バックプレートへのボンディング時のそれぞれにおいて、割れ発生状況を観察した。なお、割れが発生しているかどうかにつき、目視で観察した。この割れ発生の観察結果を、表2の「HP時割れ有無」欄、「加工時割れ有無」欄、そして、「ボンディング時割れ有無」欄に示した。ここでは、割れが発生した場合を、「有」と、割れが発生しなかった場合を、「無」と表記した。
【0028】
さらに、実施例1〜3及び比較例1〜3のスパッタリングターゲットについて、破断点応力、密度及び密度比を測定した。
<破断点応力の測定>
幅5mm×厚さ3mm×長さ40mmの試験片を作製し、島津製作所製オートグラフAG−Xを用い、支点間距離20mm、速度0.5mm/minとして、3点曲げによる応力曲線を測定し、試験片が破断した瞬間の応力を測定することで求めた。
【0029】
<密度及び密度比の測定>
寸法及び重量測定を実施して、その数値から密度を算出した。算出した密度をCuZnSnSの理論密度(4.73g/cm)で割ることで密度比とした。
以上の結果を、以下の表2に示した。
【0030】
【表2】

【0031】
表2によれば、実施例1〜3のスパッタリングターゲットを構成する硫化物の焼結体のいずれも、破断点応力が高く、密度及び密度比も高いことが確認され、ホットプレス時、機械加工時、ボンディング時のいずれでも、割れが発生しなかった。
【0032】
一方、比較例1の場合には、到達温度が低いため、焼結が十分に進まず、CuZnSnS相と他の硫化物相のいずれが素地ともとれない状態で混在しており、破断点応力が低く、密度及び密度比も向上しないので、機械加工時に、割れが発生した。また、比較例2、3の場合には、到達温度が高すぎたため、単相多結晶の焼結体となってしまい、破断点応力が低く、密度及び密度比も向上しないので、機械加工時に、割れが発生した。さらに、温度が高いために粉末が溶融し、空隙が多く存在する組織になっており、破断点応力も低かった。
【0033】
なお、CuS粉を31.3〜43.8wt%、ZnS粉を14.9〜29.8wt%、SnS粉を33.9〜49.3wt%の範囲で原料組成を変動させ、上述の実施例と同様の方法でスパッタリングターゲットを製造したところ、Cu:Zn:Sn:S=2:1:1:4からずれた配合となったため、他の硫化物として、CuSnS相以外に、CuS相、CuS相、SnS相、ZnS相等が生成したが、評価の結果としては上述の実施例と大きな違いはなく、破断点応力が高く、密度及び密度比も高いことが確認され、ホットプレス時、機械加工時、ボンディング時のいずれでも、割れが発生しなかった。


図1
図2