(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一例を、図を参照して説明する。以下の説明では、鉄系の被加工物であるSUJ2材(JIS(Japanese Industrial Standards) G4805;2008に規定)を遠心バレル研磨装置にて乾式で研磨した場合を例に説明する。なお、説明における上下左右方向は、特に断りのない限り図中の方向を指す。
【0016】
図1は、本実施形態に係るバレル研磨装置10の模式図である。
図1に示すバレル研磨装置10は、遠心バレル研磨装置であり、マスが装入される4つのバレル槽11と、バレル槽11がそれぞれ着脱自在に固定される4つのバレル槽ケース12と、バレル槽ケース12を回転可能に固定する一対のタレット13(公転円盤)と、公転軸14と、前記公転軸14を軸心としてタレット13を回転させる駆動機構15と、タレット13の回転に従動してバレル槽ケース12を回転させる従動機構16と、を備える。なお、
図1では、便宜上3つのバレル槽11及び3つのバレル槽ケース12のみを図示している。
【0017】
バレル槽11は、その内部に八角形の断面形状を有する空間を画成する中空の容器であり、上面が開口した筒状のバレル槽本体と、この開口部を覆って内部の空間を密封できるバレル槽蓋と、で構成される。
【0018】
バレル槽ケース12はそれぞれ両端に自転軸12aを備えている。バレル槽ケース12は、内部が密封されたバレル槽11をバレル槽ケース12に着脱自在に対して固定できるように構成されている。
【0019】
一対のタレット13は、円盤形状を有しており、互いに対面するように設けられている。それぞれのタレット13の中央(円形平面である側面の中央)には公転軸14を回転可能に嵌合できる第一軸受け13aが設けられている。各タレット13には、その周方向に沿って複数の第二軸受け13bが等間隔で設けられている。これらの第二軸受け13bは、複数のバレル槽ケース12の自転軸12aに個別に嵌合し、各自転軸12aを回転可能に支持している。タレット13はシャフトホルダ14aに固定される公転軸14に第一軸受け13aを介してそれぞれ回転可能に固定されている。また、バレル槽ケース12は、自転軸12a及び第二軸受け13bを介してそれぞれのタレット13に挟み込まれるように配置されている。この構成により、バレル槽ケース12が一対のタレット13の間に等間隔で、かつタレット13に対して相対回転可能に配置されている。
【0020】
駆動機構15は、駆動モータ15aと、前記駆動モータ15aの回転軸に固定されたモータプーリ15bと、一方の前記タレット(
図1では左側)の外周に設けられた公転プーリ15cと、モータプーリ15bと公転プーリ15cとの間に架け渡された駆動ベルト15dと、で構成される。
【0021】
従動機構16は、自転軸に固定された駆動プーリ16aと、前記自転軸12aに固定された従動プーリ16bと、前記駆動プーリ16a及び前記従動プーリ16bに架け渡された従動ベルト16cと、で構成される。
【0022】
駆動モータ15aを作動させると公転軸14を中心にタレット13が回転する。このタレット13の回転に伴い、バレル槽ケース12に固定されたバレル槽11が公転軸14を軸心として旋回(公転)する。また、従動機構16によって、バレル槽11は自転軸12aを軸心としてタレット13の回転方向と逆方向に回転(自転)する。
【0023】
以上の様に、バレル槽11は自身の回転による自転及びタレット13の回転による旋回をすることができる。バレル槽11を自公転(遊星運動)させると、被加工物及び研磨メディアを含むマスが流動状態になる。これにより、被加工物は研磨メディアとの接触、被加工物同士の接触、バレル槽11の壁面との接触、によって研磨される。
【0024】
被加工物が鉄系である場合の一例として、SUJ2材からなる軸受け部品の一般的な加工工程を
図2に示す。
図2に示す加工工程では、バルク体を軸受け部品の形状に切削加工した後(S01)、熱処理を施し(S02)、これを被加工物としてバレル研磨して光沢仕上げ(面粗度の調整)を行う(S03)。次いで、被加工物を洗浄する(S04)。被加工物を洗浄後に被加工物を放置すると、時間の経過と共に被加工物の表面に錆が発生する。特に、赤錆は被加工物への浸食性が高いので、赤錆の進行に伴い被加工物の寸法精度が悪化したり、強度が低下したりする問題が発生する。そこで、従来方法では、製品に組み付けるまでの間に錆が発生しないように防錆処理を施す(S05)。この防錆処理は防錆剤(薬剤)の水溶液を塗布したり、防錆剤の水溶液に被加工物を浸したりして、被加工物の表面に防錆剤をコーティングすることで行われる。被加工物は、軸受けとして組み付ける前に寸法等の検査が行われる。この際、防錆剤が付着していると測定器の故障の原因となったり、測定結果の信頼性に影響がでたりする。このため、被加工物を洗浄して付着している防錆剤を除去した後(S06)、軸受けとして組み付けられ(S07)、軸受けが完成する。
【0025】
防錆剤を除去する洗浄(S05)を行う際は、大量の廃水が発生する。この廃水を処理するために製品の製造コストが上昇することや環境への影響から、防錆剤を洗浄する工程を必要としない製造方法が求められている。鋭意研究の結果、被加工物を研磨すると共に防錆機能を付与することができるバレル研磨方法を見いだした。これにより、防錆剤による防錆処理(S04)及びこの防錆剤を除去する工程(S05)を必要としない製造方法とすることができた。このバレル研磨方法について、以下に詳細に説明する。
【0026】
(第一実施形態)
以下、第一実施形態に係るバレル研磨方法について説明する。
図3は、第一実施形態に係るバレル研磨方法を示すフローチャートである。このバレル研磨方法では、まずバレル槽11内に金属製の被加工物及び研磨メディアを含むマスを装入する(工程S21、マス装入工程)。この研磨メディアは、樹脂を含有する樹脂メディアである。次いで、マスをバレル槽内で流動化させ(工程S22、流動化工程)、被加工物を研磨メディアで研磨すると共に被加工物の表面に皮膜を形成して防錆機能を付与する(S23、研磨・防錆工程)この工程23では、被加工物が研磨メディアと衝突し、又は被加工物同士が接触し、又は被加工物がバレル槽11の壁面との接触し、被加工物が研磨される。また、被加工物の表面には、研磨メディアに含有される樹脂が付着することによって、該樹脂を主成分とする皮膜が形成される。
【0027】
研磨メディアに含有される樹脂としては、熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリロニトリル・スチレン、等)や熱硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、等)から適宜選択することができる。この中で、ポリアミド系樹脂であるナイロン樹脂は極性が強い材料であるので、被加工物の表面にナイロン樹脂の被膜が形成されると、全体として撥水性が向上する。その結果、良好な防錆効果を得ることができる。また、ナイロン樹脂は安価な材料であるので、ナイロン樹脂を研磨メディアに含有させることにより、コストを低減しつつ防錆効果を向上することができる。
【0028】
研磨メディアは樹脂のみから形成されていてもよいが、研磨能力を高めるために砥粒を分散させた樹脂にて形成されていてもよい。砥粒としては、アルミナ、シリカ、炭化珪素、酸化鉄、酸化珪素、ジルコン、酸化クロム、ダイヤモンド、金剛砂等、公知の材質の粉末又は粒を用いることができる。本実施形態では、アルミナの粉末を樹脂に分散させて研磨メディアを形成した。
【0029】
また、砥粒の粒度は、小さすぎると研磨力が不足する、又は砥粒を分散させた効果が得られない。大きすぎると、樹脂による保持力が弱く、研磨中に砥粒が脱落しやすくなるので、研磨時間の経過と共に研磨メディアの研磨能力が著しく低下する。これを踏まえ、砥粒を分散させた樹脂を用いる場合の砥粒の粒度は、35μm〜71μmとするとよい。
【0030】
また、砥粒の含有率は、研磨メディアに求められる研磨能力、研磨メディアの強度、樹脂の被加工物への付着量、等を考慮して適宜選択される。砥粒の含有量が少なすぎると研磨能力が不足する、又は砥粒を分散させた効果が得られない。砥粒の含有率が多すぎると、相対的に樹脂が少なくなるので、樹脂が被加工物に付着しづらくなったり、研磨メディアの強度が低下したりする。これを踏まえ、砥粒を分散させた樹脂を用いる場合の砥粒の含有率は、研磨メディアに対して65質量%〜85質量%(望ましくは70質量%〜80質量%、さらに望ましくは70質量%〜75質量%)とするとよい。
【0031】
本実施形態の研磨メディアは、樹脂材料(ナイロン)のペレットと、全体に対して65質量%〜85質量%の範囲となるように秤量した、粒度がJIS R6001;1998に規定される#320(平均粒子径d50=46μm)のアルミナ系の砥粒とを、加熱混練して樹脂に砥粒を分散させた後、射出成形機により三角柱に成型したものを使用した。
【0032】
被加工物とこの研磨メディアとをバレル槽11に装入し、バレル研磨装置10を作動させると、マスがバレル槽11の内部で流動状態になる。研磨メディアが被加工物に接触するので、研磨メディアの表面に位置する砥粒によって、被加工物の研磨が進行する。また、被加工物に研磨メディアが接触することで、被加工物の表面に研磨メディアの樹脂が付着する。この付着の現象は、下の(1)(2)の少なくともいずれかが生じていると発明者は推察している。
(1)研磨メディアの衝突エネルギーにより、その接触点が局所的に高温となる。その熱により研磨メディアの樹脂が溶融してこの樹脂が被加工物の表面に付着する。
(2)研磨メディアが被加工物に擦りつけられる際に、摩擦によって研磨メディアの樹脂が被加工物の表面に付着する。
【0033】
被加工物の表面には、被加工物の構成材料が空気中の酸素や水分と反応することで錆が発生し、進行する。上記実施形態のバレル研磨方法によれば、被加工物の表面に樹脂が付着するので、その表面が直接外気に暴露される機会が減少する。これにより、被加工物の表面に錆が発生することが抑制される。錆の発生をより完全に防ぐために、被加工物の表面の全体を被覆するように樹脂の層(皮膜)を形成することができる。ここで、皮膜の厚みが少なすぎると、被加工物に十分に防錆機能を付与することが難しい。反対に、皮膜が厚すぎると被加工物の寸法精度が悪化したり、皮膜により表面粗さが大きくなったりして、品質が低下する。また、皮膜が厚くなるにつれ被加工物との密着力が弱くなり、剥離しやすくなる。このため、被加工物の表面に形成される樹脂の皮膜の厚さは、0.1〜10.0nm(望ましくは0.2〜5.0nm、より望ましくは0.2〜2.0nm)とすることができる。
【0034】
(第二実施形態)
次に、被加工物に防錆機能を付与してバレル研磨を行う別の形態を第二実施形態として説明する。以下の説明では、第一実施形態と異なる点について説明する。
【0035】
本実施形態に係るバレル研磨方法では、第一実施形態に係るバレル研磨方法と同様に、まずバレル槽11内に金属製の被加工物及び研磨メディアを含むマスを挿入し、次いで、マスをバレル槽内で流動化させることで、被加工物を研磨メディアで研磨する。しかし、本実施形態に係るバレル研磨方法は、マスに被加工物及び研磨メディアに加えて防錆機能付与材料を含む点で第一実施形態に係るバレル研磨方法と異なっている。なお、本実施形態では、研磨メディアが樹脂を含まなくてもよい。本実施形態に係るバレル研磨方法では、流動する研磨メディアが被加工物に衝突することによって被加工物が研磨される。また、被加工物の表面には、防錆機能付与材料を構成する成分が付着することによって、該成分の皮膜が形成される。
【0036】
防錆機能付与材料は、樹脂、脂肪酸ナトリウム、及び脂肪酸ナトリウムの塩、のいずれかを主成分として構成されてもよい。防錆機能付与材料により被加工物に防錆機能を付与できるので、研磨メディアの材質は特に限定されない。例えば、本実施形態の研磨メディアとしては、樹脂のみ、又は第一実施形態のような砥粒が分散された樹脂で構成される研磨メディア(樹脂メディア)、砥粒及び粘土質を混練して焼成した研磨メディア(焼成メディア)や砥粒同士を焼結した研磨メディア(焼結メディア)といったセラミックス質の研磨メディア(セラミックスメディア)、金属で構成される研磨メディア(金属メディア)、等から適宜選択することができる。本実施形態に係るバレル研磨方法では、要求される仕上がり程度に合わせて研磨メディアの材質を選択することができるので、第一実施形態に比べ汎用性が高い。また、第一実施形態の研磨メディア(樹脂メディア)を用い、樹脂メディアによる皮膜の形成と、防錆機能付与材料による皮膜の形成と、を組み合わせることもできる。
【0037】
防錆機能付与材料の主成分を樹脂とした場合、第一実施形態と同様に、被加工物の表面に該樹脂の皮膜を形成することができるので、該皮膜によって被加工物に防錆機能を付与することができる。防錆機能付与材料として用いる樹脂は第一実施形態と同様、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂から適宜選択することができる。樹脂としては、第一実施形態と同様の理由により、ナイロン樹脂を選択してもよい。
【0038】
防錆機能付与材料の主成分を脂肪酸又はその塩とした場合、樹脂を主成分とした防錆機能付与材料を用いた場合に比べてさらに高い防錆効果が得られる。その理由は明確になっていないが、樹脂の皮膜に比べてより緻密な皮膜が形成されていると推測している。防錆機能付与材料の主成分を脂肪酸とした場合の一例として、ラウリン酸、オレイン酸等が挙げられる。また脂肪酸塩とした場合の一例として、脂肪酸ナトリウムや脂肪酸マグネシウムや脂肪酸カルシウム等の脂肪酸金属塩や脂肪酸カリウム等が挙げられる。これらの脂肪酸及び脂肪酸塩のうち、特に脂肪酸ナトリウムは、被加工物により高い防錆機能を、より安価に付与することができる。また、脂肪酸塩として脂肪酸ナトリウムとした場合の脂肪酸ナトリウムにおける脂肪酸としては、例えば酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸等が挙げられる。上記脂肪酸は、単一でも二以上を含む混合物でも良い。
【0039】
防錆機能付与材料は、研磨メディアより小さいサイズの成形体(ペレット)又は樹脂の粉末のいずれでもよい。防錆機能付与材料を成形体とした場合、被加工物の表面を該成形体で更に平滑化すると同時に該成形体を構成する成分の皮膜を形成することができる。該成形体は研磨メディアに対してその大きさが大きすぎると、研磨メディアによる研磨を阻害する。反対に、大きさが小さすぎると、成形体が被加工物に接触する機会が減少するので、被加工物に十分な防錆機能を付与することが困難となる。その為、成形体の大きさは、辺又は径が研磨メディアよりも小さく、かつ成形体の体積は、研磨メディアに対して1/5〜2/3であることが好ましい。
【0040】
防錆機能付与材料を粉末とした場合、研磨メディアが被加工物と接触する際に該粉末が被加工物の表面に押し付けられることで一部が溶融し、その結果被加工物の表面に防錆機能付与材料を構成する成分が付着し、皮膜を形成する。しかし、粉末の粒子径は大きすぎても小さすぎても皮膜が形成しづらくなる。大きすぎると、融点の低下が小さいので粉末にした効果が得られず、小さすぎると被加工物と接触する機会が減少する。粉末の粒子径は、50〜100μm(平均粒子径;d50)の範囲から選択すると良い。
【0041】
また、防錆機能付与材料が成形体、粉末のいずれの場合であっても、研磨メディアに対しての装入量が多すぎると研磨メディアによる研磨を阻害し、少なすぎると防錆機能付与材料が被加工物に接触する機会が減少するので、被加工物に十分な防錆機能を付与することが出来ない。例えば、防錆機能付与材料が成形体である場合には、該成形体の装入量は、研磨メディアに対して見掛けの体積が1/5〜1/2であってもよい。
【0042】
また、被加工物と研磨メディアと防錆機能付与材料とに加え、更に砥粒をバレル槽に装入してバレル研磨を行っても良い。この場合には、バレル槽に装入した砥粒によっても被加工物を研磨することが出来るので、研磨精度の調整を行うことができるし、被加工物との衝撃力が弱い研磨メディア(例えば、植物製等比重の低い研磨メディアや表面が比較的柔らかい研磨メディア)を用いた場合は砥粒によって研磨力を強くすることができる。また、被加工物が立体形状の場合、隅角部も良好に研磨を行うこともできる。
【0043】
バレル槽に装入する砥粒の粒度及び材質は、仕上がり程度に応じて適宜選択することができる。砥粒の粒度は例えば18μm〜25μmから選択できる。また、材質は、例えばアルミナ、シリカ、炭化珪素、酸化鉄、酸化珪素、ジルコン、酸化クロム、ダイヤモンド、金剛砂等が挙げられる。
【0044】
また、砥粒の装入量が少ないと砥粒による研磨力向上の効果が得られず、多いと研磨メディアによる研磨が妨げられる。砥粒の装入量は、見掛けの体積が、被加工物と研磨メディアと防錆機能付与材料との見掛けの体積の0.1〜3.0%(望ましくは、0.1〜2.0%)とするとよい。
【0045】
(実施例)
次に、第一実施形態及び第二実施形態のバレル研磨方法にて研磨した結果を説明する。遠心バレル研磨機(新東工業株式会社製;EC−2)の4つのバレル槽に被加工物(直径6mm×高さ8mmのSUJ2材又はSS400材)と、研磨メディアとをそれぞれ装入した。使用した研磨メディアを以下に示す。
研磨メディアA;アルミナ質の砥粒が分散されたナイロン樹脂で形成された、一辺が7mmの三角柱形状の研磨メディア。
研磨メディアB;ナイロン樹脂のみで形成した、一辺が7mmの三角柱形状の研磨メディア
研磨メディアC;砥粒が分散されたポリスチレンで形成された、一辺が7mmの三角柱形状の研磨メディア。
研磨メディアD;アルミナ質の砥粒が分散されたポリカーボネートで形成された、一辺が7mmの三角柱形状の研磨メディア。
研磨メディアE;アルミナ質の砥粒が分散されたABS樹脂で形成された、一辺が7mmの三角柱形状の研磨メディア。
研磨メディアF;焼結メディア(新東工業株式会社製;V7−EG 10×7)
研磨メディアG;焼成メディア(新東工業株式会社製;AFT 10×7)
【0046】
また、実験条件によって、防錆機能付与材料及び砥粒(新東工業株式会社製;WA#800)を更に装入した。使用した防錆機能付与材料を以下に示す。
防錆機能付与材料A;ナイロン樹脂の粉末(平均粒子径;250μm)
防錆機能付与材料B;ナイロン樹脂の成形体(7mm×7mm×7mm)
防錆機能付与材料C;脂肪酸ナトリウムの粉末(平均粒子径;250μm)
防錆機能付与材料D;脂肪酸ナトリウムの成形体(7mm×7mm×7mm)
【0047】
遠心バレル研磨機を所定時間作動させて被加工物を研磨した。そして、バレル槽より取り出した被加工物を5個選択し、水が攪拌されている水槽中に30秒投入して被加工物の表面を洗浄した後、乾燥機(田中技研株式会社製;TB−18H)にて100℃で乾燥した。その後、皮膜の評価、研磨の評価、防錆評価を行った。
【0048】
皮膜の評価は、TOF−SIMS(アルバック・ファイ株式会社製;TRIFT5)でスペクトル分析及び面分析(マッピング)を行い、皮膜の有無及び皮膜の種類を評価した。
また、皮膜の厚さは、XPS(X線光電子分光法)により測定した値をSiO
2換算して算出した。具体的な測定方法は下記の通りである。
アルゴンイオンを光源として皮膜が形成された被加工物の表面をスパッタし、飛び出したイオンをXPSで分析する。被覆成分のスパッタリング率r、被覆成分が検出できなくなった時間或いは被加工物の物質が検出された時間をスパッタ時間t、とすると、被覆成分の厚さであるスパッタ深さdは、d=r×tにより算出される。ここで、スパッタリング率rが既知でない物質を測定する場合、標準試料であるSiO
2のスパッタリング率を用いてスパッタ深さdを算出し、これを皮膜のスパッタ深さとするのが一般的である。
本実施例の被覆成分のスパッタリング率は既知でないため、上述のようにSiO
2のスパッタリング率を用いて算出したスパッタ深さを皮膜の厚さとした。
【0049】
研磨の評価は、乾燥後の被加工物の表面粗さRa(JIS B6001;1994に規定)を、表面粗さ測定器(東京精密株式会社製;Surfcom 1500DX)にて測定してその平均値を算出し、この値を未加工品の表面粗さと比較して評価した。
【0050】
防錆の評価は、所定の雰囲気に保持した恒温恒湿槽に乾燥後の被加工物を放置し、錆の進行を観察することで評価した。具体的には、庫内の雰囲気を温度49℃、湿度95%に保持した恒温恒湿槽(楠本化成株式会社製;TH403HE)に、樹脂製の架台を介して放置した。この試料を72時間以降24時間毎にマイクロスコープ(株式会社ハイロックス製;KH3000)で観察し、目視にて錆の進行を評価した。評価基準は下記のようにした。
○・・・錆は確認されず。
△・・・錆が観察されたが、大きさはすべて0.5mm未満である。
×・・・0.5mm以上の錆が観察された。
【0051】
実施例1〜22及び比較例1、2における加工条件は、表1に示す通りとした。実施例1〜22及び比較例1、2によって得られた被加工物の評価結果を、表1に示す。表1における「粒度」とは樹脂に分散された砥粒の粒度、「砥粒の含有率」とは樹脂を含む研磨メディアにおいて研磨メディアに対する砥粒の含有率(質量%)、を示す。
【0053】
(1)皮膜の評価
樹脂を含む研磨メディアを用いて研磨した場合、及び防錆機能付与材料を装入して研磨を行った場合は、何れも被加工物の表面には0.1nm〜10.0nmの皮膜が形成されていた(実施例1〜22)。一方、比較例1、2のようにセラミックスメディアのみで研磨を行った場合、被加工物の表面には皮膜が形成されなかった。以上の結果、実施例のバレル研磨方法により、被加工物の表面には極めて薄い皮膜を形成出来ることが判った。
第一実施形態におけるこの評価結果の一例として、実施例1の分析結果を
図4に示す。
図4(A)は、被加工物表面の負イオンのスペクトル解析結果を示す。質量電荷比(m/z)が17、26、42、80の場合(同図の○箇所)に分子イオンピークが検出された。これらは、それぞれOH
−イオン、CN
−イオン、CNO
−イオン、SO
32−イオン、が検出されたことを示している。このうち、CN
−イオン及びCNO
−イオンはナイロンより由来するイオンである。その他のイオンであるOH
−イオンは空気中に存在する一般物質であり、SO
32−イオンはバレル槽に由来する物質である。
図4(B)は、被加工物の表面を面分析(マッピング)した結果である。白又はグレーの部分が、対象となるイオンが検出されたことを示す。同図に示すように、CN
−イオン及びCNO
−イオンは被加工物の表面全体に存在していることが示された。以上の結果より、第一実施形態のバレル研磨方法で研磨を行うと、被加工物の表面に樹脂の皮膜が形成されることが判かった。
【0054】
また、第二実施形態におけるこの評価結果の一例として、実施例20の分析結果を
図5に示す。
図5(A)は、被加工物の正イオンのスペクトル解析結果を示す。比較の為に、下段には未加工の被加工物のスペクトル分析結果を示す。未加工の被加工物では質量電荷比が101、105、111、115、121、128の場合(同図の△箇所)に分子イオンピークが検出されたが、実施例17の被加工物では上述の質量電荷比では分子イオンのピークが検出されず、104、113、117、127、129の場合(同図の○箇所)に検出された。この質量電荷比は、防錆機能付与材料として用いた脂肪酸ナトリウムに由来する成分を示す。この結果は、防錆機能付与材料を装入して研磨することで、被加工物の表面にこの防錆機能付与材料の皮膜が形成されることを示唆している。
図5(B)は被加工物の表面を面分析した結果である。この図は質量電荷比が127のイオンを検出している。同図に示すように、このイオンは被加工物の表面全体に存在していることが示された。以上の結果より、第二実施形態のバレル研磨方法でバレル研磨を行うと、被加工物の表面に防錆機能付与材料の皮膜が形成されることが判かった。
【0055】
(2)研磨の評価
研磨前の被加工物の表面粗さRaはSUJ2材、SS400材共に0.15μmであった。これに対し、砥粒が樹脂に分散された研磨メディアを用いて研磨を行った場合(実施例1〜10、13〜15、22)、研磨後の被加工物の表面粗さRaは0.07μm〜0.12μmとなったことから、何れの条件でも良好に研磨されていた。ナイロン樹脂のみで形成された研磨メディアを用いて研磨した場合は、実施例11、12に示す通り、砥粒が含有されていないことから研磨能力は実施例1〜10に比べて劣っている。しかし、未加工品に比べ表面粗さが小さくなっていることから、このタイプBの研磨メディアでも研磨されていたことが分かる。また、この研磨メディアを用い、さらに砥粒を装入して研磨した実施例19は、実施例10に比べ、研磨が進んでいることが判った。
セラミックスメディアを用いて研磨を行った場合(比較例1、2)、研磨後の被加工物の表面粗さRaは0.29μm〜0.30μmとなった。これは、セラミックスメディアは樹脂メディアに比べて硬いので、被加工物に対する衝撃力が強いことが原因と考えられる。しかし、防錆機能付与材料をバレル槽に更に装入して研磨を行った場合、0.09μm〜0.20μmとなった。これは、防錆機能付与材料によって研磨メディアの表面にも皮膜が形成された結果、研磨メディア自体の潤滑性が向上し、研磨メディアが被加工物に衝突する際の衝撃力が弱められたことによると推察される。特に防錆機能付与材料として脂肪酸ナトリウムを用いた場合(実施例19〜21)は0.07μm〜0.10μmであり、樹脂メディアでの研磨と同等の表面粗さとなったことから、より潤滑性が向上したことが判る。即ち、防錆機能付与材料をバレル槽に装入すると、研磨メディアの表面に非湿潤で皮膜を形成して研磨メディアの表面に潤滑性を付与する潤滑性付与工程を更に備えることができる。この工程を備えることで、樹脂メディアによる研磨と同等若しくはそれに近い仕上げ性能(表面粗さや形状の調整等)を得ることができる。なお、本実施例の研磨条件では、被加工物の材質の差による到達表面粗さの差は見られなかった。
【0056】
(3)防錆の評価
バレル研磨を行っていない被加工物(未加工品1、2)は、観察を開始した72時間放置した時点ですでに錆が発生しており、その後時間の経過と共に錆が進行していき、312時間後には0.5mm以上の錆が観察された。これに対し、ナイロン樹脂を含む研磨メディアを用いて研磨した場合は、実施例1〜12に示す通り、錆が観察されないか、錆が観察されても強度や寸法精度に影響を及ぼさない0.5mm未満の錆しか観察されず、時間が経過しても腐蝕が進行していないことが判かった。樹脂の皮膜の膜厚を厚くすると錆が発生しにくくなるが、さらに膜厚を厚くしていくと逆に錆が発生しやすくなる(実施例9)。これは、膜厚が厚くなる課程で一度被覆された皮膜が剥離したことによると推測している。
【0057】
ナイロン樹脂以外の樹脂を含む研磨メディアを用いて研磨した場合は、実施例13〜15に示す通り、ナイロン樹脂を含む研磨メディアを用いた場合(実施例1〜10)に比べ錆の発生する時間は早かったが、錆の評価は○又は△の評価であった。ナイロン以外の樹脂を含む構成の研磨メディアを用いて研磨した場合でも被加工物に防錆機能を付与することができることが判かった。
【0058】
セラミックスメディアを用いて研磨した場合は、比較例1、2に示す通り、96時間及び72時間で×評価となった。また、未加工品に比べても錆が発生しやすくなっているのが判かった。これに対し、ナイロン樹脂を主成分とする防錆機能付与材料を装入して研磨した場合は、実施例16〜18に示す通り、ナイロン樹脂を含む研磨メディアと同じ条件で研磨した場合(実施例7)と比べて錆の発生する時間が早かったが、その他の条件より同等以上の防錆効果が得られていた。特に、防錆機能付与材料の形態は成形体の方が優れた防錆効果が得られていた。
【0059】
脂肪酸ナトリウムを主成分とする防錆機能付与材料を装入して研磨した場合は、実施例16〜18に示す通り、ナイロン樹脂を含む研磨メディアと同じ条件で研磨した場合(実施例7)、及びナイロン樹脂を主成分とする防錆機能付与材料を装入して研磨した場合(実施例16〜18)よりも優れた防錆効果が得られていた。特に、防錆機能付与材料の形態は成形体の方が優れた防錆効果が得られていた。
【0060】
防錆機能付与材料及び砥粒を装入して研磨した場合は、実施例22に示す通り、同じ研磨メディアのみで研磨した場合(実施例12)に比べて研磨が進行しており、かつ優れた防錆効果が得られていた。
【0061】
なお、被加工物がSUJ2材とSS400材との場合を比較すると、同じ研磨条件で研磨した場合には表1に示す定性評価では差が見られないが、若干SUJ2の方が錆の発生が少ない傾向がみられた。
【0062】
以上の結果、樹脂を含む研磨メディアで被加工物を研磨することで、被加工物を研磨すると同時に防錆機能を付与できることが分かった。