(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376490
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】浮上展張式救助装置
(51)【国際特許分類】
B63C 9/125 20060101AFI20180813BHJP
B63C 9/22 20060101ALI20180813BHJP
B63C 9/26 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
B63C9/125 100
B63C9/22
B63C9/26
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-76542(P2014-76542)
(22)【出願日】2014年4月2日
(65)【公開番号】特開2015-196483(P2015-196483A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】591196577
【氏名又は名称】海上保安庁長官
(73)【特許権者】
【識別番号】599155062
【氏名又は名称】日本救命器具株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(74)【代理人】
【識別番号】100091258
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】辻 久智
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 洋賢
(72)【発明者】
【氏名】今村 智之
(72)【発明者】
【氏名】小川 輝夫
(72)【発明者】
【氏名】中道 智大
【審査官】
米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】
特開平5−178285(JP,A)
【文献】
実開昭55−120597(JP,U)
【文献】
実開昭61−147693(JP,U)
【文献】
実開昭54−3798(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3079682(JP,U)
【文献】
特開2001−349698(JP,A)
【文献】
実公昭49−38018(JP,Y1)
【文献】
特開2012−254685(JP,A)
【文献】
特公昭47−20705(JP,B1)
【文献】
実公昭50−43917(JP,Y1)
【文献】
登録実用新案第3008335(JP,U)
【文献】
実開昭62−20993(JP,U)
【文献】
実公昭45−20424(JP,Y1)
【文献】
特開2001−130483(JP,A)
【文献】
特開2011−30710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 9/125
B63C 9/22
B63C 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体と、
前記浮体にガスを充填して膨張させるための膨張装置と、
前記浮体に張られる網と、
前記浮体、前記網及び前記膨張装置を収納する収納ケースと、
前記収納ケースの上部を閉じるための蓋と、
を備える浮上展張式救助装置であって、
前記浮体は、
ガスを充填すると膨張する、環状の外環部分と、
前記外環部分の中央に位置する中心部分と、
これらの各部分を連結する桁状部分と、
を備え、
前記網は、これら各部分の上に張られ、
前記桁状部分は、前記中心部分側が太く外方に向けて細くなることを特徴とする浮上展張式救助装置。
【請求項2】
前記桁状部分は、円錐形状であることを特徴とする請求項1に記載の浮上展張式救助装置。
【請求項3】
前記桁状部分は、4つの部分から構成され、前記4つの部分は同じ物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の浮上展張式救助装置。
【請求項4】
前記桁状部分は、前記中心部分から外方に向けて放射状に90度の間隔で設けてある、請求項1乃至3のいずれかに記載の浮上展張式救助装置。
【請求項5】
浮体と、
前記浮体にガスを充填して膨張させるための膨張装置と、
前記浮体に張られる網と、
前記浮体、前記網及び前記膨張装置を収納する収納ケースと、
前記収納ケースの上部を閉じるための蓋と、
を備える浮上展張式救助装置であって、
前記浮体は、
ガスを充填すると膨張する、環状の外環部分と、
前記外環部分の中央に位置する中心部分と、
これらの各部分を連結する桁状部分と、
を備え、
前記網は、これら各部分の上に張られ、
前記蓋と前記収納ケースとを吊り下げる吊索と、
吊索切断装置と、
をさらに備える浮上展張式救助装置。
【請求項6】
浮体と、
前記浮体にガスを充填して膨張させるための膨張装置と、
前記浮体に張られる網と、
前記浮体、前記網及び前記膨張装置を収納する収納ケースと、
前記収納ケースの上部を閉じるための蓋と、
を備える浮上展張式救助装置であって、
前記浮体は、
ガスを充填すると膨張する、環状の外環部分と、
前記外環部分の中央に位置する中心部分と、
これらの各部分を連結する桁状部分と、
を備え、
前記網は、これら各部分の上に張られ、
前記ケースに一端を取り付けた浮環索の他端に浮環を取り付けて備え、
前記浮環を水面に位置させ、かつ、前記浮環索の長さにより前記蓋の水深を一定に調整可能としてなる、ことを特徴とする浮上展張式救助装置。
【請求項7】
浮体と、
前記浮体にガスを充填して膨張させるための膨張装置と、
前記浮体に張られる網と、
前記浮体、前記網及び前記膨張装置を収納する収納ケースと、
前記収納ケースの上部を閉じるための蓋と、
を備える浮上展張式救助装置であって、
前記浮体は、
ガスを充填すると膨張する、環状の外環部分と、
前記外環部分の中央に位置する中心部分と、
これらの各部分を連結する桁状部分と、
を備え、
前記網は、これら各部分の上に張られ、
前記外環部分は、4個の1/4円周のチューブ状の構成部分を連結して円形形状を確保し、前記網を展張する外枠となる、ことを特徴とする浮上展張式救助装置。
【請求項8】
前記中心部分は、円盤状の形状を有する上部と、円盤状の形状を有する下部とを含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の浮上展張式救助装置。
【請求項9】
浮体と、
前記浮体にガスを充填して膨張させるための膨張装置と、
前記浮体に張られる網と、
前記浮体、前記網及び前記膨張装置を収納する収納ケースと、
前記収納ケースの上部を閉じるための蓋と、
を備える浮上展張式救助装置であって、
前記浮体は、
ガスを充填すると膨張する、環状の外環部分と、
前記外環部分の中央に位置する中心部分と、
これらの各部分を連結する桁状部分と、
を備え、
前記網は、これら各部分の上に張られ、
前記中心部分は、円錐形状を有する上部と、円筒形状を有する下部とを含むことを特徴とする浮上展張式救助装置。
【請求項10】
前記浮体の前記各部分は、救命胴衣用素材布を貼り合わせることによって形成される中空の閉囲空間を含み、
前記膨張装置から前記ガスを内部に充填することにより、前記素材布の展張の張りが生じることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の浮上展張式救助装置。
【請求項11】
前記収納ケースは、半球状のケースであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の浮上展張式救助装置。
【請求項12】
前記蓋は、前記収納ケースの上部外側に引っ掛ける鍔と、前記蓋の本体をケース内側に入れ込むインロー構造とを有し、前記本体の中央部分で前記吊索が前記蓋と前記収納ケースの底部を引っ張り合わせて固定するように構成されることを特徴とする請求項5、請求項5に従属する請求項8乃至11のいずれかに記載の浮上展張式救助装置。
【請求項13】
前記浮体に取り付けられる複数の支索を備え、前記蓋の上部に、前記支索の収納部を設けてあることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の浮上展張式救助装置。
【請求項14】
前記浮体に排気バルブを備えることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の浮上展張式救助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海上を漂流する要救助者を高乾舷の巡視船甲板上等から直接確保するために使用可能な浮上展張式救助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海難救助現場において要救助者が海上を漂流する場合がある。これを救助するには、救助現場まで巡視船等の船舶(以下、単に巡視船と記載する)で急行し、救助現場の近くで巡視船に搭載してある小型搭載艇を船上から降下させ、小型搭載艇が小回りが効くことを利用して要救助者に近づき、海面から直接小型搭載艇上に揚収して救助する。
【0003】
ところが、海難が発生する時は海上荒天の場合が多く、波高が高い場合には巡視船搭載の艇を降下させ得ないことがある。そのような場合、巡視船で要救助者に近づき、船上から海面を漂流する要救助者を何らかの手段で直接確保し、揚収する必要があるが、波浪に耐えられる巡視船は乾舷が高く、船上から直接に人の手で要救助者を確保することは極めて危険、困難であり、しかも高い乾舷を人力で引き上げることは不可能に近い。海難で長時間海上を漂流した要救助者は、衰弱して動けないどころか意識がない場合が非常に多く、救助に協力動作を得ることが殆ど出来ない。
【0004】
そのような要救助者の救助方法としては、大きな網状のザルのような装備で掬うことが考えられるが、波の高い海で救助者の上から大きな物を降ろし、動きの激しい波の中で動きを制御することは危険かつ困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した諸点にかんがみてなしたもので、船上から手の届かない海面を漂流する意識の無い要救助者を、安全に確保しつつ船上に引き上げ得る装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る浮上展張式救助装置は、浮体と、前記浮体にガスを充填して膨張させるための膨張装置と、前記浮体、網及び前記膨張装置を収納する収納ケースと、該収納ケースの上部を閉じるための蓋と、前記蓋と前記収納ケースとを支持する吊索と、該吊索を切断するために前記収納ケースの底部に設けた吊索切断装置と、からなり、前記浮体は、ガスを充填すると膨らむ構造材としての環状の外環部分と、該外環部分の中央に位置する中心部分と、これらの各部分を連結する桁状部分と、これら各部分の上に張る網と、を組み合わせてザルの機能を果たすようにしてなる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る浮上展張式救助装置は、以下の効果を奏する。
(A)収納ケースにコンパクトに収め得ることから、使用しない時に場所をとらず、海面へ投入しても大きな網のように抵抗にならないため、要救助者至近への投入の制御が容易で、任意の最適なタイミングで船上からの遠隔電気操作によりガスを浮体に順次充填できることから、作動開始に絶好の機会を得ることが出来る。
(B)海中から要救助者を掬い上げ確保し、確保後は浮体により海面上に浮かんで維持出来ることから、意識のない要救助者であっても安全な確保が出来る。
(C)構造部材が金属等の堅いものでなく、ガスで張り詰めた弾力のある浮体であるため、要救助者を傷つけない。
(D)装置使用による消耗材は汎用性のある炭酸ガスボンベだけであり、取り替えて何回でも使用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る救助ネットの構成を示す平面図(A)と分解斜視図(B)である。
【
図2】本発明の実施形態に係る救助ネットの収納状態を示す側面斜視図である(浮体展張モードI)。
【
図3】ケースから浮体を出した状態を示す斜視図である(浮体展張モードII)。
【
図4】浮体とネットが展張して救助のためのザルのような形になっている状態の斜視図である(オートテンションモード)。
【
図5】救助ネットをウィンチで巻き上げる状態を示す斜視図である(ウィンチモード)。
【
図6】本発明の実施形態に係る救助ネットを用いた救助例を示す図である。
【
図7】ケースの変形例を示す
図3相当の斜視図である。
【
図8】展張部を膨張装置収納箱へ取り付ける構造の例を示す斜視図(A)と、平面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態を説明する。
<実施形態装置の概要>
本発明の実施形態に係る浮上展張式救助装置は、浮体をコンパクトに畳んだ状態で船上から要救助の至近の海中に投入し、海中で炭酸ガスを浮体に充填膨張させることにより浮上しながらザル状に展張し、浮体に張った網で要救助者を海中から掬って海面で確保し、浮体に取付けた支索を船上クレーンで吊り上げ、網ごと要救助者を船上に楊収するものである。なお以下では、浮上展張式救助装置を略して「救助ネット」と記載することがある。
【0010】
構造は、炭酸ガスを充填すると膨らみ構造材として耐えられるチューブ状の浮体を、ザルの骨組みのように円周部と中心部とこの2部分を連結し桁となる部分を組み合わせてザル状にし、その上に網を張ってザルの機能を果たし得るようにしてある。これを、炭酸ガスを抜いた状態で小さく畳み、収納ケースに納めて上部を蓋で封印することにより、コンパクトな収納状態とする。
【0011】
本発明の実施形態に係る救助ネットの使用にあたっては、まず収納ケースを吊り下げ索で船上のクレーンに吊り下げ、そのまま巡視船本船が要救助者に近づき、至近の海面から海中にクレーンに吊り下げたまま収納ケースを進入させる。
ケースに浮環索を介して連結された浮環により一定の水深を維持して準備し、海面及び要救助者の状況から最適なタイミングで船上からの遠隔操作により収納ケースと畳み収納した救助ネットを分離させる。それとともに、浮体に順次炭酸ガスを充填する。浮体は膨張しながら展張し、ザル状に形状が変化する。
これを海中から要救助者に向かって浮上させ、海面において浮体に張った網により要救助者を下から掬い上げ、浮体の浮力により海面で維持確保する。その状態で、浮体に取り付けた支索を船上クレーンで吊り上げ、要救助者を船上に救助する。
【0012】
<実施形態装置の特徴>
本発明の実施形態に係る救助ネットは、収納ケースにコンパクトに収め得ることから、使用しない時に場所をとらず、海面へ投入しても大きな網のように抵抗にならない。そのため、要救助者至近への投入の制御が容易である。
【0013】
また、任意かつ最適なタイミングで船上からの遠隔電気操作によりガスを浮体に順次充填できることから、作動開始に絶好の機会を容易に得られる。また、海中から要救助者を掬い上げ確保し、確保後は浮体により海面上に浮かんで維持出来ることから、意識のない要救助者であっても安全な確保が出来る。
【0014】
さらに、構造部材が金属等の堅いものでなく、ガスで張り詰めた弾力のある浮体であるため、要救助者を傷付けにくい。また、装置使用による消耗材は汎用性のある炭酸ガスボンベだけであるので、ガスボンベを取り替えて何回でも使用出来る。
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
<装置各部の構造及び機能>
図1は、本発明の実施形態に係る救助ネットの構成を示す分解斜視図(A)と、浮体の構成を示す平面図(B)、
図2は本発明の実施形態に係る救助ネットの収納状態を示す斜視図である。
本実施形態の救助ネット1は、ケース2、ケース蓋3、ケース2に収納した後述する浮体10、ケース2と浮環索4を介して連結された浮環5、ケース蓋3の上面に取り付けた複数の
支索16、
支索16を引っ掛けて図示していないウィンチへ連結するためのウィンチケーブル7、ケース2の底面に取り付けた吊索切断装置8、ケース2内に収納した図示していない炭酸ガスボンベを始動させるためのスイッチケーブル9
を備える。
【0016】
図3は、ケース2から浮体10を出した状態を示す斜視図である。浮体10は、炭酸ガスを充填すると膨らみ構造材として耐えられる環状の外環部分となる外環部11、環状の外環部11の中央に位置する中心部分となる中央補強部12、外環部11と中央補強部12とを連結する桁状部分となる4つの展張部13からなる。外環部11も4つの部分から構成されているが、内部空間は隣り合うものが連結している。
【0017】
中央補強部12の内側には、浮体10を膨張させるための炭酸ガスを供給する膨張装置(以下では、炭酸ガスボンベと記載する。)を収納した膨張装置収納箱14が位置させてある。さらに、それぞれ4個の外環部11と中央補強部12が形成する4つの区画にはそれぞれ網(ネット15)が張ってあり、後述する展張状態では、
図3に示すようにひろがってザルの機能を果たせる形状となる。
【0018】
浮体10を構成する各部分は、救命胴衣に使用される軽量、強度のあるターポリン等の素材布をウエルダー処理により貼り合わせて中空の閉囲空間を形成したものである。そして、炭酸ガスボンベから炭酸ガスを内部に充填することにより、素材布の展張の張りが構造強度を確保するとともに浮力を確保する。
【0019】
上述のように浮体10とネット15等が形成するザル状の形状は、3つの部分の浮体の要素の組み合わせで構成する。すなわち、ザル状の外環を形成する外環部11、中心を形成する中央補強部12、外環部11と中央補強部を繋いで桁となる展張部13の組み合わせでザル状の骨組みとなる。
【0020】
外環部11は、ザル状の外周を形成し、4個の1/4円周のチューブ状の浮体で、連結してザルの円形状の形状を確保し、ネット15を展張するための外枠となるともに水面上での浮力を確保する機能を有する。
【0021】
中央補強部12は、上部12a及び下部12bで構成し、上部12aは救助ネット1全体としての浮上を先導する浮力の確保及び展張部13の展張方向を誘導補強する機能を有する。下部12bは、救助ネット1全体としての浮上速度を減速するとともに海面に浮上してからの浮力を補強する機能を有する。どちらも円盤状あるいは円盤に類似の形状であることが好ましい。図示の例では上部12aは截頭円錐形状、下部12bは円筒形状である。
【0022】
展張部13は、4個の同形物であり、中央補強部12から外環部11に向けて放射状に90度の間隔でそれぞれと接続して構造部材となるものである。図示の例では中央補強部12側が太く外環部11側に向けて細くなる細長い円錐状となっている。円錐形状としたのは、浮体10を畳んだ状態から炭酸ガスが入る時に外環部11を外側に突っ張って広げる機能を有するようにするためで、炭酸ガスの入り口のある中央補強部12側を太くし、炭酸ガスが先端まで満遍なく速やかに充填出来るようにするとともに根本が折れないように強度を強くし、腰があるものとするためである。
【0023】
浮体10を構成する前記各部には、炭酸ガスボンベから炭酸ガスを充填するためのガス膨張装置、内部の圧力が過大になった時に内部の炭酸ガスを一部あるいは全部放出できるようにするための排気バルブが取り付けてある。ただし、これらは公知のものを採用して適宜の箇所に設ければ良いので、図示は省略してある。
【0024】
ケース2は、底深い半球状の形状を有し、ケース蓋3はケース2の上部の開口を閉じ、必要時に開き得るように構成してある。ケース2を半球状としたのは、ウィンチケーブル7から離脱後に、浮体10が放射状に展張することを容易とするためである。また、深さのある形状としたのは、外環部11を最下方に収納し、浮体10の各構成部分がケース2から離脱後に展張部13が下方にほぐれるのを助け、展張動作を容易にするためである。
【0025】
ケース蓋3は、作動前に確実に閉めるとともに必要作動時に速やかにケース2と離れるよう、鍔をケース2の上部開口縁の外側に引っ掛け、蓋としての本体部分をケース2の内側に入れ込むインロー構造とし、中央部分を通した索(図示の例ではウィンチケーブル7)でケース蓋3とケース2の下部を引っ張り合い固定する。ケース蓋3の上部には、外環部11から伸びる支索16(
図3参照)を必要時以外はコンパクトに収めておくため、支索収納ケース17が設けてある。
【0026】
吊索切断装置8は、ケース2の底部の中央(図示の例では最下部となる部位)に設け、海中でケース2を離脱させるまでクレーンから吊り下げている吊り下げ索(ウィンチケーブル7)を離脱時に切断するもので、船上から遠隔電気操作できるようにしてある。
【0027】
ガス膨張装置及び
吊索切断装置8は、いずれも電気的な信号で作動を開始させるもので、図示は省略するが、それらの本体から電線を船上まで引き、遠隔で起動出来るようにしてある。そして、信号によりガス膨張装置及び
吊索切断装置8の本体内部の針が動き、本体内部の炭酸ガスボンベの封を開け、炭酸ガスを放出させる。すなわち、吊索切断装置8は炭酸ガスの力でカッターを動かして索を切断するタイプのものであるが、本発明においては他のタイプの切断装置も採用できる。
【0028】
本実施形態では、後述するように、浮体10を浮上させながら展張部13の四方へ放射状に均等な展張を誘導し、椅麗な円形の外環部11を形成するため、中央補強部12、展張部13、外環部11の順番に時間差を付けて炭酸ガスを充填し、中央補強部12が最初に浮上を始め、展張部13、外環部11が、ガスが入らない状態で中央補強部12の下方に引き連れられる形態とする。
【0029】
上述のように、浮体10は構造部材となっており、太く、大きく、内部圧力が高い程強度は増すが、同時に浮力も増えることとなり、浮上速度が速くなりすぎてしまい、浮体10の展張時間が確保出来ない事態となり得る。これを解決するため、出来るだけ少ない炭酸ガスで浮体10の強度を確保出来るように上記のような種々の形状を採用した。また、中央補強部12の下部12bは、円盤状として浮体としての直径を大きくし、詳細な図示は省略するが、下部12bの外周部分を展開可能なヒダ状にしてケース2に収容するようにしている。これにより、外環部11と展張部13が展張する時にそれぞれの腕(展張部13)の間に中央補強部12のヒダが立ち上がり、浮上の際の抵抗となり、ブレーキ作用を行い、浮体10の浮上速度を抑制する。
【0030】
浮体は構造部材となっているため、太く、大きく、内部圧力が高い程強度が増すため、十分なガス体積、内部圧力が必要であるが、水深が深くなると水圧が掛かり、水深10メートルでは同じガス量でも船上での半分の体積になってしまう。また水温によっても体積が変化し、温度が低いほど体積が小さくなり、使用する海域によっては浮体10の展張状態が変化することになる。どのような状態であっても浮体10の体積は一定値以上に確保する必要があり、対策として空気中の浮体10の体積に較べて十分過ぎる量のガスを充填することである。ただし、水温が高いところで使用する場合には、浮体10の許容体積をこえて炭酸ガスが膨張し、浮体10の破壊が起こり得るので、上述のようにそれぞれの浮体構成部分に排気バルブを設け、設定圧力以上に圧力が上がった場合は、内部の炭酸ガスを外部に放出し、浮体10の破壊を防ぎ得るようにしてある。
【0031】
浮環5は、救助ネット1の動作を起動する前に、救助ネット1をケース2に納めた状態で海中や湖中に沈めた際、波があっても海中、水中での水深を一定にするため、浮力により水面上に浮かべ結んだ際の長さに応じて最適な水深を調整できるようにするものである。
【0032】
<実施形態装置の使用形態、動作>
次に、上述した救助ネット1の使用形態、動作について説明する。
図2〜
図5は、本実施形態に係る救助ネット1の動作モードを示す図、
図6は上述した実施形態に係る救難ネットを用いた救助方法、救助システムについて説明するための図である。使用形態、動作の説明のため、
図2と
図3は重複して使用する。なお以下では海中に落下した遭難者を巡視船等の救難船上から救助する形態について説明するが、湖面に落下した遭難者等でも同様であるので、いちいち海中、水中の違い、例えば船舶とその設備を使用する場合、岸壁や海岸等とその設備を使用する場合の違いについて説明することは省略する。
【0033】
図示の救難システムは、船体20に設けたクレーン30で救助ネット1を吊り下げ(
図6(A))、海中に投入し、船体20の動揺や、波浪があっても、クレーン30が備えるウィンチ31のオートテンション機能を利用して海面に漂う浮環5の動きをとらえ、救助ネット1を一定の水深で留め続ける浮体展張モードI(
図2)から一連の救難作業を開始する。浮体展張モードIや後出する複数のモードの詳細については後述する。なお、図中32は誘導ラインで、救助者41が救助ネット1の動きをある程度コントロールするために用いる。図の例では二人の救助者41、41が描いてあるが、もちろん人数がこの例に限定されるものではなく、誘導ライン32の本数も同様であり、図示は単なる一例である。
【0034】
次に、海面を漂流する要救助者40の至近海中で船体20上からケース2の吊索
切断装置及びガス膨張装置を起動し、吊索であるウィンチケーブル7をカットし、ケース2を浮体10と分離し、自由状態になった浮体10の各部に炭酸ガスを充填することにより救助のためのザルのような形状を形成させつつ浮体10を海面に向かって浮上させる(
図6(B))。この時、クレーン30は、船体20の動揺及び波浪により浮体10の海中の位置関係の上下動と浮体10が浮力により加速しながら海面へ浮上する合成動作が生じるなか、浮体10の浮上に余分な力を掛けないようにウィンチケーブル7を巻き上げ、ウィンチケーブル7が極端に弛んで浮体10にからみ付かないように制御し、浮体展張モードII(
図3)で浮体10が展張しながら海中から海面まで浮上する。
【0035】
救助ネット1が備える浮体10とネット15は展張し、救助のためのザルのような形になり、要救助者40をネット15により下方からすくった状態で海面に浮かび、波浪と同期して上下する(
図6(C))。このとき救助ネット1の四方に取り付けた4本の支索16は、ピンと伸びた状態でウィンチケーブル7の先端に取り付けたフックに接続した状態となっていることが望ましい。そこで、船体20の波浪による動揺等を受けてウィンチケーブル7先端のフックとウィンチ31間の距離が変化しても、ウィンチ31は、オートテンションによりウィンチケーブル7をたるませずに巻き上げ、巻き戻しを自動で行う(オートテンションモード:
図4)。すなわち船体20の動きや波浪で海面の位置が上下し、クレーン30に動揺などがあっても、救助ネット1を海面に貼り付けたままの状態(海面に対して同じ位置を保つ状態)で、支索16をピンと張った状態に保ち、ウィンチケーブル7をウィンチ31が備えるウィンチドラムまでの間、同じくピント張った状態とする(
図6(D)、(E))。
【0036】
次に、救助ネット1の浮かぶ海面が上昇してクレーン30のアーム先端との距離が最短(ウィンチケーブル7が最短)になったタイミング(
図6(F))でクレーン30の動作を切り替え、救助ネット1をウィンチ31で素早く巻き上げるウィンチモード(
図6(F)、
図5)で救助ネット1を海面から吊り上げ、水切りする。救助ネット1は、4本の支索16で上方に引き上げられながら外環部11が絞られ、
図5からよくわかるようにモッコ状となって内部の要救助者40を包み込んだ状態となる。ウィンチ31はその状態でウィンチケーブル7を巻き込み切る。
【0037】
そして、ウィンチドラムにウィンチケーブル7を巻き込み切った状態を自動で感知し、ドラムブレーキをかけて要救助者40を包んだ救助ネット1の重量及び船体20の動揺に伴う荷重変化にかかわらず確実にブレーキを掛け、停めきる(プレーキモード)。そして、クレーン30のアーム先端まで引き上げた救助ネット1を確保し、クレーン30を旋回させて要救助者40を船体20の甲板上へ引き込む。
【0038】
なお、前記実施形態では吊索であるウィンチケーブル7をカットするとケース2が浮体10から離れて沈降する。ケース2は一体のままで沈降するが、これを、
図7に示すように、2つあるいはそれ以上に割れて沈降するように構成してもよい。
【0039】
図8は、展張部13を膨張装置収納箱14へ取り付ける構造の例を示す斜視図(A)と、平面図(B)である。展張部13の中央補強部12側には取り付け片13aが一対設けてあり、これを広げて膨張装置収納箱14の一面にボルト18で止めるようになっている。もちろん、展張部13の取り付けには他の構造も採用可能である。
【0040】
本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 :救助ネット
2 :ケース
3 :ケース蓋
4 :浮環索
5 :浮環
6 :吊索
7 :ウィンチケーブル
8 :吊索切断装置
9 :スイッチケーブル
10 :浮体
11 :外環部
12 :中央補強部
12a :中央補強部の上部
12b :中央補強部の下部
13 :展張部
13a :取り付け片
14 :膨張装置収納箱
15 :ネット
16 :支索
17 :支索収納ケース
18 :ボルト
20 :船体
30 :クレーン
31 :ウィンチ
32 :誘導ライン
40 :要救助者
41 :救助者
【先行技術文献】
【特許文献】
【0042】
【特許文献1】特開2011−030710号公報
【特許文献2】特開平05−178285号公報