(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明するが、印刷用インキは単に「印刷インキ」または「インキ」と略記する場合があるが同義である。また印刷用インキが印刷されてなる被膜のことを「印刷層」、「インキ被膜」または「インキ層」と称する場合があるが同義である。
【0018】
本発明の印刷用インキは、平均直径が5〜30nmであるカーボンナノチューブとバインダー樹脂とを含んでなる印刷用インキであって、バインダー樹脂が、酸価1〜25mgKOH/gのアクリル樹脂を含んでなる印刷用インキである。バインダー樹脂が当該酸価を有するアクリル樹脂を含有させることでカーボンナノチューブを良好に分散することができる。
【0019】
本発明の印刷用インキは、粘度は25℃における粘度が2〜20Pa・sであることが好ましい。また、印刷用インキのチキソインデックス(TI)は、25℃におけるTIが、1.1〜1.9であり、1.4〜1.7であることが好ましい。TIは、インキのチキソトロピー性の指標であり、インキのせん断速度(回転数)の異なる2点の粘度の比率として下記式1で表される。測定の方法としては最も簡単には回転型粘度計を用いることができ、測定機の種類を問わず得ることができる。なお粘度とはJISZ8803による25℃での測定値をいう。
(式1) チキソインデックス(TI)=Xa/Xb
(式中、Xaとは回転型粘度計での低回転数における粘度をいい、Xbとは回転型粘度計においてXaよりも高回転数における粘度をいう。)
【0021】
本発明で使用するカーボンナノチューブは、平均直径が5〜30nmであるカーボンナノチューブである。ここで平均直径とは、円筒形状における円に該当する部分の平均直径をいい、走査透過電子顕微鏡によって観測した任意の10個のカーボンナノチューブのそれぞれの直径の平均値を意味する。このようなカーボンナノチューブを使用することにより、インキ被膜の漆黒感および印刷層の透明性が向上する。また、酸価1〜25mgKOH/gのアクリル樹脂を使用することにより、印刷用インキ中でカーボンナノチューブが良好な分散状態となり、ナノ分散体に近い状態が保たれると推測される。
【0022】
カーボンナノチューブとは、炭素によって作られる六員環のネットワーク構造(グラファイト層)が、単層あるいは多層の同軸管状になった円筒形状の化合物である。そのグラファイト層が1層からなるものを単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、2層以上の層からなるものを多層カーボンナノチューブ(MWCNT)と呼称されている。本発明で使用するカーボンナノチューブは、着色効果や漆黒感の調節のために単層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブのいずれを選択して使用してもよいし、併用することも可能である。中でもMWCNTを含むことが好ましい。
【0023】
カーボンナノチューブは、印刷用インキ総質量中に1〜7質量%含有することが好ましく、2〜5質量%含有することがより好ましい。上記含有率とすることにより、より良好な漆黒性を示す印刷物が得られる。また、印刷用インキ固形分の総質量中には20〜40質量%で含有することが好ましい。なお固形分とは印刷用インキ中の不揮発成分の総質量をいう。
【0024】
(バインダー樹脂)
本明細書において、バインダー樹脂とは印刷用インキで結着剤として機能し得る樹脂を指し、熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、バインダー樹脂は、酸価1〜25mgKOH/gのアクリル樹脂を含む。バインダー樹脂は、インキ総質量中に20〜40質量%含有することが好ましく、25〜35質量%含有することが好ましい。また、酸価1〜25mgKOH/gのアクリル樹脂は、バインダー樹脂の総質量中70〜100質量%含まれることが好ましい。
【0025】
酸価1〜25mgKOH/gのアクリル樹脂以外のバインダー樹脂としては、スチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ロジン系樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、アクリル−ウレタン樹脂、ダンマル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、酸価1〜25mgKOH/g以外のアクリル樹脂、その他熱可塑性樹脂等が挙げられる。これらのバインダー樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で併用してもよく、バインダー樹脂総質量中30%未満使用することが好ましい。
【0026】
(酸価1〜25mgKOH/gのアクリル樹脂)
本明細書において、「アクリル樹脂」とは、アクリルモノマーを主成分として構成単位に有する樹脂をいう。「アクリルモノマー」とは、アクリル基またはメタクリロイル基を有するモノマーを意味し、「メタクリルおよびアクリル」を総称して「(メタ)アクリル」と略記することがある。また、「メタクリレートおよびアクリレート」を総称して「(メタ)アクリレート」と略記することがある。
【0027】
酸価1〜25mgKOH/gのアクリル樹脂は、インキ被膜の有する漆黒感と印刷インキの経時安定性向上の観点から、酸価10〜25mgKOH/gであることが好ましく、10〜20mgKOH/gであることがより好ましい。アクリル樹脂に酸価を付与する方法としては、カルボキシル基含有アクリルモノマー等の酸性モノマーと、他のモノマーとを共重合することにより容易に得られるが、これに限定されるものではない。酸性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、無水フタル酸、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヘキサヒドロフタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドフォスフェートなどが好ましく、中でも(メタ)アクリル酸を用いることが好ましい。なお酸価とはJISK0070(1992)における測定値をいう。
【0028】
酸価1〜25mgKOH/gのアクリル樹脂のガラス転移温度(以下、「Tg」と記載する場合がある)は、50〜110℃の範囲内であることが好ましく、60〜110℃であることがより好ましく、70℃〜100℃であることが更に好ましい。印刷用インキからなる印刷層の耐ブロッキング性が向上するためである。なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)による測定値である。
【0029】
酸価1〜25mgKOH/gのアクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、20,000〜100,000であることが好ましく、50,000〜80,000であることがより好ましい。インキ被膜の特性が向上するためである。尚、重量平均分子量または数平均分子量は、テトラヒドロフランを溶媒として用いたゲルパーミエイションクロマトグラフィ(GPC)測定によるポリスチレンに対する換算値をいう。
【0030】
アクリル樹脂は、アクリルモノマーを構造単位として含む。以下に、アクリル樹脂を構成するアクリルモノマーについて列記するが、これらに限定されるものではない。尚、アクリルモノマーは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。アクリルモノマーは以下に列記するうちで、アルキルメタクリレートおよび/またはアルキルアクリレートを含有することが好ましく、メチルメタクリレートを含むことがより好ましい。その含有量としてはアクリル樹脂総質量中に5〜95質量%であることが好ましい。また、アクリルモノマーは、水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートを含有することも可能である。
【0031】
なお、メチルメタクリレート、アルキル(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を、アクリル樹脂総質量中80〜100質量%有することが好ましい。
【0032】
アルキル(メタ)アクリレートとして、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどが挙げられる。これらの中でも、アルキル基の炭素数が1〜6であることが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルが、基材に対して良好な密着性を得やすいという点からより好ましい。
【0033】
アクリルモノマーは、水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートを含有してもよく、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルや、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレートなどのグリコールモノ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミドなどが挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが好ましい。
【0034】
(顔料)
本発明の印刷用インキは、上記カーボンナノチューブ以外に通常使用される有機顔料、無機顔料および体質顔料等を併用しても良い。有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、ジケトピロロピロール系、イソインドリン系などの顔料が好適であるが、これらに限定されない。カラーインデックスに記載のC.Iピグメントを適宜使用できる。無機顔料としては、カーボンブラック、アルミニウムペースト、マイカ(雲母)、ブロンズ粉、クロムバーミリオン、黄鉛、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、群青、紺青、ベンガラ、黄色酸化鉄、鉄黒等が挙げられる。体質顔料としては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、沈降性バリウム等を使用することが好ましい。
【0035】
(有機溶剤)
本発明の印刷用インキは、有機溶剤を含有することが好ましい。有機溶剤としては、沸点が50〜250℃であることが好ましく、100℃〜220℃であることがより好ましい。有機溶剤としては、グリコールエーテル系有機溶剤、エステル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、脂肪族系有機溶剤、芳香族系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エーテル系有機溶剤が挙げられ、必要であればこれらの2種類以上を混合して使用することもできる。
【0036】
グリコールエーテル系有機溶剤としては、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノメトキシメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。
【0037】
エステル系有機溶剤としては、ガンマーブチロラクトン、セロソルブアセタート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、エチレングリコールジアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、プロピレンカルボナートなどが挙げられる。
【0038】
ケトン系有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、アセトニルアセトン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0039】
脂肪族系有機溶剤としては、ノルマルパラフィン系溶剤、イソパラフィン系溶剤、シクロパラフィン系溶剤などが挙げられる。
【0040】
芳香族系有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ナフタレン、テトラリン、ソルベントナフサの他、芳香族系に富む溶媒としてスワゾール(コスモ石油社製、丸善石油化学社製)ソルベッソ(エクソンモービル社製)、カクタスファイン(ジャパンエナジー社製)等が挙げられる。
【0041】
アルコール系有機溶剤としては、ジアセトンアルコール、N−アミルアルコール、メチルイソブチルカルビノール、n−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−オクチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキシレングリコール、1,5−ペンタンジオールなどが挙げられる。
【0042】
エーテル系有機溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランなどの環状エーテルが挙げられる。また、その他の液状媒体として、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジ−n−ブチルカーボネートが挙げられる。
【0043】
(消泡剤)
本発明の印刷用インキは、消泡剤を含有することが好ましい。含有量としては印刷用インキ総質量中、0.1〜2質量%含まれることが好ましい。消泡剤を構成する化合物としてはアクリル樹脂、ビニルエーテル樹脂、ブタジエン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂およびそれらの変性樹脂が挙げられる(ただし上記バインダー樹脂は含まない)。消泡剤は、非シリコーン系樹脂であることが好ましく、アクリル樹脂、ビニルエーテル樹脂、ブタジエン樹脂、から選ばれる少なくとも一種の樹脂を含有することが好ましい。
例えば、市販されているこのような消泡剤としては、BYKシリーズ(ビックケミー・ジャパン社製)フローレンシリーズ(共栄社化学社製)などが挙げられる。
【0044】
(レベリング剤)
本発明の印刷用インキは更にレベリング剤を含有することが好ましい。含有量としては印刷用インキ総質量中、0.1〜1質量%含まれることが好ましい。レベリング剤を構成する化合物としてはアクリル樹脂および/またはシリコーン樹脂であることが好ましい(ただし上記バインダー樹脂は含まない)。例えば、市販されているこのようなレベリング剤としては、ポリフローシリーズ(共栄社化学社製)などが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0045】
(その他添加剤)
また、必要に応じて、分散剤、濡れ浸透剤、皮張り防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、架橋剤、防腐剤、防カビ剤、粘度調整剤、pH調整剤等の添加剤を本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。中でも分散剤を使用することが好ましい。印刷物の漆黒感が良化するためである。分散剤としては酸性分散剤が好ましい。
【0046】
(印刷用インキの製造)
本発明の印刷用インキは、適宜公知の分散方法で作成することができる。例えば、バインダー樹脂、カーボンナノチューブ、有機溶剤および添加剤を必要量混合し、攪拌機などで良く撹拌してから、3本ロール、ペイントシェーカーやアトライター、サンドミル等の分散機により製造することが可能である。
【0047】
(基材)
本発明における印刷物を形成するために用いられる基材は特に限定されるものではなく、ガラス等の無機基材、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル基材、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニルその他のポリオレフィン基材、ポリアミド等のナイロン基材、アクリル基材、ポリ塩化ビニリデン基材、ポリカーボネート基材、ポリウレタン基材、エポキシ基材等の樹脂基材が挙げられる。また、シリカ、アルミナ、アルミニウムなどの無機化合物を当該基材に蒸着した蒸着基材も用いることができ、更に蒸着処理面がポリビニルアルコールなどによるコート処理を施されていても良い。また、コロナ処理やフレーム処理、延伸処理が施されていてもよい。以上のうち、透明基材であることが好ましい。
【0048】
(印刷物)
本発明の印刷物とは、任意の印刷方法により、基材上に印刷用インキからなる印刷層を形成したものをいう。印刷方法としては、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などが挙げられるが、中でもスクリーン印刷による印刷が好ましい。
印刷物は、基材へ印刷された印刷層を有する面とは反対側の面から測定された、L
*値が10以下、a
*値が0〜3かつb
*値が0〜7であることが好ましい。L
*、a
*およびb
*とは、JISZ8729で測定される数値を表わす。L
*a
*b
*において、L
* は値が0のとき黒色方向、値が100のとき白色方向の拡散色として色の明度を表す。a
*b
*は色度を表し、a
*は赤と緑の間の色相であって負の値の場合は緑方向の色相で、正の値は赤方向の色相を表す。b
*は黄色と青の間の色相であって負の値は青方向の色相、正の値は黄色方向の色相を表す。なおL
*a
*b
*は三次元の座標として表現される。なお、L
*a
*b
*値は反射での測定値をいう。
また、透過率とは、当該印刷物において印刷層を有する面の反対側の面から波長300〜1500nmの範囲で透過スペクトル測定し、可視光領域の波長380nm〜780nmの各透過率の加重平均値を求めることで算出した値であり、透過スペクトルでの測定値をいう。なお、加重平均値とは、JIS R3106(1998)による計算値をいう。
【実施例】
【0049】
以下、実施例として本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何等限定されるものではない。本発明において、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は、「質量%」をそれぞれ表す。
【0050】
(カーボンナノチューブの平均直径)
走査透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 HD−2700)による観測写真において、任意の10個のカーボンナノチューブを選び、それぞれの直径を計測し、その平均値を求めることにより、カーボンナノチューブの平均直径とした。
【0051】
(重量平均分子量)
重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により求めた。昭和電工社製「ShodexGPCSystem−21」を用いて分子量分布を測定し、ポリスチレン換算分子量を求めた。以下に測定条件を示す。
カラム:下記の複数のカラムを直列に連結して使用。
東ソー株式会社製、TSKgel SuperAW2500、
東ソー株式会社製、TSKgel SuperAW3000、
東ソー株式会社製、TSKgel SuperAW4000、
東ソー株式会社製、TSKgel guardcolumn SuperAWH
検出器:RI(示差屈折計)、
測定条件:カラム温度40℃、
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
【0052】
(酸価)
JISK0070(1992)に記載の方法に従って測定した。
【0053】
(ガラス転移温度(Tg))
ガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差走査熱量測定測定)により求めた。なお、測定機は株式会社リガク社製 DSC8231を使用し、測定温度範囲−50〜250℃、昇温速度10℃/分、DSC曲線におけるガラス転移に基づくベースライン変化の変曲点をガラス転移温度とした。
【0054】
(粘度およびチキソインデックス(TI))
JISZ8803(2011)により25℃で単一円筒形回転粘度計を用いて測定した。チキソインデックスは上記(式1)により6rpmと60rpmにおける粘度の比率として算出した。
【0055】
(L
*a
*b
*値)
印刷物の印刷層を有する面の反対側の面からJISZ8781−4(2013)に従って測定した。なお、測定には色差計(NIPPONDENSHOKU社製、SpectroColorMeterSE2000)を用いた。なお、測定値は反射による測定値をいう。
【0056】
(平均透過率)
紫外可視近赤外分光光度計(日立製作所社製、UV−3500)を用い、印刷物の、印刷層を有する面の反対側の面から波長300〜1500nmの範囲で透過スペクトル測定し、可視光領域の波長380nm〜780nmの各透過率の加重平均値を求めることで算出した。
【0057】
(実施例1)[印刷用インキS1の作成]
カーボンナノチューブとしてNC−7000(ナノシル社製、平均直径9.5nm、MWCNT)3.5部、バインダー樹脂として酸価7mgKOH/gのアクリル樹脂(ダイヤナールBR−116、メチルメタクリレート系アクリル樹脂、重量平均分子量45,000、ガラス転移温度50℃ 酸価7.0mgKOH/g 三菱ケミカル社製)27.5部、非シリコーン系消泡剤としてBYK−057(ブタジエン共重合物、ビックケミー・ジャッパン社製)1.5部、レベリング剤としてポリフローNO.7(アクリル樹脂系、共栄社化学社製)0.5部、溶剤としてブチルセロソルブ20部およびダイアセトンアルコール47部を、ミキサー回転式攪拌機を用いて均一に混合した後、3本ロール分散機を2パスして印刷用インキ(S1)を調製した。印刷用インキ(S1)の粘度は2.4Pa・sであった。
【0058】
(実施例2〜12、比較例1〜4)[印刷用インキS2〜S10、T1〜T4の作成]
表1に記載した材料および比率に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって印刷用インキをそれぞれ作成した。尚、表中の略称を以下に示す。また、表中の数値は、特に断りのない限り「部」を表し、空欄は使用していないことを表す。
なお、本明細書において、実施例2〜11(インキS2〜S11)、およびそれを用いた印刷物の実施例14〜23以外の例は参考例である。
【0059】
<カーボンナノチューブ>
Flotube9000:カーボンナノチューブ、CNano社製、平均直径12.5nm、MWCNT
SMW210:カーボンナノチューブ、SouthWest NanoTechnologies社製、平均直径10nm、MWCNT
<カーボンブラック>
三菱カーボンMA−100:カーボンブラック、三菱ケミカル社製、一次粒径24nm
【0060】
<アクリル樹脂>
ダイヤナールBR−77:酸価18.5mgKOH/g、メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート系アクリル樹脂 重量平均分子量65,000、ガラス転移温度80℃、三菱ケミカル社製
ダイヤナールBR−87:酸価10.5mgKOH/g、メチルメタクリレート/アルキルメタクリレート系アクリル樹脂 重量平均分子量25,000、ガラス転移温度105℃、三菱ケミカル社製
ダイヤナールMB−2389:酸価2.3mgKOH/g、メチルメタクリレート系アクリル樹脂 重量平均分子量30,000、ガラス転移温度90℃、三菱ケミカル社製
パラロイドB66:酸価3mgKOH/g、メチルメタクリレート系アクリル樹脂 重量平均分子量70,000、ガラス転移温度50℃、ロームアンドハース社製
ダイヤナールBR−110:酸価0.0mgKOH/g、アクリル樹脂 重量平均分子量72,000、ガラス転移温度90℃
<ポリエステル樹脂>
バイロン200:酸価2mgKOH/g、非晶性ポリエステル樹脂、重量平均分子量30,000、ガラス転移温度67℃、東洋紡社製
<レベリング剤>
KF−96−1000CS:シリコーン樹脂系、信越化学工業社製
【0061】
(実施例13)[印刷用インキS1による印刷]
基材としてポリカーボネート樹脂製の透明基材(帝人社製 パンライトPC2151 膜厚300μm)を使用して、この基材上に上記印刷用インキS1をスクリーン刷版(NBCメッシュテック社製、L−SCREEN、140−030/355PW)を用いてパターンを印刷して印刷物を作製した。
【0062】
(実施例13〜24、比較例5〜8)[印刷用インキS2〜S12、T1〜T4による印刷]
実施例1で使用した印刷用インキS1の替わりに、表2に記載した印刷用インキに変更した以外は、実施例1と同様の方法によって印刷物をそれぞれ作成した。
【0063】
(印刷用インキおよびその印刷物の評価)
上記実施例および比較例で得られた印刷用インキおよび印刷物について以下の評価を行った。評価結果は表2に示した。
【0064】
(経時安定性)
実施例1〜12及び比較例1〜4で得られた印刷用インキをそれぞれ40℃、5日間保持した。保持前後の粘度の値の変化を評価した。尚、評価結果の基準は以下のとおりとした。
A(優):粘度変化が10%未満であること。
B(良):粘度変化が10%以上20%未満であること。
C(不良):粘度変化が20%以上であること。
なお産業上利用可能なレベルはAおよびBである。
【0065】
(レベリング性の評価)
実施例13〜24及び比較例5〜8で得られた印刷物を用いて評価を行った。評価結果の基準は以下のとおりとした。「印刷ムラ」とは印刷層の色の濃淡が不均一になっている状態をいう。
A(優):パターン内の5%未満の面積が印刷ムラがあること。
B(良):パターン内の5%以上20%未満の面積が印刷ムラがあること。
C(不良):パターン内の20%以上の面積が印刷ムラがあること。
なお産業上利用可能なレベルはAおよびBである。
【0066】
(転移性の評価)
実施例1〜12及び比較例1〜4で得られた印刷用インキを用いて評価を行った。以下の評価で転移率とは一回の印刷での単位面積当たりに転移するインキ質量の秤量算定値をいう。尚、評価結果の基準は以下のとおりとした。
A(優):印刷インキの転移率が90質量%以上であること。
B(良):印刷インキの転移率が80質量%以上90質量%未満あること。
C(不良):印刷インキの転移率が80質量%未満であること。
なお産業上利用可能なレベルはAおよびBである。
【0067】
(漆黒性の評価)
実施例11〜20及び比較例5〜8で得られた印刷物を用いて評価を行った。尚、評価結果の基準は以下のとおりとした。
A(優):L
*が8以下、a
*が0〜3、かつb
*が0〜7であること。
B(良):L
*が8を超え10以下、a
*が0〜3、かつb
*が0〜7であること。
C(不良):L
*が10を超える、a
*が4以上0未満または3を超える、もしくはb
*が0未満または7を超える数値であること。
なお産業上利用可能なレベルはAおよびBである。
【0068】
(透過性の評価)
実施例13〜24及び比較例5〜8で得られた印刷物を用いて評価を行った。尚、評価結果の基準は以下とした。
A(優):印刷物の平均透過率が10%以上であること。
B(良):印刷物の平均透過率が5%以上10%未満であること。
C(不良):印刷物の平均透過率が5%未満であること。
なお産業上利用可能なレベルはAおよびBである。
【0069】
本発明により、上記問題点を解決すべくなされたものであって、漆黒性、レベリング性、転移性および透明性に優れる印刷インキと印刷物を提供することが可能となった。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
平均直径が5〜30nmであるカーボンナノチューブとバインダー樹脂とを含んでなる印刷用インキであって、バインダー樹脂が、酸価1〜25mgKOH/gのアクリル樹脂を含み、25℃におけるチキソインデックスが1.1〜1.9である印刷用インキおよび基材に上記印刷用インキによって印刷された印刷物。