(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重量平均分子量50500以上53000以下のポリフェニレンサルファイド樹脂からなり、剛直非晶量が50%以上で、かつ(111)結晶面方向の結晶子サイズが5nm以上であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド繊維。
ポリフェニレンサルファイド繊維の引張強度が5.0cN/dtex以上であり、かつ180℃の温度で24週間熱処理後のタフネス低下率が30%以下である請求項1記載のポリフェニレンサルファイド繊維。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略すことがある。)樹脂は、優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性および耐湿熱性などエンジニアリングプラスチクスとして好適な性質を有しており、射出成型や押出成型用を中心として各種の電気部品、電子部品、機械部品、自動車部品、フィルム、および繊維などに使用されている。
【0003】
例えば、廃ガス集塵用のバグフィルター等の各種産業用フィルターに用いられる濾布には、PPS素材が広く用いられている。このような濾布としては、PPS短繊維の紡績糸から作製された基布にPPS短繊維を積層し、これをニードルパンチングして一体化したものが挙げられる。このような濾布は、廃ガス中のダストを捕集し、ダストを含まない廃ガスを外へと排気するために使用されるが、目詰まりのない状態を長期間保持し続けることが重要であり、そのため、このような濾布性能の長寿命化が常に望まれている。
【0004】
一方で、濾布の目詰まりを抑制し濾布性能の長寿命化を図るためには、付着したダストを効率的に濾布から離脱させることが有効である。例えば、バグフィルターにおいて濾布が目詰まりすると、焼却設備からの廃ガスの排気が出来なくなるので、焼却設備を停止させて、濾布を交換しなければならない。すなわち、濾布が目詰まりする前にダストを効率的に払い落とすことができれば濾布の長寿命化を図ることができ、焼却設備の長期連続運転が可能となる。
【0005】
バグフィルターにおいて、濾布に付着したダストを効率的に離脱させる方法として、パルスジェット方式が採用されることが多い。パルスジェット方式とは、濾布の表面に付着したダストが蓄積しないうちに、濾布に高速の気流を定期的に吹きつけて濾布を振動させ、濾布の表面に付着したダストを払い落とす方式である。このようなパルスジェット方式により、ダストの払い落としは可能となるが、当然ながら、外力として加えられる高速の気流は濾布の機械強度を経時的に低下させやすい。定期的に外力が加えられた際に、濾布の機械強度や濾布の寸法安定性が不十分な場合、濾布が破断されバグフィルターとしての機能を果たせなくなるという課題がある。
【0006】
従来、PPS繊維の機械的強度や寸法安定性を向上させるために、種々の提案がなされている。例えば、PPSを溶融紡糸した後、得られた未延伸糸をPPSの融点以下で2〜7倍に延伸し、次いで、PPSの融点以上の温度で処理することにより、引張強度、結節強度および引掛強度を高め、耐屈曲摩耗特性および耐屈曲疲労特性を高める技術が提案されている(特許文献1参照。)。また、PPS繊維の不織布において、特定の捲縮が付与されたPPS繊維を用いることにより、寸法安定性に優れた不織布とする技術が提案されている(特許文献2参照。)。
【0007】
一方、焼却設備の廃ガスは高温であって、排ガス中にはPPSを化学的に劣化させるガスも含まれている。すなわち、バグフィルターに用いられる濾布は、過酷な条件下で使用されており、長期間使用すると、高温下での化学的な劣化により濾布の強度が低下してくることが指摘されている。また、引張強度に優れたポリフェニレンサルファイド繊維は、高温下での化学的な劣化による引張強度の低下が抑制されることが開示されている(特許文献3参照。)。
また、この特許文献の実施例では、東レ(株)製粉粒体E2280使用時のみ記載しているが、この粉粒体では化学的な劣化による引張強度の経時的低下を抑制するには、なお不十分である。つまりは、バグフィルターとして使用される濾布は、機械強度や濾布の寸法安定性が重要であり、更に高温下での化学的な劣化に対しては、引張強度の経時的低下を抑制することが重要と考えられていた。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明ポリフェニレンサルファイド繊維は、重量平均分子量50000以上80000以下のポリフェニレンサルファイド樹脂からなり、剛直非晶量が50%以上で、かつ(111)結晶面方向の結晶子サイズが5nm以上のポリフェニレンサルファイド繊維である。
【0017】
本発明で用いられるPPSは、繰り返し単位として、下記の構造式(I)で示されるp−フェニレンサルファイド単位や、m−フェニレンサルファイド単位などのフェニレンサルファイド単位を含有するポリマーを意味する。
【0019】
PPSは、ホモポリマーまたはp−フェニレンサルファイド単位とm−フェニレンサルファイド単位の両者を有する共重合体であってもよく、また、本発明の効果を損なわない限り、他の芳香族サルファイドとの共重合体あるいは混合物であっても構わない。
【0020】
本発明で用いられるPPS樹脂としては、耐熱性や耐久性の観点からは、上記の構造式(I)で示される繰り返し単位からなるp−フェニレンサルファイド単位を好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上含むPPS樹脂が好ましく用いられる。この場合、PPS樹脂中のその他の共重合成分が、m−フェニレンサルファイド単位や他の芳香族サルファイド単位であることが好ましい。
【0021】
PPS樹脂の市販品としては、東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)や、ポリプラスチックス(株)製“フォートロン”(登録商標)などが挙げられる。
【0022】
本発明のPPS繊維を形成するPPS樹脂の重量平均分子量は、50000以上80000以下とすることが重要であり、重量平均分子量は好ましくは50500以上であり、さらに好ましくは51000以上である。また、好ましくは70000以下であり、600000以下である。
【0023】
重量平均分子量が50000未満のPPS樹脂を用いた場合、後述するように、好ましい剛直非晶量や(111)結晶子サイズとすることが困難となり、長期熱処理時の耐熱性に劣る繊維となる。一方、重量平均分子量が80000を超えるPPS樹脂を用いると、溶融時の粘度が高すぎて、糸切れなど紡糸不良が発生し良質な繊維を得ることが困難となる。
【0024】
繊維の強度を発現するためには、繊維の結晶量を増加させることが効果的である。結晶量の確認には、一般的にDSCのみを用いて融解熱量から算出する方法が挙げられる。しかしながら、PPS繊維を延伸する際に未延伸部分を残さずに延伸して得られた繊維は、強度に明確な差が確認できる場合であっても、DSCの融解熱量に明確な差はみられないことが多い。そこで本発明者らは、結晶化度に代わるものとして、剛直非晶量が、繊維の強度の発現に寄与していることを見出した。
【0025】
剛直非晶とは、高分子の結晶と完全非晶との中間の状態を表し、繊維では、結晶部と同様に強度を発現する要因の一つであり、強度や耐久性等に明確な関係性がみられることがわかった。剛直非晶量を増加させることにより、従来原綿との対比において、耐久性および耐熱性に優れた繊維を得ることが可能であることを見出した。
【0026】
また、本発明のPPS繊維は、剛直非晶量が50%以上であることが重要であり、剛直非晶量は好ましくは55%以上である。剛直非晶量が50%未満では、後述するように、タフネスの維持性能を得ることが困難となる。一方、PPS繊維における内部構造として達成しうる剛直非晶量の上限値は、65%付近であると考えられる。
【0027】
また、本発明において、(111)結晶子サイズは、広角X線回折法によって求められ、剛直非晶量と同様に繊維の強度と密接に関係していることを見出した。
【0028】
本発明のPPS繊維において、(111)結晶面方向の結晶子サイズは、5nm以上とすることが重要であり、好ましくは5.2nm以上であり、さらに好ましくは5.4nm以上である。(111)結晶面方向の結晶子サイズが5nm未満では、後述するようなタフネスの維持性能を得ることが困難となる。一方、PPS繊維における内部構造として達成しうる(111)結晶面方向の結晶子サイズの上限値としては、8nm以下であることが好ましい。結晶子サイズを好ましくは8nm以下、より好ましくは7nm以下とすることにより、極端に粘度の高い樹脂を必要とせず、糸切れなどの紡糸性不良の発生を抑えることができ、良質な繊維を得ることができる。
【0029】
本発明のPPS繊維を得るためには、剛直非晶量が50%以上であることと、(111)結晶面方向の結晶子サイズが5nm以上であることを同時に満たす必要がある。剛直非晶量が50%以上であっても(111)結晶子サイズが5nmを満たない場合、若しくは(111)結晶子サイズが5nmを満たしても剛直非晶量が50%未満である場合は、タフネスの維持性能が低く、耐久性が劣るため本発明の目的となる繊維を得ることができない。
【0030】
本発明のPPS繊維の引張強度は、5.0cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは5.2cN/dtexであり、さらに好ましくは5.3cN/dtex以上である。引張強度が5.0cN/dtex未満では、本発明の長期高温下の使用に耐えることができるPPS繊維を得ることができないことがある。
【0031】
また、180℃の温度で24週間熱処理後のタフネス低下率は30%以下であることが好ましく、より好ましくは28%以下であり、さらに好ましくは25%である。30%を上回る低下率のPPS繊維では、本発明の長期高温下の使用に耐えることができるPPS繊維とはいえないことがある。なお、特許文献3では、長期間使用時の化学的な劣化による引張強度の指標として、200℃の温度での2000時間処理が採用されているが、実際にバグフィルターが使用される温度領域は160〜180℃であり、バグフィルターの使用時間も数年にもわたる。そのため、本発明における180℃の温度で24週間(約4000時間)熱処理後のタフネス低下率は、本来の化学的な劣化による引張強度の評価指標となり得るものである
本発明者等は、後述するように、従来では手に入らなかった、剛直非晶量が50%以上で(111)結晶子サイズが5nm以上のPPS繊維を得ることができた。そして、特定の剛直非晶量および特定の(111)結晶子サイズのPPS繊維を用いることによって、180℃の温度で24週間熱処理後のタフネス低下率を好適にすることができることを見出した。すなわち、本発明者等は、剛直非晶量が50%未満あるいは(111)結晶子サイズが5nm未満のPPS樹脂を用いても、180℃の温度で24週間熱処理後のタフネス低下率を30%以下のPPS繊維を得ることはできないが、驚くべきことに、剛直非晶量が50%以上で(111)結晶子サイズが5nm以上のPPS樹脂からなる繊維を用いれば、180℃の温度で24週間熱処理後のタフネス低下率を30%以下のPPS繊維を得ることができることを、見出したものである。
【0032】
次に、本発明のPPS繊維を製造する方法の例について説明する。
【0033】
上記のような重量平均分子量50000以上80000以下のPPS樹脂を溶融し、紡糸口金から紡出し、好ましくは500m/分以上の紡糸速度、より好ましくは600m/分以上の紡糸速度で未延伸糸を採取する。引取速度を500m/分以上とすることにより、配向がある程度進み、前述のような剛直非晶量や(111)結晶子サイズを得やすくなる。紡糸速度の上限としては、5000m/分程度が好ましく、より好ましくは4000m/分以下である。
【0034】
次いで、得られた未延伸糸を熱延伸する。熱延伸は、通常、温度が90〜98℃の温水中で行われ、好ましくは2〜4倍、より好ましくは3〜4倍の延伸倍率が採用される。温水以外の延伸時の加温方法としては、乾熱やスチームなどが挙げられる。
【0035】
熱延伸後、定長熱処理を行うことにより、更に繊維の結晶化が進み、また剛直非晶量も増加する。従来の定長熱処理は、糸条の長さを実質的に一定に保って熱処理を施すことを言い、通常、周速度が実質的に等しい複数のローラー間で一定長とし、当該ローラーの少なくとも一部を加熱ローラーとし、または別途加熱手段を設けることで加熱処理を施すものである。本発明の定長熱処理は、必ずしも従来の定長熱処理のように糸条の長さを実質的に一定に保つ必要がなく、0.90〜1.10倍で構わない。好ましくは0.95〜1.05倍であり、さらに好ましくは0.99〜1.01倍である。また、複数のローラー間全てにおいて0.9〜1.1倍でなくてもよく、0.9倍未満や1.1倍を超えるローラー間が存在しても構わない。
【0036】
本発明者等は、特定の重量平均分子量のPPS樹脂からなる繊維に、定長熱処理を施すことによって、剛直非晶量や(111)結晶子サイズを好適にすることができることを見出した。すなわち、本発明者らは、重量平均分子量50000未満のPPS樹脂からなる繊維に定長熱処理を施しても、剛直非晶量が50%以上で(111)結晶子サイズが5nm以上のPPS繊維は得られないが、驚くべきことに、重量平均分子量が50000以上のPPS樹脂からなる繊維に定長熱処理を施せば、剛直非晶量が50%以上で(111)結晶子サイズが5nm以上のPPS繊維が得られることを見出した。 定長熱処理温度は、190℃以上270℃以下であることが好ましい。定長熱処理温度を好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは220℃以上とすることにより、重量平均分子量50000以上のPPS樹脂からなる繊維に、前述のような剛直非晶量や(111)結晶子サイズを好適に付与することができる。一方、定長熱処理温度を好ましくは270℃以下、より好ましくは240℃以下とすることにより、繊維間の疑似接着を好適に抑えることができる。
【0037】
また、定長熱処理時間は、5秒間以上であることが好ましい。定長熱処理時間を5秒間以上とすることにより、繊維の結晶化が促進される。定長熱処理時間が5秒未満では、十分な剛直非晶量や(111)結晶子サイズを得ることができないことがある。一方、定長熱処理時間が長すぎても、繊維の結晶性の程度は飽和するので、定長熱処理時間の上限値としては12秒間程度が好ましい。 次いで、定長熱処理後に弛緩された糸条を、スタッフィングボックス型クリンパーなどを用いて捲縮付与する。またその際に、スチーム等により捲縮を熱固定しても良い。既に定長熱処理により結晶化しているPPS繊維の糸条に捲縮状態を固定するには、捲縮付与時の温度として、定長熱処理温度以上の温度を採用することが重要であるが、スチーム温度が高すぎると、繊維同士の融着が発生することがある。
【0038】
その後、必要に応じて油剤を、原綿量に対し好ましくは0.01〜3.0質量%付与し、弛緩熱処理を好ましくは50〜150℃の温度で5〜60分間行う。そして、所定の長さに切断してPPS短繊維を得る。これらの工程の順序は、必要に応じて入れ替えてもよい。
【0039】
このようして得られるPPS短繊維は、通常、単繊維繊度が0.01〜20dtex程度であり、引張強度が5.0cN/dtex以上、好ましくは5.3cN/dtex以上、引張伸度が10〜100%、好ましくは20〜60%であり、バグフィルター用の濾布として好適に用いられる。
【0040】
バグフィルター用の濾布としては、通常、不織布の形態が採用される。不織布は、湿式、ニードルパンチおよびウォーター・ジェットパンチなどの不織布製造法によって得ることができる。不織布の製法に応じて、用いられるPPS短繊維の単繊維繊度や繊維長を決定する。例えば、湿式法では、0.01〜1dtexのような細繊度で、0.5〜15mm程度の繊維長の短繊維が求められ、ニードルパンチ法では、繊度2〜15dtex、繊維長38〜76mmの短繊維が求められることが多い。本発明のPPS短繊維は、不織布以外にも、一旦紡績糸となし、その紡績糸を用いて織物や編物などの布帛となすこともできる。
【実施例】
【0041】
[測定方法]
(1)引張強度と引張伸度
引張り試験機(オリエンテック社製“テンシロン”)を用いて、JIS L1015(2010)記載の方法により、試料長2cm、引張り速度2cm/分の条件で応力−歪み曲線を求め、これらから切断時の引張強度と引張伸度を求めた。
【0042】
(2)タフネス
上記(1)で得られた引張強度(cN/dtex)と引張伸度(%)を用い、次式によりタフネスを求めた。
・タフネス=引張強度×(引張伸度)
1/2
(3)タフネス低下率
測定対象のPPS繊維について、長期熱処理前のタフネスaと、長期熱処理後のタフネスbとを上記(1)と(2)により測定した。長期熱処理は、熱風乾燥機で180℃の温度で24週間施した。長期熱処理前後のタフネスaとbから、次式によりタフネス低下率を算出した。
・タフネス低下率(%)=((a−b)/a)×100
a:長期熱処理前のタフネス
b:180℃の温度で24週間処理した後のタフネス。
【0043】
(4)重量平均分子量の測定方法
PPSの重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を、次に示す。
・装置:センシュー科学社製 SSC−7100
・カラム名:センシュー科学社製 GPC3506
・溶離液:1−クロロナフタレン
・検出器:示差屈折率検出器
・カラム温度:210℃
・プレ恒温槽温度:250℃
・ポンプ恒温槽温度:50℃
・検出器温度:210℃
・流量:1.0mL/min
・試料注入量:300μL(スラリー状:約0.2重量%)。
【0044】
(5)剛直非晶量
TA Instruments社製示差走査熱量測定(DSC)Q1000を用い、以下の条件にて測定し、融解熱量(ΔHm)と冷結晶化熱量(ΔHc)を求めた。ΔHmおよびΔHcは、測定により得られたチャートのピークの最大値とした。同一機器の温度変調DSCを以下の条件にて測定し、得られたチャートのガラス転移温度(Tg)前後のベースラインに補助線を引き、その差を比熱差(ΔCp)とし、次式(1)により、融解熱量(ΔHm)と冷結晶化熱量(ΔHc)の差を完全結晶PPSの融解熱量(ΔHm
0)で割り、結晶化度(Xc)を求めた。また、次式(2)により、Tg前後での比熱差(ΔCp)を完全非晶PPSのTg前後での比熱差で割り可動非晶量(Xma)を求めた。さらに、次式(3)により、全体からの結晶化度(Xc)と可動非晶量(Xma)の差から剛直非晶量(Xra)を算出した。
<DSC>
・雰囲気:窒素流(50mL/分)
・温度・熱量校正:高純度インジウム
・比熱校正:サファイア
・温度範囲:0〜350℃
・昇温速度:10℃/分
・試料量:5mg
・試料容器:アルミニウム製標準容器
<温度変調DSC>
・雰囲気:窒素流(50mL/分)
・温度・熱量校正:高純度インジウム
・比熱校正:サファイア
・温度範囲:0〜250℃
・昇温速度:2℃/分
・試料量:5mg
・試料容器:アルミニウム製標準容器
・Xc(%)=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm
0×100 (1)
・Xma(%)=ΔCp/ΔCp
0×100 (2)
・Xra(%)=100−(Xc+Xma) (3)
ここで、
ΔHm
0:完全結晶PPSの融解熱量(146.2J/g)
ΔCp
0:完全非晶PPSのTg前後での比熱差(0.2699J/g℃)。
【0045】
(6)(111)結晶面方向の結晶子サイズ
長さ4cmに切断したPPS繊維の試料を20mg秤量し、試料の繊維軸を揃えて束ね、広角X線回析法(透過法)で測定した。測定条件を、次に示す。
・X線発生装置:理学電機社製4036A2型
X線源:CuKα線(Niフィルター使用)
出力:40kV−20mA
・ゴニオメーター:理学電機社製2155D型
スリット:2mmφ幅1°高さ1°
検出器:シンチレーションカウンター
・アタッチメント:理学電機社製 繊維試料台
・計数記録装置:理学電機社製RAD−C型
・スキャン方式:2θ−θステップスキャン
測定範囲(2θ):5〜60°
測定ステップ(2θ):0.05°
計数時間:2秒
・スキャン方式:βステップスキャン
回析ピーク:2θ=20°付近
測定範囲(2θ):90〜270°
測定ステップ(2θ):0.5°
計数時間:2秒。
【0046】
広角X線回析の測定結果から、次の式を用いて結晶子サイズを算出した。
・結晶子サイズ(nm)=λ/βcosθ
ここに、λ、β、βeおよびβoは、次のとおりである。
λ=0.15418nm
β=(βe
2−βo
2)
1/2
βe:回析ピークの半値幅
βo:半値幅の補正値(0.6°)。
【0047】
[実施例1]
東レ(株)製PPS粉粒体E2180(重量平均分子量:51500)を、2軸方式のベント付きエクストルーダー((株)日本製鋼所製TEX30型)で、真空度 1.3kPa、シリンダー温度290℃に設定し、160rpmのスクリュー回転にて溶融し、円形の孔(孔面積:15.9mm
2)から押出して、ストランドカッターにより長さ3mmに切断することによりペレットを得た。得られたペレットについて、160℃の温度で5時間真空乾燥行った。
【0048】
上記のようにして得られたペレットを、エクストルーダー型紡糸機に供給して、紡糸温度320℃、吐出量400g/分で溶融紡糸し、引取速度800m/分で引き取って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を、温度95℃の温水中で延伸倍率を3.4倍として延伸を行ない、定長熱処理温度240℃で9秒間処理を行った後、スタッフィングボックス型クリンパーで捲縮を付与し、乾燥を行い、油剤を付与後、切断してPPS短繊維を得た。
【0049】
[実施例2]
定長熱処理温度を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてPPS短繊維を得た。
【0050】
[実施例3]
定長熱処理時間を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてPPS繊維を得た。
【0051】
[実施例4]
樹脂重量平均分子量および熱延伸倍率、定長熱処理時間を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてPPS繊維を得た。
【0052】
[実施例5]
樹脂重量平均分子量を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてPPS繊維を得た。
【0053】
[比較例1]
樹脂重量平均分子量を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてPPS繊維を得た。
【0054】
[比較例2]
定長熱処理温度を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてPPS繊維を得た。
【0055】
[比較例3]
樹脂重量平均分子量および定長熱処理温度と時間を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてPPS繊維を得た。
【0056】
[比較例4]
樹脂重量平均分子量および延伸倍率を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてPPS繊維を得た。
【0057】
[比較例5]
樹脂重量平均分子量および定長熱処理時間を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にしてPPS繊維を得た。
【0058】
上記のようにして得られた各PPS繊維について、前記の[測定方法]で測定した結果を、次の表1に示す。
【0059】
【表1】