(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記少なくとも1つのガラスクラッド層が、前記相分離可能な組成物の前記第一相から形成される多孔質の相互接続されたマトリックスを含むように、前記少なくとも1つの第二相を、該少なくとも1つのガラスクラッド層から選択的に除去するステップをさらに含む、請求項7または8記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
相分離したガラスクラッド層を有する積層化ガラス物品およびその製造方法の実施形態について詳細に説明する。
図1は、積層化ガラス物品の一実施形態の断面を概略的に表している。当該積層化ガラス物品は、概して、ガラスコア層と、当該ガラスコア層に融着した少なくとも1つのガラスクラッド層とを含む。当該少なくとも1つのガラスクラッド層は、第一相と、少なくとも1つの第二相とに相分離している。各相は、異なる組成を有する。第一相は、ガラスクラッド層において、相互接続されたマトリックスを形成する。第二相は、第一相における相互接続されたマトリックス全体に分散している。いくつかの実施形態において、第二相は、第一相による相互接続されたマトリックス内において、それ自体相互接続される。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、第二相は、少なくとも1つのガラスクラッド層が第一相から形成された多孔質の相互接続されたマトリックスを含むように、当該少なくとも1つのガラスクラッド層から除去され得る。添付の図面について具体的に言及しながら、積層化ガラス物品および積層化ガラス物品の製造方法の様々な実施形態について本明細書においてより詳細に説明する。
【0013】
用語「液相粘度」は、本明細書において使用される場合、その液相温度でのガラス組成物の剪断粘度を意味する。
【0014】
用語「液相温度」は、本明細書において使用される場合、ガラス組成物において失透が生じる最も高い温度を意味する。
【0015】
用語「CTE」は、本明細書において使用される場合、約20℃から約300℃の範囲の温度にわたって平均したガラス組成物の熱膨張率を意味する。
【0016】
用語「実質的に不含」は、ガラス組成物中の特定の酸化物成分の不在を説明するために使用される場合、当該成分が、1mol%未満の痕跡量において不純物としてガラス組成物中に存在することを意味する。
【0017】
本明細書において説明されるガラス組成物の実施形態において、構成成分(例えば、SiO
2、Al
2O
3など)の濃度は、特に明記されない限り、酸化物ベースでのモルパーセント(mol%)において与えられる。
【0018】
ここで、
図1を参照すると、積層化ガラス物品の断面が概略的に表されている。積層化ガラス物品100は、概して、ガラスコア層102と、少なくとも1つのガラスクラッド層とを含む。
図1に表された実施形態において、積層化ガラス物品は、ガラスクラッド層の対104a、104bを含む。ガラスコア層102は、概して、第一表面103aと、第一表面103aに対向する第二表面103bとを備える。
図1に表された実施形態において、第一ガラスクラッド層104aは、ガラスコア層102の第一表面103aに融着しており、ならびに第二ガラスクラッド層104bは、ガラスコア層102の第二表面103bに融着している。ガラスクラッド層104a、104bは、ガラスコア層102とガラスクラッド層104a、104bとの間に配置された任意の追加の材料、例えば、接着剤またはコーティング層など、を用いずに、ガラスコア層102に融着している。
【0019】
本明細書において説明される積層化ガラス物品の実施形態において、ガラスクラッド層104a、104bは、第一ガラス相と少なくとも1つの第二ガラス相とに相分離しており、それぞれのガラス相は、異なる組成を有する。したがって、ガラスクラッド層104a、104bは、相分離処理を施した際に相分離しやすいガラス組成物から形成される(すなわち、当該ガラス組成物は、「相分離可能な」ガラス組成物である)ことは理解されるべきである。語句「相分離可能な」ガラス組成物は、本明細書において使用される場合、熱処理などの相分離処理を施すことにより、2つ以上の異なる相へと相分離するガラス組成物を意味する。いくつかの実施形態において、相分離したガラスクラッド層104a、104bは、第一相から形成された、相互接続されたガラスのマトリックスを含み、第二相は、第二相の組成を有するガラスによる離散した接続していない領域として、当該相互接続されたマトリックス全体に分散している。第二相はある特定の量の光散乱を誘起し得るため、ガラスクラッド層における所望の屈折率を得るように第二相の領域のサイズおよび分散性を制御することができる。それに加えてあるいはそれに代えて、当該第二相は、第一相とは異なる弾性率および損失正接を有し得る。これらの特性の違いは、積層化ガラス物品の音響特性を制御するために利用することができる。具体的には、所望の音響特性を有する積層化ガラス物品を得るために、第二相の量、分散性、および領域のサイズが制御され得る。
【0020】
いくつかの他の実施形態において、ガラスクラッド層104a、104bにおける相分離したガラスは、スピノーダル相分離したガラスであり得る(すなわち、当該ガラスクラッド層は、スピノーダル分解を受けやすいガラス組成物から形成される)。これらの実施形態において、ガラスクラッド層104a、104bは、第一相から形成された相互接続したガラスのマトリックスと、当該第一相による相互接続したマトリックス全体に分散された第二相とを含む。ただし、これらの実施形態において、第二相は、第一相による相互接続されたマトリックス内において、それ自体相互接続されている。これらの実施形態において、第一相および少なくとも1つの第二相は、水、アルカリ溶液、および/または酸性溶液に対して異なる溶解率を有し得る。例えば、相分離したガラスクラッド層104a、104b中に存在する少なくとも1つの第二相は、第一相よりもより容易に水および/または酸性溶液に溶解し得る。あるいは、相分離したガラスクラッド層104a、104b中に存在する第一相は、当該少なくとも1つの第二相よりもより容易に水および/または酸性溶液に溶解し得る。この特徴は、ガラスクラッド層104a、104bが、相分離したガラス組成物による残された相から形成された多孔質の相互接続されたマトリックスとなるように、ガラスクラッド層104a、104bから第一相または第二相のいずれかを選択的に除去することを可能にする。
【0021】
いくつかの実施形態において、ガラスクラッド層における相分離したガラスは、相分離に起因して、オパレッセンスもしくはオパールタイプの外観を有し得る。オパレッセンスは、ガラスに白色オパールもしくは青色半透明のオパールのような外観を与え得るが、その他に、着色剤の添加により、他の色も想到されることは理解されるべきである。オパレッセンスは、積層化ガラス物品が物体の美観を高めるために使用されるような用途にとって望ましくあり得る。
【0022】
ガラスクラッド層104a、104bは、ガラス組成物が、第一相と、異なる組成を有する少なくとも1つの第二相とへの相分離に対して従順である限り、様々なガラス組成物から形成することができる。一実施形態において、ガラスクラッド層は、2012年2月29日に出願された「Low CTE Alkali−Free Boroaluminosilcate Glass Compositions and Glass Articles Comprising the Same()」の名称の米国特許仮出願第61/604839号において開示されたガラス組成物から形成され、なお、当該仮出願の全体は、参照により本明細書に組み入れられる。この実施形態において、当該ガラス組成物は、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、およびアルカリ土類酸化物の組み合わせを含む。このガラスがスピノーダル温度未満の加熱温度において容易に相分離することを見出した。容易に相分離するガラス組成物中に一般的に存在するアルカリ成分が当該ガラス組成物中に不在であることから、この結果は予想外である。
【0023】
前述の例示的ガラス組成物において、SiO
2は、最大の構成成分であり、そのため、SiO
2は、当該ガラス組成物から形成されたガラスネットワークの主成分である。純粋なSiO
2は、比較的低いCTEを有し、アルカリ不含である。しかしながら、純粋なSiO
2は、非常に高い融点を有する。したがって、SiO
2の濃度が高いほど、ガラスを溶融させるのが困難になり、それは、ガラスの成形性に悪影響を及ぼすため、ガラス組成物中におけるSiO
2の濃度が高すぎる場合、ガラス組成物の成形性が低下し得る。この実施形態において、ガラス組成物のフュージョン成形を促進するために、当該ガラス組成物は、概して、約66mol%以下の濃度においてSiO
2を含む。例えば、いくつかの実施形態において、ガラス組成物中のSiO
2の濃度は、約60mol%以上かつ約66mol%以下である。いくつかの他の実施形態において、SiO
2は、約63mol%以上かつ約65mol%以下の濃度においてガラス組成物中に存在する。
【0024】
この実施形態のガラス組成物はさらに、Al
2O
3を含む。Al
2O
3は、SiO
2と同様に、ガラスネットワーク形成体としての役割を果たす。SiO
2のように、Al
2O
3は、当該ガラス組成物から形成されたガラス溶融物中でのその四面体配位に起因して、ガラス組成物の粘度を増加させる。しかしながら、Al
2O
3の濃度が、ガラス組成物中のSiO
2の濃度およびアルカリ土類酸化物の濃度とバランスを取る場合、Al
2O
3は、ガラス溶融物の液相温度を低下させ得、それにより、液相粘度を増加させ、ある特定の成形プロセス、例えば、フュージョン成形プロセスなど、に対するガラス組成物の適合性を向上させる。
【0025】
フュージョン成形技術を使用した積層化ガラス物品の形成を促進する所望の液相温度を達成するために、ガラス組成物中のAl
2O
3の濃度は、通常、約10mol%以下とされる。例えば、いくつかの実施形態において、ガラス組成物中のAl
2O
3の濃度は、約7mol%以上かつ約10mol%以下である。これらの実施形態のいくつかにおいて、ガラス組成物中のAl
2O
3の濃度は、約9mol%以下、さらには約8mol%以下であり得る。例えば、いくつかの実施形態において、ガラス組成物中のAl
2O
3の濃度は、約7mol%以上かつ約9mol%以下であり、さらには約7mol%以上かつ約8mol%以下であってもよい。
【0026】
この実施形態のガラス組成物はさらに、B
2O
3を含み得る。SiO
2およびAl
2O
3のように、B
2O
3は、ガラスネットワークの形成に貢献する。B
2O
3は、ガラスの粘度および液相温度を下げるためにガラス組成物に加えられる。具体的には、B
2O
3の濃度の1mol%の増加は、ガラスの特定の組成に応じて、等価粘度を得るために必要な温度を10℃から14℃下げることができる。しかしながら、B
2O
3は、ガラス組成物の液相温度を、B
2O
31mol%あたり18℃から22℃下げ得る。そのため、B
2O
3は、ガラス組成物の液相粘度を下げるよりもより急速にガラス組成物の液相温度を下げる。B
2O
3はさらに、ガラスネットワークを軟化させるためにもガラス組成物に加えられる。さらに、当該ガラス組成物が、フュージョン成形された積層化ガラス物品においてガラスクラッド層のために使用される場合、当該ガラスクラッド層中のB
2O
3は、特に、ガラスコア層がアルカリ含有ガラスコア層である場合にガラスクラッド層の粘度をガラスコア層の粘度に適合させるために用いられる。さらに、ガラス組成物にB
2O
3を添加することで、ガラス組成物のヤング率も低下し、ガラスの固有損傷抵抗性も向上する。さらに、ガラス組成物にB
2O
3を配合することにより、シリカリッチ相およびホウ素リッチ相へのガラス組成物の相分離も促進する。これらの実施形態において、シリカリッチ相は、ホウ素リッチ相よりも水および/または酸性溶液に対して溶解しにくくあり得、このことは、ホウ素リッチ相の選択的除去およびガラスクラッド層における多孔質のミクロ構造の形成を容易にする。
【0027】
この実施形態において、B
2O
3は、通常、約14mol%以上の濃度においてガラス組成物中に存在する。例えば、いくつかの実施形態において、B
2O
3は、約14mol%以上かつ約18mol%以下の濃度においてガラス組成物中に存在する。これらの実施形態のいくつかにおいて、ガラス組成物中のB
2O
3の濃度は、約17mol%以下、さらには約16mol%以下であり得る。本明細書において説明される他の実施形態において、B
2O
3は、約16mol%以上かつ約17mol%以下の濃度においてガラス組成物中に存在する。
【0028】
ガラスクラッド層のために使用されるガラス組成物のこの実施形態はさらに、少なくとも1種のアルカリ土類酸化物も含み得る。当該アルカリ土類酸化物は、概して、溶融に必要な温度を下げることによって、ガラス組成物の溶融挙動を向上させる。さらに、いくつかの異なるアルカリ土類酸化物を組み合わせることで、ガラス組成物の液相温度の低下およびガラス組成物の液相粘度の増加が促進される。ガラス組成物中に含まれるアルカリ土類酸化物は、CaO、MgO、SrO、および/またはそれらの組み合わせである。
【0029】
当該アルカリ土類酸化物は、約9mol%以上かつ16mol%以下の濃度においてガラス組成物中に存在する。いくつかの実施形態において、当該ガラス組成物は、約11mol%から約12mol%のアルカリ土類酸化物を含み得る。当該ガラス組成物は、約3mol%以上かつ約12mol%以下の濃度において、アルカリ土類酸化物として少なくともCaOを含む。いくつかの実施形態において、CaOの濃度は、約7mol%以上かつ約12mol%以下であり得る。当該アルカリ土類酸化物はさらに、約0mol%以上かつ約6mol%以下の濃度においてMgOを含み得る。いくつかの実施形態において、当該ガラス組成物中のMgOの濃度は、約2mol%以上かつ約4mol%以下であり得る。当該ガラス組成物中のアルカリ土類酸化物はさらに、約0mol%以上かつ約6mol%以下の濃度においてSrOも含み得る。いくつかの実施形態において、SrOは、約1mol%から約4mol%の濃度においてガラス組成物中に存在し得る。
【0030】
積層化ガラス物品のガラスクラッド層を形成するために使用されるこの特定のガラス組成物は、アルカリ金属およびアルカリ金属を含有する化合物を実質的に不含であり得る。したがって、当該ガラス組成物が、K
2O、Na
2O、およびLi
2Oなどのアルカリ酸化物を実質的に不含であることは、理解されるべきである。
【0031】
この例示的なガラス組成物は、任意により、1種または複数種の清澄剤を含んでいてもよい。当該清澄剤は、例えば、SnO
2、As
2O
3、Sb
2O
3、およびそれらの組み合わせを含み得る。当該清澄剤は、約0mol%以上かつ約0.5mol%以下の量においてガラス組成物中に存在し得る。例示的実施形態において、当該清澄剤はSnO
2である。これらの実施形態において、SnO
2は、約0mol%以上かつ約0.2mol%以下、さらには約0.15mol%以下、の濃度においてガラス組成物中に存在し得る。
【0032】
したがって、少なくとも1つの実施形態において、ガラスクラッド層104a、104bは、ガラスネットワーク形成体として、約60mol%から約66mol%のSiO
2;約7mol%から約10mol%のAl
2O
3;および約14mol%から約18mol%のB
2O
3、を含むガラス組成物から形成され得る。ガラスクラッド層を形成するガラス組成物はさらに、約9mol%から約16mol%のアルカリ土類酸化物を含んでいてもよい。当該アルカリ土類酸化物は、少なくともCaOを含む。当該CaOは、約3mol%から約12mol%の濃度においてガラス組成物中に存在することができる。当該ガラス組成物は、アルカリ金属およびアルカリ金属含有化合物を実質的に不含であってもよい。
【0033】
本明細書において、ガラスクラッド層104a、104bを形成するために使用される特定の相分離可能なガラス組成物について言及してきたが、ガラス組成物が相分離可能である限り、他のガラス組成物も、積層化ガラス物品100のガラスクラッド層104a、104bを形成するために使用することができることは理解されるべきである。
【0034】
いくつかの実施形態において、ガラスクラッド層104a、104bを形成するガラス組成物は、任意により、着色剤を含んでいてもよい。当該着色剤は、ガラスクラッド層に色を付与するためにガラス組成物に加えられる。好適な着色剤としては、これらに限定されるわけではないが、Fe
2O
3、Cr
2O
3、Co
3O
4、CuO、Au、Ag、NiO、MnO
2、およびV
2O
5が挙げられ、これらのそれぞれは、ガラスクラッド層に対して、固有の色を付与し得る。いくつかの実施形態において、所望の色を達成するために、2種以上の着色剤の組み合わせを使用してもよい。
【0035】
本明細書において説明されるいくつかの実施形態において、ガラスクラッド層104a、104bを形成するために使用されるガラス組成物は、フュージョンドロープロセスでの使用にとって、特に融着積層化プロセスにおけるガラスクラッド組成物としての使用にとって、好適となるような液相粘度を有する。例えば、いくつかの実施形態において、当該液相粘度は、約50キロポアズ(約5kPa・s)以上である。いくつかの他の実施形態において、当該液相粘度は、100キロポアズ(約10kPa・s)以上、さらには250キロポアズ(約25kPa・s)以上であり得る。
【0036】
本明細書において説明される積層化ガラス物品100は、積層化することにより、結果として、向上した強度を有することができる。例えば、いくつかの実施形態において、ガラスクラッド層104a、104bは、ガラスコア層102より低い平均熱膨張率(CTE)を有するガラス組成物から形成される。例えば、比較的低い平均CTEを有するガラス組成物から形成されたガラスクラッド層が、積層化プロセスの際に、より高い平均CTEを有するガラス組成物から形成されるガラスコア層と対にされた場合、ガラスコア層のCTEとガラスクラッド層のCTEとの差により、結果として、冷却の際にガラスクラッド層に圧縮応力が生じる。本明細書において説明されるいくつかの実施形態において、ガラスクラッド層は、20℃から300℃の範囲にわたって平均したときに約40×10
−7℃以下の平均CTEを有するガラス組成物から形成される。いくつかの実施形態において、当該ガラス組成物の平均CTEは、20℃から300℃の範囲にわたって平均したときに約37×10
−7℃以下であり得る。さらなる他の実施形態において、当該ガラス組成物の平均CTEは、20℃から300℃の範囲にわたって平均したときに約35×10
−7℃以下であり得る。
【0037】
上記において述べたように、いくつかの実施形態において、ガラスクラッド層104a、104bは、アルカリ金属およびアルカリ金属含有化合物(これらに限定されるわけではないが、アルカリ酸化物など)を実質的に不含のガラス組成物から形成される。アルカリ酸化物、例えば、K
2O、Na
2O、およびLi
2Oなど、を不含のガラス組成物からガラスクラッド層104a、104bを形成することは、積層化後にガラスクラッド層において実現される圧縮応力の大きさに影響を及ぼし得るガラスクラッド層のCTEを下げることの役に立ち得る。さらに、ある特定の用途、例えば、エレクトロニクス基材など、では、いわゆる「アルカリ汚染」によってエレクトロニクスデバイスの性能を低下させ得る、ガラスから当該ガラス上に被着されたエレクトロニクスデバイスへの高移動性のアルカリイオンの移行を防ぐために、積層化ガラス物品の表面がアルカリイオン不含であることを必要とする場合がある。
【0038】
しかしながら、いくつかの他の実施形態では、ガラスクラッド層104a、104bは、アルカリイオンを含有するガラス組成物から形成され得る。これらの実施形態において、アルカリイオンの存在は、イオン交換によるガラスの化学的強化を促進することができ、それにより、積層化ガラス物品の強度を向上させる。
【0039】
ここで、
図3を参照すると、相分離可能なガラス組成物からガラスクラッド層104a、104bを形成することにより、その後の、当該ガラスから少なくとも1つの相を除去することによるガラスクラッド層におけるミクロ構造の形成が容易になり得る。例えば、いくつかの実施形態において、ガラスクラッド層は、スピノーダル分解によって相分離するガラス組成物から形成することができる。これらの実施形態において、ガラスクラッド層は、第一相から形成された相互接続されたマトリックスを、第一相内部に分散された少なくとも1つの第2層と共に含む。これらの実施形態において、当該少なくとも1つの第二相は、第一相によって形成された相互接続されたマトリックス内において、それ自体が相互接続されている。当該相のうちの一方は、もう一方の相よりも、水、アルカリ溶液、および/または酸性溶液に溶解し難くあり得る。例えば、いくつかの実施形態において、第二相は、第一相よりもより溶解し易くあり得る。したがって、当該少なくとも1つの第二相は、水および/または酸性溶液に溶解させることによって、第一相によって形成された相互接続されたマトリックスから選択的に除去することができる。当該少なくとも1つの第二相がガラスから除去された後、ガラスクラッド層は、
図3に表されるように、第一相によって形成された多孔質の相互接続されたマトリックスを有する。
図3における明るい領域は、第一相によって形成された相互接続されたマトリックスを示しており、その一方で、暗い領域は、前に少なくとも1つの第二相によって占められていた空間に対応する、相互接続されたマトリックスの孔隙である。
【0040】
ガラスクラッド層104a、104bが、相分離したガラスの第一相によって形成された多孔質の相互接続されたマトリックスを有する実施形態において、当該多孔質の相互接続されたマトリックスは、積層化ガラス物品に対して所望の機能を付与する二次材料でコーティングすることができる。好適な材料としては、これらに限定されるわけではないが、無機材料、例えば、金属、合金、および/またはセラミックなど、または有機材料、例えば、ポリマーおよび生物学的活性材料が挙げられる。例えば、いくつかの実施形態において、当該多孔質の相互接続されたマトリックスは、触媒活性材料によってコーティングされ得るかまたは少なくとも部分的に満たされ得る。そのような材料は、これらに限定されるわけではないが、触媒活性な貴金属および合金、例えば、白金、パラジウム、およびロジウムなど、ゼオライト、金属酸化物などを含み得る。いくつかの他の実施形態において、当該多孔質の相互接続されたマトリックスは、生物学的に活性な材料によってコーティングされ得るかまたは少なくとも部分的に満たされ得る。そのような材料は、これらに限定されるわけではないが、生物学的に活性なガラス材料、例えば、ホウ酸塩ガラスおよびリン酸塩ガラスなど、を含み得る。他の好適な生物学的に活性なガラスとしては、これらに限定されるわけではないが、Bio−Glasses:An Introduction,Jones and Clare,eds.(John WileyおよびSons,2012)に一覧されるガラス材料が挙げられる。
【0041】
あるいは、当該多孔質の相互接続されたマトリックスは、積層化ガラス物品の1つまたは複数の物理特性を高めるために、二次材料によって部分的にもしくは完全に満たすことができる。いくつかの実施形態において、当該二次材料は、ガラスクラッド層の屈折率を変えるため、ガラスクラッド層の音響特性を変えるため、ガラスクラッド層の強度を向上させるため、ガラスクラッド層に特定の光学特性もしくは電子特性を付与するため、またはガラスクラッド層に表面改質を提供するために使用されるポリマー材料であり得る。例えば、いくつかの実施形態において、当該多孔質の相互接続されたマトリックスは、積層化ガラス物品の靱性を高めるために、ポリマー材料によって部分的もしくは完全に満たすことができる。ガラスは一般的に高い強度を有するが、靱性は低く、一方で、ポリマーは、低い強度と高い靱性とを有する。したがって、ガラスクラッド層の多孔質の相互接続された空隙をポリマー材料で部分的にもしくは完全に満たすことによって、積層化ガラス物品の靱性が向上し得る。当該多孔質の相互接続されたマトリックスを部分的にもしくは完全に満たすために使用されるポリマー材料は、反応性材料もしくは非反応性材料であり得る。反応性ポリマー材料は、ガラス表面と反応して化学的に結合したネットワークを形成する官能基を有する。これらの反応は、これらに限定されるわけではないが、熱、UV照射、電子ビームなどを含む様々な異なる方法において開始することができる。非反応性ポリマー材料は、ガラスとポリマーとの間にいかなる化学反応も生じることなく、ガラスの多孔質表面を受動的に満たす。好適なポリマー材料としては、これらに限定されるわけではないが、ポリエポキシ、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリシロキサン、ポリビニル、ポリ無水物、ポリ尿素、ポリカーボネート、ポリスルフィド、およびポリスルホンが挙げられる。
【0042】
他の実施形態において、当該多孔質の相互接続されたマトリックスは、材料の熱膨張率を変える二次材料で満たしてもよい。例えば、ガラスクラッド層の多孔質の相互接続されたマトリックスは、第一ガラス相よりも低い膨張係数を有する二次材料で満たしてもよく、それにより、ガラスクラッド層全体の熱膨張率を下げることができる。一実施形態において、このことは、多孔質の相互接続されたマトリックスをシリカのコロイド溶液で満たすことによって達成することができ、その場合、当該シリカのコロイド溶液は、乾燥および焼成された後、当該相互接続されたマトリックスをガラスクラッド層の第一相に接着したシリカで満たし、それにより、ガラスクラッド層の熱膨張率を低下させる。
【0043】
さらなる他の実施形態において、当該多孔質の相互接続されたマトリックスは、積層化ガラス物品の屈折率を変える二次材料によって部分的にまたは完全に満たしてもよい。積層化ガラス物品の屈折率を変更するための好適な材料としては、これらに限定されるわけではないが、ポリマー材料、例えば、ポリエポキシ、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリシロキサン、ポリビニル、ポリ無水物、ポリ尿素、ポリカーボネート、ポリスルフィド、およびポリスルホンなど、が挙げられる。しかしながら、これらに限定されるわけではないが、ポリマー材料とセラミック材料および/または金属材料との組み合わせなど、他のタイプの材料も使用することができることは理解されるべきである。
【0044】
同様に、ガラスクラッド層の多孔質の相互接続されたマトリックスを部分的にもしくは完全に満たすポリマー材料は、積層化ガラス物品の音響特性を変えることができ、音響的に絶縁された積層化ガラス物品を提供することができる。例えば、積層化ガラス物品の音響特性は、一般的に、物品の剛性(モジュラス)および減衰(損失正接)に依存する。ガラスクラッド層の多孔質の相互接続されたマトリックスをポリマー材料で満たすことにより(または部分的に満たすことにより)、積層化ガラス物品の音響特性が変更され、その一方で、コア層は、積層化ガラス物品に所望の全体的剛性を与える。
【0045】
本明細書において説明されるいくつかの実施形態において、ガラスクラッド層104a、104bを形成するガラス組成物は、1種または複数種の金属成分、例えば、金、銀、銅、白金など、を含有し得る。これらの実施形態において、積層化ガラス物品は、ガラス組成物の第一相において金属成分の沈降を生じさせるために熱処理してもよい。相分離したガラス組成物の第一相によって形成された多孔質の相互接続されたマトリックスをガラスクラッド層104a、104bが有するような実施形態において、当該金属成分の沈降は、当該多孔質の相互接続されたマトリックスの表面もしくは表面付近に金属成分を蓄積させ得る。
【0046】
再び
図1を参照して、ガラスコア層102は、ガラスコア層102の組成物がガラスクラッド層104a、104bに融着することができる限り、様々な異なるガラス組成物から形成することができる。いくつかの実施形態において、ガラスコア層は、アルカリ金属および/またはアルカリ金属を含有する化合物を含んでもよく、その一方で、他の実施形態において、ガラスコア層は、アルカリ金属および/またはアルカリ金属を含有する化合物を実質的に不含であってもよい。
【0047】
積層化プロセスの結果として積層化ガラス物品100のガラスクラッド層104a、104bが圧縮応力を受けるような実施形態において、ガラスコア層102は、ガラスクラッド層104a、104bと比べて高い平均熱膨張率を有するガラス組成物から形成される。本明細書において説明されるように、融着積層化プロセスの際に、低い平均CTEを有するガラス組成物から形成されたガラスクラッド層が、比較的高い平均CTEを有するガラス組成物から形成されたガラスコア層と対にされる場合、積層化された構造体をイオン交換または熱強化しなくても、ガラスコア層の平均CTEとガラスクラッド層の平均CTEとの差により、結果として、それらが冷却するときにガラスクラッド層において圧縮応力が生じる。いくつかの実施形態において、ガラスコア層は、20℃から300℃の範囲において約40×10
−7/℃以上の平均熱膨張率(CTE)を有するガラス組成物から形成することができる。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、ガラスコア層のガラス組成物の平均CTEは、20℃から300℃の範囲において約60×10
−7/℃以上であり得る。さらなる他の実施形態において、ガラスコア層のガラス組成物の平均CTEは、20℃から300℃の範囲にわたる平均において約80×10
−7/℃以上であり得る。
【0048】
本明細書において説明される積層化ガラス物品100のいくつかの実施形態において、ガラスコア層102を形成するガラス組成物は、フュージョン成形にとって好適な液相粘度および液相温度を有する。例えば、ガラスコア層102を形成するガラス組成物は、約35キロポアズ(約3.5kPa・s)以上の液相粘度を有し得る。いくつかの実施形態において、ガラスコア層102を形成するガラス組成物の液相粘度は、100キロポアズ(約10kPa・s)以上、さらには200キロポアズ(約20kPa・s)以上である。ガラスコア層を形成するガラス組成物の液相温度は、約1400℃以下であり得る。いくつかの実施形態において、液相温度は、1350℃以下、さらには1300℃以下である。
【0049】
本明細書において説明される実施形態において、ガラスコア層102は、相分離可能でないガラス組成物から形成される。このことは、特に、ガラスクラッド層104a、104bが、多孔質の相互接続されたマトリックスを有するように形成される場合に、積層化ガラス物品100の機械的一体性を向上させる。
【0050】
特定の一実施形態において、積層化ガラス物品のガラスコア層102は、約60から約73mol%のSiO
2;約5から約16mol%のAl
2O
3;約0から16mol%のB
2O
3;約0から16mol%のNa
2O;約0から約16mol%のK
2O(この場合、Na
2OおよびK
2Oの合計は、16mol%以下である);約0から約8mol%のMgO;約0から約16mol%のCaO;約0から約16mol%のSrO;約0から約16mol%のBaO;約0から約8mol%のZnO(この場合、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの合計は、約0から約20mol%である)、を含むガラス組成物から形成される。当該ガラス組成物はさらに、SnO
2などの清澄剤も含んでいてもよい。特定の一実施形態において、当該ガラス組成物は、61.97mol%のSiO
2;10.89mol%のAl
2O
3;10.09mol%のB
2O
3;6.16mol%のMgO;5.45mol%のCaO;3.09mol%のSrO;2.17mol%のK
2O;および0.04mol%のSnO
2から形成される。しかしながら、ガラスコア層102のガラス組成物がガラスクラッド層104a、104bのガラス組成物に融着することができる限り、積層化ガラス物品100のガラスコア層102を形成するために他のガラス組成物を使用することができることは理解されるべきである。
【0051】
本明細書において説明される積層化ガラス物品を形成するために、これらに限定されるわけではないが、融着積層化プロセス、スロットドロー積層化プロセス、フロートガラスプロセスなどの様々なプロセスを使用することができる。
【0052】
特定の一実施形態において、積層化ガラス物品100は、米国特許第4,214,886号明細書に記載されているような融着積層化(フュージョンラミネーション)プロセスによって形成することができ、なお、当該文献は、参照により本明細書に組み入れられる。一例として
図4を参照すると、積層化ガラス物品を形成するためのラミネートフュージョンドロー装置200は、下部アイソパイプ204の上方に位置された上部アイソパイプ202を含む。上部アイソパイプ202は、相分離可能な溶融ガラスクラッド組成物206が溶融炉(図示されず)から供給されるトラフ210を含む。同様に、下部アイソパイプ204は、溶融ガラスコア組成物208が溶融炉(図示されず)から供給されるトラフ212を含む。
【0053】
溶融ガラスコア組成物208がトラフ212を満たすと、トラフ212からあふれ出し、下部アイソパイプ204の外側形成表面216、218を覆うように流れる。下部アイソパイプ204の外側形成表面216、218は、根本部分220に集まる。したがって、外側形成表面216、218を覆うように流れる溶融ガラスコア組成物208は、下部アイソパイプ204の根本部分220において再合流し、それにより、積層化ガラス物品のガラスコア層102を形成する。
【0054】
同時に、相分離可能な溶融ガラスクラッド組成物206が、上部アイソパイプ202に形成されたトラフ210からあふれ出し、上部アイソパイプ202の外側形成表面222、224を覆うように流れる。当該相分離可能な溶融ガラスクラッド組成物206は、上部アイソパイプ202によって外向きへと向きを変えられ、それにより、当該相分離可能な溶融ガラスクラッド組成物206は、下部アイソパイプ204の周りを流れ、下部アイソパイプの外側形成表面216、218を覆うように流れる溶融ガラスコア組成物208に接触し、当該溶融ガラスコア組成物に融着して、当該ガラスコア層102の周りにガラスクラッド層104a、104bを形成する。
【0055】
上記において言及したように、いくつかの実施形態において、溶融ガラスコア組成物208は、相分離可能な溶融ガラスクラッド組成物206の平均熱膨張率CTE
cladよりも大きい平均熱膨張率CTE
coreを有する。したがって、ガラスコア層102およびガラスクラッド層104a、104bが冷却する際に、ガラスコア層102の平均熱膨張率とガラスクラッド層104a、104bの平均熱膨張率との差により、ガラスクラッド層104a、104bにおいて圧縮応力が発生する。当該圧縮応力は、イオン交換処理または熱強化処理を用いずに、結果として得られる積層化ガラス物品の強度を増加させる。
【0056】
ガラスクラッド層104a、104bがガラスコア層102に融着し、それにより積層化ガラス物品100が形成されると、当該積層化ガラス物品は、任意により、例えば、真空成形または任意の他の従来のガラス成形プロセスなどによって、所望の三次元形態へと成形することができる。
【0057】
ガラスクラッド層104a、104bをガラスコア層102に融着させることによって積層化ガラス物品100が形成され、任意により成形されると、ガラスクラッド層104a、104bにおいて相分離を引き起こすために当該積層化ガラス物品100は加熱処理され、それにより、少なくとも1つの第二相がガラスクラッド層104a、104bに分散されている、第一相による相互接続されたマトリックスが生成される。加熱処理プロセスは、概して、ガラスを、ガラスクラッド層104a、104bを形成する相分離可能なガラス組成物の共溶温度またはスピノーダル温度に加熱する工程と、積層化ガラス物品100を、ガラスクラッド層104a、104bにおいて所望の量の相分離を誘起するのに十分な期間においてこの温度に維持する工程とを含む。本明細書において説明されるいくつかの実施形態において、積層化ガラス物品100は、ガラスクラッド層104a、104bにおいて相分離を誘起するために、相分離可能なガラス組成物のスピノーダル温度と温度差約600℃以下の低温からスピノーダル温度までの範囲の温度に加熱される。いくつかの他の実施形態において、積層化ガラス物品100は、ガラスクラッド層104a、104bにおいて相分離を誘起するために、相分離可能なガラス組成物のスピノーダル温度と温度差約300℃以下の低温からスピノーダル温度までの範囲の温度に加熱される。さらなる他の実施形態において、積層化ガラス物品100は、ガラスクラッド層104a、104bにおいて相分離を誘起するために、相分離可能なガラス組成物のスピノーダル温度と温度差約200℃以下の低温からスピノーダル温度までの範囲の温度に加熱される。さらなる実施形態において、積層化ガラス物品100は、ガラスクラッド層104a、104bにおいて相分離を誘起するために、相分離可能なガラス組成物のスピノーダル温度と温度差約100℃以下の低温からスピノーダル温度までの範囲の温度に加熱される。
【0058】
積層化ガラス物品100は、所望の量の相分離を当該積層化ガラス物品100のガラスクラッド層104a、104bに付与するのに十分な期間において、加熱処理温度に維持され得る。概して、積層化ガラス物品100を当該加熱処理温度に長く維持するほど、当該積層化ガラス物品のガラスクラッド層104a、104bに生じる相分離の量は多い。いくつかの実施形態において、積層化ガラス物品100は、約1分以上かつ約10時間以下の期間において、加熱処理温度に維持され得る。いくつかの他の実施形態において、積層化ガラス物品100は、約30分以上かつ約5時間以下、さらには約2.5時間以下、の期間において、加熱処理温度に維持され得る。しかしながら、ガラスクラッド層における相分離の所望の量に応じてより長い期間もしくはより短い期間も使用することができることは理解されるべきである。
【0059】
いくつかの実施形態において、積層化ガラス物品100の加熱処理は、少なくとも1つの第二相の離散領域を、ガラスクラッド層104a、104bを形成するガラス組成物の第一相から形成された相互接続されたマトリックス内に分散させるために用いられる。この実施形態において、少なくとも1つの第二相による分散された離散領域のサイズおよび量は、加熱処理の時間および/または温度を制御することによって制御することができ、これは、結果として得られる積層化ガラス物品の光学特性を変える。例えば、少なくとも1つの第二相による分散された離散領域のサイズおよび量を制御することにより、積層化ガラス物品100内において生じる光散乱の量および/または積層化ガラス物品100の音響特性を制御することができる。このようにして形成された積層化ガラス物品100は、照明用途、光フィルター用途、および同様の用途において利用することができる。あるいは、このようにして形成された積層化ガラス物品100は、建築用および自動車用ガラスに用いることができる。
【0060】
いくつかの実施形態において、加熱処理の時間および温度は、後で少なくとも1つの第二相が第一相から除去される場合に結果として得られるガラスクラッド層の孔隙によってガラスクラッド層104a、104bが所望の屈折率を有するように、選択される。より詳細には、加熱処理の時間および温度は、少なくとも1つの第二相が第一相による相互接続されたマトリックスから除去されたときにガラスクラッド層104a、104bにおいて所望の屈折率を生じるような、所望の量および分配の少なくとも1つの第二相が第一相による相互接続されたマトリックス内に存在するように、選択される。
【0061】
いくつかの他の実施形態において、ガラスクラッド層104a、104bにおいて相分離を誘起するための加熱処理の後に、例えば、第一相の多孔質の相互接続されたマトリックスがガラスクラッド層104a、104bにおいて所望される場合などにおいて、積層化ガラス物品100はさらに、ガラスクラッド層104a、104bの第一相による相互接続されたマトリックスから少なくとも1つの第二相を除去するために処理される。これらの実施形態において、当該少なくとも1つの第二相は、積層化ガラス物品をエッチングすることによって、第一相による相互接続されたマトリックスから除去することができる。上記において言及したように、いくつかの実施形態において、当該少なくとも1つの第二相は、水、アルカリ溶液、および/または酸性溶液に対して、ガラスクラッド層104a、104bにおける相分離したガラス組成物の第一相よりも大きい溶解率を有し、それにより、当該少なくとも1つの第二相は、第一相よりも溶解し易い。これらに限定されるわけではないが、フッ酸、塩酸、硝酸、硫酸、またはそれらの組み合わせを含む、様々なエッチング液またはエッチング液の組み合わせを使用することができる。積層化ガラス物品100を、ガラスクラッド層104a、104bにおける第一相による相互接続されたマトリックスから少なくとも1つの第二相を完全に除去するのに十分な期間においてエッチング液に接触させ、それにより、第一相の多孔質の相互接続されたマトリックスが残される。
【0062】
いくつかの実施形態において、第一相による多孔質の相互接続されたマトリックスは、上記において説明されるように、二次材料でコーティングしてもよくまたは満たしてもよい。多孔質の相互接続されたマトリックスを、二次材料で満たすかまたはコーティングするために、これらに限定されるわけではないが、ディップコーティング、フローコーティング、真空コーティングなどの様々な技術を使用することができる。
【実施例】
【0063】
本明細書において説明される積層化ガラス物品の実施形態は、以下の実施例によってさらに明確となるであろう。
【0064】
積層化ガラス物品は、上記において説明されるラミネートフュージョンプロセスを使用して形成した。ガラスクラッド層は、64.62mol%のSiO
2;7.38mol%のAl
2O
3;16.46mol%のB
2O
3;2.21mol%のMgO;8.14mol%のCaO;1.12mol%のSrO;および0.06mol%のSnO
2を含むガラス組成物から形成した。ガラスコア層は、61.97mol%のSiO
2;10.89mol%のAl
2O
3;10.09mol%のB
2O
3;6.16mol%のMgO;5.45mol%のCaO;3.09mol%のSrO;2.17mol%のK
2O;および0.04mol%のSnO
2を含むガラス組成物から形成した。
【0065】
当該積層化ガラス物品を、950℃の温度で2時間加熱処理した。これにより、ガラスクラッド層のガラスは、第一相による相互接続されたマトリックスと、当該第一相による相互接続されたマトリックス内に分散され相互接続した第二相とにスピノーダル分解した。
図2は、加熱処理後のガラスクラッド層のガラスを示すSEM顕微鏡写真である。第一相は、概して、シリカリッチ相からなり、その一方で、第二相は、概して、ホウ素リッチ相からなる。
【0066】
次いで、第一相から第二相を選択的に除去するために、当該積層化ガラス物品をフッ酸の1%溶液において1分間酸エッチングした。
図3は、第一相による多孔質の相互接続されたマトリックスを残して、第一相による相互接続されたマトリックスから第二相を除去した後のガラスクラッド層のガラスを示すSEM顕微鏡写真である。
【0067】
ここで、本明細書において説明されるガラス物品が、相分離したガラスクラッド層で形成され得ることは理解されるべきである。いくつかの実施形態において、相分離の程度は、積層化ガラス物品に所望の光学特性、例えば、所望の屈折率など、を付与するために制御することができる。あるいは、第一相による相互接続されたマトリックスからの第二相の除去を容易にするために、ガラスクラッド層は相分離され得、それにより、第一相から形成された多孔質の相互接続されたマトリックスが作り出される。当該多孔質の相互接続されたマトリックスの孔隙は、所望の光学特性、例えば、所望の屈折率など、を達成するために特異的に適合させることができる。いくつかの実施形態において、当該多孔質の相互接続されたマトリックスは、積層化ガラス物品の物理特性を向上させるため、および/または、これらに限定されるわけではないが、触媒活性または生物活性などの特定の機能を積層化ガラス物品に付与するために、二次材料でコーティングされ得るかまたは少なくとも部分的に満たされ得る。ガラスクラッド層が多孔質の相互接続されたマトリックスを含む実施形態において、固体ガラスコア層は、積層化ガラス物品にさらなる機械的強度を提供する。
【0068】
権利請求される主題の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書において説明される実施形態に対して様々な変更および変形を為すことができることは、当業者に明らかであろう。したがって、本明細書は、記載した様々な実施形態の変更および変形が添付の請求項およびそれらの均等物の範囲内であれば、そのような変更および変形を網羅することを意図している。