【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年9月11日に、第21回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会にて、干渉電流型低周波治療器(製品名:ジェントルスティム)に関する製品パンフレットを配布して製品の概要を説明
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、2対の前記電極によりそれぞれ付与される前記電流の周波数を500〜8000Hzの範囲内の所定の値に設定するとともに、2対の前記電極によりそれぞれ付与される前記電流の周波数の差を10〜100Hzの範囲内の所定の値に設定する請求項3に記載の嚥下障害検査装置。
前記制御部は、前記感覚閾値を取得するための処理において、前記操作部に対する操作に応じて前記電極によりそれぞれ付与される電圧を変化させることにより、前記生体組織に経皮的に付与される前記電流を変化させる、請求項2ないし4の何れか一項に記載の嚥下障害検査装置。
前記指標情報は、前記感覚閾値、または、前記感覚閾値に基づいて設定される嚥下障害の治療のための電流値である、請求項1ないし8の何れか一項に記載の嚥下障害検査装置。
前記制御部は、前記感覚閾値、前記感覚閾値を所定レベルだけ高めた電流値、または、前記感覚閾値を所定レベルだけ低くした電流値を、前記治療のための電流値として設定する、ことを特徴とする請求項13に記載の嚥下障害治療装置。
前記制御部は、前記治療のための電流値として、前記感覚閾値と、前記感覚閾値を所定レベルだけ変化させた電流値の何れを選択するかを受け付けるための処理を実行する、ことを特徴とする請求項13または14に記載の嚥下障害治療装置。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
1.嚥下障害の検査方法
本発明の一態様は、経皮的に干渉波または擬似干渉波の刺激を付与することによって得られる感覚閾値を嚥下障害の評価のためのマーカーとして利用して嚥下障害を検査する検査方法として把握され得る。
【0031】
ここで、嚥下障害の評価のためのマーカーとして利用する感覚閾値とは、頚部に経皮的に微弱電流を数秒流したときに、該微弱電流による刺激を被処置者(患者)が自覚により感知し得る最も小さい電流の値、すなわち、体性知覚神経で感じられる電流の閾値を意味する。たとえば、感覚閾値の測定は、以下のように行われる。
【0032】
まず、医師等の作業者は、患者の頚部に電極を貼付した後、この電極により干渉波もしくは疑似干渉波による刺激を付与する刺激装置(嚥下障害治療装置自体でもよい)を動作させ、電極から微弱電流を出力させる。次に、作業者は、微弱電流の出力を徐々に高めて行き、患者が微弱電流による刺激を自覚するところで患者に申告させ、その時点での電流値を感覚閾値として測定する。電流値の測定は、たとえば、刺激装置の電極ケーブルに電流計をセットして行われる。また、刺激を自覚したことを示す入力が患者によりなされたことに応じて、そのタイミングの電流値を表示するシステムが用いられてもよい。
【0033】
刺激装置が電流値の測定機能を装備している場合、作業者は、上記と同様、患者の頚部に電極を貼付した後、刺激装置(嚥下障害治療装置)を動作させ、徐々に出力を高めて行く。作業者は、患者が微弱電流による刺激を自覚するところで患者に申告させ、その時点での電流の出力レベルを固定および/または記録するための入力を刺激装置に対して行う。これにより、刺激装置は、その時点での電流値を、予め装置に内蔵された電流検知/表示機能により測定し、測定した電流値を感覚閾値として設定する。つまり、患者が微弱電流を自覚するところで、作業者が、電流の出力のレベルを固定するための入力を行うことにより、自動的に刺激装置に電流値がデータとして記録および保存される。作業者は、データとして保存された電流値を呼び出すことにより測定値を確認する。この測定値が感覚閾値である。なお、電流値を固定するための入力は、作業者ではなく患者により行われてもよい。
【0034】
たとえば、感覚閾値を得るために干渉波による刺激が付与される場合、頚部に、プラスとマイナスの極を対とする電極が2対設置される。また、感覚閾値を得るために擬似干渉波による刺激が付与される場合、頚部に、プラスとマイナスの極を対とする電極が1対設置される。これら電極から付与される電流の周波数を500〜8000Hzに設定すると共に該電極間の周波数の差を10〜100Hzに設定して、被処置者に対する処置がなされる。刺激は、上喉頭神経を含む頚部の生体組織、すなわち、上喉頭神経およびその周辺の神経や筋肉(以下、「上喉頭神経など」という)を標的にする。なお、電極は、好適には、対をなす電極が頚部に平行またはX字状に貼着される。また、薄型で柔軟性のある電極を利用することが好ましい。
【0035】
経皮的になされる干渉波または擬似干渉波による刺激は、0〜10mA(500Ωの負荷抵抗器接続時の実効値)の出力で行われる。この出力に対して、被処置者が、刺激感を自覚し得た値が、感覚閾値として特定される。出力の上昇は、自動または非自動で、傾斜的または段階的になされる。被処置者の該感覚閾値が、それを特定および確定する手段によって、データとして保存される。感覚閾値の値は、たとえば、mA(ミリアンペア)の単位で表される。
【0036】
本願発明者が実際に測定したところ、健常成人81名での感覚閾値は、平均1.05mA(たとえば、累積平均データともいう)であった。一方、公知の嚥下障害度評価である喉頭挙上遅延時間(LEDT)による判定(たとえば、既知嚥下障害データともいう)で嚥下障害者と特定された患者について測定したところ、これらの患者は、2.5mA以上の感覚閾値を示した。後述する実施例では、嚥下障害者の干渉波刺激治療において、感覚閾値とLEDTの両方を測定し、その相関性を確認した。その結果、感覚閾値の数値と嚥下障害度は相関するものであることを確認した。かくして、嚥下障害の検査用マーカーとして感覚閾値を使用する嚥下障害検査方法を提供することに成功した。
【0037】
嚥下障害の有無は、健常成人の平均的な感覚閾値(たとえば1.05mA付近)を基準に、個体差を考慮した2.5mAまでの数値で判定できる。この場合、感覚閾値が高い程、嚥下障害の可能性が高い。嚥下障害の障害度のレベル判定では、感覚閾値が高い程、嚥下障害の障害度が高い可能性がある。嚥下障害の治療改善度のレベル判定では、治療時に測定された感覚閾値が初期の感覚閾値に対して低い程、嚥下障害の治療改善度が高い可能性がある。
【0038】
干渉波もしくは疑似干渉波による刺激装置(嚥下障害治療装置であってもよい。以下同様)によって感覚閾値の測定を実現する方法は次の通りである。
【0039】
刺激装置は、治療時の電流を測定する回路を装備し、感覚閾値の電流値を内蔵された電流計で計測し、装置本体の表示部に出力レベルを表示することができる。また、該装置は、データを記録および保存するための素子または媒体を装備し、計測した感覚閾値の電流値を装置本体に感覚閾値のデータとして記録および保存し、データとして保存された感覚閾値の電流値を、装置に対する操作により呼び出して本体の表示部に表示することができる。
【0040】
さらに、該装置には、複数の計測した電流値を、データとして記録および保存することができる。該装置は、計測した感覚閾値の電流値を、履歴データとして記録および保存し、出力することが可能である。医師等の作業者は、記録された感覚閾値の電流値の履歴データも、装置に対する操作により順次呼び出すことができる。これにより、作業者は、過去の感覚閾値の電流値を呼び出して確認でき、嚥下障害の感覚閾値の基準値(たとえば、後述する実施例のデータを基準にすると2.5mA程度)と比較することにより患者が嚥下障害か否かの判定を行うことが可能である。さらに、作業者は、該装置に記録された複数の過去の感覚閾値の電流値を確認することにより、嚥下障害の治療改善度を確認することができる。
【0041】
2.嚥下障害治療のための刺激条件の設定方法
本発明の別の一態様は、得られた感覚閾値を基に、嚥下障害治療装置において、各患者に最適な刺激の条件(個体最適干渉波刺激条件)を設定する設定方法として把握され、また、設定された最適条件に基づき、嚥下障害治療装置の稼動を行う治療方法として把握され得る。ここでは、嚥下障害の治療のために、干渉波または擬似干渉波により、上喉頭神経などが経皮的に刺激される。電気出力は継続的または断続的に行われて、干渉が継続または断続される。嚥下障害治療装置の稼働は、最適条件の設定に連動して、またはこれと非連動で、実行され得る。
【0042】
個体最適干渉波刺激条件は、感覚閾値をマーカーとして、設定される。感覚閾値は、当該個体(患者)の嚥下障害治療の処置開始から治療の進展に応じて、継続的に履歴データとして記録および保存される。
【0043】
感覚閾値の初期データが特定されると、初期の感覚閾値と患者の年齢および男女別などに応じて、予め設定された初期最適干渉波刺激条件(キャリア周波数、治療周波数、処理出力、出力態様、出力時間等)が選定され、初期の個体最適干渉波刺激条件の設定がなされる。この設定により、該設定条件の各値に対応する嚥下障害治療装置の稼動条件が、連動してもしくは非連動で特定され、特定された稼働条件により、嚥下障害治療装置の稼働が実行される。
【0044】
治療に応じて、感覚閾値が変動すると、基礎情報(初期感覚閾値、年齢、男女別等)と変動した感覚閾値とに応じて、予め設定された最適干渉波刺激条件(キャリア周波数、治療周波数、処理出力、出力態様、出力時間等)が選定され、個体最適干渉波刺激条件の設定がなされる。この設定により、該設定条件の各値に対応する嚥下障害治療装置の稼動条件が、連動してもしくは非連動で特定され、これにより、嚥下障害治療装置の稼動条件が感覚閾値の変動に応じた条件に変更される。こうして変更された稼働条件により、嚥下障害治療装置の稼働が実行される。
【0045】
個体最適干渉波刺激条件の選定は、嚥下障害治療のための干渉波による刺激のレベルを選択可能な手段を用いてなされる。干渉波もしくは疑似干渉波による刺激条件は、頚部に、プラスとマイナスの極を対とする1対または2対以上の電極を設置し、これら電極により付与される電流の周波数を500〜8000Hzに設定するとともに、該電極間の周波数の差を10〜100Hzに設定し、さらに、これら電極からの出力を10分〜8時間継続または断続して行うことが可能な手段を用いて選択され特定される。
【0046】
干渉波による刺激は、皮膚の痛みや不快感が少なく、且つ、低周波が深部まで到達可能である。たとえば、中周波の2000Hzと2050Hzで経皮的に電気刺激を行うと、皮下深部に50Hzの低周波が発生する。このとき刺激に用いる中周波数をキャリア周波数、発生する低周波数をビート周波数(治療周波数)という。
【0047】
キャリア周波数は、500〜8000Hz、好適には1000〜4000Hz、さらに好適には1500〜3000Hzとすることが望ましい。この理由は、500Hzより低い周波数の電流では皮下の侵害受容器がより強く反応して痛みを中枢に伝え、8000Hzより高い周波数の電流では、1つ1つの刺激パルスに筋収縮がもはや追随できなくなり、電流が付与されている期間中、筋が収縮しつづけた状態になるからである。
【0048】
ビート周波数、すなわち、嚥下障害の治療周波数は、10〜100Hz、好適には20〜80Hz、さらに好適には30〜60Hzから選択される。治療周波数の範囲を10〜100Hzとした理由は、この周波数帯域が、最も嚥下障害治癒に関連する受容器を強く反応させることができ、上喉頭神経の刺激のために最も有効な帯域と判断されるためである。
【0049】
嚥下障害の治療のための干渉波による刺激について、干渉波の処理方法の1つとして、干渉を断続させる方法がある。この方法は、干渉波を0.05〜5秒間出力する処理と非干渉波を0.05〜5秒間出力する処理との繰り返しを、10分から8時間継続出力する方法である。好適な別の処理方法は、干渉波もしくは疑似干渉波のみを断続して出力する方法である。この方法は、0.05〜5秒間干渉波を出力する処理と、0.05〜5秒間干渉波の出力を停止する処理を交互に連続的に行う方法である。また、好適な別の処理方法は、干渉波を連続して10分から8時間継続出力する方法である。何れの方法も、患者に対する処置の回数は1日1〜数回、処置の期間は1〜2日以上である。処置の態様は、隔日処置、毎日処置、および/または継続処置でよく、適宜、これらから選択され得る。
【0050】
嚥下障害の治療のための干渉波による刺激について、対をなす電極からの電流の出力は1〜10mA(500Ωの負荷抵抗器接続時の実効値)の間で、設定される。この値は、感覚閾値の特定と連動してまたは非連動で設定される。
【0051】
甲状軟骨を中心に1対または2対のプラスとマイナスの電極が貼着され得る。電極は、必要以上に大きくも小さくもなく、しかも、貼着された状態で患者に違和感を生じさせないよう、薄型で皮膚への密着度が高く、そのうえ、柔軟性のあるものであればよい。患者において電極の貼着に違和感があると、長時間の使用に影響がある。また、電極の密着度が低く、かつ、合計2つまたは4つの電極の密着性が不均一となると、皮膚を介した電気抵抗が不均一となるため、目的とするような電流を経皮的に流すことができなくなる可能性がある。
【0052】
以上のような種々の条件の範疇で、嚥下障害の治療処置の具体的条件、たとえば、キャリア周波数、治療周波数、処理出力、出力態様、出力時間が、嚥下障害治療装置にデータとして、記録および保存される。嚥下障害治療装置では、処置前の感覚閾値と、処置後(次回測定)の感覚閾値とのデータの連携によって、処置に最適な条件の設定が可能である。
【0053】
3.装置
本発明の装置の一態様は、少なくとも、干渉波または擬似干渉波により経皮的に刺激を付与する手段を備えた嚥下障害検査のための装置である。この態様に係る装置は、当該手段を用いた刺激処置により、個体(患者)の感覚閾値を得、得られた感覚閾値をデータとして記録および保存し、保存したデータを要時呼び出し可能な機能を備える。機能の詳細は、前記嚥下障害検査方法の項に特定した内容が準用される。好適な一態様に係る装置は、刺激の出力を、自動または非自動で、傾斜的または段階的に上昇させることが可能な機能を備える。
【0054】
本発明のさらなる別の態様は、嚥下障害の検査を行うための装置としての機能とともに、検査によって得られた感覚閾値を基に患者ごとの個体最適刺激条件の設定値を得、得られた設定値をもとに、嚥下障害の治療が可能な手段をも備える装置である。
【0055】
嚥下障害の検査に使用される装置は、単独の装置であってもよい。また、この装置は、さらに、嚥下障害の治療のために、個体(患者)ごとに最適な干渉波もしくは疑似干渉波による刺激条件を設定するための機能を備えていてもよい。さらに、加えて、この装置は、干渉波もしくは疑似干渉波の刺激による嚥下障害治療の機能を備える嚥下障害治療装置であってもよい。
【0056】
そのような複合的な機能を有する嚥下障害治療装置は、患者ごとに感覚閾値を特定し、特定した感覚閾値をデータとして記録および保存する手段と、該データとして保存した感覚閾値データを読み出し、当該患者に最適な刺激の出力条件(個体最適刺激出力条件)を特定する手段とを備え、必要により、該特定された個体最適刺激出力条件に基づき、該嚥下障害治療装置の稼働を、連動または非連動でおこなうことが可能である。
【0057】
本発明の別の態様は、上記の嚥下障害の検査方法に関する手段が、要すれば、さらに個体最適刺激出力条件を特定する手段と共に、嚥下障害治療装置に付加的に加えられたものであってもよい。嚥下障害治療装置自体が、感覚閾値を確認するための手段を持っていてもよい。この場合、当該手段として、刺激出力電流値の確認手段、たとえば電流計、被験者の刺激確認表示手段、たとえば干渉波微弱電流を自覚したときに被験者が確認表示手段として押下するプッシュボタン、該行為により電流値を被験者のその時点での感覚閾値のデータとして記録および保存する手段、さらに、記録および保存されたデータを、経時的および個体別に読み出して表示する手段、今回の検査で取得したデータと、履歴データ、要すれば、統計データ、および、既知の嚥下障害検査手段によるデータ等との相関性等に基づき、以降の個体最適干渉波刺激条件を特定する手段、加えて、複数の干渉波処置方法から現状の嚥下障害度に応じた処置方法を選定する手段等を選択して、嚥下障害治療装置に組み込むことが可能である。嚥下障害治療装置は、このように特定された個体最適干渉波刺激条件に基づく動作が、連動でまたは非連動で実行され得るように調整できる。連動とは、一連の動作が、データ解析と連動して装置作動にまで導くことをいい、非連動とは、装置作動が、データ解析と一体化されていないことを意味する。
【0058】
嚥下障害の検査および治療用のシステムまたは装置は、少なくとも使用時に、患者が刺激により刺激感を自覚し得た感覚閾値を記録し、保存する手段を備えている。ここで、保存されたデータは、経時的に呼び出され、表示され、履歴の保存データおよび数値と比較可能である。この比較のための数値が、嚥下障害度の進展および/または改善度のマーカーとして表示され、利用される。さらに、この数値をもとに、患者ごとの個体最適干渉波刺激条件の設定がなされる。こうした構成により、干渉波または擬似干渉波による嚥下障害の検査および治療用のシステムまたは装置が提供される。
【実施例】
【0059】
<検証>
以下、上記方法による効果を確認するために行った実験について説明する。実験は次の条件で行った。
【0060】
被験者ごとに干渉波による感覚閾値を確認した。被験者は、嚥下障害のない健常者と、嚥下障害のある患者とした。
【0061】
被験者には、頚部にクロスになるようにプラスとマイナスの極を対とする電極を2対貼付した。同様に、1対の電極を貼付する方法でも、実験を行った。
【0062】
被験者には、キャリア周波数を2000Hzと2050Hzとして干渉波を付与し、治療周波数(ビート周波数)が50Hzとなるように調整した。干渉波の刺激には、0V〜10Vまでの電圧を10〜100段階に設定できる装置を用いた。各被験者が装置による刺激を自覚し得た最低強度の電流値を感覚閾値として記録した。
【0063】
感覚閾値と嚥下障害度との相関性の確認のため、既知の嚥下障害の改善判定(判断)方法を利用した。本検討において、感覚閾値を監視した嚥下障害患者の嚥下障害状態は、嚥下造影検査により取得した放射線動画の解析項目の1つである喉頭挙上遅延時間(LEDT)の結果により判定した。
【0064】
嚥下造影検査とは、レントゲンの透視検査を利用して評価する検査であり、レントゲン透視室で車椅子に座り、バリウム等の入った液体やとろみ液、ペースト、ゼリーなどを実際に飲み込んで、飲み込み(嚥下)機能の評価を実施する方法である。嚥下造影検査で用いる指標である喉頭挙上遅延時間(laryngeal elevation delay time:LEDT)は、側面像にて造影剤の先端が梨状陥凹底部に到達してから、喉頭挙上が最大位に達するまでの時間をコマ送り再生して求めた。LEDTは短い(小さい)ほうが嚥下症状が回復している指標になり、表示データとして、判定したLEDT値を示した。
【0065】
上記条件のもと、健常者81名(年齢16歳〜68歳)について男女混合して、感覚閾値を測定した。その結果、感覚閾値は、
図1のような分布となった。感覚閾値の平均は1.05mA、最大は2.18mA、最小は0.18mAであることが確認できた。なお、1対の電極を利用して疑似干渉波による刺激を付与した場合も、
図1と略同等の結果が得られた。
【0066】
次に、喉頭挙上遅延時間(LEDT)の結果から嚥下障害と判定された患者(被験者)3名について、毎日または3日間隔で、連続干渉波刺激を、毎回10〜30分間(1〜3回/日)行った。患者は年齢82〜87歳で、初回感覚閾値(初期データ)は、各々2.61、2.8、および2.89mAであった。これら感覚閾値の数値は、上述の健常者の平均値である1.05の約2倍のものであった。これら3名の患者の初回LEDT(sec)値は、各々1.567、0.233、0.533であった。患者3名について、最大60回までの処置を継続的におこなった。処置においては、毎回、感覚閾値を測定し、測定結果をデータ入力し、記録および保存した。各回の処置で得られた感覚閾値を基準または参考として、次回の処置条件を設定した。
【0067】
図2〜
図4は、それぞれ、患者被験者1〜3に干渉波による刺激を与え患者被験者1〜3の感覚閾値の測定を行った場合の測定結果を示すグラフである。縦軸は、感覚閾値電流(mA)、横軸は検査回数である。患者被験者1、2は、毎日検査を受け、患者被験者3は3日間隔で検査を受けた。
【0068】
患者被験者1(初期値:感覚閾値2.61mA、LEDT1.567(sec))は、38回処置まで、感覚閾値が2.0mAを下がることはなかったが、以降徐々に下がる傾向を示し、39回目の処置で、感覚閾値が2.18mA、LEDTが0.133(sec)まで低下し、53回目の処置時には、感覚閾値が1.88mAまで低下した。嚥下障害度をLEDTの数値によって確認したが、14回目あたりまでで嚥下障害度に著しい改善が見られた。
【0069】
患者被験者2(初期値:感覚閾値2.8mA、LEDT0.233(sec))は、7回の処置により、感覚閾値が2.16mAまで下がり、8回目の処置時には、LEDTが0.066まで下がり、嚥下障害度は7回程度の処置で十分改善した。
【0070】
患者被験者3(初期値:感覚閾値2.89mA、LEDT0.533(sec))は、3回目の処置まで、感覚閾値が2.0mAを下回ることはなかったが、4回目の処置により、感覚閾値が一気に下がる傾向を示し、5回目の処置時には、感覚閾値が1.43mAまで低下した。この間、5日目の処置でLEDTが0.333(sec)に下がり、嚥下障害度も目に見えて改善した。
【0071】
さらに、喉頭挙上遅延時間(LEDT)の結果から嚥下障害と判定された患者(被験者)1名についても、毎日の間隔で、連続干渉波刺激を、毎回10〜30分間(1〜3回/日)行った。患者は年齢91歳で、初回感覚閾値(初期データ)は、1.90mAであった。この患者の初回LEDT(sec)値は、0.467であった。この患者について、22回の処置を継続的におこなった。処置においては、毎回、感覚閾値を測定し、測定結果をデータ入力し、記録および保存した。各回の処置で得られた感覚閾値を基準または参考として、次回の処置条件を設定した。
【0072】
図5は、当該患者被験者に干渉波による刺激を与え患者被験者の感覚閾値の測定を行った場合の測定結果を示すグラフである。患者は年齢90歳の女性で、連続干渉波刺激を毎回20分間(2回/日)行った。この患者被験者においても、処置に伴い徐々に感覚閾値が低下する傾向が示された。また、21回目の処置時には、LEDTも0.167(sec)に下がっており、嚥下障害度も大きく改善した。
【0073】
以上の結果、嚥下障害度と感覚閾値には相関性が確認された。また、感覚閾値を継続的に確認して記録し、その値を基に次回の処置条件の出力値を設定することの有効性が確認された。これにより、嚥下障害治療装置では、各回の測定で得られた感覚閾値をもとに、嚥下障害の治療改善度に相応した次回の処置条件を自動的に設定する方法を用いることが可能となった。
【0074】
以上の結果は、出力2対の系で処置が行われたが、出力1対の系で、上記と同様の連続干渉波出力で、あるいは、2対の系で、断続(1秒間隔)干渉波のみの系、断続(1秒間隔)干渉波と非干渉波の系について数回の予備実験をおこなったが、感覚閾値の低下と嚥下障害度改善の間には相関性が同様に想定された。
【0075】
<装置の具体的構成例>
図6(a)〜
図10(c)を参照して、嚥下障害治療装置の
具体的構成例を説明する。本構成例に係る嚥下障害治療装置は、嚥下障害を検査するための機能と、その検査結果に応じて嚥下障害の治療を行う機能とを備えている。
【0076】
本構成例において、
図9(a)のステップS15が請求項
18、19における「付与するステップ」に相当し、
図9(a)のステップS12〜S15、S17、S18が請求項
18、19における「取得するステップ」に相当し、
図9(a)のステップS16が請求項
18における「表示するステップ」に相当し、
図9(a)のステップS19が請求項
19における「出力させるステップ」に相当する。
【0077】
図6(a)は、被処置者M1に装着された状態における嚥下障害治療装置1の外観構成を示す図である。
図6(b)は、治療器本体2が充電器4に装着された状態を示す斜視図である。
【0078】
図6(a)に示すように、嚥下障害治療装置1は、治療器本体2と、電流付与部3とを備えている。治療器本体2は、表示部21と、操作部22とを備えている。表示部21は、電流付与部3により被処置者M1に経皮的に付与された電流値や、作業者が設定した治療時間等の情報を表示する。操作部22は、被処置者M1に経皮的に付与された電流値を増減させるキーや治療時間を設定するためのキー等を備える。治療器本体2は、手で握って持ち運びで可能なハンディサイズの大きさとなっている。
【0079】
図6(b)に示すように、治療器本体2は、充電器4にセットされて充電される。
図6(b)では、便宜上、充電器4に接続される電源ケーブルが省略されている。電源ケーブルは、充電器4のコネクタ41に接続される。充電器4は、さらに、充電状態を示すランプ42を備えている。
図6(b)に示すように治療器本体2が充電器4にセットされることにより、治療器本体2の受電コネクタ(図示せず)が充電器4の給電コネクタ(図示せず)に接続される。治療器本体2は、側面に、電流付与部3のコネクタ31を接続するためのコネクタ23を備えている。
【0080】
図6(a)に示すように、電流付与部3は、コネクタ31と、ケーブル32と、電極33と、パッド34、35とを備えている。コネクタ31は、治療器本体2のコネクタ23に接続される。ケーブル32は、コネクタ31と電極33とを接続する。電極33は、2つの陽極33a、33cと、2つの陰極33b、33dとからなっている。ここでは、陽極33aと陰極33bとが対となって1対の電極33を構成し、陽極33cと陰極33dとが対となって1対の電極を構成する。陽極33aと陰極33dが一方のパッド34に装着され、陽極33cと陰極33bが他方のパッド35に装着されている。
【0081】
図6(a)に示すように、陽極33a、33cおよび陰極33b、33dが被処置者M1の頚部にX字状に配置されるように、2対の電極33が頚部に貼着される。また、パッド34、35は、薄型で柔軟性のある素材からなっている。
【0082】
図7は、治療器本体2の構成を示すブロック図である。
【0083】
図6(a)、(b)に示した表示部21、操作部22およびコネクタ23の他、治療器本体2は、電極駆動部24と、電源部25と、電流検知部26と、制御部27と、記憶部28とを備えている。なお、ブロック2aは、主として嚥下障害の治療に関するブロックであり、ブロック2bは、主として嚥下障害の検査に関するブロックである。嚥下障害の治療動作を行わない嚥下障害検査装置の構成は、ブロック2bと同様の構成となる。この嚥下障害検査装置では、追って
図9(a)を参照して説明する処理のうち、ステップS11〜S18の処理のみが行われる。
【0084】
電極駆動部24は、制御部27からの制御により、コネクタ23を介して、陽極33aおよび陰極33bのペアと、陽極33cおよび陰極33dのペアに、それぞれ、所定周波数の電圧を印加する。電源部25は、充電池を備え、
図6(b)に示す充電器4から供給された電力を充電し、充電した電力を各部に供給する。
【0085】
電流検知部26は、制御部27からの制御により、電極駆動部24から陽極33a、33cおよび陰極33b、33dに流入している電流、すなわち、被処置者M1に経皮的に付与されている電流を計測し、計測した電流値を記憶部28に記憶する。
【0086】
制御部27は、CPU(CentralProcessing Unit)等の演算処理回路から構成され、記憶部28に記憶された制御プログラムに従って各部を制御する。記憶部28は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶媒体を備える。記憶部28は、制御プログラムを記憶する他、電流検知部26により検知された電流値等の各種情報を記憶する。また、記憶部28は、制御部27のワーク領域としても利用される。
【0087】
図8(a)は、ペアとなる電極33(たとえば、陽極33aと陰極33b)から印加される電圧の波形を模式的に示す図である。
図8(b)は、電圧を印加したときの嚥下障害治療装置1の作用を模式的に示す図である。
【0088】
図8(a)に示すように、電極駆動部24は、ペアとなる電極33(たとえば、陽極33aと陰極33b)から所定周波数の矩形波の電圧を被処置者M1の頚部に印加する。ここで、矩形波は、+Vpと−Vpの間で振幅する。矩形波は、所定のデューティー比に設定される。また、矩形波の周波数(キャリア周波数)は、500〜8000Hzの間で設定される。好適には、矩形波の周波数(キャリア周波数)は、1000〜4000Hzの間で設定され、さらに好適には、1500〜3000Hzの間で設定される。印加される電圧は、必ずしも矩形波でなくともよく、たとえば正弦波であってもよい。
【0089】
こうして、被処置者M1の頚部に電圧が印加されると、被処置者M1の上喉頭神経に向かって経皮的に電流が流れる。ここで、ペアとなる一方の電極33(たとえば、陽極33aと陰極33b)から印加される電圧の周波数と、ペアとなる他方の電極33(たとえば、陽極33cと陰極33d)から印加される電圧の周波数との間に差を持たせることにより、電流の干渉波が生じ、この干渉波が被処置者M1の上喉頭神経に付与される。これにより、上喉頭神経が刺激され、被処置者M1の嚥下障害が治療される。
【0090】
干渉波の周波数(ビート周波数、すなわち、嚥下障害の治療周波数)は、ペアとなる2対の電極33間の周波数の差分の周波数となる。干渉波の周波数は、10〜100Hzの間に設定され、好適には、20〜80Hzの間に設定され、さらに好適には、30〜60Hzに設定される。
【0091】
図8(b)の例では、ペアとなる一方の電極33(陽極33a、陰極33b)から2050Hzの電圧が被処置者M1の頚部に印加され、ペアとなる他方の電極33(陽極33c、陰極33d)からは2000Hzの電圧が被処置者M1の頚部に印加されている。これにより、2050Hzの電流波と2000Hzの電流波が上喉頭神経へと向かい、50Hzの干渉波が上喉頭神経に作用する。
【0092】
各対の電極に印加される電圧の振幅(強さ)を変化させることにより、電流波の振幅を変化し、これに応じて、上喉頭神経に作用する干渉波の強さも変化する。したがって、各対の電極に印加される電圧の振幅を調節することにより、被処置者M1の上喉頭神経に付与される刺激を、治療に適する強さに調節できる。各対の電極に印加される電圧は、互いに同じ振幅に設定される。
【0093】
図9(a)は、治療に用いる電流値(治療電流値)の設定処理を示すフローチャートである。
図9(b)は、治療器本体2の表示部21に表示される画面の構成と操作部22の構成を示す図である。
【0094】
まず、
図9(b)を参照して、表示部21は、電圧スケール領域211と、インジケータ領域212と、電流値領域213と、タイマー領域214と、バッテリー領域215とを含んでいる。表示部21は、たとえば、液晶表示器を備えている。
【0095】
電圧スケール領域211には、電極33から頸部に付与される電圧のレベルを数字として示すための4つの目盛が表示される。すなわち、電圧スケール領域211には、0、5、10、15の4つの目盛が等間隔で上下に並ぶように表示される。インジケータ領域212には、目盛0の高さ位置から目盛15の高さ位置まで変化するインジケータが表示される。インジケータの高さは、電極33から頸部に付与されている電圧のレベル、すなわち、
図8(a)に示す矩形波の振幅に応じて変化する。
【0096】
電流値領域213には、
図7の電流検知部26によって計測された電流値、すなわち、電極33から経皮的に付与されている電流値の実効値が表示される。また、電流値領域213には、電流値の単位であるmA(ミリアンペア)が併せて表示される。タイマー領域214には、医師等の作業者により設定された治療時間が表示される。バッテリー領域215には、
図7に示す電源部25に残存する電力が表示される。
【0097】
操作部22は、電源キー221と、タイマーキー222と、UPキー223と、DOWNキー224とを備えている。電源キー221は、治療器本体2の起動および停止に用いられる。タイマーキー222は、治療時間の設定に用いられる。UPキー223およびDOWNキー224は、治療時間の設定および電圧値の調節に用いられる。各キーは、たとえば、押すとクリック感が生じる機械式のプッシュキーからなっている。
【0098】
治療時間を設定する場合、作業者は、タイマーキー222を押す。これにより、デフォルト時間が、タイマー領域214に表示される。作業者は、UPキー223を操作することにより治療時間を長くすることができ、DOWNキー224を操作することにより治療時間を短くすることができる。こうして、治療時間を所望の時間に調節した後、作業者は、再び、タイマーキー222を押す。これにより、そのタイミングでタイマー領域214に表示されていた時間が治療時間に設定される。
【0099】
次に、
図9(a)を参照して、治療に用いる電流値(治療電流値)の設定処理について説明する。なお、この処理は、上記の治療時間の設定がなされた後に行われる。また、
図9(a)の処理は、
図7の制御部27によって行われる。
【0100】
なお、治療電流値の設定処理において、UPキー223は、電極33から頚部に印加される電圧を高めるために用いられ、DOWNキー224は、電極33から頚部に印加される電圧を低下させるために用いられる。制御部27は、印加電圧のレベルが最高値にある状態でUPキー223が操作された場合は、この操作を無視し、また、印加電圧のレベルが最低値(ゼロ)にある状態でDOWNキー224が操作された場合は、この操作を無視する。
【0101】
図6(a)に示すように2対の電極33が被処置者M1の頚部に付設された後、電源が投入され、その後、上記のようにして治療時間が設定されると(S11)、制御部27は、操作部22のUPキー223またはDOWNキー224が操作されたか否かを判定する(S12)。
【0102】
治療器本体2が起動された直後は、電極33から電圧が印加されていないため、制御部27は、UPキー223が操作されたか否かのみを判定する(S12)。UPキー223が操作されると(S12:YES)、制御部27は、今回の操作が、電源投入後において初回の操作であるか否かを判定する(S13)。今回の操作が初回の操作である場合(S13:YES)、制御部27は、内蔵タイマーによる計時を開始する(S14)。そして、制御部27は、UPキー223の操作に応じて、電極33の出力電圧を1レベル上昇させる(S15)。これにより、被処置者M1の頚部から上喉頭神経に向かって電流が流れる。制御部27は、この電流の計測値(電流値Im)を
図7の電流検知部26から取得し、取得した計測値を表示部21に表示させる(S16)。これにより、計測された電流値Imが、
図9(b)の電流値領域213に表示される。
【0103】
その後、制御部27は、ステップS14で計時を開始した時間Tが、予め決められた時間Tsに到達したか否かを判定する(S17)。時間Tsは、たとえば、1分程度に設定される。時間Tが時間Tsに到達していない場合(S17:NO)、制御部27は、処理をステップS12に戻して、さらにUPキー223またはDOWNキー224の操作がなされたか否かを判定する。UPキー223またはDOWNキー224の操作がなされると(S12:YES)、制御部27は、今回の操作は初回の操作ではないため(S13:NO)、UPキー223またはDOWNキー224の操作に応じて電極33の出力電圧を上昇または低下させる(S15)。これに応じて、流れる電流が増減し、
図9(b)の電流値領域213に表示される電流値Imが変化する(S16)。
【0104】
こうして、制御部27は、時間Tが時間Tsに到達するまで(S17)、UPキー223またはDOWNキー224の操作に応じて、電極33の出力電圧を上昇または低下させる(S12〜S15)。これに応じて、
図9(b)の電流値領域213に表示される電流値Imが変化する(S16)。
【0105】
医師等の作業者は、UPキー223またはDOWNキー224を操作して、被処置者M1が干渉波による刺激を知覚する最小の電圧レベルに、電極33の出力レベルを調節する。より詳細には、UPキー223またはDOWNキー224を操作して出力レベルを変化させながら、被処置者M1が干渉波による刺激を知覚した場合に、そのことを被処置者M1に申告させる。この操作により、作業者は、被処置者M1が干渉波による刺激を知覚する最小の電圧レベルを探索する。そして、探索が終了すると、作業者は、UPキー223またはDOWNキー224の操作を終了し、時間Tが時間Tsに到達するのを待つ。時間Tsは、当該被処置者M1に対して感覚閾値Isを探索および確定するための期間である。
【0106】
その後、時間Tが時間Tsに到達すると(S17:YES)、制御部27は、時間Tの計時を終了し、その時点で表示部21に表示されている電流値Imを、被処置者M1が経皮的な刺激を自覚する感覚閾値Isとして取得する(S18)。取得された感覚閾値Isは、ステップS16において、表示部21の電流値領域213に表示されている。そして、制御部27は、この感覚閾値Isに基づいて、当該被処置者M1に対する嚥下障害の治療電流値Itを設定する(S19)。
【0107】
ここで、治療電流値Itは、たとえば、感覚閾値Isを取得したときの2対の電極33の出力レベルを1レベルだけ低下させて得られる電流値に設定される。この場合、ステップS19では、2対の電極33の出力レベルを1レベルだけ低下させる処理が行われる。このように治療電流値Itを感覚閾値Isからやや低下させることにより、刺激による違和感を抑制しながら、被処置者M1に効果的に、嚥下障害の治療のための経皮的な刺激を付与できる。
【0108】
また、治療電流値Itは、たとえば、感覚閾値Isに設定されてもよい。この場合、ステップS19では、2対の電極33の出力レベルがそのまま維持される。こうすると、被処置者M1により効果的に、嚥下障害の治療のための経皮的な刺激を付与できる。
【0109】
あるいは、治療電流値Itは、たとえば、感覚閾値Isを取得したときの2対の電極33の出力レベルを1レベルだけ高めて得られる電流値に設定される。この場合、ステップS19では、2対の電極33の出力レベルを1レベルだけ上昇させる処理が行われる。このように治療電流値Itを感覚閾値Isからやや高めることにより、被処置者M1に対して、より一層効果的に、嚥下障害の治療のための経皮的な刺激を付与できる。
【0110】
その後、制御部27は、治療電流値Itを、感覚閾値に基づく指標情報として、
図7の記憶部28に記憶させる(S20)。これにより、治療電流値Itの設定処理が終了する。嚥下障害治療装置1は、その後、治療電流値Itを用いた治療動作を継続する。上記のように、治療動作では、上喉頭神経に対する干渉波の付与と非付与を繰り返す処理や、上喉頭神経に連続的に干渉波を付与する処理等が行われる。
【0111】
なお、ステップS20では、治療電流値Itが感覚閾値に基づく指標情報として記憶部28に記憶されたが、ステップS17の判定がYESとなったタイミングで取得された感覚閾値Isそのものを、感覚閾値に基づく指標情報として、記憶部28に記憶してもよい。
【0112】
また、治療電流値Itが感覚閾値Isに対して高められ、または低下される場合、ステップS20では、再度、
図7の電流検知部26によって電流値(治療電流値)が計測され、計測された電流値が、感覚閾値に基づく指標情報として、記憶部28に記憶される。あるいは、制御部27が、感覚閾値Isをもとに、電極33の出力レベルを1レベル低下させたときの電流値を算出し、算出した電流値を、感覚閾値に基づく指標情報として、記憶部28に記憶してもよい。
【0113】
なお、ステップS18で取得された感覚閾値Isは、直前のステップS16の処理において表示が更新された時点から継続的に、
図9(b)の電流値領域213に表示されている。その後、ステップS19において治療電流値Itが設定されると、それに伴い、電流値領域213の表示が、この治療電流値Itに更新される。この場合、作業者は、表示が切り替わる前の感覚閾値Isと、表示が切り替わった後の治療電流値Itの何れかを、感覚閾値に基づく指標情報として把握する。しかし、感覚閾値Isと治療電流値Itとの差は、精々、電極33の出力レベルを1レベル相違させたときの電流値の微差に過ぎないため、感覚閾値Isと治療電流値Itの何れを嚥下障害の評価情報として把握しても大差はない。感覚閾値Isと治療電流値Itは、何れも、感覚閾値に基づく指標情報として用い得るものである。
【0114】
図10(a)、(b)は、それぞれ、UPキー223およびDOWNキー224を操作したときの電極33の出力レベルの変化を模式的に示す図である。
【0115】
図10(a)に示すように、電極33の出力レベルは、UPキー223を押すごとに1レベルずつ段階的に上昇する。なお、UPキー223を長押ししても、電極33の出力レベルは1レベル上昇するのみである。1レベルは、予め、所定の電圧値に設定されている。
【0116】
図10(b)に示すように、電極33の出力レベルは、DOWNキー224を押すごとに1レベルずつ段階的に低下する。なお、DOWNキー224を長押しすると、その間、電極33の出力レベルは継続的に1レベルずつ低下する。1レベルは、UPキー223を操作したときの1レベルと同じである。このように、DOWNキー224を長押しする間、電極33の出力レベルは継続的に低下するよう制御される。これにより、高すぎた出力レベルによる刺激の違和感を急速に解消できる。
【0117】
図10(c)は、治療電流値Itが設定されるまでの電流値の変化を模式的に示すタイムチャートである。このタイムチャートは、治療電流値Itを感覚閾値Isよりも1レベル下げる場合のものである。
【0118】
この例では、時刻t1〜t2において、作業者により、UPキー223の操作が4回なされている。その結果、電極33の出力レベルが4レベル上昇し、これに伴い、流れる電流の値が段階的に4レベル上昇している。時刻t1におけるUPキー223の操作が初回の操作であったため、時刻t1において、時間Tの計時が開始されている。
【0119】
その後、時刻t3〜t4において、作業者により、さらにUPキー223の操作が3回なされ、これに伴い、流れる電流の値が段階的に3レベル上昇している。この電流値の上昇により、時刻t5において、上喉頭神経などに対する経皮的な刺激が被処置者M1により自覚され、被処置者M1からその旨の申告がなされている。これを受けて、作業者により、DOWNキー224の操作が1回なされ、これに伴い、流れる電流の値が段階的に1レベル低下している。
【0120】
その後、時刻t6〜t7の間、被処置者M1により刺激を自覚したとの申告がなかったため、時刻t7において、作業者により、UPキー223の操作が1回なされ、これに伴い、上喉頭神経などへと流れる電流の値が段階的に1レベル上昇している。これにより、時刻t8において、被処置者M1により、刺激を自覚したとの申告がなされたため、作業者は、このときの電流値が感覚閾値であると判断し、さらなるUP/DOWN操作を中止する。
【0121】
その後、時間Tが時間Tsに到達した時刻t9において、そのときの電流値が感覚閾値Isとして取得される。同時に、制御部27により電極33の出力が1レベル低下されて、治療電流値Itが設定される。以降、作業者により設定された治療時間が経過するまで、治療電流値Itを用いた治療制御が行われる。その後、治療時間が経過することにより、電極33の出力が停止され、被処置者M1に対する治療が終了する。
【0122】
なお、
図10(c)では、UPキー223およびDOWNキー224の操作により電流値が所定の変化幅で段階的に上昇および下降しているが、この変化幅は、全ての被処置者に一律ではなく、被処置者ごとに異なる。すなわち、頚部に電圧を付与したときの抵抗値は、頚部の肉付きや骨格等に応じて変わり得る。このため、電極33の出力を1レベル変化させた場合の電流値の変化幅は、各被処置者の頚部の抵抗値に応じて、被処置者ごとに異なることになる。したがって、嚥下障害のレベルが同じ被処置者であっても、必ずしも
図10(c)に示すタイムチャートが同じになるとは限らず、頚部の抵抗値に応じて、UP/DOWNの操作回数やそれに伴う電流値の変化が互いに異なる可能性がある。
【0123】
図11(a)は、履歴情報の表示処理を示すフローチャートである。
【0124】
嚥下障害治療装置1を用いた治療では、各回の治療ごとに、
図9(a)のステップS20において、治療電流値Itが嚥下障害の指標情報として記憶部28に記憶される。このとき、記憶部28には、治療電流値Itとともに、治療電流値Itを取得した際の電極33の出力値(電圧レベル)が記憶部28に記憶される。これらの情報は、記憶処理の時間的順序に関連づけられて記憶部28に順次記憶されていく。作業者は、記憶部28に記憶された履歴情報(指標情報、電圧レベル)を、適宜、表示部21に表示させることができる。
【0125】
図11(a)を参照して、治療器本体2に電源が投入されると(S21)、制御部27は、作業者により、過去の指標情報を表示させるための操作がなされたか否かを判定する(S22)。この操作は、たとえば、DOWNキー224とタイマーキー222とを同時に押す操作とされる。この操作がなされると(S22:YES)、制御部27は、変数Nに1を設定し(S23)、N回前(ここでは1回前)の履歴情報(指標情報、電圧レベル)を記憶部28から読み出して、表示部21に表示させる(S24)。
【0126】
図11(b)は、このときの履歴情報の表示例を示す図である。ここでは、1回前の治療時に取得された感覚閾値に基づく指標情報(電流値)が、表示部21の電流値領域213に表示されている。また、この指標情報が取得された際に電極33から付与された電圧のレベルが、表示部21のインジケータ領域212に表示されている。さらに、表示部21には、タイマー領域214に代えて、履歴情報の時間的順序を示す順序領域216が割り当てられている。この順序領域216には、表示中の履歴情報が何回前の治療時に取得されたものであるかが表示される。
図11(b)の例では、1回前の治療時に取得されたことを示す“1”が表示されている。
【0127】
図11(a)に戻り、次に、制御部27は、UPキー223に対する操作またはDOWNキー224に対する操作がなされたかを判定する(S25、S26)。UPキー223に対する操作がなされた場合(S25:YES)、制御部27は、変数Nに1を加算し(S27)、また、DOWNキー224に対する操作がなされた場合(S26:YES)、制御部27は、変数Nから1を減算する(S28)。その後、制御部27は、作業者により、履歴情報の表示を終了させるための操作がなされたか否かを判定する(S29)。この操作は、たとえば、再び、DOWNキー224とタイマーキー222とを同時に押す操作とされる。ステップS29の判定がNOであれば、制御部27は、処理をステップS24に戻す。
【0128】
ステップS24において、制御部27は、N回前の履歴情報を読み出して表示部21に表示させる。ここでは、ステップS27またはS28において変数Nが更新されているため、更新後の変数Nに基づいて、ステップS24の処理が行われる。たとえば、ステップS27により変数Nに1が加算された場合、変数Nは2となっている。この場合、ステップS24では、2回前の治療時に記憶された履歴情報が記憶部28から読み出されて表示部21に表示される。これにより、
図11(b)の順序領域216に“2”が表示され、電流値領域213とインジケータ領域212にそれぞれ、2回
前の治療時に取得された指標情報(電流値)と電圧レベルが表示される。
【0129】
こうして、作業者は、UPキー223およびDOWNキー224を操作することにより、所望の回数だけ前の治療時に取得された指標情報と電圧レベルを参照することができる。作業者は、参照した指標情報に基づいて、嚥下障害の改善度合いおよび改善の進行度を把握することができる。これにより、被処置者M1に対して適切な処置を施すことができる。
【0130】
<効果>
上記嚥下障害治療装置1によれば、以下の効果が奏され得る。
【0131】
被処置者M1が経皮的な刺激を自覚する感覚閾値に基づく指標情報が、嚥下障害の評価指標として表示部21に表示される。よって、作業者は、出力された指標情報により、被処置者M1の嚥下障害の状況を評価することができる。
【0132】
また、被処置者M1の嚥下障害のレベルに応じて治療電流値Itが調節される。よって、被処置者M1の嚥下障害のレベルに適する刺激を、被処置者M1の頚部上喉頭神経などに経皮的に付与でき、嚥下障害の治療を効果的に進めることができる。
【0133】
また、2対の電極33からそれぞれ付与される電流の周波数を互いに異ならせることにより、被処置者M1の頚部の深層部にある上喉頭神経などに経皮的に、これら電流による干渉波を付与する方法が用いられている。これにより、被処置者M1に対する負荷を軽減させながら、効果的に、嚥下障害の検査および治療を進めることができる。
【0134】
また、嚥下障害の検査および治療においては、
図11(b)に示すUPキー223およびDOWNキー224を操作することにより、被処置者M1の上喉頭神経などに付与される刺激のレベルを調節できる。よって、作業者は、嚥下障害の検査および治療を、簡便かつ円滑に進めることができる。
【0135】
また、
図10(c)に示すように、UPキー223およびDOWNキー224が操作されると、付与される電流のレベルが段階的に変化する。このように電流値が段階的に変化するため、作業者は、UPキー223およびDOWNキー224を操作した後、その電流値による被処置者M1の反応を監視し、被処置者M1からの申告を待つことができる。よって、作業者は、感覚閾値Isの探索を円滑に進めることができる。
【0136】
また、
図10(c)に示すように、嚥下障害の検査においては、上喉頭神経などに干渉波による刺激を付与する操作を開始した時点からの経過時間Tが所定の閾値時間Tsに到達すると、その時点の電流値が感覚閾値Isとして取得され、処理が治療へ移行する。これにより、作業者は、閾値時間Tsの間に電流値を変えながら感覚閾値の探索を行うことができ、感覚閾値の探索が完了すると、そのまま放置するだけで、感覚閾値Isに基づく治療へと処理を移行させることができる。
【0137】
また、
図11(b)に示すように、履歴表示のための操作が行われると、過去の治療時に取得された嚥下障害の指標情報(電流値)と電圧レベルが表示部21に表示される。よって、作業者は、過去の指標情報を参照することにより、当該被処置者における嚥下障害の改善度合いおよび改善の進行度を把握することができる。これにより、作業者は、被処置者に対して適切な処置を施すことができる。
【0138】
また、
図11(b)の状態において、UPキー223またはDOWNキー224が操作されると、表示部21に表示される過去の指標情報が、時間順に送られる。よって、作業者は、簡便な操作により、過去の所望の指標情報を円滑に参照することができる。
【0139】
また、
図9(a)のステップS18、S19に示すように、操作部22を介した操作により感覚閾値Isが得られたされたことに連動して、自動で、治療のための治療電流値Itが設定される。これにより、感覚閾値Isを参照して治療電流値Itを設定する手間を省くことができ、嚥下障害治療装置1の操作性および利便性を高めることができる。
【0140】
<変更例1>
図12(a)は、変更例1に係る、モード設定処理を示すフローチャートである。
図12(b)は、変更例1に係る、治療電流値の設定処理を示すフローチャートである。
【0141】
変更例1では、
図9(a)のステップS19において治療電流値Itを設定するためのモードを、作業者が、3つのモードから任意に選択できるようになっている。ここで、モードAは、感覚閾値Isをそのまま治療電流値Itに設定するモードであり、モードBおよびモードCは、それぞれ、感覚閾値Isに対して1レベルだけ低下または上昇させた電流値を治療電流値Itに設定するモードである。
【0142】
図12(a)を参照して、電源が投入されると(S31)、制御部27は、操作部22に対して所定のモード設定操作がなされたか否かを判定する(S32)。この操作がなされると(S32:YES)、制御部27は、表示部21にモード設定用の画面を表示する(S33)。作業者は、UPキー223およびDOWNキー224を操作して、所望のモードを選択し、その後、モードの設定を確定させるための操作を行う。こうして、モード設定が完了すると(S34:YES)、制御部27は、設定されたモードを、ステップS19の処理のためのモードとして記憶する(S35)。これにて、モードの設定が終了する。
【0143】
変更例1では、
図9(a)のステップS19において、
図12(b)の処理が行われる。制御部27は、作業者が設定したモードが、モードA〜Cの何れであるかを判定する。作業者がモードを設定していない場合は、デフォルトとして、たとえば、モードBが設定される。
【0144】
設定されたモードがモードAである場合(S41:YES)、制御部27は、電極33の電圧レベルVtを、感覚閾値Isを取得した際の電圧レベルVsに設定する(S42)。これにより、治療電流値Itとして、感覚閾値Isそのものが設定される。設定されたモードがモードBである場合(S41:NO、S43:YES)、制御部27は、電極33の電圧レベルVtを、感覚閾値Isを取得した際の電圧レベルVsから1レベルだけ低下させた電圧値に設定する(S44)。これにより、治療電流値Itとして、感覚閾値Isに対して1レベル低下した電流値が設定される。設定されたモードがモードCである場合(S41:NO、S43:NO)、制御部27は、電極33の電圧レベルVtを、感覚閾値Isを取得した際の電圧レベルVsから1レベルだけ上昇させた電圧値に設定する(S45)。これにより、治療電流値Itとして、感覚閾値Isに対して1レベル上昇した電流値が設定される。
【0145】
変更例1によれば、作業者は、治療電流値Itを設定するためのモードを適宜選択することができる。よって、治療電流値Itを設定する際の自由度を高めることができ、作業者は、治療に適切と考えるモードで、被処置者に対する治療を行うことができる。
【0146】
なお、変更例1では、治療電流値Itを設定するためのモードとして、モードA〜Cの3つのモードが選択可能であったが、選択可能なモードはこれに限られるものではない。たとえば、モードA〜Cのうちの2つのモードが選択可能であってもよく、さらに他のモードが選択可能であってもよい。また、
図12(b)のステップS44、S45におけるΔVは、必ずしも、感覚閾値Isの探索処理における電圧レベルの変化幅、すなわち、
図10(a)、(b)における1ステップ当たりの変化幅と同じでなくともよい。
【0147】
<変更例2>
図12(c)は、変更例2に係る、治療電流値の設定処理を示すフローチャートである。変更例2では、
図9(a)のステップS20が、ステップS20’に変更されている。すなわち、ステップS20’において、制御部27は、ステップS18で取得された感覚閾値Isをそのまま記憶部28に記憶させる。したがって、作業者は、
図11(b)を参照して説明した上述の操作によって、感覚閾値Isそのものを過去の治療における指標情報として参照することができる。
【0148】
<他の変更例>
図9(a)に示した処理では、経過時間Tが閾値時間Tsに到達した時点の電流値Imが感覚閾値Isとして取得されたが、
図13(a)に示すように、感覚閾値Isを確定させるための確定キー225を操作部22に配置し、確定キー225が操作された時点の電流値Imが感覚閾値Isとして取得されてもよい。
【0149】
また、
図9(a)に示した処理では、電極電圧の増減操作が初めて行われたタイミングからの経過時間が予め決められた時間Tsに到達したことに応じて、感覚閾値Isの取得と(S18)、治療電流値Itの設定および記憶(S19、S20)が行われたが、電極電圧の増減操作が最後に行われたタイミングからの経過時間が時間Tsに到達したことに応じて、感覚閾値Isの取得と(S18)、治療電流値Itの設定および記憶(S19、S20)が行われてもよい。この場合、
図9(a)のフローチャートからステップS13が除かれる。
【0150】
また、
図9(b)の表示形態では、被処置者M1の頚部に経皮的に流れる電流の強さ(感覚閾値Isを含む)が、電流の実効値を示す数字で表示されたが、頚部に経皮的に流れる電流の強さの表示形態はこれに限られるものではない。たとえば、
図13(b)に示すように、被処置者M1の頚部に経皮的に流れる電流の強さ(感覚閾値Isを含む)のレベルが、レベル領域217に表示されてもよく、あるいは、電圧値と同様、インジケータにより電流の強さのレベルが表示されてもよい。
【0151】
また、感覚閾値Isの取得処理や治療処理の際に、被処置者M1の頚部に所定の閾値を超える過度の電流が付与された場合、
図14(a)に示すように、過電流が生じたことを示す警告表示218がさらに表示されてもよい。また、過電流が生じた場合は、自動的に電圧レベルを低下させ、あるいは、電圧の印加を遮断する処理がなされてもよい。
【0152】
この場合、
図7の制御部27は、
図14(b)または
図14(c)の制御を行う。すなわち、
図14(b)の制御において、制御部27は、電流検知部26により検出された電流値Imを監視し(S51)、電流値Imが閾値Iwを超えた場合に(S51:YES)、
図14(a)の警告表示218を表示部21に表示させる(S52)。あるいは、
図14(c)の制御において、制御部27は、電流値Imが閾値Iwを超えた場合に(S51:YES)、さらに、電極33の出力電圧を所定レベルだけ低下させる(S53)。ステップS53においては、電極33による電圧の出力を低下させてもよい。この制御により、被処置者M1に大きな違和感を与えることを抑制でき、被処置者M1に対する検査および治療を円滑に進めることができる。なお、過電流であることを報知する方法は、表示部21に表示させる方法の他、音声を出力させる方法や、発光体を発光させる方法等、他の方法であってもよい。
【0153】
また、過去の治療において取得された指標情報を表示する場合は、
図15(a)に示すように、指標情報が取得された日付219がさらに表示されてもよい。この場合、記憶部28には、指標情報とともに当該治療を行った日を示す情報が記憶される。この場合、
図9(a)のステップS20が
図15(b)のステップS20’に変更され、治療電流値Itが現在の日時とともに記憶部28に記憶される。こうすると、作業者は、過去の指標情報がいつ取得されたかを知ることができ、嚥下障害の改善の進行度をより的確に把握することができる。
【0154】
また、
図10(a)〜(c)に示す例では、被処置者M1に付与される電圧および電流が操作に応じて段階的に変化したが、これら電圧および電流は必ずしも段階的に変化せずともよく、操作に応じて電圧および
電流が線形に変化してもよい。
【0155】
また、上記構成例では、電圧を制御することにより、被処置者M1に経皮的に付与される電流値が調節されたが、電流検知部26により計測された電流値が、UPキー223およびDOWNキー224の操作に応じて所定の変化を示すように、電流制御により、被処置者M1に経皮的に付与される電流値が調節されてもよい。
【0156】
また、
図9(a)の処理では、感覚閾値Isが取得されたことに応じて、治療電流値Itが自動で設定されたが、表示された感覚閾値Isを参照して作業者が治療電流値Itをマニュアルで設定するよう、嚥下障害治療装置1が構成されてもよい。
【0157】
また、
図6(a)の構成では、2対の電極33が被処置者M1に装着されたが、被処置者M1に装着される電極33の対の数は、これに限られるものではない。干渉波を上喉頭神経などに経皮的に付与できる限りにおいて、被処置者M1に装着される電極33の対の数は、1対または3対以上であってもよい。1対の電極33を用いる場合、たとえば、電極33に振幅変調された電流を付与することにより、上喉頭神経などに経皮的に干渉波を作用させることができる。この場合、振幅変調の周波数が、ビート周波数(治療周波数)と同等の効果を持っている。
【0158】
また、上記構成では、嚥下障害の有無および程度を評価するための指標情報が、被処置者M1の頚部に経皮的に付与される電流値として取得されたが、指標情報は、必ずしも電流値でなくてもよく、感覚閾値に関連する情報であれば、他の情報であってもよい。