(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
[防腐剤]
本開示に係るシリカ分散液は、シリカ粒子と水と防腐剤とを含む。
該防腐剤は、下記(A)及び(B)の化合物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。防腐剤は1種類であってもよく、複数種類の組み合わせであってもよい。
(A)環内に >N−C−N< を含む5員環又は6員環の構造を有する化合物。
(B)アルデヒド基を含む化合物。
【0015】
上記(A)及び(B)の化合物は、水中において、ホルムアルデヒドを放出することで抗菌性を発揮する化合物である。ホルムアルデヒド放出型の防腐化合物はいくつか知られているが、その中でも、上記(A)及び(B)の化合物は、抗菌性及び品質安定性を維持でき、長期間(例えば1カ月以上)抗菌性及び品質安定性を維持できる。
【0016】
上記化合物(A)は、一実施形態において、抗菌性及び品質安定性の維持の観点から、下記式(a−10)で表されるヒダントイン骨格を構造式中に含む化合物、及び下記式(a−20)で表されるN,N’,N’’−トリス(ヒドロキシエチル)ヘキサヒドロ−s−トリアジンが好ましい。
【0018】
上記式(a−10)で表されるヒダントイン骨格を構造式中に含む化合物は、一実施形態において、抗菌性及び品質安定性の維持の観点から、下記式(a−11)で表される化合物及び下記式(a−12)で表される化合物が好ましい。
【0020】
上記化合物(B)は、一実施形態において、抗菌性及び品質安定性の維持の観点から、下記式(b−10)で表されるグルタルアルデヒドが好ましい。
【0022】
前記防腐剤の分子量は、一又は複数の実施形態において、抗菌性及び品質安定性の維持の観点から、好ましくは400以下、より好ましくは250以下である。
【0023】
本開示に係るシリカ分散液における防腐剤の添加濃度は、各防腐剤の抗菌性が発揮される濃度であることが好ましく、抗菌性及び品質安定性の維持の観点から適宜調節でき、一又は複数の実施形態において、好ましくは0.1μg/g以上40,000μg/g以下、より好ましくは1μg/g以上4,000μg/g以下である。本開示に係るシリカ分散液における防腐剤は2種類以上混合しても良い。
【0024】
[シリカ粒子]
本開示に係るシリカ分散液のシリカ粒子は、一又は複数の実施形態において、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカである。本開示に係るシリカ分散液は、一又は複数の実施形態において、コロイダルシリカが分散した状態であることが好ましい。
【0025】
<コロイダルシリカ>
本開示におけるコロイダルシリカは、一又は複数の実施形態において、その調製方法は特に限定されず、湿式法、シリカゲル解膠法、イオン交換法、加水分解法などを例示することができる。また、これら研磨粒子を官能基で表面修飾あるいは表面改質したもの、界面活性剤や他の研磨材で複合粒子化したもの等も用いることができる。
【0026】
コロイダルシリカの一次粒子の平均粒子径は、一又は複数の実施形態において、研磨砥粒として使用する観点から、好ましくは1nm以上10μm以下、より好ましくは5nm以上5μm以下、更に好ましくは10nm以上1μm以下、更により好ましくは15nm以上500nm以下、より更に好ましくは20nm以上300nm以下である。ここで、コロイダルシリカの一次粒子の平均粒子径は、実施例に記載の方法により測定される値である。
【0027】
シリカ分散液中のコロイダルシリカの含有量は、一又は複数の実施形態において、運搬及び貯蔵における経済性の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上、更により好ましくは40質量%以上である。一方、抗菌性及び品質安定性の維持の観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。シリカ分散液中のコロイダルシリカの含有量は、一又は複数の実施形態において、研磨液組成物の調製に使用される原料シリカの濃度と同程度であってよい。
【0028】
本開示に係るシリカ分散液中の粗大粒子(0.56μm以上の粗大粒子)の含有量は、スクラッチ低減の観点から、シリカ粒子分散液1mL中5万個以下が好ましく、より好ましくは4万個以下、さらに好ましくは3万個以下、更により好ましくは2万5千個以下、更により好ましくは2万個以下である。
【0029】
[水]
シリカ分散液に使用される水としては、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。シリカ分散液中の水の含有量は、一又は複数の実施形態において、100質量%からコロイダルシリカ及び防腐剤を除いた残部に相当する。
【0030】
[pH]
本開示に係るシリカ分散液のpHは、抗菌性及び品質安定性の維持の観点から、好ましくは7以上13以下、より好ましくは8以上12以下、更に好ましくは9以上11以下である。本開示において、pHは25℃における値であって、pHメータを用いて測定した値である。具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0031】
[その他の成分]
本開示に係るシリカ分散液は、さらに、既存の周知の防腐剤、例えば、次亜塩素酸ナトリウムをさらに含んでいてもよい。
【0032】
[シリカ分散液の調製]
本開示に係るシリカ分散液は、一又は複数の実施形態において、シリカスラリーに上述の防腐剤を上述の範囲で添加することで調製することができる。
【0033】
[シリカ分散液の保存方法]
本開示に係るシリカ分散液の保存方法は、一又は複数の実施形態において、水に分散したシリカスラリーに上述の防腐剤を上述の範囲で添加することで安定にシリカ分散液を保存することができる。
その為の保存条件としては、以下が好ましい。
温度: シリカ分散液中に上述の防腐剤を含んだ液中の温度は、抗菌性及び品質安定性の維持の観点から、1℃以上50℃以下が好ましい。より好ましくは、5℃以上45℃以下であり、更に好ましくは10℃以上40℃以下である。また、同様の観点から温度変化は、50℃以内に抑えるのが好ましく、より好ましくは、40℃以下がであり、更に好ましくは30℃以下である。
容器: シリカ分散液の保存に用いる容器は、内壁部が有機高分子材料を含むものであればよい。また更に、抗菌性及び品質安定性の維持の観点から、UV遮断能を有する容器、温度変化を受けにくい容器が挙げられる。具体的には、高分子樹脂材料(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(テトラフルオロイチレン)等)が挙げられる。また、容器形態についても拘らないが、有機高分子材料のみからなる容器や、有機高分子材料からなる内袋を金属等からなる保護材で外装した容器(例えば、バックインボックス)等であってもよい。更に、抗菌性及び品質安定性の維持の観点から、蓋付きの密閉できる容器が好ましい。
【0034】
本開示のシリカ分散液は、研磨剤の砥粒成分として用いることができる。
その場合の使用に関する一実施態様を以下簡単に説明する。
【0035】
[研磨液組成物]
本開示に係るシリカ分散液は、一又は複数の実施形態において、半導体装置、磁気ディスク基板等の精密部品用基板の研磨工程に使用される研磨液組成物の原料シリカとして使用できる。限定されない一又は複数の実施形態として、磁気ディスク基板用の研磨液組成物を以下に説明する。
【0036】
磁気ディスク基板用の研磨液組成物としては、シリカ粒子、酸、酸化剤、水に加え、複素環芳香族化合物、アニオン性水溶性高分子、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物を含有するものが挙げられる。研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、これらの成分を混合することで調製できる。
【0037】
<シリカ粒子>
研磨液組成物におけるシリカ粒子の含有量は、一又は複数の実施形態において、研磨速度を損なうことなく研磨後の研磨表面のスクラッチ及びナノ欠陥を低減する観点から、研磨材の含有量は、好ましくは0.5質量%以上20質量%以下である。
【0038】
<pH>
研磨液組成物のpHは、一又は複数の実施形態において、研磨速度を損なうことなく研磨後の研磨表面のスクラッチ及びナノ欠陥を低減する観点から、好ましくは0.5以上3.5以下である。本開示において、pHは25℃における値であって、pHメータを用いて測定した値である。具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0039】
<酸>
研磨液組成物のpHは、酸又はその塩で調整されうる。具体的には、硝酸、硫酸、亜硝酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、アミド硫酸等の無機酸又はそれらの塩、有機ホスホン酸又はそれらの塩アミノカルボン酸又はそれらの塩、クエン酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、オキサロ酢酸等のカルボン酸又はそれらの塩、などが挙げられる。酸又はその塩は単独で又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0040】
前記好ましい無機酸又はそれらの塩の中では、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸又はそれらの塩が挙げられる。
【0041】
前記酸の塩対イオンとしては、特に限定はなく、具体的には、金属、アンモニア、アルキルアミンとの塩が挙げられる。
【0042】
<酸化剤>
研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上の観点から、酸化剤を含有してもよい。前記酸化剤としては、研磨速度を向上させる観点から、過酸化物、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、酸素酸又はその塩、金属塩類、硝酸類、硫酸類等が挙げられる。
【0043】
過酸化物としては、過酸化水素が挙げられる。ペルオキソ酸又はその塩としては、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸等が挙げられる。酸素酸又はその塩としては、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。金属塩類としては、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)、硫酸アンモニウム鉄(III)等が挙げられる。
【0044】
好ましい酸化剤としては、過酸化水素、硝酸鉄(III)、過酢酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、硫酸鉄(III)及び硫酸アンモニウム鉄(III)等が挙げられる。これらの酸化剤は、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0045】
研磨液組成物における前記酸化剤の含有量は、研磨速度向上の観点から、好ましくは0.01質量%以上である。
【0046】
<複素環芳香族化合物>
研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、研磨後の基板のスクラッチ低減の観点から、コロイダルシリカに加えて複素環芳香族化合物を含有してもよい。前記複素環芳香族化合物の複素環内に窒素原子を含むことが好ましい。
【0047】
前記複素環芳香族化合物は、研磨後の基板のスクラッチ低減の観点から、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,2,5−トリアジン、1,3,5−トリアジン、1,2,3−トリアゾール、4−アミノ−1,2,3−トリアゾール、5−アミノ−1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、1H−ベンゾトリアゾール、1H−トリルトリアゾール、2−アミノベンゾトリアゾール、3−アミノベンゾトリアゾール、又はこられのアルキル置換体若しくはアミン置換体が好ましく、1H−ベンゾトリアゾール、1H−トリルトリアゾールがより好ましい。
【0048】
研磨液組成物における複素環芳香族化合物の含有量は、研磨後の基板のスクラッチ低減の観点から、研磨液組成物の質量に対して好ましくは0.01質量%以上10質量%以下である。
【0049】
<アニオン性水溶性高分子>
研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、研磨後の基板のスクラッチ低減の観点から、アニオン性基を有する水溶性高分子(以下、アニオン性水溶性高分子ともいう)を含有してもよい。
【0050】
アニオン性水溶性高分子のアニオン性基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基、ホスホン酸基等が挙げられるが、スクラッチ低減の観点から、カルボン酸基及び/又はスルホン酸基を有するものがより好ましく、スルホン酸基を有するものが更に好ましい。なお、これらのアニオン性基は中和された塩の形態を取ってもよい。
【0051】
好ましいアニオン性水溶性高分子としては、スクラッチ低減の観点から、(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、マレイン酸/スチレンスルホン酸共重合体、スチレン/スチレンスルホン酸共重合体、ビスフェノールS/フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド付加縮合物、ポリアクリル酸が挙げられる。また、他の好ましい具体例として、天然物起源の高分子のスルホン化物としてリグニンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。これらの中でも、研磨速度維持及びスクラッチ低減の観点から、(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、マレイン酸/スチレンスルホン酸共重合体、ビスフェノールS/フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド付加縮合物、ポリアクリル酸が好ましく、(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、ビスフェノールS/フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド付加縮合物、ポリアクリル酸がより好ましく、(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体がさらに好ましい。
【0052】
アニオン性基を有する水溶性高分子の対イオンとしては、特に限定はなく、具体的には、金属、アンモニウム、アルキルアンモニウム等のイオンが挙げられる。
【0053】
アニオン性水溶性高分子の重量平均分子量は、スクラッチ低減及び生産性維持の観点から、好ましくは500以上10万以下である。該重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC PEG換算)により測定される。
【0054】
研磨液組成物における、アニオン性水溶性高分子の含有量は、スクラッチ低減と生産性との両立の観点から、研磨液組成物の質量に対して好ましくは0.001質量%以上1質量%以下である。
【0055】
<脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物>
研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、研磨後の基板のスクラッチ低減の観点から、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物を含有してもよい。前記脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物は、研磨速度の維持、並びにスクラッチ低減の観点から、分子内の窒素原子数又はアミノ基若しくはイミノ基の併せた数は好ましくは2個以上4個以下である。
【0056】
アミン臭低減、水への溶解性向上の観点から、N−アミノエチルエタノールアミン、N−アミノエチルイソプロパノールアミン、N−アミノエチル−N−メチルエタノールアミンからなる群から選択されることが好ましい。
【0057】
前記脂環式アミン化合物としては、研磨後の基板表面のスクラッチ及びパーティクルの低減の観点から、N−(2−アミノエチル)ピペラジン及びヒドロキシエチルピペラジンからなる群から選択されることが好ましい。
【0058】
研磨液組成物における脂肪族アミン化合物及び/又は脂環式アミン化合物の含有量は、研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、研磨液組成物の質量に対して好ましくは0.001質量%以上10質量%以下である。
【0059】
<その他の成分>
研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、必要に応じてさらにその他の成分を配合することができる。例えば、増粘剤、分散剤、塩基性物質、界面活性剤等が挙げられる。
【0060】
[研磨液組成物を用いた研磨]
本開示に係るシリカ分散液を使用して調製された研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、前記研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含む、基板の製造方法に使用できる。
【0061】
前記研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程は、一又は複数の実施形態において、不織布の有機高分子系研磨布等(研磨パッド)と被研磨基板との間に供給され、即ち、研磨液組成物が研磨パッドを貼り付けた研磨盤で挟み込まれた基板研磨面に供給され、所定の圧力の下で研磨盤及び/又は基板を動かすことにより、基板に接触しながら擦る研磨工程である。
【0062】
前記研磨液組成物は、特に精密部品用基板の製造に好適である。例えば磁気ディスク、光磁気ディスク等の磁気記録媒体の基板、光ディスク、フォトマスク基板、光学レンズ、光学ミラー、光学プリズム、半導体基板などの精密部品基板の研磨に適している。
【0063】
よって、本開示は、さらにその他の態様において、本開示に係るシリカ分散液を使用して研磨液組成物を製造すること、及び、前記研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記被研磨基板を動かして、前記研磨対象面を研磨することを含む、基板の製造方法に関する。
【0064】
本開示に係る製造方法にて得られた研磨液組成物を用いる好適な被研磨物の材質としては、例えばシリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン等の金属若しくは半金属、又はこれらの合金、ガラス、ガラス状カーボン、アモルファスカーボン等のガラス状物質、アルミナ、二酸化珪素、窒化珪素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料、ダイヤモンド、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化ガリウム等の硬質材料、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられる。これらの中でもNi−Pメッキされたアルミニウム合金基板が更に適している。
【0065】
被研磨物の形状には特に制限は無く、例えばディスク状、プレート状、スラブ状、プリズム状等の平面部を有する形状や、レンズ等の曲面部を有する形状のものに本開示の研磨液組成物は用いられる。
【0066】
基板の製造工程において、複数の研磨工程がある場合、2工程目以降に本開示に係る製造方法にて得られた研磨液組成物を用いるのが好ましく、スクラッチ及びパーティクルを顕著に低減し、優れた表面平滑性を得る観点から、仕上げ研磨工程に用いられるのがより好ましい。
【0067】
[研磨液組成物のキット]
本開示は、その他の態様として、本開示に係るシリカ分散液を含む第1液と、酸又はその塩、酸化剤、及び水を含む第2液とを含む研磨液組成物のキットに関する。第1液及び第2液は、さらに、上述の複素環芳香族化合物、アニオン性水溶性高分子、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物、及びその他の成分、又は、これらの組み合わせを含みうる。
【0068】
一又は複数の実施形態において、研磨液組成物のキットは、第1液と第2液とを混合して調製されるタイプであってもよく、第1液と第2液と水とを混合して調製されるタイプであってもよく、あるいは、第1液と第2液と水とを混合してさらに酸でpHが調整されて調製されるタイプであってもよい。研磨液組成物のキットで調製された研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、上述した基板の製造方法に使用できる。第1液と第2液の混合割合は、研磨対象物により適宜変えることができるが、運搬及び貯蔵における経済性の観点から、第1液に対し、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上であり、運搬及び貯蔵における経済性の観点から、好ましくは2以下、より好ましくは1以下である。
【0069】
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
【0070】
<1> シリカ粒子と水と防腐剤とを含むシリカ分散液であって、
前記防腐剤が、
(A)環内に >N−C−N< を含む5員環又は6員環の構造を有する化合物、及び
(B)アルデヒド基を含む化合物、
並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、シリカ分散液。
【0071】
<2> 前記防腐剤が、下記式(a−10)で表されるヒダントイン骨格を構造式中に含む化合物、下記式(a−20)で表されるN,N’,N’’−トリス(ヒドロキシエチル)ヘキサヒドロ−s−トリアジン、及び、下記式(b−10)で表されるグルタルアルデヒド、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、<1>記載のシリカ分散液。
【化5】
<3> 式(a−10)で表されるヒダントイン骨格を構造式中に含む化合物が、下記式(a−11)で表される化合物及び下記式(a−12)で表される化合物、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、<2>に記載のシリカ分散液。
【化6】
<4> 前記防腐剤の分子量が、好ましくは400以下、より好ましくは250以下である、<1>から<3>のいずれかに記載のシリカ分散液。
<5> 前記シリカ分散液における防腐剤の濃度が、好ましくは0.1μg/g以上40,000μg/g以下、より好ましくは1μg/g以上4,000μg/g以下である、<1>から<4>のいずれかに記載のシリカ分散液。
<6> 前記シリカ粒子が、コロイダルシリカである、<1>から<5>のいずれかに記載のシリカ分散液。
<7> コロイダルシリカの一次粒子の平均粒子径が、好ましくは1nm以上10μm以下、より好ましくは5nm以上5μm以下、更に好ましくは10nm以上1μm以下、より更に好ましくは15nm以上500nm以下、より更に好ましくは20nm以上300nm以下である<6>に記載のシリカ分散液。
<8> シリカ分散液におけるシリカ粒子の濃度が、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である、<1>から<7>のいずれかに記載のシリカ分散液。
<9> シリカ分散液におけるシリカ粒子の濃度が、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である、<1>から<8>のいずれかに記載のシリカ分散液。
<10> シリカ分散液のpHが、好ましくは7以上13以下、より好ましくは8以上12以下、更に好ましくは9以上11以下である、<1>から<9>のいずれかに記載のシリカ分散液。
<11> シリカ粒子と水と防腐剤とを混合放置することを含むシリカ分散液の保存方法であって、前シリカ分散液が<1>から<10>のいずれかに記載のシリカ分散液である、シリカ分散液の保存方法。
<12> <1>から<10>のいずれかに記載のシリカ分散液を用いて研磨液組成物を調製すること、及び、前記研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含む、基板の製造方法。
<13> <1>から<10>のいずれかに記載のシリカ分散液を含む第1液と、酸又はその塩、酸化剤、及び水を含む第2液とを含む研磨液組成物のキット。
【実施例】
【0072】
[シリカ分散液の調製]
コロイダルシリカ(一次粒子の平均粒子径18nm)を40質量%で含有するシリカスラリーに下記に示す防腐剤化合物a−20、a−11、a−12、b−10、101〜108を下記表1の濃度で添加してシリカ分散液を調製した(実施例1〜
3、参考例4、比較例1〜9)。pHは、9.1であった。pHは、25℃におけるpHであり、pHメータ(東亜電波工業株式会社、HM−30G)を用いて、電極の浸漬後3分後に測定した数値である(以下同様)。
【0073】
【化7】
【0074】
【化8】
【0075】
〔コロイダルシリカの一次粒子の平均粒子径の測定方法〕
まず、コロイダルシリカスラリーを固形分で1.5g分を200mLビーカーに採取し、イオン交換水100mLを加えてスターラーで混合する。次に、電位差滴定装置を用いて、0.1mol/Lの塩酸標準溶液で試料溶液のpHを3.0に調整する。塩化ナトリウム30.0gを加えスターラーで溶解して、ビーカーの150mLの標線までイオン交換水を加えスターラーで混合する。恒温水槽(20±2℃)に約30分間浸漬する。電位差滴定装置を用いて、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム標準溶液で滴定をおこない、pHが4.0から9.0に変化したときの水酸化ナトリウム標準溶液の消費量(A)を読み取る。同時に空試験をおこない、空試験の滴定に要した水酸化ナトリウム標準溶液の消費量(B)を読み取る。そして、下記計算式により平均粒子径(nm)を算出する。
平均粒子径(nm)=3100÷26.5×(A−B)÷試料採取量(g)
【0076】
〔抗菌性の試験方法〕
試験サンプル10mLに菌液(シュードモナス属細菌)を1x10
4CFU/mLとなるように接種し、室温・静置で所定の時間接触させた。経時で菌数測定を行い、菌数変化により抗菌性を評価した。菌数測定は、試験サンプルから分取した0.1mLをSCD(ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト)寒天培地に塗布して30℃で3日間培養し、得られたコロニー数から生残菌数を求め、初発菌数の対数値と生残菌数の対数値の差をLog減少菌数として算出した。
評価
〇:3Log以上の減少
×:3Log未満の減少あるいは減少せず
なお、シリカ分散液塗抹の場合、3日後に8.9×10
4CFU/gであった。
【0077】
〔透過率〕
サンプルの透過率を下記装置・条件で測定した。
測定装置: UV−Vis透過率測定装置(島津製作UV−2550)
測定波長: 190〜700 nmスキャン
測定条件:石英セル T−1−UV−10(東ソー・クォーツ株式会社)
評価
×:未添加(比較例1)と3.7%以上差がある場合(3.7%以上で研磨性能に影響がでる)
【0078】
〔着色〕
試験サンプルを目視により観察して着色の有無を確認した。
なお、着色すると、抗菌性及び研磨性能に関わらず製品の信頼性を損ねる恐れがあるため、着色しないことが好ましい。
評価
〇:目視で変色が確認できないもの
×:目視で変色が確認できたもの
【0079】
〔研磨液組成物の調製〕
実施例1〜
3、参考例4、比較例1〜9のシリカ分散液を用いて、シリカを5質量%、過酸化水素を0.5質量%含有する被処理研磨液組成物を作製した。pHの調整に硫酸を使用した。
【0080】
〔基板の研磨〕
上記研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨し、研磨速度及びスクラッチ数を評価した。評価結果を下記表1に示す。研磨条件(研磨方法)及び評価方法は以下のとおりである。被研磨基板として、アルミナ研磨材を含有する研磨液であらかじめ粗研磨し、AFM−Raが5〜15Åとした、厚さ1.27mmの外径95mmφで内径25mmφのNi−Pメッキアルミニウム合金基板を用いた。
【0081】
〔研磨条件〕
・研磨試験機:スピードファム社製、両面9B研磨機
・研磨パッド:フジボウ社製、ウレタン製仕上げ研磨用パッド
・上定盤回転数:32.5rpm
・研磨液組成物供給量:100mL/分
・本研磨時間:4分
・本研磨荷重:7.8kPa
・投入した基板の枚数:10枚
【0082】
〔スクラッチの測定条件〕
・測定機器:KLA-Tencor社製 Candela OSA6100
・評価:研磨試験機に投入した基板の中、無作為に4枚を選択し、各々の基板を10000rpmにてレーザーを照射してスクラッチを測定した。その4枚の基板の各々両面にあるスクラッチ数(本)の合計を8で除して、基板面当たりのスクラッチ数を計算し、未添加(比較例1)に対する相対値で評価した。
×:未添加(比較例1)と50%以上悪化が確認された場合
【0083】
〔研磨速度の測定方法〕
研磨前後の各基板の重さを重量計(Sartorius社製「BP−210S」)を用いて測定し、各基板の重量変化を求め、10枚の平均値を重量減少量とし、それを研磨時間で割った値を重量減少速度とした。この重量減少速度を下記の式に導入し、研磨速度(μm/min)に変換した。
研磨速度(μm/min)=重量減少速度(g/min)/基板片面面積(mm
2)/Ni−Pメッキ密度(g/cm
3)×10
6
(基板片面面積:6597mm
2、Ni−Pメッキ密度:7.99g/cm
3として算出)
得られた研磨速度の未添加(比較例1)に対する相対値を算出した。
×:未添加(比較例1)と10%以上悪化が確認された場合
【0084】
【表1】
【0085】
表1のとおり、実施例1〜
3及び参考例4のシリカ分散液は、従来防腐剤として用いられる比較例2〜9の化合物を用いたシリカ分散液が1週間程度で菌による着色や性能低下を引き起こすのに比して、防腐剤添加後3カ月以上抗菌性が維持され、シリカ分散液の着色及び透過率低下が抑制され、研磨性能が維持された。なお、実施例1〜
3及び参考例4のシリカ分散液の着色及び透過率低下の抑制と、抗菌性及び研磨特性の維持は、6カ月にわたり同様に維持されたことを確認した。
【0086】
尚、表1の比較例1は、着色及び透過率低下が抑制され、研磨性能が維持されていたが、抗菌性がないため、コンタミネーションにより着色、透過率低下の恐れがある。比較例2、4、及び5では、添加直後は問題なかったが、1カ月以内に研磨性能が悪化した(スクラッチ数が増加した)。また、比較例6及び7は、添加直後は問題なかったが、1カ月以内に着色した。