(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第二固定部は、前記第三固定部よりも前記第一固定部から離れる方向に突出する突出部を有し、前記突出部においても前記柱に当接するように設けられることを特徴とする請求項2に記載の耐震補強構造。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0014】
図1に、本発明の第一実施形態の耐震補強構造を示す。本実施形態の耐震補強構造は、建築物の躯体を補強するための耐震補強構造である。躯体は、少なくとも2本の柱1と、隣接する2本の柱1,1に架け渡される横架材2とを有する。横架材2は、隣接する2本の柱1,1の上端に架け渡される上横架材20と、隣接する2本の柱1,1の下端に架け渡される下横架材21とを有する。建築物の1階部分においては、上横架材20は梁(床梁または小屋梁)であり、下横架材21は土台である。また、2階建の建築物の2階部分においては、上横架材20は梁(小屋梁)であり、下横架材21は床梁である。
【0015】
本実施形態の耐震補強構造は、補強壁3と補強具4と補強板5と受け材6を備える。補強壁3は、横架材2から上下方向に距離をあけた箇所において2本の柱1,1に架け渡されて固定される。補強具4は、横架材2と補強壁3の間に取り付けられる。補強板5は、柱1のうち補強壁3が取り付けられる部位に固定される。補強壁3は、補強板5を介して柱1に固定される。以下では、
図1に示す状態を基準として、2本の柱1,1の並ぶ方向を左右方向とし、補強壁3に対して柱1が位置する側を前方とし、その逆方向を後方として、各構成について説明する。ちなみに、2本の横架材20,21が並ぶ方向(柱1の長手方向)が上下方向である。つまり、
図1における矢印X1で示す方向が前方向であり、その逆方向が後方向であり、矢印Y1で示す方向が右方向であり、その逆方向が左方向であり、矢印Z1で示す方向が上方向であり、その逆方向が下方向である。
【0016】
本実施形態では、補強壁3は、上横架材20から下方に距離をあけ且つ下横架材21から上方に距離をあけた箇所において、隣接する2本の柱1,1に架け渡されて固定される。言い換えると、補強壁3は、隣接する2本の柱1,1のうち、既存の天井から床までの間の部位に、上下方向に亘って固定される。そのため、補強壁3と上横架材20との間には正面視にて開口部(以下「上開口部15」という)が形成され、補強壁3と下横架材21との間には正面視にて開口部(以下「下開口部16」という)が形成される。
【0017】
補強壁3は、例えば、上下方向に並べて配置される複数枚の金属サンドイッチパネル30によって構成される。以下では、必要に応じて、金属サンドイッチパネル30をパネル30と記載する。パネル30は、
図3に示すように、二枚の金属外皮31,32の間に芯材33を充填したものである。
【0018】
金属外皮31,32は、平板状の金属板にロール成形等などの加工を施して所定の形状に形成される。前記金属板は、例えば、鋼板、亜鉛めっき鋼板、ガルバリウム鋼板(登録商標)、エスジーエル(登録商標)鋼板、塩ビ鋼板、塗装鋼板などである。金属外皮31,32の板厚は、特に限定されないが、例えば、0.3〜2.0mmである。
【0019】
芯材33は、断熱性を有するものであり、さらに防火性や耐火性を有するものであることが好ましい。芯材33は、例えば、ロックウールやグラスウールなどの無機繊維材や、ウレタンフォームやフェノールフォームなどの樹脂発泡体の成形体である。芯材33は、特に限定されないが、例えば、厚みが20〜150mmで、密度が30〜200kg/m
3である。芯材33は、パネル30の全体に亘る一枚物であっても良いし、複数個のブロック状物を並設して構成されるものであっても良い。
【0020】
また、パネル30の周端部に充填される芯材33は、上記の無機繊維材や樹脂発泡材よりも耐火性の高い材料で形成された耐火性芯材であってもよい。前記耐火性芯材は、例えば、石膏や珪酸カルシウムなどの無機材料で形成される。
【0021】
金属外皮31,32と芯材33とは、接着剤等を用いて接着されて一体化されている。パネル30は、左右方向を長手方向とし、上下方向を短手方向とし、前後方向を厚み方向とする板体であり、その一端(上端)に嵌合凸部34を有し、他端(下端)に嵌合凹部35を有する。そのため、上下に隣接して配置されるパネル30、30は、嵌合凸部34と嵌合凹部35との嵌合により接続することができる。なお、パネル30は、嵌合凸部34及び嵌合凹部35を有さないものであってもよい。また、補強壁3は、金属サンドイッチパネル30に限らず、合板や石膏ボードや金属板であってもよい。
【0022】
補強板5は、鋼板などの金属板や、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂板や、FRP(繊維強化プラスチック)などの複合材料で形成される板体である。補強板5は、本実施形態では、矩形板である。補強板5の左右幅は、柱1の後面の左右幅と同じか、それよりもやや小さい。補強板5の上下長さは、柱1に固定される補強壁3の上下長さと略同じである。補強板5は、例えば鋼板である場合、厚みが0.1〜5.0mmである。なお、補強板5は、左右両端部に前方に向けて突出する突片を有し、この左右一対の突片が柱1の左右の側面に当たるものであってもよい。
【0023】
なお、補強板5は、柱1が強度不足ではない場合には、省略可能である。つまり、補強壁3は、補強板5を介さずに柱1に直接固定されてもよい。
【0024】
受け材6は、補強壁3の上端部を受ける上受け材60と、補強壁3の下端部を受ける下受け材(図示せず)とを有する。受け材6は、その後面に補強壁3の前面が重ねられて、補強壁3を受ける。受け材6は、例えば木材であり、左右方向を長手方向とする角材である。受け材6の左右方向の長さは、隣接する2本の柱1,1間の距離と同じかそれよりも若干短い。なお、受け材6は、木製に限らず、金属製や硬質な樹脂製であってもよい。
【0025】
補強具4は、本実施形態では、
図1に示すように、2本の柱1,1と2本の横架材2,2とで構成される矩形枠体の4つの角の内側にそれぞれ配される。4つの補強具4は、その上下長さがそれぞれ、上横架材20から既存の天井材までの距離または下横架材21から既存の床材までの距離に対応しているが、基本的には、同様の構造である。以下では、必要に応じて、左上に配される補強具4を左上補強具400と記載し、右上に配置される補強具4を右上補強具401と記載し、左下に配置される補強具4を左下補強具402と記載し、右下に配置される補強具4を右下補強具403と記載する。
【0026】
4つの補強具4のうち、代表して、左上補強具400について詳しく説明する。左上補強具400は、
図2(a)及び
図4(a)〜
図4(d)に示すように、上横架材20の下面に固定される第一固定部40と、左側の柱1の内側面(右側面)に固定される第二固定部41と、補強壁3に受け材6を介して固定される第三固定部42とを一体に有する。左上補強具400は、第一固定部40と第二固定部41と第三固定部42を連結する連結部43と、第二固定部41に設けられる補強部44とを更に有する。
【0027】
左上補強具400では、連結部43は、上下方向を長手方向とし、左右方向を短手方向とし、前後方向を厚み方向とする略矩形板状である。第一固定部40は、左右方向を長手方向とし、前後方向を短手方向とし、上下方向を厚み方向とする略矩形板状である。第一固定部40は、連結部43の上端から後方に向けて突出しており、連結部43に対して略垂直である。
【0028】
第三固定部42は、左右方向を長手方向とし、前後方向を短手方向とし、上下方向を厚み方向とする略矩形板状である。第三固定部42は、連結部43の下端から後方に向けて突出しており、連結部43に対して略垂直である。
【0029】
第一固定部40と第三固定部42は、同大同形であり、平行に配置されている。第一固定部40の左右幅と第三固定部42の左右幅は、連結部43の左右幅と同じである。本実施形態では、第三固定部42と第一固定部40は、右後の隅部が平面視円弧状となっている。
【0030】
第二固定部41は、上下方向を長手方向とし、前後方向を短手方向とし、左右方向を厚み方向とする矩形板状である。第二固定部41は、連結部43の左端から後方に向けて突出しており、連結部43に対して略垂直である。第二固定部41の前後幅と第一固定部40の前後幅と第三固定部42の前後幅は、同じである。第二固定部41の上下長さは、連結部43の上下長さよりも若干短い。第二固定部41は、側面視において、第一固定部40と第三固定部42に重ならない位置に形成される。
【0031】
補強部44は、上下方向を長手方向とし、左右方向を短手方向とし、前後方向を厚み方向とする矩形板状である。補強部44は、第二固定部41の後端から、右方向に向けて突出しており、第二固定部41に対して略垂直である。補強部44は、連結部43に対して平行である。補強部44の左右長さは、連結部43の左右長さよりも短い。補強部44は、平面視にて、先端部(右端部)が第一固定部40の左後部と第三固定部42の左後部に重なるように設けられる。補強部44の上下長さは、第二固定部41の上下長さと同じである。補強部44は、正面視において、第一固定部40と第三固定部42に重ならない位置に形成される。
【0032】
なお、本実施形態では、連結部43と第一固定部40とでなされる角部、連結部43と第二固定部41とでなされる角部、連結部43と第三固定部42とでなされる角部、第二固定部41と補強部44とでなされる角部はそれぞれ、長手方向の断面が円弧状をなしている。
【0033】
第一固定部40、第二固定部41、及び第三固定部42には、それぞれ厚み方向に貫通する貫通孔45が複数形成されている。貫通孔45には、左上補強具400を固定するためのビス等の固定具7が打ち込まれる。各固定部40,41,42における複数の貫通孔45の配置は、各部材2,1,6へ強固に固定できるように、適宜設定される。例えば、第二固定部41には、複数の貫通孔45を、前後方向に交互にずらしながら上下方向に並べて配置し、第一固定部40及び第三固定部42には、複数の貫通孔45を、前後方向に交互にずらしながら左右方向に並べて配置する。
【0034】
本実施形態では、左上補強具400は、金属製であり、第一固定部40、第二固定部41、第三固定部42、連結部43、及び補強部44それぞれの厚みが例えば4.5mmである。左上補強具400は、射出成形等によって形成される。なお、左上補強具400は、金属製に限らず、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂や、FRP(繊維強化プラスチック)などの複合材料で形成されるものであってもよい。
【0035】
左上補強具400では、第三固定部42は、上受け材60を介して補強壁3の上端部に固定される。詳しくは、第三固定部42に上受け材60の左端部が載せられて、第三固定部42の貫通孔45の下方から打ち込まれる固定具7によって上受け材60が第三固定部42に固定される。そして、上受け材60の後面に補強壁3の上端部の前面が重ねられて、補強壁3の後方から打ち込まれる釘等の固定具8によって補強壁3の上端部が上受け材60に固定される。これにより、第三固定部42は上受け材60を介して補強壁3の上端部に固定される。なお、
図2(a)及び
図2(b)には、第三固定部42の複数の貫通孔45のうちの1つに固定具7を打ち込んだ例を示しているが、複数の貫通孔45のうち2つ以上の貫通孔45に固定具7を打ち込んでもよい。
【0036】
左上補強具400は、上横架材20に固定した状態で、第三固定部42に固定された上受け材60の位置が既存の天井材よりも下方に位置する上下長さで形成される。
【0037】
右上補強具401は、上述した左上補強具400と左右対称に設けられる。すなわち、右上補強具401では、連結部43に対する第一固定部40と第三固定部42の配置は左上補強具400と同じであり、第二固定部41は、連結部43の右端から後方に向けて突出している。そして、補強部44は、第二固定部41の後端から左方向に向けて突出している。
【0038】
なお、本実施形態では、左上補強具400と右上補強具401とは上下長さが同じであるため、左上補強具400を正面視にて180度回転させることで、右上補強具401として用いることができる。このとき、第一固定部40が補強壁3に固定される部位となり、第三固定部42が上横架材20に固定される部位となる。
【0039】
また、左下補強具402は、上述した左上補強具400と上下対称に設けられる。すなわち、左下補強具402では、連結部43に対する第二固定部41と補強部44の配置は、左上補強具400と同じであり、第一固定部40は、連結部43の下端から後方に向けて突出し、第三固定部42は、連結部43の上端から後方に向けて突出している。なお、本実施形態では、左下補強具402は、左上補強具400と上下長さが同じである場合、左上補強具400を左下補強具402として用いることができる。このとき、第一固定部40が補強壁3に固定される部位となり、第三固定部42が下横架材21に固定される部位となる。
【0040】
また、右下補強具403は、上述した左下補強具402と左右対称に設けられる。すなわち、右下補強具403では、連結部43に対する第一固定部40と第三固定部42の配置は左下補強具402と同じであり、第二固定部41は、連結部43の右端から後方に向けて突出している。そして、補強部44は、第二固定部41の後端から左方向に向けて突出している。
【0041】
なお、本実施形態では、左下補強具402と右下補強具403とは上下長さが同じであるため、左下補強具402を正面視にて180度回転させることで、右下補強具403として用いることができる。
【0042】
左下補強具402と右下補強具403では、第三固定部42の下面に受け材6(下受け材)の左右の端部の上面が重ねられて、第三固定部42の貫通孔45の上方から打ち込まれる固定具7によって下受け材の左右の端部が第三固定部42に固定される。
【0043】
本実施形態では、各補強具400,401,402,403は、その上下長さが同じ場合には、同一形状の補強具4で構成することができる。
【0044】
以上説明した本実施形態の耐震補強構造は、
図5に示すように、土壁11を用いた既存建築物の躯体の耐震補強を行う。土壁11を用いた既存建築物は、昭和56年以前に建てられたものに多くみられる。
【0045】
土壁11は、隣接する2本の柱1,1間に形成されている。土壁11は、例えば、隣接する2本の柱1,1の間に、細長い竹や木材を縄などで結んだ網目状の下地材を形成し、この下地材に壁土を塗り込んで形成したものである。土壁11の後面は、柱1の後面よりも前方に位置している。なお、この土壁11の後面から柱1の後面までの前後長さ以下に、補強具4の前後長さを設定することが好ましい。隣接する2本の柱1,1及び土壁11の屋外側(前側)には、木摺り12、ラス網13、モルタル14がこの順に重ねて設けられ、モルタル14の表面(前面)には塗装が施されている。
【0046】
上述した既存建築物の躯体に、以下のようにして本実施形態の耐震補強構造を施工する。
【0047】
まず、補強板5を柱1の屋内面(後面)に沿わせて配置し、釘等の固定具9で補強板5を柱1に固定する。ここで、補強板5は、長手方向(上下方向)に亘って、複数の固定具9を用いて、柱1に固定される。複数の固定具9は、上下方向に所定の間隔を介して並ぶ。
【0048】
そして、2本の柱1,1と2本の横架材2,2とで構成される矩形枠体の4つの角部の内側にそれぞれ、補強具4(400,401,402,403)を固定する。このとき、各補強具4の第一固定部40を横架材2(上横架材20または下横架材21)に当て、固定具7を第一固定部40の貫通孔45に打ち込んで第一固定部40を横架材2に固定する。またこのとき、各補強具4の第二固定部41を柱1の内側面(右側の柱1の左側面または左側の柱1の右側面)に当て、固定具7を第二固定部41の貫通孔45に打ち込んで第二固定部41を柱1に固定する。このとき、第二固定部41は、横架材2と補強壁3の間において上下方向に亘って柱1に当接した状態で固定される。なお、2本の柱1,1間にある土壁11が補強具4の設置の邪魔になる場合は、土壁11の一部を取り除いて、補強具4を固定する。また、既存の天井材や床材が補強具4の設置の邪魔になる場合は、天井材や床材を一部取り除いて、補強具4を固定する。ちなみに、補強板5の固定と補強具4の固定はどちらを先に行ってもよい。
【0049】
次いで、上側に位置する左右一対の補強具4(400,401)の第三固定部42の上面に、上受け材60を架け渡し、固定具7を第三固定部42の貫通孔45の下方から打ち込んで、上受け材60の左右の端部を第三固定部42に固定する。そして、下側に位置する左右一対の補強具4(402,403)の第三固定部42の下面に、受け材6(下受け材)を架け渡し、固定具7を第三固定部42の貫通孔45の上方から打ち込んで、下受け材の左右の端部を第三固定部42に固定する。このとき、上受け材60は、既存の天井材よりも下方に突出し、下受け材は、既存の床材よりも上方に突出する。
【0050】
次いで、柱1に固定した補強板5の屋内面(後面)に、パネル30の側端部の裏面(前面)を沿わせ、パネル30の後方から打ち込んだ固定具8によって、パネル30を柱1に固定する。パネル30は、隣接する2本の柱1,1間に架け渡すようにして配設され、パネル30の左右両側端部がそれぞれ複数本の固定具8によって柱1に固定される。このとき、複数本の固定具8は、パネル30の左右両側端部に上下方向に所定の間隔を介して並ぶ。上記の方法で、複数枚のパネル30を上下左右に並べながら柱1に取り付ける。このとき、上下に隣接するパネル30は、嵌合凸部34と嵌合凹部35との嵌合によって接続される。
【0051】
複数枚のパネル30のうち、一番上に配されるパネル30については、その上端部の前面を上受け材60の後面に沿わせ、パネル30の後方から打ち込んだ固定具8によって、パネル30の上端部を上受け材60に固定する。この一番上に配されるパネル30の上端部は、その長手方向(左右方向)に亘って、複数本の固定具8を打ち込むことによって、上受け材60に固定される。複数本の固定具8は、パネル30の上端部に左右方向に所定の間隔を介して並ぶ。このとき、一番上に配されるパネル30の固定は、既存の天井材を取り外すことなく、天井材よりも下方で行われる。つまり、一番上に配されるパネル30は、その上端が天井材の下面に当接するか、または、その上端と天井材の下面との間に隙間が形成されるように配置される。
【0052】
また、複数枚のパネル30のうち、一番下に配されるパネル30については、その下端部の前面を、下受け材の後面に沿わせ、パネル30の後方から打ち込んだ固定具8によって、パネル30の下端部を下受け材に固定する。この一番下に配されるパネル30の下端部は、その長手方向に亘って、複数本の固定具8を挿通することによって、下受け材に固定される。複数本の固定具8は、パネル30の下端部に左右方向に所定の間隔を介して並ぶ。このとき、一番下に配されるパネル30の固定は、既存の床材を取り外すことなく、床材よりも上方で行われる。つまり、一番下に配されるパネル30は、その下端が床材の上面に当接するかまたは天井材の上面との間に隙間が形成されるように配置される。
【0053】
なお、上下に並んで配置される複数枚のパネル30は、下側から順に柱1に固定してもよいし、上側から順に柱1に固定してもよい。一番上もしくは一番下に配されるパネル30は、固定先の受け材6の位置に合わせて切断する等して上下長さが調整された上で、柱1及び受け材6に固定される。
【0054】
補強壁3(複数枚のパネル30)を柱1に固定し終わった後、補強壁3の屋内面(後面)には、クロスや内装用塗装等の内装仕上げ材を設ける。また、既存の天井材や床材を一部取り外した場合には修繕する。
【0055】
以上説明した本実施形態の耐震補強構造では、隣接する2本の柱1,1のうち、天井と床との間の部位を補強壁3によって補強することができる。そして、本実施形態の耐震補強構造では、補強壁3に固定される補強具4によって、隣接する2本の柱1,1とこれに架け渡される上下2本の横架材2,2のうち、天井よりも上方の部位と床よりも下方の部位を補強することができる。したがって、本実施形態の耐震補強構造では、一体化した補強壁3と補強具4によって、建築物の躯体の柱1と横架材2を上下方向に亘って補強することができ、これにより、その他の壁、天井、筋交いなどを含めた建築物全体の耐震性を向上させることができる。
【0056】
また、本実施形態の耐震補強構造では、柱1に第二固定部41を固定し、横架材2に第一固定部40を固定することによって、柱1と横架材2との接合部のせん断破壊を抑制できる。
【0057】
また、本実施形態の耐震補強構造では、第二固定部41によって柱1を横架材2と補強壁3の間において上下方向に亘って補強することができ、これにより、柱1の曲げ破壊やせん断破壊を抑制できる。
【0058】
また、本実施形態の耐震補強構造では、補強壁3として、合板や石膏ボードに比べて断熱性及び強度の高い金属サンドイッチパネル30を用いることで、合板や石膏ボードを用いる場合よりも既存建築物の断熱性及び耐震性を向上させることができる。また、合板や石膏ボードを用いる場合よりも壁内結露を少なくすることができ、建築物の長寿命化を図ることができる。
【0059】
また、本実施形態の耐震補強構造では、柱1に補強板5を取り付け、この補強板5を介して補強壁3を柱1に固定具8で固定するようにしたことで、柱1を補強板5で補強することができ、固定具8の打ち込みにより柱1の割れ等が発生することを抑制できる。
【0060】
また、本実施形態の耐震補強構造は、既存の天井材や床材を略剥がすことなく、建築物の屋内側から施工することができて、簡単に施工できるものとなっている。なお、補強具4を柱1のうち天井よりも上方の部位と床よりも下方の部位に取り付ける場合に、天井や床が邪魔になる場合には、天井や床の一部に施工用の開口を設けてもよい。このようにした場合でも、既存の天井材や床材を全体的に剥がす必要がなくて、簡単に施工することができる。
【0061】
また、本実施形態の耐震補強構造は、屋内側から施工することができるため、外装の屋外側に高い足場を設置する必要もなく、省力化や低コスト化を向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態の耐震補強構造では、外装や土壁11を躯体から除去する必要が略なく、除去した外装や土壁11を処理する費用を抑えることができる。また、外装や土壁11を除去する際に生じる粉塵の発生も抑制でき、粉塵による近隣住宅への被害も抑えることができる。また、本実施形態の耐震補強構造では、改修後も土壁11を柱1,1間に残存させることができるため、土壁11の断熱性及び耐火性に加えて金属サンドイッチパネル30の断熱性や耐火性を付与することができ、既存の建築物よりも断熱性や耐火性を向上させることができる。
【0063】
また、本実施形態の耐震補強構造は、土壁11を用いた既存建築物の躯体の屋外側に設置して、耐震補強をしてもよい。この場合、既存建築物の壁の外装(木摺り12とラス網13とモルタル14)を除去した後、上記と同じように、補強壁3と補強具4と補強板5を躯体の屋外側に取り付ける。施工後の補強壁3の屋外面には、例えば、防水シートを介してサイディング材や外装用塗装等の外装仕上げ材を設ける。
【0064】
また、本実施形態の耐震補強構造では、外張改修工事時には、下屋等の屋根部の屋内側に位置する柱1と上横架材20に補強具4を取り付け、柱1のうち下屋等の屋根部よりも下方の部位に補強壁3を取り付けるようにすることで、下屋等の屋根部を略取り除くことなく、耐震改修を行うことができる。
【0065】
尚、上記では、土壁11を有する比較的古い既存建築物の改修について説明したが、これに限らず、土壁11を有さない比較的新しい既存建築物に対しても上記補強構造を適用することができる。比較的新しい既存建築物の壁は、隣接する2本の柱1,1間にグラスウール等の断熱材を充填して形成されている場合が多い。また、このような壁の外装はセメント板等で形成される外装材で構成されていることが多い。また、このような壁の内装は石膏ボードや合板などを設けて形成されていることが多い。このような既存建築物に対しては、まず、内装や外装を除去した後、上記と同様にして、補強壁3と補強具4と補強板5を躯体に取り付けることができる。この場合、断熱材を改修後の残存させることができるため、壁の断熱性を大きく低下させずに耐震性を向上させることができる。
【0066】
上述した本実施形態の耐震補強構造は、天井勝ち及び床勝ちに対応した仕様に限らず、壁と天井の取り合いについては天井勝ちで、壁と床との取り合いについては壁勝ちに対応した耐震補強構造であってもよい。また、本実施形態の耐震補強構造は、壁と天井の取り合いについては壁勝ちで、壁と床との取り合いについては床勝ちに対応した仕様であってもよい。
【0067】
つまり、本実施形態の耐震補強構造は、柱1のうちの天井よりも下の部分全体に補強壁3を配置し、天井によって隠れる補強壁3から上横架材20までの上開口部15にのみ、補強具4を配置した構造であってもよい。この場合、補強壁3の下端部は、長手方向に亘って、下横架材21に複数の固定具8によって固定される。
【0068】
また、本実施形態の耐震補強構造は、柱1のうち床よりも上の部分全体に補強壁3を配置し、床によって隠れる補強壁3から下横架材21までの下開口部16にのみ、補強具4を配置した構造であってもよい。この場合、補強壁3の上端部は、長手方向に亘って、上横架材20に複数の固定具8によって固定される。
【0069】
また、本実施形態の耐震補強構造は、柱1が入隅に位置する柱である場合、柱1の内側面に平断面L字状の補強板5を取り付け、補強板5のうち柱1の後面と面一となる部位に補強壁3の側端部を固定して、補強壁3を柱1に間接的に固定すればよい。この場合、補強板5と受け材6の取り合いは、受け材6勝ちとすればよい。つまり、補強壁3は、受け材6に固定される端部を除いた部分が補強板5に固定されるようにすればよい。
【0070】
続いて、
図6(a)〜(c)に示す本発明の第二実施形態の耐震補強構造について説明する。第一実施形態の耐震補強構造と同じ構成については図中に同じ符号を付けて詳しい説明を省略する。本実施形態の耐震補強構造は、第一実施形態の補強構造とは、補強具4の形状が異なる。
【0071】
本実施形態では、左上補強具400は、
図7(a)〜(e)に示すように、第二固定部41の上下長さが、連結部43の上下長さよりも長く、第二固定部41の下端は、第三固定部42よりも下方に位置している。つまり、左上補強具400では、第二固定部41は、第三固定部42よりも第一固定部40から離れる側(下側)に突出する突出部46を有し、この突出部46においても柱1に当接するように設けられている。
【0072】
本実施形態では、突出部46には、貫通孔45が形成されている。第三固定部42は、左右幅が第一固定部40に比べて短く、第三固定部42の左端が第一固定部40の左端よりも右側に位置している。そして、第三固定部42の左端は、補強部44の右端よりも右側に位置している。
【0073】
突出部46の前端からは、第二補強部47が右方向に向けて突出しており、第二補強部47は突出部46に対して略垂直である。第二補強部47の左右幅は、補強部44の左右幅と同じであり、第二補強部47は補強部44と平行である。第二補強部47の上端は連結部43の下端に連続している。本実施形態では、連結部43の下端は、第三固定部42が突出する部位が、それ以外の部位よりも下方に位置するように段差を有している。
【0074】
本実施形態の左上補強具400は、固定具7が打ち込まれて、第二固定部41を柱1に固定した状態で、突出部46が、柱1のうち補強壁3が固定される部位の内側面(右面)に当接した状態で固定されて、この部位の補強を行うことができる。
【0075】
また、本実施形態では、左下補強具402は、
図8(a)〜(e)に示すように、第二固定部41の上下長さが、連結部43の上下長さよりも長く、第二固定部41の上端は、第三固定部42よりも上方に位置している。左下補強具402では、第二固定部41は、第三固定部42よりも第一固定部40から離れる側(上側)に突出する突出部46を有し、この突出部46においても柱1に当接するように設けられている。
【0076】
突出部46には、貫通孔45が複数形成されている。複数の貫通孔45は、前後方向に交互にずれながら上下方向に所定の間隔を介して並ぶ。第二補強部47の左右幅は、補強部44の左右幅より長く、第二補強部47は補強部44と平行である。第二補強部47の下端は連結部43の上端に連続している。本実施形態では、連結部43の上端は、第三固定部42が突出する部位が、それ以外の部位よりも上方に位置するように段差を有している。また、第三固定部42の前後幅は、第一固定部40の前後幅及び第二固定部41の前後幅よりも短い。
【0077】
上述した左下補強具402は、固定具7が打ち込まれて、第二固定部41を柱1に固定した状態で、突出部46が、柱1のうち補強壁3が固定される部位の内側面(右面)に当接した状態で固定されて、この部位の補強を行うことができる。
上述した左上補強具400及び左下補強具402と、これらと対称な形状の各補強具401,403を、隣接する2本の柱1,1と上下2本の横架材2,2と補強壁3とに固定することで、地震発生時等に、上開口部15及び下開口部16に臨む部位だけでなく補強壁3の前方においても、柱1から各補強具4の方向にかかる荷重だけでなく、補強具4から柱1の方向にかかる荷重も各補強具4で受けることができ、建築物の躯体の耐震性を向上させることができる。
【0078】
また、本発明の耐震補強構造では、第二固定部41によって柱1を横架材2と補強壁3の間の部位だけでなく、第三固定部42よりも先の部位(つまり補強壁3に重なる部位)まで補強することができ、柱1の曲げ破壊やせん断破壊を、第一実施形態の耐震補強構造よりも更に抑制することができる。
【0079】
なお、上述した第二実施形態では、突出部46に貫通孔45が形成されている補強具4について説明したが、補強具4は、突出部46に貫通孔45が形成されていないものであってもよい。この場合でも、第二固定部41の突出部46を第三固定部42よりも先の部位(つまり補強壁3に重なる部位)に当接させることで、柱1を横架材2と補強壁3の間の部位だけでなく、第三固定部42よりも先の部位(つまり補強壁3に重なる部位)まである程度補強することができ、柱1の曲げ破壊やせん断破壊を、第一実施形態の耐震補強構造よりも抑制することができる。
【0080】
また、上述した第一及び第二実施形態では、各補強具4を既存の天井位置または既存の床位置に対応した上下長さとなるように形成した例について説明したが、各補強具4は一定の上下長さのものであってもよい。すなわち、各補強具4は、各補強具4に固定される受け材6の位置が天井よりも下方に位置するか、床よりも上方に位置する上下長さであればよい。この場合、受け材6に固定される補強壁3の位置を上端部や下端部からずらした位置としたり、受け材6に固定される補強壁3と天井との間や、受け材6に固定される補強壁3と床との間に、隙間を埋めるための板材を設置する等すればよい。
【0081】
また、上述した第一及び第二実施形態では、補強具4の第三固定部42を受け材6を介して補強壁3に固定されるように設けた例について説明したが、補強具4の第三固定部42は、受け材6を介さずに補強壁3に直接固定されるように設けたものであってもよい。
【0082】
以上まとめると、本発明の耐震補強構造は、第一及び第二実施形態のように、隣接する2本の柱1,1と、2本の柱1,1に架け渡され横架材2とを有する建築物、あるいはその躯体を補強するための耐震補強構造である。本発明の耐震補強構造は、横架材2から上下方向に距離をあけた箇所において2本の柱1,1に架け渡されて固定される補強壁3と、横架材2と補強壁3の間に取り付けられる補強具4とを備える。補強具4は、横架材2に固定される第一固定部40と、柱1に固定される第二固定部41と、補強壁3に固定される第三固定部42とを有する。
【0083】
以上のような構成とすることで、本発明の耐震補強構造は、補強壁3によって、柱1のうち例えば天井と床との間の部位を補強することができ、補強壁3に固定される補強具4によって、柱1及び横架材2のうち例えば天井よりも上方の部位と床よりも下方の部位を補強することができる。したがって、本発明の耐震補強構造は、建築物の躯体の柱1と横架材2を上下方向に亘って補強することができ、建築物の耐震性を向上させることができる。また、本発明の耐震補強構造では、柱1に第二固定部41を固定し、横架材2に第一固定部40を固定することによって、柱1と横架材2との接合部のせん断破壊を抑制できる。
【0084】
また、本発明の耐震補強構造は、第一及び第二実施形態のように、第二固定部41は、横架材2と補強壁3の間において上下方向に亘って柱1に当接するように設けられることが好ましい。
【0085】
以上のような構成とすることで、本発明の耐震補強構造は、第二固定部41によって柱1を横架材2と補強壁3の間において上下方向に亘って補強することができ、これにより、柱1の曲げ破壊やせん断破壊を抑制できる。
【0086】
また、本発明の耐震補強構造は、第二実施形態のように、第二固定部41は、第三固定部42よりも第一固定部40から離れる方向に突出する突出部46を有し、突出部46においても柱1に当接するように設けられることが好ましい。
【0087】
以上のような構成とすることで、本発明の耐震補強構造では、第二固定部41によって柱1を横架材2と補強壁3の間の部位だけでなく、第三固定部42よりも先の部位(つまり補強壁3に重なる部位)まで補強することができる。これにより、本発明の耐震補強構造では、柱1の曲げ破壊やせん断破壊を更に抑制できる。
【0088】
また、本発明の耐震補強構造では、補強壁3は、二枚の金属外皮31,32の間に芯材33を充填した金属サンドイッチパネル30であることが好ましい。
【0089】
このように本発明の耐震補強構造では、補強壁3として、合板や石膏ボードに比べて断熱性及び強度の高い金属サンドイッチパネル30を用いることで、合板や石膏ボードを用いる場合よりも既存建築物の断熱性及び耐震性を向上させることができる。また、合板や石膏ボードを用いる場合よりも壁内結露を少なくすることができ、建築物の長寿命化を図ることができる。
【0090】
以上、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内であれば、適宜の設計変更が可能である。