特許第6376665号(P6376665)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376665
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20180813BHJP
【FI】
   C22C21/02
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-506167(P2015-506167)
(86)(22)【出願日】2013年4月3日
(65)【公表番号】特表2015-514871(P2015-514871A)
(43)【公表日】2015年5月21日
(86)【国際出願番号】EP2013056968
(87)【国際公開番号】WO2013156301
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2015年12月25日
(31)【優先権主張番号】12164352.2
(32)【優先日】2012年4月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514145486
【氏名又は名称】ゲオルク フィッシャー ドルックグス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Georg Fischer Druckguss GmbH & Co KG
(73)【特許権者】
【識別番号】514145475
【氏名又は名称】ジー・エフ キャスティング ソリューションズ アルテンマルクト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】GF Casting Solutions Altenmarkt GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】シュトゥアート ヴィースナー
(72)【発明者】
【氏名】ライフ シュペッカート
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−213354(JP,A)
【文献】 特開平08−041575(JP,A)
【文献】 特開2002−339030(JP,A)
【文献】 特開2009−203516(JP,A)
【文献】 50周年記念事業実行委員会 記念出版部会編,アルミニウムの製品と製造技術,社団法人軽金属学会,2001年10月31日,第388−389,419−423頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
9〜11.5質量%のケイ素、0.5〜0.8質量%のマンガン、0.2〜1.0質量%のマグネシウム、0.1〜1.0質量%の銅、0.2〜1.5質量%の亜鉛、0.05〜0.4質量%のジルコニウム、0.01〜0.4質量%のクロム、最大0.2質量%の鉄、最大0.15質量%のチタン、0.01〜0.02質量%のストロンチウム、および残分としてアルミニウムおよび合計最大0.5質量%の製造に起因する不純物から成る、自動車の構造部材および走行装置部材用のアルミニウム合金であって、T6熱処理後に、200MPaを超える耐力Rp0.2および6%を超える破断伸びAを同時に示すか、または鋳造状態において120MPaを超える耐力Rp0.2および9%を超える高い破断伸びAを同時に示すか、またはT6熱処理後に10%を超える破断伸びを示す、前記アルミニウム合金。
【請求項2】
前記アルミニウム合金が、0.4〜1.5質量%の亜鉛を含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項3】
前記アルミニウム合金が、0.15〜0.5質量%の銅を含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項4】
前記アルミニウム合金が、0.3〜0.5質量%の銅を含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項5】
前記アルミニウム合金が、0.2〜0.8質量%のマグネシウムを含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項6】
前記アルミニウム合金が、0.01〜0.3質量%のクロムを含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項7】
請求項1に記載のアルミニウム合金の、自動車の衝突および強度に関する構造部材および走行装置部材のダイキャストのための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理後に200MPaを超える耐力Rp0.2および6%を超える破断伸びAを同時に、または鋳造状態において120MPaを超える耐力Rp0.2および9%を超える比較的高い破断伸びAを同時に、またはT6熱処理後に10%を超える破断伸びを示す、高い強度を有する部材用、特に自動車の構造および走行装置部材用アルミニウム合金に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイキャスト法で製造された構造部材、特に壁厚の薄い部材において、また走行装置部材用ダイキャスト法の適用の際にも、良好な流動性およびキャビティ充填性および凝固特性は重要である。壁厚の薄い構造部材は、特に自動車産業にとって興味深い。なぜなら、同程度の部材機能において、より少ない材料使用量によって重量の利点が得られ、これは、運転コストおよび環境負荷の削減をももたらすからである。
【0003】
ダイキャスト技術のさらなる開発によって、今日、より高い伸び率でより高い強度を有する複雑な部材を製造することが可能である。走行装置部材は、多くの場所で、例えばシェルモールド鋳造法のような他の鋳造法で製造される。このことは、より確実な運転事例を保証するために、そこで求められる強度をダイキャスト法においては達成することができないか、または十分な伸び率で達成することができないことに基づいている。
【0004】
要求される機械的性質、特に高い延性を得るために、AlSi10MnMgタイプのダイキャスト合金からなる構造部材および走行装置部材においては、たいてい熱処理が、たとえばT6(溶体化熱処理、焼入れ処理および熱時効処理)またはT7(溶体化熱処理、焼入れ処理および過時効処理)に従って行われる。これによって、任意の部材の鋳物組織は変化し、強度および破断伸びに関する比較的高い要求が満足される。鋳造状態におけるこのタイプの合金が、4〜5%の破断伸びAの際に、約110MPaの耐力Rp0.2を有する一方で、T6熱処理により、少なくとも7%の伸び率で、150MPaを上回る上昇が達成されうる。このことは、合金元素であるMgおよびSiが関与している析出硬化の硬化作用に基づいている。さらにSi共晶は鋳造することにより、延性が増大する。そのような熱処理は、たとえば以下のように行われる:450〜535℃の温度領域における溶体化熱処理のあとに、焼入れ処理を、水中または約100℃を下回る温度の空気中で行う。溶体化熱処理により合金元素は、拡散過程を通して均一に微細に分散され、かつ焼入れによりα‐Al中に強制的に結合される。さらにSi共晶は、球状化される。すると合金は高い延性を有するが、強度は低い。後続の150〜250℃での熱時効処理により、細かく均質に分散されたMgSi析出物が形成され、これにより材料強度もまた高まる。T6熱処理の温度図によって、機械的特性を強度または破断伸びのいずれかへと最適化することができ、それによって極めて広範囲に及ぶ多様な特性フォリオ(Eigenschaftsfolio)およびそれにより多様な製品フォリオ(Produktfolio)を合金により得ることができる。生産コストを削減するためには、T5熱処理、つまり先行する溶体化熱処理が行われない、150〜250℃での熱時効処理でも十分である。この場合においても強度の上昇は、わずかな程度ではあるが、MgSi析出物の形成により引き起こされる。なぜなら、鋳造ツールから取り出された部材の焼入れ作用はあまり強くなく、かつそれゆえに、α‐Al中で強制的に溶解されるマグネシウムの割合もまた、低下するからである。
【0005】
一つの欠点は、AlSi10MnMgタイプの慣用のダイキャスト合金には、合金組成に基づいて、硬化ポテンシャル、ひいては高い伸び率を維持しながら強度を向上するには限界があることである。
【0006】
耐力Rp0.2に関して600MPaまでのはるかに高い強度は、AlZnMg鍛錬合金およびAlMgCu鍛錬合金の比較的高い硬化ポテンシャルに基づき達成される。これらの合金タイプでは、硬化作用は、合金元素Mg、CuおよびZnの析出硬化に基づく(W.Hufnagel等著、“Aluminium‐Taschenbuch 第14版”、Aluminium‐Verlag Duesseldorf、1988、46ページ以降)。しかしながらこれらの合金は、熱亀裂への傾向と同様に鋳造ツールにおける粘着傾向にも基づいて、ダイキャスト鋳造には適切ではない。
【0007】
ダイキャスト法で製造される構造部材または走行装置部材への更なる要求として、強度および伸び率に対する高い要求に加え、耐食性、溶接性および鋳造ツールの耐久性を挙げることができる。スムーズな車体の組み立て作業を保証することができるためのもう一つの要件は、熱処理後の部材の寸法精度である。
【0008】
熱処理自体の経済的な付加コストに加え、費用のかかる溶体化熱処理は、部材が急激な焼入れ処理により変形を生じる傾向にあり、これは機械的な後処理および欠陥品の増加をもたらしうるという欠点を持つ。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】W.Hufnagel等著、“Aluminium‐Taschenbuch 第14版”、Aluminium‐Verlag Duesseldorf、1988、46ページ以降
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、強度の向上と同時に高い伸び率により、ダイキャスト法において構造部材並びに走行装置部材をも形成することを可能にする、アルミニウムダイキャスト合金を提供することである。このことは、好ましくは、高い機械的要求(例えば6%を超える破断伸びの際に200MPaを超える耐力Rp0.2)および構成部材形状に基づいて、ダイキャスト法よりもむしろ他の方法において製造される走行装置部材を含む。本発明はまた、良好な鋳造性およびキャビティ充填性を確保することも課題としている。さらに合金は、できるだけ多くの接合技術を可能にし、寸法精度が高く、かつ良好な耐食性を有するべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、本発明によれば、アルミニウム合金が、9〜11.5質量%のケイ素、0.5〜0.8質量%のマンガン、0.2〜1質量%のマグネシウム、0.1〜1.0質量%の銅、0.2〜1.5質量%の亜鉛、0.05〜0.4質量%のジルコニウム、0.01〜0.4質量%のクロム、最大0.2質量%の鉄、最大0.15質量%のチタン、0.01〜0.02質量%のストロンチウム、および残分としてアルミニウムおよび合計最大0.5質量%までの製造に起因する不純物からなることにより解決され、そのことにより、鋳造状態であっても、または熱処理後、例えばT5、T6、T7または他の公知の熱処理後であっても、高い強度および高い伸び率が同時に確保されている。熱時効処理は、更なるプロセスステップ内、例えば塗装工程においても、部材中へ導入することができる。
【発明の効果】
【0012】
要求される品質、とりわけ強度および伸び率に関する品質の達成は、合金の選択により、著しく影響を受けうる。高い強度を目標とする本発明による合金組成は、ここでは200MPaを超える耐力Rp0.2および10%を超える破断伸びAに関する目標範囲を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によれば、合金は、150〜250℃の温度での熱時効処理により利用される、高い硬化ポテンシャルを有する。開発の結果として、少量の銅または亜鉛の添加により、十分な耐食性で伸び率の損失なしに、有意に強度を向上する作用が達成されることが明らかになった。所望の作用は、0.1〜1.0質量%の銅、有利には0.15〜0.5質量%の銅(かつ、さらに好ましくは0.3〜0.5質量%の銅)の添加、かつ0.2〜1.5質量%の亜鉛、有利には0.4〜1.5質量%の亜鉛の添加により達成される。亜鉛の添加はさらに、鋳造性およびキャビティ充填性を改善する。
【0014】
上記割合内の有利な比率での銅および亜鉛の組み合わされた添加は、十分な耐食性で再度強度の向上を可能にする。
【0015】
ケイ素の合金割合は、9〜11.5質量%である。ケイ素の合金化は、凝固収縮を低減し、ひいては良好な鋳造性および良好なキャビティ充填性に役立つ。
【0016】
0.2〜1.0質量%のマグネシウム、有利には0.2〜0.8質量%のマグネシウムの添加は、上述した析出硬化に基づく強度を増す作用を引き起こす。さらに銅および亜鉛に対する有利な比率での添加は、本発明によるアルミニウムダイキャスト合金の腐食傾向を低減する。
【0017】
ジルコニウムの添加は、それと同時に強度が低下することなく伸び率の向上をもたらす。なぜなら、これによってより微細な共晶組織が存在するからである。本発明によるダイキャスト合金のジルコニウム含有率は、0.05〜0.4質量%である。
【0018】
ストロンチウムの添加により、AlSi共晶の粗大なおよび針状の形成は回避される。0.01〜0.02質量%のストロンチウムの添加により、共晶は、微細でかつむしろ層状構造(ラメラ構造)で形成され、並びに過剰処理ともいわれる、改良処理が行われないことの回避に役立つように変性される。
【0019】
クロムの添加は、機械特性のさらなる向上を引き起こし、ここで含有率は、0.01〜0.4質量%、有利には0.01〜0.3質量%である。
【0020】
マンガンおよび鉄の組み合わされた含有量は、主として鋳造ツールの耐久性および離型性に影響を与える。所望の作用は、最大0.2質量%の鉄および0.5〜0.8質量%のマンガン含有率の添加で達成される。鉄含有量をわずかに保つことは、組織において針状のAlFeSi相の形成による材料の脆化を回避するのに有利である。マンガンを同時に添加することにより、鉄含分の少ない溶融物による鋳造ツールに対する過剰な攻撃を低減でき、かつ付着傾向を低減することにより離型性ひいては寸法精度が高まる。ただし、鉄、マンガンおよびクロムを同時に添加する場合には、重力偏析の形成を回避するために、有利な比率を調整しなければならない。なぜなら、これらは流動性にも付着傾向にもネガティブに影響を与えるからである。
【0021】
チタンの添加は、アルミニウムデンドライトの形成をもたらす一方で、核の提供によるα‐Alの微細化をもたらす。チタン含有率は最大0.15質量%である。
【0022】
新規のアルミニウム合金の更なる利点および特徴は、以下の実施例において明らかであり、その際本発明は、実施例のみに制限されるものではない。
【実施例】
【0023】
ダイキャスト部材の形状の多数の部材試験体および2つの球形試験体は、ダイキャスト法で以下の合金組成を有する2種類のアルミニウム合金から製造された:
【表1】
【0024】
このダイキャストに続き、2つの異なるT6熱処理を行い、かつ引張試験片は、ダイキャスト部材から取り出された。これらの熱処理後および鋳造状態において確認された機械的性質の特性値は、以下の表から確認することができる:
【表2】
【0025】
前記表から、熱処理後の合金1および2の試験体は、熱処理の実施によって270MPaを越える耐力Rp0.2および9%を超える高い破断伸びAを同時に、または12%を超える高い破断伸びで140MPaを越える耐力Rp0.2を有することがわかる。これによって、本発明によるアルミニウム合金は、熱処理に応じて、特に衝突および強度に関連する、自動車の走行装置部品および構造部品の、ダイキャスト法での製造に適していることが明らかになった。ダイキャスト方法での自動車の走行装置部材の製造において、200MPaを超える耐力Rp0.2および6%を超える破断伸びは同時に達成されるべきである。上記で述べたアルミニウム合金により、本発明による高い延性を維持しながらの強度の向上に基づき、そのような部材に通常使用される、シェルモールド鋳造または砂型鋳造のような他の方法に代えて、ダイキャスト方法でそのような走行装置部材の形成が可能になる。
【0026】
前記表からも同様に明らかなように、本発明によるアルミニウム合金は、ダイキャスト法での自動車の衝突および強度に関する構造部材および走行装置部材の製造にも適している。それというのも、120MPaを超える耐力Rp0.2および10%を超える破断伸びが同時に、特に高いエネルギー吸収および成形性を確保するために達成されるべきであるからである。このアルミニウム合金は、ここで要求される強度特性同様に、鋳造状態にて9%を超える破断伸びAを達成する。
【0027】
また、更なる試験において、そのような合金の良好な耐食性および溶接性が明らかになった。
【0028】
本発明によるアルミニウム合金は、特に自動車の強度および衝突に関する部材の製造に適している。