(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
船体の船尾に取り付けたプロペラの前方に取り付けられる船尾用ダクトにおいて、ダクト本体を90度から140度の角度範囲の略円弧状に形成し、前記船体を後方から前方視した状態で前記プロペラの上下方向の中心線に対して前記ダクト本体が非対称を成すように、前記プロペラが時計回りの場合は右上象限においてプラス90度までの範囲に、また前記プロペラが反時計回りの場合は左上象限においてマイナス90度までの範囲に、前記ダクト本体の中心線を傾けて配置し、前記ダクト本体を支持手段にて前記船尾に取り付けたことを特徴とする船尾用ダクト。
前記ダクト本体の後端に形成する後端円弧部の半径を、前端に形成する前端円弧部の半径よりも小さくしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船尾用ダクト。
前記船体を側面視した状態で、前記ダクト本体の仮想中心軸を前記プロペラの回転中心軸に対して傾けたことを特徴とする請求項1から請求項3のうちの1項に記載の船尾用ダクト。
前記ダクト本体を、前記支持手段としての支柱を介して前記船体の船尾管又は前記船尾管を覆う前記船尾の端部に取り付けたことを特徴とする請求項1から請求項6のうちの1項に記載の船尾用ダクト。
前記支柱を、捻った形状に形成することで、前記プロペラに向かう流れを、前記プロペラの回転方向に対して対向流化したことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の船尾用ダクト。
前記流体力分布に基づいて前記全周ダクトから略円弧状の前記ダクト本体の前記形状を決定する前記ステップの実行に当って、前記スラスト分布と前記抵抗成分分布の等高線図及び/又は周方向分布図を用いたことを特徴とする請求項11に記載の船尾用ダクトの設計方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1における円弧状のダクトは、船体を後方から前方視した状態でプロペラの上下方向の中心線に対して対称を成すように取り付けられている。また、特許文献1において、半円形のダクトでは、推力は主に上側部分で発生し、側面部分では推力を発生していないという問題点、すなわち、半円形のダクトの側面部分では推力を得られず、半円形のダクトの側面部分が抵抗が増える原因となる問題点に着目し(段落番号(0006))、この問題点を解決するために、主フィンを設け下降流から補助推力を得ている。なお、特許文献1の図面では、半円よりも短い円弧状のダクトを図示しているが、円弧の中心角については何ら述べられておらず、図示のダクトでは、約145度程度の中心角となっている。また、ダクトの表面に働く船体推進方向の流体力分布を考慮して中心角を決めているものでもない。
また、特許文献2における半円弧形状の船尾ダクトについても、船体を後方から前方視した状態でプロペラの上下方向の中心線に対して対称を成すように取り付けられている。また、特許文献2は、従来、船尾フィン、船尾ダクト、ラダーフィンをそれぞれ個別に設けていた場合に比して、動力の削減率を高め、更なる省エネルギー化を進めるもので、船尾フィン、船尾ダクト、及びラダーフィンの相互の関係が必要であり、船尾ダクトは、船尾フィンでせき止められた下降流がプロペラに流入する速度を減速させるために設けている(特に段落番号(0016))。
また、特許文献3における略半円錐台形状の外殻についても、船体を後方から前方視した状態でプロペラの上下方向の中心線に対して対称を成すように取り付けられている。なお、特許文献3では、中心角が180度よりも小さい外殻を持つダクト装置を開示しているが、外殻の中心軸とプロペラの回転軸が一致しているという条件では、中心角が150度となることを開示しているに過ぎない(
図7(A)及び段落番号(0037))。また、中心角もダクトの表面に働く船体推進方向の流体力分布を考慮して中心角を決めているものでもない。
また、特許文献4における円弧状に湾曲された第1板状体についても、船体を後方から前方視した状態でプロペラの上下方向の中心線に対して対称を成すように取り付けられている。なお、特許文献4では、円弧の中心角については具体的に記載されていないが、180度を越える中心角である(特に
図2及び段落番号(0026))。
【0005】
そこで、本発明は、ダクト本体を船体に付加しても船体の抵抗を増加させることなく船殻効率を改善することができる船尾用ダクト、船尾用ダクトの設計方法、及び船尾用ダクトを装備した船舶を提供することを目的とする。
また、本発明は、推力減少率又は推進器効率比を高め、有効伴流率を小さくすることができる船尾用ダクト、船尾用ダクトの設計方法、及び船尾用ダクトを装備した船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明に対応した船尾用ダクトにおいては、船体の船尾に取り付けたプロペラの前方に取り付けられる船尾用ダクトにおいて、ダクト本体を90度から140度の角度範囲の略円弧状に形成し、船体を後方から前方視した状態でプロペラの上下方向の中心線に対してダクト本体が非対称を成すように、前記プロペラが時計回りの場合は右上象限に
おいてプラス90度までの範囲に、また前記プロペラが反時計回りの場合は左上象限
においてマイナス90度までの範囲に、前記ダクト本体の中心線を
傾けて配置し、ダクト本体を支持手段にて船尾に取り付けたことを特徴とする。請求項1に記載の本発明によれば、ダクト本体を90度から140度の角度範囲の略円弧状に形成することで、ダクト本体を船体に付加しても船体の抵抗を増加させることなく船殻効率を改善することができる。また、プロペラの上下方向の中心線に対してダクト本体が非対称を成すように、前記プロペラが時計回りの場合は右上象限に、また前記プロペラが反時計回りの場合は左上象限に、前記ダクト本体の中心線を配置してダクト本体を取り付けることで、対称を成すように取り付ける場合と比較して、推力減少率又は推進器効率比を高め、有効伴流率を小さくすることができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、ダクト本体の前後方向の断面を内側に凸の翼型に形成したことを特徴とする。請求項2に記載の本発明によれば、翼型により発生する揚力の推進方向成分(スラスト成分)を利用することで、推力減少率を高め、推進効率を上げることができる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、ダクト本体の後端に形成する後端円弧部の半径を、前端に形成する前端円弧部の半径よりも小さくしたことを特徴とする。請求項3に記載の本発明によれば、ダクト本体より下流での流れを遅くすることにより有効伴流率を小さくでき、かつダクト本体の前端側でのスラスト成分を増加させて推進力を高めることができる。
【0009】
請求項4記載の本発明は、ダクト本体の仮想中心軸をプロペラの回転中心軸と一致させたことを特徴とする。請求項4に記載の本発明によれば、設計や装備が容易である。
【0010】
請求項5記載の本発明は、ダクト本体の仮想中心軸をプロペラの回転中心軸からずらしたことを特徴とする。請求項5に記載の本発明によれば、例えばダクト本体を、船体やプロペラにより生ずる非対称な流れに対応しスラスト力が高められる位置にずらすことができる。
【0011】
請求項6記載の本発明は、船体を側面視した状態で、ダクト本体の仮想中心軸をプロペラの回転中心軸に対して傾けたことを特徴とする。請求項6に記載の本発明によれば、ダクト本体を、スラスト力を高めるように取り付けることができる。
【0012】
請求項7記載の本発明は、ダクト本体を、支持手段としての支柱を介して船体の船尾管又は船尾管を覆う船尾の端部に取り付けたことを特徴とする。請求項7に記載の本発明によれば、ダクト本体を、設置しやすく、特にプロペラに対して適正な位置に配置しやすい。
【0013】
請求項8記載の本発明は、支柱の断面を、内側に凸の翼型に形成したことを特徴とする。請求項8に記載の本発明によれば、支柱においても翼型により発生する揚力の推進方向成分(スラスト成分)を利用することができる。
【0014】
請求項9記載の本発明は、支柱を、捻った形状に形成することで、プロペラに向かう流れを、プロペラの回転方向に対して対向流化したことを特徴とする。請求項9に記載の本発明によれば、推進力を高めることができる。
【0015】
請求項10記載の本発明に対応した船尾用ダクトの設計方法は、
船体の船尾に取り付けたプロペラの前方に取り付けられる船尾用ダクトにおいて、ダクト本体を90度から140度の角度範囲の略円弧状に形成し、船体を後方から前方視した状態でプロペラの上下方向の中心線に対してダクト本体が非対称を成すように、プロペラが時計回りの場合は右上象限に、またプロペラが反時計回りの場合は左上象限に、ダクト本体の中心線を傾けて配置し、ダクト本体を支持手段にて船尾に取り付ける船尾用ダクトの設計方法であって、船尾用ダクトを設計するに当たり、略円弧状のダクト本体と同一半径の全周ダクトを設定するステップと、全周ダクトを用いた船体の数値計算による抵抗・自航計算を行うステップと、抵抗・自航計算結果から全周ダクトの表面に働く船体推進方向の流体力分布を求めるステップと、流体力分布に基づいて全周ダクトから略円弧状のダクト本体の形状を決定するステップとを備えたことを特徴とする。請求項10に記載の本発明によれば、全周ダクトにおける表面に働く船体推進方向の流体力分布を基にした設計ができる。
【0016】
請求項11記載の本発明は、流体力分布は、スラスト分布と抵抗成分分布であることを特徴とする。請求項11に記載の本発明によれば、ダクト形状の切り出しを容易に行うことができる。
【0017】
請求項12記載の本発明は、流体力分布に基づいて全周ダクトから略円弧状のダクト本体の形状を決定するステップの実行に当って、スラスト分布と抵抗成分分布の等高線図及び/又は周方向分布図を用いたことを特徴とする。請求項12に記載の本発明によれば、ダクト形状の切り出しをさらに容易に行うことができる。
【0018】
請求項13記載の本発明に対応した船尾用ダクトを装備した船舶は、船尾用ダクトを船尾に装備したことを特徴とする。請求項13に記載の本発明によれば、ダクト本体に加わる抵抗を低減し、省エネ効果の高い船舶を提供できる。
【0019】
請求項14記載の本発明は、船体が二軸船尾双胴型の船体であることを特徴とする。請求項14に記載の本発明によれば、ダクト本体に加わる抵抗を低減し、省エネ効果の高い二軸船尾双胴型の船舶を提供できる。
【0020】
請求項15記載の本発明は、船体が既存の船体であり、船尾用ダクトを船体に後付けしたことを特徴とする。請求項15に記載の本発明によれば、既存の船体に対しても適用できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の船尾用ダクトによれば、ダクト本体を90度から140度の角度範囲の略円弧状に形成することで、ダクト本体を船体に付加しても船体の抵抗を増加させることなく船殻効率を改善することができる。また、プロペラの上下方向の中心線に対してダクト本体が非対称を成すように、前記プロペラが時計回りの場合は右上象限に
おいてプラス90度までの範囲に、また前記プロペラが反時計回りの場合は左上象限
においてマイナス90度までの範囲に、前記ダクト本体の中心線を
傾けて配置してダクト本体を取り付けることで、対称を成すように取り付ける場合と比較して、推力減少率又は推進器効率比を高め、有効伴流率を小さくすることができる。
【0022】
また、ダクト本体の前後方向の断面を内側に凸の翼型に形成した場合には、翼型により発生する揚力の推進方向性分(スラスト成分)を利用することで、推力減少率を高め、推進効率を上げることができる。
【0023】
また、ダクト本体の後端に形成する後端円弧部の半径を、前端に形成する前端円弧部の半径よりも小さくした場合には、ダクト本体より下流での流れを遅くすることにより有効伴流率を小さくでき、かつダクト本体の前端側でのスラスト成分を増加させて推進力を高めることができる。
【0024】
また、ダクト本体の仮想中心軸をプロペラの回転中心軸と一致させた場合には、設計や装備が容易である。
【0025】
また、ダクト本体の仮想中心軸をプロペラの回転中心軸からずらした場合には、例えばダクト本体を、船体やプロペラにより生ずる非対称な流れに対応しスラスト力が高められる位置にずらすことができる。
【0026】
また、船体を側面視した状態で、ダクト本体の仮想中心軸をプロペラの回転中心軸に対して傾けた場合には、ダクト本体を、スラスト力を高めるように取り付けることができる。
【0027】
また、ダクト本体を、支持手段としての支柱を介して船体の船尾管又は船尾管を覆う船尾の端部に取り付けた場合には、ダクト本体を、設置しやすく、特にプロペラに対して適正な位置に配置しやすい。
【0028】
また、支柱の断面を、内側に凸の翼型に形成した場合には、支柱においても翼型により発生する揚力の推進方向成分(スラスト成分)を利用することができる。
【0029】
また、支柱を、捻った形状に形成することで、プロペラに向かう流れを、プロペラの回転方向に対して対向流化した場合には、推進力を高めることができる。
【0030】
本発明の船尾用ダクトの設計方法によれば、全周ダクトにおける表面に働く船体推進方向の流体力分布を基にした設計ができる。
【0031】
また、流体力分布のスラスト分布と抵抗成分分布を基に、全円ダクト形状からダクト形状の切り出しを容易に行うことができる。
【0032】
また、流体力分布に基づいて全周ダクトから略円弧状のダクト本体の形状を決定するステップの実行に当って、スラスト分布と抵抗成分分布の等高線図及び/又は周方向分布図を用いた場合には、ダクト形状の切り出しをさらに容易に行うことができる。
【0033】
本発明の船尾用ダクトを有した船舶によれば、ダクト本体に加わる抵抗を低減し、省エネ効果の高い船舶を提供できる。
【0034】
また、船体が二軸船尾双胴型の船体である場合には、ダクト本体に加わる抵抗を低減し、省エネ効果の高い二軸船尾双胴型の船舶を提供できる。
【0035】
また、船体が既存の船体であり、船尾用ダクトを船体に後付けした場合には、既存の船体に対しても適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の一実施形態による船尾用ダクトについて図を用いて説明する。
図1は同船尾用ダクトを取り付けた状態を示す船舶の要部側面図、
図2は同船舶を後方から前方視した状態を示す要部正面図、
図3は同船舶を斜め後方から見た要部斜視図である。
図1に示すように、本実施形態による船尾用ダクト10は、船体1の船尾2に取り付けたプロペラ3の前方に取り付けられる。
図1では、船尾用ダクト10は、船尾管を覆う船尾2の端部に取り付けているが、船体1の船尾管に取り付けてもよい。
図1から
図3に示すように、船尾用ダクト10は、ダクト本体11と支持手段12とで構成されている。ダクト本体11は支持手段12にて船尾2に取り付けられる。
ダクト本体11は、略円弧状に形成され、プロペラ3の回転中心軸Xpよりも上部に配置される。
【0038】
図4は本実施形態による船尾用ダクトの斜視図、
図5は同船尾用ダクトを示す説明図である。
ダクト本体11は、中心角(角度範囲)αが90度から180度の略円弧状、より好ましくは90度から140度の略円弧状に形成している。ダクト本体11をこのような中心角αの略円弧状に形成することで、ダクト本体11による全抵抗係数を増加させることなく船殻効率を改善することができる。
ダクト本体11の後端に形成する後端円弧部11rの半径Rrを、前端に形成する前端円弧部11fの半径Rfよりも小さくしている。このように、後端円弧部11rの半径Rrを、前端円弧部11fの半径Rfよりも小さくすることで、ダクト本体11より下流での流れを遅くできるとともに、ダクト本体11の前端側でのスラスト成分を増加させて推進力を高めることができる。
【0039】
図4に示すように、支持手段12は、ダクト本体11の両側に接続される支柱12aと、この支柱12aを船尾2に取り付ける取付部12bとから構成される。支柱12aは、断面を内側に凸の翼型に形成している。このように支柱12aの断面を翼型とすることで、支柱においても翼型により発生する揚力の推進方向成分(スラスト成分)を利用することができる。
【0040】
図5に示すように、ダクト本体11の前後方向の断面11sは、内側に凸の翼型に形成している。このように、断面11sを内側に凸の翼型に形成することで、船体1の推進方向への揚力を発生させることで推進効率を上げることができる。
また、
図5に示すように、ダクト本体11は、ダクト本体11の円弧の中心を結ぶ仮想中心軸Xdをプロペラ3の回転中心軸Xpと一致させている。仮想中心軸Xdと回転中心軸Xpとを一致させることで、設計や装備が容易となる。
なお、仮想中心軸Xdは、ダクト本体11の全ての円弧面における中心に必ずしも対応している必要はない。例えば、中心部と両側部とで半径が若干異なる場合や、前端円弧部11fの中心角αと後端円弧部11rの中心角αが異なる場合があり、ダクト本体11は、完全な円弧である必要はなく、略円弧状に形成されていればよい。
【0041】
図6は、他の実施形態による船尾用ダクトの斜視図である。
本実施形態による船尾用ダクト10は、支柱12aに代えて捻った形状とした支柱12cを用い、プロペラ3に向かう流れを対向流化している。すなわち、支柱12cは、プロペラ3の回転と反対方向に捻った形状としている。このように、捻った形状とした支柱12cを用いて、プロペラ3に向かう流れを、プロペラ3の回転方向に対して対向流化することで、推進力を高めることができる。
なお、支持手段12は支柱12aや支柱12cと船尾用ダクト10を船体1に取り付ける構造を組み合わせたり、支柱12aを用いずに直接船体1に取り付ける構造を採用することもできる。
【0042】
図7は、更に他の実施形態による船尾用ダクトを示す説明図である。
図7では、ダクト本体11の仮想中心軸Xdを、プロペラ3の回転中心軸Xpからずらしている。このように、仮想中心軸Xdを回転中心軸Xpからずらすことで、船体1や船尾2、またプロペラ3により生ずる非対称な流れに対応し、スラスト力が高められる位置に船尾用ダクト10を設けることができる。
【0043】
図8は、更に他の実施形態による船尾用ダクトを示す説明図である。
図8では、船体1を側面視した状態で、ダクト本体11の仮想中心軸Xdをプロペラ3の回転中心軸Xpに対して傾けている。このように、仮想中心軸Xdを回転中心軸Xpに対して傾けることで、船尾2の流れに対応しスラスト力を高めるように船尾用ダクト10を取り付けることができる。
【0044】
図9及び
図10は、更に他の実施形態による船尾用ダクトを示す説明図である。
本実施形態による船尾用ダクト10は、船体1を後方から前方視した状態でプロペラ3の上下方向の中心線Xvに対してダクト本体11が非対称を成すように、ダクト本体11を支持手段12にて船尾2に取り付けたものである。
図9では、船体1を後方から前方視した状態で、プロペラ3が時計回りAの場合を示している。このように、プロペラ3が時計回りAの場合には、右上象限にダクト本体11を配置することで、推力減少率又は推進器効率比を高め、有効伴流率を小さくすることができる。
なお、
図9では、ダクト本体11の中心角αを120度とし、ダクト本体11を、プロペラ3の上下方向の中心線Xvに対して対称を成す位置から、右舷側に40度回転させて取り付けた場合を示している。
図15で示すように、全周ダクトを後ろから見て12時の位置をθ(傾き角)=0とし、時計回りAの方向をプラスとすると、プロペラ3が時計回りAの場合には、ダクト本体11は、θ=マイナス30度(左舷側に30度)からθ=プラス90度(右舷側に90度)までの範囲に傾けて、プロペラ3の上下方向の中心線Xvに対してダクト本体11が非対称を成すように船尾用ダクト10を取り付けることで、右上象限にダクト本体11が配置され、馬力減少率を高くすることができる。
ここで、
図9にも示すように、ダクト本体11の中心角αが特に90度を越える場合には、ダクト本体11は右上象限以外の象限にも必ず位置することになるが、ダクト本体11の一部でも右上象限に配置することで、推力減少率又は推進器効率比を高め、有効伴流率を小さくすることができる。
【0045】
図10では、船体1を後方から前方視した状態で、プロペラ3が反時計回りBの場合を示している。このように、プロペラ3が反時計回りBの場合には、左上象限にダクト本体11を配置することで、推力減少率又は推進器効率比を高め、有効伴流率を小さくすることができる。
なお、
図10では、ダクト本体11の中心角αを90度とし、ダクト本体11を、プロペラ3の上下方向の中心線Xvに対して対称を成す位置から、右舷側に45度回転させて取り付けた場合を示している。プロペラ3が反時計回りBの場合には、
図15で示すデータとプラスマイナスが逆になるため、ダクト本体11は、θ=マイナス30度(右舷側に30度)からθ=プラス90度(左舷側に90度)までの範囲で傾けて、プロペラ3の上下方向の中心線Xvに対してダクト本体11が非対称を成すように船尾用ダクト10を取り付けることで、左上象限にダクト本体11が配置され、馬力減少率を高くすることができる。
ここで、
図10にも示すように、ダクト本体11の中心角αが90度である場合でも、ダクト本体11は左上象限以外の象限にも位置することがあるが、ダクト本体11の一部でも左上象限に配置することで、推力減少率又は推進器効率比を高め、有効伴流率を小さくすることができる。
【0046】
次に本実施形態による船尾用ダクトの設計方法について以下に説明する。
本実施形態では、パナマックスサイズ・バルクキャリア(PxBC)の、船尾肥大度を高くした形状の船体を用いた。
【0047】
図11は、適用する船体について、船体要目及び3次元形状側面図を示している。
【0048】
図12は、本実施形態による船尾用ダクトと同一半径の全周ダクトについて、ダクト要目及び3次元形状を示している。
本実施形態による船尾用ダクト10を設計するに当たり、まず、略円弧状のダクト本体11と同一半径の全周ダクトを設定する。
ここでは、全周ダクトとして、所謂Weather Adapted Duct(WAD)を基本形状としたダクトを用いている。
図12において、D
T.E.はダクト後端直径、D
pはプロペラ直径、L
dはダクト翼断面コード長、βは翼断面が持つ開き角である。
【0049】
図13は、使用するプロペラについて、プロペラ要目を示している。
図13において、H/D
pはピッチ比、aEは展開面積比、Zは翼数を表わす。
【0050】
図14は、船体に対するダクト及びプロペラの取り付け位置を示している。
座標原点を船体の船首垂線(FP)に取り、FPから船尾垂線(AP)の方向をx軸正、左舷から右舷の方向をy軸正、竜骨(keel)から甲板(deck)の方向をz軸正の向きとしている。また、船長を1としている(つまりx=0.0がFP、x=1.0がAP)。
図14から導かれるように端的にいうと、ダクト後端はプロペラ前縁と約5%D
pのクリアランスを持ち、ダクト中心はシャフトセンターラインに一致させている。
【0051】
次に、船型・ダクト・プロペラを設定して、全周ダクトを用いた船体の数値計算による抵抗・自航計算を行う。
図11から
図14に示す船型・ダクト・プロペラを用いてCFD(Computational Fluid Dynamics)解析を行った。
CFD解析の結果、ダクト無の船型に比べ、ダクト有の船型は抵抗を増加させることが無く、船殻効率を約3.2%改善した。ダクトが付いているにも関わらず、全抵抗係数が殆ど増加しない理由は、ダクト自身が推力を出しているからであると考えられる。
【0052】
次に、抵抗・自航計算結果から全周ダクトの内表面の流体力分布を求める。
図15は、全周ダクトのスラスト成分および抵抗成分分布の周方向分布を示している。
図15において、傾き角θは、全周ダクトを後ろから見て12時の位置を0度とし、12時の位置から時計回り方向を正としている。また、
図15において、縦軸Ctxは、x方向流体力であり、正の値(0ラインより上)では抵抗となり、負の値(0ラインより下)では、推進力となる。
図15に示すように、プロペラ3が作動していない時(図中点線)には、x方向流体力(Ctxlduct)は、全周に渡り正の値、つまり抵抗(resistance)となっている。
しかし、プロペラが作動すると、Ctxlductは0度<θ<45度、288度<θ<360度付近で負の値、つまりスラスト(thrust)として作用する。このスラスト成分が、プロペラ3の作動時には、ダクトを取り付けている時でも全抵抗係数を増加させない要因となっていると考えられる。
【0053】
図16は、全周ダクトの表面上のスラスト分布と抵抗成分分布の等高線図であり、
図15に示す抵抗/スラスト成分が、ダクト表面上にどのように分布しているかを3次元的に示している。
図15に見られるダクトのスラスト成分は、
図16では主にダクト上面内側で発生していることが分かる(図中、矢印で示す領域Z)。
すなわち、スラスト成分が発生する領域Zは、扇形の中心角をαとすると、0度<α<180度の範囲で囲まれた扇形部分となっている。スラスト自体は、ダクト側面内側付近にも発生しているが、当該部分のダクト外側にはこのスラストよりも大きな抵抗が働いていることから、ダクトコード方向に積分した全体の流体力としては
図15に示す傾き角θが90度付近に示すように、抵抗となっている。
【0054】
このように、抵抗・自航計算結果から全周ダクトの内表面の流体力分布を求めた後に、流体力分布に基づいて全周ダクトから略円弧状のダクト本体11の形状を決定する。ここで、流体力分布は、スラスト分布と抵抗成分分布である。
流体力分布に基づいて全周ダクトから略円弧状のダクト本体11の形状を決定するに当っては、スラスト分布と抵抗成分分布の等高線図(
図16)及び/又は周方向分布図(
図15)を用いることで、ダクト本体11の形状の切り出しを容易に行うことができる。
【0055】
次に、ダクト本体11の形状の切り出し範囲について説明する。
図17は、
図15に示すデータを基に、扇形の中心角(角度範囲)αを、α=180°、α=140°、α=120°とした時のスラスト比を示している。
また、
図18は、中心角(角度範囲)αについての有効なスラストの得られるダクト形状の切り出し範囲を示している。
扇形の中心角αは、
図15に示すデータを用いてα=180°とした時のスラストを1とする場合、α=140°とした時ではスラスト比が1.10、α=120°とした時では1.39となる。
すなわち、α=180°に比べ、α=140°、α=120°の時、スラストはそれぞれ約10%、40%増加する。
従って、扇形の中心角(角度範囲)αは、
図18中に(a)の範囲で示すように180度を上限として、90度から180度の略円弧状に形成することが好ましい。また、扇形の中心角(角度範囲)αは、
図18中に(b)の範囲で示すように140度を上限として、90度から140度の略円弧状に形成することがより好ましく、
図18中に(c)の範囲で示すように120度を上限として、90度から120度の略円弧状に形成することが最も好ましい。
【0056】
また、前述のようにx方向流体力が負の値となり推進力となる範囲は、0度<θ<45度、288度<θ<360度付近であり、これらの中心位置は346.5度付近にあり、扇形の中心角αを2分する中心線は象限で表現すると左上象限に存在していることになる。従って、ダクト本体11は少なくとも左上象限に存在することが好ましく、ダクト本体11の主要部が左上象限に存在することがより好ましい。またこの場合、結果的にプロペラ3の上下方向の中心線Xvに対してダクト本体11が非対称を成すよう配置されることになる。
なお、x方向流体力が負の値となり推進力となる範囲は、前述のプロペラ3の回転方向のほか、船体1や船尾2の構造、プロペラ3の特性により変わってくる。
【0057】
一方、ダクトは、ダクト後方の流れを減速させることによって、プロペラ3は軸方向のゲインを得ることができる。
図19は、ダクトの減速効果を示す図である。
図19(a)はダクト無、
図19(b)はダクト有を示している。
図19(b)において、矢印Yで示す領域が、ダクトの減速効果が見られる領域であり、ダクトを後ろから見て12時の位置を中心とし、左右舷にそれぞれ約60度程度の領域で得られていることが分かる。
以上より、ダクトがスラストを出す領域及び減速効果を生む領域は、概ね一致しており、ダクトを後ろから見て12時の位置を中心とし、中心角αが約120°の扇形で囲まれた領域であることが分かる。
従って、
図19に示すダクトの減速効果からも、約120°の近接領域を含め90度から140度の領域にダクト本体11を臨ませることが好ましく、90度から120度の領域に臨ませることがより好ましい。
なお、コスト面や装備の容易化の面から、プロペラ3の回転中心軸よりも上部の特に推進方向成分(スラスト成分)が大きく得られる位置に、角度範囲αの小さい90度から140度のダクト本体11を臨ませる場合には、このダクトの減速効果からいっても好ましい配置となる。
【0058】
以上のように、本実施形態による船尾用ダクト10の設計方法は、船尾用ダクト10を設計するに当たり、略円弧状のダクト本体11と同一半径の全周ダクトを設定するステップと、全周ダクトを用いた船体1の数値計算による抵抗・自航計算を行うステップと、抵抗・自航計算結果から全周ダクトの内表面の流体力分布を求めるステップと、流体力分布に基づいて全周ダクトから略円弧状のダクト本体11の形状を決定するステップとで行うことで、全周ダクトにおける従来の設計方法を基にして、略円弧状のダクト本体11を設計できる。
【0059】
次に、プロペラ3の上下方向の中心線Xvに対してダクト本体11を非対称に設けることによる効果を説明する。
図20はダクト本体の傾き角と自航要素の関係を示す特性図、
図21はダクト本体の傾き角と馬力減少率の関係を示す特性図である。
図20及び
図21において、角度0は、船体1を後方から前方視した状態でプロペラ3の上下方向の中心線Xvに対してダクト本体11を対称に設けた場合であり、プラスの傾き角は右舷側に傾け、マイナスの傾き角は左舷側に傾けている。プロペラ3は時計回りAに回している。また、縦軸は、ダクト無を基準としている。
図20では、自航要素として、推力減少率(1−t)、有効伴流率(1−w)、推進器効率比(etaR)を示している。
図20及び
図21において、好ましい傾き角の位置を円で示している。
図20及び
図21に示すように、プロペラ3が時計回りAの場合には、ダクト本体11は、マイナス30度(左舷側に30度)からプラス90度(右舷側に90度)までの範囲で傾けて、プロペラ3の上下方向の中心線Xvに対してダクト本体11が非対称を成すように船尾用ダクト10を取り付けることで、馬力減少率を高くすることができる。なお、プロペラ3が反時計回りBの場合には、ダクト本体11は、右舷側に30度から左舷側に90度までの範囲で傾けて、プロペラ3の上下方向の中心線Xvに対してダクト本体11が非対称を成すように船尾用ダクト10を取り付けることで、馬力減少率を高くすることができる。
なお、
図20、
図21のデータを取得した船体要目やプロペラ要目等は、
図15の数値計算結果を得たときの
図11の船体要目や
図13のプロペラ要目とは異なっている。
【0060】
図22及び
図23は、船尾用ダクトを装備した二軸船尾双胴型の船舶を後方から前方視した状態を示す要部正面図である。
図22及び
図23において、船体1には、右舷側スケグの船尾管2Rには右舷側プロペラ3R、左舷側スケグの船尾管2Lには左舷側プロペラ3Lを設けている。
【0061】
図22では、右舷側プロペラ3Rは反時計回りB、左舷側プロペラ3Lは時計回りAであり、内回りの回転であることを示している。
このように内回りの回転による二軸船尾双胴型の船舶にあっては、右舷側プロペラ3Rに対応する右舷側船尾用ダクト10Rは左上象限にダクト本体11Rを配置し、左舷側プロペラ3Lに対応する左舷側船尾用ダクト10Lは右上象限にダクト本体11Lを配置することで、推力減少率又は推進器効率比を高め、有効伴流率を小さくすることができる。
【0062】
図23では、右舷側プロペラ3Rは時計回りA、左舷側プロペラ3Lは反時計回りBであり、外回りの回転であることを示している。
このように外回りの回転による二軸船尾双胴型の船舶にあっては、右舷側プロペラ3Rに対応する右舷側船尾用ダクト10Rは右上象限にダクト本体11Rを配置し、左舷側プロペラ3Lに対応する左舷側船尾用ダクト10Lは左上象限にダクト本体11Lを配置することで、推力減少率又は推進器効率比を高め、有効伴流率を小さくすることができる。
【0063】
このように、本実施形態による船尾用ダクト10は、二軸船尾双胴型の船体1にも適用でき、ダクト本体11に加わる抵抗を低減し、省エネ効果の高い二軸船尾双胴型の船舶を提供できる。
また、本実施形態による船尾用ダクト10は、既存の船体1に対して後付けで取り付けることができる。