特許第6376684号(P6376684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6376684グルコース感知材料、グルコース感知電極、グルコース感知電極の製造方法及びグルコースセンサー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376684
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】グルコース感知材料、グルコース感知電極、グルコース感知電極の製造方法及びグルコースセンサー
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/327 20060101AFI20180813BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   G01N27/327 353P
   G01N27/416 338
   G01N27/327 353R
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-95375(P2014-95375)
(22)【出願日】2014年5月2日
(65)【公開番号】特開2015-212661(P2015-212661A)
(43)【公開日】2015年11月26日
【審査請求日】2017年3月10日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】樋口 昌芳
(72)【発明者】
【氏名】徐 志宇
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−007803(JP,A)
【文献】 特表2006−509837(JP,A)
【文献】 特開2008−076388(JP,A)
【文献】 Wendel A. Alves et al.,Biosensors and Bioelectronics,2006年,Vol.22,pp.298-305
【文献】 樋口 昌芳,有機/金属ハイブリッドポリマーにおける構造制御と電子・光機能制御,高分子論文集,2010年 7月,Vol.67,No.7,pp.368-374
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/327
G01N 27/416
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機/金属ハイブリッドポリマーに糖検出酵素が混合されており、
前記有機/金属ハイブリッドポリマーは、複数の有機配位子が互いに金属イオンを介して直鎖状に連結された高分子であり、
前記複数の有機配位子のそれぞれがターピリジン基を有し、
前記ターピリジン基が前記金属イオンと配位していることを特徴とするグルコース感知材料。
【請求項2】
前記有機/金属ハイブリッドポリマーが水溶性のコバルト(II)−ビスターピリジン型有機/金属ハイブリッドポリマーであることを特徴とする請求項1に記載のグルコース感知材料。
【請求項3】
前記糖検出酵素がグルコースオキシダーゼであることを特徴とする請求項1又は2に記載のグルコース感知材料。
【請求項4】
前記有機/金属ハイブリッドポリマーに対して前記糖検出酵素が1wt%以上、20wt%以下で分散されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のグルコース感知材料。
【請求項5】
導電体材料からなる電極部材と薄膜とからなるグルコース感知電極であって、
前記電極部材に露出された電極面が設けられており、
前記電極面を覆うように前記薄膜が形成されており、
前記薄膜が請求項1〜4のいずれか1項に記載のグルコース感知材料を含有していることを特徴とするグルコース感知電極。
【請求項6】
有機/金属ハイブリッドポリマーと糖検出酵素を混合して溶媒に溶かして、混合溶液を調製する工程であって、前記有機/金属ハイブリッドポリマーは、複数の有機配位子が互いに金属イオンを介して直鎖状に連結された高分子であり、前記複数の有機配位子のそれぞれがターピリジン基を有し、前記ターピリジン基が前記金属イオンと配位している、工程と
前記混合溶液を、導電体材料からなる電極部材に露出された電極面を覆うように塗布してから、乾燥して、薄膜を形成する工程と、を有することを特徴とする請求項5に記載のグルコース感知電極の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載のグルコース感知電極と、参照電極と、対電極と、各電極に接続された電源部を有することを特徴とするグルコースセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース感知材料、グルコース感知電極、グルコース感知電極の製造方法及びグルコースセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
グルコース・バイオセンサーは、糖尿病の検出応用などの点で注目を浴びており、いろいろなタイプが研究開発されている(非特許文献1〜4)。
これまでのグルコースセンサーは、大まかに、グルコースを感知可能な酵素を備えているタイプと、酵素を備えていないタイプの2種類がある。
【0003】
酵素を備えていないタイプのグルコースセンサーでは、グルコース以外の糖が検出され、グルコースのみを選択的に検出することが困難であるという問題があった。
【0004】
一方、グルコースを感知可能な酵素を備えているタイプのグルコースセンサーは、酵素を通過した電子の個数を直接、電流値として計測できるため、電流値からグルコース濃度のみを選択的に算出できる。
グルコースを感知可能な酵素を備えているタイプのグルコースセンサーとしては、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を有するグルコースセンサー(特許文献1)、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ変異体を有するグルコースセンサー(特許文献2)などが開発されている。
【0005】
また、近年、グルコースオキシダーゼ(GOx)を用いたバイオセンサーが開発され、GOxのレドックス・センターであるFADが電極へ直接電子移動(DET)可能であることが報告された(非特許文献5)。
しかし、これらの従来のグルコースセンサーには、耐久性の点で問題があった。図1は、従来のグルコースセンサーの電圧印加による酵素の変形の一例を説明する図である。図1に示すように、従来のグルコースオキシダーゼを用いたバイオセンサーは、電圧印加したときに、酵素が電極表面に強く押し付けられることにより、形状変形(deformation)されて、壊れる場合があった。形状変形により性能は悪化し、また、繰り返し使用により、使用可能な酵素な数が減り、グルコースの検出感度が低下した。
非特許文献6は、レドックスポリマーを用いたグルコース・バイオセンサーに関するものであるが、酵素が電気化学的に還元される電位(還元電位)は−0.6Vであるが、文献で用いられているレドックスポリマーの還元電位(−0.1〜−0.4V)は酵素の還元電位より正電位側であるため、レドックスポリマーの方が電気化学的に先に還元される。従って、酵素を通過した電子の個数を直接、電流値として計測することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−19756号公報
【特許文献2】特開2012−39949号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Fei,Y.Wu,X.Ji,J.Wang,S.Hu,Z.Gao,Anal.Sci.19(2003)1259.
【非特許文献2】W.A.Alves,P.A.Fiorito,S.I.C.Torresi,R.M.Torresi,Biosens.Bioelectron.22(2006)298.
【非特許文献3】Y.Fu,P.Li,L.Bu,T.Wang,Q.Xie,J.Chen,S.Yao,Anal.Chem.83(2011)6511.
【非特許文献4】Y.Guo,Y.Han,S.Shuang,C.Dong,J.Mater.Chem.22(2012)13166.
【非特許文献5】Ghindilis,A.L.;Atanasov,P.;Wilkins,E.Electroanalysis 1997,9,661−674.
【非特許文献6】Deng,H.;Teo,A.K.L.;Gao,Z.Sens.Actuator B−Chem.2014,191,522−528.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、繰り返し使用の耐久性が高く、かつ、グルコース選択性が高いグルコース感知材料、グルコース感知電極、グルコース感知電極の製造方法及びグルコースセンサーを提供することを課題とする。
【0009】
上記事情を鑑みて、試行錯誤することにより、本発明者は、金属イオンを介してリガンドを連結して伸長されたポリマーである金属超分子ポリマー(有機/金属ハイブリッドポリマー)と、グルコースを認知可能な酵素とからなる材料を使えば、グルコース選択性が高くできるとともに、GOxを高分子ネットワーク構造内に安定して配置させることができ、また、酵素と電極との間で直接電子のやり取りをするのではなく、ポリマーの金属イオンを介して電子のやり取りを行うことができ、繰り返し使用の耐久性が高くできることに想到した。具体的に、水溶性のコバルト超分子ポリマー(有機/金属ハイブリッドポリマー)と、グルコースオキシターゼ酵素を組み合わせることにより、グルコースの選択性高くでき、高分子ネットワーク内に酵素を安定保持し、酵素の変形を防止して、繰り返し使用の耐久性を高くできることを見出して、本発明を完成した。
本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
(1)有機/金属ハイブリッドポリマーに糖検出酵素が混合されていることを特徴とするグルコース感知材料。
(2)前記有機/金属ハイブリッドポリマーが、水溶性のコバルト(II)−ビスターピリジン型有機/金属ハイブリッドポリマーであることを特徴とする(1)に記載のグルコース感知材料。
(3)前記糖検出酵素がグルコースオキシダーゼであることを特徴とする(1)又は(2)に記載のグルコース感知材料。
(4)前記有機/金属ハイブリッドポリマーに対して前記糖検出酵素が1wt%以上、20wt%以下で分散されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のグルコース感知材料。
【0011】
(5)導電体材料からなる電極部材と薄膜とからなるグルコース感知電極であって、前記電極部材に露出された電極面が設けられており、前記電極面を覆うように前記薄膜が形成されており、前記薄膜が(1)〜(4)のいずれかに記載のグルコース感知材料を含有していることを特徴とするグルコース感知電極。
(6)有機/金属ハイブリッドポリマーと糖検出酵素を混合して溶媒に溶かして、混合溶液を調製する工程と、前記混合溶液を、導電体材料からなる電極部材に露出された電極面を覆うように塗布してから、乾燥して、薄膜を形成する工程と、を有することを特徴とするグルコース感知電極の製造方法。
(7)(5)に記載のグルコース感知電極と、参照電極と、対電極と、各電極に接続された電源部を有することを特徴とするグルコースセンサー。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグルコース感知材料は、有機/金属ハイブリッドポリマーに糖検出酵素が混合されている構成なので、ネットワーク構造の中で、金属イオンの近傍に酵素を安定保持することができ、金属イオンとレドックス・センターとの間の電子の移動をスムーズに行うことができる。また、電極表面に薄膜状に形成しても、金属イオンを介して電極と酸化還元反応を行うことができるので、酵素の酸化還元反応を電極から独立して行うことができる。また、ポリマーにおけるコバルト(II)からコバルト(I)への還元電位(−0.85V以下)は、酵素の還元電位(−0.6V)よりも負電位であるため、電気化学的に酵素の還元電流を直接測定することができる。また、ネットワーク構造の中に酵素を安定保持することにより、電圧印加しても酵素を変形させないようにできる。以上により、繰り返し使用の耐久性が高く、かつ、グルコース選択性が高いグルコースセンサーを提供できる。
【0013】
本発明のグルコース感知電極は、導電体材料からなる電極部材と薄膜とからなるグルコース感知電極であって、前記電極部材に露出された電極面が設けられており、前記電極面を覆うように前記薄膜が形成されており、前記薄膜が先に記載のグルコース感知材料を含有している構成なので、繰り返し使用の耐久性が高く、かつ、グルコース選択性が高いグルコースセンサーを提供できる。
【0014】
本発明のグルコース感知電極の製造方法は、有機/金属ハイブリッドポリマーと糖検出酵素を混合して溶媒に溶かして、混合溶液を調製する工程と、前記混合溶液を、導電体材料からなる電極部材に露出された電極面を覆うように塗布してから、乾燥して、薄膜を形成する工程と、を有する構成なので、容易に、かつ、短時間で、繰り返し使用の耐久性が高く、かつ、グルコース選択性が高いグルコースセンサーを製造できる。
【0015】
本発明のグルコースセンサーは、先に記載のグルコース感知電極と、参照電極と、対電極と、各電極に接続された電源部を有する構成なので、繰り返し使用の耐久性を高く、かつ、グルコース選択性を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来のグルコースセンサーの電圧印加による酵素の変形の一例を説明する図である。
図2】本発明の実施形態であるグルコース感知電極の一例を示す図である。
図3図2のA部拡大図である。
図4】本発明の実施形態であるグルコース感知材料の一例を示す図である。
図5】有機/金属ハイブリッドポリマー12の一例を示す化学式である。
図6】電極反応機構の一例を示す説明図である。
図7】本発明の実施形態であるグルコースセンサーの一例を示す図である。
図8】薄膜形成工程図であり、薄膜形成前の電極側面図(a−1)、薄膜形成前の電極底面図(a−2)、薄膜形成後の電極側面図(b−1)、薄膜形成後の電極底面図(b−2)である。
図9】CoL1/GCE電極のCVのスキャン速度依存性を示すグラフである。
図10】CV測定データを、スキャン速度を横軸、Ipを縦軸にして表したグラフである。
図11】CV測定データを、log(スキャン速度)を横軸、Epを縦軸にして表したグラフである。
図12】CoL1/GOx/GCE電極のCVのスキャン速度依存性を示すグラフである。
図13】CV測定データを、スキャン速度を横軸、Ipを縦軸にして表したグラフである。
図14】CV測定データを、log(スキャン速度)を横軸、Epを縦軸にして表したグラフである。
図15】電極材料の違いを示すCVグラフである。
図16】CoL1/GOx/GCE電極のCVの電解質溶液依存性を示すグラフである。
図17】アンペロメトリー検出実験結果を示すグラフである。
図18】グルコース濃度と電流値の関係を示すグラフである。
図19】アンペロメトリー選択性確認実験結果を示すグラフである。
図20】グルコース、AA、UAを滴下したときの電流値絶対値の比較を示す棒グラフである。
図21】蛍光スペクトルの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(グルコース感知電極)
まず、本発明の実施形態であるグルコース感知電極について説明する。
図2は、本発明の実施形態であるグルコース感知電極の一例を示す図である。
本発明の実施形態であるグルコース感知電極は、導電体材料からなる電極部材22と薄膜24とからなるグルコース感知電極21である。電極部材22は円柱状であり、側面はカバー部材23で覆われている。導電体材料としてはグラッシーカーボンなどを挙げることができる。また、カバー部材としてはテフロンを挙げることができる。
電極部材22に露出された電極面22aが設けられており、電極面22aを覆うように薄膜24が形成されている。
図3は、図2のA部拡大図である。
薄膜24は、本発明の実施形態であるグルコース感知材料10を含有している。グルコース感知材料10が凝縮されて薄膜化されている。
薄膜の膜厚は150nm以上、700nm以下が好ましい。薄すぎると、酵素が安定に保持されず、薄膜から抜け出るおそれが生じる。
【0018】
(グルコース感知材料)
次に、本発明の実施形態であるグルコース感知材料について説明する。
図4は、本発明の実施形態であるグルコース感知材料の一例を示す図である。
本発明の実施形態であるグルコース感知材料10は、有機/金属ハイブリッドポリマー12に糖検出酵素11が混合されている。
【0019】
有機/金属ハイブリッドポリマー12は、複数の有機配位子が互いに、金属イオンを介して、連結された高分子である。
有機配位子は、配位結合部位を有する有機分子であり、配位結合部位は、例えば、ターピリジン(terpyridine)基である。ターピリジン基が金属イオンと配位結合することにより、有機配位子は長鎖状に連結される。
図5は、有機/金属ハイブリッドポリマー12の一例を示す化学式である。水溶性のコバルト(II)−ビスターピリジン型有機/金属ハイブリッドポリマー(Co(II)−bisterpyridine−based metallo−supramolecular polymer:CoL1と略記する。)である
【0020】
前記糖検出酵素11としては、グルコースオキシダーゼ(glucose oxidase:GOxと略記する。)を挙げることができる。
グルコースオキシダーゼは、二量体のタンパク質からなる酵素であり、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を有する。
フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)は、生化学的酸化還元反応において電子受容体として作用し、レドックス・センターと機能し、FADHへ還元される。このとき、β−D−グルコースをD−グルコノ−1,5−ラクトンへ酸化することができる。
化学反応式(1)は、FADとFADHとの間の酸化還元反応を示す式である。
【0021】
【化1】

【0022】
<グルコース感知電極の電極反応機構>
グルコース感知電極21をグルコース含有溶液26に浸漬し、電圧を印加すると、電極反応がなされる。
図6は、電極反応機構の一例を示す説明図である。
(ステップ1)溶液内から薄膜内にグルコースが取り込まれる。
(ステップ2)薄膜内でグルコースがGOx内に取り込まれ、グルコースはグルコノラクトンへ酸化され、GO(FAD)はGO(FADH)へ還元される。
化学反応式(2)は、グルコースをグルコノラクトンへ酸化し、GOx(FAD)がGOx(FADH)へ還元される反応を示す式である。
【0023】
【化2】
【0024】
化学反応式(3)は、GOx(FAD)のGOx(FADH)への還元反応を示す式である。
【0025】
【化3】
【0026】
(ステップ3)有機/金属ハイブリッドポリマー中のCo(II)によってGO(FADH)はGO(FAD)へ酸化され、Co(II)はCo(I)へ還元される。
化学反応式(4)は、酸素存在下における、GO(FADH)のGO(FAD)への酸化反応を示す式である。還元体FADHは酸素分子によって酸化され、GO(FAD)となり、酸素分子は過酸化水素に還元される。
【0027】
【化4】
【0028】
(ステップ4)有機/金属ハイブリッドポリマー中のCo(I)はCo(II)へと電気化学的に酸化され、ポリマーから電極に電子が移動する。
化学反応式(5)は、GO(FADH)のGO(FAD)への酸化反応を示す式である。CoIIL1は、CoL1に還元される。
【0029】
【化5】
【0030】
化学反応式(6)は、CoIIL1は電子を受け取り、CoL1に還元される。
【0031】
【化6】
【0032】
CoIIL1が電気化学的に還元されるとき、ポリマーから電極に電子が移動する。この電流値を計測する。グルコースによって酵素が還元されると、還元された酵素はCoIIL1によって酸化され、CoIIL1はCoL1に還元される。そのため、溶液中にグルコースが存在すると、CoIIL1が電気化学的に還元されるときの電流値が減少する。この電流の減少分からグルコースの濃度を定量できる。
【0033】
前記有機/金属ハイブリッドポリマーに対して前記糖検出酵素が1wt%以上、20wt%以下で分散されていることが好ましい。これにより、グルコースを高感度で検出することができる。
【0034】
(グルコース感知電極の製造方法)
次に、グルコース感知電極の製造方法について説明する。
グルコース感知電極の製造方法は、混合溶液調製工程S1と、薄膜形成工程S2と、を有する。
【0035】
(混合溶液調製工程S1)
この工程では、有機/金属ハイブリッドポリマーと糖検出酵素を混合して溶媒に溶かして、混合溶液を調製する。
前記有機/金属ハイブリッドポリマーに対して前記糖検出酵素が1wt%以上、20wt%以下で分散することが好ましい。
【0036】
(薄膜形成工程S2)
この工程では、前記混合溶液を、導電体材料からなる電極部材に露出された電極面を覆うように塗布してから、乾燥して、薄膜を形成する。
ディッピング法、キャスト法、スピンコーティング法などの湿式成膜法を用いることができる。
【0037】
(グルコースセンサー)
次に、本発明の実施形態であるグルコースセンサーについて説明する。
図7は、本発明の実施形態であるグルコースセンサーの一例を示す図である。
本発明の実施形態であるグルコースセンサー31は、本発明の実施形態であるグルコース感知電極21と、参照電極33と、対電極34と、各電極に配線35により接続された電源部(図示略)を有する。
各電極を容器36に満たされたグルコース含有溶液26に浸漬して、電圧印加することにより、電流値から、グルコース濃度を算出できる。
【0038】
本発明の実施形態であるグルコース感知材料10は、有機/金属ハイブリッドポリマー12に糖検出酵素11が混合されている構成なので、繰り返し使用の耐久性が高く、かつ、グルコース選択性が高いグルコースセンサーを提供できる。
【0039】
本発明の実施形態であるグルコース感知材料10は、有機/金属ハイブリッドポリマー12が水溶性のコバルト(II)−ビスターピリジン型有機/金属ハイブリッドポリマーである構成なので、繰り返し使用の耐久性が高く、かつ、グルコース選択性が高いグルコースセンサーを提供できる。
【0040】
本発明の実施形態であるグルコース感知材料10は、糖検出酵素11がグルコースオキシダーゼである構成なので、繰り返し使用の耐久性が高く、かつ、グルコース選択性が高いグルコースセンサーを提供できる。
【0041】
本発明の実施形態であるグルコース感知材料10は、有機/金属ハイブリッドポリマー12に対して糖検出酵素11が1wt%以上、20wt%以下で分散されている構成なので、繰り返し使用の耐久性が高く、かつ、グルコース選択性が高いグルコースセンサーを提供できる。
【0042】
本発明の実施形態であるグルコース感知電極21は、導電体材料からなる電極部材22と薄膜24とからなるグルコース感知電極であって、電極部材22に露出された電極面22aが設けられており、電極面22aを覆うように薄膜24が形成されており、薄膜25がグルコース感知材料10を含有している構成なので、繰り返し使用の耐久性が高く、かつ、グルコース選択性が高いグルコースセンサーを提供できる。
【0043】
本発明の実施形態であるグルコース感知電極の製造方法は、有機/金属ハイブリッドポリマーと糖検出酵素を混合して溶媒に溶かして、混合溶液を調製する工程と、前記混合溶液を、導電体材料からなる電極部材に露出された電極面を覆うように塗布してから、乾燥して、薄膜を形成する工程と、を有する構成なので、容易に、かつ、短時間で、繰り返し使用の耐久性が高く、かつ、グルコース選択性が高いグルコースセンサーを製造できる。
【0044】
本発明の実施形態であるグルコースセンサー31は、グルコース感知電極21と、参照電極33と、対電極34と、各電極に接続された電源部を有する構成なので、繰り返し使用の耐久性を高く、かつ、グルコース選択性を高くできる。
【0045】
本発明の実施形態であるグルコース感知材料、グルコース感知電極、グルコース感知電極の製造方法及びグルコースセンサーは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
まず、CoL1とGoxを含む混合溶液を調製した。
次に、薄膜を形成した。
図8は、薄膜形成工程図であり、薄膜形成前の電極側面図(a−1)、薄膜形成前の電極底面図(a−2)、薄膜形成後の電極側面図(b−1)、薄膜形成後の電極底面図(b−2)である。膜厚は350nmとした。
まず、図8(a−1)、(a−2)に示すGCE電極を準備した。電極部材がグラッシーカーボン(GC)であり、カバー部材がテフロンである。
次に、図8(b−1)、(b−2)に示すように、前記混合溶液を電極部に塗布してから、乾燥して、CoL1/GOx/GCE電極(実施例1)を作製した。
【0047】
(比較例1)
次に、CoL1のみを含む溶液を用いた他は実施例1と同様にして、CoL1/GCE電極(比較例1)を作製した。
【0048】
<特性測定>
参照電極(Ag/AgCl)と、対電極(白金)と、電解液(飽和KCl溶液:Sat‘d KCl)を用いて、作成した電極(実施例1、比較例1)を作用電極として、CV特性を測定した。
【0049】
(特性測定)
図9は、CoL1/GCE電極のCVのスキャン速度依存性を示すグラフである。20、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1200、1500mVs−1とスキャン速度を変えて測定した。スキャン速度を大きくするに従い電流値Iは大きくなった。
【0050】
図10は、CV測定データを、スキャン速度を横軸、Ipを縦軸にして表したグラフである。
電流値とスキャン速度は1次線形の関係となった。
【0051】
図11は、CV測定データを、log(スキャン速度)を横軸、Epを縦軸にして表したグラフである。
log(スキャン速度)が0付近で、Epとlog(スキャン速度)は1次線形の関係となった。
【0052】
図12は、CoL1/GOx/GCE電極のCVのスキャン速度依存性を示すグラフである。20、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1200、1500mVs−1とスキャン速度を変えて測定した。スキャン速度を大きくするに従い電流値Iは大きくなった。
【0053】
図13は、CV測定データを、スキャン速度を横軸、Ipを縦軸にして表したグラフである。
電流値とスキャン速度はほぼ1次線形の関係となった。
【0054】
図14は、CV測定データを、log(スキャン速度)を横軸、Epを縦軸にして表したグラフである。
Epとlog(スキャン速度)はほぼ1次線形の関係となった。
【0055】
Ipはピーク電流値であり、Ipaは還元電流値であり、Ipcは酸化電流値である。
Ipc(GOx)はGOxの還元電流値である。
Epは酸化還元電位であり、Epaは還元電位であり、Epcは酸化電位である。
式(1)は、IpとT又はνとの関係を示す式である。
【0056】
【数1】
【0057】
ここで、nは移動電子数であり、Fはファラデー定数であり、Rは気体定数であり、Tは温度であり、Aは電極面積であり、Γは表面のカバレッジであり、νは掃引速度である。
CoL1のΓは1.45×10−8モル/cmであり、GOxのΓは7.49×10−11モル/cmとなった。
式(2)は、Lavironの式である。
【0058】
【数2】
【0059】
ここで、kは電子転送率定数であり、αは電荷輸送係数であり、Fはファラデー定数である。
CoL1のkは1.17s−1であり、αは0.34となった。CoL1のレドックス再現性はGOxでのDET(直接電子移動)に影響を受けていた。
【0060】
図15は、PBS中、100mVs−1のスキャン速度の、電極材料の違いを示すCVグラフである。CoL1/GOx/GCE電極(実施例1)の方がCoL1/GCE電極(比較例1)に比べて大きな電流値の変化を示した。
【0061】
図16は、CoL1/GOx/GCE電極のCVの電解質溶液依存性を示すグラフである。グルコース感知反応を示している。
0.5mgmL−1CoL1、10mgmL−1GOで混合溶液を調製し、グラッシーカーボン(GC)電極に薄膜を形成して、CoL1/GOx/GCE電極を作製した。
電解質溶液として、N飽和PBS(N−saturated PBS)、空気飽和PBS(air−saturated PBS)、空気飽和PBS+1mMグルコース(air−saturated PBS+1mM glucose)を用いた。
【0062】
CoL1/GOx/GCE電極では、先に記載の化学反応式(2)〜(5)に示す化学反応が行われると推察できる。
フラビンアデニンジヌクレオチドの酸化型であるFADは酸素によって再生され、約−0.55Vで、GOxの還元電流ピークを生じた。
また、フラビンアデニンジヌクレオチドの還元型であるFADHは、Co(II)L1へより少ないDETして、酸素によって酸化された、これにより、CoII/Coに対応する約−0.86Vで、CoL1の還元電流ピークを生じた。
【0063】
グルコースが加えられた場合、化学反応式(2)に示す、GOとグルコースとの間の酵素触媒反応により、GO(FAD)濃度を減少させた。
DETにより、FADHによって、酸化型であるCo(II)L1が少なくなり、還元電流ピークを減少させた。
【0064】
感知反応により、CoL1とGOの添加量を最適化した。最適の添加量は、10mg/mLのGOと、0.5mg/mLのCoL1であった。
【0065】
次に、アンペロメトリー検出(amperometric detection)実験がなされた。
0〜700sの間では、0.1mMのグルコースを一定時間ごとに滴下した。
700s〜1750sの間では、0.2mMのグルコースを一定時間ごとに滴下した。
一定時間は、100秒とした。
【0066】
図17は、アンペロメトリー検出実験結果を示すグラフである。
0.5mgmL−1CoL1/10mgmL−1GO/GCE電極を用い、0.01MのPBSを電解質溶液とし、印加電圧―0.8Vとして、一定時間ごとにグルコースを滴下して、電流値の変化を測定した。滴下ごとに電流値が階段状に上がった。
【0067】
図18は、グルコース濃度と電流値の関係を示すグラフである。
47.1μAmM−1cm−2の感度で、グルコース濃度0.1mMから1.4mMの範囲で1次線形の関係が得られた。バックグラウンド・ノイズ(N)と感度値(S)に基づいて、検出限界値(Limit of detection:LOD、S/N=3)は、82.8μMであった。
【0068】
次に、0.4mMのグルコース、0.04mMのアスコルビン酸(AA)と、0.04mMの尿酸(UA)の存在下、アンペロメトリー検出実験を行い、選択性確認実験を行った。
0.4mMのグルコース、0.04mMのアスコルビン酸(AA)、0.04mMの尿酸(UA)を、この順番で、一定時間ごとに滴下した。
一定時間は、150秒とした。
【0069】
図19は、アンペロメトリー選択性確認実験結果を示すグラフである。
0.5mgmL−1CoL1/10mgmL−1GO/GCE電極を用い、0.01MのPBSを電解質溶液とし、印加電圧―0.8Vとして、一定時間ごとにグルコース、AAとUAを滴下して、電流値の変化を測定した。
【0070】
グルコースを滴下したときのみ、電流値が階段状に上がった。グルコースを滴下したときの電流値(シグナル)は、約―20μAcm−2と大きかったにもかかわらず、AAとUAを滴下したときの電流値(シグナル)は、それぞれ無視できる程度のものであった。
また、CoL1/GOx/GCE電極(実施例1)は、8.1%のRSDで、繰り返し使用の再現性が高かった。
RSDは相対標準偏差(Relative standard deviation)の略で、(標準偏差(ばらつき)÷平均値)×100%で表される。
【0071】
図20は、グルコース、AA、UAを滴下したときの電流値絶対値の比較を示す棒グラフである。
0.4mMのグルコースを滴下したとき、|ΔJ|が約16μAcm−2となり、0.04mMのAAを滴下したとき、|ΔJ|が約3.8μAcm−2となり、0.04mMのUAを滴下したとき、|ΔJ|が約1.8μAcm−2となった。
選択性は高かった。
なお、糖及び各酸の添加量は、血中濃度に合わせて設定した。
【0072】
次に、蛍光スペクトル測定をした。
ITO基板(Bare ITO)、CoL1を成膜したITO基板(CoL1/ITO)、GOx/CoL1を成膜直後のITO基板(GOx/CoL1/ITO(fresh))、GOx/CoL1を成膜し、DETをした直後のITO基板(GOx/CoL1/ITO(after DET))の4種のサンプルの測定をした。
【0073】
図21は、蛍光スペクトルの測定結果である。
2990nm及び467nmの波長の光で励起しても、Bare ITO及びCoL1/ITOは、320〜620nmの波長範囲で蛍光スペクトルは得られなかった。
一方、GOx/CoL1/ITO(fresh)及びGOx/CoL1/ITO(after DET)の2種のサンプルは、ほぼ同様の蛍光スペクトルを示した。
この結果から、DETしても、酵素が壊れなかったと推察した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のグルコース感知材料、グルコース感知電極、グルコース感知電極の製造方法及びグルコースセンサーに関するものであり、血中のグルコース濃度測定を極めて高感度で、再現性高く、かつ、耐久性高く行うことができ、糖尿病検査のためのグルコースセンサー等の医療用デバイス・医療用機器産業等において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0075】
10…グルコース感知材料、11…糖検出酵素(GOx)、12…有機/金属ハイブリッドポリマー(CoL1)、13…多孔質膜、14…平滑膜、21…グルコース感知電極、22…電極部材、22a…電極面、23…カバー部材、24…薄膜、26…グルコース含有溶液、31…グルコースセンサー、33…参照電極、34…対電極、35…配線、36…容器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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