(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プラズマ強度制御手段は、前記反転モードの際に前記プラズマ電極に印加される電圧を前記成膜モードの際の電圧である成膜電圧よりも低い電圧である待機電圧とすることを特徴とする、請求項1に記載の薄膜形成装置。
【背景技術】
【0002】
近年では、プラスチックフィルムの表面に例えば酸化防止、水分浸入防止等を目的としたバリア膜を形成したバリア付きフィルムが使用されている。
【0003】
このようなバリア付きフィルムは、下記特許文献1に示す薄膜形成装置によって形成されている。例えば、薄膜形成装置は、
図4に示すように、メインロールチャンバ101と、このメインロールチャンバ101内に収容されるメインロール102と、帯状基材103を繰り出す搬送ロール104と帯状基材103を巻き取る搬送ロール105とを備えており、搬送ロール104から送出された帯状基材103をメインロール102の外周面102aに沿わせて搬送ロール105によって巻き取ることにより、帯状基材103を搬送するようになっている。そして、メインロール102の外径側に間仕切り部106を設けることにより、成膜チャンバ107および成膜チャンバ108がメインロール102の周方向に形成され、これら成膜チャンバ107および成膜チャンバ108の内部には電極が設けられており、成膜チャンバ107および成膜チャンバ108に薄膜の原料ガスを供給し、各電極に高周波電圧を印加することにより、原料ガスはプラズマ状態となり、プラズマCVD法によって帯状基材103に薄膜が形成される。
【0004】
このような薄膜形成装置において、搬送ロール104から供給された帯状基材103がメインロール102の外周面102aに沿わせた状態で成膜チャンバ107および成膜チャンバ108を通過することにより、帯状基材103上に所定の薄膜が順次積層されて形成される。
【0005】
また、所定の長さだけ帯状基材103を搬送した後、搬送ロール104および搬送ロール105の回転方向を逆にすることにより、上記とは逆に搬送ロール105が帯状基材103を繰り出し、搬送ロール104が帯状基材103を巻き取る形態となって帯状基材103は上記と反対方向に搬送される。そして、搬送ロール104と搬送ロール105との間で帯状基材103が往復するように搬送させながら成膜チャンバ107および成膜チャンバ108において成膜を行うことにより、成膜チャンバ107によって形成される薄膜と成膜チャンバ108によって形成される薄膜とを交互に帯状基材103の上に積層させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の薄膜形成装置では、形成される薄膜の膜質が悪くなるおそれがあった。具体的には、帯状基材103の搬送方向を反転させる際、帯状基材103の搬送速度を所定の速度から減速させ、一旦搬送速度をゼロにした後、反対方向への搬送速度が所定の速度になるまで加速させる必要がある。その間、帯状基材103の搬送速度は上記所定の速度よりも遅くなるため、その間、単位面積あたり帯状基材103がプラズマに晒される時間が長くなり、プラズマによって与えられる熱によって帯状基材103が熱伸びしてしまっていた。その結果、帯状基材103には搬送方向(帯状基材103の長尺方向)に伸びるシワが生じ、このシワによって成膜時の膜厚分布が悪くなるなどの悪影響が生じていた。また、このシワは一度生じると帯状基材103の長尺方向全体に及ぶおそれがあり、帯状基材103のほとんどを廃棄せざるを得ない場合が生じていた。
【0008】
一方、帯状基材103に熱伸びを生じさせないために、搬送速度が遅くなっている間は高周波電圧の印加を切り、プラズマ放電を停止させる手段もとられている。しかし、一度プラズマ放電を停止させた後、再び放電を開始してからこの放電が安定するまでには1分程度の長い時間を要する。放電が安定するまでの不安定な状態のプラズマによって形成された薄膜は、膜質や膜厚分布が悪いため、放電が安定するまでに成膜チャンバ107および成膜チャンバ108を通過した帯状基材103の部分は廃棄せざるを得なく、大きな無駄を生じていた。
【0009】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、薄膜が積層された基材を歩留まり良く得ることができる薄膜形成装置および薄膜形成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明の薄膜形成装置は、一方が帯状基材を送り出し、他方が帯状基材を巻き取ることにより、帯状基材を往復搬送させる一対の搬送ロールと、帯状基材の膜形成面の一部を囲み、当該膜形成面の一部との間に閉空間を形成する成膜チャンバと、前記閉空間に原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、高周波電源に接続され、前記閉空間にある前記原料ガスをプラズマ化させるプラズマ電極と、を備え、前記成膜チャンバ内でプラズマ化した前記原料ガスを前記膜形成面に当てて前記原料ガスを成分とする薄膜を形成させる薄膜形成装置であり、帯状基材を所定の速度で搬送しながら薄膜を帯状基材に形成させる成膜モードと、帯状基材の搬送方向を反転させる反転モードと、を有し、帯状基材の単位面積に前記プラズマが単位時間で与える熱量を、前記反転モードの際は前記成膜モードの際よりも低くさせる伝熱制限手段をさらに有することを特徴としている。
【0011】
上記薄膜形成装置によれば、帯状基材を熱伸びさせずに、薄膜が積層された基材を歩留まり良く得ることができる。具体的には、帯状基材の単位面積に前記プラズマが単位時間で与える熱量を、前記反転モードの際に前記成膜モード時の際よりも低くさせる伝熱制限手段をさらに有することにより、反転モードの際に帯状基材の搬送速度が遅くなった時でも帯状基材の熱伸びを防ぐことができる。また、プラズマは発生させ続けていることにより、帯状基材の搬送速度が所定の速度に達した直後に、安定した状態のプラズマで薄膜を形成することができるため、成膜後の帯状基材のうち廃棄が必要な部分を最小限にすることができる。
【0012】
また、前記伝熱制限手段は、前記反転モード際の前記プラズマの強度を前記成膜モードの際の前記プラズマの強度よりも低くするプラズマ強度制御手段である構成としても良い。
【0013】
この構成によれば、プラズマが帯状基材に触れる状態が維持されていても、帯状基材の熱伸びを防ぐことができる。
【0014】
また、前記プラズマ強度制御手段は、前記反転モードの際に前記プラズマ電極に印加される電圧を前記成膜モードの際の電圧である成膜電圧よりも低い電圧である待機電圧とする構成としても良い。
【0015】
この構成によれば、容易にプラズマの強度を制御することが可能である。
【0016】
また、前記伝熱制限手段は、前記膜形成面と前記プラズマ電極との間を遮蔽するシャッター装置であり、当該シャッター装置は、前記膜形成面と前記プラズマ電極との間を遮蔽する遮蔽位置と、前記プラズマ電極から前記膜形成面までの前記プラズマの動きを妨げない待機位置との間で移動可能である構成としても良い。
【0017】
この構成によれば、プラズマが帯状基材に触れない状態を形成することができ、反転モードの際に帯状基材が熱伸びすることを確実に防ぐことができる。
【0018】
また、上記課題を解決するために本発明の薄膜形成方法は、帯状基材を往復搬送させながら、プラズマ化した原料ガスを帯状基材の膜形成面に当てて前記原料ガスを成分とする薄膜を形成させる薄膜形成方法であり、帯状基材を所定の速度で搬送しながら薄膜を帯状基材に形成させる成膜ステップと、帯状基材の搬送方向を反転させる反転ステップと、を有し、帯状基材の単位面積に前記プラズマが単位時間で与える熱量を、前記反転ステップの際は前記成膜ステップの際よりも低くさせることを特徴としている。
【0019】
上記薄膜形成方法によれば、帯状基材を熱伸びさせずに、薄膜が積層された基材を歩留まり良く得ることができる。具体的には、帯状基材の単位面積に前記プラズマが単位時間で与える熱量を、前記反転ステップの際は前記成膜ステップの際よりも低くさせることにより、反転ステップにおいて帯状基材の搬送速度が遅くなった時でも帯状基材の熱伸びを防ぐことができる。また、プラズマは発生させ続けていることにより、帯状基材の搬送速度が所定の速度に達した直後に、安定した状態のプラズマで薄膜を形成することができるため、成膜後の帯状基材のうち廃棄が必要な部分を最小限にすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の薄膜形成装置および薄膜形成方法によれば、薄膜が積層された基材を歩留まり良く得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る実施の形態を図面を用いて説明する。
【0023】
図1および
図2は、本発明の一実施形態における薄膜形成装置1の概略図である。
【0024】
薄膜形成装置1は、基材上に表面処理を行って薄膜を形成するためのものであり、例えば、プラスチックフィルム上に酸化防止、水分浸入防止を目的としたバリア膜を形成し、食品用の保護フィルム、フレキシブル太陽電池の封止膜等に使用される。具体的には、フレキシブル太陽電池の封止膜の場合には、プラスチックフィルム等の帯状基板上に各電極層及び光電変換層等で構成される太陽電池セルが形成された後、薄膜形成装置1により太陽電池セル上に薄膜を複数層形成してバリア膜を形成する。これにより、太陽電池セルに水分の浸入が効果的に防止され、酸化特性に優れたフレキシブル太陽電池を形成することができる。
【0025】
この薄膜形成装置1は、帯状基材2を送り出す搬送ロール3と、供給された帯状基材2を巻き取る搬送ロール4と、搬送ロール3と搬送ロール4との間に配置されるメインロール5と、これらを収容するメインロールチャンバ6と、薄膜を形成する成膜チャンバ7とを有しており、搬送ロール3から送り出された帯状基材2をメインロール5の外周面51に沿わせて搬送させつつ、各成膜チャンバ7を通過させることにより、帯状基材2上に薄膜が形成され、搬送ロール4で巻き取られるようになっている。
【0026】
搬送ロール3および搬送ロール4は略円筒形状の芯部31および芯部41を有しており、これら芯部31および芯部41には帯状基材2が巻き付けられ、これら芯部31および芯部41を回転駆動させることにより、帯状基材2を送り出し、または巻き取ることができる。すなわち、図示しない制御装置により芯部31および芯部41の回転が制御されることにより、帯状基材2の送り出し速度もしくは巻き取り速度を増加及び減少させることができる。具体的には、帯状基材2が下流側から引張力を受けた状態で上流側の芯部を回転させることにより帯状基材2が下流側に送り出され、適宜、この上流側の芯部にブレーキをかけることにより帯状基材2が撓むことなく一定速度で送り出されるようになっている。また、下流側の芯部の回転が調節されることにより、送り出された帯状基材2が撓むのを抑えつつ、逆に帯状基材2が必要以上の張力がかからないようにして巻き取ることができるようになっている。
【0027】
ここで、帯状基材2は、一方向に延びる薄板状の長尺体であり、厚み0.01mm〜0.2mm 幅5mm〜1000mmの平板形状を有する長尺体が適用される。また、材質として、特に限定しないが、ステンレス、銅等の金属材料の他、プラスチックフィルム等が好適に用いられる。
【0028】
このように、上記の搬送ロール3と搬送ロール4とが一対となり、一方が帯状基材2を送り出し、他方が前記送り出し速度と同じ巻き取り速度で帯状基材2を巻き取ることによって、帯状基材2にかかる張力を所定の値で維持しながら帯状基材2を搬送することが可能である。なお、上記では搬送ロール3が帯状基材2を送り出し、搬送ロール4が帯状基材2を巻き取る形態を示しているが、搬送ロール3および搬送ロール4の回転方向を逆転させることにより、上記とは逆に搬送ロール4が帯状基材2を送り出し、搬送ロール3が帯状基材2を巻き取る形態となり、帯状基材2の搬送方向は反転する。
【0029】
メインロール5は、成膜の際に帯状基材2の姿勢を保ちつつ、上流側の搬送ロールから供給された帯状基材2を下流側の搬送ロールに搬送するためのものである。メインロール5は、搬送ロール3と搬送ロール4との間に配置されており、芯部31及び芯部41よりも大径の略円筒形状に形成されている。メインロール5の外周面51は、周方向に曲率が一定の曲面で形成されており、図示しない制御装置により芯部31及び芯部41の回転に応じて駆動制御されるようになっている。また、メインロール5は、芯部31及び芯部41に比べて、その外周面51が下側に張り出す位置に設けられており、この張り出した外周面51に帯状基材2が架け渡されている。すなわち、上流側の搬送ロールから送り出された帯状基材2は、メインロール5の外周面51に当接することにより所定の張力が負荷された状態で搬送される。すなわち、メインロール5の外周面51に帯状基材2が接した状態でメインロール5が搬送ロール3及び搬送ロール4の回転に応じて回転することにより、帯状基材2は、帯状基材2全体が張った状態で、その表面が成膜チャンバ7それぞれに対向する姿勢で上流の搬送ロールから下流の搬送ロールへ搬送されるようになっている。
【0030】
メインロールチャンバ6は、メインロール5を収容しチャンバ内の圧力を一定に保持するためのものである。本実施形態では、メインロールチャンバ6は、
図1に示すように、略ホームベース形状の五角形に形成されたケーシングであり、その中央部分にメインロール5が収容されている。そして、メインロールチャンバ6には、真空ポンプ61が接続されており、この真空ポンプ61を作動させることにより、メインロールチャンバ6内の圧力を制御できるようになっている。本実施形態では、各成膜チャンバ7よりも低圧になるように設定されている。なお、本実施形態では、搬送ロール3及び、搬送ロール4がメインロールチャンバ6内に収容されているが、これらをメインロールチャンバ6の外に設ける構成であってもよい。本実施形態のようにこれらをメインロールチャンバ6内に設けることで、帯状基材2や成膜後の帯状基材2(成膜基材)を大気に曝すことから保護することができる。
【0031】
成膜チャンバ7は、帯状基材2上に薄膜を形成するためのものである。本実施形態では、同じ構造の成膜チャンバ7が2つ設けられている。これらの成膜チャンバ7は、メインロールチャンバ6内に設けられており、本説明では搬送ロール3に近い方を第1成膜チャンバ7a、搬送ロール4に近い方を第2成膜チャンバ7bと呼ぶ。ここで、第1成膜チャンバ7a、第2成膜チャンバ7bを区別しない場合は、単に成膜チャンバ7と呼ぶこととする。第1成膜チャンバ7a及び第2成膜チャンバ7bは、メインロール5の外径側に間仕切り部62を配置することにより形成されている。具体的には、メインロール5の外径側には、略板状の3つの間仕切り部62がメインロール5の外周面51に向かって延びるように設けられていることにより、メインロール5の外周面51と間仕切り部62とメインロールチャンバ6の壁面とで形成されてメインロール5上の帯状基材2の膜形成面(メインロールと当接している面と反対側の面)の一部を囲み、当該膜形成面の一部との間に閉空間を形成する成膜チャンバ7が2つ形成されている。これにより、メインロール5に沿ってたとえば搬送ロール3から搬送ロール4へ帯状基材2が搬送されると、1つ目の間仕切り部62を通過した帯状基材2が第1成膜チャンバ7aに搬送され、次に2つ目の間仕切り部62を通過した帯状基材2が第2成膜チャンバ7bに搬送されることにより、それぞれ第1成膜チャンバ7a及び第2成膜チャンバ7bにより帯状基材2上に順次薄膜が形成されるようになっている。
【0032】
なお、本実施形態では間仕切り部62が帯状基材2と干渉して帯状基材2が破損することを防ぐために、メインロール5上の帯状基材2と間仕切り部62の端部との間には若干の隙間が設けられるように構成されている。したがって、成膜チャンバ7と帯状基材2との間に形成される空間は厳密的には閉空間では無いが、本説明ではこのように若干の隙間がある空間であっても閉空間と呼ぶこととする。
【0033】
これら成膜チャンバ7には、真空ポンプ71a、71bが接続されており、真空ポンプ71a、71bを作動させることにより、成膜チャンバ7a内および成膜チャンバ7b内を所定の圧力に設定できるようになっている。本実施形態では、原料ガスを供給する前に所定の圧力になるまで成膜チャンバ7内を減圧する。
【0034】
また、これらの成膜チャンバ7は、帯状基材2に対する表面処理として、プラズマCVD法を用いた成膜源が設けられている。すなわち、成膜チャンバ7には、高周波電源74に接続されて成膜チャンバ7内の閉空間にプラズマを発生させるための略U字型のプラズマ電極72が設けられるとともに、原料ガス供給手段である原料ガス配管73が接続されている。具体的には、第1成膜チャンバ7aには、高周波電源74aに接続されたプラズマ電極72aが設けられ、第2成膜チャンバ7bには、高周波電源74bに接続されたプラズマ電極72bが設けられている。また、第1成膜チャンバ7aには、原料ガス配管73aが接続されており、第2成膜チャンバ7bには原料ガス配管73bが接続されている。これにより第1成膜チャンバ7a及び第2成膜チャンバ7bを通過する帯状基材2上に所定の薄膜が形成される。すなわち、成膜チャンバ7内に原料ガスが供給された状態で、高周波電源74によってプラズマ電極72に高周波電圧が印加されることにより、プラズマ電極72の周辺にプラズマが発生し、このプラズマによって原料ガスが励起されて成膜チャンバ7内がプラズマ雰囲気となり、帯状基材2上に所定の薄膜が形成される。本実施形態では、第1成膜チャンバ7aでは、原料ガスとしてHMDS(ヘキサメチルジシラザン)ガス及びアルゴンガス、水素ガスを供給することにより、密着性の高いSi化合物膜(第1薄膜)が形成され、第2成膜チャンバ7bでは、原料ガスとしてHMDS及び酸素ガスが供給されることにより、緻密でバリア性の高いSiO2膜(第2薄膜)が形成される。なお、真空ポンプ71a、71b、プラズマ電極72a、72b、原料ガス配管73a、73b、高周波電源74a、74bそれぞれについては、両者区別なく呼ぶ場合は単に真空ポンプ71、プラズマ電極72、原料ガス配管73、高周波電源74と呼ぶことにする。
【0035】
また、高周波電源74とプラズマ電極72とを接続する配線の途中には、プラズマ強度制御手段75(プラズマ強度制御手段75aおよびプラズマ強度制御手段75b)が設けられており、このプラズマ強度制御手段75は、本実施形態ではプラズマ電極72に印加される電圧を制御する電圧制御装置であり、後述する伝熱制限手段の役割を有する。
【0036】
以上の構成の薄膜形成装置1により、搬送ロール3から搬送ロール4へまず帯状基材2が搬送される場合、帯状基材2は、まず第1成膜チャンバ7aを通過し、ここで第1薄膜が形成される。そして、第1薄膜が形成された帯状基材2は引き続き第2成膜チャンバ7bを通過し、第1薄膜の上に第2薄膜が形成される。このように搬送ロール3から搬送ロール4への搬送を続けた結果、搬送ロール3芯部31に巻き付けられていた帯状基材2のほとんどが搬送ロール4の芯部41へ移動して帯状基材2のほぼ全面に第1薄膜および第2薄膜が積層された後、芯部31および芯部41の回転方向を逆転させると、帯状基材2の搬送方向が反転して帯状基材2は再び成膜チャンバ7b、成膜チャンバ7aを通過するため、第2薄膜の上にさらに第1薄膜が積層される。その後さらに帯状基材2の搬送方向を反転させることにより、第1薄膜の上にさらに第2薄膜が形成され、帯状基材2の搬送方向を反転させながら2つの成膜チャンバ7にて薄膜を形成させることにより、2種の薄膜を交互に積層させることが可能である。これにより、高いバリア性と密着性の両方を具備する封止膜を帯状基材2に形成させることができる。
【0037】
また、薄膜形成の際の帯状基材2の搬送速度を一定に保つことにより、帯状基材2の全長にわたって均一の膜厚の薄膜を形成することができ、バリア性にムラが無い封止膜を得ることができる。なお、このような薄膜形成の際の一定の搬送速度のことを、本説明では成膜搬送速度と呼ぶ。また、薄膜形成装置1が帯状基材2を成膜搬送速度で搬送しながら薄膜を形成させる動作を行うことを、本説明では成膜モードと呼ぶ。
【0038】
一方、帯状基材2の搬送方向を反転させて、帯状基材2を反対方向に成膜搬送速度で搬送する際には、帯状基材2の搬送速度を一旦成膜搬送速度から減速させ、搬送速度がゼロになるのを経てから、反対方向への搬送速度が成膜搬送速度になるまで帯状基材2の搬送速度を加速させる必要がある。薄膜形成装置1がこのような動作を行うことを本説明では反転モードと呼ぶが、この反転モードの際、帯状基材2の搬送速度が成膜モードの際の搬送速度(成膜搬送速度)よりも遅くなるため、帯状基材2がプラズマ雰囲気に曝される時間が成膜モードの際よりも長くなる。
【0039】
帯状基材2の膜形成面に薄膜を形成する際、プラズマにより励起された原料ガスが帯状基材2に触れるだけでなく、プラズマが帯状基材2に触れることによって、プラズマの強度に応じた熱量が帯状基材2に与えられる。帯状基材2の単位面積に与えられた熱量が所定の値を超えた場合、帯状基材2には熱伸びなどの変形が生じる。このように帯状基材2が変形すると、メインロール5上の帯状基材2にしわ(縦しわ)が生じ、均一の膜厚で薄膜を積層することが困難となる。また、上記の通り、反転モードの際には帯状基材2がプラズマに晒される時間が長くなるため、仮に反転モードの際も成膜モードの際と同等の強度のプラズマを帯状基材2に当てた場合、帯状基材2の単位面積に与えられた熱量が所定の値を超えて帯状基材2に変形が生じるおそれがある。
【0040】
ここで、本発明では、伝熱制限手段により帯状基材2の単位面積にプラズマが単位時間で与える熱量を、反転モードの際は成膜モード時の際よりも低くさせている。具体的には、本実施形態では、プラズマ強度制御手段75を伝熱制限手段として、反転モードの際にプラズマ電極72に印加される電圧を成膜モードの際の電圧である成膜電圧よりも低い電圧である待機電圧にプラズマ強度制御手段75が制御することにより、反転モードの際のプラズマの強度を成膜モードの際のプラズマの強度よりも低くしている。
【0041】
これにより、反転モードの際に帯状基材2の搬送速度が遅くなった場合であっても、プラズマから帯状基材2の単位面積に伝わる熱量を成膜モードの際よりも少なくすることができるため、反転モードの際に帯状基材2が変形することを防ぐことができる。
【0042】
ここで、本発明では、反転モードの際にプラズマを消灯させるのではなく、プラズマは発生させたまま、伝熱制限手段によって帯状基材2の単位面積にプラズマが単位時間で与える熱量を成膜モードの際よりも低くしている。これは、もしプラズマを一旦消灯させた後再びプラズマを発生させた場合に、あたかも蛍光灯が安定して点灯するまでにしばらく点滅を繰り返すように、プラズマの放電が安定するまでに所定の時間を必要とするからである。
【0043】
放電が安定しないプラズマによって積層された薄膜には、膜厚、膜質にムラが生じ、所定のバリア性を得ることができないため、帯状基材2において放電が安定しないプラズマによって積層された薄膜が存在する部分は廃棄する必要がある。
【0044】
本説明のような薄膜形成装置1において、プラズマを発生させた後に放電が安定するまでには、約1分の時間を要する。一方、反転モードの際に帯状基材2の搬送速度をゼロから成膜搬送速度にまで加速するために要する時間は、成膜搬送速度が5m/sである場合は20秒程度に設定することで帯状基材2を安定して搬送することができる。したがって、プラズマを一旦消灯させる場合は、帯状基材2の搬送速度が一定になった後もしばらく製品として利用できない部分が生じることとなる。
【0045】
これに対し、本発明のように反転モードの際もプラズマの発生は維持しておくことにより、プラズマの放電が不安定になることなく短時間で成膜モードの際のプラズマの強度に戻すことができるため、帯状基材2の搬送速度が成膜搬送速度で一定になった直後から薄膜の膜厚を一定にすることができる。すなわち、たとえば成膜搬送速度が5m/sの場合には、プラズマを一旦消灯させる場合と比較して、40秒間搬送する分にあたる約3.3m分もの帯状基材2を無駄なく製品として利用することが可能である。
【0046】
次に、上述した薄膜形成装置1により、帯状基材2上に薄膜を形成する薄膜形成方法について説明する。
【0047】
まず、搬送ロール3の芯部31に巻回された帯状基材2をセットし、帯状基材2をメインロール5の外周面51に沿わせた後、搬送ロール4の芯部41に架け渡す。そして、メインロールチャンバ6及び成膜チャンバ7の真空ポンプ61、71を作動させ、各チャンバ内を所定の圧力に到達させる。
【0048】
各チャンバが所定の圧力に到達した後、成膜チャンバ7の原料ガス配管73から原料ガスを供給し、高周波電源74によってプラズマ電極72に高周波電圧を印加する。このとき、成膜チャンバ7の圧力は、原料ガスが供給される前よりも高くなる。また、このときにプラズマ電極72に印加される電圧は上記待機電圧となるよう、プラズマ強度制御手段75により制御されている。なお、この待機電圧ではプラズマの点灯が困難であれば、一度成膜電圧程度の高い電圧を印加して点灯させ、瞬時に待機電圧とすることによって、帯状機材2の熱伸びを防ぐことができる。
【0049】
次に、搬送ロール3及び搬送ロール4を駆動させて帯状基材2の搬送を開始する。帯状基材2の搬送速度はゼロから加速されて所定時間後に上記成膜搬送速度に達し、その後当該成膜搬送速度を維持されるが、この成膜搬送速度に達する直前にプラズマ電極72に印加される電圧を成膜電圧にするようプラズマ強度制御手段75が制御され、帯状基材2の搬送速度が成膜搬送速度に達した時にはプラズマ電極72に印加される電圧は成膜電圧となっている。
【0050】
一方、プラズマが点灯された後、第1成膜チャンバ7aでは、プラズマ雰囲気に曝されることにより励起された原料ガスが帯状基材2に触れ、帯状基材2の膜形成面に第1薄膜が形成される。すなわち、帯状基材2は、メインロール5の外周面51に沿って搬送されつつ、原料ガスに触れることにより、帯状基材2の膜形成面には長手方向に亘って第1薄膜が形成される。また、帯状基材2の搬送速度が成膜搬送速度で一定になった後は、均一な膜厚の第1薄膜が得られる。
【0051】
また、第1成膜チャンバ7aを通過した帯状基材2は、第2成膜チャンバ7bに進入し、第2成膜チャンバ7bの原料ガスに曝されることにより、第1薄膜上に第2薄膜が形成される。また、帯状基材2の搬送速度が成膜搬送速度で一定になった後は、均一な膜厚の第2薄膜が得られる。ここで、一定の成膜搬送速度で帯状基材2を搬送しながら帯状基材2に第1薄膜及び第2薄膜を形成する工程を、本説明では成膜ステップと呼ぶ。そして、帯状基材2に第1薄膜及び第2薄膜が積層されて形成された後、搬送ロール4に帯状基材2が巻き取られる。
【0052】
次に、帯状基材2の大半が搬送ロール4に巻き取られた後、搬送ロール3および搬送ロール4の回転方向を逆転させ、帯状基材2の搬送方向を反転させる。このとき、帯状基材2の搬送速度は一旦減速され、ゼロとなった後に搬送方向が反転し、搬送速度が成膜搬送速度になるまで加速される。このように帯状基材2の搬送方向が反転するとともに搬送速度が成膜搬送速度より低くなっている工程を、本説明では反転ステップと呼ぶ。この反転ステップとなった直後、プラズマ電極72に印加される電圧は待機電圧となるよう、プラズマ強度制御手段75により制御される。
【0053】
次に、帯状基材2の搬送速度が成膜搬送速度で一定になるとともにプラズマ電極72に印加される電圧が成膜電圧となるよう、プラズマ強度制御手段75により制御され、再び成膜ステップが行われる。この際、帯状基材2は第2成膜チャンバ7b、第1成膜チャンバ7aの順に通過して、第2薄膜の上に第1薄膜が形成される。
【0054】
その後、所定の回数分反転ステップと成膜ステップとが繰り返し行われることにより、所定の数だけ第1薄膜と第2薄膜とが交互に積層された封止膜が帯状基材2の上に形成される。
【0055】
最後に、プラズマ電極72に印加される電圧がゼロとなって各成膜チャンバのプラズマが消灯した後、帯状基材2の全てが片方の搬送ロールに巻き取られた状態にされ、当該搬送ロールが薄膜形成装置1から取り外されて、帯状基材2は次の工程に送られる。
【0056】
以上の薄膜形成装置および薄膜形成方法により、薄膜が積層された基材を歩留まり良く得ることが可能である。
【0057】
なお、本実施形態では、伝熱制限手段としてプラズマ強度制御手段75を用い、反転モードの際にプラズマ電極72に印加される電圧を成膜モードの際の電圧である成膜電圧よりも低い電圧である待機電圧にプラズマ強度制御手段75が制御することにより、反転モード際のプラズマの強度を成膜モードの際のプラズマの強度よりも低くしているが、伝熱制限手段はこの形態に限られない。たとえば、
図3に示すように、伝熱制限手段は、帯状基材2の膜形成面とプラズマ電極72との間を遮蔽するシャッター装置76であっても良い。このシャッター装置76は、Y軸方向(紙面と垂直な方向)に移動可能とし、膜形成面とプラズマ電極72との間を遮蔽する遮蔽位置と、プラズマ電極72から膜形成面までのプラズマの動きを妨げない待機位置とをとりうる。この構成によれば、プラズマが帯状基材2に触れない状態を形成することができ、反転モードの際に帯状基材が熱伸びすることを確実に防ぐことができる。
【0058】
また、本実施形態ではプラズマ強度制御手段として、プラズマ電極72に印加される電圧を制御する手法を採用しているが、その手法に限らず、たとえば成膜チャンバ7内の圧力を制御したり成膜チャンバ7内へ供給する原料ガスの量を制御する手法によりプラズマの強度を制御しても良い。
【0059】
また、本実施形態では、成膜チャンバ7が2つの場合について説明したが、間仕切り部62を増やすことにより、3つ以上の成膜チャンバ7を設けて3種類以上の薄膜を形成するものであってもよい。また、成膜チャンバ7を1つのみ設け、1種類の薄膜を積層して比較的厚めの膜を得るものであってもよい。