(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
隣接する一対の動翼が設けられるディスクの翼溝のぞれぞれにこれら一対の動翼を互いのシュラウドのコンタクト面同士が接触するように挿入して、前記一対の動翼のシュラウドにおける周方向への広がり寸法を取得する広がり寸法取得工程と、
前記広がり寸法と、予め取得された前記広がり寸法及び前記動翼のプレツイスト量の相関関係と、に基づいて、前記一対の動翼のプレツイスト量が任意の値となるように、一対のシュラウドの互いに接触するコンタクト面の一方の削り量を決定する削り量決定工程と、
を含むシュラウド削り量決定方法。
前記隣接する一対の動翼のうちの一方の動翼のみを該動翼が設けられる前記ディスクの翼溝に挿入して、該一方の動翼の基準位置を検出するとともに、前記隣接する一対の動翼のうちの他方の動翼のみを該動翼が設けられる前記ディスクの翼溝に挿入して、該他方の動翼の基準位置を検出する基準位置検出工程と、
をさらに備え、
前記広がり寸法取得工程は、前記一対の動翼を互いのシュラウドのコンタクト面同士が接触するように挿入した際におけるこれら一対のシュラウドの周方向の寸法を検出して、該検出した周方向の寸法を、前記一方の動翼の基準位置及び他方の動翼の基準位置と比較することにより、前記広がり寸法を取得する
請求項1に記載のシュラウド削り量決定方法。
【背景技術】
【0002】
例えばタービンや圧縮機等のロータを組立てるに当たっては、円盤状のディスクの周方向に沿って複数の動翼を順次配列することで動翼列が構成される。ディスクにはその円周方向に沿って設けられた複数の翼溝が形成されている。翼溝は、ディスクの軸線方向に沿って該ディスクを貫通するように設けられた溝である。この翼溝に対して、ディスクの軸線方向一方側から動翼を嵌め込むことで、動翼列が構成される。
【0003】
ところで近年では、動翼の延びる方向に沿って予めねじり量が与えられたプレツイスト翼が盛んに採用されている。このようなプレツイスト翼は、ディスク上に配列されると、隣り合う動翼のシュラウド同士が互いに押圧接触することで、動翼全体がねじり戻されて、予め設計されたツイスト量のもとで固定される。
【0004】
このようにシュラウド同士にはプレツイストに基づく押圧力が生じることから、動翼をディスク上に配列する際には、この押圧力に抗しながら組み立てる必要がある。すなわち、組立に当たっては作業者に大きな負担を強いることとなる。
【0005】
このような負担を軽減するための技術として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載されたタービン動翼では、翼部の径方向外側に一体に形成されたインテグラルカバーにおける傾斜面、すなわち隣接する動翼のインテグラルカバーと当接する面の法線が、翼部の位置する領域と交差しないように形成されている。これにより、インテグラルカバーに働く円周方向の力を軽減することができるとされている。
【0006】
ところで、動翼はマシニングセンタ等で切削加工されて提供されることが一般的である。すなわち、動翼をディスクに嵌め込む際には、切削加工時等に生じる寸法誤差を吸収するために、仮組みと、再度の切削加工と、を経て最終的な組立が行われる。
【0007】
このような組立方法の一例として、以下のような方法が提唱されている。まず、5つの動翼を1つの翼群としてディスク上に仮組する。このとき、動翼に設けられたシュラウド同士が当接することにより、5つの動翼のうち、後から仮組される動翼ほど、ディスクに対して軸方向のずれを生じる。特に、動翼のディスク側の端部をなすプラットホームは、ディスクの軸方向に沿って互いに段差が形成された状態となる。このプラットホームの段差量に基づいて演算処理を行うことで、シュラウド同士の当接面の削り量を決定する。次いで、この削り量に従ってシュラウドを切削する。これにより、5つの動翼が所定のプレツイスト量のもとで配列される。以上の工程を、残余の翼群に対して繰り返すことで、全ての動翼がディスク上に配列される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1のタービン動翼では、インテグラルカバーの傾斜面が、設計値どおりの形状と寸法を有して加工されることを前提としている。このため、組立工程における上記のような誤差の是正を行った場合、組立精度が損なわれるばかりでなく、組立工程の複雑化を招く可能性がある。
【0010】
さらに、動翼のプラットホームにおける段差量に基づいてシュラウドの削り量を決定する上述の方法では、プラットホームとシュラウドとが互いに離れていることに加えて、シュラウドの削り量が演算処理を経て決定されるため、実際に必要とされる削り量に対して大きな誤差を生じる可能性がある。加えて、各翼群について、仮組、段差量の計測、切削、組立を都度繰り返す必要があるため、工期の長期化と工程の複雑化を招く可能性がある。
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、簡便であるとともに十分な精度を備えたシュラウド削り量決定方法、及びロータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係るシュラウド削り量決定方法は、隣接する一対の動翼が設けられるディスクの翼溝のぞれぞれにこれら一対の動翼を互いのシュラウドのコンタクト面同士が接触するように挿入して、前記一対の動翼のシュラウドにおける周方向への広がり寸法を取得する広がり寸法取得工程と、前記広がり寸法と、予め取得された前記広がり寸法及び前記動翼のプレツイスト量の相関関係と、に基づいて、前記一対の動翼のプレツイスト量が任意の値となるように、一対のシュラウドの互いに接触するコンタクト面の一方の削り量を決定する削り量決定工程と、を含む。
【0013】
この方法によれば、広がり寸法取得工程でシュラウドにおける周方向への広がり寸法を取得し、削り量決定工程でこの広がり寸法とプレツイスト量との相関関係に基づいてコンタクト面の削り量を決定する。すなわち、切削対象であるシュラウドのコンタクト面の削り量は、同じく切削対象であるシュラウドにおける周方向への広がり寸法に基づいて決定される。これにより、切削対象であるシュラウドとは異なる部分の広がり寸法に基づいて削り量を決定した場合に比べて、削り量に含まれる誤差を低減することができる。
【0014】
本発明の一態様に係るシュラウド削り量決定方法は、前記隣接する一対の動翼のうちの一方の動翼のみを該動翼が設けられる前記ディスクの翼溝に挿入して、該一方の動翼の基準位置を検出するとともに、前記隣接する一対の動翼のうちの他方の動翼のみを該動翼が設けられる前記ディスクの翼溝に挿入して、該他方の動翼の基準位置を検出する基準位置検出工程と、をさらに備え、前記広がり寸法取得工程は、前記一対の動翼を互いのシュラウドのコンタクト面同士が接触するように挿入した際におけるこれら一対のシュラウドの周方向の寸法を検出して、該検出した周方向の寸法を、前記一方の動翼の基準位置及び他方の動翼の基準位置と比較することにより、前記広がり寸法を取得してもよい。
【0015】
この方法によれば、一対の動翼についてそれぞれの基準位置と、一対の動翼をコンタクト面同士が接触するように挿入した際における一対のシュラウドの周方向の寸法と、を比較することのみで広がり寸法を取得することができる。これにより、コンタクト面の削り量を容易かつ精緻に決定することができる。
【0016】
本発明の一態様に係るシュラウド削り量決定方法では、前記広がり寸法取得工程、前記基準位置検出工程及び前記削り量決定工程は、隣接する一対の動翼を対象として前記ディスクの全周にわたって順次行われてもよい。
【0017】
この方法によれば、ディスクの全周にわたって同様の工程を繰りかえすのみで、全ての動翼についての削り量を容易に決定することができる。
【0018】
本発明の他の態様に係るロータの製造方法は、上記いずれかの態様に係るシュラウド削り量決定方法を用いたロータの製造方法であって、前記削り量決定工程で決定された前記削り量に基づいて、前記シュラウドの前記コンタクト面を切削する切削工程と、前記コンタクト面が切削された前記動翼を前記翼溝に順次挿入する挿入工程と、を含む。
【0019】
この方法によれば、削り量決定工程及び切削工程によってコンタクト面が適切に切削された動翼を、挿入工程で一括して翼溝に挿入することができる。すなわち、動翼を翼溝に挿入するに当たって、他の工程への手戻りや繰り返し等を生じることなく、容易にロータを製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、簡便であるとともに、十分な精度を備えたシュラウド削り量決定方法、及びロータの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(ロータ、動翼)
本実施形態に係るロータ1について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、ロータ1は、軸線Oに沿って延びる略円柱状のロータ本体10と、このロータ本体10の外周を囲むようにして設けられたディスク20と、ディスク20の外周面に沿って周方向に配列された複数の動翼30と、を備えている。
【0023】
ロータ本体10は、例えば蒸気タービン等におけるタービン内部に設けられて、軸線O回りに回転可能に支持される回転体である。このロータ本体10の外周面には、ディスク20を介して複数の動翼30がロータ1の周方向に沿って設けられている。この複数の動翼30は1つの動翼列をなす。さらに、ロータ本体10には、このような動翼列がロータ1の軸線O方向に間隙50を開けて複数段設けられている。なお、以降の説明では、ロータ1の軸線Oに沿う方向、及びこの軸線O回りの方向を、それぞれ単に軸線O方向、周方向と呼ぶ。
【0024】
このように構成されたロータ1は、タービンのケーシング内に収められる(不図示)。ケーシング内には複数段の静翼列が軸線O方向に沿って設けられている。これら静翼列と上記の動翼列とが軸線O方向に沿って交互に配置されることで、タービン流路を形成する。蒸気タービンの場合、このタービン流路に高温高圧の蒸気が供給されることでロータ1が回転する。ロータ1の回転運動は、タービンに接続された外部のジェネレータ等によって取り出されて、発電等に用いられる。
【0025】
次いで、動翼30、及びロータ1(ディスク20)に対する動翼30の取り付け構造について詳述する。
図1に示すように、ディスク20の外周面には、その周方向に沿って間隔をあけて配列された複数の翼溝40が形成されている。それぞれの翼溝40は、ディスク20の外周面から径方向内側に向かって凹没するように形成された溝である。さらに、翼溝40は軸線O方向における両側が開口されている。すなわち、翼溝40はディスク20を軸線O方向に貫通している。
【0026】
周方向における翼溝40の一対の壁面41には、鋸刃状に連続する複数の歯42がそれぞれ形成されている。このような歯42が形成された一対の壁面41は、径方向外側から内側に向かうに従って次第に周方向の離間寸法が減ずるように形成されることで、軸線O方向から見て概ねV字型をなしている。詳しくは、これら壁面41は、ロータ1の中心(軸線O)を通って径方向に沿って延びる基準線に対して線対称をなしている。以降の説明では、この径方向の基準線を動翼基準線Dpと呼ぶ。
【0027】
詳しくは
図3に示すように動翼30は、ディスク20上の翼溝40に嵌合するフィクシング31と、フィクシング31の径方向外側に設けられる矩形板状のプラットホーム32と、プラットホーム32から径方向外側に向かって延びる翼部33と、翼部33の径方向外側の端部に設けられるシュラウド34と、を有している。
【0028】
フィクシング31は、略V字型の翼溝40に対応するように、軸線O方向から見て概ね楔型をなしている。このフィクシング31の周方向における一対の壁面には、翼溝40と歯42と対応する形状のセレーション31Aがそれぞれ形成されている。すなわち、翼溝40の歯42と、このセレーション31Aとが互いに噛み合うことによって、動翼30はディスク20を介してロータ1上で支持される。なお、詳細は後述するが、セレーション31Aと翼溝40の壁面41との間には間隙50が形成されている。言い換えると、翼溝40の容積に対して、フィクシング31の体積はわずかに小さく設定されている。この間隙50は、翼溝40、動翼30それぞれの加工上の誤差等を吸収するために設計時に予め設けられるものである。
【0029】
本実施形態におけるプラットホーム32は、このフィクシング31における径方向外側に一体に設けられた略矩形板状の部材である。詳しくは
図2に示すように、プラットホーム32は周方向から見て概ね平行四辺形をなしている。プラットホーム32の径方向内側の面は、ロータ1上のディスク20に当接するように形成されている。さらに、プラットホーム32の周方向における両辺は、隣接する他の動翼30のプラットホーム32と当接するように形成されている。
なお、プラットホーム32の形状や寸法は設計に応じて適宜に選択されるものであって、本実施形態に限定されるものではない。
【0030】
翼部33は、プラットホーム32から径方向外側に向かって延びるとともに、径方向から見て翼型の断面を有している。詳しくは
図2に示すように、翼部33は周方向一方側に向かって曲面状に凹没する腹部33Aと、この腹部33Aの反対側で同じく周方向一方側に向かって曲面状に突出する背部33Bと、を有している。これら腹部33Aと背部33Bをなすそれぞれの曲面は、軸線Oに交差する方向(翼弦方向Dh)における両端縁で連続的に接続されている。翼弦方向Dhにおける両端縁のうち、一方側の端縁は曲面状に形成されることでリーディングエッジ36とされている。翼弦方向Dhにおけるリーディングエッジ36と反対側の端縁は尖頭状に形成されることでトレーリングエッジ37とされている。
【0031】
なお、本実施形態では、製造直後の動翼30における翼部33の形状は動翼基準線Dpに沿っておおむね一様とされている。しかしながら、翼部33の形状はこの態様に限定されない。例えば、動翼基準線Dpに沿って一方側から他方側に向かうに従って、翼部33が動翼基準線Dpの回りに予めねじれるように形成された、いわゆるねじり翼としてもよい。
【0032】
このように構成された翼部33は、タービン内部における流体の流通する方向に沿って、リーディングエッジ36側を流体が流れてくる側、すなわち上流側に向け、トレーリングエッジ37側を流体が流れ去る側、すなわち下流側に向けるようにして、タービンのケーシング内に配置される。
図2中では、上流側を+Da方向と表し、下流側を−Da方向と表している。
【0033】
さらに、この翼部33の腹部33Aは、おおむね全体が上流側に臨んでおり、背部33Bはおおむね全体が下流側に臨んでいる。これにより、上流側から流通した流体が腹部33Aに衝突することで、翼部33には腹部33A側から背部33B側に向かう力が作用する。この力によって、ロータ1は軸線Oの回りで回転する。このときのロータ1の回転する方向、すなわち翼部33の腹部33A側から背部33B側に向かう方向を、回転方向前方側と呼び、この回転方向前方側と反対側を、回転方向後方側と呼ぶ。
図2中では、回転方向前方側を+Dc方向と表し、回転方向後方側を−Dc方向と表している。
【0034】
シュラウド34は、翼部33の径方向外側に設けられた板状の部材である。より詳しくは
図1に示すように、シュラウド34は動翼基準線Dpに交差する平面に概ね沿って延びている。さらに、
図2に示すように、径方向外側から見た場合、シュラウド34は上流側から下流側に向かってジグザグ状に延びて、おおむねZ字型をなしている。
【0035】
上流側、及び下流側の両端縁はともに周方向に沿って直線状に延びて、それぞれ上流側端縁60、下流側端縁70とされている。これら上流側端縁60と下流側端縁70とは、上下流方向で互いに対向している。
【0036】
上流側端縁60と下流側端縁70とを結ぶ両端縁のうち、回転方向前方側の端縁は、前方側端縁80とされている。一方で、回転方向後方側の端縁は、後方側端縁90とされている。これら前方側端縁80と後方側端縁90は、ともに3つの辺部を有している。具体的には、前方側端縁80は、上流側から下流側に向かって順に、前方側第一端縁81と、前方側第二端縁82(前方側コンタクト面82)と、前方側第三端縁83と、を有している。
【0037】
前方側第一端縁81は、上流側から下流側にかけて回転方向後方側に傾斜している。また、前方側第一端縁81の上流側の端部と、上流側端縁60の回転方向前方側の端部は、回転方向前方側に向かって湾曲する曲線によって互いに接続されている。前方側第一端縁81の下流側の端部は、回転方向前方側に向かって次第に湾曲することで円弧状をなしている。
【0038】
前方側第二端縁82は、前方側第一端縁81の下流側の端部から、下流側に向かうに従って回転方向前方側に向かう直線状に形成されている。詳しくは後述するが、この前方側第二端縁82は、ディスク20上で周方向に隣接する他の動翼30のシュラウド34の一部と当接することで、前方側コンタクト面82とされている。
【0039】
前方側第三端縁83は、前方側第二端縁82の下流側の端部から、下流側に向かうに従って回転方向後方側に向かう直線状に形成されている。この前方側第三端縁83の下流側の端部は、上述の下流側端縁70における回転方向前方側の端部と接続されている。
【0040】
前方側端縁80と同様に、後方側端縁90は、上流側から下流側に向かって順に、後方側第一端縁91と、後方側第二端縁92(後方側コンタクト面92)と、後方側第三端縁93と、を有している。
【0041】
後方側第一端縁91は、前方側第一端縁81と概ね同一の方向に沿って延びている。さらに、後方側第二端縁92は、前方側第二端縁82と概ね同一の方向に沿って直線状に延びている。この後方側第二端縁92は、周方向に隣接する他の動翼30のシュラウド34における前方側第二端縁82、すなわち前方側コンタクト面82に対して、その延在長にわたって当接するように形成されている。言い換えると、互いに隣接する一対の動翼30のうち、一方側の動翼30における前方側コンタクト面82と、他方側の動翼30における後方側コンタクト面92とは、上下流方向(軸線O方向)に対して略同一の角度をなして傾斜するように延びている。
【0042】
後方側第三端縁93は、前方側第三端縁83と概ね同一の方向に沿って延びている。この後方側第三端縁93の下流側の端部は、下流側端縁70における回転方向後方側の端部と接続されている。
【0043】
以上のように構成された動翼30は、ディスク20上に設けられた翼溝40に固定される。より詳しくは、動翼30におけるフィクシング31を翼溝40の一方側の開口から挿入することで、フィクシング31のセレーション31Aと、翼溝40の歯42とがそれぞれ噛み合う。これにより、ロータ1が回転している際に動翼30に対して遠心力が加わっても脱落せずに支持される。
【0044】
さらに、ロータ1を組立てるに当たっては、複数の動翼30を周方向に沿って、翼溝40に順次挿入することで完成される。周方向に配列された状態において、互いに隣り合う一対の動翼30は、前方側コンタクト面82と後方側コンタクト面92とを介して当接する(
図2参照)。前方側コンタクト面82と後方側コンタクト面92との当接する部位を当接部Cと呼ぶ。
【0045】
ここで、
図2に示すように、順次配列された4つの動翼30(シュラウド34)がなす3つの当接部C上の一点を、回転方向後方側から前方側に向かってそれぞれP1、P2、P3とする。さらに、ロータ1が組立てられた状態におけるP1からP2にかけての寸法をLとする。
【0046】
このとき、製造直後の動翼30では、後方側コンタクト面92と前方側コンタクト面82との間の寸法は、このLよりもわずかに大きく設定されている。詳しくは
図5に示すように、後方側コンタクト面92と、前方側コンタクト面82には、それぞれ削りしろKが形成されている。したがって、製造直後の一対の動翼30を互いに隣接させて翼溝40に挿入した場合、互いの削りしろK同士が干渉することで、一対の動翼30には周方向(回転方向)に沿って互いに離間する方向の力が加わっている。
【0047】
このような状態における一対の動翼30を径方向から見ると、
図2に示すように、前方側コンタクト面82、及び後方側コンタクト面92には、これらコンタクト面に直交する方向に力Fが加わる。前方側コンタクト面82には、上流側から下流側に向かうにつれて回転方向後方側に向かう力Fが加わる。後方側コンタクト面92には、下流側から上流側に向かうにつれて回転方向前方側に向かう、反力としての力Fが加わる。
【0048】
これらの力Fの作用によって、動翼30には、同図中の矢印で示す方向に向かう回転モーメントRが付加される。動翼30の翼部33を基準とした場合、この回転モーメントRによって、リーディングエッジ36が回転方向前方側に向かうとともに、トレーリングエッジ37が回転方向後方側に向かうように、動翼30がねじれる。このときのねじれの量を、プレツイスト量と呼ぶ。プレツイスト量は、特定の基準線回りにおける動翼30の回転量を例えばラジアン等の単位系で表すことで得られる物理量である。
【0049】
ここで、本実施形態に係る動翼30では、ロータ本体10に組立てられた状態における動翼30のプレツイスト量が予め設計値(目標プレツイスト量)として定められている。したがって、ロータ1を組立てるに当たっては、動翼30のプレツイスト量が、この目標プレツイスト量に合致するように、動翼30の形状を調整する必要がある。この調整は、前方側コンタクト面82、又は後方側コンタクト面92のいずれか一方における削りしろKに切削加工を施すことで行われる。このときの削り量に応じて動翼30のプレツイスト量が調整されて、目標プレツイスト量を有する動翼30が得られる。
【0050】
(シュラウド削り量決定方法、ロータの製造方法)
次いで、本実施形態に係るロータの製造方法について説明する。ロータの製造方法は、シュラウド削り量決定方法の各工程と、この方法で決定された削り量に基づく切削工程と、挿入工程と、を含む。
【0051】
初めに、シュラウド34の前方側コンタクト面82(又は後方側コンタクト面92)における切削加工時の削り量を決定する方法について説明する。
図8に示すように、本実施形態に係るシュラウド削り量決定方法は、基準位置検出工程S1と、広がり寸法取得工程S2と、削り量決定工程S3と、を含む。概略として、この方法では、隣り合う一対の動翼30を用いて一方の動翼30のシュラウド34の削り量を決定する工程を、全ての動翼30に対して順次行う。
【0052】
初めに、
図3、
図4を参照して基準位置検出工程S1について説明する。基準位置検出工程S1では、1つの動翼30のみを翼溝40に挿入することで、この動翼30の基準位置の検出を行う。上述したように、動翼30のフィクシング31と翼溝40との間には周方向に間隙50が形成されている。この間隙50により、動翼30は周方向に沿ってわずかに振れるようになっている。この振れの大きさをまず計測する。具体的には、動翼30を周方向に沿って動かしたときの、シュラウド34上の任意の一点(例えば、上述の当接部Cにおける点P1など)の振れ量をダイヤルゲージ等の計測装置で計測する。この振れ量をT1としたとき、T1に0.5を乗じた値、すなわち0.5T1となる位置を動翼30の基準位置とする。具体的には、計測装置で振れ量T1を計測した後、このT1に基づいて0.5T1を算出して記録しておく。基準位置を検出が完了した後、動翼30を翼溝40から取り外す。
なお、この基準位置は、動翼30の主要軸線Oが上述の動翼基準線Dpを通る位置となる。
【0053】
続いて、上述の動翼30に隣接する他の動翼30について上述と同様の工程を行うことで、この動翼30の基準位置における振れ量T2を検出し、これに基づいて0.5T2を算出する。基準位置を検出が完了した後、動翼30を翼溝40から取り外す。以上により、基準位置検出工程S1が完了する。
なお、本実施形態では、回転方向後方側の動翼30に次いで、回転方向前方側の動翼30の基準位置を順次検出する例について説明した。しかしながら、回転方向前方側の動翼30に次いで、回転方向後方側の動翼30の基準位置を順次検出してもよい。
【0054】
次に、広がり寸法取得工程S2を行う。広がり寸法取得工程S2では、まず上述の基準位置検出工程S1を終えた一対の動翼30を隣接する翼溝40にそれぞれ挿入する。このとき、互いの動翼30のシュラウド34におけるコンタクト面同士(前方側コンタクト面82と後方側コンタクト面92)が接触するように翼溝40に挿入する。上述のように、それぞれのコンタクト面には削りしろKが予め設けられているため、一対の動翼30をともに挿入した場合、これら動翼30同士は、周方向に沿って互いに離間する方向にわずかに移動する。同時に、動翼30には上述のようなねじれが生じた状態となる。
【0055】
次いで、このような状態における一対の動翼30のシュラウド34の周方向の寸法を計測する。具体的には、
図5に示すように、一方側(回転方向後方側)の動翼30における後方側コンタクト面92と、他方側の動翼30における前方側コンタクト面82との間の寸法を、ダイヤルゲージ等の計測装置を用いて計測する。このときの値を周方向実測値Lとする。なお、実際の計測に当たっては、正確を期するために、一方側の動翼30の周方向寸法L1と、他方側の動翼の周方向寸法L2と、を別個に計測した後にこれらL1とL2との合算することで、周方向実測値L(=L1+L2)とすることが望ましい。
【0056】
次に、この周方向実測値Lから、上述の基準位置におけるそれぞれの動翼30の振れ量0.5T1と、0.5T2との和を減ずることで、広がり寸法Hを算出する。具体的には、以下の(1)式に示す演算を行う。
H=L−(0.5T1+0.5T2) ・・・(1)
(1)式に示すように、広がり寸法Hとは、一対の動翼30がともに基準位置にある状態を仮定した場合における一対のシュラウド34の周方向寸法と、周方向実測値Lとの差分を表している。
【0057】
さらに、この広がり寸法Hは、上述のプレツイスト量(以後、θとする)との間で、
図7に示すような相関関係がある。より詳細には、広がり寸法Hが大きくなるにつれて、動翼30のコンタクト面(前方側コンタクト面82、後方側コンタクト面92)に加わる力Fが大きくなることから、プレツイスト量θは線形的に増加する。以上により、広がり寸法取得工程S2が完了する。
【0058】
続いて、削り量決定工程S3を行う。削り量決定工程S3では、上記の広がり量Hと、
図7に示すHとプレツイスト量θとの間の相関関係に基づいて、シュラウド34の削り量Gを決定する。なお、本実施形態では、動翼30の翼部33における背部33Bが臨む側、すなわち前方側コンタクト面82を切削することで、プレツイスト量θを調整する。したがって、削り量Gは前方側コンタクト面82に対する切削時の削り量を表す。
具体的には、
図7に示す広がり量Hとプレツイスト量θの相関グラフを参照して、設計プレツイスト量(以後、θpとする)を取る時の広がり量(以後、設計広がり量Hp)を求める。次いで、実測値である広がり量Hと、設計広がり量Hpとの差分を求めることで、削り量Gが算出される((2)式参照)。以上により、削り量決定工程S3が完了する。
G=H−Hp ・・・(2)
【0059】
この削り量決定方法を、ロータ1の全周にわたる全ての動翼30について順次行う。具体的には、周方向に沿って隣接する4つの動翼30をそれぞれ第一動翼、第二動翼、第三動翼、第四動翼とした場合、最初に第一動翼と第二動翼について削り量決定方法の各工程を実施する。次いで、第二動翼と第三動翼について同様に削り量を決定する。さらに、第三動翼と第四動翼について削り量を決定する。このように、互いに隣接する一対の動翼30全てについて同工程を繰り返す。
以上により、本実施形態に係るシュラウド削り量決定方法の全工程が完了する。
【0060】
次に、
図9に示すように、削り量決定工程S3で決定された削り量Gに基づいて、前方側コンタクト面82を切削する切削工程S4と、コンタクト面が切削された動翼30を翼溝40に順次挿入する挿入工程S5とを行うことで、本実施形態に係るロータの製造方法の全工程が完了する。
【0061】
以上で説明したように、上述のシュラウド削り量決定方法によれば、広がり寸法取得工程S2でシュラウド34における周方向への広がり寸法Hを取得し、削り量決定工程S3でこの広がり寸法Hとプレツイスト量との相関関係に基づいてコンタクト面の削り量Gを決定する。すなわち、切削対象であるシュラウド34のコンタクト面の削り量は、同じく切削対象であるシュラウド34における周方向への広がり寸法に基づいて決定される。これにより、切削対象であるシュラウド34とは異なる部分の広がり寸法に基づいて削り量Gを決定した場合に比べて、削り量Gに含まれる誤差を低減することができる。
【0062】
さらに、この方法によれば、一対の動翼30についてそれぞれの基準位置と、一対の動翼30をコンタクト面同士が接触するように挿入した際における一対のシュラウド34の周方向の寸法とを比較するのみで広がり寸法を取得することができる。これにより、コンタクト面の削り量Gを容易かつ精緻に決定することができる。
【0063】
加えて、この方法によれば、ディスク20の全周にわたって同様の工程を繰りかえすのみで、全ての動翼30についての削り量Gを容易に決定することができる。
【0064】
さらに加えて、上述のロータの製造方法によれば、削り量決定工程S3及び切削工程S4によってコンタクト面が適切に切削された動翼30を、挿入工程で一括して翼溝40に挿入することができる。すなわち、動翼30を翼溝40に挿入するに当たって、他の工程への手戻りや繰り返し等を生じることなく、容易にロータ1を製造することができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。