(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376776
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】窒化タンタルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20180813BHJP
C01B 21/06 20060101ALI20180813BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20180813BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20180813BHJP
C30B 9/12 20060101ALI20180813BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
C30B29/38 Z
C01B21/06 A
B01J27/24 M
B01J35/02 J
C30B9/12
C01B3/04 A
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-39647(P2014-39647)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-71525(P2015-71525A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2017年2月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-184256(P2013-184256)
(32)【優先日】2013年9月5日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年 3月 6日表面技術協会第127回講演大会講演要旨集で発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、文部科学省、戦略的創造研究推進事業、(ALCA)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100080919
【弁理士】
【氏名又は名称】田崎 豪治
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】我田 元
(72)【発明者】
【氏名】堂免 一成
【審査官】
塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−063452(JP,A)
【文献】
Tsuyoshi Takata, et al.,Synthesis of Structurally Defined Ta3N5 Particles by Flux-Assisted Nitridation,Crystal Growth and Design,2011年,2011,Vol.11,33-38
【文献】
Sayaka Suzuki et al.,Direct fabrication and nitridation of a high-quality NaTaO3 crystal layer onto a tantalum substrate,CrystEngComm,2012年,2012,14,7178-7183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
B01J 27/24
B01J 35/02
C01B 3/04
C01B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタル基板表面、または基板上のタンタル皮膜表面を親水化処理すること;アルカリ炭酸塩と塩化ナトリウム、塩化カリウムまたは塩化リチウムとを含むフラックス水性溶液またはペーストを前記基板表面または皮膜表面に塗布すること;ならびに塗布された表面を含む基板を窒素源含有雰囲気中で加熱し、ついで冷却することにより基板上に窒化タンタル(Ta3N5)結晶層を形成することを特徴とする窒化タンタルの製造方法。
【請求項2】
タンタル皮膜が、金属またはセラミックスの基板上にスパッタ法で形成される請求項1に記載の窒化タンタルの製造方法。
【請求項3】
親水化処理が紫外線照射またはプラズマ照射である請求項1または2に記載の窒化タンタルの製造方法。
【請求項4】
窒素源含有雰囲気が、アンモニア気流である請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化タンタルの製造方法。
【請求項5】
窒素源含有雰囲気中での加熱が、600〜1000℃である請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化タンタルの製造方法。
【請求項6】
得られる窒化タンタルが柱状または板状結晶である請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒化タンタルの製造方法。
【請求項7】
柱状結晶は、少なくとも80%以上が基板に45〜90度方向に配向している請求項6に記載の窒化タンタルの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の窒化タンタルの製造方法により基板表面に形成された窒化タンタル結晶層を含む、基板/窒化タンタル結晶層からなる可視光応答光電極に可視光を照射して、水の光触媒分解を行うことにより水素を得ることを特徴とする水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化タンタルの製造方法、さらに詳しくは基板上に窒化タンタル結晶層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラックス法は、溶液からの結晶育成法の一種であり、そこでは高温で融解しているフラックス(溶媒)に溶質を溶解させ、溶液の冷却や溶媒の蒸発による過飽和の増加を利用して結晶を育成する。そして、目的とする結晶を融点より低い温度で育成でき、高品質な結晶を育成でき、さらには特殊な装置や操作を必要としない、等の特長を有する。フラックス法は、通常、るつぼ等の容器内で結晶を育成する。フラックスコーティング法は、このようなフラックス法の原理を応用した結晶層(薄膜)形成方法である。通常、るつぼに充填する出発原料(溶質およびフラックス)に水やエタノール等を加えて、常温で溶液やペーストを作成し、基板表面にこれを塗布して加熱する。塗布された溶質が、加熱によりフラックスに溶解し、フラックスの蒸発または溶液の冷却を駆動力として基材表面で結晶が成長する。
【0003】
窒化物は、可視光照射下に水を分解する光触媒として期待されており、酸化物をアンモニア気流下に加熱して窒化することで得られる(酸化物の合成と窒化の2段階プロセス)。本発明者らは、先般、フラックスコーティング法により、Ta基板表面に窒化タンタル(Ta
3O
5)層を1段階プロセスで作製し得る方法を見出した(非特許文献1)。
【0004】
可視光応答型光触媒のTa
3N
5はバンドギャップ約2.1eVであり,犠牲剤の存在下で可視光照射による水の光触媒分解が可能である。そのため,金属基板上にTa
3N
5結晶層(=薄膜)を形成した光電極としての応用が広く研究されている。通常,Ta
3N
5はTa
2O
5やNaTaO
3などの酸化物前駆体をアンモニア気流下で加熱することで得られる。この場合,前駆体の結晶構造が変化するため,得られるTa
3N
5には粒界や格子欠陥が形成されると考えられる。実際,Ta
2O
5を窒化してTa
3N
5に変化させると,結晶構造の変化に伴い,細孔や空隙が生成し,多孔質化する。また,Ta
2O
5から得られたTa
3N
5は過剰な窒化により表面に欠陥が導入される可能性がある。一方,より高い量子収率を得るためには,これらの問題を解決し,欠陥の少ない高品質な結晶を育成する必要がある。本発明者らは、この観点から,アンモニア気流下でのフラックス法によるTa
3N
5結晶層の直接形成を試みている。フラックス法は,主に溶融金属や溶融金属塩を溶媒(フラックス)とする結晶育成方法であり、原料をフラックス中に溶解し,その後過飽和を制御して結晶成長を進行させるため,高品質で結晶面の発達した結晶が得られる。さらに,このフラックス法を応用した薄膜形成技術『フラックスコーティング法』により,Ta基板上に直接 Ta
3N
5結晶層を形成すれば良好な基板−結晶界面となることが期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】NCCG−42,November 9−11,2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,上記1段階プロセスの検討の一環として、さらに結晶性の良好な窒化タンタル結晶層を、効率よく得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の問題を解決するために、以下の発明を提供するものである。
【0008】
(1)タンタル基板表面、または基板上のタンタル皮膜表面を親水化処理すること;アルカリ炭酸塩
と塩化ナトリウム、塩化カリウムまたは塩化リチウムとを含むフラックス水性溶液またはペーストを前記基板表面または皮膜表面に塗布すること;ならびに塗布された表面を含む基板を窒素源含有雰囲気中で加熱し、ついで冷却することにより基板上に窒化タンタル(Ta
3N
5)結晶層を形成することを特徴とする窒化タンタルの製造方法。
【0009】
(2)タンタル皮膜が、金属またはセラミックスの基板上にスパッタ法で形成される上記(1)に記載の窒化タンタルの製造方法。
【0010】
(3)親水化処理が紫外線照射またはプラズマ照射である上記(1)または(2)に記載の窒化タンタルの製造方法。
【0013】
(
4)窒素源含有雰囲気が、アンモニア気流である上記(1)〜(
3)のいずれかに記載の窒化タンタルの製造方法。
【0014】
(
5)窒素源含有雰囲気中での加熱が、600〜1000℃である上記(1)〜(
4)のいずれかに記載の窒化タンタルの製造方法。
【0015】
(
6)得られる窒化タンタルが柱状または板状結晶である上記(1)〜(
5)のいずれかに記載の窒化タンタルの製造方法。
【0016】
(
7)柱状結晶は、少なくとも80%以上が基板に45〜90度方向に配向している上記(
6)に記載の窒化タンタルの製造方法。
【0019】
(
8)上記(1)〜(
7)のいずれかに記載の窒化タンタルの製造方法により基板表面に形成された窒化タンタル結晶層を含む、基板/窒化タンタル結晶層からなる可視光応答光電極に可視光を照射して、水の光触媒分解を行うことにより水素を得ることを特徴とする水素の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、1段階プロセスで、結晶性の良好な窒化タンタル結晶層を効率よく得る方法を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】タンタル基板上に実施例1により作製された窒化タンタル結晶層を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真。
【
図2】実施例1により作製された窒化タンタル結晶層のX線回折(XRD)パターン。
【
図3】実施例1により作製された窒化タンタル結晶層の電流電位曲線。
【
図4】タンタル基板上に実施例2により作製された窒化タンタル結晶層を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真。
【
図5】実施例2により作製された窒化タンタル結晶層のX線回折(XRD)パターン。
【
図6】実施例2により作製された窒化タンタル結晶層の電流電位曲線。
【
図7】実施例3により作製されたタンタル基板上に作製した窒化タンタル結晶層を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の窒化タンタルの製造方法は、タンタル基板表面、または基板上のタンタル皮膜表面を親水化処理すること;ならびにフラックス水性溶液を前記基板表面または皮膜表面に塗布すること、を含む。タンタル基板としては、金属タンタル板であれば特に制限されないが、純度99%以上であるのが好適であり、さらに好適には純度99.9%以上である。厚さは、0.05〜3mm程度から選定されるのが好適である。タンタル皮膜を形成する場合、基板は、金属またはセラミックスの基板上にスパッタ法、真空蒸着法、パルスレーザーデポジション等で形成されるが、好適にはスパッタ法によることができる。膜厚は、通常5〜500nm程度から選ばれる。
【0023】
金属としては、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、ニオブ、モリブデン、タングステン、白金等が好適であり、セラミックスとしてはガラス、アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化タンタル、チタン酸ストロンチウム等が好適である。これらの金属またはセラミックスの基板の厚さは、0.05〜3mm程度から選定されるのが好適である。
【0024】
タンタル基板表面、または基板上のタンタル皮膜表面は、紫外線照射、プラズマ照射、等によりを親水化処理されるが、紫外線照射またはプラズマ照射が好適である。紫外線照射は、たとえば低圧水銀ランプ、エキシマランプ、キセノンランプ、発光ダイオード(LED)等により、プラズマ照射は、たとえば酸素プラズマ、窒素プラズマ、水素プラズマ、ヘリウムプラズマ、アルゴンプラズマ等により行なうことができる。
【0025】
ついで、本発明方法においては、
アルカリ炭酸塩を含むフラックス水性溶液またはペーストが基板表面または皮膜表面に塗布される
。さらに好適には、フラックス水性溶液またはペーストが、アルカリ炭酸塩に加え、塩化ナトリウム、塩化カリウムまたは塩化リチウムを含む水性溶液またはペーストである。水性溶液、炭素数1〜3の低級アルコール等の水性溶媒を含有していてもよい。
【0026】
塗布方法は、特に制限されないが、スプレー法、浸漬法、コテ刷毛法、等によることができる。塗布後に、室温ないし100℃程度で乾燥され、フラックス量は通常0.01mg・cm
−2〜10mg・cm
−2とされる。ついで、塗布された表面を含む基板は、加熱炉内に導入され、窒素源含有雰囲気中で加熱され、ついで冷却することにより基板上に窒化タンタル(Ta
3N
5)結晶層を形成する。窒素源含有雰囲気としては、アンモニア、窒素等が挙げられるが、窒素成分の取り込み効率等の点からアンモニア気流が好適である。
【0027】
窒素源含有雰囲気中での加熱は、600〜1000℃程度から選定され、好ましくは700〜900℃程度で、1分間〜3時間程度保持される。
【0028】
本発明において基板表面に形成された窒化タンタル結晶層は、多数の柱状または板状結晶から成り、好適には少なくとも80%以上が基板に45〜90度方向に配向している柱状結晶である。このような配向は、水の光触媒分解により水素および酸素を得る際に結晶表面を有効活用するのに好ましい。
【0029】
柱状結晶の形状は、製造条件を調節することにより、制御することができる。たとえば、保持温度850℃、保持時間1時間の場合には、特に平坦な結晶面で囲まれた四角柱状の結晶が得られる。一方、保持温度800℃、保持時間3時間の場合には、板状結晶を得ることができる。
【0030】
これらの実験結果から,Ta
3N
5結晶層はNaCl-Na
2CO
3フラックスから以下のように形成したと考察される。加熱温度700℃では主相としてNaTaO
3が生成し,フラックス融解によりNaTaO
3が生成すると考えられる。750℃および800℃で加熱した場合,主相としてTa
3N
5が生成した。すなわち750℃以上の温度域ではTa
3N
5の生成が促進される。750℃および800℃では比較的平坦な結晶面をもつ Ta
3N
5結晶が得られたため,Ta
3N
5が直接生成したと考察する。NaTaO
3を前駆体とし,2段階でTa
3N
5が生成するなら,多孔質なTa
3N
5結晶が得られるはずである。700℃から750℃で主相がNaTaO
3からTa
3N
5に変化したのは,アンモニアが熱解離した際に生成する中間種が関係するためと考えられる。アンモニアの熱解離は700℃付近から始まり,N
2,H
2,NH
2,NH,HおよびNのようにさまざまな中間種が生成する。700℃からフラックスの融解とともに,NaTaO
3が生成する。しかし,700℃では中間種の生成が少ないため,窒化が進みにくい。750℃に達するとアンモニアの解離により中間種が増加し,融解状態のフラックスにN源を多く供給できるため,主相が NaTaO
3から Ta
3N
5に変化すると考える。また,800℃ではさらに多くの中間種によって過度な窒化が進行するため,滑らかな表面をもちつつも一部の結晶が溶解したような形になったのであろう。
【0031】
本発明において得られる基板/窒化タンタル結晶層:光電極を作用極として、対極および参照極、ならびに電解液を設けることにより、可視光応答光電極を形成し得る。そして、この可視光応答光電極に可視光を照射して、水の光触媒分解を行うことにより水素および酸素を得ることができる。
【0032】
たとえば、作用極には助触媒としえCo−Piを担持した窒化タンタル結晶層、対極にはPt、参照極にはAg/AgClを用いて可視光照射下で電気化学測定をおこなった。この時、0.4Vからアノード応答が確認された。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0034】
実施例1
Ta基板(10×15×0.1mm、純度99.95%、株式会社ニラコ)を用い、
フラックスとしてNa
2CO
3およびNaClを使用した。フラックスの粉末試薬を蒸留水10mLに溶解し、フラックス水溶液を調製した(NaCl 0.424g:Na
2CO
3 0.935g、モル比4:1)。真空紫外光を照射して親水化したTa基板表面に、フラックス水溶液をマイクロピペットにより塗布(5μL)し、100℃で30分間乾燥させた。乾燥後、Ta基板をアルミナボートに搭載し、水平なアルミナチューブ内に置いた。このアルミナチューブを管状炉内に置き、100mL/分のアンモニア気流中、10℃/分で850℃まで加熱し、1時間保持した。ついで、アンモニア気流中で300℃まで、300℃〜室温を窒素気流中で、冷却した。冷却後に、残存するフラックスを温水中で溶解除去し、結晶層を得た。作製した結晶層を走査型電子顕微鏡(SEM)(JCM−5700、日本電子)で観察し(
図1)、X線回折(XRD)(
図2)(Miniflex II,リガク)にて同定した。得られた結晶層は滑らかな表面を持つ自形の発達した多数の角柱状結晶から形成されていた。これまでの加熱温度より100℃程度低くとも,Ta
3N
5相を得られたのはフラックスの融点が低下したためと考えられる。
【0035】
また、作製した光電極(Ta基板/Ta
3N
5結晶層)を作用極として電気化学測定を行った。Ta
3N
5結晶層には、助触媒としてCo−Piを担持した。対極にはPtを、参照極にはAg/AgClを用い、これらの三極式セルをNaOHでpH11に調整した0.2M
のNa
2SO
4水溶液に浸漬した。光源には300Wキセノンランプを用い、カットフィルター(L−42)を取り付けて可視光(λ>420nm)を照射した。
図3に窒化タンタル結晶層の電流電位曲線の測定結果を示す。
【0036】
実施例2
Ta基板(8×13×0.1mm、純度99.95%、株式会社ニラコ)を用い、
フラックスとしてNa
2CO
3−NaCl(45:55、液相線温度633℃、Na濃度:2M)を使用した。真空紫外光を照射して親水化したTa基板表面に、フラックス水溶液をマイクロピペットにより滴下して塗布(6.99μL)し、100℃で30分間乾燥させた。乾燥後、Ta基板をアルミナボートに搭載し、水平なアルミナチューブ内に置いた。このアルミナチューブを横型窒化炉内に置き、100mL/分のアンモニア気流中、10℃/分で750℃まで加熱し、3時間保持した。ついで、アンモニア気流中で300℃まで、300℃〜室温を窒素気流中で、冷却した。冷却後に、残存するフラックスを温水中で溶解除去し、結晶層を得た。作製した結晶層を走査型電子顕微鏡(SEM)(JCM−5700、日本電子)で観察し(
図4:(a)は5,000倍、(b)は15,000倍)、X線回折(XRD)(
図5)(Miniflex II,リガク)にて同定した。
【0037】
また、作製した光電極(Ta基板/Ta
3N
5結晶層)を作用極として電気化学測定を行った。Ta
3N
5結晶層には、助触媒としてCo−Piを担持した。対極にはPtを、参照極にはAg/AgClを用い、これらの三極式セルをNaOHでpH13に調整した0.2M
のNa
2SO
4水溶液に浸漬した。光源にはソーラシミュレータを用い、カットフィルター(L−42)を取り付けて可視光(λ>420nm)を照射した。
図6に窒化タンタル結晶層の電流電位曲線の測定結果を示す。
【0038】
実施例3
次に不純物相であるNaTaO
3やTa-Nの低減を念頭に,育成メカニズムを調査するために、実施例2において、700℃および800℃の加熱条件でTa
3N
5結晶層を作製した。700℃で3時間加熱した場合,主相としてNaTaO
3,副相としてわずかにTa
3N
5が生成した。また,その結晶形状は立方体状であった。800℃で3 時間加熱した際には,主相としてTa
3N
5が,副相としてわずかにNaTaO
3が生成した。結晶形状は角柱状であったが,一部表面が崩れた形状も観察された。
図7は、(a)700℃、(b)750℃および(c)800℃の加熱で得られた窒化タンタル結晶層の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。また,フラックスなしでTa基板を700℃加熱した際には,わずかのTa
3N
5が検出されたが,ほとんど変化しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、1段階プロセスで、結晶性の良好な窒化タンタル結晶層を効率よく得る方法を提供し得る。