(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に、実施例による作業機械の例として、ショベルの側面図を示す。下部走行体20に、上部旋回体21が搭載されている。上部旋回体21にブーム23が連結され、ブーム23にアーム25が連結され、アーム25にバケット27が連結されている。ブームシリ
ンダ24の伸縮により、ブーム23の姿勢が変化する。アームシリンダ26の伸縮により、アーム25の姿勢が変化する。バケットシリンダ28の伸縮により、バケット27の姿勢が変化する。ブームシリンダ24、アームシリンダ26、及びバケットシリンダ28は、油圧駆動される。
【0015】
上部旋回体21に、旋回電動機22、エンジン30、電動発電機31、及び蓄電回路40が搭載されている。エンジン30の動力によって電動発電機31が発電を行う。発電された電力が、蓄電回路40に充電される。旋回電動機22は、蓄電回路40からの電力によって駆動され、上部旋回体21を旋回させる。電動発電機31は、電動機としても動作し、エンジン30のアシストを行う。旋回電動機22は、発電機としても動作し、上部旋回体21の旋回運動エネルギから回生電力を発生する。
【0016】
図2に、実施例による作業機械のブロック図を示す。
図2において、機械的動力系を二重線で表し、高圧油圧ラインを太い実線で表し、電気制御系を細い実線で表し、パイロットラインを破線で表す。
【0017】
エンジン30の駆動軸がトルク伝達機構32の入力軸に連結されている。エンジン30には、電気以外の燃料によって駆動力を発生するエンジン、例えばディーゼルエンジン等の内燃機関が用いられる。
【0018】
電動発電機31の駆動軸が、トルク伝達機構32の他の入力軸に連結されている。電動発電機31は、電動(アシスト)運転と、発電運転との双方の運転動作を行うことができる。トルク伝達機構32は、2つの入力軸と1つの出力軸とを有する。この出力軸には、メインポンプ75の駆動軸が連結されている。電動発電機31がアシスト運転を行なっている期間は、メインポンプ75が電動発電機31の駆動対象となる。
【0019】
メインポンプ75に加わる負荷が大きい場合には、電動発電機31がアシスト運転を行い、電動発電機31の駆動力がトルク伝達機構32を介してメインポンプ75に伝達される。これにより、エンジン30に加わる負荷が軽減される。一方、メインポンプ75に加わる負荷が小さい場合には、エンジン30の駆動力がトルク伝達機構32を介して電動発電機31に伝達されることにより、電動発電機31が発電運転される。
【0020】
メインポンプ75は、高圧油圧ライン76を介して、コントロールバルブ77に油圧を供給する。コントロールバルブ77は、運転者からの指令により、油圧モータ29A、29B、ブームシリンダ24、アームシリンダ26、及びバケットシリンダ28に油圧を分配する。油圧モータ29A及び29Bは、それぞれ
図1に示した下部走行体20に備えられた左右の2本のクローラを駆動する。
【0021】
電動発電機31がインバータ51を介して蓄電回路40に接続されている。旋回電動機22がインバータ52を介して蓄電回路40に接続されている。インバータ51、52、及び蓄電回路40は、制御装置90により制御される。
【0022】
インバータ51は、制御装置90からの指令に基づき、電動発電機31の運転制御を行う。電動発電機31のアシスト運転と発電運転との切り替えが、インバータ51により行われる。
【0023】
電動発電機31がアシスト運転されている期間は、必要な電力が、蓄電回路40からインバータ51を通して電動発電機31に供給される。電動発電機31が発電運転されている期間は、電動発電機31によって発電された電力が、インバータ51を通して蓄電回路40に供給される。これにより、蓄電回路40内の蓄電装置が充電される。
【0024】
旋回電動機22は、インバータ52によって交流駆動され、力行動作及び回生動作の双方の運転を行うことができる。旋回電動機22の力行動作中は、蓄電回路40からインバータ52を介して旋回電動機22に電力が供給される。旋回電動機22が、減速機80を介して、駆動対象である上部旋回体21(
図1)を旋回させる。回生動作時には、上部旋回体21の回転運動が、減速機80を介して旋回電動機22に伝達されることにより、旋回電動機22が回生電力を発生する。発生した回生電力は、インバータ52を介して蓄電回路40に供給される。これにより、蓄電回路40内の蓄電装置が充電される。
【0025】
レゾルバ81が、旋回電動機22の回転軸の回転方向の位置を検出する。レゾルバ81の検出結果が、制御装置90に入力される。メカニカルブレーキ82が、旋回電動機22の回転軸に連結されており、機械的な制動力を発生する。メカニカルブレーキ82の制動状態と解除状態とは、制御装置90からの制御を受け、電磁的スイッチにより切り替えられる。
【0026】
パイロットポンプ78が、油圧操作系に必要なパイロット圧を発生する。発生したパイロット圧は、パイロットライン79を介して操作装置83に供給される。操作装置83は、レバーやペダルを含み、運転者によって操作される。操作装置83は、パイロットライン79から供給される1次側の油圧を、運転者の操作に応じて、2次側の油圧に変換する。2次側の油圧は、油圧ライン84を介してコントロールバルブ77に伝達されると共に、他の油圧ライン85を介して圧力センサ86に伝達される。
【0027】
圧力センサ86で検出された圧力の検出結果が、制御装置90に入力される。これにより、制御装置90は、下部走行体20、旋回電動機22、ブーム23、アーム25、及びバケット27(
図1)の操作の状況を検知することができる。
【0028】
図3に、蓄電回路40の等価回路図を示す。蓄電回路40は、蓄電装置41、昇降圧コンバータ(充放電制御回路)42、DCバスライン43、リレー44、抵抗器45、温度センサ46、電圧センサ47、及び電流センサ48を含む。
【0029】
蓄電装置41が、リレー44及び昇降圧コンバータ42を介して、DCバスライン43に接続されている。DCバスライン43は、インバータ51、52の直流端子に接続されている。インバータ51、52の三相交流端子に、それぞれ電動発電機31及び旋回電動機22が接続されている。DCバスライン43の高圧ラインと接地ラインとの間に、平滑キャパシタ43Aが挿入されている。
【0030】
昇降圧コンバータ42は、昇圧用(放電用)のスイッチング素子42Aと降圧用(充電用)のスイッチング素子42Bとの直列回路を含む。この直列回路が、DCバスライン43の高圧ラインと接地ラインとの間に接続されている。スイッチング素子42A、42Bには、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられる。昇圧用IGBT42Aと降圧用IGBT42Bの相互接続点が、リアクトル42C及びリレー44を介して蓄電装置41の正極端子に接続されている。
【0031】
昇圧用IGBT42A及び降圧用IGBT42Bに、それぞれ転流ダイオード(フリーホイールダイオード)42D、42Eが並列接続されている。制御装置90が、昇圧用IGBT42A及び降圧用IGBT42Bのゲート電極に、制御用のパルス幅変調(PWM)信号を印加する。
【0032】
リレー44に抵抗器45が並列接続されている。蓄電装置41の負極端子は接地されている。制御装置90が、リレー44のオンオフ制御を行う。通常動作中は、リレー44は
オン状態にされている。
【0033】
以下、昇圧動作(放電動作)について説明する。昇圧用IGBT42Aのゲート電極にPWM電圧を印加する。昇圧用IGBT42Aのスイッチング時に、リアクトル42Cに発生する誘導起電力によって、蓄電装置41の端子間電圧が昇圧され、転流ダイオード42Eを経由して出力端子から放電電流が流出する。
【0034】
次に、降圧動作(充電動作)について説明する。降圧用IGBT42Bのゲート電極に、PWM電圧を印加する。降圧用IGBT42Bのスイッチング時に、リアクトル42Cに発生する誘導起電力により、転流ダイオード42Dを経由して、蓄電装置41(
図3)が充電される。
【0035】
電流センサ48が、リアクトル42Cを流れる充放電電流を測定する。電圧センサ47が、蓄電装置41の端子間電圧を測定する。温度センサ46が蓄電装置41の温度を測定する。これらの測定結果が制御装置90に入力される。
【0036】
DCバスライン43に発生している電圧が、蓄電装置41の端子間電圧よりも低いとき、リレー44がオフにされる。このとき、抵抗器45、リアクトル42C、転流ダイオード42Eを介して蓄電装置41が放電され、DCバスライン43の電圧が上昇する。抵抗器45は、過大な放電電流が流れることを防止する。
【0037】
制御装置90は、DCバスライン43の電圧が目標範囲内の値に維持されるように、昇降圧コンバータ42を制御する。具体的には、蓄電装置41の充放電、及びDCバスライン43の昇降圧を行う。さらに、制御装置90は、ショベルの運転中に、蓄電装置41の充電状態SOCが下限の基準値以下になると、充電状態SOCを目標範囲内に収める制御を行う。例えば、電動発電機31を発電運転させ、蓄電装置41を充電する。
【0038】
メインポンプ75による油圧系の動作、旋回電動機22による上部旋回体21の動作、電動発電機31のアシスト運転と発電運転の状態等のショベル全体の動作に応じて、DCバスライン43の電圧、及び蓄電装置41の充電状態SOCが変動する。制御装置90がショベル全体の動作を適切に制御するために、蓄電装置41の充電状態SOCを高精度に求めることが望まれる。
【0039】
制御装置90は、温度補正対応表記憶部91、電流補正対応表記憶部92、電圧補正対応表記憶部93、及び電圧補正抵抗値記憶部94を含む。
【0040】
図4に、蓄電装置41(
図3)の充電期間中における端子間電圧Vt、充放電電流It、及び充電状態SOCの時間変化の一例を示す。充電電流を正とし、放電電流を負とする。時刻t0からt1までの期間は、昇降圧コンバータ42(
図3)が動作しておらず、充放電電流が0である。このとき、端子間電圧Vtは、電圧V1で一定である。時刻t1において、充放電電流Itが立ち上がると、蓄電装置41の内部抵抗R(
図3)に起因する電圧降下が生じるため、端子間電圧VtがV1からV2まで立ち上がる。
【0041】
蓄電装置41(
図3)にキャパシタが用いられている場合、時刻t1からt2までの期間、一定の充放電電流Itが流れると、端子間電圧VtがV2からV4まで直線的に上昇する。時刻t2において充放電電流Itが0になると、内部抵抗Rに起因する電圧降下が発生しなくなるため、端子間電圧VtがV4からV3まで立ち下がる。時刻t2からt3までの期間は、充放電電流Itが0であるため、端子間電圧Vtは一定の電圧V3に維持される。
【0042】
蓄電装置41(
図3)にリチウムイオンキャパシタ、または電気二重層キャパシタが用いられている場合、充電状態SOCは、以下の式で表される。
【数1】
ここで、Vmax及びVminは、それぞれ蓄電装置41の定格最大電圧及び定格最小電圧を表し、Voは蓄電装置41の開放電圧を表す。なお、電気二重層キャパシタの充電状態SOCを求める場合には、定格最小電圧Vmin=0Vと近似することができる。この場合、SOC=(Vo/Vmax)
2となる。
【0043】
時刻t0からt1までの期間、及び時刻t2からt3までの期間は、充放電電流Itが0であるため、端子間電圧Vtが開放電圧Voと一致する。ところが、時刻t1からt2までの期間は、充放電電流Itが流れているため、端子間電圧Vtが開放電圧Voに一致しない。時刻t1からt2までの期間は、蓄電装置41の開放電圧Voを直接測定することができない。
【0044】
時刻t1からt2までの期間は、内部抵抗Rの値を用いて開放電圧Voの計算値Vop、及び充電状態SOCの計算値SOCpを、以下の式により求めることができる。
【数2】
定格最小電圧Vmin=0Vと近似できる場合には、SOCp=((Vt−R・It)/Vmax)
2となる。
【0045】
開放電圧Voは、時刻t1において、充放電電流が0のときの電圧V1に一致し、時刻t2において、充放電電流が0のときの電圧V3に一致する。ところが、時刻t1、t2において、開放電圧Voの計算値Vopが、実測値V1、V3に一致しない場合があることが判明した。このため、開放電圧Voの計算値Vopを用いて求めた充電状態SOCの計算値SOCpが、実際の充電状態SOCからずれてしまう。開放電圧Voの計算値Vopのずれは、式(2)を用いて計算値Vopを求める際に使用した内部抵抗Rの値が、現時点における内部抵抗Rからずれているためである。
【0046】
実施例においては、現時点の内部抵抗Rを、より正確に求めることができる。さらに、この内部抵抗を用いて、より正確に充電状態SOCを求めることができる。
【0047】
蓄電装置41(
図3)の内部抵抗Rは、開放電圧Voの実測値Vom、端子間電圧Vtの実測値Vtm、充放電電流Itの実測値Itmを用いて、以下の式で表すことができる。
【数3】
充電電流を正としているため、充電時は、Itm>0であり、放電時はItm<0である。充電時は、内部抵抗Rによる電圧降下の向きが開放電圧Voの実測値Vomの向きと同一になるため、Vtm>Vomとなる。放電時は、内部抵抗Rによる電圧降下の向きが開放電圧Voの実測値Vomの向きと反対になるため、Vtm<Vomとなる。このため、充電時、放電時のいずれにおいても、式(3)で算出される内部抵抗Rは正になる。
【0048】
図5に、開放電圧の実測値Vomと、式(3)を用いて求めた内部抵抗Rとの関係を示す。横軸は、開放電圧の実測値Vomを単位「V」で表し、縦軸は内部抵抗Rの計算値を単位「mΩ」で表す。この測定は、蓄電装置の劣化による内部抵抗の上昇を無視できる程度の短い時間内に行った。内部抵抗Rの変化が無視できるにも関わらず、内部抵抗Rの計算値が開放電圧の実測値Vomに依存して変動していることがわかる。さらに、充電状態で実測した端子間電圧Vt及び充放電電流Itを用いて求めた内部抵抗Rの計算値と、放電状態で実測した端子間電圧Vt及び充放電電流Itを用いて求めた内部抵抗Rの計算値とが一致しないことがわかる。
【0049】
従って、現時点の開放電圧Voが定格最大電圧Vmaxに一致しない場合、定格最大電圧Vmaxにおいて求めた内部抵抗Rの値と、現時点の内部抵抗Rの値とは一致しない。例えば、現時点の開放電圧Voが定格最大電圧Vmaxよりも低い場合、現時点の内部抵抗Rの値は、直近の定格最大電圧Vmax時に求められた内部抵抗Rの値より高くなる。実施例においては、内部抵抗Rの電圧依存性を考慮して、開放電圧Vo、蓄電装置41の劣化度SOH(State of Health)、及び充電状態SOCが求められる。
【0050】
図6に、実施例による劣化度SOHの算出方法のフローチャートを示す。以下の説明において、必要に応じて
図3及び
図4を参照する。
図6に示されたフローチャートの各処理は、制御装置90により実行される。
【0051】
ステップSA1において、制御装置90が昇降圧コンバータ42を制御して、蓄電装置41の充放電電流を0にする。この状態で、制御装置90が電圧センサ47から、蓄電装置41(
図3)の開放電圧Voの実測値Vomを取得する。一例として、
図4の時刻t1において開放電圧Voを測定すると、電圧V1が、開放電圧Voの実測値Vomとして取得される。
【0052】
ステップSA2において、制御装置90が昇降圧コンバータ42を制御して、蓄電装置41に充電電流を流す。蓄電装置41が充電されている状態で、制御装置90が電圧センサ47から端子間電圧Vtの実測値Vtmを取得し、電流センサ48から充放電電流Itの実測値Itmを取得する。例えば、
図4に示した時刻t4において、端子間電圧Vtの実測値Vtm及び充放電電流Itの実測値Itmが取得される。なお、蓄電装置41に放電電流を流してもよい。
【0053】
ステップSA3において、以下の式を用いて内部抵抗Rの第1の計算値R1を求める。
【数4】
【0054】
ステップSA4において、内部抵抗Rの第1の計算値R1を温度に基づいて補正することにより、温度補正後の内部抵抗値(以下、温度補正抵抗値という。)R2を求める。以下、温度補正抵抗値R2を求める方法について説明する。蓄電装置41の内部抵抗Rは、蓄電装置41の温度に依存する。このため、内部抵抗Rを求めるときには、蓄電装置41の温度が、ある基準温度Trの状態で電圧及び電流を測定することが好ましい。ただし、内部抵抗Rを求める際に、蓄電装置41の温度を基準温度Trまで昇温または降温させることは現実的ではない。
【0055】
実施例においては、現時点の温度で、開放電圧Voの実測値Vom、端子間電圧Vtの実測値Vtm、及び充放電電流Itの実測値Itmが取得される。式(4)を用いて求められた内部抵抗Rの第1の計算値R1を、現時点の温度に基づいて補正することにより、基準温度Trの状態の内部抵抗Rの値(温度補正抵抗値)R2を求める。
【0056】
図8に、温度と温度補正係数との関係(温度補正情報)を示す。この関係は、温度補正対応表記憶部91(
図3)に記憶されている。温度が上昇するに従って、温度補正係数が大きくなる。これは、蓄電装置41の温度が上昇するにしたがって、内部抵抗Rが小さくなることを意味する。温度が基準温度Trのときの温度補正係数が1である。
図8に示したグラフに、現在の温度の実測値を当てはめることにより、温度補正係数を求める。温度の実測値は、温度センサ46(
図3)から取得することができる。内部抵抗Rの第1の計算値R1に、温度補正係数を乗ずることにより、温度補正抵抗値R2が得られる。
【0057】
図8に示した例では、第1の計算値R1から温度補正抵抗値R2を求めるために、温度の関数として定義された温度補正係数を用いた。その他に、第1の計算値R1及び現在の温度から、温度補正抵抗値R2を導出するための対応表を用いて、温度補正抵抗値R2を求めることも可能である。
【0058】
ステップSA5において、温度補正抵抗値R2を電流に基づいて補正することにより、電流補正後の内部抵抗値(以下、電流補正抵抗値という。)R3を求める。以下、電流補正抵抗値R3を求める方法について説明する。蓄電装置41の内部抵抗Rは、蓄電装置41の充放電電流の大きさに依存する。このため、内部抵抗Rを求めるときには、充放電電流が、ある基準電流Irの状態で電圧及び電流を測定することが好ましい。ただし、作業機械の運転中に内部抵抗Rを求める際に、充放電電流が基準電流Irと等しいとは限らない。
【0059】
実施例においては、現時点の充放電電流が流れている状態で、端子間電圧Vt及び充放電電流Itを測定する。求められた温度補正抵抗値R2を、測定時の電流に基づいて補正することにより、基準電流Irの状態の内部抵抗Rの値(電流補正抵抗値)R3を求める。
【0060】
図9に、電流と電流補正係数との関係(電流補正情報)を示す。この関係は、電流補正対応表記憶部92(
図3)に記憶されている。電流が増加するに従って、温度補正係数が大きくなる。これは、充放電電流が増加するに従って、内部抵抗Rが小さくなることを意味する。充放電電流が基準電流Irに等しいときの電流補正係数が1である。
図9に示し
たグラフに、現在の充放電電流の実測値を当てはめることにより、電流補正係数を求める。温度補正抵抗値R2に、電流補正係数を乗ずることにより、電流補正抵抗値R3が得られる。
【0061】
図9に示した例では、温度補正抵抗値R2から電流補正抵抗値R3を求めるために、電流の関数として定義された電流補正係数を用いた。その他に、温度補正抵抗値R2及び測定時の電流から、電流補正抵抗値R3を導出するための対応表を用いて、電流補正抵抗値R3を求めることも可能である。
【0062】
ステップSA6において、電流補正抵抗値R3を電圧に基づいて補正することにより、電圧補正後の内部抵抗値(以下、電圧補正抵抗値という。)R4を求める。以下、電圧補正抵抗値R4を求める方法について説明する。蓄電装置41の内部抵抗Rは、
図5に示したように、蓄電装置41の開放電圧Voの大きさに依存する。このため、内部抵抗Rを求めるときには、開放電圧Voが、ある基準電圧Vr(例えば定格最大電圧Vmax)の状態になるまで充放電した後に、電圧及び電流を測定することが好ましい。ただし、作業機械の運転中に内部抵抗Rを求める際に、蓄電装置41を基準電圧Vrまで充放電すること(例えば定格最大電圧Vmaxまで充電すること)は、現実的ではない。
【0063】
実施例においては、現時点の開放電圧で、開放電圧Voの実測値Vom、端子間電圧Vtの実測値Vtm、及び充放電電流Itの実測値Itmを取得する。求められた電流補正抵抗値R3を、開放電圧Voの実測値Vomに基づいて補正することにより、基準電圧Vrの状態の内部抵抗Rの値(電圧補正抵抗値)R4を求める。
【0064】
図10に、開放電圧と電圧補正係数との関係(電圧補正情報)を示す。この関係は、電圧補正対応表記憶部93(
図3)に記憶されている。開放電圧が増加するに従って、電圧補正係数が大きくなる。これは、開放電圧が増加するに従って、内部抵抗Rが小さくなることを意味する。
図5に示したように、開放電圧Voの実測値Vomが同一でも、充電時と放電時とで内部抵抗が異なるため、電圧補正係数も、充電時と放電時とで異なる。充電時の内部抵抗を基準とすると、開放電圧Voが基準電圧Vrのときの充電時の電圧補正係数が1になる。
【0065】
図10に示したグラフに、現在の開放電圧Voの実測値Vomを当てはめることにより、電圧補正係数を求める。ステップSA2(
図6)において、充電電流を流した場合には、電圧補正係数として充電時の値を採用し、放電電流を流した場合には、電圧補正係数として放電時の値を採用する。電流補正抵抗値R3に、電圧補正係数を乗ずることにより、電圧補正抵抗値R4が得られる。
【0066】
ステップSA7において、ステップSA6で求められた電圧補正抵抗値R4を、電圧補正抵抗値記憶部94(
図3)に記憶させる。
【0067】
ステップSA8において、内部抵抗Rの初期値R0、電圧補正抵抗値R4に基づいて、蓄電装置41の劣化度SOHを、以下の式によって求める。
【数5】
ここで、nは劣化度係数を表している。初期状態では、電圧補正抵抗値R4が初期値R0と等しいため、劣化度SOHは1となる。電圧補正抵抗値R4が初期値R0のn倍にな
ると、劣化度SOHが0になる。すなわち、蓄電装置41の劣化が進むに従って、劣化度SOHが1から0に向かって減少する。劣化度係数nは、蓄電装置41の特性、使用状況等に基づいて決定される。
【0068】
実施例では、内部抵抗Rの第1の計算値R1を、温度、電流、及び電圧に基づいて補正している。このため、種々の温度、充放電電流、開放電圧の状態で測定された電圧及び電流に基づいて求められた電圧補正抵抗値R4を、初期値R0が得られる条件と同一の条件で比較することが可能である。これにより、劣化度SOHを高い精度で求めることができる。
【0069】
上記実施例では、内部抵抗Rの第1の計算値R1に対して、温度補正(ステップSA4)、電流補正(ステップSA5)、及び電圧補正(ステップSA6)を行った。電圧及び電流を測定する際に、蓄電装置41の温度をほぼ一定にし、充放電電流を基準電流にほぼ等しくすれば、温度補正(ステップSA4)、及び電流補正(ステップSA5)の処理を省略することが可能である。
【0070】
図6では、ステップSA4〜SA6において、温度による補正、電流による補正、及び電圧による補正を順番に行ったが、内部抵抗を補正する順番は、この順番に限らない。また、温度、電流、及び電圧に依存する補正係数を予め求めておいてもよい。この場合、この補正係数を用いて、内部抵抗の第1の計算値R1から、温度、電流、及び電圧によって補正された電圧補正抵抗値R4を直接求めてもよい。
【0071】
図7に、実施例による充電状態SOCの算出方法のフローチャートを示す。以下の説明において、必要に応じて
図3及び
図4を参照する。
図7に示されたフローチャートの各処理は、制御装置90により実行される。
【0072】
ステップSB1において、制御装置90が、電圧センサ47から端子間電圧Vtの実測値Vtmを取得し、電流センサ48から充放電電流Itの実測値Itmを取得する。
【0073】
ステップSB2において、電圧補正抵抗値記憶部94に記憶されている電圧補正抵抗値R4を、直近に求められた開放電圧Voに基づいて補正し、補正値R5を求める。以下、補正値R5を求める方法について説明する。電圧補正抵抗値記憶部94に記憶されている電圧補正抵抗値R4は、開放電圧Voが基準電圧Vr(
図10)に等しい条件の下での値である。ステップSB2では、この電圧補正抵抗値R4を、現時点の開放電圧Voにおける値に補正する。ただし、現時点の開放電圧Voは未知であるため、補正は、直近の開放電圧Voに基づいて行われる。
【0074】
図10に示した電圧補正係数のグラフに、直近の開放電圧Voを当てはめることにより、電圧補正係数を求める。現時点の内部抵抗Rに電圧補正係数を乗ずることによって電圧補正抵抗値R4が求められるのであるから、電圧補正抵抗値R4を電圧補正係数で除することにより、現時点の内部抵抗Rの補正値R5を求めることができる。
【0075】
一例として、
図4に示した時刻t4においては、直近の開放電圧Voとして、時刻t1の時に実測された電圧V1を採用することができる。時刻t5においては、直近の開放電圧Voとして、時刻t4の時の電圧、電流に基づいて計算された開放電圧Voの計算値Vocを採用することができる。開放電圧Voの計算値Vocは、次のステップSB3で求められる。時刻t5においてステップSB2を実行する際には、時刻t4においてステップSB3が既に実行済であるため、時刻t5に実行されるステップSB2で、時刻t4において求められた開放電圧Voの計算値Vocを利用することができる。
【0076】
ステップSB3において、内部抵抗Rの補正値R5、端子間電圧Vtの実測値Vtm、充放電電流Itの実測値Itmに基づいて、現時点の開放電圧Voの計算値Vocを求める。開放電圧Voの計算値Vocは、以下の式で求めることができる。
【数6】
【0077】
ステップSB4において、現時点の開放電圧Voの計算値Vocを用いて、充電状態SOCを求める。蓄電装置41の定格最大電圧及び定格最小電圧をそれぞれVmax及びVminで表したとき、充電状態SOCは、以下の式により求めることができる。
【数7】
【0078】
実施例においては、ステップSB2において、直近に求められた開放電圧Voに基づいて内部抵抗Rを補正しているため、より正確に開放電圧Voの計算値Vocを求めることができる。開放電圧Voの計算値Vocの精度が高まるため、充電状態SOCの算出精度も高まる。
【0079】
上記実施例では、
図4の時刻t5のように、充放電電流Itが流れている状態で、開放電圧Voを実測することなく、充電状態SOCを精度よく求めることができる。
図2に示した電動発電機31及び旋回電動機22の制御に、蓄電装置41(
図3)の充電状態SOCが利用される。作業機械の運転中に、充電状態SOCを精度よく求めることができるため、電動発電機31及び旋回電動機22の制御の精度を高めることができる。
【0080】
蓄電装置41の充電状態SOCを算出する演算を、電動発電機31の発電運転やアシスト運転の前、旋回電動機22の力行動作や回生動作の前に実行することにより、ショベル全体の制御をより適切に行うことができる。
【0081】
上記実施例では、ステップSB2において、電圧補正抵抗値R4を、直近の開放電圧Voの計算値Vocに基づいて補正した。さらに、蓄電装置41の温度及び充放電電流Itの実測値Itmに基づいて補正を行ってもよい。温度に基づく補正は、
図8に示した温度補正係数を用いて行うことができる。充放電電流Itの実測値Itmに基づく補正は、
図9に示した電流補正係数を用いて行うことができる。
【0082】
上記実施例では、蓄電装置41(
図3)に電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等を用いた。上記実施例による内部抵抗の算出方法は、リチウムイオン二次電池等の二次電池に適用することも可能である。さらに、上記実施例による充電状態SOCの算出方法は、充電状態SOCが開放電圧に依存する特性を有する蓄電装置に適用することも可能である。例えば、上記実施例による充電状態SOCの算出方法は、充電状態SOCが開放電圧に依存する傾向を示す二次電池に適用することが可能である。
【0083】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。