【実施例1】
【0028】
図1は、実施例1に係る洗濯排水処理装置の概略図である。
図1に示すように、本実施例に係る洗濯排水処理装置10Aは、例えば原子力施設等のプラント設備からの洗濯排水11を一時的に貯留する洗濯排水タンク12と、この洗濯排水タンク12からの洗濯排水11を活性汚泥と曝気混合し生物処理する生物処理槽14と、生物処理した処理済洗濯排水15を貯留する処理水タンク16と、生物処理槽14に、洗濯排水処理製剤21を供給する処理製剤供給装置22と、を備えるものである。
【0029】
本実施例では、生物処理を悪化させる水質の変化を検出するために、洗濯排水タンク12のCODを計測する第1のCOD計測装置19−1と、第1のCOD計測装置19−1の計測結果に基づき、洗濯排水処理製剤21を生物処理槽14に投入することを実行する制御装置17とを設けている。
【0030】
また、生物処理槽14の立ち上げ時においても洗濯排水処理製剤21を投入して、生物処理槽の活性汚泥の馴致を促進するようにしている。
【0031】
ここで、本実施例の洗濯排水生物処理製剤21は、プラント作業者の使用済被服や使用済布等を洗濯した洗濯排水11を処理する生物処理槽14の泥に添加する洗濯排水生物処理製剤であって、洗濯排水11を用いて馴致した洗濯排水馴致済み活性汚泥13を凍結乾燥してなる凍結乾燥化汚泥である。
【0032】
この凍結乾燥化汚泥は、特に菌の表層にスフィンゴ脂質を有するスフィンゴモナス属(Sphingomonas)及びその近縁属を含むものが好ましい。
【0033】
このスフィンゴモナス属(Sphingomonas)及びその近縁属としては、例えばSphingomonas、Novosphingobium、Sphingobium、Sphingopyxis等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
また、凍結乾燥処理する際に、保護剤を添加して、凍結乾燥化汚泥の保護を図るようにしてもよい。ここで、保護剤としては、例えばグリセリン、ジメチルスルホキシド、グルタミン酸ナトリウム、スターチ及びスキムミルク等を例示することができる。
【0035】
凍結乾燥処理は、公知の手法により行うことができるが、一例を示す。
先ず、洗濯排水馴致済の活性汚泥を採取し、遠心分離装置により遠心分離処理(例えば3000rpm、10分)する。
次に、沈殿物を秤量し、凍結乾燥用の容器に移す。
その後、−20°で一晩程度凍結乾燥処置を行う。
なお、保護剤を用いる場合は、凍結乾燥用の容器に移す際に、保護剤を所定量(例えば1〜10%)投入する。
【0036】
凍結乾燥品の写真を
図2及び
図3に示す。
図2は、保護剤を添加しない凍結乾燥化汚泥の写真であり、
図3は保護剤を添加した凍結乾燥化汚泥の写真である。
この凍結乾燥処理した凍結乾燥化汚泥は、共に水に分散しやすいものであった。
【0037】
図4−1、
図4−2は、保護剤を添加していない凍結乾燥化汚泥の沈降性を示す図である。
図4−1は、馴致処理前の汚泥の沈降性を示す写真であり、
図4−2は、馴致終了後の汚泥の沈降性を示す写真である。
これにより、保護剤を添加していない凍結乾燥化汚泥は、馴致開始前と較べて馴致終了後では、凍結乾燥化汚泥の沈降性が良好であった。
この結果、懸濁していないので、例えば分離膜内に活性汚泥をいれる場合には、分離膜の目詰まりが発生せず、好ましいものとなる。
【0038】
この凍結乾燥化汚泥を用いて、排水処理試験を実施した。
図5は、排水処理試験の試験装置の一例を示す図である。
図5に示すように、排水処理試験装置50は、模擬の洗濯排水11を添加部51より所定量添加し、底部に酸素(O
2)を供給する曝気部52を備え、活性汚泥13を有する曝気槽54と、この曝気槽54と上部側で連通管55により連通し、活性汚泥13が沈降する沈降槽56とを備えている。処理済洗濯排水15は沈降槽56の上部から排出される。
【0039】
ここで、模擬の洗濯排水11はpH6.5〜8.0、25℃で運転した。
模擬の洗濯排水としては、NH
4Cl(N成分)、KH
2PO4(P成分)、洗剤(陽イオン・非イオン界面活性剤含有)を配合したものを用いた。
【0040】
図6は、従来技術の下水の種汚泥を用いる馴致処理における経過時間(横軸)と、COD(左側縦軸;ppm)と、処理率(右側縦軸;%)との関係を示す図である。
従来技術のように、下水汚泥を用いて馴致する場合には、泡立ちがあるので、180ppmCOD−Mnの洗濯排水を用いて、間欠的に供給し、泡立ちが終了するまでこれを続けた。
本試験においては、泡立ちは、12日間続き、馴致開始は12日目となった。
よって、12日目から180ppmCOD−Mnの洗濯排水を連続して供給することができた。
そして、17日目に洗濯済排水15のCOD濃度が20ppmCOD−Mnを下回ったので、供給する洗濯排水11の濃度を240ppmCOD−Mnに引き上げて供給した。
しかし、COD濃度の上昇の結果、23日を経過するまで洗濯済排水15のCOD濃度が20ppmCOD−Mnを下回ることができなかった。
【0041】
これに対し、本実施例の凍結乾燥化汚泥を用いて馴致した場合には、馴致時間の短縮を図ることができた。
【0042】
図7は、本実施例の凍結乾燥化汚泥を添加した馴致処理における経過時間(横軸)と、COD(左側縦軸;ppm)と、処理率(右側縦軸;%)との関係を示す図である。
凍結乾燥化汚泥を用いて馴致する場合には、180ppmCOD−Mnの洗濯排水を用いた場合、1日で洗濯済排水15のCOD濃度が20ppmCOD−Mnを達成できた。
よって、次に供給する洗濯排水11の濃度を240ppmCOD−Mnに引き上げて供給した。この場合も、引き続き洗濯済排水15のCOD濃度が20ppmCOD−Mnを引き続き達成できたので、8日目に供給する洗濯排水11のCOD濃度を300ppmCOD−Mnに引き上げて供給した。
このCOD濃度が300ppmCOD−Mnというのは、実機適用の負荷濃度であり、洗濯済排水15のCOD濃度が14日目に20ppmCOD−Mnを達成できた。
【0043】
この結果、活性汚泥槽に乾燥化汚泥を供給する場合、直ちにCOD分解性能が期待できるものとなる。
【0044】
よって、従来のように種汚泥を用いて馴致処理する場合のような長期間の馴致処理が不要となることが判明した。
さらに、従来では、洗濯排水のCOD濃度が例えば300ppmCOD−Mnを超える場合には、生物処理槽に導入する以前において、希釈液を用いて希釈処理する必要があったが、このような希釈処理のための処理水の保管や希釈処理するバッファー槽を縮小、もしくは設置が不要となる。
【0045】
次に、模擬の洗濯排水を用いた場合の従来の種汚泥処理と、本実施例の凍結乾燥化汚泥を用いて場合の主要微生物の構成比率について確認した。
図8は、従来技術の下水汚泥馴致処理における主要微生物構成比率を示す図である。ここで、
図8中、棒グラフは、主要微生物の構成比率(%)である。
【0046】
ここで注目した微生物は、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)および近縁属(Novosphingobium、Sphingobium、Sphingopyxis等)であり、以降では主要微生物として記載する。
泡立ちがある予備馴致においては、主要微生物の構成比率は数%であった。
その後本格馴致を行った場合、主要微生物の構成比率は5%に上昇した、240ppmCOD−Mnに引き上げた場合には、主要微生物の構成比率は12%程度でしかなかった。
また、処理排水の追従比(図中○印)も、本格馴致で240ppmCOD−Mnに引き上げた後は、低下した。
【0047】
図9は、凍結乾燥活性汚泥による下水汚泥馴致処理における主要微生物構成比率を示す図である。ここで、
図9中、棒グラフは、主要微生物の構成比率(%)である。
図9に示すように、処理能力と同期して主要微生物の構成比率が増加した。
そして、14日目から排水処理能力が投入COD濃度に追従することを確認した。
【0048】
図10は、洗濯排水を処理した活性汚泥との菌叢解析結果を示す図である。
図11は、市販の微生物製剤の菌叢解析結果を示す図である。
図10に示すように、3種類のスフィンゴモナス属(Sphingomonas)属の微生物が約半分を占めていることが確認できた。
ここで、
図10中、微生物aはSphingomonas、微生物bはSphingobium、微生物cはSphingopyxisである。
【0049】
図11は、市販の微生物製剤は、微生物dとしてPseudomonas属の微生物が90%を占めていた。
【0050】
図12は、判定用DNAを用いた洗濯排水用活性汚泥主要微生物の検出の検出用プライマーを用いた特異性確認試験の結果を示す図である。
表1は、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)及びその近縁属(Novosphingobium、Sphingobium、Sphingopyxis)の検出用プライマーを示す。
表2は、検出用プライマー(SPG5〜SPG9)のフォワードプライマーとリバースプライマーを示す。
表3は、Sphingomonas属および近縁微生物の16SrDNA遺伝子アライメント解析から得られた、コンセンサス配列(Bioeditを使ってのコンセンサス配列自動作成結果)を得た後、このコンセンサス配列で、アライメント結果と比較して、共通性が希薄であるとして削除が必要な部分を削除した遺伝子配列を示す。
この遺伝子配列を使っての検出用PCRプライマー(SPG7:アンダーライン)を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
レーン1〜7は洗濯排水汚泥を用いた場合であり、レーン8〜14は大腸菌を用いた場合である。レーン15は水のみである。
レーン1はユニバーサルプライマー、レーン2はSPG1のプライマー、レーン3はSPG5のプライマー、レーン4はSPG6のプライマー、レーン5はSPG7のプライマー、レーン6はSPG8のプライマー、レーン7はSPG9のプライマーである。また、レーン8はユニバーサルプライマー、レーン9はSPG1のプライマー、レーン10はSPG5のプライマー、レーン11はSPG6のプライマー、レーン12はSPG7のプライマー、レーン13はSPG8のプライマー、レーン14はSPG9のプライマー、レーン15はユニバーサルプライマーである。
【0055】
図13は、リアルタイムPCRを用いた主要微生物比率の測定を示す図である。
全ての微生物でDNA増幅できるユニバーサルプライマーと、特定微生物(Sphingomonas属、Novosphingobium属、Sphingobium属、Sphingopyxis属)のみでDNA増幅できる特定プライマー(レーン5のSPG7)を使い、リアルタイムPCR装置にてDNA増幅試験を実施した。
【0056】
図13に示すように、特定微生物用測定用PCRプライマーの増幅曲線(実線)と、全微生物用測定用PCRプライマーの増幅曲線(一点鎖線)から、初期DNA量を推算し(切片I、切片II)、主要微生物構成比率を算出する。
算出は、存在比率(%)=特定微生物DNA(切片I)/(全微生物DNA(切片II)÷1.4)×100=46.6%
【0057】
よって、このリアルタイムPCR装置を用いることで、生物処理槽の菌叢解析を迅速に行うことができる。
【0058】
以上より、本実施例においては、生物処理槽において、従来のような種汚泥を用いて、活性汚泥を長時間馴致させるものではなく、凍結乾燥化汚泥を用いて、迅速に馴致させることができることとなる。
【0059】
この凍結活性化汚泥の洗濯排水処理製剤21を適用する場合として、排水処理に先立って、生物処理槽を立ち上げる際に、従来の種汚泥を供給する代わりに、用いることができる。
【0060】
また、運転時においては、洗濯排水のCOD濃度を確認して行うことができる。
【0061】
さらに、プラントを長期間停止した場合、生物処理槽の菌叢が変化するので、この停止後の立ち上げの際に、本実施例の洗濯排水処理製剤21を生物処理槽に添加するようにしてもよい。
【0062】
この際、生物処理槽14の菌叢をリアルタイムPCR装置等の菌叢装置により確認することで、菌叢状態を把握しつつ、洗濯排水処理製剤21を供給するようにしてもよい。なお、菌叢装置として、リアルタイムPCR装置を用いて説明したが、本発明はこれに限定されず、公知の菌叢状態を解析する装置であればいずれも適用することができる。
【0063】
また、停電等による曝気停止があった場合にも、洗濯排水処理製剤21を生物処理槽に添加することで、迅速に対応することができる。
【0064】
このように、本実施例によれば、例えば原子力設備や一般プラント設備等での例えば作業衣や使用布等を洗濯処理した洗濯排水を分解処理する場合において、活性汚泥の生物処理槽の生物処理を悪化させる水質の変化を検知した際、洗濯排水処理製剤を投入することで、生物処理を安定して行うことができる。