特許第6376798号(P6376798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6376798洗濯排水生物処理製剤を用いた洗濯排水処理装置及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376798
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】洗濯排水生物処理製剤を用いた洗濯排水処理装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20180813BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   C02F3/12 B
   C02F3/12 A
   C02F3/12 H
   C02F3/12 P
   C02F3/34 Z
   C02F3/12 V
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-67276(P2014-67276)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-188815(P2015-188815A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 祐二
(72)【発明者】
【氏名】小川 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】和田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】中土 雄太
(72)【発明者】
【氏名】衣笠 敦志
【審査官】 佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−210486(JP,A)
【文献】 特開平07−060276(JP,A)
【文献】 特開平11−197686(JP,A)
【文献】 特開平10−272480(JP,A)
【文献】 特開2000−051878(JP,A)
【文献】 特開2008−049283(JP,A)
【文献】 特開2005−278441(JP,A)
【文献】 特開平06−277686(JP,A)
【文献】 特開2006−166874(JP,A)
【文献】 特開2007−260664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/12
C02F 3/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント設備からの洗濯排水を一時的に貯留する洗濯排水タンクと、
前記洗濯排水タンクからの洗濯排水を活性汚泥と曝気混合し生物処理する生物処理槽と、
生物処理した処理済洗濯排水を貯留する処理水タンクと、
前記生物処理槽に、前記洗濯排水を用いて馴致した洗濯排水馴致済み活性汚泥を凍結乾燥してなると共に、菌の表層にスフィンゴ脂質を有するスフィンゴモナス属及びその近縁属を含む凍結乾燥化汚泥である洗濯排水生物処理製剤を供給する供給装置と、
前記生物処理槽のスフィンゴモナス属及びその近縁属を計測する菌叢解析装置と、
前記菌叢解析装置の計測の結果に基づき、前記洗濯排水生物処理製剤を投入することを実行する制御装置とを備えることを特徴とする洗濯排水処理装置。
【請求項2】
請求項において、
前記生物処理槽の生物処理を悪化させる水質の変化を検知した際、
前記洗濯排水処理製剤を投入することを実行する制御装置とを備えることを特徴とする洗濯排水処理装置。
【請求項3】
請求項において、
前記洗濯排水タンクのCODを計測する第1のCOD計測装置と、
前記第1のCOD計測装置の計測結果に基づき、前記洗濯排水処理製剤を前記生物処理槽に投入することを実行する制御装置とを備えることを特徴とする洗濯排水処理装置。
【請求項4】
請求項において、
前記生物処理槽で生物処理した処理済洗濯排水中のCODを計測する第2のCOD計測装置と、
前記第2のCOD計測装置の計測結果に基づき、前記洗濯排水処理製剤を前記生物処理槽に投入することを実行する制御装置とを備えることを特徴とする洗濯排水処理装置。
【請求項5】
請求項乃至のいずれか一つにおいて、
前記生物処理槽からの活性汚泥を引き抜き手段と、
引き抜いた活性汚泥を凍結乾燥して、洗濯排水生物処理製剤を製造する凍結乾燥装置とを備えることを特徴とする洗濯排水処理装置。
【請求項6】
請求項において、
前記凍結乾燥装置で製造した洗濯排水生物処理製剤を前記供給装置に供給することを特徴とする洗濯排水処理装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つにおいて、
前記凍結乾燥化汚泥に保護剤を添加することを特徴とする洗濯排水処理装置。
【請求項8】
請求項の洗濯排水処理装置を用い、
前記生物処理槽の生物処理を悪化させる水質の変化を検知した際、
前記洗濯排水処理製剤を投入すると共に、
前記生物処理槽の生物処理を悪化させる水質の変化を、前記生物処理槽のスフィンゴモナス属及びその近縁属を計測することにより求めることを特徴とする洗濯排水処理方法。
【請求項9】
請求項において、
前記生物処理槽の生物処理を悪化させる水質の変化を、
前記洗濯排水タンクのCODの計測により求めることを特徴とする洗濯排水処理方法。
【請求項10】
請求項において、
前記生物処理槽の生物処理を悪化させる水質の変化を、
前記生物処理槽で生物処理した処理済洗濯排水中のCODの計測により求めることを特徴とする洗濯排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプラント設備の作業員の作業服を生物処理装置で洗濯する際に用いる洗濯排水生物処理製剤を用いた洗濯排水処理装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばプラント設備から排出される洗濯排水もしくは洗浄排水(以下、代表的に「洗濯排水」という)には、例えば洗剤、布繊維、脂肪分、炭水化物のような有機物質の他に、極微量の放射性物質が含まれている。そして、排水処理においては、放流規制値を満足させるために、これらの物質を除去し無害化しなければならない。
【0003】
従来、洗濯排水を無害化する処理方法としては、プラント設備から排出される洗濯排水を、生物処理槽に導入し、ここで活性汚泥と曝気混合し、得られた混合液を精密ろ過膜によって固液分離するようにしたプラント設備からの洗濯排水を効果的に処理できる洗濯排水の処理装置の提案がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−210486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の活性汚泥を用いる生物処理での活性汚泥運転監視は、排水処理能力で評価しており、例えば洗濯排水の場合はCOD(化学的酸素要求量:Chemical Oxygen Demand)値によっている。例えばその計測の一例であるCOD-Mn法では、例えば300ppmの洗濯排水COD−Mnを例えば20ppm以下の所定値にすることで確認している。
また、活性汚泥の評価は活性汚泥浮遊物質(MLSS: Mixed Liquor Suspended Solids)や酸素消費量、pHなどの間接手法で行っている。
【0006】
このため、従来技術においては、生物処理における活性汚泥を構成している微生物の個々性能を用いて、生物処理設備の制御を行うことを狙った、迅速評価手法はなかった。
【0007】
この結果、排水処理プラントでの活性汚泥状況はいわゆる“成り行き”で運転している状況となり、突発的な不具合と、数時間から数日経過してから確認される生物処理能力低下(例えば停電等による曝気停止があると、生物処理能力が低下し、異物混入等による微生物死滅があると、生物処理能力が低下する。)への迅速対応(例えば、曝気量の増減、排水流入量削減等)は必ずしも適切に行われる状況になかった。この結果、不安定な生物処理プラントの運転となる、という問題がある。
【0008】
また、生物処理能力の低下が確認された場合、適切な対処方法としてどのように対処すればよいかが判らなかった。
【0009】
よって、洗濯排水における生物処理能力の低下が確認された場合、迅速に処理能力が回復できるよう対処できる技術の出現が切望されている。
【0010】
本発明は、前記問題に鑑み、洗濯排水生物処理製剤を用いた洗濯排水処理装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、プラント作業者の使用済被服や使用済布を洗濯した洗濯排水を処理する活性汚泥に添加する洗濯排水生物処理製剤であって、前記洗濯排水を用いて馴致した洗濯排水馴致済み活性汚泥を凍結乾燥してなる凍結乾燥化汚泥であることを特徴とする洗濯排水生物処理製剤にある。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、前記凍結乾燥化汚泥が、菌の表層にスフィンゴ脂質を有するスフィンゴモナス属及びその近縁属を含むことを特徴とする洗濯排水生物処理製剤にある。
【0013】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記凍結乾燥化汚泥に保護剤を添加することを特徴とする洗濯排水生物処理製剤にある。
【0014】
第4の発明は、プラント設備からの洗濯排水を一時的に貯留する洗濯排水タンクと、前記洗濯排水タンクからの洗濯排水を活性汚泥と曝気混合し生物処理する生物処理槽と、生物処理した処理済洗濯排水を貯留する処理水タンクと、前記生物処理槽に、第1乃至3のいずれか一つの発明の洗濯排水生物処理製剤を供給する供給装置と、を備えたことを特徴とする洗濯排水処理装置にある。
【0015】
第5の発明は、第4の発明において、前記生物処理槽の生物処理を悪化させる水質の変化を検知した際、前記洗濯排水処理製剤を投入することを実行する制御装置とを備えることを特徴とする洗濯排水処理装置にある。
【0016】
第6の発明は、第4の発明において、前記洗濯排水タンクのCODを計測する第1のCOD計測装置と、前記第1のCOD計測装置の計測結果に基づき、前記洗濯排水処理製剤を前記生物処理槽に投入することを実行する制御装置とを備えることを特徴とする洗濯排水処理装置にある。
【0017】
第7の発明は、第4の発明において、前記生物処理槽で生物処理した処理済洗濯排水中のCODを計測する第2のCOD計測装置と、前記第2のCOD計測装置の計測結果に基づき、前記洗濯排水処理製剤を前記生物処理槽に投入することを実行する制御装置とを備えることを特徴とする洗濯排水処理装置にある。
【0018】
第8の発明は、第4の発明において、前記生物処理槽のスフィンゴモナス属及びその近縁属を計測する菌叢解析装置と、前記菌叢解析装置の計測の結果に基づき、前記洗濯排水処理製剤を投入することを実行する制御装置とを備えることを特徴とする洗濯排水処理装置にある。
【0019】
第9の発明は、第4乃至8のいずれか一つの発明において、前記生物処理槽からの活性汚泥を引き抜き手段と、引き抜いた活性汚泥を凍結乾燥して、洗濯排水生物処理製剤を製造する凍結乾燥装置とを備えることを特徴とする洗濯排水処理装置にある。
【0020】
第10の発明は、第9の発明において、前記凍結乾燥装置で製造した洗濯排水生物処理製剤を前記供給装置に供給することを特徴とする洗濯排水処理装置にある。
【0021】
第11の発明は、第4の発明の洗濯排水処理装置を用い、前記生物処理槽の生物処理を悪化させる水質の変化を検知した際、前記洗濯排水処理製剤を投入することを特徴とする洗濯排水処理方法にある。
【0022】
第12の発明は、第11の発明において、前記生物処理槽の生物処理を悪化させる水質の変化を、前記洗濯排水タンクのCODの計測により求めることを特徴とする洗濯排水処理方法にある。
【0023】
第13の発明は、第11の発明において、前記生物処理槽の生物処理を悪化させる水質の変化を、前記生物処理槽で生物処理した処理済洗濯排水中のCODの計測により求めることを特徴とする洗濯排水処理方法にある。
【0024】
第14の発明は、第11の発明において、前記生物処理槽の生物処理を悪化させる水質の変化を、前記生物処理槽のスフィンゴモナス属及びその近縁属を計測することにより求めることを特徴とする洗濯排水処理方法にある。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、活性汚泥の生物処理槽の生物処理を悪化させる水質の変化を検知した際、洗濯排水処理製剤を投入することで、生物処理を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、実施例1に係る洗濯排水処理装置の概略図である。
図2図2は、保護剤を添加しない凍結乾燥化汚泥の写真である。
図3図3は、保護剤を添加した凍結乾燥化汚泥の写真である。
図4-1】図4−1は、馴致処理前の汚泥の沈降性を示す写真である。
図4-2】図4−2は、馴致終了後の汚泥の沈降性を示す写真である
図5図5は、排水処理試験の試験装置の一例を示す図である。
図6図6は、従来技術の下水の種汚泥を用いる馴致処理における経過時間(横軸)と、COD(左側縦軸;ppm)と、処理率(右側縦軸;%)との関係を示す図である。
図7図7は、本実施例の凍結乾燥化汚泥を添加した馴致処理における経過時間(横軸)と、COD(左側縦軸;ppm)と、処理率(右側縦軸;%)との関係を示す図である。
図8図8は、従来技術の下水汚泥馴致処理における主要微生物構成比率を示す図である。
図9図9は、凍結乾燥活性汚泥による下水汚泥馴致処理における主要微生物構成比率を示す図である。
図10図10は、洗濯排水を処理した活性汚泥との菌叢解析結果を示す図である。
図11図11は、市販の微生物製剤の菌叢解析結果を示す図である。
図12図12は、判定用DNAを用いた洗濯排水用活性汚泥主要微生物の検出の検出用プライマーを用いた特異性確認試験の結果を示す図である。
図13図13は、リアルタイムPCRを用いた主要微生物比率の測定を示す図である。
図14図14は、実施例2に係る洗濯排水処理装置の概略図である。
図15図15は、実施例3に係る洗濯排水処理装置の概略図である。
図16図16は、実施例4に係る洗濯排水処理装置の概略図である。
図17図17は、実施例5に係る洗濯排水処理装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではなく、また、実施例が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。
【実施例1】
【0028】
図1は、実施例1に係る洗濯排水処理装置の概略図である。
図1に示すように、本実施例に係る洗濯排水処理装置10Aは、例えば原子力施設等のプラント設備からの洗濯排水11を一時的に貯留する洗濯排水タンク12と、この洗濯排水タンク12からの洗濯排水11を活性汚泥と曝気混合し生物処理する生物処理槽14と、生物処理した処理済洗濯排水15を貯留する処理水タンク16と、生物処理槽14に、洗濯排水処理製剤21を供給する処理製剤供給装置22と、を備えるものである。
【0029】
本実施例では、生物処理を悪化させる水質の変化を検出するために、洗濯排水タンク12のCODを計測する第1のCOD計測装置19−1と、第1のCOD計測装置19−1の計測結果に基づき、洗濯排水処理製剤21を生物処理槽14に投入することを実行する制御装置17とを設けている。
【0030】
また、生物処理槽14の立ち上げ時においても洗濯排水処理製剤21を投入して、生物処理槽の活性汚泥の馴致を促進するようにしている。
【0031】
ここで、本実施例の洗濯排水生物処理製剤21は、プラント作業者の使用済被服や使用済布等を洗濯した洗濯排水11を処理する生物処理槽14の泥に添加する洗濯排水生物処理製剤であって、洗濯排水11を用いて馴致した洗濯排水馴致済み活性汚泥13を凍結乾燥してなる凍結乾燥化汚泥である。
【0032】
この凍結乾燥化汚泥は、特に菌の表層にスフィンゴ脂質を有するスフィンゴモナス属(Sphingomonas)及びその近縁属を含むものが好ましい。
【0033】
このスフィンゴモナス属(Sphingomonas)及びその近縁属としては、例えばSphingomonas、Novosphingobium、Sphingobium、Sphingopyxis等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
また、凍結乾燥処理する際に、保護剤を添加して、凍結乾燥化汚泥の保護を図るようにしてもよい。ここで、保護剤としては、例えばグリセリン、ジメチルスルホキシド、グルタミン酸ナトリウム、スターチ及びスキムミルク等を例示することができる。
【0035】
凍結乾燥処理は、公知の手法により行うことができるが、一例を示す。
先ず、洗濯排水馴致済の活性汚泥を採取し、遠心分離装置により遠心分離処理(例えば3000rpm、10分)する。
次に、沈殿物を秤量し、凍結乾燥用の容器に移す。
その後、−20°で一晩程度凍結乾燥処置を行う。
なお、保護剤を用いる場合は、凍結乾燥用の容器に移す際に、保護剤を所定量(例えば1〜10%)投入する。
【0036】
凍結乾燥品の写真を図2及び図3に示す。
図2は、保護剤を添加しない凍結乾燥化汚泥の写真であり、図3は保護剤を添加した凍結乾燥化汚泥の写真である。
この凍結乾燥処理した凍結乾燥化汚泥は、共に水に分散しやすいものであった。
【0037】
図4−1、図4−2は、保護剤を添加していない凍結乾燥化汚泥の沈降性を示す図である。
図4−1は、馴致処理前の汚泥の沈降性を示す写真であり、図4−2は、馴致終了後の汚泥の沈降性を示す写真である。
これにより、保護剤を添加していない凍結乾燥化汚泥は、馴致開始前と較べて馴致終了後では、凍結乾燥化汚泥の沈降性が良好であった。
この結果、懸濁していないので、例えば分離膜内に活性汚泥をいれる場合には、分離膜の目詰まりが発生せず、好ましいものとなる。
【0038】
この凍結乾燥化汚泥を用いて、排水処理試験を実施した。
図5は、排水処理試験の試験装置の一例を示す図である。
図5に示すように、排水処理試験装置50は、模擬の洗濯排水11を添加部51より所定量添加し、底部に酸素(O2)を供給する曝気部52を備え、活性汚泥13を有する曝気槽54と、この曝気槽54と上部側で連通管55により連通し、活性汚泥13が沈降する沈降槽56とを備えている。処理済洗濯排水15は沈降槽56の上部から排出される。
【0039】
ここで、模擬の洗濯排水11はpH6.5〜8.0、25℃で運転した。
模擬の洗濯排水としては、NH4Cl(N成分)、KH2PO4(P成分)、洗剤(陽イオン・非イオン界面活性剤含有)を配合したものを用いた。
【0040】
図6は、従来技術の下水の種汚泥を用いる馴致処理における経過時間(横軸)と、COD(左側縦軸;ppm)と、処理率(右側縦軸;%)との関係を示す図である。
従来技術のように、下水汚泥を用いて馴致する場合には、泡立ちがあるので、180ppmCOD−Mnの洗濯排水を用いて、間欠的に供給し、泡立ちが終了するまでこれを続けた。
本試験においては、泡立ちは、12日間続き、馴致開始は12日目となった。
よって、12日目から180ppmCOD−Mnの洗濯排水を連続して供給することができた。
そして、17日目に洗濯済排水15のCOD濃度が20ppmCOD−Mnを下回ったので、供給する洗濯排水11の濃度を240ppmCOD−Mnに引き上げて供給した。
しかし、COD濃度の上昇の結果、23日を経過するまで洗濯済排水15のCOD濃度が20ppmCOD−Mnを下回ることができなかった。
【0041】
これに対し、本実施例の凍結乾燥化汚泥を用いて馴致した場合には、馴致時間の短縮を図ることができた。
【0042】
図7は、本実施例の凍結乾燥化汚泥を添加した馴致処理における経過時間(横軸)と、COD(左側縦軸;ppm)と、処理率(右側縦軸;%)との関係を示す図である。
凍結乾燥化汚泥を用いて馴致する場合には、180ppmCOD−Mnの洗濯排水を用いた場合、1日で洗濯済排水15のCOD濃度が20ppmCOD−Mnを達成できた。
よって、次に供給する洗濯排水11の濃度を240ppmCOD−Mnに引き上げて供給した。この場合も、引き続き洗濯済排水15のCOD濃度が20ppmCOD−Mnを引き続き達成できたので、8日目に供給する洗濯排水11のCOD濃度を300ppmCOD−Mnに引き上げて供給した。
このCOD濃度が300ppmCOD−Mnというのは、実機適用の負荷濃度であり、洗濯済排水15のCOD濃度が14日目に20ppmCOD−Mnを達成できた。
【0043】
この結果、活性汚泥槽に乾燥化汚泥を供給する場合、直ちにCOD分解性能が期待できるものとなる。
【0044】
よって、従来のように種汚泥を用いて馴致処理する場合のような長期間の馴致処理が不要となることが判明した。
さらに、従来では、洗濯排水のCOD濃度が例えば300ppmCOD−Mnを超える場合には、生物処理槽に導入する以前において、希釈液を用いて希釈処理する必要があったが、このような希釈処理のための処理水の保管や希釈処理するバッファー槽を縮小、もしくは設置が不要となる。
【0045】
次に、模擬の洗濯排水を用いた場合の従来の種汚泥処理と、本実施例の凍結乾燥化汚泥を用いて場合の主要微生物の構成比率について確認した。
図8は、従来技術の下水汚泥馴致処理における主要微生物構成比率を示す図である。ここで、図8中、棒グラフは、主要微生物の構成比率(%)である。
【0046】
ここで注目した微生物は、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)および近縁属(Novosphingobium、Sphingobium、Sphingopyxis等)であり、以降では主要微生物として記載する。
泡立ちがある予備馴致においては、主要微生物の構成比率は数%であった。
その後本格馴致を行った場合、主要微生物の構成比率は5%に上昇した、240ppmCOD−Mnに引き上げた場合には、主要微生物の構成比率は12%程度でしかなかった。
また、処理排水の追従比(図中○印)も、本格馴致で240ppmCOD−Mnに引き上げた後は、低下した。
【0047】
図9は、凍結乾燥活性汚泥による下水汚泥馴致処理における主要微生物構成比率を示す図である。ここで、図9中、棒グラフは、主要微生物の構成比率(%)である。 図9に示すように、処理能力と同期して主要微生物の構成比率が増加した。
そして、14日目から排水処理能力が投入COD濃度に追従することを確認した。
【0048】
図10は、洗濯排水を処理した活性汚泥との菌叢解析結果を示す図である。図11は、市販の微生物製剤の菌叢解析結果を示す図である。
図10に示すように、3種類のスフィンゴモナス属(Sphingomonas)属の微生物が約半分を占めていることが確認できた。
ここで、図10中、微生物aはSphingomonas、微生物bはSphingobium、微生物cはSphingopyxisである。
【0049】
図11は、市販の微生物製剤は、微生物dとしてPseudomonas属の微生物が90%を占めていた。
【0050】
図12は、判定用DNAを用いた洗濯排水用活性汚泥主要微生物の検出の検出用プライマーを用いた特異性確認試験の結果を示す図である。
表1は、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)及びその近縁属(Novosphingobium、Sphingobium、Sphingopyxis)の検出用プライマーを示す。
表2は、検出用プライマー(SPG5〜SPG9)のフォワードプライマーとリバースプライマーを示す。
表3は、Sphingomonas属および近縁微生物の16SrDNA遺伝子アライメント解析から得られた、コンセンサス配列(Bioeditを使ってのコンセンサス配列自動作成結果)を得た後、このコンセンサス配列で、アライメント結果と比較して、共通性が希薄であるとして削除が必要な部分を削除した遺伝子配列を示す。
この遺伝子配列を使っての検出用PCRプライマー(SPG7:アンダーライン)を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
レーン1〜7は洗濯排水汚泥を用いた場合であり、レーン8〜14は大腸菌を用いた場合である。レーン15は水のみである。
レーン1はユニバーサルプライマー、レーン2はSPG1のプライマー、レーン3はSPG5のプライマー、レーン4はSPG6のプライマー、レーン5はSPG7のプライマー、レーン6はSPG8のプライマー、レーン7はSPG9のプライマーである。また、レーン8はユニバーサルプライマー、レーン9はSPG1のプライマー、レーン10はSPG5のプライマー、レーン11はSPG6のプライマー、レーン12はSPG7のプライマー、レーン13はSPG8のプライマー、レーン14はSPG9のプライマー、レーン15はユニバーサルプライマーである。
【0055】
図13は、リアルタイムPCRを用いた主要微生物比率の測定を示す図である。
全ての微生物でDNA増幅できるユニバーサルプライマーと、特定微生物(Sphingomonas属、Novosphingobium属、Sphingobium属、Sphingopyxis属)のみでDNA増幅できる特定プライマー(レーン5のSPG7)を使い、リアルタイムPCR装置にてDNA増幅試験を実施した。
【0056】
図13に示すように、特定微生物用測定用PCRプライマーの増幅曲線(実線)と、全微生物用測定用PCRプライマーの増幅曲線(一点鎖線)から、初期DNA量を推算し(切片I、切片II)、主要微生物構成比率を算出する。
算出は、存在比率(%)=特定微生物DNA(切片I)/(全微生物DNA(切片II)÷1.4)×100=46.6%
【0057】
よって、このリアルタイムPCR装置を用いることで、生物処理槽の菌叢解析を迅速に行うことができる。
【0058】
以上より、本実施例においては、生物処理槽において、従来のような種汚泥を用いて、活性汚泥を長時間馴致させるものではなく、凍結乾燥化汚泥を用いて、迅速に馴致させることができることとなる。
【0059】
この凍結活性化汚泥の洗濯排水処理製剤21を適用する場合として、排水処理に先立って、生物処理槽を立ち上げる際に、従来の種汚泥を供給する代わりに、用いることができる。
【0060】
また、運転時においては、洗濯排水のCOD濃度を確認して行うことができる。
【0061】
さらに、プラントを長期間停止した場合、生物処理槽の菌叢が変化するので、この停止後の立ち上げの際に、本実施例の洗濯排水処理製剤21を生物処理槽に添加するようにしてもよい。
【0062】
この際、生物処理槽14の菌叢をリアルタイムPCR装置等の菌叢装置により確認することで、菌叢状態を把握しつつ、洗濯排水処理製剤21を供給するようにしてもよい。なお、菌叢装置として、リアルタイムPCR装置を用いて説明したが、本発明はこれに限定されず、公知の菌叢状態を解析する装置であればいずれも適用することができる。
【0063】
また、停電等による曝気停止があった場合にも、洗濯排水処理製剤21を生物処理槽に添加することで、迅速に対応することができる。
【0064】
このように、本実施例によれば、例えば原子力設備や一般プラント設備等での例えば作業衣や使用布等を洗濯処理した洗濯排水を分解処理する場合において、活性汚泥の生物処理槽の生物処理を悪化させる水質の変化を検知した際、洗濯排水処理製剤を投入することで、生物処理を安定して行うことができる。
【実施例2】
【0065】
図14は、実施例2に係る洗濯排水処理装置の概略図である。
図14に示すように、本実施例に係る洗濯排水処理装置10Bは、実施例1の洗濯排水処理装置10Aにおいて、さらに生物処理槽14で生物処理した処理済洗濯排水15中のCODを計測する第2のCOD計測装置19−2を設け、第2のCOD計測装置19−2の計測結果に基づき、制御装置17により、洗濯排水処理製剤21を生物処理槽14に投入するようにしている。
【0066】
この結果、従来では、処理済洗濯排水15中のCODが放水18の基準値よりも高い場合(例えば20ppmCOD−Mn)には、生物処理槽14へ供給する洗濯排水11を別途希釈処理する必要があったが、本実施例では、生物処理槽14へ洗濯排水処理製剤21の供給で対応でき、従来のような希釈処理を縮小もしくは不要となり、プラントの初期設置設備、ランニング設備費用の低廉を図ることができる。
【実施例3】
【0067】
図15は、実施例3に係る洗濯排水処理装置の概略図である。
図15に示すように、本実施例に係る洗濯排水処理装置10Cは、実施例2の洗濯排水処理装置10Bにおいて、さらに生物処理槽14のスフィンゴモナス属及びその近縁属を計測する菌叢解析装置(例えばリアルタイムPCR計測装置)25を設け、この菌叢解析装置(リアルタイムPCR計測装置)25の計測の結果に基づき、制御装置17により、洗濯排水処理製剤21を生物処理槽14に投入し、生物処理槽14の主要微生物構成比率を上昇させることができる。
【0068】
この結果、従来のような“成り行き”で運転していることが解消され、安定した生物処理のプラントの運転が可能となる。
【実施例4】
【0069】
図16は、実施例4に係る洗濯排水処理装置の概略図である。
図16に示すように、本実施例に係る洗濯排水処理装置10Dは、実施例2の洗濯排水処理装置10Bにおいて、前記生物処理槽14からの活性汚泥13を引き抜く引き抜き手段である引き抜きライン31と、この引き抜いた活性汚泥13を凍結乾燥して、洗濯排水生物処理製剤21を製造する凍結乾燥装置32とを備えている。
【0070】
これにより、生物処理プラント設備内において、洗濯排水生物処理製剤21を製造することができ、必要な場合、迅速に処理製剤供給装置22から洗濯排水生物処理製剤21を供給することができる。
【0071】
この結果、大量の洗濯排水生物処理製剤21をストックする必要がなく、常に安定した生物処理のプラントの運転が可能となる。
【実施例5】
【0072】
図17は、実施例5に係る洗濯排水処理装置の概略図である。
図17に示すように、本実施例に係る洗濯排水処理装置10Eは、実施例4の洗濯排水処理装置10Dの引き抜いた活性汚泥13を凍結乾燥して、洗濯排水生物処理製剤21を製造する凍結乾燥装置32を設置すると共に、この製造した洗濯排水生物処理製剤21を自社内のプラントで用いると共に、外部40へ供給して販売、提供等を行うものである。
【0073】
この凍結乾燥装置32で得られる洗濯排水生物処理製剤21は、類似の洗濯排水処理生物処理装置にそのまま適用することが可能となる。よって、例えば類似の洗剤(陽イオン・非イオン界面活性剤含有)を用いた洗濯排水に対して生物処理を行う外部の排水処理プラントに提供することができる。
【0074】
例えば火急の生物処理性能向上ニーズ(例えば停電等による生物処理槽の曝気停止等)があった場合には、従来においては、活性汚泥をバキュームカー等で“汚泥”として運搬する手法がとられてきたが、この汚泥のままでの運搬は、1)人件費や車両レンタル等のコストが嵩み、2)夏場等においては搬送時に冷却手段等を要し、更に長距離輸送では曝気処理も適宜行う必要があり、汚泥の品質低下リスクが高まる、という問題があった。
【0075】
これに対し、凍結乾燥装置32で得られる洗濯排水生物処理製剤21は、減容化されていると共に、保管及び搬送が容易であるので、類似の洗剤(陽イオン・非イオン界面活性剤含有)を用いた排水に対して生物処理を行う他排水処理プラントに、低コスト、低リスクで汚泥を供給できることが可能になる。
【符号の説明】
【0076】
10A〜10E 洗濯排水処理装置
11 洗濯排水
12 洗濯排水タンク
13 活性汚泥
14 生物処理槽
15 処理済洗濯排水
16 処理水タンク
18 放水
19−1 第1のCOD計測装置
19−2 第2のCOD計測装置
21 洗濯排水処理製剤
22 処理製剤供給装置
31 引き抜きライン
32 凍結乾燥装置
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
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図10
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図14
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図17