(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下の実施の形態では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0034】
(第1の実施の形態)
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る触覚刺激の知覚閾値の測定装置は、制御装置100、信号処理部116、振動部118、及び操作部120を含む。制御装置100は、CPU102、ROM104、RAM106、記録部108、タイマ110、バス112、及び信号生成部114を含む。
【0035】
CPU102は、制御装置100全体を制御する。ROM104は不揮発性の記憶装置であり、制御装置100の動作を制御するためのプログラム及びデータが記憶されている。RAM106は、揮発性の記憶装置である。記録部108は、通電が遮断された場合にもデータを保持する不揮発性記憶装置であり、例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリ等である。
【0036】
バス112には、CPU102、ROM104、RAM106、記録部108、タイマ110、信号生成部114が接続されている。操作部120は、所定のインターフェイス(図示せず)を介して、バス112に接続される。各部間のデータ(制御情報を含む)交換は、バス112を介して行なわれる。CPU102は、バス112を介してROM104からプログラムをRAM106上に読出して、RAM106の一部を作業領域としてプログラムを実行する。CPU102は、プログラムにしたがって制御装置100を構成する各部の制御を行なう。
【0037】
タイマ110は、内部クロックを用いて現在の時刻情報を出力する。信号生成部114は、CPU102の制御を受けて、触覚刺激の知覚閾値の測定に使用される所定のアナログ信号(以下、測定用信号ともいう)を生成する。測定用信号のパルスシーケンスは、タイマ110の時刻情報に基づき生成される。
【0038】
信号処理部116は、信号生成部114から出力される測定用信号の強度(振幅)を調整し、増幅して出力する。振動部118は、入力されるアナログ信号にしたがって振動する。操作部120は、ユーザによる制御装置100への入力を受付ける。
【0039】
図2を参照して、本実施の形態に係る測定装置は、自動車のハンドルに装着される。
図2は、自動車のハンドル200を裏側(フロントガラス側)から見た図である。ハンドル200の中央部に制御装置100が配置され、ハンドル200の一方の側(例えば、自動車が直進する状態のハンドル200において、運転者から見て右側)に、信号処理部116、振動部118及び操作部120が配置される。
【0040】
振動部118は、人が触覚で知覚できる振動数で振動する。振動部118には、コイル又は圧電素子(ピエゾ素子)等を用いた種々の機器を使用することができる。信号処理部116の増幅率は、振動部118の特性に応じて適切に変更されることが好ましい。操作部120は、例えばモーメンタリスイッチである。
【0041】
これにより、自動車の運転中に、運転者の触覚刺激の知覚閾値を測定することが可能となる。運転者が指で振動部118に触れた状態で測定が開始され、運転者は測定中、指で振動部118に触れた状態を維持する。制御装置100は、所定のパルスシーケンスの測定用信号を生成し、それにより振動部118を振動させる。制御装置100は、測定用信号のパルスシーケンスを時間経過にしたがって変化させ、振動部118の振動状態を変化させる。運転者は、触覚により知覚している振動状態が所定の変化をしたと知覚したときに、操作部120を操作して、知覚したことを制御装置100に入力する。制御装置100は、操作部120からの入力を受けたときに、信号生成部114から出力している測定用信号の生成条件を、触覚刺激の知覚閾値として決定する。
【0042】
以下、触覚刺激の知覚閾値の測定に関して具体的に説明する。
図3を参照して、触覚刺激の知覚閾値の測定プログラムのステップ300において、CPU102は、初期設定として、測定用信号のパルスシーケンスを決定するための複数の条件を記憶部からRAM106に読出す。
【0043】
測定用信号は、例えば、
図4に示すようなパルスシーケンス(以下、第1パルスシーケンスという)の信号が使用される。第1パルスシーケンスでは、時間T1の間、一定強度A0を維持した後、時間T2の間、一定強度A0よりも小さい強度(A0−A1)を維持し、その後元の強度A0に戻り、時間T1の間、その値を維持する波形が、繰返し周期T0で、N回繰返される。第1パルスシーケンスは、隣接する2つのパルスピークが周期的に繰返される波形である。全時間TmはTm=T0×Nである。
【0044】
ここで、
図4の波形は、一定周波数f0のキャリア波形(例えばサイン波)の包絡線を示す。即ち、振動波形の周期は、パルスシーケンスのパルス幅(時間)よりも十分に小さい。例えば、振動波形の周波数f0は250Hz(周期4msec)であり、時間T1は100msecである。
【0045】
強度A0を、例えば、感覚的閾値の10倍である20dBSL(Sensation Level)に固定する場合、第1パルスシーケンスを決定するためのパラメータはT0、T1、T2、及びA1である。ここでは、T0=1(sec)、T1=100(msec)の条件で、パラメータT2及びA1によりパルスシーケンスを変化させる。具体的には、次の3種類の条件が使用される。なお、信号強度の減少量A1は、強度A0に対する比率(%)で表される。
・時間変化条件:A1を100%に固定し、T2を1msec刻みで、1msec〜30msecの範囲で変化させる。
・強度変化条件:T2を30msecに固定し、A1を1%刻みで、1%〜30%の範囲で変化させる。
・時間及び強度変化条件:A1(%)及びT2(msec)を同時に、同じ値に変化させる。即ち、(A1,T2)を、(1,1)〜(30,30)の範囲で変化させる。
【0046】
時間変化条件の第1パルスシーケンスを、「時間変化2刺激シーケンス」という。強度変化条件の第1パルスシーケンスを、「強度変化2刺激シーケンス」という。時間及び強度変化条件の第1パルスシーケンスを、「時間及び強度変化2刺激シーケンス」という。
【0047】
図5に、時間変化2刺激シーケンスを示す。即ち、A1=100(%)に固定すると、
図4のパルスシーケンスは、
図5のパルスシーケンスとなる。パルスの立上り及び立下りには所定の時間を要する。ここでは、
図6に示すように、時間変化2刺激シーケンスにおいて、繰返し周期T0中の最初のパルスの立上り、及びその次のパルスの立下りは、例えば4msecであり、最初のパルスの立下がり、及びその次のパルスの立上りは、例えば2msecである。
【0048】
なお、パルスの立上り、立下りは、ここで例示した値に限定されない。パルス幅及び信号生成装置の特性により適切な値に設定すればよい。
【0049】
時間変化2刺激シーケンスを用いる場合には、ステップ300において、T1が100(msec)に、A1が100(%)に、パラメータ(T2)の上限が30(msec)に設定される。強度変化2刺激シーケンスを用いる場合には、ステップ300において、T1が100(msec)に、T2が30(msec)に、パラメータ(A1)の上限が30(%)に設定される。時間及び強度変化2刺激シーケンスを用いる場合には、ステップ300において、T1が100(msec)に、パラメータ(A1,T2)の上限が(30(%),30(msec))に設定される。
【0050】
ステップ302において、CPU102は、測定に使用するシーケンスに応じたパラメータに初期値を設定する。時間変化2刺激シーケンスを用いる場合には、パラメータ(T2)の初期値は1(msec)である。強度変化2刺激シーケンスを用いる場合には、パラメータ(A1)の初期値は1(%)である。時間及び強度変化2刺激シーケンスを用いる場合には、パラメータ(A1,T2)の初期値は、A1=1(%)及びT2=1(msec)である。
【0051】
ステップ304において、CPU102は、ステップ300及び302での設定に基づき、信号生成部114を制御して測定用信号を生成させる。
【0052】
ステップ306において、CPU102は、操作部120が操作されたか否かを判定する。具体的には、CPU102は、操作部120であるスイッチが押下されたことを表す信号を受信したか否かを判定する。信号を受信した場合、操作されたと判定し、制御はステップ314に移行する。そうでなければ、制御はステップ308に移行する。
【0053】
ここでは、後述するように、繰返し周期T0中で隣接するパルスの分離度が大きくなるように変化させる。例えば、時間変化2刺激シーケンスを用いる場合には、間隔T2を1msecから徐々に増大させる。運転者が、自動車の運転中、例えば右手の中指で振動部118に触れているとすると、最初、運転者は振動を1つの刺激として知覚している。その後、ある程度2つのパルスの分離度が大きくなると、運転者は振動を2つの刺激として知覚するようになる。運転者には、振動を2つの刺激として知覚するようになったときに、操作部120であるスイッチを、例えば右手の人差指で押してもらう。
【0054】
ステップ308において、CPU102は、タイマからの現在時刻を取得して、繰返し周期T0が所定回数(N回)繰返されたか否か、即ち、時間Tm=T0×Nが経過したか否かを判定する。経過したと判定された場合、制御はステップ310に移行する。そうでなければ、制御はステップ304に戻り、現在の条件で測定用信号が生成される。
【0055】
ステップ310において、CPU102は、現在測定用波形の生成に使用されているパラメータが限界値(ここでは上限値)であるか否かを判定する。限界値であれば、CPU102は本プログラムを終了する。そうでなければ、制御はステップ312に移行する。
【0056】
ステップ312において、CPU102は、現在のパラメータを変化させる。例えば、現在のパラメータ値を所定の増分だけ増大させて、新たなパラメータ値とする。時間変化2刺激シーケンスを用いる場合には、パラメータT2の値を1msecだけ増大させる。強度変化2刺激シーケンスを用いる場合には、パラメータA1の値を1%だけ増大させる。時間及び強度変化2刺激シーケンスを用いる場合には、パラメータA1の値を1%だけ増大させ、パラメータT2の値を1msecだけ増大させる。
【0057】
その後、制御はステップ304に戻る。これにより、新たなパラメータ値を用いて、測定用信号が生成される。
【0058】
ステップ306で操作を受けたと判定された場合、ステップ314において、CPU102は、現在のパラメータ値を、例えばRAM106に記憶する。
【0059】
以上により、運転者が、指で振動を1つの刺激として知覚している状態から、2つの刺激として知覚するようになったときのパラメータ値を、触覚刺激の知覚閾値として決定することができる。測定された触覚刺激の知覚閾値は、後述するように、疲労程度に応じて変化する。したがって、予め疲労していない状態で、触覚刺激の知覚閾値を測定して基準値として記憶しておけば、任意の疲労状態で触覚刺激の知覚閾値を測定し、基準値と比較することで、その時の疲労度を評価することができる。
【0060】
上記では、運転者が、振動部118に右手の中指で触れて、操作部120を右手の人差指で操作する場合を説明したが、これに限定されない。例えば、運転者が、振動部118に右手の人差指で触れ、操作部120を右手の親指で操作できるように、振動部118及び操作部120を配置してもよい。また、運転者が左手を用いて測定できるように、振動部118、操作部120及び信号処理部116を配置してもよい。
【0061】
上記では、測定用信号として、
図4に示した第1パルスシーケンスを使用する場合を説明したが、これに限定されない。例えば、測定用信号として、
図7に示すようなパルスシーケンス(以下、第2パルスシーケンスという)の信号を使用してもよい。
【0062】
第2パルスシーケンスでは、時間T1の間、一定強度A0を維持した後、時間T2の間、一定強度A0よりも小さい強度(A0−A1)を維持し、その後元の強度A0に戻り、その値を、繰返し周期T0の残りの期間維持する。N回繰返す場合、全時間Tmは、Tm=T0×Nである。第2パルスシーケンスは、一定強度のキャリア波形を、所定のタイミングで、所定期間(T2)減少させた波形(欠落させた波形)である。
【0063】
具体的には、キャリア周波数f0を250Hzとし、強度A0を20dBSLに固定する場合、第1パルスシーケンスと同様に、第2パルスシーケンスを決定するためのパラメータはT0、T1、T2、及びA1である。また、第1パルスシーケンスと同様に、T0=1(sec)、T1=100(msec)の条件で、パラメータT2及びA1によりパルスシーケンスを変化させる。具体的には、第1パルスシーケンスと同様に、信号強度の減少量A1は、強度A0に対する比率(%)として表し、上記した3種類の条件(時間変化条件、強度変化条件、並びに、時間及び強度変化条件)が使用される。
【0064】
時間変化条件の第2パルスシーケンスを、「時間変化欠落シーケンス」という。強度変化条件の第2パルスシーケンスを、「強度変化欠落シーケンス」という。時間及び強度変化条件の第2パルスシーケンスを、「時間及び強度変化欠落シーケンス」という。
【0065】
図8に、時間変化欠落シーケンスを示す。即ち、A1=100(%)に固定すると、
図7のパルスシーケンスは、
図8のパルスシーケンスとなる。パルスの立上り及び立下り時間は、
図6と同様に、繰返し周期T0中の最初のパルスの立上り、及びその次のパルスの立下りは、例えば4msecであり、最初のパルスの立下がり、及びその次のパルスの立上りは、例えば2msecである。
【0066】
第2パルスシーケンスを使用する場合、例えば、時間変化欠落シーケンス(
図8)を用いる場合には、間隔T2を1msecから徐々に増大させる。したがって、最初、被験者は振動を、一様な刺激として知覚しており、ある程度欠落度(T2の間隔)が大きくなると、刺激の中に欠落を知覚するようになる。被験者には、刺激の中に欠落を知覚するようになったときに、操作部120を操作してもらう。したがって、第2パルスシーケンスを使用する場合にも、被験者が、指等で知覚している振動の状態が変化したとき(一様な刺激から、刺激の中に欠落を知覚するようになったとき)のパラメータ値を、触覚刺激の知覚閾値として決定することができる。
【0067】
また、測定用信号として、
図9に示すようなパルスシーケンスの信号(以下、第3パルスシーケンスという)を使用してもよい。
【0068】
第3パルスシーケンスでは、時間T1の間、一定強度A0を維持した後、時間T2の間、一定強度A0よりも小さい強度(A0−A1)を維持し、その後、元の強度A0に戻り、これらが繰返される。第3パルスシーケンスは、パルスの連続波形である。
【0069】
具体的には、キャリア周波数f0を250Hzとし、強度A0を20dBSLに固定する場合、第3パルスシーケンスを決定するためのパラメータはT1、T2、及びA1である。また、T1=100(msec)又はT1=T2、及びパラメータ値を維持する時間Tm=1(sec)の条件で、パラメータT2及びA1を変化させることによりパルスシーケンスを変化させる。具体的には、第1パルスシーケンスと同様に、信号強度の減少量A1は、強度A0に対する比率(%)として表し、上記した3種類の条件(時間変化条件、強度変化条件、並びに、時間及び強度変化条件)が使用される。
【0070】
T1を100(msec)に固定した場合の時間変化条件の第3パルスシーケンスを、「時間変化連続シーケンスA」といい、T1=T2とした場合の時間変化条件の第3パルスシーケンスを、「時間変化連続シーケンスB」という。T1を100(msec)に固定した場合の強度変化条件の第3パルスシーケンスを、「強度変化連続シーケンスA」といい、T1=T2とした場合の強度変化条件の第3パルスシーケンスを、「強度変化連続シーケンスB」という。T1を100(msec)に固定した場合の時間及び強度変化条件の第3パルスシーケンスを、「時間及び強度変化連続シーケンスA」といい、T1=T2とした場合の時間及び強度変化条件の第3パルスシーケンスを、「時間及び強度変化連続シーケンスB」という。
【0071】
図10に、時間変化連続シーケンスA及びBを示す。即ち、A1=100(%)に固定すると、
図9のパルスシーケンスは、
図10のパルスシーケンスとなる。ここでは、パルスの立上り及び立下り時間は、
図6とは異なり、全てのパルスで同じであり、例えば2msecである。
【0072】
第3パルスシーケンスを使用する場合、例えば、時間変化連続シーケンス(
図10)を用いる場合には、パルス時間T1及び間隔T2を下限値から徐々に増大させる。したがって、最初、被験者は振動を、一様な1つの刺激として知覚しており、パルス時間T1及び間隔T2がある程度大きくなると、被験者は複数の刺激として知覚するようになる。被験者には、振動を複数の刺激として知覚するようになったときに、操作部120を操作してもらう。したがって、第3パルスシーケンスを使用する場合、被験者が、指等で振動を1つの刺激として知覚している状態から、複数の刺激として知覚するようになったときのパラメータ値を、触覚刺激の知覚閾値として決定することができる。
【0073】
また、測定用信号として、
図11に示すようなパルスシーケンスの信号(以下、第4パルスシーケンスという)を使用してもよい。これは、
図4に示した第1パルスシーケンスにおいて、信号強度が0である期間において、信号が所定の強度(A0−A2)を有するようにしたものである。A2=0(%)として所定の強度(A0−A2)をA0と等しくすると、
図7に示した第2パルスシーケンスになる。したがって、第4パルスシーケンスは、第1パルスシーケンスと第2パルスシーケンスとの中間のシーケンスである。第4パルスシーケンスは、第1パルスシーケンス(A2=100(%)の第4パルスシーケンス)と第2パルスシーケンス(A2=0(%)の第4パルスシーケンス)とを包含するシーケンスでもある。
【0074】
図11において、繰返し周期T0を変更して、T0=2×(T1+T2)とすれば、強度(A0−A2)の時間T3=T2となる。さらに、A2=A1とすれば、
図11に示した第4パルスシーケンスは、
図9に示した第3パルスシーケンスとなる。したがって、第4パルスシーケンスは、第3パルスシーケンスを包含するシーケンスでもある。即ち、第4パルスシーケンスは、第1〜第3パルスシーケンスを包含するシーケンスである。
【0075】
具体的には、キャリア周波数f0を250Hzとし、強度A0を20dBSLに固定する場合、第4パルスシーケンスを決定するためのパラメータはT0、T1、T2、A1、及びA2である。また、パラメータA2を所定の値に固定し、T0=1(sec)、T1=100(msec)の条件で、パラメータT2及びA1によりパルスシーケンスを変化させる。
【0076】
第4パルスシーケンスに関しても、第1パルスシーケンスと同様に、信号強度の減少量A1を強度A0に対する比率(%)として表し、パラメータA2を所定の値に固定して、上記した3種類の条件(時間変化条件、強度変化条件、並びに、時間及び強度変化条件)を使用することができる。
【0077】
例えば、
図11においてA1=100(%)とした場合のパルスシーケンスを
図12に示す。さらに、A2を特定の値、例えば10%、50%、又は100%に設定することができる。
【0078】
図12においてA2=10(%)としたパルスシーケンスを「第1中間刺激シーケンス」という。
図12においてA2=50(%)としたパルスシーケンスを「第2中間刺激シーケンス」という。なお、第1及び第2中間刺激シーケンスにおいては、T0=1(sec)、T1=100(msec)である。第1又は第2中間刺激シーケンスを用いて触覚刺激の知覚閾値を測定する場合には、その他のパラメータは、上記した3種類の条件(時間変化条件、強度変化条件、並びに、時間及び強度変化条件)の何れかの条件にしたがって変化させる。
【0079】
図12において、A2=100(%)とし、繰返し周期T0=0.5(sec)とした場合のパルスシーケンスを「第3中間刺激シーケンス」という。なお、第3中間刺激シーケンスにおいては、T1=100(msec)である。第3中間刺激シーケンスを用いて、触覚刺激の知覚閾値を測定する場合には、その他のパラメータは、上記した3種類の条件(時間変化条件、強度変化条件、並びに、時間及び強度変化条件)の何れかの条件にしたがって変化させる。
【0080】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、測定装置が1つの振動部を含む場合を説明したが、第2の実施の形態では、触覚刺激の知覚閾値の測定における被験者の恣意性を排除し、客観的に測定するために、測定装置は複数の振動部を含む。
【0081】
本実施の形態に係る触覚刺激の知覚閾値の測定装置は、第1の実施の形態に係る測定装置(
図1)と同様に構成されている。但し、本実施の形態に係る測定装置は、第1の実施の形態と異なり、
図13に示すように、ハンドル200の両側に配置され、信号処理部、振動部、及び操作部をそれぞれ含む第1ユニット222及び第2ユニット224を備える。
【0082】
第1ユニット222及び第2ユニット224の各々の信号生成部には、それぞれ異なる測定用信号が入力され、増幅されて、対応する振動部に入力される。これによって、第1ユニット222及び第2ユニット224の各々の振動部は、異なる振動状態を実現する。
【0083】
本実施の形態において実行される測定処理に関して、
図14を参照して説明する。
図14のフローチャートが
図3のフローチャートと異なるのは、ステップ330及びステップ332が追加されているだけである。
図13において、
図3と同じ参照番号のステップでは、基本的に
図3と同じ処理が実行される。但し、信号処理部、振動部、及び操作部が2組含まれることにより、一部のステップの処理が若干異なる。以下においては、主として異なる点に関して説明する。
【0084】
初期設定及びパラメータに初期値が設定された後、ステップ304において、パラメータ値に基づいて測定用信号が生成される。このとき、信号生成部114により、2つの測定用信号が生成される。一方の測定用信号(以下、真の測定用信号ともいう)は、第1の実施の形態と同様に、ステップ312で変更されたパラメータに基づいて生成される。他方の測定用信号(以下、ダミー信号ともいう)は、最初に生成される測定用信号から変更されない。例えば、ダミー信号は、最初にステップ304が実行されて生成された測定用信号と同じパルスシーケンスを維持する。
【0085】
2つの信号処理部うち、一方の信号処理部には真の測定用信号が入力され、他方の信号処理部にはダミー信号が入力される。即ち、各信号処理部に対応する振動部は、真の測定用信号又はダミー信号により振動する。
【0086】
測定の開始時に(例えばステップ302において)、CPU102は、真の測定用信号及びダミー信号をそれぞれ入力する信号処理部(振動部)を決定する。1回の測定中においては、真の測定用信号及びダミー信号がそれぞれ入力される信号処理部は入替ることはない。例えば、最初に、真の測定用信号が第1ユニット222の信号処理部に入力された場合(ダミー信号は第2ユニット224の信号処理部に入力)、その測定中、パラメータ値が変更されて新たに生成された真の測定用信号は、第1ユニット222の信号処理部に入力される。
【0087】
ステップ306の判定処理においては、CPU102は、第1ユニット222の操作部及び第2ユニットの操作部の少なくとも一方が操作されたか否かを判定する。操作されたと判定された場合、制御はステップ330に移行する。そうでなければ、第1の実施の形態と同様に、制御はステップ308に移行する。
【0088】
ステップ330において、CPU102は、ステップ306で操作されたと判定された操作部が、正しい操作部である(正解)か否か、即ち、真の測定用信号が入力されている振動部に対応する操作部であるか否かを判定する。正解と判定された場合、制御はステップ314に移行し、CPU102は、現在のパラメータ値を記憶する。そうでなければ、即ち、操作されたと判定された操作部が、ダミー信号が入力されている振動部に対応する、又は、2つの操作部が同時に操作された場合、制御はステップ332に移行する。
【0089】
ステップ332において、CPU102は、所定の警告メッセージ(例えば、聴覚又は視覚情報)を提示して、制御はステップ302に戻る。これによって、間違った操作部が操作された場合、再度測定が開始される。
【0090】
以上により、運転者が、2つの刺激として知覚できていないにもかかわらず、恣意的に操作部を操作したことを検知することができ、その場合の測定値(パラメータ値)を除外することができる。
【0091】
上記では、測定装置が、信号生成部、振動部及び操作部を含むユニットを、2組含む場合を説明したが、これに限定されない。測定装置が3組以上のユニットを含んでいてもよい。その場合にも真の測定用信号とダミー信号とが生成され、複数の振動部のうち、1つの振動部が真の測定用信号により振動し、その他の振動部はダミー信号により振動するようにする。ユニットの数を増やすと、より正確に被験者の恣意性を排除することができ、より客観的に触覚刺激の知覚閾値を測定することができる。
【0092】
例えば、4つのユニットをハンドルに装着し、運転者の右手に2つのユニットを対応させ、左手に残りの2つのユニットを対応させる。例えば、運転者がハンドルをにぎった場合、右手の中指及び薬指が2つの振動部に触れ、中指が触れる振動部に対応する操作部が右手の人差指の近くに配置され、薬指が触れる振動部に対応する操作部が小指の近くに配置されるように、2つのユニットをハンドルに装着する。残りの2つのユニットは、左手の指に対して、同様の位置関係になるように、ハンドルに装着される。運転者には、振動状態の変化を知覚した振動部の近くの操作部を操作させる。
【0093】
以上、実施の形態を説明することにより本発明を説明したが、上記した実施の形態は例示であって、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、種々変更して実施することができる。
【0094】
上記では、第1及び第2パルスシーケンスにおいて、T1=100(msec)に固定したが、これに限定されない。T1は20msec以上500msec以下であってもよい。
【0095】
また、上記では、第1パルスシーケンスの強度変化2刺激シーケンス、及び第2パルスシーケンスの強度変化欠落シーケンスにおいて、T2=30(msec)に固定したが、これに限定されない。T2は5msec以上90msec以下であってもよい。
【0096】
上記では、パラメータT2を単調に増大させる場合を説明したが、これに限定されない。パラメータT2を上限値から単調に減少させてもよい。その場合には、被験者は、最初に2つの刺激を知覚した状態から、1つの刺激を知覚するようになる。したがって、被験者には、2つの刺激を知覚した状態から、1つの刺激を知覚するようになったときに操作部を操作してもらえば、そのときのパラメータT2の値を知覚閾値として決定することができる。
【0097】
同様に、2つの刺激の間のパラメータA2を単調に増大させる場合を説明したが、単調に減少させてもよい。その場合にも、上記と同様に、被験者には、2つの刺激を知覚した状態から、1つの刺激を知覚するようになったときに操作部を操作してもらえば、そのときのパラメータA1の値を知覚閾値として決定することができる。
【0098】
また、パラメータT2及びA1を同時に増大させる場合に限らず、同時に減少させてもよい。その場合にも、上記と同様に、被験者には、2つの刺激を知覚した状態から、1つの刺激を知覚するようになったときに操作部を操作してもらえば、そのときのパラメータT2及びA1の値を知覚閾値として決定することができる。
【0099】
上記では、パラメータT2及びA1を、それぞれの基準値(パラメータT2の基準値はパルス幅100msec、パラメータA1の基準値はパルスの高さA0)の1〜30%の範囲で、1%刻みで変化させる場合を説明したが、これに限定されない。例えば、パラメータT2及びA1の上限値は60%(パラメータT2の基準値をパルス幅100msecとすると、パラメータT2の上限値は60msec)であってもよい。
【0100】
また、パラメータT2及びA1を同時に変化させる場合、パラメータT2及びA1の変化方向が同じであれば(即ち、何れも単調に増大する、又は、何れも単調に減少すれば)、パラメータT2の変化の程度とパラメータA1の変化の程度とが異なっていてもよい。例えば、パラメータT2を1〜30%の範囲で、0.5%刻みで変化させ、パラメータA1を1〜30%の範囲で、1%刻みで変化させてもよい。その場合、パラメータA1は、2回同じ値が設定される。
【0101】
キャリア周波数f0(Hz)は、250Hzに限定されない。キャリア周波数f0は、人が触覚により振動として知覚できる周波数であればよく、好ましくは100Hz以上300Hz以下の値(100≦f0≦300)である。
【0102】
上記では、自動車の運転中に測定を行なうことができるように、ハンドルに測定装置を装着する場合を説明したが、これに限定されない。運転中に、運転者の負担にならず、安全運転が可能な位置であれば、測定装置を、自動車内部のハンドル以外の位置に装着してもよい。
【0103】
また、振動部は、指先に装着可能に構成されてもよい。例えば、手袋の指又は指サックの先端部に振動部118を配置してもよい。
【0104】
各部間の信号(測定用信号、操作部の出力信号)の伝送は、有線に限定されず、Bluetooth(登録商標)等の無線通信を介してもよい。
【0105】
また、制御装置100として、カーナビゲーションシステムを使用してもよい。例えば、カーナビゲーションシステムが音響の出力端子を備えていれば、その出力端子から測定用信号を出力し、信号処理部(アンプ)に入力すればよい。測定結果から判定された疲労度に応じて、カーナビゲーションシステムの表示部に、所定のメッセージを表示してもよい。
【0106】
また、作業中に測定する場合に限定されない。制御装置100として、例えば公知のコンピュータ又は携帯端末装置(携帯電話、スマートフォン、PHS、PDA等)を使用することができる。制御装置100として、コンピュータを使用する場合、操作部120には、例えばコンピュータ用のキーボード又はマウスを使用することができる。
【0107】
制御装置100として、携帯端末装置を使用する場合、
図15に示すように構成することができる。
図15において、携帯端末装置230は、内部に
図1の制御装置100と同様の構成を備えている。信号処理部は任意であり、携帯端末装置230の内部に含まれていてもよい。携帯端末装置230の上面を構成するタッチパネルディスプレイの一部が操作領域232、234として使用される。振動部236、238は、タッチパネルディスプレイと一体に構成されている。
【0108】
ユーザが、指等で振動部236、238に触れた状態で、携帯端末装置230内部のCPUにより、第2の実施の形態と同様に
図13に示したプログラムが実行され、振動部236、238には、信号生成部により生成された真の測定用信号及びダミー信号が入力される。ユーザは、上記したように、振動部236、238の一方の振動状態の変化を知覚したときに、操作領域232、234のうち、対応する領域にタッチする。これによって、第2の実施の形態と同様に、ユーザの恣意性を排除して、触覚刺激の知覚閾値を測定することができる。
【0109】
また、制御装置100として、携帯端末装置を使用する場合、
図16に示すように構成することもできる。
図16において、携帯端末装置250は、内部に
図1の制御装置100と同様の構成を備えている。信号処理部は任意であり、携帯端末装置250の内部に含まれていてもよい。携帯端末装置250の上面を構成するタッチパネルディスプレイの全面には、多数の振動子260が配置されている。
図15と同様に、タッチパネルディスプレイの一部が操作領域252、254として使用される。
【0110】
ユーザが、指等で振動領域256、258に触れた状態で、携帯端末装置230内部のCPUにより、第2の実施の形態と同様に
図13に示したプログラムが実行され、振動領域256、258に配置された振動子260は、信号生成部により生成された真の測定用信号及びダミー信号が入力される。ユーザは、上記したように、振動領域256、258の一方の振動状態の変化を知覚したときに、操作領域252、254のうち、対応する領域にタッチする。これによって、第2の実施の形態と同様に、ユーザの恣意性を排除して、触覚刺激の知覚閾値を測定することができる。
【実施例1】
【0111】
以下に実験結果を示し、本発明の触覚刺激の知覚閾値が、疲労指標として有効であることを示す。
【0112】
被験者に、第1日目の午後2時から第2日目(翌日)の午前8時まで、連続して終夜のデスクワークを行なってもらう疲労負荷実験を行なった。疲労負荷の間、被験者は3時間毎に疲労状態の計測を行なった。被験者は、翌朝の午前8時の計測の後、午前9時から午後1時まで約4時間の仮眠をとり、その後、再度疲労計測を行なった。
【0113】
疲労計測は、同じ被験者について、4種類の方法で行なった。即ち、本発明による触覚刺激の知覚閾値の測定、従来技術として上記したフリッカー値計測、問診票によるVisual Analog Scale(以下、VASという)、及び「自覚症状しらべ」を用い疲労計測を行なった。
【0114】
VASは、日本疲労学会が提唱する公知の疲労評価方法である。紙に印刷した10cmの線の、左端を「疲れを全く感じない最良の感覚」、右端を「何もできないほど疲れきった最悪の間隔」と規定し、自身の感覚がその両端の間でどのぐらいの場所に位置するかを、主観的にバツ印を記入する形で決定してもらう主観的評価法である。
【0115】
自覚症状しらべも、公知の主観的指標の一つである。これは、現厚生労働省管轄の労働衛生研究所が約20年前に発表した、疲労過程で発生する身体の自覚症状25項目に着目し、1項目毎5段階評価で、その状況を評価し、全項目の積算点を疲労の指標とするものである。例えば、「目がしょぼつく」、「肩がこる」、「足がだるい」、などの項目を、「非常によくあてはまる:5点」から「まったくあてはまらない:1点」までの5段階評価で、評価する主観的評価法である。
【0116】
本発明による触覚刺激の知覚閾値の測定に使用した装置は、
図1と同様に構成した。振動部118には小型スピーカ(4Ω、0.5W)を用いた。
図17に示すように、スピーカ130からコーン(破線で示す)を取り除き、音の発生を阻害した。振動子を構成する、磁石部132の上方に配置されたボイスコイル部134に振動棒136を取付けた。振動棒136には、長さが5cm、断面形状が1辺3mmの正方形のアクリル棒を使用した。
【0117】
測定時に被験者が手を支持できるようにするため及び防音のために、スピーカ130の周りに、スピーカ130に接触させてブロック140を配置した。ブロック140の高さは、振動棒136の先端とほぼ同じ高さである。
【0118】
制御装置にはコンピュータを使用した。信号処理部には、アッテネータ(減衰器)及びアンプ(増幅器)を使用した。コンピュータで音帯域の信号を生成し、外部のアッテネータに入力して、信号強度を調整した。調整後の信号をアンプに入力して増幅した後、スピーカ130に入力し、振動棒134を振動させた。
【0119】
被験者が、指を振動棒136の先端部に、振動棒136に力をかけないように軽く接触させ、指の上に片持ちの形で24gのウエイトをかけた状態で、測定を実行した。測定中、振動以外の情報が聴覚によりもたらされることを防ぐため、被験者にはヘッドホンを装着してもらい、ヘッドホンから60dBSLのホワイトノイズを供給し、聴覚による影響を排除した。
【0120】
上記した第1〜第4パルスシーケンスは、複数のパラメータを含んでいるので、一部のパラメータを固定することにより、種々のパルスシーケンスを実現することができる。振動の強度A0は、20dBSLとした。各条件で5回計測し、最大値及び最小値を除いた3つの測定値の平均値を知覚閾値とした。
【0121】
触覚刺激の知覚閾値の測定値をプロットしたグラフを
図18及び
図19に示す。プロット図形と、測定に使用したパルスシーケンスの関係は、次の通りである。
【0122】
図18のプロット図形◆は、
図4(第1シーケンス)において、T0=1(sec)、T1=100(msec)、各パラメータ値での測定時間Tm=1(sec)(繰返し回数N=1)としたシーケンスでの測定値を表す。この固定条件を第1固定条件という。
・
図18の(a)の◆
第1固定条件に加えて、A1=100(%)とし、T2を1msec刻みで、1msec〜30msecの範囲で変化させた(
図5の時間変化2刺激シーケンス)。
・
図18の(b)の◆
第1固定条件に加えて、T2=30(msec)とし、A1を1%刻みで、1%〜30%の範囲で変化させた(強度変化2刺激シーケンス)。
・
図18の(c)の◆
第1固定条件で、A1(%)及びT2(msec)を、(1,1)〜(30,30)の範囲で変化させた(時間及び強度変化2刺激シーケンス)。
【0123】
図18のプロット図形■は、
図11(第4シーケンス)において、T0=1(sec)、T1=100(msec)、各パラメータ値での測定時間Tm=1(sec)(繰返し回数N=1)、A2=50(%)とした第2中間刺激シーケンスでの測定値を表す。この固定条件を第2固定条件という。
・
図18の(a)の■
第2固定条件に加えて、A1=100(%)とし、T2を1msec刻みで、1msec〜30msecの範囲で変化させた。
・
図18の(b)の■
第2固定条件に加えて、T2=30(msec)とし、A1を1%刻みで、1%〜30%の範囲で変化させた。
・
図18の(c)の■
第2固定条件で、A1(%)及びT2(msec)を、(1,1)〜(30,30)の範囲で変化させた。
【0124】
図18のプロット図形△は、
図11(第4シーケンス)において、T0=1(sec)、T1=100(msec)、各パラメータ値での測定時間Tm=1(sec)(繰返し回数N=1)、A2=10(%)とした第1中間刺激シーケンスでの測定値を表す。この固定条件を第3固定条件という。
・
図18の(a)の△
第3固定条件に加えて、A1=100(%)とし、T2を1msec刻みで、1msec〜30msecの範囲で変化させた。
・
図18の(b)の△
第3固定条件に加えて、T2=30(msec)とし、A1を1%刻みで、1%〜30%の範囲で変化させた。
・
図18の(c)の△
第3固定条件で、A1(%)及びT2(msec)を、(1,1)〜(30,30)の範囲で変化させた。
【0125】
図18のプロット図形×は、
図7(第2シーケンス)において、T0=1(sec)、T1=100(msec)、各パラメータ値での測定時間Tm=1(sec)(繰返し回数N=1)としたシーケンスでの測定値を表す。この固定条件を第4固定条件という。
・
図18の(a)の×
第4固定条件に加えて、A1=100(%)とし、T2を1msec刻みで、1msec〜30msecの範囲で変化させた(
図8の時間変化欠落シーケンス)。
・
図18の(b)の×
第4固定条件に加えて、T2=30(msec)とし、A1を1%刻みで、1%〜30%の範囲で変化させた(強度変化欠落シーケンス)。
・
図18の(c)の×
第4固定条件で、A1(%)及びT2(msec)を、(1,1)〜(30,30)の範囲で変化させた(時間及び強度変化欠落シーケンス)。
【0126】
図19のプロット図形◆は、
図18の◆と同じ条件である。
【0127】
図19のプロット図形■は、
図11(第4シーケンス)において、T0=0.5(sec)、T1=100(msec)、各パラメータ値での測定時間Tm=1(sec)(繰返し回数N=1)、A2=100(%)とした第3中間刺激シーケンスでの測定値を表す。この固定条件を第5固定条件という。
・
図19の(a)の■
第5固定条件に加えて、A1=100(%)とし、T2を1msec刻みで、1msec〜30msecの範囲で変化させた。
・
図19の(b)の■
第5固定条件に加えて、T2=30(msec)とし、A1を1%刻みで、1%〜30%の範囲で変化させた。
・
図19の(c)の■
第5固定条件で、A1(%)及びT2(msec)を、(1,1)〜(30,30)の範囲で変化させた。
【0128】
図19のプロット図形△は、
図9(第3シーケンス)において、T1=100(msec)、各パラメータ値での測定時間Tm=1(sec)としたシーケンスでの測定値を表す。この固定条件を第6固定条件という。
・
図19の(a)の△
第6固定条件に加えて、A1=100(%)とし、T2を1msec刻みで、1msec〜30msecの範囲で変化させた(時間変化連続シーケンスA)。
・
図19の(b)の△
第6固定条件に加えて、T2=30(msec)とし、A1を1%刻みで、1%〜30%の範囲で変化させた(強度変化連続シーケンスA)。
・
図19の(c)の△
第6固定条件で、A1(%)及びT2(msec)を、(1,1)〜(30,30)の範囲で変化させた(時間及び強度変化連続シーケンスA)。
【0129】
図19のプロット図形×は、
図9(第3シーケンス)において、T1=T2、各パラメータ値での測定時間Tm=1(sec)としたシーケンスでの測定値を表す。この固定条件を第7固定条件という。
・
図19の(a)の×
第7固定条件に加えて、A1=100(%)とし、T2(=T1)を1msec刻みで、1msec〜30msecの範囲で変化させた(時間変化連続シーケンスB)。
・
図19の(b)の×
第7固定条件に加えて、T2(=T1)=30(msec)とし、A1を1%刻みで、1%〜30%の範囲で変化させた(強度変化連続シーケンスB)。
・
図19の(c)の×
第7固定条件で、A1(%)及びT2(=T1)(msec)を、(1,1)〜(30,30)の範囲で変化させた(時間及び強度変化連続シーケンスB)。
【0130】
図18及び
図19から、12条件(12のパルシーケンス)全てにおいて、疲労負荷と共に閾値が増加する傾向、及び、仮眠に伴う休息により減少する傾向が確認できる。このことは疲労負荷に伴い閾値が増大し、休息に伴い閾値が減少することを意味し、12条件での触覚刺激の提示において、これらの条件で疲労計測が可能であることが確認された。
【0131】
また、
図18から、外部刺激条件によって知覚閾値の変化の仕方に差異があることが確認される。ここで、「外部」とは、パルスシーケンスにおいて、2つの刺激として知覚されるか否かの判定の対象である刺激以外の部分を意味し、具体的には、
図11のパルスシーケンスにおける時間T3の期間である。「外部刺激条件」とは、
図11のパルスシーケンスにおける時間T3の期間における信号レベル(A0−A2)を意味する。時間、強度、又は、時間及び強度を変化させて測定した知覚閾値は、ほとんどの場合、プロット図形◆(
図11においてA0−A2=0%)及びプロット図形■(
図11においてA0−A2=50%)の知覚閾値よりも、プロット図形△(
図11においてA0−A2=90%)及びプロット図形×(
図11においてA0−A2=100%)の知覚閾値の方が大きな値を示す。したがって、外部刺激条件を調節することにより、必要に応じて閾値の変化のダイナミックレンジをコントロールすることができる。
【0132】
また、
図19から、刺激頻度条件に関しても、その条件によって知覚閾値の変化の仕方に差異があることが確認され、外部刺激条件を調節することにより、必要に応じて閾値の変化のダイナミックレンジをコントロールすることができる。
【0133】
図20に、フリッカー値計測、VAS、自覚症状しらべの結果を示す。これらは、確立された疲労指標であり、それら値が変化している事実をもって、実験被験者の疲労が増加更新していることが確認された。即ち、フリッカー値計測、VAS、及び自覚症状しらべの値は、連続する徹夜のデスクワークとともに、単調に減少又は単調に増加し、仮眠とともに、それまでの変化方向とは逆方向に値が変化することが確認された。
【0134】
図18及び
図19に示した触覚刺激の知覚閾値のグラフも、
図20のグラフと同様の変化をしている。このように、従来の疲労指標と同様に変化する性質を有していることから、本発明の触覚刺激の知覚閾値の測定方法は、疲労計測手法として有効であることが確認された。
【0135】
知覚閾値の変化と、疲労指標であるフリッカー値、VAS、及び自覚症状しらべの値の変化との間の関係を調べるために、全ての組合せで回帰分析を行なった。
【0136】
回帰分析の結果、自覚症状しらべと、刺激外部領域の強度変化条件の中間条件(50%変化条件)(
図18のプロット図形■)との組合せ、及び、自覚症状しらべと、刺激提示頻度の変化の中間条件で1秒あたり2刺激を提示して間隔及び強度を変化させた場合(
図19のプロット図形■)との組合せの2例を除く、全ての組合せでP値が0.05以下となった。このことから、触覚刺激の知覚閾値の変化は、3つの疲労指標(フリッカー値、VAS、及び自覚症状しらべ)の何れとも有意な相関関係を示すことが分かった。
【0137】
一例として、
図21及び
図22に、上記した疲労負荷実験中の第1回〜第8回の測定において、同じ測定時刻に測定した触覚刺激の知覚閾値とフリッカー値とをプロットし、回帰直線を描画したグラフを示す。
図21の(a)〜(c)はそれぞれ、
図18の(a)〜(c)に示した知覚閾値と
図20に示したフリッカー値との相関を示す。
図21の(a)と
図18の(a)とにおいて、同じプロット図形は、同じ測定値を表す。
図21の(b)及び
図18の(b)のプロット図形、並びに、
図21の(c)及び
図18の(c)のプロット図形に関しても同様である。
図22の(a)〜(c)はそれぞれ、
図19の(a)〜(c)に示した知覚閾値と
図20に示したフリッカー値との相関を示す。
図22の(a)と
図19の(a)とにおいて、同じプロット図形は、同じ測定値を表す。
図22の(b)及び
図19の(b)のプロット図形、並びに、
図22の(c)及び
図19の(c)のプロット図形に関しても同様である。
【0138】
図21及び
図22からも、触覚刺激の知覚閾値の変化は、フリッカー値と有意な相関関係を示すことが分かる。
【0139】
刺激提示環境(上記の「外部刺激条件」に対応)の、触覚閾値の計測値への影響(疲労感度)に関して検討を行なった。具体的には、触覚閾値と、疲労指標のフリッカー値、VAS値、及び自覚症状しらべの値(スコア)との関連を回帰分析で分析した。その結果、2例(自覚症状しらべの値と、刺激外部領域の強度変化条件の中間条件(50%変化条件)、及び、刺激提示頻度の変化の中間条件で1秒あたり2刺激提示条件において、間隔及び強度の双方を変化させた場合との回帰分析)以外の、全ての触覚閾値の測定条件で、有意(p<0.05)に相関関係があることが確認された。なお、刺激外部領域の強度変化条件の中間条件(50%変化条件)において、間隔及び強度の双方を変化させた場合とは、
図18(c)のプロット図形■を取得したときの条件である。また、刺激提示頻度の変化の中間条件で1秒あたり2刺激提示条件において、間隔及び強度の双方を変化させた場合とは、
図19(c)のプロット図形■を取得したときの条件である。
【0140】
また、疲労指標(フリッカー値、VAS値、及び自覚症状しらべの値)に対する触覚閾値の変化の角度が刺激提示環境(外部刺激条件)によって変化することが観察された。外部刺激条件(以下、外部刺激環境ともいう)の触覚閾値への影響を検討するために、疲労指標に対する触覚閾値の変化の角度に対する外部刺激環境の影響に関して検討を行なった。それぞれの測定結果の触覚閾値は、刺激間隔時間(msec)、刺激間隔強度(%)、刺激間隔時間(msec)+刺激間隔強度(%)、と単位が異なっているため、相互の比較を行なうために、2刺激条件をコントロール条件(基準条件)として相対比較を行ない、外部刺激環境の変化に伴い、触覚閾値の変化率がどのように変化するかに関して検討を行なった。具体的には、外部刺激環境として、刺激外部領域強度変化(0%(2刺激提示)(
図18のプロット図形◆に対応)、50%(
図18のプロット図形■に対応)、90%(
図18のプロット図形△に対応)、100%(
図18のプロット図形×に対応))、及び、刺激提示頻度変化(1回/秒(2刺激提示)(
図19のプロット図形◆に対応)、2回/秒(
図19のプロット図形■に対応)、連続刺激A(刺激100msec)(
図19のプロット図形△に対応)、連続刺激B(刺激と間隔とを均一に変化)(
図18のプロット図形×に対応))を採用した。そして、それらの、疲労指標のフリッカー値、VAS値、及び自覚症状しらべの値に対する変化率(角度)がどのように変化するかに関して、2刺激条件をコントロール条件(基準条件)として相対比較を行なった。
【0141】
F値(自由度が3及び11)は、フリッカー値に対して、外部刺激環境が刺激外部領域強度変化である場合、F(3/11)=24.04(p=0.001に対応する値)、外部刺激環境が刺激提示頻度変化である場合、F(3/11)=6.54(p=0.025に対応する値)であった。したがって、外部刺激環境の変化に伴い、フリッカー値に対する触覚閾値の変化、即ち、疲労に対する触覚閾値の感度が有意に変化することが明らかになった。同様に、VAS値に対して、外部刺激環境が刺激外部領域強度変化である場合、F(3/11)=24.08(p=0.001)、外部刺激環境が刺激提示頻度変化である場合、F(3/11)=6.54(p=0.022)であり、自覚症状しらべ値に対して、外部刺激環境が刺激外部領域強度変化である場合、F(3/11)=16.05(p=0.003)、外部刺激環境が刺激提示頻度変化である場合、F(3/11)=6.76(p=0.024)であった。したがって、外部刺激環境の変化に伴い、VAS値、及び自覚症状しらべの値に対する触覚閾値の変化、即ち、疲労に対する触覚閾値の感度が有意に変化することが明らかになった。
【0142】
以上のように、外部刺激環境の変化によって、触覚閾値の疲労への感度が有意に変化することが明らかになった。したがって、外部刺激環境を制御することにより、適正な感度領域での触覚閾値を用いた疲労計測が可能となることが明らかになった。
【0143】
図23の(a)及び(b)はそれぞれ、フリッカー値に対する刺激外部領域強度変化及び刺激提示頻度変化の相対変化率をプロットした図である。
図23において、「*」は、相互間のp値がp<0.05であることを表す。同様に、「**」は、相互間のp値がp<0.01であることを表し、「***」は、相互のp値がp<0.001であることを表す。
【0144】
上記のように、触覚閾値の測定条件の全てに関して、回帰分析の結果、触覚閾値とフリッカー値との間に有意(p<0.05)な相関関係が確認された。それらの相関関係を前提として、フリッカー値の測定値と、触覚閾値との関係式を求めた。即ち、外部刺激環境として刺激外部領域強度変化(0%(2刺激提示)、50%、90%、及び100%)、並びに、刺激提示頻度変化(1回/秒(2刺激提示)、2回/秒、連続刺激A(刺激100msec)、連続刺激B(刺激と間隔とを均一に変化))に関して、それぞれの回帰直線を求め、それを用いて触覚閾値とフリッカー値との相互変換式を求めた。
【0145】
外部刺激環境が刺激外部領域強度変化である場合、フリッカー値(msec単位の周期)をX、触覚閾値である刺激間隔時間(msec)をYとして、各測定条件に関して、次のような式が得られた。
0%の条件:Y=−1.42X+61.13
50%の条件:Y=−1.34X+59.32
90%の条件:Y=−1.77X+81.78
100%の条件:Y=−2.74X+119.20
【0146】
図24に、各外部刺激環境に関して求めた、触覚閾値とフリッカー値との相互変換式の係数α及びβを示す。変換式は、Y=αX+βである。
【0147】
フリッカー値による疲労度の評価法として、疲労していない状態で計測したフリッカー値を基準値として、疲労状態で計測したフリッカー値が基準値に対して何パーセント減少したかにより、疲労状態の評価を行なう評価法が知られている。フリッカー値が基準値に対して5%減少すると、健常状態の刺激に対する反射反応の反応速度が15%減少することが報告されている。また、フリッカー値が基準値に対して10%減少すると、1の位の足し算を行なうクリペリンテストの成績が極端に減少し始めることが報告されている。上記の関係式を使用すると、触覚閾値の変動によっても、フリッカー値に対応した生体の変化の状態を類推することができる。例えば、フリッカー値の基準値からの5%減少に対応する触覚閾値の増加率を算出すれば、その値と触覚閾値の測定値とを用いて、健常状態の刺激に対する反射反応の反応速度が15%減少する状態を判定することができる。同様に、フリッカー値の基準値からの10%減少に対応する触覚閾値の増加率を算出すれば、1の位の足し算を行なうクリペリンテストの成績が極端に減少し始める状態を判定することができる。