特許第6376818号(P6376818)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6376818セラミック成形用バインダー組成物及びこれを用いたセラミックグリーンシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376818
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】セラミック成形用バインダー組成物及びこれを用いたセラミックグリーンシート
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/632 20060101AFI20180813BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20180813BHJP
   C08F 220/12 20060101ALI20180813BHJP
   C09J 133/08 20060101ALI20180813BHJP
   C09J 133/10 20060101ALI20180813BHJP
   C09J 133/02 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   C04B35/632
   C08L33/06
   C08F220/12
   C09J133/08
   C09J133/10
   C09J133/02
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-83140(P2014-83140)
(22)【出願日】2014年4月14日
(65)【公開番号】特開2015-202987(P2015-202987A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】芝田 敦司
(72)【発明者】
【氏名】狩野 肇
【審査官】 原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−095572(JP,A)
【文献】 特開2004−161901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を全構成単位に対して50質量%以上含み、重量平均分子量が100,000以上であり、ガラス転移温度が0℃以上である(メタ)アクリル系ポリマーAと、
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を全構成単位に対して50質量%以上含み、重量平均分子量が1,000〜30,000である(メタ)アクリル系オリゴマーBと、
を含み、前記(メタ)アクリル系ポリマーAのガラス転移温度が、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBのガラス転移温度より高く、かつ、前記(メタ)アクリル系ポリマーAのガラス転移温度と前記(メタ)アクリル系オリゴマーBのガラス転移温度との差が、4.4℃〜30℃であり、
前記(メタ)アクリル系オリゴマーBに対する前記(メタ)アクリル系ポリマーAの含有比率が、質量基準で95/5〜50/50であり、
前記(メタ)アクリル系ポリマーA及び前記(メタ)アクリル系オリゴマーBの少なくとも一方は、さらに、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位を含み、前記(メタ)アクリル系ポリマーAが2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位を含む場合には、前記(メタ)アクリル系ポリマーAにおける2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位の含有比率は、前記(メタ)アクリル系ポリマーAの全質量に対して0.1質量%〜25質量%であり、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBが2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位を含む場合には、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBにおける2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位の含有比率は、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBの全質量に対して0.1質量%〜25質量%である、セラミック成形用バインダー組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を全構成単位に対して50質量%以上含み、重量平均分子量が100,000以上であり、ガラス転移温度が0℃以上である(メタ)アクリル系ポリマーAと、
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を全構成単位に対して50質量%以上含み、重量平均分子量が1,000〜30,000である(メタ)アクリル系オリゴマーBと、
セラミック粉末とを含有し、
前記(メタ)アクリル系ポリマーAのガラス転移温度が、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBのガラス転移温度より高く、かつ、前記(メタ)アクリル系ポリマーAのガラス転移温度と前記(メタ)アクリル系オリゴマーBのガラス転移温度との差が、4.4℃〜30℃であり、
前記(メタ)アクリル系オリゴマーBに対する前記(メタ)アクリル系ポリマーAの含有比率が、質量基準で95/5〜50/50であり、
前記(メタ)アクリル系ポリマーA及び前記(メタ)アクリル系オリゴマーBの少なくとも一方は、さらに、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位を含み、前記(メタ)アクリル系ポリマーAが2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位を含む場合には、前記(メタ)アクリル系ポリマーAにおける2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位の含有比率は、前記(メタ)アクリル系ポリマーAの全質量に対して0.1質量%〜25質量%であり、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBが2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位を含む場合には、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBにおける2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位の含有比率は、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBの全質量に対して0.1質量%〜25質量%である、セラミックグリーンシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック成形用バインダー組成物及びこれを用いたセラミックグリーンシートに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック基板は、一般的に、グリーンシートを焼成して製造している。グリーンシートは、通常セラミック粒子とバインダーから構成され、バインダーとしてブチラール樹脂やアクリル系樹脂などが使用されている。アクリル系樹脂のバインダーとして、例えば特許文献1では、重量平均分子量が5万〜50万であり、ガラス転移温度が−70〜30℃である(メタ)アクリル系ポリマーと、重量平均分子量500〜10000であり、ガラス転移温度−70〜30℃の(メタ)アクリル系オリゴマーとを含有する樹脂組成物が、グリーンシートの可とう性と凝集力に優れるとしている。
【0003】
グリーンシートを焼成してセラミック基板を製造する場合において、焼成中のグリーンシートに、収縮応力が生じる。その結果、製造したセラミック基板に反りが生じてしまう。
グリーンシート焼成時に生じるセラミック基板の反りを抑制するための手段として、バインダーにブチラール樹脂を用いた場合には、バインダーに可塑剤を添加する技術が提案されており、一方、バインダーにアクリル樹脂を用いた場合には、アクリル樹脂中の酸の量を制御する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−29635号公報
【特許文献2】特開2010−126381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グリーンシートのバインダーとしてブチラール樹脂を用いた場合、グリーンシートは、強度、寸法安定性、焼成時に生じるセラミック基板の反りの抑制に優れているが、焼成後に組成物中に炭素が残ってしまう、いわゆる「残炭」が生じ、セラミック基板としたときの導電性に影響を与えてしまうため、焼成性が十分ではない。
【0006】
一方、グリーンシートのバインダーとしてアクリル系樹脂を用いた場合、焼成性に優れるものの、焼成時に生じるセラミック基板の反りの抑制が十分ではない。
【0007】
上記の通り、ブチラール樹脂では焼成性が十分ではなく、アクリル系樹脂では強度と反りの抑制が十分ではない。そのため、焼成性が良く、強度と反りの抑制を両立したグリーンシートが求められている。
【0008】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。本発明は、焼成性に優れ、グリーンシートとしたときにグリーンシートの強度が高く、焼成時に生じるセラミック基板の反りが低減されるセラミック成形用バインダー組成物、及びそれを用いたセラミックグリーンシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(メタ)アクリル系ポリマーAのガラス転移温度(Tg)を0℃以上とすることで、バインダー樹脂が十分に硬くなり、グリーンシートに十分な強度を与える。さらに(メタ)アクリル系のポリマーAよりTgの低い(メタ)アクリル系のオリゴマーBを含むことで、バインダー樹脂が部分的に柔らかくなり、焼成時に発生する応力が緩和され、焼成時に生じるセラミック基板の反りを抑制することができるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
したがって、本発明のセラミック成形用バインダー組成物は、グリーンシートの強度が十分に高く、焼成時に生じるセラミック基板の反りを十分に抑制できる。
また、本発明は、バインダー樹脂として(メタ)アクリル系樹脂を用いるため、焼成性に優れる。
【0010】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
【0011】
<1> (メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を全構成単位に対して50質量%以上含み、重量平均分子量が100,000以上であり、ガラス転移温度が0℃以上である(メタ)アクリル系ポリマーAと、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を全構成単位に対して50質量%以上含み、重量平均分子量が1,000〜30,000である(メタ)アクリル系オリゴマーBと、を含み、前記(メタ)アクリル系ポリマーAのガラス転移温度が、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBのガラス転移温度より高く、かつ、前記(メタ)アクリル系ポリマーAのガラス転移温度と前記(メタ)アクリル系オリゴマーBのガラス転移温度との差が、4.4℃〜30℃であり、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBに対する前記(メタ)アクリル系ポリマーAの含有比率が、質量基準で95/5〜50/50であり、前記(メタ)アクリル系ポリマーA及び前記(メタ)アクリル系オリゴマーBの少なくとも一方は、さらに、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位を含み、前記(メタ)アクリル系ポリマーAが2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位を含む場合には、前記(メタ)アクリル系ポリマーAにおける2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位の含有比率は、前記(メタ)アクリル系ポリマーAの全質量に対して0.1質量%〜25質量%であり、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBが2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位を含む場合には、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBにおける2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位の含有比率は、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBの全質量に対して0.1質量%〜25質量%である、セラミック成形用バインダー組成物。
【0013】
> (メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を全構成単位に対して50質量%以上含み、重量平均分子量が100,000以上であり、ガラス転移温度が0℃以上である(メタ)アクリル系ポリマーAと、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を全構成単位に対して50質量%以上含み、重量平均分子量が1,000〜30,000である(メタ)アクリル系オリゴマーBと、セラミック粉末とを含有し、前記(メタ)アクリル系ポリマーAのガラス転移温度が、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBのガラス転移温度より高く、かつ、前記(メタ)アクリル系ポリマーAのガラス転移温度と前記(メタ)アクリル系オリゴマーBのガラス転移温度との差が、4.4℃〜30℃であり、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBに対する前記(メタ)アクリル系ポリマーAの含有比率が、質量基準で95/5〜50/50であり、前記(メタ)アクリル系ポリマーA及び前記(メタ)アクリル系オリゴマーBの少なくとも一方は、さらに、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位を含み、前記(メタ)アクリル系ポリマーAが2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位を含む場合には、前記(メタ)アクリル系ポリマーAにおける2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位の含有比率は、前記(メタ)アクリル系ポリマーAの全質量に対して0.1質量%〜25質量%であり、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBが2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位を含む場合には、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBにおける2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸に由来の構成単位の含有比率は、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBの全質量に対して0.1質量%〜25質量%である、セラミックグリーンシート。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、焼成性に優れ、グリーンシートとしたときのグリーンシートの強度が高く、焼成時に生じるセラミック基板の反りが低減されるセラミック成形用バインダー組成物、及びそれを用いたセラミックグリーンシートが提供される。
【0015】
本発明のセラミック成形用バインダー組成物及びセラミックグリーンシートは、特に、チップ抵抗器用基板、発光素子搭載用基板などのセラミック単層基板の作製に適している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明におけるセラミック成形用バインダー組成物、及びこれを用いたセラミックグリーンシートについて詳細に説明する。
本明細書中の「〜」の表記は、これを含めて示される数値範囲が、その下限値及び上限値の双方を含む範囲を表すものである。
また、本明細書において、「(メタ)アクリル」の語は、「アクリル」及び「メタクリル」の双方を包含する意味で用いるものである。
また、セラミック成形用バインダー組成物中の(メタ)アクリル系ポリマーA及び(メタ)アクリル系オリゴマーBを含む樹脂成分を、総じて「バインダー樹脂」ともいう。
また、本明細書において「ポリマー」とは、重量平均分子量が100,000以上の共重合体又は単独重合体又はその双方を包含する意味で用いるものである。
また、本明細書において「オリゴマー」とは、重量平均分子量が1,000〜30,000の共重合体又は単独重合体又はその双方を包含する意味で用いるものである。
【0017】
<セラミック成形用バインダー組成物>
本発明におけるセラミック成形用バインダー組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、重量平均分子量(Mw)が100,000以上であり、ガラス転移温度(Tg)が0℃以上である(メタ)アクリル系ポリマーAと、重量平均分子量が1,000〜30,000である(メタ)アクリル系オリゴマーBと、を含む。前記セラミック成形用バインダー組成物に含まれる前記ポリマーAのガラス転移温度は、前記オリゴマーBのガラス転移温度より高い。
【0018】
本発明におけるセラミック成形用バインダー組成物は、必要に応じて、さらに、溶剤や水、各種添加剤などを用いて構成することができる。
【0019】
本発明におけるセラミック成形用バインダー組成物を、(メタ)アクリル系樹脂で構成することで、残渣(残炭)が少なく、焼成性に優れるものとすることができる。また、(メタ)アクリル系ポリマーAのガラス転移温度(Tg)を0℃以上とすることで、バインダー樹脂が十分に硬くなり、グリーンシートに十分な強度を与える。また、(メタ)アクリル系ポリマーAよりも低分子量でTgの低い(メタ)アクリル系オリゴマーBを含むことで、グリーンシート焼成時に生じるセラミック基板の反りを低減することができる。
【0020】
−(メタ)アクリル系ポリマーA−
本発明におけるセラミック成形用バインダー組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、重量平均分子量(Mw)が100,000以上であり、ガラス転移温度(Tg)が0℃以上である(メタ)アクリル系ポリマーAの少なくとも一種を含有する。
【0021】
本発明における(メタ)アクリル系ポリマーAは、少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、好ましくはジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含む。(メタ)アクリル系ポリマーAは、必要に応じて、さらに他の構成単位を含むことができる。
より好ましくは、(メタ)アクリル系ポリマーAは、(メタ)アクリル系ポリマーAの全構成単位のうち50質量%以上を占める構成単位として(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、さらにジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含む。
【0022】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、及びステアリル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
中でも、ポリマーの重合度、セラミックグリーンシートの密度(生密度)を適切な範囲に制御し易い点で、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0023】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の含有比率は、(メタ)アクリル系ポリマーAの全質量に対して、60質量%以上が好ましく、75.0質量%〜99.5質量%がより好ましく、90.0質量%〜99.5質量%が特に好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、その含有比率が前記範囲内であると、焼成性を良好に保持することができる点で有利である。
【0024】
(メタ)アクリル系ポリマーAは、ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含むことが好ましい。ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含むことで、セラミック粉末と混合した場合に、セラミック粉末の分散性が向上し、セラミック粉末とバインダー樹脂とが分離してセラミック粉末が偏在するのを防ぐことができる。これにより、良好な強度を得やすく、寸法安定性により優れたものとなる。
【0025】
ジカルボン酸アルキルエステル単量体としては、炭素数1〜4のアルキル基及び不飽和二重結合を有するジカルボン酸アルキルエステルが好ましく、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸などのコハク酸の(メタ)アクリロイルオキシ置換アルキルエステル、2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸などのマレイン酸の(メタ)アクリロイルオキシ置換アルキルエステル、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸や2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸などのフタル酸の(メタ)アクリロイルオキシ置換アルキルエステル、等が挙げられる。
【0026】
ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の含有比率は、(メタ)アクリル系ポリマーAの全質量に対して、0.1質量%〜25質量%が好ましく、0.5質量%〜5.0質量%がより好ましい。
ジカルボン酸アルキルエステル単量体の含有比率が0.1質量%以上であることで、セラミック粉末と混合した場合の分散性向上効果に優れる。また、ジカルボン酸アルキルエステル単量体の含有比率が25質量%以下であることで、焼成性を良好に保持することができる。
【0027】
(メタ)アクリル系ポリマーAは、本発明の効果を損なわない範囲において、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位及びジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位のほか、必要に応じて、(メタ)アクリル酸等の酸モノマーなどの他の単量体に由来の構成単位を含んでもよい。
【0028】
(メタ)アクリル系ポリマーAの重量平均分子量(Mw)は、100,000(10万)以上である。(メタ)アクリル系ポリマーAのMwが10万未満と小さくなり過ぎると、凝集力が低くなりグリーンシートの密度(生密度)が低下しやすくなる。生密度の観点から、(メタ)アクリル系ポリマーのMwは、より好ましくは250,000以上である。また、(メタ)アクリル系ポリマーAのMwは、1,000,000以下が好ましい。(メタ)アクリル系ポリマーAのMwが100万を超えると、グリーンシートにボイドやゲル物が発生し、セラミック電子部品におけるショート不良や静電容量のばらつきといった製造不良を引き起こすおそれがある。このような製造不良を防止する観点から、(メタ)アクリル系ポリマーのMwは、より好ましくは800,000以下であり、さらに好ましくは500,000以下である。
【0029】
(メタ)アクリル系ポリマーAの重量平均分子量(Mw)は、反応温度、時間、溶剤量、触媒の種類や量を調整することにより、所望の分子量に調整することができる。
なお、Mwの測定法については、後述する。
【0030】
(メタ)アクリル系ポリマーAのガラス転移温度(Tg)は、0℃以上である。(メタ)アクリル系ポリマーAのTgが0℃未満であると、グリーンシートとしたときの強度が劣る。(メタ)アクリル系ポリマーAのTgは、グリーンシートの硬さを保つ観点と、加工しやすさの観点から、0℃〜50℃が好ましく、5℃〜30℃がより好ましい。
【0031】
(メタ)アクリル系ポリマーAのTgは、後述する(メタ)アクリル系オリゴマーBのTgより高い。(メタ)アクリル系ポリマーAのTgと、(メタ)アクリル系オリゴマーBのTgの差は5℃〜30℃が好ましく、5℃〜20℃がより好ましい。
なお、Tgの測定方法については、後述する。
【0032】
本発明における(メタ)アクリル系ポリマーAの重合方法は、特に制限されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などの方法を適用することができる。製造工程が比較的簡単で、かつ短時間で行なえることから、溶液重合が好ましい。
上記のうち、溶液重合は一般に、重合槽内に所定の有機溶媒、単量体、重合開始剤、及び、必要に応じて用いられる連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中又は有機溶媒の還流下で、撹拌しながら数時間加熱反応させる。前記重合開始剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、過酸化物、アゾ系化合物を用いることができる。
【0033】
−(メタ)アクリル系オリゴマーB−
本発明におけるセラミック成形用バインダー組成物は、(メタ)アクリル系単量体に由来の構成単位を含み、Mwが1,000〜30,000であって、かつTgが前記(メタ)アクリル系ポリマーAのTgより低い、(メタ)アクリル系オリゴマーBの少なくとも一種を含有する。
【0034】
本発明における(メタ)アクリル系オリゴマーBは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含むことが好ましい。より好ましくは、(メタ)アクリル系オリゴマーBの全質量中に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を、50質量%以上含む。また、(メタ)アクリル系オリゴマーBは、ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含むことが好ましい。
また、(メタ)アクリル系オリゴマーBは、必要に応じて、さらに他の構成単位を含むことができる。
【0035】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、及びステアリル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
中でも、オリゴマーの重合度、セラミックグリーンシートの密度(生密度)を適切な範囲に制御し易い点で、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0036】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の含有比率は、(メタ)アクリル系オリゴマーBの全質量に対して、60質量%以上が好ましく、75.0質量%〜99.9質量%がより好ましく、95.0質量%〜99.0質量%が特に好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の含有比率が前記範囲内であると、焼成性を良好に保持することができる点で有利である。
【0037】
(メタ)アクリル系オリゴマーBは、ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含んでいることが好ましい。ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含むことで、セラミック粉末と混合した場合に、セラミック粉末の分散性が向上し、セラミック粉末とバインダー樹脂とが分離してセラミック粉末が偏在するのを防ぐことができる。これにより、良好な強度を得やすく、寸法安定性により優れたものとなる。
【0038】
ジカルボン酸アルキルエステル単量体としては、炭素数1〜4のアルキル基及び不飽和二重結合を有するジカルボン酸アルキルエステルが好ましく、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸などのコハク酸の(メタ)アクリロイルオキシ置換アルキルエステル、2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸などのマレイン酸の(メタ)アクリロイルオキシ置換アルキルエステル、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸や2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸などのフタル酸の(メタ)アクリロイルオキシ置換アルキルエステル、等が挙げられる。
【0039】
ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の含有比率は、(メタ)アクリル系オリゴマーBの全質量に対して、0.1質量%〜25質量%が好ましく、0.5質量%〜5.0質量%がより好ましい。
ジカルボン酸アルキルエステル単量体の含有比率が0.1質量%以上であることで、セラミック粉末と混合した場合、セラミック粉末の分散性向上効果に優れる。また、ジカルボン酸アルキルエステル単量体の含有比率が25質量%以下であることで、焼成性を良好に保持することができる。
【0040】
本発明においては、セラミック成形用バインダー組成物を構成する(メタ)アクリル系ポリマーA及び(メタ)アクリル系オリゴマーBのうち、特に(メタ)アクリル系オリゴマーBが、ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含んでいる場合が好ましい。ジカルボン酸アルキルエステル単量体は、セラミック粉末の分散性を向上させるのに有用であり、(メタ)アクリル系オリゴマーBがジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含んでいることで、焼成性を悪化させることなく、セラミック粉末の分散性を向上させることができる。これにより、セラミック粉末と、セラミック成形用バインダー組成物とを混合したセラミックスラリー中において、セラミック粉末が偏在せずに分散した状態となり、結果、成形体としたときの強度や寸法安定性がより向上する。
(メタ)アクリル系オリゴマーBが、ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含んでいる場合、(メタ)アクリル系ポリマーAにおけるジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の含有比率は、ポリマー全質量に対して1.5質量%未満であることが好ましく、0質量%(含有しないこと)であることがより好ましい。
【0041】
(メタ)アクリル系オリゴマーBは、本発明の効果を損なわない範囲において、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位及びジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位のほか、必要に応じて、(メタ)アクリル酸等の酸モノマーなどの他の単量体に由来の構成単位を含んでもよい。
【0042】
(メタ)アクリル系オリゴマーBの重量平均分子量(Mw)は、1,000〜30,000であり、5,000〜30,000が好ましく、7,000〜25,000がより好ましい。(メタ)アクリル系オリゴマーBのMwが1,000未満と低分子になり過ぎると、強度や寸法安定性を保持することができない。逆に、(メタ)アクリル系オリゴマーBのMwが30,000を超えると、バインダー樹脂に部分的に柔らかさを与えることができないため、グリーンシート焼成時に生じる応力を十分に緩和できず、セラミック基板の反りを十分に抑制することができないため(メタ)アクリル系オリゴマーBを併用したことによる効果が得られない。
【0043】
(メタ)アクリル系オリゴマーBの重量平均分子量(Mw)は、反応温度、時間、溶剤量、触媒の種類や量を調整することにより、所望の分子量に調整することができる。
【0044】
本明細書において、(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、下記の方法により測定した値である。即ち、下記(1)〜(3)にしたがって測定する。
(1)(メタ)アクリル系共重合体溶液を剥離シート(離型シート)上に塗工し、100℃で2分間乾燥させ、フィルム状の(メタ)アクリル系共重合体を得る。
(2)前記(1)で得られたフィルム状の(メタ)アクリル系共重合体をテトラヒドロフランにて固形分0.2質量%になるように溶解させる。
(3)下記条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、標準ポリスチレン換算値として、(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)を測定する。
<条件>
・GPC:HLC−8220 GPC〔東ソー(株)製〕
・カラム:TSK−GEL GMHXL(4本使用)
・移動相溶媒:テトラヒドロフラン
・標準試料 :標準ポリスチレン
・流速 :0.6ml/min
・カラム温度:40℃
【0045】
(メタ)アクリル系オリゴマーBのガラス転移温度(Tg)は、前記(メタ)アクリル系ポリマーAのTgより低い。また、(メタ)アクリル系オリゴマーBのTgは、グリーンシート焼成時に生じるセラミック基板の反りの抑制の観点から0℃以下が好ましい。また、反りの抑制と、グリーンシートの強度を保つ観点から−30℃〜0℃がより好ましく、−15℃〜0℃がより好ましい。
【0046】
本明細書において、(メタ)アクリル系ポリマーA及び(メタ)アクリル系オリゴマーBのガラス転移温度(Tg)は、以下の計算により求められるモル平均ガラス転移温度である。下記式中のTg、Tg、・・・・・及びTgは、単量体1、単量体2、・・・・・及び単量体nそれぞれの単独重合体のガラス転移温度であり、絶対温度(゜K)に換算し算出される。m、m、・・・、及びmは、それぞれの単量体のモル分率である。
【0047】
[ガラス転移温度(Tg)の算出式]
【数1】

【0048】
なお、ここでいう「単独重合体のガラス転移温度(Tg)」は、示差走査熱量測定装置(DSC)(セイコーインスツルメンツ社製、EXSTAR6000)を用い、窒素気流中、測定試料10mmg、昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られたDSCカーブの変曲点を単独重合体のガラス転移温度(Tg)としたものである。
【0049】
代表的な単量体の「単独重合体のガラス転移温度(Tg)」は、メチルアクリレート5℃、メチルメタアクリレート103℃、エチルアクリレート−27℃、n−ブチルアクリレート−57℃、2−エチルヘキシルアクリレート−76℃、アクリル酸163℃、メタクリル酸185℃、t−ブチルアクリレート41℃、イソブチルメタクリレート48℃、コハク酸モノ(2−アクリロイルオキシエチル)−40℃である。
【0050】
本発明における(メタ)アクリル系オリゴマーBの重合方法は、特に制限されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などの方法を適用することができる。製造工程が比較的簡単で、かつ短時間で行なえることから、溶液重合が好ましい。
なお、溶液重合は一般に、重合槽内に所定の有機溶媒、単量体、重合開始剤、及び、必要に応じて用いられる連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中又は有機溶媒の還流下で、撹拌しながら数時間加熱反応させる。前記重合開始剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、過酸化物、アゾ系化合物を用いることができる。
【0051】
本発明のセラミック成形用バインダー組成物においては、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBに対する前記(メタ)アクリル系ポリマーAの含有比〔A/B〕は、質量基準で95/5〜50/50の範囲にあることが好ましい。A/B比が95/5を上回る、つまり(メタ)アクリル系ポリマーAの割合が大きくなり過ぎない範囲であると、強度と焼成時に生じるセラミック基板の反りの抑制をより良好なものとするのに有利である。また、A/B比が50/50を下回る、つまり(メタ)アクリル系オリゴマーBの比率が(メタ)アクリル系ポリマーAの比率と同等以下に抑えられていると、強度をより良好なものとするのに有利である。
A/B比としては、上記と同様の理由から、90/10〜60/40の範囲にあることがより好ましい。
【0052】
−他の成分−
本発明のセラミック成形用バインダー組成物は、前記(メタ)アクリル系ポリマーA及び(メタ)アクリル系オリゴマーBのほか、溶剤や水、並びに分散剤、可塑剤、焼成助剤などの添加剤を含んでもよい。
【0053】
前記溶剤としては、例えば、アルコールやトルエン、酢酸エチル等が挙げられる。
溶剤を用いる場合には、本発明のセラミック成形用バインダー組成物の固形分量を70質量%〜80質量%とするのが好ましい。
【0054】
前記分散剤としては、例えば、界面活性剤が挙げられる。界面活性剤を使用する場合の使用量は、バインダー組成物の固形分に対して、0.1質量%〜1.0質量%が好ましい。
【0055】
前記可塑剤としては、例えば、DOP(フタル酸ジオクチル)、DBP(フタル酸ジブチル)が挙げられる。可塑剤を添加する場合の添加量は、バインダー組成物の固形分に対して、3.0質量%〜15質量%が好ましい。
【0056】
前記焼結助剤としては、例えば、CaO、MgO、SiO、TiO、等の粉末が挙げられる。
【0057】
本発明のセラミック成形用バインダー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、既述の(メタ)アクリル系ポリマーA及び(メタ)アクリル系オリゴマーBに加えて、これら(メタ)アクリル系ポリマーA及び(メタ)アクリル系オリゴマーBとは異なる他の樹脂成分を含んでいてもよい。
【0058】
<セラミックグリーンシート>
本発明におけるセラミックグリーンシートは、少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、Mwが100,000以上であり、Tgが0℃以上である(メタ)アクリル系ポリマーAと、Mwが1,000〜30,000である(メタ)アクリル系オリゴマーBと、セラミック粉末と、を用いて構成されたものである。セラミックグリーンシートに含まれる前記(メタ)アクリル系ポリマーAのTgは、前記(メタ)アクリル系オリゴマーBのTgより高い。
【0059】
本発明におけるセラミックグリーンシートは、好ましくは、既述の本発明のセラミック成形用バインダー組成物とセラミック粉末とを混合したセラミックスラリーを、支持基材の上に塗布等することで成形したものである。
【0060】
セラミックスラリーは、本発明のセラミック成形用バインダー組成物とセラミック粉末のほかに、必要に応じて、溶剤、水、並びに分散剤、可塑剤、及び焼結助剤等の添加剤など加えてもよい。
【0061】
分散剤、可塑剤、及び焼結助剤の詳細については、本発明のセラミック成形用バインダー組成物において、記載した通りである。
【0062】
セラミックスラリーの製造方法は特に制限されるものではなく、例えば、本発明のセラミック成形用バインダー組成物と、セラミック粉末と、溶剤と、必要に応じて添加される他の成分と、をボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の混合機を用いて混合する方法等が挙げられる。
【0063】
本発明のセラミックスラリーの粘度は、3Pa・s〜30Pa・s(3,000cps〜30,000cps)が好ましく、10Pa・s〜20Pa・s(10,000cps〜20,000cps)がより好ましい。
【0064】
前記セラミック粉末としては、例えば、アルミナ、フェライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、等の粉末が挙げられる。
【0065】
前記支持基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル基材、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフルオロエチレンなどの含フッ素樹脂、ナイロン、セルロース等を適宜選択して使用することができる。
支持基材の、本発明のセラミックスラリーが塗布等により設けられる面には、離型性を付与するためにフッ素系樹脂、パラフィンワックス、シリコーン等の離型剤で表面処理が施されていることが好ましい。
【0066】
本発明におけるセラミックグリーンシートは、セラミックスラリーを、ドクターブレード法やカレンダーロール法等の公知の塗布法により支持基材の上に塗布し、乾燥させて作製されたシート状の成形物である。
また、セラミックグリーンシートは、粉末を成形機に充填し、加圧成形して作製することもできる。
【0067】
本発明のセラミックグリーンシートは、例えばチップ抵抗器用や発光素子搭載用の単層のセラミック基板の作製に用いることができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0069】
<(メタ)アクリル系ポリマーAの製造>
(製造例A−1)
攪拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、及び温度計を備えた反応器に、酢酸エチル(EAc)200.0質量部を仕込んだ。次いで、別の容器にメチルメタクリレート(MMA)22.5質量部、エチルアクリレート(EA)76質量部、及びコハク酸モノ(2−アクリロイルオキシエチル)(HOA−MS)1.5質量部からなる単量体混合物間553.3質量部を用意し、このうち53.3質量部を反応器に仕込み、これに重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.16質量部を添加した。添加後、加熱し、還流温度で60分間保った。この中にさらに、残りの単量体混合物500.0質量部、EAc53.3質量部、及びAIBN0.16質量部からなる混合物を120分間かけて逐次滴下した。その後さらに、90分間同温度で保ってから、トルエン84.0質量部、及びAIBN0.48質量部を60分間かけて逐次滴下した。さらに70分間同温度で保ってから、EAc、トルエンで希釈した後、冷却し、(メタ)アクリル系ポリマーA−1溶液(固形分濃度:40質量%)を得た。
【0070】
(製造例A−2〜A−7)
前記製造例A−1において、MMA、EA、及びHOA−MSを、下記表1に示す単量体及びその量に変更したこと以外は、製造例A−1と同様にして、(メタ)アクリル系ポリマー溶液A−2〜A−7を製造した。いずれの溶液も、固形分濃度は40質量%である。なお、表1中、iBMAはイソブチルメタクリレートを表し、MAはメチルアクリレートを表す。
【0071】
【表1】

【0072】
<(メタ)アクリル系オリゴマーBの製造>
(製造例B−1)
攪拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、温度計を備えた反応器に、トルエン85.5質量部、酢酸エチル(EAc10.4質量部を加えて加熱し、還流温度で10分間重合を行なった。次いで、還流温度条件下でメチルメタクリレート(MMA)33.8質量部、エチルアクリレート(EA)65.2質量部、コハク酸モノ(2−アクリロイルオキシエチル)(HOA−MS)1.0質量部、及び開始剤としてt−ブチルペルオキシピバレート〔商品名:PB−PV、日油(株)製〕9.1質量部を60分間かけて逐次滴下し、さらに90分間同温度で保ってから、トルエンで希釈後冷却し、(メタ)アクリル系オリゴマーB−1溶液(固形分濃度:40質量%)を得た。
【0073】
(製造例B−2〜B−11)
前記製造例B−1において、MMA、EA、及びHOA−MSを、下記表2に示す単量体及びその量に変更したこと以外は、製造例B−1と同様にして、(メタ)アクリル系オリゴマー溶液B−2〜B−11を製造した。いずれの溶液も、固形分濃度は40質量%である。なお、表2中、AAはアクリル酸を表す。
【0074】
【表2】
【0075】
(混合溶液(バインダー組成物の溶液)の調製)
上記で製造した(メタ)アクリル系ポリマーAと(メタ)アクリル系オリゴマーBとの各々を用い、これらを下記表3に示す組み合わせ、混合比率にて混合し、(メタ)アクリル系ポリマー溶液及び(メタ)アクリル系オリゴマー溶液の混合溶液(バインダー組成物の溶液)1〜混合溶液20を得た。なお、混合溶液18については、(メタ)アクリル系オリゴマーBに替えて、可塑剤(大八化学工業(株)社製、DEP(ジエチルフタレート))を用いた。
【0076】
(実施例1)
−セラミックスラリーの調製−
2L(リットル;以下同様)アルミナポットのボールミル(ボールφ20×1kg)に、アルミナが主成分のセラミック粉末(AL−M41−01、粒径2.0μm、住友化学社製)600質量部と、トルエン180.0質量部と、上記で製造した(メタ)アクリル系ポリマー溶液及び(メタ)アクリル系オリゴマー溶液の混合溶液(バインダー組成物の溶液)1(固形分:40質量%)15.0質量部と、を配合し、撹拌混合した後、回転数60rpmで24時間ボールミルにより混合・分散した。その後、さらに(メタ)アクリル系ポリマー溶液及び(メタ)アクリル系オリゴマー溶液の混合溶液1(固形分:40質量%)135.0質量部を配合し、撹拌混合した。その後、回転数60rpmでさらにボールミルにより24時間混合、分散し、セラミックスラリー組成物を調製した。
【0077】
−セラミックグリーンシートの成形−
次に、得られたセラミックスラリー組成物を、シリコーン系離型剤で処理されたポリエステルフィルム(厚み:100μm)のシリコーン処理面に、乾燥後の厚みが100μmとなるようにアプリケーターにより塗布し、室温下で1時間放置後、80℃の熱風乾燥機でさらに1時間乾燥させた。このようにして、試験用セラミックグリーンシートを作製した。
【0078】
(実施例2〜実施例16、比較例1〜比較例4)
実施例1において、(メタ)アクリル系ポリマー溶液及び(メタ)アクリル系オリゴマー溶液の混合溶液1を、下記表3に示すように混合溶液2〜混合溶液20のいずれかに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミックスラリー組成物調製し、さらに試験用セラミックグリーンシートを作製した。
【0079】
(ブチラール溶液の調製)
酢酸エチル(EAc)及びトルエンの混合溶液(EAc/トルエン=50/50)100.0質量部中に、ポリビニルブチラール(PVB)40.0質量部を溶解し、PVB溶液(固形分濃度:40質量%)を得た。
【0080】
(比較例5)
−セラミックスラリーの調製−
2Lアルミナポットのボールミル(ボールφ20×1kg)に、アルミナが主成分のセラミック粉末(AL−M41−01、粒径2.0μm、住友化学社製)600質量部と、トルエン180.0質量部と、上記で製造したPVB溶液(固形分:40質量%)15.0質量部と、可塑剤としてフタル酸ジブチル(DBP)1.8質量部と、を配合し、撹拌混合した。その後、回転数60rpmでボールミルにより24時間混合、分散した。その後、さらにPVB溶液(固形分:40質量%)135.0質量部を配合し、撹拌混合した。その後、回転数60rpmでさらにボールミルにより24時間混合、分散し、セラミックスラリー組成物調製した。
【0081】
−セラミックグリーンシートの成形−
次に、PVB溶液を用いて調製されたセラミックスラリー組成物を、シリコーン系離型剤で処理されたポリエステルフィルム(厚み:100μm)のシリコーン処理面に、乾燥後の厚さが100μmとなるように塗布し、室温下で1時間放置後、80℃の熱風乾燥機でさらに1時間乾燥させた。このようにして、ポリエステルフィルム上に、試験用セラミックグリーンシートを作製した。
【0082】
(評価)
各実施例又は各比較例で得られた、(メタ)アクリル系ポリマー溶液、(メタ)アクリル系オリゴマー溶液、及びPVB溶液、並びに試験用セラミックグリーンシートについて、下記の測定、評価を行なった。測定、評価の結果は、下記表3に示す。
【0083】
−1.焼成性−
各実施例又は比較例において、(メタ)アクリル系ポリマー溶液及び(メタ)アクリル系オリゴマー溶液の混合溶液、並びに、PVB溶液を乾燥させて、(メタ)アクリル系ポリマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの混合乾燥物、並びに、PVB樹脂及び可塑剤(乾燥量で3質量部)の混合乾燥物を得た。そして、各々約10mgをアルミ皿にのせ、熱重量/分析装置(SIIナノテクノロジー社製、EXSTAR6000 TG/DTA6200)を用いて窒素雰囲気下、昇温温度10℃/minで常温から600℃まで昇温した。その後、室温まで冷却し、採取した樹脂量(加熱前の質量α)に対する残渣(加熱後の質量β)の比率(=β/α;残渣率)を算出した。この残渣率を指標として、以下の評価基準にしたがって焼成性を評価した。
残渣率(質量%)=(加熱後の質量β)/(加熱前の質量α)×100
【0084】
<評価基準>
A:残渣率:5質量%未満
B:残渣率:5質量%以上7質量%未満
C:残渣率:7質量%以上10質量%未満
D:残渣率:10質量%以上
【0085】
−2.S−S測定−
厚み100μmの各試験用セラミックグリーンシートを幅1cm×長さ9cmにカットし、サンプル片を作製した。次いで、テンシロン測定機(エー・アンド・ディ社製、RTF−1350)を用いて各サンプル片に対して下記条件で引張試験を行ない、横軸に垂直歪み(%)を、縦軸に垂直応力(N)をとってS−Sカーブを求めた。
<条件>
・チャック間距離:5cm
・引っ張り速度:100mm/min
・測定環境:23℃、50%RH
そして、得られたS−Sカーブより、ヤング率(MPa)、及び最大強度(MPa)、を求め、ヤング率、最大強度を以下の評価基準にしたがって評価した。
【0086】
(2−1.ヤング率)
<評価基準>
A:ヤング率:700MPa以上
B:ヤング率:550MPa以上700MPa未満
C:ヤング率:400MPa以上550MPa未満
D:ヤング率:400MPa未満
【0087】
(2−2.最大強度)
<評価基準>
A:最大強度:4.5MPa以上
B:最大強度:4.0MPa以上4.5MPa未満
C:最大強度:3.5MPa以上4.0MPa未満
D:最大強度:3.5MPa未満
【0088】
−3.反りの評価−
ポリエステルフィルム上に作製された各試験用セラミックグリーンシートを、ポリエステルフィルムを剥離せずに、幅8cm×長さ8cmにカットし、サンプル片を作製した。次いで、サンプル片のポリエステルフィルム側を下側にし、セッターに載置し、1600℃で焼成した。
焼成後のサンプル片(ポリエステルフィルム付きのセラミック基板)は、ポリエステルフィルム側を下側にして台に載置した。サンプル片のセラミック基板側の面のある一辺から内側5mmの位置に前記一辺と平行な仮想線を引き、前記台の載置面の法線方向における載置面と前記仮想線までの距離(載置面から仮想線までの高さ)を、連続的にレーザー変位計(キーエンス社製 LT−9500)により、任意に複数点測定した。
載置面から仮想線までの高さの各測定値からサンプル片の厚みを減算し、その最大値と最小値との平均値を、一辺の反り量とした。
サンプル片のセラミック基板側の他の三辺についても、同様に反り量を算出した。
上記で算出した四辺の反り量の平均値を、セラミック基板の反り量として、以下の基準にしたがい評価を行った。
【0089】
<評価基準>
A:反り量100μm未満
B:反り量100μm以上150μm未満
C:反り量150μm以上200μm未満
D:反り量200μm以上
【0090】
【表3】
【0091】
表3に示すように、実施例では、焼成性に優れ、グリーンシートの強度が高く、グリーンシート焼成時の反りが低減されていることがわかる。比較例1のように(メタ)アクリル系ポリマーのTgが0℃未満であると、グリーンシートの強度と焼成時に生じる反りの抑制に劣ることがわかる。また、比較例3又は比較例4のように(メタ)アクリル系ポリマーのTgが(メタ)アクリル系オリゴマーのTgより低い、又は同じであると、焼成時に生じる反りの抑制に劣ることがわかる。