(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
「ブロック共重合体を含有する表面処理剤」
一般に、異なる種類の高分子は相溶しないため、混合すると分離するが、ブロック共重合体は、異なる種類の高分子鎖が共有結合により繋がれているため、マクロスケールで分離することができない。そのため、ブロック共重合体は、異なる繰り返し単位を有するセグメント同士ができる限り離れようとして、分子鎖の大きさ程度で分離するミクロ相分離を起こす。
ブロック共重合体は、高分子鎖が流動性を有するガラス転移温度以上では、外部環境に応じて、より表面エネルギーが低くなるように一方のセグメントが表面へと移行する。すなわち、周囲の環境に応じてセグメントの再配向が生じ、一方のセグメントが表面に偏在する表面偏析を起こす。ブロック共重合体の表面偏析は、X線光電子分光法、エネルギー分散型X線分析法、フーリエ変換赤外分光計−減衰全反射法や、透過型電子顕微鏡等で観察できる。
【0009】
本発明の表面処理剤は、ブロック共重合体を形成する異なる繰り返し単位を有するセグメントのうち、乾燥下ではより疎水的なセグメントが表面に、湿潤下ではより親水的なセグメントが表面に偏析するという特徴を利用したものである。この表面偏析により、本発明の表面処理剤は、乾燥時には疎水性であるが、水に接触等すると徐々に親水性となるため、化粧料中の粉体に適用すると、化粧もちと洗い流し性とを両立させることができる。
ここで、本発明のブロック共重合体を形成するセグメントは、親水性と疎水性である必要はなく、相対的に親水性の程度に差があればよい。すなわち、疎水性セグメントと疎水性セグメントからなるブロック共重合であってもよい。
【0010】
本発明の表面処理剤は、有機溶媒に溶解し、その溶液を被処理物に塗布、乾燥することにより表面処理することができる。被処理物は、粉体に限定されず、各種プラスチックからなるシート、ガラス板、金属板等であってもよい。また、本発明の表面処理剤と粉体とを混合し、撹拌することで、有機溶媒を用いずとも表面処理することができる。
【0011】
「第1のブロック共重合体」
本発明において使用する第1のブロック共重合体は、下記一般式(1)で表される。
【化3】
【0012】
式(1)中、R
1、R
2は、それぞれ独立してアルキル基、ポリオキシアルキレン基、アシル基、フェニル基、アラルキル基を表し、Xは隣接しない炭素が酸素に置換されてエーテルを形成してもよい炭素数1〜18のアルキル鎖を表し、Yは単結合、または2価の連結基を表し、Z
1は水素、又はメチル基を表し、n、mは重合度を表す。
【0013】
R
1、R
2は、分子構造が嵩高いと、運動性が低下して、環境変化に対する応答性が低下するため、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基であることが好ましく、メチル基であることが最も好ましい。
Xは、隣接しない炭素が酸素に置換されてエーテルを形成してもよい、炭素数1〜18のアルキル鎖を表す。アルキル鎖が長いと結晶性が高まり、分子鎖の運動性が低下するため、炭素数は1〜12であることがより好ましく、1〜8であることがさらに好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、オクチル基等が挙げられる。
【0014】
Yで表される2価の連結基としては、炭素数15以下のものが好ましく、炭素数10以下のものがより好ましい。具体的には、たとえば、アルキレン基、アリーレン基、カルボニル基、スルホニル基、カルボニルオキシ基、カルボニルアミノ基、スルホニルアミド基、エーテル基、チオエーテル基、ジスルフィド基、アシル基、アルキルスルホニル基、−CH=CH−、−C≡C−、アミノカルボニルアミノ基、アミノスルホニルアミノ基、および、これらが複数連結した連結基が挙げられる。これらの中で、分子構造が柔軟であることから、アルキレン基、エーテル基の組み合わせが好ましい。具体的には、−O−、−C
2H
4O−、−C
2H
4OC
2H
4O−、−C
3H
6(OC
2H
4)
nO−(n=0〜5)等が挙げられる。
Z
1は水素、又はメチル基を表す。
【0015】
また、第1のブロック共重合体の数平均分子量は、1,000〜100,000の範囲であれば特に制限することなく使用することができる。数平均分子量が1,000未満であると、粉体表面に付着しにくく、表面処理剤として劣る。数平均分子量が100,000より大きいと、粘度が高くなりすぎて取り扱い性に劣る。数平均分子量は2,000〜50,000であることが好ましく、6,000〜30,000であることがより好ましい。
【0016】
第1のブロック共重合体中のシリコーンセグメント(以下、Qセグメントという。)は、代表的なシリコーンであるポリジメチルシロキサンのガラス転移温度が−120℃程度であるように、Tgが非常に低いため、分子鎖の運動性が非常に高い。第1のブロック共重合体において、Qセグメントの数平均分子量は、500〜50,000であることが好ましく、1,000〜30,000であることがより好ましく、3,000〜20,000であることがさらに好ましい。
【0017】
第1のブロック共重合体中のポリトリメチレンカーボネートセグメント(以下、PTMCセグメントという。)は、ポリトリメチレンカーボネートのガラス転移温度が−14℃と低いため、分子鎖の運動性が高い。PTMCセグメントの数平均分子量は、500〜50,000であることが好ましく、5,000〜30,000であることがより好ましい。
【0018】
第1のブロック共重合体の合成方法は、制限されるものでなく、目的とするブロック共重合体が得られる任意の方法を用いることができる。一例として、末端に水酸基を有するシリコーンに、塩基系触媒存在下でトリメチレンカーボネート(以下、TMCという。)を開環重合させることで合成することができる。
【0019】
乾燥環境下、湿潤環境下における第1のブロック共重合体からなる薄膜の表面偏析のモデルを
図1に示す。
PTMCセグメント2は、ポリトリメチレンカーボネート薄膜の純水接触角が約68度であるように、疎水性である。しかし、ポリジメチルシロキサン薄膜の純水接触角は100〜110度であるから、Qセグメント1と比較すると、PTMCセグメント2はより親水的である。第1のブロック共重合体からなる薄膜は、乾燥環境下では、より疎水的であるQセグメント1が表面に偏在している。この薄膜が水と接触等して湿潤環境下になると、水との界面での表面エネルギーを下げるために、Qセグメント1が薄膜内部に潜り込み、薄膜表面でのPTMCセグメント2の比率が高まるため、親水性が高まる。すなわち、第1のブロック共重合体からなる薄膜は、環境応答性を示し、乾燥環境下では疎水性であるが、湿潤環境下では疎水性が弱まり親水的になる。なお、この応答は可逆性であり、繰り返し応答させることができる。
【0020】
ブロック共重合体の表面偏析に由来する、表面処理剤の環境応答性は、水接触角の経時変化を測定することにより確認することができる。具体的には、第1のブロック共重合体からなる薄膜を真空乾燥させ、25℃、55%RHにおける、純水7μLを滴下した時のθ/2法による接触角は、Qセグメントが表面偏析している滴下直後は90〜100度であるが、徐々にPTMCセグメントが表面偏析するため、滴下20秒後には65〜85度まで低下する。なお、本明細書中において、接触角は全て、25℃、55%RHにおける、純水7μLを滴下した時のθ/2法による測定値である。
【0021】
乾燥環境下、および湿潤環境下での接触角、および接触角変化の早さは、第1のブロック共重合体のQセグメントとPTMCセグメントの分子量、分子構造の嵩高さなどで調整することができる。なお、ポリトリメチレンカーボネート薄膜の接触角が約68度であるため、理論上の第1のブロック共重合体からなる薄膜の湿潤環境下における接触角は68度以下にはならない。
【0022】
本発明の表面処理剤からなる薄膜は、薄膜を形成する際の条件により、その親水性が変化する速度を制御することができる。
溶媒をゆっくりと揮発させると、Qセグメントが空気界面に、PTMCセグメントが膜内部に、それぞれ高密度に配向する。PTMCセグメントが膜内部に緻密に配向すると、Qセグメントが膜内部に潜り込みにくくなるため、水と接触させた際の接触角の低下は緩やかとなり、また、その最終的な接触角もポリトリメチレンカーボネートの接触角である68度と比べて大きくなる。
溶媒が揮発する時間が短いと、PTMCセグメントが高密度に配向する前に溶媒が揮発するため、膜内部の構造が疎となる。膜構造が疎らなため、Qセグメントが膜内部に容易に潜り込め、水に接触させた際に接触角が速やかに低下し、また、最終的な接触角も68度に近くなる。
【0023】
「第2のブロック共重合体」
本発明において使用する第2のブロック共重合体は、下記一般式(2)で表される。
【化4】
【0024】
式(2)中、R
3、R
4は、それぞれ独立して水素、アルキル基、フェニル基、アルキルオキシ基を表し、Wは水素、又はメチル基を表し、Z
2は水素、又はメチル基を表し、p、qは重合度を表す。
【0025】
R
3、R
4は、分子構造が嵩高いと、運動性が低下して、環境変化に対する応答性が低下するため、水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルキルオキシ基が好ましく、水素、メチル基、エチル基、メトキシ基がより好ましく、水素、メチル基がさらに好ましく、水素が最も好ましい。
【0026】
第2のブロック共重合体の数平均分子量は、1,000〜100,000の範囲であれば特に制限することなく使用することができる。数平均分子量が1,000未満であると、粉体表面に付着しにくく、表面処理剤として劣る。数平均分子量が100,000より大きいと、粘度が高くなりすぎて取り扱い性に劣る。数平均分子量は2,000〜50,000であることが好ましく、6,000〜30,000であることがより好ましい。
【0027】
第2のブロック共重合体中のポリエチレングリコールセグメント(以下、PEGセグメントという。)は、エーテル基を多数有するため親水性である。また、非晶状態にあるポリエチレンオキシドのガラス転移温度は約−65度と低いため、運動性に優れている。PEGセグメントの数平均分子量は、200〜20,000であることが好ましく、500〜10,000であることがより好ましく、2,000〜5,000であることがさらに好ましい。数平均分子量が200より小さいと表面偏析が起こりにくく、20,000より大きいと表面偏析が早く起こりすぎる。
【0028】
第2のブロック共重合体中のポリトリメチレンカーボネート誘導体セグメント(以下、D−PTMCセグメントという。)は、疎水性である。D−PTMCセグメントは、上記した第1のブロック共重合体のPTMCセグメントと同等のTg(約−14℃)を有しているため、分子鎖の運動性が高い。D−PTMCセグメントの数平均分子量は、500〜50,000であることが好ましく、5,000〜30,000であることがより好ましい。
【0029】
第2のブロック共重合体の合成方法は、制限されるものでなく、目的とするブロック共重合体が得られる任意の方法を用いることができる。一例として、第1のブロック共重合体と同様に、末端に水酸基を有するポリエチレンオキシドに、塩基系触媒存在下でトリメチレンカーボネート誘導体を開環重合させることで製造することができる。モノマーとしてトリメチレンカーボネート誘導体を用いることにより、D−PTMCセグメントのR
3、R
4として置換基を導入することができる。例えば、5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン−2−オンを開環重合させることにより、R
3、R
4としてメチル基を導入することができる。
【0030】
乾燥環境下、湿潤環境下における第2のブロック共重合体からなる薄膜の表面偏析のモデルを
図2に示す。
第2のブロック共重合体からなる薄膜は、乾燥環境下では疎水性であるD−PTMCセグメント4が表面偏析しており、滴下直後の接触角は65〜68度であるが、この薄膜が水と接触等して湿潤環境下になると、親水性であるPEGセグメント3が表面偏析するため、滴下20秒後の接触角は30〜40度まで低下する。なお、第1のブロック共重合体と同じくこの応答は可逆性であり、繰り返し応答させることができる。
【0031】
第2のブロック共重合体からなる薄膜の接触角は、PEGセグメント3の数平均分子量が大きいほど、水と接触後に素早く低下する。乾燥環境下、および湿潤環境下での接触角、および接触角変化の早さは、第2のブロック共重合体のPEGセグメントとD−PTMCセグメント分子量、分子構造の嵩高さなどで調整することができる。すなわち、非相溶である異なる高分子からなるセグメントが相分離しようとする駆動力を変化させることにより、応答速度を変化させることができる。なお、第2のブロック共重合体からなる薄膜の乾燥環境下での接触角は、理論上は、ポリトリメチレンカーボネート薄膜の接触角である68度より大きくならない。
【0032】
上記したように、ポリトリメチレンカーボネートの接触角は68度であるため、理論上は、第1のブロック共重合体からなる薄膜の湿潤環境下での接触角は68度より小さくならず、第2のブロック共重合体からなる薄膜の乾燥環境下での接触角は68度より大きくならない。
乾燥環境下と湿潤環境下での接触角が変化する幅をより大きく、すなわち、乾燥時にはより疎水性、湿潤時にはより親水性とするためには、第1のブロック共重合体と第2のブロック共重合体とを混合すればよい。両者を混合することにより、乾燥環境下ではより疎水性、湿潤環境下ではより親水性とすることができ、最適な表面処理が可能となる。
【0033】
第1のブロック共重合体のPTMCセグメントと、第2のブロック共重合体のD−PTMCセグメントは、類似または、同一の繰り返し単位を有するため、相溶性に優れており、任意の比率で混合することができる。PEGセグメントを有する第2のブロック共重合体が多いほど、水に接触した際の親水性を高めることができる。第1のブロック共重合体と第2のブロック共重合体との重量比は特に制限されないが、90:10〜10:90であることが好ましい。一方のブロック共重合体の重量比が90より多いと、そのブロック共重合体単独の挙動とほとんど変わらなくなるためである。第1のブロック共重合体と第2のブロック共重合体との重量比は、80:20〜20:80であることがより好ましく、50:50〜25:75であることがさらに好ましい。
【0034】
第1のブロック共重合体と第2のブロック共重合体からなる薄膜の表面偏析のモデルを
図3に示す。乾燥状態では、最も疎水性であるQセグメント1が表面偏析している。膜表面に水滴を滴下等した湿潤環境下では、Qセグメント1が徐々に膜内部に潜り込む第1の親水化が起こり、続いて最も親水性であるPEGセグメント3が表面偏析を起こす第2の親水化が起こる。すなわち、第1のブロック共重合体と第2のブロック共重合体からなる薄膜は、乾燥環境下では、Qセグメント1が表面偏析しているため、接触角が90〜100度と疎水性であるが、湿潤環境下では、PEGセグメントが表面偏析するため、接触角が30〜40度まで低下して親水性となる。
【0035】
そのため、第1のブロック共重合体と第2のブロック共重合体とを含有する表面処理剤を、化粧料中の粉体に適用すると、使用中の化粧もちと、水での洗い流し性とを両立させた化粧料を得ることができる。
【実施例】
【0036】
「第1のブロック共重合体の合成」
「合成例1」
一方の末端にブチル基、他の末端に−C
3H
6OC
2H
4OH基を有する、数平均分子量5,000のポリジメチルシロキサン(JNC株式会社製、商品名:サイラプレーンFM0421、以下、PDMSという。)の水酸基1当量に対して、TMCを50当量(モル比)となるようにジクロロメタンに溶解させて、10wt/v%の溶液を得た。PDMSに対して、塩基性触媒である1,8−ジアザビシクロウンデセン(DBU)を2当量(モル比)となるように加え、窒素雰囲気下にて室温で72時間反応させた後、安息香酸を添加して、反応を停止した。反応停止後に、メタノール、2−プロパノール、ヘキサン(10:1:10(体積比))からなる混合溶媒に再沈殿させて回収し、50℃で減圧乾燥させて、ブロック共重合体1を得た。
【0037】
「合成例2」
PDMSの末端水酸基1当量に対して、TMCを100当量(モル比)となるようにした以外は合成例1と同様にしてブロック共重合体2を得た。
「合成例3」
PDMSの末端水酸基1当量に対して、TMCを300当量(モル比)となるようにした以外は合成例1と同様にしてブロック共重合体3を得た。
【0038】
「第2のブロック共重合体の合成」
「合成例4」
片末端がメトキシ基で保護されている数平均分子量5000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製、商品名:Poly(ethylene glycol) methyl ether、以下、mPEGという。)の末端水酸基1当量に対して、TMCを150当量(モル比)となるようにジクロロメタンに溶解させて、10wt/v%の溶液を得た。mPEG1当量に対して、塩基性触媒であるDBUを3当量(モル比)となるように加え、窒素雰囲気下にて室温で72時間反応させた後、安息香酸を添加して、反応を停止した。反応停止後に、ヘキサンと2−プロパノール(7:3(体積比))からなる混合溶媒に再沈殿させて回収し、50℃で減圧乾燥させて、ブロック共重合体4を得た。
【0039】
「ブロック共重合体の分析」
1.
1H−NMR測定
得られたブロック共重合体の重合度は
1H−NMRにより解析した。一例として、ブロック共重合体1の
1H−NMRのスペクトルを
図4に示す。
ポリジメチルシロキサンに帰属されるシグナル(0.3ppm付近)とポリトリメチレンカーボネートに帰属されるシグナル(2.1ppm、4.2ppm付近)との積分強度比から第1のブロック共重合体のトリメチレンカーボネートの重合度を算出した。
同様にして、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルに帰属されるシグナル(3.6ppm付近)と、ポリトリメチレンカーボネートに帰属されるシグナルとの積分強度比からブロック共重合体4のトリメチレンカーボネートの重合度を算出した。
【0040】
2.GPC測定
ブロック共重合体を、テトラヒドロフランに溶解させて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定を行った。GPCは、高速液体クロマトグラフ(GPCカラム KF−804(昭和電工株式会社製)、溶離液:テトラヒドロフラン)を用いて行い、そのクロマトグラフィーの結果から、ポリスチレンを標準物質として算出することにより、ポリスチレン換算として求めた。
各ブロック共重合体の分析結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
「実施例1」
ポリエチレンテレフタレートからなる、直径14mmの円盤状シートを、ブロック共重合体1の0.5wt/v%ジクロロメタン溶液に浸し、ゆっくりと垂直に引き上げてディップコーティングした。溶媒雰囲気下、隙間を開けてフラットシャーレのフタを被せて徐々に溶媒を揮発させた後、真空乾燥を行い完全に溶媒を留去して表面処理膜1を作製した。ジクロロメタン溶液から完全に引き上げてから、溶媒が揮発するまでの時間は30秒であった。
【0043】
「実施例2〜4」
ブロック共重合体2〜4をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様にして、表面処理膜2〜4を作製した。
【0044】
「接触角変化の測定」
表面処理膜の接触角変化を、接触角計(協和界面科学株式会社製、装置名:Drop Master 700)を用い、25℃、55%RHの条件下、純水7μLを滴下して、θ/2法により測定した。測定は10回行い、その相加平均値を求めた。
【0045】
表面処理膜1〜4の接触角変化の結果を、それぞれ
図5〜8に示す。
表面処理膜1〜3は、乾燥環境下である初期の接触角は、93度から97度であり疎水性を示していた。接触角の測定を60秒間継続したところ、表面処理膜1は10秒程度で接触角が85度まで低下したものの、その後はほとんど親水化が見られなかった。一方、PTMCセグメントの鎖長が長いブロック共重合体からなる表面処理膜2、3では、60秒間連続して接触角が低下し、最終的には69度程度となった。ポリトリメチレンカーボネートホモポリマーの接触角が68度程度であるため、この挙動は第1のブロック共重合体のうち、Qセグメントが膜内部にもぐり込んでいることに由来する。このような自発的なポリマー鎖の偏析は、第1のブロック共重合体を構成しているQセグメントおよびPTMCセグメントのガラス転移温度が室温より低いため、外部環境の変化に応答して各セグメントが自由に運動できるためであると推測される。すなわち、水と接触し続けるような湿潤下では、固液界面の表面自由エネルギーを低下させるために、乾燥環境下で表面偏析していたQセグメントが薄膜内部に潜り込み、PTMCセグメントが表面偏析したため、接触角が徐々に低下したと考えられる。
【0046】
表面処理膜4は、乾燥環境下である初期の接触角は55度であり、20秒後には35度まで低下した。また、35度以下には低下しなかった。すなわち、第2のブロック共重合体からなる薄膜は、乾燥環境下では、疎水性であるD−PTMCセグメントが偏析しているが、水と接触し続けるような湿潤環境下では、親水性であるPEGセグメントが表面に偏析するため、その表面が徐々に親水性となり、接触角が徐々に低下することが確かめられた。
【0047】
「実施例5」
溶媒を揮発させる際に、シャーレのフタを被せる際の隙間を狭めた以外は、実施例2と同様にして表面処理膜5を得た。ジクロロメタン溶液から完全に引き上げてから、溶媒が揮発するまでの時間は210秒であった。
「実施例6」
溶媒をアセトンとし、溶媒を揮発させる際にシャーレのフタを被せる際の隙間を狭めた以外は、実施例5と同様にして表面処理膜6を得た。アセトン溶液から完全に引き上げてから、溶媒が揮発するまでの時間は210秒であった。
【0048】
「接触角変化の測定」
表面処理膜5、6の接触角変化を、接触角計(協和界面科学株式会社製、装置名:Drop Master 700)を用い、25℃、55%RHの環境下、純水7μLを滴下して、θ/2法により測定した。測定は10回行い、その相加平均値を求めた。
【0049】
図9(a)〜(c)に、それぞれ実施例2、5、6の接触角変化の測定結果を示す。
実施例2と5は、初期の接触角が93度程度とほぼ同じであったにもかかわらず、60秒経過後の接触角は、それぞれ68度、76度であった。溶媒の揮発時間の短い実施例2の方がより親水化し、ポリトリメチレンカーボネートの接触角である68度となった。このような親水化の違いは、溶媒揮発時にQセグメントが表面偏析する程度が異なっていることが原因であると考えられる。溶媒が揮発するのにかかる時間が長いとQセグメント、PTMCセグメントが高密度に配向するため、水との接触後に膜内部にQセグメントがもぐり込みにくくなっていると考えられる。溶媒が揮発するのにかかる時間が短いと、膜内部でPTMCセグメントが高密度に配向する前に溶媒が消失してしまう。このため、水と接触後に膜内部にQセグメントがもぐり込みやすく、結果として60秒間で68度まで親水化したと推察できる。
【0050】
さらに、
図9の(c)に示すように、溶媒にアセトンを用いた実施例6は、初期の接触角が88度であり60秒間後には65度まで低下した。この接触角は溶媒にジクロロメタンを用いて揮発時間を30秒間にした実施例2の接触角よりも小さく、また、接触角の変化が素早く進行した。これは、Qセグメントが、非プロトン性極性溶媒であるアセトンと相溶性が良くないために、アセトンの揮発時間が210秒と長くとも、Qセグメントの表面偏析が進まなかったためであると考えられる。膜内部に、ある程度のQセグメントが入り込んだ状態で製膜されたため、水との接触により瞬時に膜内部にQセグメントがもぐり込むことが可能となったと考えられる。なお、ポリトリメチレンカーボネートの接触角である68度よりも小さくなった理由は不明である。製膜時の溶媒の選択と溶媒揮発時間により、表面処理剤の親水性、疎水性の挙動を制御できることが確かめられた。
【0051】
「実施例7」
第1のブロック共重合体であるブロック共重合体2と、第2のブロック共重合体であるブロック共重合体4とを、50:50の重量比で混合した混合物を用いた以外は実施例1と同様にして、表面処理膜7を作製した。溶媒が揮発するまでの時間は210秒であった。
【0052】
「実施例8」
ブロック共重合体2とブロック共重合体4との重量比を、33:67とした以外は実施例5と同様にして、表面処理膜8を作製した。
「実施例9」
ブロック共重合体2とブロック共重合体4との重量比を、25:75とした以外は実施例5と同様にして、表面処理膜9を作製した。
「実施例10〜12」
溶媒をアセトンとした以外は、それぞれ実施例7〜9と同様にして表面処理膜10〜12を得た。アセトン溶液から完全に引き上げてから、溶媒が揮発するまでの時間は210秒であった。
【0053】
「接触角変化の測定」
表面処理膜の接触角変化を、接触角計(協和界面科学株式会社製、装置名:Drop Master 700)を用い、25℃、55%RHの環境下、純水7μLを滴下して、θ/2法により測定した。測定は10回行い、その相加平均値を求めた。
【0054】
表面処理膜7〜12の接触角変化の結果を、それぞれ
図10〜15に示す。
表面処理膜7〜12は、初期の接触角は88〜92度程度であり、Qセグメントの表面偏析に由来すると考えられる、乾燥環境下での疎水性を示し、第1のブロック共重合体の重量比が50以下でも、乾燥環境下での疎水性が発揮されることが確認できた。
ジクロロメタンを用いた表面処理膜7〜9の20秒経過後の接触角はそれぞれ70度、66度、66度、アセトンを用いた表面処理膜10〜12の20秒経過後の接触角はそれぞれ、65度、53度、50度であり、第2のブロック共重合体の混合比が増加するほど、湿潤環境下における親水性が向上して、接触角が低下する傾向が確かめられた。すなわち、PEGセグメントを多く含むほど、湿潤環境下での親水性が強く発現した。
【0055】
ジクロロメタンを用いた表面処理膜7〜9と比べると、アセトンを用いた表面処理膜10〜12の方が、湿潤環境下での親水性に優れていた。これは、上記実施例6と同じく、Qセグメントと非プロトン性極性溶媒であるアセトンとの相溶性の悪さによると推測される。すなわち、膜内部に、ある程度のQセグメントが入り込んだ状態で製膜されたため、湿潤環境下でQセグメントが膜内部に入り込みやすく、Qセグメントが入り込むことでPEGセグメントが表面に偏析しやすくなったためであると考えられる。
【0056】
また、表面処理膜7〜12では、接触角は、水滴滴下後4秒ほどは急激に低下し、その後の低下はやや穏やかとなった。これは、水滴を滴下した直後に、Qセグメントが薄膜に潜り込む第1の親水化が起こり、続いて、PEGセグメントが表面に偏析する第2の親水化が起こったことを示している。