特許第6376858号(P6376858)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6376858-車両溶接部の塗装方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6376858
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】車両溶接部の塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/14 20060101AFI20180813BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20180813BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   B05D7/14 Q
   B05D1/36 Z
   B05D7/14 L
   B32B15/08 E
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-128115(P2014-128115)
(22)【出願日】2014年6月23日
(65)【公開番号】特開2016-7561(P2016-7561A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105980
【弁理士】
【氏名又は名称】梁瀬 右司
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100178995
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 朗
(72)【発明者】
【氏名】久代 貴博
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−119382(JP,A)
【文献】 実開昭60−139518(JP,U)
【文献】 特開2000−264272(JP,A)
【文献】 特開平04−063174(JP,A)
【文献】 米国特許第04960974(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00−7/26
B32B1/00−43/00
B62D41/00−67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を構成する金属部材どうしをアーク溶接して形成される溶接部に塗装を施す車両溶接部の塗装方法において、
アーク溶接されたスラグを含む溶接箇所の表面またはその上の電着層の表面にスプレー噴射によりソフトチッププライマを塗布する工程と、
前記ソフトチッププライマの塗布面上に塗膜を形成する工程と
を備えることを特徴とする車両溶接部の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を構成する金属部材どうしをアーク溶接して形成される溶接部に塗装を施す車両溶接部の塗装方法および車両溶接部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図2に示すように、荷物を輸送するために車両後部に荷台50を有するトラックなどの荷台付き車両51では、荷台50にゲート52と称される3枚の囲い板が設けられ、これらのゲート52は、それぞれ複数の蝶番53により荷台50に対して起倒自在に取り付けられ、輸送時にはフック54により各ゲート52がそれぞれ起きた状態で固定され、荷台50の周囲が囲まれて荷物の落下が防止され、荷物の積み降ろしをするときにはいずれかのゲート52の固定が外されてゲート52が下方に倒され、荷台50の囲いの一部が取り除かれた状態になる(特許文献1参照)。
【0003】
このとき、蝶番53やフック54は通常溶接により固着され、溶接後に塗装が施される。この溶接部分の詳細構造は、例えば図3の断面図に示すようになっている。すなわち、図3に示すように、蝶番53やフック54の素材である鋼板55aと、これを取り付けるべき対象となるゲート52等の素材である鋼板55bとをアーク溶接して溶接部56が形成され、その上に錆止め用の電着塗装による下塗り塗膜57が形成され、さらに中塗り塗膜58aおよび上塗り塗膜58bが順次形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実願昭61−41313号(実開昭62−151186号公報のCD−ROM)(第2頁第3欄第23行〜第4欄第212行および第2図〜第6図参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、蝶番53およびフック54の固着部分には、ゲート52の起倒などの使用環境下において大きな応力がかかり、特にアーク溶接により固着した場合には、アーク溶接によって形成されるスラグ(酸化皮膜)58が溶接部に形成され、このスラグ58が脆いため、応力によってスラグ58に割れが生じ、それが塗装にまで及んで外部からの雨水の侵入による錆が生じるという問題がある。このような問題を解決するために、グラインダーなどにより溶接部表面のスラグ58を除去した後、塗装を行っているが、作業工数の増加を招くという新たな問題が生じる。
【0006】
本発明は、アーク溶接による溶接部の上に塗膜を形成する場合に、溶接部にかかる応力による下層の割れが塗膜に及ぶことを確実に防止して溶接部の錆の発生を未然に防止できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の車両溶接部の塗装方法は、車両を構成する金属部材どうしをアーク溶接して形成される溶接部に塗装を施す車両溶接部の塗装方法において、アーク溶接されたスラグを含む溶接箇所の表面またはその上の電着層の表面にスプレー噴射によりソフトチッププライマを塗布する工程と、前記ソフトチッププライマの塗布面上に塗膜を形成する工程とを備えることを特徴としている(請求項1)。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、アーク溶接されたスラグを含む溶接箇所の表面またはその上の電着層の表面にソフトチッププライマ層を形成し、その上に塗膜を形成するため、アーク溶接によって溶接個所の表面に生じたスラグ(酸化皮膜)をソフトチッププライマ層によって包被することができ、溶接部に応力がかかることにより脆いスラグに割れが生じても、この割れを柔らかい伸びのあるソフトチッププライマ層により吸収して、さらに上層の塗膜に割れが及ぶのを確実に阻止することができ、スラグを除去しなくても塗膜の割れを防止して溶接部の錆の発生を未然に防止することができる。
【0010】
また、ソフトチッププライマ層は、例えばウレタンやポリオレフィンなどをスプレー噴射して塗布形成することができ、簡単な工程で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態における車両溶接部の塗装手順を示す断面図である。
図2】一般のトラック(荷台付き車両)の斜視図である。
図3図2のトラックにおける溶接部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について図1に基づき詳細に説明する。なお、以下の説明では、図2も参照する。
【0013】
本実施形態では、図2に示す荷台付き車両(トラック)51の荷台52における蝶番53、フック54の溶接部に本発明を適用した例である。図1に示すように、蝶番53やフック54の素材(金属部材)である鋼板1a、および、これを取り付けるべき対象となるゲート52等の素材(金属部材)である鋼板1bどうしがアーク溶接されて溶接部2が形成され、その上に錆止め用の電着塗装による下塗り塗膜3が形成され、この下塗り塗膜3の上に例えばウレタンのスプレー噴射によりソフトチッププライマ層4が形成され、さらに中塗り塗膜5aおよび上塗り塗膜5bが順次積層されて塗膜5が形成される。
【0014】
このとき、アーク溶接により形成された溶接部2の表面にソフトチッププライマ層4を形成し、その上に塗膜5を形成するため、アーク溶接により溶接部2の表面にスラグ(酸化皮膜)Sが生じていても、スラグSをソフトチッププライマ層4によって包被することにより、応力により生じるスラグSの割れを柔らかい伸びのあるソフトチッププライマ層4により吸収することができる。
【0015】
したがって、上記した実施形態によれば、溶接部2に応力がかかることにより、脆いスラグSに割れが生じた場合であっても、この割れを柔らかいソフトチッププライマ層4により吸収でき、さらに上層の塗膜5に割れが及ぶのを確実に阻止することができ、溶接部2の錆の発生を未然に防止することができ、溶接部2の信頼性の向上を図ることができる。
【0016】
また、ソフトチッププライマ層4によりスラグを包被してスラグSの割れを吸収できるので、スラグを除去する必要がなくなり、作業工数の増加を招くことがない。さらに、ソフトチッププライマ層4は、例えばウレタンなどをスプレー噴射して塗布形成することができ、簡単な工程で形成することができる。
【0017】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能である。
【0018】
例えば上記した実施形態では、ソフトチッププライマ層4としてウレタンをスプレー噴射して形成した場合について説明したが、ウレタン以外にポリオレフィンを用いてもよい。
【0019】
また、上記した実施形態では、電着塗装による下塗り塗膜3の上にソフトチッププライマ層4を形成したが、電着塗装による下塗り塗膜がなく溶接部2の表面にソフトチッププライマ層4を形成する場合であっても、本発明を同様に実施することができ、上記した実施形態と同等の効果を得ることができる。
【0020】
また、上記した実施形態では、荷台付き車両(トラック)51に本発明を適用した場合について説明したが、その他の車両のアーク溶接による溶接部にも適用できるのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0021】
1a,1b …鋼板
2 …溶接部
4 …ソフトチッププライマ層
5 …塗膜
5a …中塗り塗膜
5b …上塗り塗膜
図1
図2
図3