(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
送電用の鉄塔のように、風雨に曝され錆の発生しやすい環境にある構造物には、鉄素地に亜鉛めっきによる防食処理が施された亜鉛めっき鋼材が使用されている。しかし、時間の経過とともにめっき層が消耗し、鉄部分に水分や酸素が浸透することで徐々に赤錆が発生する。特に海岸まで1〜2kmの距離にある海塩地域では赤錆の発生が顕著である。赤錆は外観を悪化させるだけでなく、鋼材の強度低下を招く要因ともなるため、現場で補修塗装することが必要である。
【0003】
送電用の鉄塔の場合、従来、このような補修塗装は、先ずディスクサンダーなどの電動工具を用いて、錆を完全に除去する処理(2種ケレン)、或いは脆弱な錆のみを除去する処理(2種軽微ケレン)、又は、マジックロンやワイヤーブラシなどの手工具を用いて浮いている錆を出来るだけ除去する処理(3種ケレン)等のケレン作業を行い、その後鉄塔の処理面に対し下塗り塗装、上塗り塗装を施していた。
【0004】
しかしながら、住宅密集地で電動工具を用いて2種ケレン作業を行うことは、近隣の住民に不快感を与えるだけでなく、部材やボルトが密集している鉄塔の場合には、電動工具のみならず手工具でも錆の部分に入り込ませることが難しく、ケレン処理を行えないという問題点があった。そして、ケレン処理した後、下塗り塗装及び上塗り塗装を施した場合でも、経時により塗膜に発生したピンホールから水分や酸素が侵入し、残存する錆と反応することで残存する錆が発達する、所謂“塗膜下腐食”の発生が懸念されていた(
図1参照)。
【0005】
また、ケレン処理が完全に行われずに下塗り塗装を行った場合、従来の下塗り塗料は、粘性が高いため亜鉛めっきの空隙(ボイド)に入り込むことができない(即ち、封孔処理できない)ため、結果として、亜鉛めっきの空隙に発生した腐食生成物が既存の塗膜を押し上げることで塗膜の割れ、剥がれ、膨れが生じ(
図1参照)、本来の塗膜性能が喪失する問題点があった。最終的には鉄塔を構成する部材が著しく腐食するので、腐食した部材を取り替えることにより設備を保守していた。ところが送電用の鉄塔の部材取り替えは、送電を停止して行わなければならないため、線路を停止する期間の短縮、送電用設備の品質の確保、部材取り替えに代わる補修手段の確立は、極めて重要な課題であった。
【0006】
従来より、防錆塗装により残存錆の進行を止め、錆を安定化させる方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、いずれの方法も部材取り替えに代わる手段になり得るものではない。
【0007】
特許文献1には、鋼構造物の塗り替えに用いる防錆性に優れる塗料組成物として、キレート変性エポキシ樹脂、ハイドロタルサイト、ケチミン化合物及び溶剤を含有し、発生錆に対する固定化等により腐食反応を抑制し、素地に対し優れた密着性を有する組成物が開示されている。特許文献2には、ウレタン変性可溶形エポキシ樹脂、アミン化合物及び防錆顔料を含有する下塗り剤が開示されている。これらの塗料組成物は、防錆顔料を配合することで防錆性を発現させたものである。また、特許文献1では、錆の原因となる塩素イオン等の腐食性イオンを捕集し、腐食性イオンを固定化する成分として、アニオン交換型化合物(ハイドロタルサイトやハイドロカルマイトが好ましい)を配合しているが、錆そのものをキレート化する成分を配合していない。
【0008】
特許文献3には、錆の発生を抑制する防食剤として、ポリオール樹脂、アセチルアセトン及びポリイソシアネート化合物を含む防食剤が開示されている。しかし、一般にはイソシアネート硬化系は硬化剤が水と反応しやすく、高湿度では水分と結合して尿素結合し、塗膜性能が低下する恐れがあり、鉄塔のような屋外構造物には適さないという問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る錆の発生した亜鉛めっき鋼材用の錆処理剤は、(a)エポキシ樹脂、(b)アセチルアセトン、(c)防錆顔料、(d)体質顔料及び(e)溶剤を含有する主剤と、エポキシ樹脂用の硬化剤とから構成される、溶剤系の錆処理剤である。そして、本発明に係る錆を有する亜鉛めっき鋼材面の補修方法は、錆を有する亜鉛めっき鋼材面をケレン処理し、錆を完全に除去することなく脆弱な錆のみを除去した後、錆の一部が残存した状態で本発明の錆処理剤を塗布する工程を含むことを特徴とする補修方法である。
【0017】
長期間暴露した亜鉛めっき鋼材の鉄素地に残存する錆(赤錆)の成分は、FeO(OH)とFe
2O
3 であることが知られている。本発明において、上記錆処理剤に含まれる(b)アセチルアセトンは、残存する錆層の空隙に浸透し、残存錆の鉄原子もしくは鉄イオンに配位し、水不溶性の安定したキレート化合物を形成することにより、錆の進行を停止する機能(錆の固定化機能)を有する。このキレート化合物が形成されることにより、水分の侵入などによる残存錆の拡大を抑制する機能が発揮される。
【0018】
(b)アセチルアセトンの含有量は、主剤及び硬化剤を混合した錆処理剤の全量に対して、0.25〜2質量%であ
り、さらに好ましくは0.5〜2質量%である。アセチルアセトンの含有量がこのような範囲であれば、亜鉛めっき鋼材の錆の発生を顕著に抑制することができる。アセチルアセトンの含有量が0.25質量%未満の場合は、残存錆に対するキレート効果が十分に得られないために、錆を抑制できなくなる恐れがある。一方、アセチルアセトンの含有量が2質量%を超える場合は、得られる塗膜の耐水性が低下し、錆を効果的に抑制できなくなる恐れがある。
【0019】
一方で亜鉛めっき鋼材は、亜鉛めっき表面に緻密な酸化皮膜(白錆)を形成しているため、この緻密な皮膜が強力な保護膜となって腐食が進行し難くなっているが、亜鉛めっきが消耗することにより鉄素地に赤錆が発生する現象が起こるので、この現象を抑制する必要がある。上記錆処理剤に含まれる(c)防錆顔料は、亜鉛めっき面(白錆)に対して、保護皮膜を形成する機能を有する。これにより、亜鉛めっきの消耗を抑制し、鉄素地に赤錆が発生することを抑制する効果が発揮される。
【0020】
(c)防錆顔料の含有量は、主剤及び硬化剤を混合した錆処理剤の全量に対して
、1〜20質量%であり、さらに好ましくは5〜15質量%である。防錆顔料の含有量がこのような範囲であれば、鉄素地に新たな赤錆が発生することを抑制できる。防錆顔料の含有量が1質量%未満の場合は、その効果が十分に得られない恐れがあり、20質量%を超える場合は、耐水性が低下する恐れがある。
【0021】
上記(c)防錆顔料としては、市販又は公知の材料を使用することができるが、好ましい材料は、非クロメート系防錆顔料である。
非クロメート系防錆顔料としては、例えば、
リン酸亜鉛、リン・ケイ酸亜鉛、リン酸アルミニウム亜鉛、リン酸カルシウム亜鉛、リン酸カルシウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸カルシウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸カルシウムなどのリン酸系;
亜リン酸亜鉛、亜リン酸鉄、亜リン酸アルミニウムなどの亜リン酸系;
モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウムなどのモリブデン酸系;
酸化バナジウムなどのバナジウム系;
ホウ酸塩系;
メタホウ酸バリウムなどのメタホウ酸系;
シアナミド亜鉛カルシウム系;
カルシウム、亜鉛、コバルト、鉛、ストロンチウム、バリウムなどのカチオンを多孔質シリカ粒子に結合させた変性シリカ;
カチオンをイオン交換によって結合させたイオン交換シリカ;
などを、単独で又は2種以上を組合せて使用することが好ましい。
これらの防錆顔料のなかでも、さらに好ましいのは、リン酸塩、亜リン酸塩、縮合リン酸塩であり、トリポリリン酸二水素塩等の縮合リン酸塩が特に好ましい。塩としては、アルミニウム又は亜鉛が好ましい。
【0022】
また、(b)アセチルアセトンと(c)防錆顔料の比率(質量比)は、1:5〜1:15の範囲
であり、前記範囲とすることで亜鉛めっき鋼材に対して良好な防錆効果が発揮される。(b)アセチルアセトンに対する(c)防錆顔料の比率が5未満であると、アセチルアセトンが防錆顔料による亜鉛めっき面への保護皮膜の形成を阻害するため、亜鉛めっきの消耗を抑制する効果が不十分となる恐れがあり、一方、15を超えると、防錆顔料がアセチルアセトンによる鉄素地へのキレート形成を阻害するため、鉄素地に残存する赤錆の進行を抑制する効果が不十分となる恐れがある。
【0023】
また、本発明の錆処理剤に含まれる(a)エポキシ樹脂は、ベース樹脂として塗膜形成能を有しながら、(b)アセチルアセトンによるキレート化鉄皮膜を固定し、外界の腐食原因物質(水分、酸素)を遮断することにより、錆処理剤の効果を補強する機能を有する。エポキシ樹脂は、耐久性に優れる塗膜を形成する、金属素地との付着性が高い、耐水性が高い等の利点がある。
【0024】
上記(a)エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、これらのエポキシ樹脂中のエポキシ基又は水酸基に各種変性剤を反応させた変性エポキシ樹脂を挙げることができる。
エポキシ樹脂は、形成塗膜の仕上がり性、硬化性、防食性などの点から、通常、エポキシ当量が100〜10,000の範囲内にあり、かつ数平均分子量が200〜20,000の範囲内にあるものが好適である。なお、数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0025】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、例えばエピクロルヒドリンとビスフェノールとを、必要に応じてアルカリ触媒などの触媒存在下に高分子量まで縮合させた樹脂、或いは、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを、必要に応じてアルカリ触媒などの触媒の存在下に縮合させた低分子量のエポキシ樹脂を、ビスフェノールと重付加反応させることにより得られた樹脂のいずれでもよい。
ビスフェノールとしては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン[ビスフェノールB]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、p−(4−ヒドロキシフェニル)フェノール、オキシビス(4−ヒドロキシフェニル)、スルホニルビス(4−ヒドロキシフェニル)、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタンなどを挙げることができ、上記のビスフェノール類は、1種で又は2種以上の混合物として使用することができる。
またノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールグリオキザール型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
上記変性エポキシ樹脂としては、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂又はノボラック型エポキシ樹脂に、例えば、乾性油脂肪酸を反応させたエポキシエステル樹脂;アクリル酸又はメタクリル酸などを含む重合性不飽和モノマーを反応させたエポキシアクリレート樹脂;イソシアネート化合物を反応させたウレタン変性エポキシ樹脂;上記ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂又は上記各種変性エポキシ樹脂中のエポキシ基にアミン化合物を反応させて、アミノ基又は4級アンモニウム塩を導入したアミン変性エポキシ樹脂などを挙げることができる。
上記のエポキシ樹脂のなかでも、金属素地や下塗り塗料との密着性に優れ、かつ生成したキレート化物を錆処理剤層内で固定化する性能に優れるという観点より、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好適である。エポキシ樹脂は、キレート化物を保護する保護膜のような作用をし、錆処理剤の上に塗布する下塗り塗料との密着性を高めて剥離を防止する効果もある。
【0026】
(a)エポキシ樹脂の含有量は、主剤及び硬化剤を混合した錆処理剤の全量に対して、20〜80質量%であることが好ましく、さらに好ましくは20〜50質量%である。エポキシ樹脂の含有量を前記範囲とすることで、アセチルアセトンのキレート形成作用による錆の拡大を抑制する効果と、防錆顔料により新たな錆の発生を抑制する効果と、亜鉛めっき層に生じた錆面へのバリアー効果において、バランスの良い防錆剤を得ることができる。
【0027】
(d)体質顔料としては、タルク、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0028】
(e)溶剤は、シンナー(希釈剤)であり、n−ブチルアルコール等のアルコール系有機溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系有機溶剤、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素系有機溶剤、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル系有機溶剤が挙げられる。これらのほかにも、ミネラルスピリット、ソルベッソ150、スワゾール1000等が挙げられ、溶剤は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
ここで、錆処理剤の主剤中の(d)体質顔料と(e)溶剤は、本発明の錆処理剤の粘度を調整するうえで重要な成分である。溶剤の比率が低くなると錆処理剤の粘度が上昇し、反対に溶剤の比率が高くなると錆処理剤の粘度が低下する。所望の粘度の錆処理剤を得るためには、それらの合計含有量が、主剤及び硬化剤を混合した錆処理剤の全量に対して、55〜65質量%であることが好ましい。また、(d)体質顔料と(e)溶剤の比率(質量比)は、1:1.5〜1:12の範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明の錆処理剤に含まれる硬化剤は、エポキシ樹脂を架橋させることで強固な塗膜を形成するために用いられ、本発明の錆処理剤に適度な粘性を付与する機能もある。
硬化剤の含有量は、主剤及び硬化剤を混合した錆処理剤の全量に対して、2〜20質量%であることが好ましく、さらに好ましくは2〜15質量%である。硬化剤の含有量をこのような範囲とすることで、低温で硬化性があり(5℃−24hrで完全硬化)、所望の粘度(
120〜600mPa・s:20℃)の錆処理剤を容易に実現することができる。エポキシ樹脂用硬化剤の含有量が2質量%未満の場合は、錆処理剤の粘度付与効果が十分に得られないために、塗膜が薄くなり、防錆性が低下する傾向があり、20質量%を超える場合は、錆処理剤の粘度が上昇することにより、塗布作業性が低下する。
【0031】
硬化剤としては、通常、エポキシ樹脂の硬化剤として使用されている、ポリアミン系硬化剤、ポリカルボン酸系硬化剤及びフェノール樹脂系硬化剤などを特に制限なく使用でき、これらの群より選択される少なくとも1種を使用できる。
ポリアミン系硬化剤としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどのポリアルキレンアミン;トリメチルヘキサメチレンジアミン、N,N−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、ネオペンタンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,3−ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン;N−アミノエチルピペラジン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,3−ビスアミノエチルシクロヘキサン、イソホロンジアミン、1−シクロヘキシルアミノ−3−アミノプロパン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ジ(アミノシクロヘキシル)メタン、1,3−ジ−(アミノシクロヘキシル)プロパン、2,4−ジアミノ−シクロヘキサン、N,N´−ジエチル−1,4−ジアミノシクロヘキサンなどの脂環族ポリアミン;m−キシレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4´−ジアミノ−3,3´−ジエチルジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォンなどの芳香族ポリアミン;ジシアンアミド、ポリアミドアミン(ポリアミド樹脂)、ケチミン化合物、変成ポリアミン(例えば、エアープロダクツジャパン株式会社製の「サンマイドE−1000」)などが挙げられる。
ポリカルボン酸系硬化剤としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサクロロエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。
フェノール樹脂系硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、ポリp−ビニルフェノールなどが挙げられる。
【0032】
硬化剤は、エポキシ環と反応して開環硬化させるだけでなく、錆処理剤の粘度調整用の添加剤にもなる。上記の硬化剤のなかでもポリアミン系硬化剤は、粘度調整が容易な2液型錆処理剤とするのに最適である。
【0033】
本発明の錆処理剤は、その粘度が
120〜600mPa・s(20℃)であることが重要である。粘度がこのような範囲であれば、錆処理剤の亜鉛めっき鋼材表面への浸透性とバリアー効果のバランスが良好となり、塗装作業性にも優れるものとなる。粘度が
120mPa・s未満の場合は、バリアー効果が低下するため防錆効果が不十分となり、
600mPa・sを超える場合は、浸透性及び作業性が低下する
。
なお、上記粘度は、主剤と硬化剤を混合した後の塗装前の錆処理剤のポットライフ期間(1〜8時間)内の粘度を意味する。
【0034】
本発明の錆処理剤は、必要に応じて、本発明による効果を阻害しない範囲で、着色顔料、添加剤などをさらに含有していてもよい。着色顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、カーボンブラック
が挙げられ、硫酸バリウム、カオリン、クレー、タルクなどの体質顔料が挙げられる。添加剤としては、例えば、消泡剤、タレ止め剤、分散剤、粘性調整剤、硬化触媒、表面調整剤、可塑剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤などが挙げられる。
【0035】
本発明に係る錆を有する亜鉛めっき鋼材面の補修方法は、錆を有する亜鉛めっき鋼材面をケレン処理し、錆を完全に除去することなく脆弱な錆のみを除去した後、錆の一部が残存した状態で、前記亜鉛めっき鋼材面に本発明の錆処理剤を塗布する。ケレン処理は、ディスクサンダー、ベベルブラック、ワイヤーカップブラシ等の電動工具を使用して、脆弱な錆を除去するだけで良い。錆の完全除去は特に必要としない。錆の完全除去を必要としないことにより、作業時間の面だけでなく、作業者の安全管理面、騒音面(特に住宅密集地における騒音公害の低減)での利点も有る。
【0036】
錆処理剤の塗布は、刷毛塗り塗装、ローラー塗装又はスプレー塗布により行うことが好ましい。塗布時のウエット膜厚は70〜150μmが好ましく、より好ましくは70〜110μmである。厚く塗布した場合には、刷毛目等で表面張力に差異が生じた場合に、表面張力の弱い部分から決壊して面だれ現象をおこし易くなる。後記の実施例2において詳細を説明するが、
図2に、錆処理剤及び/又は下塗り塗料を塗装した試験片の表面状態、ならびに促進試験後の前記試験片の表面状態を示す。
【0037】
錆の一部が残存した状態の亜鉛めっき鋼材の表面に錆処理剤を塗布すると、錆処理剤が錆面に浸透して行き、鉄原子をキレート化する。塗布後、1〜8時間程度放置することにより、錆処理剤に含まれている溶剤が揮発して乾燥塗膜が形成され、その後の下塗り塗装に好適な平滑な表面を得ることができる。こうして得られる乾燥塗膜の膜厚は、20〜100μm程度が好ましく、より好ましくは30〜60μmである。膜厚が20μm未満では十分な防食効果が得られない恐れがあり、膜厚が100μmを超えると、塗膜の乾燥性が低下するため作業性が低下するだけでなく、経済性も悪化する。
【0038】
錆処理剤による塗膜が形成された鋼材の表面には、防食用の塗料(下塗り及び上塗り)を塗装することが好ましい。防食用の塗料としては、一般に使用されているふっ素樹脂系、アクリル樹脂系、シリコーン樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系などの防食塗料を用いることができる。これらの塗装を施した後の乾燥塗膜の総膜厚は、50〜200μmになるようにすることが好ましく、塗装方法は通常の方法で良い。下塗り塗料としては、エポキシ樹脂系、上塗り塗料としては、ふっ素樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系が特に好ましい。
【0039】
本発明の補修方法は、特に、送電用の鉄塔の補修作業に好適に用いることができる。送電用の鉄塔では、従来行っていた錆を完全に除去する2種ケレン処理が不要になるだけでなく、従来は錆の進行を防止できないレベルであるとして取替えていた劣化進行部材について、本発明の錆処理剤の塗布により残存錆の進行を止め安定化させることで補修できるので、送電設備の延命化、線路停止期間の短縮、コスト削減を図ることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における評価方法は次の通りである。
【0041】
(1)粘度
主剤と硬化剤を混合した錆処理剤の20℃における粘度を測定した。粘度計はBLII型粘度計(東機産業社(株)製)ローターNo.1及びNo.2を用いた。
【0042】
(2)作業性
JIS K 5600−1−5:1999に準拠して、調製した錆処理剤の塗布時の作業性を評価した。下記の基準に基づいて判定し、○以上を合格とした。
◎:非常に良好(滑らかで刷毛、ローラー作業性に優れる)
○:良好(高粘度でやや突っ張る、もしくは低粘度で伸びすぎて膜厚を確保しにくいが刷毛、ローラー作業性には支障がない)
△:やや難あり(突っ張り感が強く、刷毛、ローラー作業性に支障が生じる)
×:難あり(粘りが強く刷毛、ローラー作業は不可能)
【0043】
(3)防錆性
JIS K 5600−7−9 サイクルAに準じて促進試験を行った。ただし、錆処理剤の乾燥後の膜厚は30μm、錆処理剤の硬化・乾燥条件は、23℃−50%RH、7日間とした。下記の基準に基づいて判定し、○以上を合格とした。
◎:非常に良好(複合サイクル 350サイクルにおいて錆が発生しない)
○:良好(複合サイクル 350サイクルにおいてわずかに点錆が認められる(0.5%未満、Ri2相当))
△:やや難あり(複合サイクル 350サイクルにおいて点錆が認められる(0.5%以上))
−:試験対象外(高粘度で作業が不可能なため)
【0044】
(4)付着力
JIS K 5600−5−7(プルオフ法)に準拠して錆処理剤の付着力を評価した。1試験片につき長さ方向に3箇所の付着力を測定し平均値を求めた。使用機器はオートマチックアドヒージョンテスター(POSITEST AT−A(DeFelsko Corporation製)を使用した。
【0045】
(実施例1)
以下に示すエポキシ樹脂、アセチルアセトン、防錆顔料、体質顔料及び溶剤を、表1に示す配合にて主剤を調製した後、ポリアミン系硬化剤を添加して攪拌することにより、錆処理剤を調製した。調製した錆処理剤の組成(質量部)を表1に示す。なお、No.
3〜6は本発明例、No.1
〜2及びNo.
7〜12は比較例である。
【0046】
配合した成分の詳細は以下の通りである。
(a)エポキシ樹脂;D.E.R.671−X75(ダウケミカル日本株式会社製)
(b)アセチルアセトン;Huzhou Xinaote Phamaceutical & Chemical Co.,Ltd製
(c)防錆顔料;トリポリリン酸アルミニウム系顔料
(d)体質顔料;タルク
(e)溶剤;キシレン
(f)ポリアミン系硬化剤;サンマイドE−1000(エアープロダクツジャパン株式会社製)
【0047】
調製した錆処理剤(No.1〜12)について、粘度を測定するとともに、作業性及び防錆性を評価した。粘度の測定結果ならびに作業性及び防錆性の評価結果を、あわせて表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1より、錆処理剤の粘度が50mPa・s未満の場合(No.1)は防錆性が劣り、3,800mPa・sを超える場合(No.10)は作業性が劣っており、特に錆処理剤の粘度を120〜600mPa・sの範囲とすることで、さらに作業性と防錆性に優れた錆処理剤が得られ、前記粘度範囲内であってもアセチルアセトンと防錆顔料を併用することで防錆性が向上することがわかる。
【0050】
(実施例2)
実際に送電用鉄塔に使用され、劣化した亜鉛めっき鋼板を用いて防錆性試験を実施した。試験片は、劣化レベルVの山形鋼を150mmの長さに切断して使用した。
試験片として用いた山形鋼は、下塗り(錆止め塗料)と上塗りの塗装が施されていたもので、以下の状態のものである。
「劣化レベルV」;上塗り塗料のみならず下塗り塗料が消失し、鉄素地が露出した状態。
【0051】
劣化レベルVの試験片に、程度の異なる3種類のケレン処理を行った。
「3種ケレン」;浮いている錆をマジックロン等、手工具で除去するケレン処理。
「2種軽微ケレン」;ワイヤーカップ等、電動工具で脆弱な錆のみを除去するケレン処理。
「2種ケレン」;ディスクサンダー等、電動工具を用いて完全に錆を除去するケレン処理。
【0052】
ケレン処理を行った試験片に、表1のNo.4の錆処理剤を、乾燥後の膜厚が30μmになるように刷毛で塗布し、さらに下塗り塗料(日本ペイント防食コーティングス(株)製、商品名:ラストークタワー下塗)を塗布した。
【0053】
実施例1と同様、JIS K 5600−7−9 サイクルAに準じて促進試験を実施し、錆の発生状態を判定した(表2の試験No.1−1、1−2、1−3)。錆の発生状態の判定は、促進試験の複合サイクルの100サイクル毎に行い、350サイクルを最終判定とした。
【0054】
比較例として、ケレン処理後、錆処理剤を塗布せず、下塗り塗料のみを塗布して、同様に促進試験を行い錆の発生状況を判定した(表2の試験No.1−4、1−5、1−6)。
【0055】
図2は、各試験片について、素地状態、ケレン後、錆処理剤塗布後、下塗り塗布後、促進試験の複合サイクル350サイクル後の表面状態を撮影した写真である。
【0056】
また、表2に示す防錆試験結果は、錆の程度に応じた評価点として記載した。当該評価点と、JIS K 5600−8−3 さび分類に規定されたJIS等級との相関を表3に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
表2の結果より、劣化レベルVの試験片では、本発明の錆処理剤を塗布しない場合には十分な防錆効果はなく、2種ケレン処理で完全に錆を取り除いておいても、複合サイクル100サイクル又は300サイクルの段階で錆の発生が認められた(試験No.1−6B、6C)。
【0060】
ケレン処理による錆の除去程度が小さい2種軽微ケレンや3種ケレンでは、さらに錆の発生面積が大きくなった(試験No.1−4B、1−4C、試験No.1−5B、1−5C)。
【0061】
これに対して、本発明の錆処理剤を塗布した場合には、劣化レベルがVで、しかも3種ケレン処理(試験No.1−1B、1−1C)や、2種軽微ケレン処理(試験No.1−2B、1−2C)のように、錆が残った状態の試験片を用いた場合でも錆の発生は認められず、十分な防錆効果が認められた。
【0062】
図3は、2種ケレン処理を施した亜鉛めっき鋼材(試験No.1−6の試験片)について、防錆塗料を塗装(錆処理剤は塗布していない)した後の断面の顕微鏡写真(200倍)である。塗装面に長さ約50μmの空隙(ボイド)が存在し、下塗りは空隙に浸透できていないことがわかる。
【0063】
図4は、本発明例による錆の一部が残存する亜鉛めっき鋼材(試験No.1−2の試験片)について、錆処理剤塗装後の断面の顕微鏡写真(500倍)である。錆処理剤が空隙に浸透していることがわかる。
【0064】
(実施例3)
実際に送電用鉄塔に使用され劣化した亜鉛めっき鋼板を用いて、本発明の錆処理剤の付着力を評価した。
実施例2の場合と同様、劣化レベルVの山形鋼を150mmの長さに切断して試験片とした。程度の異なる3種類のケレン処理を行い、表1のNo.4に示す錆処理剤を乾燥後の膜厚が30μmになるように刷毛で塗布し、さらに下塗り塗料(日本ペイント防食コーティングス(株)製、商品名:ラストークタワー下塗)を塗布し、初期付着試験を実施した。
【0065】
付着試験は上記のプルオフ法にて行い、付着力ならびに剥離形態(塗膜のどの部分で剥離が生じたか)を測定した。
図5は剥離形態を説明する説明図である。結果を表4に示す(表4の試試験No.1−1A、1−2A、1−3A)。
【0066】
比較として、ケレン処理後、錆処理剤を塗布せず、下塗り塗料のみを塗布して、同様に初期付着試験を行った結果を表4にあわせて示す(表4の試験No.1−4A、1−5A、1−6A)。
【0067】
【表4】
【0068】
表4に示すように、3種ケレンや2種軽微ケレンよりも2種ケレンを行い、ケレン処理による錆の除去を進めるほど初期付着力は増大した。3種ケレン及び2種軽微ケレンでは、錆処理剤を塗布した場合と塗布しなかった場合とでは、初期付着力に大きな差は認められなかった。2種ケレンの場合(試験No.1−3A)は、錆処理剤と下塗り塗料の凝集破壊が生じ、錆処理剤と素地との密着性が高いことが覗えた。一方、3種ケレン、2種軽微ケレンの場合(試験No.1−1A、1−2A)は、錆層(素地)内部破断が生じた。
【0069】
さらに、実施例2の防錆性の試験で複合サイクル350サイクルの促進試験を終了した試験片について、付着力を評価した結果を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
表5に示す防錆性の促進試験後の試験片での付着力試験では、本発明の錆処理剤を塗布した試験片は、劣化レベルならびにケレン処理の種類に拘わらず、2MPaを越える付着力を示し、十分な付着力を維持していた。したがって、本発明の錆処理剤は錆が残存する状態の試験片に塗布しても、良好な付着力と塗膜強度を有することがわかった。
【0072】
(実施例4)
実際の送電用鉄塔の劣化レベルVの箇所に2種軽微ケレン処理を行った後、錆処理剤を塗布したところ、良好に錆処理剤を塗布することができた。24時間後、下塗り塗料(日本ペイント防食コーティングス(株)製、ラストークタワー下塗)を塗布し、さらに上塗り塗料(日本ペイント防食コーティングス(株)製、ラストークタワー上塗)を塗布した。塗布後の観察を定期的に実施したが、2年経過後も錆の発生は認められていない。